咲 -saki- 二人の少女のハイスクールメモリー   作:レイ・シャドウ

7 / 11
えー前局にて、文字数が多いのは前の話だけだろう…と
言っていたのですが…
なんと文字数が前回を突破してしまいました。
9000文字近くになってしまいました…
恐らく次回とその次も文字数が多くなりそうですね
因みに、今回の個人戦予選のルールは、創作です。
まぁ、咲さんが入部する前の個人戦予選の描写は無いと思うので、大丈夫でしょう(多分)


第六局

ーインターハイ予選当日ー

 

「…遅い。」

 

久がいるのは、自宅の最寄り駅。そこで廻と合流して、インターハイ予選の会場へと向かうはずだった。

しかし…

 

「約束の時間は電車が来る15分前…なのにもう5分前…。10分も遅刻するなんて…。寝坊?それとも、遅刻?」

 

次の電車に乗らないと遅刻!と言うわけではないが、時間にそこまでルーズでもない廻が、遅刻するとは…

 

珍しいこともあるものだなぁと久が思いつつ腕時計と、誰もいない道路を交互にジッと眺めていると…

 

「久〜。」

 

待ち人はやって来た。

 

「廻、何かあったの?貴方が遅刻するなんて珍しいわね…増してやインハイ当日なんかに…」

 

「いや〜久、ごめんなさいね。今日、ウチのバカ親父がインハイの実況するついでに送ってやるから乗って行けってほざき出したんですよ。

一応久を待たせている訳ですから断ったんですが、あいつが一向に譲らなかったのでその件に関してちょっとした討論になっちゃいまして。」

 

「そ、そう…なんか、申し訳ないわね。それで、どういった結果になったの?」

 

「久のせいではないから気にしないでください。アホ親父が、会場まで送ってくれることになったんです。ほら、あの車。」

 

廻が指差した方角に、久の目が追う。別に車に詳しいわけでは無いのでどんな車かはイマイチ分からないが、ロゴを見るに、外車みたいだ。

外観から見るに、高級感も溢れている。

 

「へぇ…インターハイ予選の実況するってことはお父さん、プロか何か?」

 

「そーですよ。最も、今は引退して自分の後釜を育てようとしているさなかなんですがね。」

 

「成る程…ん?廻、今お父さん元プロって言ったわよね?」

 

「言いましたよ。引退していることも確かに。」

 

「伊奘諾って苗字…かなり珍しいわよね?」

 

「え?…えぇ、まぁ珍しいでしょうね。少なくとも、私の周辺でこの苗字がダブったりすることは、親戚以外ではなかったですから。」

 

「伊奘諾…元プロ…ねぇ廻。推測なんだけど…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方のお父さんって、伊奘諾 将生って名前?」

 

「…へ!?何で久がウチの父の名前を?

どっかで教えましたっけ!?」

 

記憶を遡ってみるが、そんな様子は一切喝采見当たらない。何故だ…

 

「父の名前を…って、かなりの有名人でしょ!!伊奘諾 将生はプロ麻雀リーグで万年Bクラスだったチームの優勝に貢献し、プロ歴3年で世界ランク10位圏内に入って、その時の世界ランク一位を飛ばし、一時期の年俸は一年契約で7億円。世界大会でも、得点王とゴールドシューターを同時獲得した、日本の至宝じゃない!」

 

「へぇ、あのグータラ親父世界ランカーだったんだ。意外だな〜。」

 

「…知らなかったの?」

 

「家に帰れば同僚と麻雀。朝起きたら牌譜のチェック。仕事のことは一切話さない。そんな人のことなんて興味はないですから。」

 

仕事一筋ですからね〜ウチの父は…。

と軽く付け加えながら手元の時計を見る。

久と乗る予定だった電車は既に発車していた。時間も余裕はあるとはいってもそこまで闞沢にあるわけでは無い。

父の車の扉をやや乱暴に開けて乗り込む。(車種はランボル…なんとかって言う名前だったような気がします。あまり車に興味はないので、記憶に残さないですね。)

 

 

「んじゃ、よろしく〜。アホ親父。」

 

「…よ、よろしくお願いします。」

 

「廻…いい加減アホ親父言うのやめてくれない?一応同級生の面前なんだしょ…。」

 

「朝っぱらから私の起床予定時刻の30分早くに起こして、その上くだらない口論にまで発展させたのちに久との集合時間に遅刻させたやつに敬意なんて払う必要はないでしょ。」

 

「確かにわからんでもないが…はぁ。まぁ全体的に俺が発端をだからな。そう言うのも無理ないか。」

 

「分かっているんだったら早く車出してよ。遅刻したらえらいことになるだろうし、先方にも迷惑がかかるだろうからね。」

 

「へいへい。………とそうだ廻。」

 

「…どしたの?」

 

「そういえば今日公式戦だろう。去年のインミド個人戦決勝のアレはもう大丈夫なのか?」

 

暫く車内を沈黙が包む。

廻は今までの言葉の調子を失い、腕を組んで考えるような素振りを見せている。それを横目に、将生が言ったアレについて考える久。

 

(何だろう…アレって。去年のインターミドルの個人戦決勝って廻と…確か宮永 照って言う人が直接対決したんだっけ。勝敗は…覚えてないけど、終盤で宮永が何かをしたような。断片的すぎて思い出せない。南3局まで廻がリードしてたのは覚えているんだけど…)

 

「まだ、分からない。中々あの条件に合致しないし、あんな事意図してできるのは、偶然を除けば照…位だと思うからサンプルが取れない。もしかしたら、試合中か何かにやらかしちゃうかも。確証はないけど…」

 

「…やはりそうか。

うちの奴らで試して見るべきだったか…迂闊だった。

廻、大丈夫だとは思うがいざとなったら、多分俺、試合じゃなければ解説者控え室にいると思うから俺の所へ来い。先生から一応の対処法は聞いているから。」

 

「そんな大袈裟な…。まだ、確定したわけじゃないのに。」

 

「転ばぬ先の杖と言うだろう。一応警戒しておけと言う意味で言ったんだ。兎に角、あまり無理はするなよ?試合中に倒れられたら、こっちも困るしお前も困るんだからな。」

 

「…善処するよ。ただ、勝つためには手段は選ばないから。」

 

「?」

 

 

 

普段敬語しか喋らない廻が、タメ口で話しているのを見るのもなかなか新鮮だが、今の久はそんなことよりも将生の言うアレと言うものに意識が向いていて全くそっちに気を配ることはなかった。

そんなやりとりをしている途中でも、車は着実にインターハイ予選会場へと近づいて行った。

 

 

 

 

 

 

 

ーインターハイ予選会場ー

 

「ここが、インターハイ予選会場か。流石は長野県中から集まっているだけあって、それなりに大規模ね。」

 

因みに、今回は久はインターハイの参加登録を行っていない。なぜかと問うと…

 

「貴方のいる団体戦で全国に行きたいと言う気持ちがあるからかしらね。別に貴方が私を拘束しているとかそう言うわけじゃ無くて、一人でなく部員全員で喜びを分かち合える…そんな光景を一番最初に見てみたいの。それがたとえ最初で最後の光景になろうとも…ね。」

 

この様子だと、来年もメンバーが揃わなかったらインターハイに出る気はないのだろう。

久なら恐らく、いいところまで行けるのではないか?と期待していた分なんか損した気分になる。久は悪くないんだけど…

 

「流石に去年のインターミドルの西東京ブロックよりかは少ないですかね…。助かりました。」

 

300人くらいいましたからねぇ…対局が面倒でしたよ

と付け加える。

端っこの方で無難に久と話し込んでると、ふと見たら一箇所、大人数の人が集まって群衆化している箇所が目に入った。

 

「あれ、なんなんでしょうか?」

 

「ん…?あぁ、今大会の注目選手のインタビューじゃない?皆カメラや手帳持ってるから、雑誌やテレビの取材っぽいわよ。あの、制服は…確か風越女子だったはず。県内有数の強豪校だから、あんな風に報道陣が集中するのも無理ないか。」

 

確かに、よく見ると記者用の小型カメラや、大型のテレビカメラを肩に担いだ人達が何人も見受けられる。同時に多数の取材を受けているのだろうか?そう言ったことにあまり経験が無く、少し気になった私は…

 

 

「ちょっと様子を見て来ます。」

 

「気をつけてね。私は、観客席移動しておくわ。頑張って!廻。全国への切符を掴んでくるのよ!!」

 

「ありがとうございます。久。」

 

 

そう言って、廻は、今まで自分が座っていた席を立ち、集中している群衆へ向かった。

 

 

 

 

〜side 一二三〜

 

「一二三選手!何か一言!」

 

「今大会、二年生で風越女子高校のキャプテンになってから初の公式戦ですが、お気持ちはどうでしょうか?」

 

「今回の、目標はズバリ、なんでしょうか!」

 

全く、試合前なんだから試合に集中させろって。

鬱陶しいわ正直…第一試合から伊奘諾 廻と当たるかもしれんから、考えたいのはそう言うことじゃなくて敵、特に伊奘諾 廻の牌譜や、能力の対処法なのに…。

はぁ、アンラッキーだな…。

 

マスコミを総スルーして早く控え室に行こうかな…

と、思い始めたその時、ふと目線を外にそらすと

 

(!?あれは…)

 

ふと、一点に目が留まった。

そこにあったのは、他のその辺の有象無象とは異なった異質な世界。

そして、その中央に立っているのは…

 

(女王…伊奘諾 廻!?

面と向かって対面するのはもっと後のことかと思っていたのに、どうしてこの取材現場に…)

 

動揺が隠せない…

打たなくても見ればわかる。こいつは、相当の打ち手だ。

それこそ、まさしく全国クラス…去年のインターミドルで、宮永照とやりあっただけある…。

全国に行くには、こんなやつを相手にしなければならないのか?

…大丈夫なんだろうか

 

 

(いや、ここで気にしてはダメだ。

まだやってもいないのに勝負が決まったと言うのは、愚者のやること。

私は風越の部長…他の選手に動揺を見せてはならないし、いつも勝つ気で居なければならない!ここは…)

 

「すみません!マイク借ります。」

 

私は、一人の記者からマイクを奪い取り

 

「私の目標は前回同様、名だたる強豪選手を破って全国に行くこと。

風越の部長、そしてキャプテンとしてその意思が変わることは一切ありません。

そのためには一切の妥協を惜しまず、一心不乱に常に全力で打つ。

そして…」

 

 

ここで一度タメを作って息を整え、

 

「伊奘諾 廻!!貴方も倒す!」

 

人を指差すのは失礼に値するが、そんなことを気にする余裕は無く、私は思いっきり伊奘諾を指差した。

 

「伊奘諾 廻!?」

 

「何処だ!何処にいる!!」

 

ついでの記者たちの注意も逸らすことができた。

今のウチに控え室に行こう。

 

〜side out〜

 

(名門風越女子のキャプテンが宣戦布告か…。これもインミドで有名になった所以なのかな。能力なしの私じゃ、恐らく声を聞くことすら高嶺の花な、人物なんだけど…。)

 

さっきまで風越のキャプテンについていたマスコミが、今度は廻に鞍替えしたみたいだ。何かに寄生するかのように廻の前に群がってくる。

 

「伊奘諾選手!インターハイ初参加の意気込みは!!」

 

「インターミドルでの活躍著しい伊奘諾選手ですが、今大会注目している選手とはどなたでしょうか!」

 

あらかじめ言っておくが、廻は一人一人の記者の質問にわざわざ答える程の余裕は持ち合わせていない。

同じような質問を繰り返してくるようなものだし、それなら一括に全員に伝わった方が時間も労力も全く無駄にならない。

なので、執拗に記者に回答を迫られた場合、廻はある一つの言葉を言ってその場を去る

 

「私の言うことはただ一つです…。」

 

今日もまた同じことを答えた後、廻は記者たちの間を通り抜けて、小走りで選手控え室へと向かって行った。

 

 

 

 

 

 

ー東京都ー

インターハイ個人戦決勝会場

 

「今ここで、新たな伝説が始まろうとしています!

白糸台高校、宮永照!彼女によって!!」

 

スポーツ中継さながらの実況が流れている西東京都インターハイ個人戦予選。そこで行われていたのは、麻雀…と言う名のついた 徹底的な蹂躙だった。

 

「ツモ 6000 12000の二本場は、6200 12200」

 

圧倒的な力で敵をねじ伏せる照。

連荘に連荘を積み重ね、相手に和了させる余裕を持たせない。

そんな彼女が、相手を全員まとめて飛ばすのは、既に必然として定められていたことだった。

 

 

「決まった!!宮永照、何と予選での振込は一度もなし!東南戦で相手を完全に完封し、圧倒的に勝利をもぎ取りました!!!」

 

「完封って…東一局に彼女の対面の人が役牌和了しているから、そうとは言わない気がするんだけど…こーこちゃん。そもそも麻雀で完封って言葉はあまり使わないと思うよ…」

 

「んー、でもすこやん?実質宮永照への点数変動は一切なかったわけだし、こう表現しても問題無いような気はするんだけど?」

 

「確かにそうだけど…そんな表現でいいのかな?」

 

「まぁ、すこやんはインターハイの解説は初めてらしいし、それにすこやんがあの場で打っていたのは15年も前のことだから…時代は時とともに変動して行くってことだよ。」

 

「15年前じゃなくて7年前だからね!!!15年前だったら三十路過ぎちゃってるよ!!」

 

「え…?」

 

「何その今その事実を知りましたみたいな驚愕した顔、いくら私でも怒るよ!こーこちゃん!」

 

実況席での漫才を、余すこと無く全国ネットで放映したのち、場面は、個人戦予選優勝者の照のインタビューへと転換した。

 

〜side 照〜

「私の言うことはただ一つ…」

 

今年は、我々白糸台がインターハイ団体戦、個人戦両方の切符を手にした。

やはり監督の采配やスカウティング能力と言うものは侮ることができない。私が言えたことではないが、正直、菫の次鋒への据え置きに、少し懸念材料を覚えていた。

しかし、その不安を菫はいい意味で裏切ってくれた。

私が作ったリードを更に広げ、攻守の切り替えも瞬時に行うことが出来、能力に依存しなくても普通にうまい。時折危なっかしい部分もあったが、総評して全ての試合をプラス収支で終えている。これは思わぬ嬉しい誤算だ。

更に個人戦でも、能力的に両方に相性がいいのを含めて見事3位入賞し、全国行きが確定している。

順風満帆とは、まさにこのことを言うのだろう。

後は廻…貴方だけだよ。

 

 

 

「「私の目標は、白糸台高校(清澄高校)の宮永 照(伊奘諾 廻)との対決に完全決着をつけること。

今大会で、私は彼女に…引導を渡す。

そのためなら、全てにおいて容赦はしない!」」

 

一字一句違わぬ言葉。

自分の好敵手には、これ以上の言葉は必要ないと、二人は互いに対するそれ以上の発言を無くし、各々が目的の場所へと歩みを進めた。

 

 

〜side out〜

 

 

 

 

長野県インターハイ個人戦予選特別ルール

・事前に行われた抽選の結果で2グループに分かれての東風戦

・トーナメント形式で、一位で通過したもののみが、次に進むことができる。

・各グループの決勝卓では、勝ち上がった4人が東南戦で対戦し、一位が全国進出。また、一位に次ぐ予選会最多得点プレイヤーが全国進出(所謂ワイルドカード)。すなわち2人が全国への切符を手に入れられる。

・喰いタンあり、後付けあり、喰い替えなし。

・東風戦25000点持ち30000点返し。

 

長野県個人戦予選、東風戦とはいえど人数の多さから十局近く消費し、決勝にたどり着く頃には、廻も少々疲れが目に見えていた。

準決勝までの対局を順調に終え、得失点ランキングも一位、このまま順調に行けばたとえ決勝で捲られても、ワイルドカードで十分全国へ行くことは可能だ。

余程の点差で捲られ無い限りは…

 

 

決勝直前

ー風越女子組 控え室での一場面ー

 

「やっぱ…伊奘諾 廻は決勝まで来たか。途中で負けてくれたら御の字だったんだけど。

しかも、得失点差も一位。チートか何かだろ…そうは思わないか、美穂子?」

 

「…ですが、いくら彼女が圧倒的とはいえ、所詮彼女も人の子には変わりありません。弱点のない人なんていませんから…そこをつけば恐らくワンチャンスあると思いますよ。」

 

「強気だな〜…流石私を差し置いて

得失点ランキング二位につけとるだけあるな…」

 

「とは言っても僅差ですから。一二三先輩にもいつ捲られるか分かりませんし。」

 

因みに現在の得失点ランキングは…

 

一位 伊奘諾 廻 (清澄) + 182

二位 福地 美穂子 (風越女子) + 158

三位 一二三 綺音 (風越女子) + 149

四位 北上 千里 (東城山学院) + 98

 

となっている。

 

「伊奘諾廻までは、美穂子から見ると後24000点差か。

得失点差はまだ絶望するほどでもないけど、結局点取っても一位取られたら本末転倒。点を取りつつ、捲ることも考えないといけないか…。」

 

「先輩だけでも一位で終れたらいいのですが…。」

 

「かと言って、余計なアシストはするなよ、美穂子。やるからには全力で、卓上に年功序列なんてない。私を打ち倒すつもりで来なさい!」

 

「…不本意ですがわかりました。ですが、願うことならば」

 

「…………そうね、わかってる。」

 

「「全国の地を、二人で(踏もう/踏みましょう)」」

 

 

 

 

 

決勝直前、風越の二人が互いに鼓舞しあっている最中、廻は何をしていたかと言うと…

 

ー待合室ー

 

「廻…ちょっと、こんなところでそれは恥ずかしいんだけど。」

 

「でも、久言いましたよね。緊張や不安な時は人肌に触れていた方がいいって。」

 

「そうだけど、でもわざわざこんなところでしなくても!」

 

「温かい…やっぱりここが落ち着く。心が安まりますよ。」

 

「うぅ…廻〜!!!」

 

控え室で久に膝枕をされていた。

いや、これはむしろ膝枕をさせていた…と言う方が正しいかもしれないが。

流石に大衆の中であるし、久自身の羞恥心から廻を起こそうとするが、文句は右から左に受け流し、怒鳴ってものらりくらりと回避して行く様子では、とても効果があるようには思えない。

 

「…今だけですから。お願いです、久。」

 

「う………。」

 

それに、廻の意図したような上目遣い。丁度欠伸をした後らしく、目には涙が浮かんでおり、それが更に久の決断力を鈍らせてしまう。

 

「ちょ…ちょっとだけだからね!!

すぐどきなさいよ!」

 

(フッ、チョロい…)

 

久は意外に陥落するのも早かったとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー決勝卓ー

 

「さぁ、インターハイ個人戦長野県予選もいよいよ大詰め、決勝卓となりました。

ここを制したものだけが、全国への切符をつかむことが出来る…。本当の最終決戦が今、始まろうとしています!

解説席には元日本代表、そして今は佐久フェレッターズ監督として活躍しております伊奘諾 将生監督をお招きしております。伊奘諾さん、よろしくお願いします。」

 

「はい、お願いします。」

 

「それでは早速、決勝卓出場選手の紹介に、参りましょう。

発表は得失点ランキングの低い方から行います。

まずは、東城山学院高校3年の北上 千里。この決勝卓では唯一の3年生です。

続いて、風越女子高校2年一二三綺音。昨年度は一年生ながらに全国進出。二回戦まで進みましたがそこで惜しくも姿を消しました。

そして、同じく風越女子高校1年福地美穂子。一二三の後輩にあたります。

名門風越の即戦力ルーキーで、一二三が唯一張り合える人として、名前を上げております。」

 

「そして、この瞬間を心待ちにしている人もいることでしょう。

昨年のインターミドル団体戦優勝、個人戦でも非常に優秀な成績を残し、その名を日本に轟かせました清澄高校 伊奘諾 廻!また、伊奘諾プロの娘さんでもあられます。」

 

 

「さてこの決勝卓、伊奘諾さんから見ますとどう思われますか?」

 

「さぁて、過程は試合が進むにつれ、結果はどの道明らかになるから敢えて大々的に言うこともない。だが、敢えて言うとすらば…」

 

 

 

「球場や、競技場などの場所には魔物が住むと言うだろう。それはたとえ雀卓でも変わりはない、永久不変の心理。

この試合、少しでも油断や慢心を見せると…誰であろうとも魔物に喰われるだろうな。たとえそれが…

 

 

 

 

 

 

 

 

国民に名声を馳せた女王・女傑であろうとも…な。」

 

 

 

 

ー決勝卓出場者控え室ー

 

〜side 一二三〜

「こうして見ると初対面ね。団体戦の女王さん?」

 

「…名門風越女子の2年部長さんが、しがない一年生に何用で?」

 

「貴方がしがなかったらこの世の雀士の7割はしがないわよ。」

 

「それはそれは随分な評価を頂いていることで…。で、こんな試合前になんのご用件でしょうか?宣戦布告なら、先ほど受け取りましたが。」

 

「…なんか私に冷たくない?フレンドリーに触れ合おうとしてるのに。」

 

「試合前に対戦相手と馴れ合えるような性分じゃ無いですので。」

 

「…つれないな〜。ま、その気持ちがわからないわけでもないけど。私はただ単に試合前の挨拶をしに来ただけよ。別に他意はないわ。」

 

「ならいいのですが。

では、そろそろ時間なので私は先に卓の方へと向かわさせてもらいます。」

 

「折角の機会なんだし、いい試合にしましょう。」

 

「無論、言うまでも無く…ですね。」

 

そう言って伊奘諾は、早々に控え室を出て行った。緊張もあるのか、その足取りは何処と無く重たそうに見える。その行く先をボンヤリと眺めていると…

 

「どうでした?実際接触を図ってみて。」

 

後ろから急に声がかかった。

振り向くと、そこにいたのは…

 

「美穂子か…」

 

私が一番可愛がっているだろうと自負している出来た後輩だった。

 

「口振りから様子や感情を探ろうと思ったんだけど、まるでダメね。彼女、試合前だと必要最低限のことしか喋らないみたい。質問でもしようかと思ったけど、のらりくらりとかわされちゃって…。」

 

「そうですか…。ただ彼女、緊張や変に気負っている様子に見えましたよ。少なくとも、私には。あれは、ちょっとしたミスで恐らく一気に勢いが削がれますよ。」

 

「へ…どうして、そんなことがわかるの?」

 

「彼女の足、じっと見つめてみてください。」

 

後輩に言われるがまま、私は伊奘諾の足に目を向ける。

すると…

 

「…微妙に、震えてる?」

 

とある異変に気がついた。彼女の足が、ほんの些細だが震えている…緊張によるものかどうかはわからない。だが、仮にそうだとしたらもしかしたらワンチャンスあるかもしれない。

 

「本当に注意しないと気づかない程度ですが。私も、この目でやっと分かりました。」

 

「!?…本当だ。美穂子の目が、開いてる。」

 

いつもは閉じている美穂子の右目が、この時ばかりは完全に開いていた。

赤と青のオッドアイ…深淵の闇と永劫の狂気へと導かれる…いつもなら綺麗に見えるその二つの目も今では彼女に申し訳ないが、私にはそのように見えてしまった。

 

「今回は、伊奘諾さんには申し訳ないですが…人間としての弱味である緊張、気負いに付け込ませてもらいます。そして私も…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最初から、開眼して行きます。」

 

 

 

 

試合前から既に波乱が巻き起こりそうな、決勝卓…。

ここから勝ち上がれるのはたった一名のみ。

勝者と敗者、無情にもその二つを判定する試合は、もう間も無くだ…。




美穂子がなんか原作と違うような気がします…
因みに得失点ランキング第四位の北上さんは、おそらくモブキャラになる予定です…。
まぁ3年生だし仕方ないですよね〜(シラー)
感想や評価は随時受付中です!!

ユーザ情報の方も色々と更新してみました!!
活動報告の方もこれから更新しようと思うので
これからもよろしくお願いします!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。