咲 -saki- 二人の少女のハイスクールメモリー   作:レイ・シャドウ

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視点変更があるお陰か、文字数が倍くらいになっていますが恐らく今回だけです。
ご了承ください。


第五局

純正九連宝塔

別名 天衣無縫とも言われる麻雀の中でも最高峰に揃えるのが難しい役であり、これを和了ると死ぬ…ないし人生の運を全て使い切るとまで言われている麻雀の役満の一種だ。

 

(そんな役を、非公式戦で完成させるなんて…廻、一体どういうつもりなのかしら。)

 

(わはは〜、純正九連か〜。初めてみたけど壮観だね。しかもオール萬子で上がるなんてこれは、世間の下馬評の萬子に愛されるって言われても全く持って過言じゃないよ。)

 

(…これが、女王(ブリュンビルデ)伊奘諾 廻…インターミドル個人戦と団体戦を騒がせた強者………圧倒的すぎる。麻雀始めたばかりの私でも、この実力差は理解できてしまう。ただ…)

 

 

廻以外の三人は、廻への賞賛を心に秘め、次の局に頭を切り替える。

その心は全員同じ

 

 

 

 

 

 

(((廻[めぐりん]に……一泡吹かせてやりたい!)))

 

 

そう思い、牌を取るその手には僅かな希望と力が自然とこもっていた。

 

 

 

 

 

一方、廻は…

(ふー、能力は絶好調ですね。あまり頼りたくはないけど、on/offが自分でできないから出力を考えながらも必然的に頼らざるを得ないんですが…)

 

 

 

二本目のコーヒーを飲みながら、心の中でそう呟いていた。(因みに今度はブラック)

 

(…ただ、この能力を持ってしてでも、せいぜい照とは引き分けるのが限界…とすれば更なる改良が必要。なんだかんだ言って照も牌に愛されていますから…。私とは違って照はほぼ全ての牌に対して能力が有効ですからそこに関しては浅く広くがいいのか、それとも狭く深くがいいのかの差なんですがねぇ。)

 

(ま、とりあえずこっからは気張ることなくやりましょうか。ゆみさんの指導もこの練習試合のメニューに入ってますしね。)

 

そう思いながら、廻はコーヒー缶を置いて点棒を整理した。

 

(あ、そういえば今日新発売のコーヒーが店頭に並ぶ日だっけ?帰りにコンビニ寄らなきゃな〜。)

 

ふと、コーヒーを見て廻はついそう思ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜同時刻 長野県 某所〜

「おっしゃ!また役満ロン上がりー!いやー、あんたのおかげで儲けた儲けた。ありがとな。」

 

とある雀荘、そこに大人3人を相手取る一人の少女がいた。

 

「嘘だろ…こんな…こんなことがあり得ていいのか!?」

 

{東東東南南南西西西発} {発} {北北横北}

 

「大四喜はダブル役満扱いだったはずだから、字一色とのトリプル役満!。いやー、今日のあたしはラッキーだな〜。世にも珍しいトリプル役満和了出来るなんて。しかも確か前局は数え役満じゃなかったっけ?」

 

その牌をみながらラッキーと呟くが、周りの大人は皆畏怖するかのような目でこの光景を見守っている。

 

「つーわけで、おっちゃん。」

 

 

 

 

 

「親のトリプル役満、…合わせて144000点きっちりいただきましょうか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやー、今日は勝った勝った〜!」

 

雀荘帰りの道、少女は顔をホクホクさせながら帰路についていた。

ノーレート雀荘だったのが幸いして男性は一銭も払わずにすんだが、これがレートの決められた雀荘だった場合、どれだけ莫大な金子が彼女に入って来たことやら…

 

 

 

「今日はラッキーイベントめっちゃ起こってくれたな〜!は!?もしかしてこれからなんかいいことあったりして!?」(prprprpr)

 

突如鳴り出す着信音、ただ音は設定したのかなぜか黒電話。

ポケットから携帯を取り出し、画面を覗く。そこに表示されているのは…

 

 

「ゲッ…コーチからの電話だ。うわー、ここで出ないと後々面倒だけど…練習サボってるから絶対怒られるよな〜。

…うわ〜どーしよ!!」

 

 

携帯の画面をみながら葛藤している様子は何処と無く滑稽だが、そんなことを気にする余裕は彼女にはないらしい。実際、額には汗が染み出し、あたふたしているのが目に見えて分かる。

 

「…出るか。」

 

気まずさを感じながら携帯のボタンを押す。すると…

 

「一二三!!!テメェ、練習サボって何処行ってんだ!」

 

会話が始まるや否や、いきなり怒号が鳴り響いた。

どうやら彼女は一二三という名らしい。

電話なのに向かいの相手に向かってへこへことしている様子は、先ほどのトリプル役満和了の様子とはまるで別物だ。さながら上司に電話で謝るサラリーマンを彷彿させる。

 

「い、いや〜。久保さん?これは…そう!とある重要な事情があって…」

 

頭にエクスクラメーションマークが出たかのようにハッとした顔で、急に口調が戻ってくる一二三。名案が浮かんだらしい。

 

「ほう、とある事情か、なんだ?言ってみろ。」

 

「え〜と…ほら、最近、上級生や下級生と打つだけでは物足りなく思えて来てしまって…それに下手に下級生とやって大量得点して飛ばしてしまって、プライドをへし折るのもどうかな〜っていう私なりの気遣いも入ってるんです〜。私とまともにやりあえるのって美穂子くらいだから…」

 

「でも部活抜け出して、ノーレート雀荘で麻雀打ってたのは事実なんだろうが。」

 

「うぐ…それは、そうですが。ってなんで私がノーレート雀荘に行ってるのが分かるんですか!?」

 

「あぁん?テメェが行くところなんてうちの部室かノーレート雀荘しかないじゃねぇか。ワンパターン過ぎるおかげで予想が立てやすいんだよ、お前は。」

 

「グ…。分かりました。その件に関しては認めます。そして謝罪もします。

それで、本当の要件はなんなんですか、久保コーチ、それが本筋じゃないでしょう?」

 

 

どうやら電話の相手は久保というらしい。

 

「ほう、さすがは2年生でうちの部長を務めるだけあるな。そういう奴は嫌いじゃない…。雰囲気か何かで察したか?」

 

「貴女は仮に私が部活から抜け出していたとしても、電話連絡なんて入れませんからね。察するのは簡単でしたよ。」

 

いたずらでも成功したかのようににへらと笑いながら、そう答える一二三。だが、これはあくまで電話での会話。どんな顔や動作をしていようが相手に伝わることはない。

 

「そうか。だが今はそのことはどうでもいい。手短に要件を言う。」

 

一二三の意趣返しを見事にスルーした久保コーチに若干ずっこけそうになるも、何とか持ち直して、要件を聞くことにする。

 

 

 

「要件は一つだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

団体戦の女王の個人戦参加が確定した。もっとも、団体戦自体は人数不足から参加できないらしいがな…。」

 

 

 

「…そうですか、あの伊奘諾 廻が個人戦参加ですか。それはいい情報を聞きましたわ。」

 

「ふん。動じねぇか。だろうとは思っていたけどよ。まぁ、出場は当然だろうがな。去年のインターミドル個人戦決勝、テメェも見てただろ?」

 

「はい、丁度テレビでやってましたからね。 見てましたよ、宮永照との一騎打ち。」

 

「だろうな。ったく…あいつらは東京の中学校行ってたから、白糸台やら臨海女子とかの東京の名門でも行くんかと思ったんだが、厄介なことをしてくれたぜ、女王よ…」

 

「本当ですよね…去年は全国行くのに楽できたのに…今年は波乱の予感がしますよ。」

 

 

「「はぁ…………」」

 

 

 

 

そう言って彼女は重い手を動かしながら電話を切った。

 

「伊奘諾 廻…か。はぁ、団体戦で当たることはないからいいとしても、個人戦にも強いなんて、どんなチートだよ。まぁ、当たらなければどうってことないけど…

もし、仮に当たったとしたら…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の全力で迎撃するしかないよね…」

 

 

 

長野県の名門校風越女子高校2年生

一二三 綺音 (ひふみ あやね)

弱冠二年生にして、風越の部員ランキングの1位を獲得し、以降一位に君臨し続け、部長にも任命された風越のエース。

彼女の能力で分かっていることはたった一つ…

 

 

 

 

 

“運をも味方につける高校麻雀界の暁星”であることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー同時刻ー

東京 白糸台高校

 

西東京の強豪校白糸台高校。

全国大会やインターハイ出場、及び優勝経験もあるお陰で、その部室の規模や部員は生半可なものではない。ただ、それも今では過去の栄光だが…。

その部室の隣にある別室…

基本的には、レギュラー専用の部屋であり二軍選手は愚か、一年生はいままで余程のことが無い限り、踏み入れることがなかった地に、彼女はいた…

 

 

「ツモ 300 500」

「ツモ 1300 2600」

「ロン 12000」

「ツモ 6000オールの一本場は6100オール」

「ツモ 8000オールの2本場は8200オール 先輩方、トビです」

 

そう、宮永照が…

 

 

「…宮永照、インターミドルで活躍していたとはいえど、一年生だと思って舐めていた部分も確かにあった。でも、何なの…あの実力。信じられない。」

 

「うちのレギュラーが東一局の最初の跳満ツモ以外に和了どころか、聴牌すら危ういなんて…。下手したら一年生でレギュラー入りも…。」

 

 

 

(…名門白糸台といえど、レギュラーでもこのくらいか。これならば、廻の方がもっと強かった。満足いかない。)

 

白糸台のシステムは年功序列なんてものはなく完全実力性。実力が高ければ、一年生でもレギュラーに起用されるし、逆もまた然りだ。

だからこそ、レギュラーには最高峰の選手が揃っているはずなのだが、いとも簡単に自分のペースに持ち込み、あまつさえ飛ばして終わらせてしまった照にとっては、欲求不満以外の何物でもない。

 

(白糸台のここ数年の成績を見ても、5年間でインターハイに進めたのは一回きり…それ以外では、準決勝悪いときには二回戦敗退とかもある。個人戦はわからないけど、団体戦においては、下手したら私と廻が揃っていた去年のインターミドル優勝チームの方が強いかもしれない…。)

 

大分失礼なことを考えているが、彼女は至って本気にそう考えている。

 

(それに、今の白糸台には確かにレベルは高いけど、廻みたいなイレギュラーが現れたときに対応しきれないと思う。マニュアルに従ったまま打っているから想定通り行かなかったら、全体としてのリズムが崩れてしまう、って感じかな。廻がどのタイミングで団体戦に出てくるか分からないけど、団体戦に強い彼女の組閣したチームだ。生半可な苦労では勝てない。おそらく、今の白糸台に私が入っても、勝てるかどうか…)

 

 

 

(取り敢えず、夏のインターハイの私のレギュラーはほぼ確約したものと言っていい。レギュラー陣に対して、ここまで圧倒したのだから。ただ、やはり牌に愛された者がウヨウヨといるこの高校麻雀界で、勝ち残るには、少なくとも同類、もしくはそれに準ずる能力を持つ人でもいない限り、難しい。

幸い、部員は多いのだから、望みが全く無いわけではない。次の打つ手をどうしようか考えねば…)

 

照がそう思っていた矢先…急にドアが開いて、一人の女性が入って来た。

 

「ヤッホーイ、皆〜麻雀やってるー?」

 

レギュラー陣の部室に入って来たのは眼鏡をかけ、手元に手帳を持った元気ハツラツな女性。

ただ身長は小さい。おそらく145cm超えてない。照といる所を一見すると、高校生の姉と小学生の妹という微笑ましい風景に見えなくもない。どっちがどっちだかは言わないでおくが…

 

「あ、監督…こんにちわ」

 

「ほいほい、照っちー。雀卓の様子は…うんうん、やっぱレギュラー相手に圧倒してるね〜、流石だよ。」

 

因みに現在、雀卓に転がっているのは、バラバラになった牌と、虚ろな目をして倒れてる3人の先輩方だ。流石に後輩には飛ばされまいと、たかをくくっていただけあって、その反動はたいそう大きいものとなっている。

 

「いえ、これも監督のスカウティングあってのものですので。」

 

「あはは〜、謙虚だね〜。レギュラー陣の目を虚ろにさせといて。まぁ照っちらしいけど。所で、これってどう言う対局だったの?」

 

「東南戦25000点持ちの30000点返しの東四局、北家の私の親番です。東一局は西家の先輩が跳ね満ツモ。それ以降は私が連荘しました。」

 

「それで飛ばしたんだ。全員一気に。」

 

「えぇ、加減は先輩方に失礼ですから。」

 

「そーかそーか、うん!現実を見せてやるのは大事だしね。いい心がけだと思うよ〜私は〜!」

 

照に監督と言われた女性は、特徴的な間延びと口調で、照に機嫌良さそうに話しかける。さしずめ、小学校でいいことがあったのを姉に報告する妹に見えてしまうのはきっと気のせいだ。

 

「所で監督、ここに何の用事ですか?失礼ですが、監督はなかなか部室に顔を出しませんから…。」

 

「あぁ、それはごめんね。申し訳ないけど、色々と都合があってね〜。

あ、それとここに来た用事なんだけど……………ほら、入って来て?」

 

そう言いながらドアの外に顔を出して、呼びかける監督の女性。

その彼女の名は、五十嵐 玲那(いがらし れいな)

西東京の名門 白糸台高校麻雀部の顧問であり、尚且つ100人を超える部員を纏めあげる総指揮官である。

 

 

「あ、あの〜、本当に私なんかがレギュラー陣の部室に入っても大丈夫なんでしょうか?」

 

「大丈夫、大丈夫!!何たって、君は私に目をつけられたのだから!!寧ろ、君はこっちに来て麻雀をすべきだよ!隣にいさせて、才能を潰させるのは勿体無い!」

 

「は……はあ……」

 

(監督が直接スカウティングした生徒か…いい逸材を見つけ出すのが本職のスカウトがそれ程までに目を付けるなんて…どんな子なんだろう?)

 

 

且つ、玲那は元実業団のスカウトだった。彼女が引っ張ってくる人材はハズレがなく、ほぼ100%の確立でチームを代表する選手へと育っていき、今では街頭調査をしても知らない人がいないのではないか?と言われる程の選手へと成長を遂げた。そのおかげか、彼女が見つけてくる人材は、必ず大成するという不文律までもが作られているのが、現白糸台麻雀部の現状だ。

因みに玲那は就任一年目なので今までのレギュラーは、全て前監督からの引き継ぎである。

 

今回、玲那が連れて来たのは青髪・長髪・長身で知的な印象をうける少女。女の子の身長の高さのせいか、どうしても玲那とその人で凸凹に見える。

 

「ほら、自己紹介しなよ〜。」

 

「は、はい。えっと…

一年生の弘世 菫(ひろせ すみれ)です!監督に連れられてきたのですが…その…よ、よろしくお願いします。」

 

自己紹介とはいっても、今のレギュラー陣の目は照の対局のおかげか虚ろな目をしているから、聞いているのは照くらいだが…

 

「はーい、よろしく〜。んじゃ照っち〜。後のことは君に任せるよ!

私〜今から職員会議あるから席外さなきゃいけないんだ。」

 

私出席しなくても問題ないだろうに、なんでそんなに教師を一同に集めたがるかな〜とぼやきつつ、玲那の足は、出入り口へと進む。

 

「そうですか…あ、監督、その弘世さんのプレイスタイルを聞いておきたいんですけど!?」

 

「おっとそうだったね。…うーん、観察する限り、打ち方は地方の中堅校のエースレベルなんだけど…」

 

「中堅校のエースですか…あまりこの辺では思い浮かびませんね。」

 

「まぁ、ウチのベンチ入り位だと思ってよ。それでプレイスタイルなんだけど、強いて言うならば、『狙った獲物は撃ち落とすアーチャー。』まぁ、その辺はやって見れば分かると思うよ?何かを持っていることは確かだし。」

 

「何ですか、その適当な説明…理解しかねるんですが…」

 

「あはは〜ごめんね、私国語力無くって〜、んじゃもう行くね!急がなくっちゃ、理事長がうるさいし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、そうそう忘れるところだった。」

 

 

 

来た道を戻ろうとする玲那が、急にふと足を止め、何かを思い出したかのように照達に言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「照っちと打ってた3人のうち、最初にツモで上がった西家の奴以外…今すぐレギュラー降格だから。おそらく、二度とここに足を踏み入れられないだろうね。

団体戦先鋒 照っち、次鋒 菫ちゃんはしばらく固定で行くから。んじゃ、インハイ予選!楽しみにしとくね〜、バーイ。」

 

そう言ってドアは無情にもゆっくりと閉まった。呆然とする先輩たちと、何が起こったのか理解に苦しむ私たちを置いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー長野県清澄高校ー

 

東南戦10戦目

 

「ツモ。300・500。これで対局終了ですね。」

 

廻 35100

蒲原 28500

久 23000

ゆみ 13400

 

10戦目の対局の結果は上記の通りだ。ちなみに、時間が押して来ているのでこれが練習試合最後の対局となる。

 

「あぁ!智美に抜かれた!?」

 

「わはは〜、影でチマチマ稼いでいたかいがあったよ。お陰で今日初の原点越えだ〜。」

 

「危なかったですね。オーラスを安手で流したから問題なかったけど、蒲原さんのラス親だったんで、親番ツモやロンでもされたら抜かれてましたよ。」

 

「わはは〜、最後は索子チンイツのみの満貫上がりを聴牌してたんだけど…

流石に狙いが露骨すぎたな〜。上がり牌どころか、私の集めてた索子すら出してくれないんだもの。」

 

実際、蒲原さんはこの対局で3副露していたので、狙いが絞りやすかった。索子のみでのチー二回、ポン一回、それも一九索が混ざってる上にポンは二索…平和、断ヤオ、などの一翻役が殆ど不可能になっていることから、役の複合での点稼ぎはほぼないと判断し、尚且つ役牌での安上がりはオーラスだからほぼあり得ない。役満上がりも無いから、この段階で大型手が可能なのはチンイツでの和了。流石にゆみでも分かったようで、三副露の段階で索子を場に出す人はいなかった。

 

「流石にあれだと目論見はばれますよ。ツモ上がりならまだしてもロン上がりだと警戒されて尚更ね。」

 

「わはは〜、まぁ次からは気をつけるよ。ゆみちんも………ってあれ?」

 

蒲原さんが怪訝な顔をしてゆみさんの方向を見ていた。

指し示された指の先を見てみると…

 

「うぅむ、また焼き鳥か…」

 

悔しそうな、何か歯がゆい顔をしたゆみさんがそこにはいた。

 

「廻相手に、初心者が飛ばされないだけでも、結構すごいわよ。ゆみ。」

 

隣にいた久がフォローを入れるがまだ顔は難しいままだ。

まぁ気持ちはわからなくもない。

対局の合間に少し指導をしていたので、ちょっとはマシになっているだろうと意気込んだが、一度も上がれず焼き鳥。

初心者にはよくあることだ。

ただ、それでも点棒は10戦通してマイナスに行くことはなかったので、防御の面に関しては上出来だろう。

 

 

 

「わはは〜、 私でも3戦前くらいにめぐりんの三倍満のロン和了で吹っ飛ばされたのに…流石だね、ゆみちん。」

 

「だが、今だ一度も和了どころか立直すら出来ていないのが現状だ…。これでは、一行に点棒を増やすことなんて不可能だ…防戦一方では1位は愚か最下位の可能性もあるし…どうすれば。」

 

「点数計算も役も全部問題は無いゆみさんですから、あとは場数を踏むだけなんですよ。最近では高校生でも入れるノーレート雀荘なんていうのもあるから、そこに入り浸って色々な人と打って見るのも一つの手ですね。」

 

「そうそう、今回は相手が悪かっただけよ、ゆみ。才能はあるんだから、あとはそれを助長させて生かすだけよ。」

 

3人からの助言にゆみは…

 

「…あぁ」(コクッ)

 

ただ難しい顔をして頷くだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

ー夕刻ー

 

 

 

「それじゃ、私たちはそろそろお暇させてもらうよ。」

 

「わはは〜、東南戦なんて中々出来なかったから楽しかったよ。

まぁ結局女王の牙城には傷一つつかなかったけどね。」

 

「当然でしょう?我が清澄高校麻雀部の誇りなんだから!廻は。」

 

「…久、台詞がそれだと貴方、虎の威を借る狐みたいに聞こえますよ。あと、お疲れ様でした。鶴賀学園の皆さん。」

 

「わはは〜、次会うまでにはめぐりんに一泡吹かせられるよう、努力するよ。」

 

「フフッ、楽しみにしてますね。」

 

「すまなかったな。他校の私のために、こんな時間までとってもらって。」

 

「いいんです。敵は多い方が燃えるタチなんで。」

 

「フフッ、それではいつかその言葉も言えない位の雀士になってやろうではないか。出鼻を挫いて見せるよ。」

 

「それは楽しみですこと。それでは、今日は。」

 

「「「「ありがとうございました。」」」」

 

 

 

 

 

 

ゆみと蒲原の帰宅後…

 

 

 

「さてと、後もう少しで私の初陣か…。大丈夫かな。」

 

「…廻?」

 

独り言のようにつぶやいていたのだが、どうやら久に聞こえてしまっていたらしい。心配そうに私の顔を覗き込んで来た。

 

「どうしたのですか、久?」

 

「貴方でもそんな風に思うことがあるなんて意外だなって思っちゃって…。大丈夫なの?」

 

「初めてだから仕方ないとはいえ、こんなに緊張するのは久しぶりかもしれませんね。ハハッ…緊張の所以か、なんか手が震えて来ましたよ。」

 

「そう…。」

 

そう言って、久は立ち上がり、バルコニーの方へと向かう。

何か悪いことでも言っちゃったかな?

それとも、今の発言で失望させちゃったかな…と少しばかり不安に思っていると…

 

 

「廻、ちょっとこっち来てくれる?」

 

久はベットの方に私を手招いた。

行くと久がベットに座り、膝の上に手を置いた状態でいた。

その行動にイマイチ意味を見出せなかった私は…

 

「久…?」

 

若干掠れた声でそう訪ねた。

 

「緊張や不安な時は、人肌に触れていた方がいいってよく聞くでしょ?

はい、ここに寝て。」

 

そういって自分の膝をポンポンと叩く。恐らくこれ膝枕でもやってくれるのだろう。ただ、このようなことで久を頼るなんて迷惑ではないだろうか?そう思い…

 

「いや、流石にそれは悪いですって。

私は大丈夫ですから。」

 

と言った。すると

 

「そんなに震えているのに、大丈夫なはずないでしょう?それとも、私の膝枕じゃ…嫌…なの?」

 

あー、もう!そんなこと言われたら断れないじゃないですか!!

上目遣いで若干涙目でそう言われて、断る人がいればそれはよっぽどの勇者か愚者のどちらかですよ。

 

「…んじゃ、お願いしま〜す。」

 

そう言って寝転んだ久の膝には、何処と無く安心感が漂い、緊張が徐々に解れて行くのが目に見えて分かった。

それと同時に襲ってくる睡魔、知らない間に疲れていたのか、私の体を遠慮なく蝕んでくる。

そして、私の目の前に一つの昔の思い出が想起し始めていた。

 

(そういえば、ずっと前にもこんなことあったっけ。…東京に転校して照に会う前…大阪にいた頃に…。懐かしいな…あの子たち…元気…か…な……?)

 

昔の思い出に思いを馳せつつ、私の意識は、徐々に闇へと堕ちて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の思い出を皆さんが知るのは、もう少し後のことになります。




次から一年目のインハイ予選に入って行きます。
そのあとにオリキャラ紹介を挟みたいと考えているのでご了承ください。
それでは〜、ご視聴ありがとうございました!

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