咲 -saki- 二人の少女のハイスクールメモリー 作:レイ・シャドウ
私が3倍満で和了、これで点数は
廻 26400
久 7700
と私が18700点リードする展開となった。
驚いている竹井さんを横目にニヤニヤしながら次の局のために牌を取る。
自分でも今いい顔しているだろうなーと思いながら牌を握り、それをツモ切りする。
結局この局は竹井さんが安手ツモ和了
役は立直ツモで得点は2400
よって11000となった。
そして…
{一一二二三三⑥⑥⑥⑧⑧白白白} {⑧}
「ロン、3900」
決着はついた。
「あー!!負けた負けた。でも楽しかった〜。でしょ?伊奘諾さん。」
「そうですね。」
吹っ切れたようにそういう竹井さん、それを見て微笑ましく思いつつ私は自分の考察に入る。
(悪待ちで上がることに好かれている…意表を突くのには持ってこいですね。配牌によりけりだけど見た感じだと低い打点と高い打点を使い分けることも可能…守りと攻撃の緩急もつけられるでしょう、とはいえ、いくら好かれているとはいえ例に漏れることもあるはず、先鋒で稼ぐよりか次鋒や中堅でリードを守りつつさらに広げてもらう方が彼女の性に合うでしょうね)
「伊奘諾さん?おーい」
(とはいえ、まだ人数は二人だからなんとも言えないですね…高い打点を叩き出せるような人物とそれを後に繋げられるような人物、その人材が揃わないと照は愚か県内最強の風越女子にも叶わない。人材は多すぎて困ることはないし選手スカウトを優先しないと…)
「むー?返答がないな、それなら…
えいっ!!」
「痛!?」
急に頭に衝撃が襲ってきた。
その衝撃と痛みがどこから来たのか探していると竹井さんが目に入った。この場には私と彼女の二人しかいないから犯人は竹井さんだろう。
みると手には手刀が作られている。
そこそこ力を入れていたのか、すこし痛みを感じる。
ジトーとした目で竹井さんを見つめると
「いやー、呼んでも返答ないから何か悪いことしたかな?って思っちゃって。
大丈夫?」
どうやら私が無視していたらしい。
すこし不安そうな表情をした竹井さんがこちらを覗き込んできた。
それなら彼女に非はない。寧ろ悪いのは無視したこちらなのだから。
「大丈夫ですよ、竹井さん。すみません、余計な心配を掛けたみたいで。ただ単にこれからのインターハイ予選の戦い方に関してのことを考えていただけですから」
「ふーん、そういうことね…
流石、団体戦の女王は違うわね。
まだ部員は二人なのにそんな先のことを考えているなんて…」
「褒めているのか、皮肉っているのかが分からないですね…というか、私のこと知ってたんですか?」
「あら、一応褒めたつもりでいたのだけど…
それに貴方って宮永照ほどではないけど結構名前は知られているのよ。苗字も珍しいしね。
団体戦での勝利の切り札、
それと、私のことは久って呼んで。いつまでも竹井さんじゃ折角一緒の部活仲間なのに素っ気ないじゃない。」
「そうですか…
名の知れない高校なのに私のせいでネームバリューが増すっていう事態は何としてでも防ぎたいのですが…
そうだ!竹井さ…久も私のこと廻でいいですよ。そっちの方が呼びやすいでしょうし。」
「分かったわ。
じゃ、とりあえず今日は帰りましょうか?もう十分暗いし、すでに18:00回っているから最終下校時刻の18:30も迫ってきてる。」
竹井さ…久が指さした方向の窓を見ると完全に真っ暗になっていた。そこまで時間が経った気はしないのだけど…
「とはいっても、廻がここに来たのが16:50、打ち始めたのが17:00だからこのくらいになっていてもおかしくはないのよね。」
それでも精々30分くらいかと思っていたが…やはり人間集中していると時を忘れるものなのだろうか…
帰宅路の途中の交差点で久と別れ、家へ向かって5分程度歩くと、白を基調とした小洒落た二階建ての一軒家が見えてくる。そこが私の家だ。
「ただいま〜」
「帰ったか」
「「お帰り(なさい〜)」」
家に入るとむさ苦しい男が一人とお若い女性が二人、リビングの雀卓で三麻をしていた…ほっほーうこれはこれは…
「所謂三角関係でスキャンダルという奴が…」
「何言っとんじゃお前は…」
「昼のドラマの見過ぎではないのか?そんなドロドロな設定…」
「伊奘諾将生監督、同チームの選手との二股発覚とか?」
「シャレにならんことを言うな!!廻」
「はわ!?将生さんと靖子と私が!!
そ、そんなわけないじゃないですか〜。やだな〜廻ちゃん」
「幸せオーラ満開の笑顔で言われても全くもって説得力ないですよ、新衣さん…」
「全くです…ほら、再開しますよ。確か、監督の親番で南三局オーラスのはずです。」
「…藤田、スルーすんなよ。頼むからさぁ」
男は疲れた表情を、女二人は微妙な表情とキャピキャピした表情で対局を再開した。
ここでこの大人たちについて解説しておこう。
男に藤田と呼ばれた女性が長野のプロチームである佐久フェレッターズの大将 藤田靖子プロだ。最初は、あまり点棒を稼がずに、最後の最後で逆転する戦法を好み、巷では『まくりの女王』と呼ばれている。正直、対局している側からみたらたちが悪いとしか言いようがない。まくりに警戒しすぎで藤田さんの安牌切ったと思ったら他家に振り込んだりしてるとか元も子もないしね…。
藤田さんに監督と呼ばれた広島弁の男が伊奘諾 将生(イザナギショウセイ)、名字の通り、私の父で、一応元プロ雀士。今は佐久フェレッターズで監督をしている。現役時代の成績は…ここで話すことでもなかろう。何処かで将来的に言うかもしれないけどね。ただ、豪胆ながらも気配りの聞く兄貴肌やファンサービスの良さから、惚れる選手やファンも多く、ネット上やファンの中で『日本雀界のアニキ』なんて呼ばれているらしい。家ではそんな様子や素振りは一切見せないのだけど…。実際どうなんだろうか?
そして、さっきから幸せオーラを周りに振りまいているキャピキャピしたお姉さんが佐久フェレッターズの先鋒の新衣 貴美(アライ タカミ)プロ。
彼女は父の古くからの後輩で本人曰く将生さんの一番弟子!!らしい…。
父の後を追いかけて色々なチームを転々としており、やたらと父にアプローチをかけてくるが父はそれをのらりくらりとかわし続け、挙げ句の果てには純情を弄ばれる始末。不遇なアラサーお姉さんだ…。ただ、本人はそれでもアタックを続けるらしい。まぁ、頑張ってください。
プレースタイルは、一発ドカーンというより小さな役を細々と積み重ねて点数を稼いで行く形をとる。しかし配牌から立直までが極端に早く、尚且つ大型手も時々起こせるので他チームからの警戒度もそこそこ高い。
ただし、一度決めたらそれに向かって突き進むタイプだから降りることを知らない。この間は、そのせいか立直かけた瞬間に小鍛冶プロの役満に振り込んでたし…
因みに私は父子家庭で、父に育てられている。
父は母と色々と折り合いがつかなかったようで、離婚し現在は岩手の実家に住んでいるらしい。二つ下には妹がいるけど彼女は母方に引き取られた。大分長い期間会ってない。
妹元気かなーとか思いつつ私はキッチンの方へと向かった。
〜数分後〜
冷蔵庫に入っていた缶コーヒーをとって部屋に向かう最中
{西西西白白白東東南南} {中中横中}
{東}
「ツモ。字一色。」
という声が聞こえてきた。
少し気になって、リビングを向覗いてみると…
「さらっと当たり前のように役満和了っていくのやめてもらいたいのですが…」
げっそりした顔でそういう藤田さんが真っ先に目に入った。
「ほえー、これで私と藤田、両方トビですか…いやー流石監督…私、感服しました。というわけで付き合ってください!!あわよくばこの紙にサインを。」
「何がというわけで!!じゃ…しかもこの紙、婚姻届だし…却下だ。それより、現役選手が非公式とはいえ引退した選手に負けるとは…言語道断だぞ。」
「うぐ…それは確かにわかっていますが…。」
「元プロとはいえ、実力が世界ランカー級にある人と高々実業団の一選手でしかない我々がやったとことで勝ち目なんてない気がするんですがね〜。」
「ほう…言うじゃねぇか新衣、つくば戦先鋒戦のオーラスで小鍛冶健夜に役満でまくられてから世界ランカーに雪辱を晴らす!!とか言っていた頃とは段違いじゃな」
「う…それはー、そのー。」
新衣さんの視線があちこちに飛び交ってる。別にそれに構う必要は無いので、大人たちを横目に私は二階にある自室に向かうため、直ぐそばにある階段を登った。藤田さんが助けを求めるような目線を向けていたが無視だ無視…一々対応してたら身が持たない。
〜自室〜
「相変わらず…女子要素0な部屋ですね〜」
軽くため息を尽きながらベットの上に鞄を放り投げて、改めて自分の部屋を見渡す。
自分用の勉強机には整頓された教科書と箪笥と黒のノートパソコンそれにベット、部屋の真ん中には雀卓と牌、部屋のフローリングが白いのとあいまって、相当殺風景に見えてしまう。
一応箪笥に服はあるが中身の9割はジャージだ。その中から適当に引っ掴み着替え、ベットに横たわる。
「ぬあー!!また将生さんの役満とか〜。」
「ちょ、本気で自重してくれませんかね?というかしろ。」
「じゃが断る!ほら大三元。」
「ぎにゃー!!嘘でしょー」
「現役復帰しろよ…このおっさん」
あり得ない会話が下の階から聞こえてくるが聞こえないふりをしつつ、私はベットに寝転んだ。そこでたまたま目に入ったカレンダーに、ボールペンで予定が書かれてあったのを見て、とあることを思い出し慌てて自分のパソコンを起動し、一つのアプリを起動した。
そのアプリは大手の麻雀サイト、これからするのは所謂ネット麻雀である。
(確か、今日は週一回のレート二位ののどっちさんと直接対決する日だったな〜、すっかり忘れてた。)
IDとパスワードを打ち込み、ログインするとデフォルトのままのアバター、私のニックネーム めぐりんと書かれた名簿と神々しく光るレート一位の文字が目に入る。
現在、この麻雀サイトで私のレートは一位となっている。とはいえ二位との差は精々30程度、一位でレートはプラス10、最下位で-10されるからその差は微々たるものだ。
そして待ってましたとでも言わんかのように表示される卓招待の文字…待ちきれなかったのだろうか。早く来てくださいとかいう類のショートメールが10件くらい来ている。
いまこのショートメールに返答するわけにもいかないので、一旦スルーし、レート二位…のどっちさんのいる卓へと飛ぶ。
NOW LOADINGの文字が消え、やがて卓が映し出される。
【半荘戦を開始します】
【貴方は親です】
【捲り牌 西】
というログが出てきたと同時に対局がスタート。
因みにルールは点数は25000スタートでダブル役満や赤ドラあり、プロの試合で採用されているルールをそのまま引き込んでいる。
因みに初期段階での私の手牌は
{三四九九九①①②東東南北西発}
である。ツモり牌次第だけど真っ先に思い浮かぶのは対々、三暗子が行けるかな〜ってとこか…
取り敢えず、{発}を捨てて様子を伺うことにしようか。
なんか無性におかしな予感するけど…
〜7巡目〜
{三三三九九九①①①東東東}{西}
これか…初っ端から、四暗刻の単騎待ちって、直撃したら誰であろうと一発で飛ぶよ。
半荘戦東一局で相手を飛ばすとか普通ないでしょ…
(ま、まぁ3人が振り込んでこなければどおってことないし、仮にだどツモれば16000オールだから誰もトバないし誰かが振り込んで他人が和了ってくれれば平和に解決…)
そう思い、画面に集中した。
その後特に目立った動きはなく2巡後
【立直】
対面のどっちさんから立直がかかった。そこで取り敢えず一息つき、画面を見つめる。しかし…
(あれ…?)
一向に誰もが捨て牌をしない。
どころかゲームが進んでないのだ。
のどっちさんは対面だから、私の前には一人挟むはずなのに…
嫌な予感がし、まさかと思いつつ目をのどっちさんの捨て牌に向けると
{北一四東西中⑧⑦}{横西}
予感的中
…立直の捨て牌、私の和了り牌だー
どうしよう、スルーしてツモるのを待つかな…うん、それがいいそうしよう
という考えがよぎり、西をスルーしようとする…が
(捲り牌と河で場に既に西二つ出てるじゃん⁉︎
西を捨てようにも立直かかってるから、まともなツモり牌こなくて振り込んでしまったら面倒だし、レート追いつかれるわけにもいかないし…)
仕方が無い…和了ろう
震える指を抑えながら、ロンと書かれたボタンを押す。
すると、グラフィックが派手なものとなり、画面のど真ん中に堂々と『役満』の二文字が表示された。
【ロン 四暗刻単騎 48000】
この段階でのどっちさんの点は
-23000
つまりトビだ。
【のどっちさんが飛んだことにより終局、めぐりんさんのレートは+10され、一位の座は守られました。】
一位と二位との直接対決は一週間に一回、半荘一回しか組まれないようになっているので、次の対決は来週となる。
なんだか折角長い時間待っててくれたのどっちさんにはとても申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
というか最早罪悪感しかしない、役満上がったのに…。可能性は低いけどいつか仮にのどっちさんに会ったら土下座して謝罪しよう…。
パソコン横に置いてあるコーヒーを飲み、項垂れながら私は静かにそう思った。