咲 -saki- 二人の少女のハイスクールメモリー 作:レイ・シャドウ
なので主人公はしばらく出てきませんがご容赦下さい
『さぁ、インターミドル決勝戦も遂にオーラス!
現在、トップと2位との差は30000点
完全にこの場はトップの独壇場となっております』
『1位の伊奘諾選手は今日は終始ペースを握っていますからね。とはいえ2位の宮永選手との点差を考えると役満振込で一気に逆転ありますからねぇ…ここで逃げ切るか、それとも曇天返しが起こるのか…期待してもいいと思いますよ』
『おっと!?2位の宮永選手、3巡目にして早くも大四喜一向聴、ここで北が来れば大四喜聴牌だ』
『ここで、3選手がどう動くかですよ!
伊奘諾選手も対々の一向聴で逃げ切りを計ってますから』
『ポン』
『おっと、宮永選手!捨て牌ポンで大四喜聴牌、八索単騎待ちです‼︎ここが天王山となるか!?』
『とはいえ、伊奘諾選手が八索を振り込まなければ問題はありませんしね。現に、彼女の手牌に八索はありませんから。』
『さて、そんな中での伊奘諾選手のツモリ牌は一体…………………』
「それで…貴女は白糸台には来れないのね。」
とある少女がそう問う。
ある東京の中学校の卒業式の終了後。
晴天の空の中で、問われた少女は済まなそうな顔で
「…そういうことになるね、申し訳ないけど急な父の長野転勤だから私にはどうにも…」
その問いに答えた
「そう…進路は?麻雀で長野の名門校なら確か強豪の風越女子が有名だけど…」
「清澄高校って言う学校だよ。知ってる、照?」
照と言われた少女が顎に手を当てて長考するが
「分からない…無名校なの?」
「まぁ、そんなところ…聞いたところによれば麻雀部は廃部寸前だとか」
結論が出てこなかった照に軽く笑みを浮かべながらそういう少女、それに対して
「…どうしてそんな選択を?貴方の腕なら、仮に白糸台でも余裕で通用するし、風越女子みたいな強豪校でも1年から団体戦でレギュラーは取れる筈…決めつけてる訳じゃないけど私には無名校で3年間を棒に振ろうとしているようにしか見えない。どういうことなの?廻。」
照は廻という名前の少女にそう言う。
ムッとしたような表情の中に微かながら涙が浮かんでおり、何処と無く顔は悲痛に見える。
「ふふっ、照…私は高校3年間を一切棒に振るつもりはもちろんないよ。まぁ、照の言い分も理解出来ないわけではないけどね。寧ろ一般的に言えば正論だと思う。」
廻は照の頭を優しく撫でながら諭すように言った。
「んぅ?…無名校の方が好都合とでもいうの、廻?」
「そゆこと。寧ろ逆に好都合…
実際強者のひしめく学校に入ってインハイ出ても、何も面白くない。寧ろ世間からはそれは当然と思われ、精々2日程度で話題は立ち消えなんてザラなんだよ。
よりかは、弱小無名校で下克上を狙った方が、格段に面白みは増すと思う。ま、それまでの素材集めが苦労しそうだけどね…」
「要するに目立ちたいってこと?」
照がそう聞くと
「そういう野心がないと言えばうそになるよ。だけど私の目的は…
私が組閣したチームで強豪校から一つでも多く勝利をもぎ取りたいっていうところかな。
特に…私の目標は、どれだけ局をやっても互いに圧倒的な差をつけずにもつけられずにもいた
宮永照…貴女との死闘を今度は個人戦だけでなく、団体戦という異なった次元でやることだよ。そして圧倒的な差で確実に勝利といえる勝利をもぎ取ること。そこに尽きる。」
その決意を聞いて、廻の腕の中で頭を撫でられながら照は軽く息を吐く。
廻は最初から決めたら最初っからそれを貫く人だった。
今更何をいっても彼女は自分の考えを変えない。3年間、団体戦ではチームメイトとして、個人戦ではライバルとして切磋琢磨してきた仲だ。そんなことはわかっていた。
それに心の何処かでーー
私の本職だけでなく、貴女の本職の団体戦で全力で戦いたい
そう思ってしまう自分もいた
宮永照は、牌に愛された子とも称され、中学生最強とも言われた雀士だ。異常なほど高い和了率を誇り、しかも連続で上がるたびに打点が上昇する。 連続和了を止められると再び安い手に戻ってしまうが、その連続和了を止めること自体が非常に困難であり、強さ自体もぶれることは少ない。
3年間、跳満以上の放銃をした事がなく、守備力も非常に高い。
だが、彼女をここまでの雀士にしたのは、けして彼女自身の努力の結果だけではない。
互いに対話を繰り広げている相手
ーー伊奘諾 廻(いざなぎ めぐり)ーー
彼女は照ほど全ての牌には愛されていないが、一種の牌だけには異常なほど愛されていた。
萬子…それを生かしたことで彼女は宮永照とはまた異なった強さを持てた。
特に彼女の強さは、団体戦で発揮され、先鋒を務めれば毎回初っ端から7万点差近くの差をつけ、大将を務めれば3位と5万点差という差を悠にひっくり返し勝利を勝ち取る。巷では個人戦の宮永・団体戦の伊奘諾という俗称がつけられているほどだ。
2牌以上、手牌に萬子があれば確実に和了、例外は殆どない。
まさしく、宮永照の成長と輝かしい実績を影から支えた功労者。
彼女という存在があったからこそ宮永照はここまで輝くことが出来たのだろう。
「3年間、インハイ団体戦とは疎遠になる可能性だって…」
「そうなったら、個人戦最強とまで揶揄された貴方の戦歴を思いっきりへし折ってみようかね。それもそれでまた趣がありそうだね。」
そう言って廻は挑戦的な笑みを浮かべる。すると、照は一瞬驚いたような表情を浮かべたが
「分かった…。だけど私だって負ける予定は一切ないから。無敗記録を3年間伸ばし続け、そして団体戦最強の座も掻っ攫うよ。廻」
「無論、私が勝つまで負けるなんてことはないようにして、私が、貴女を初めて負かす相手になるのだから…照」
互いに微笑みあって二人は対戦を誓う。だが、二人の瞳の奥には、燃えたぎる闘志の炎がフツフツと湧き上がっていた。それが道の違えた二人の序章だった。
「ところで私はいつまで頭を撫で続ければいいの?照」
「…私が満足するまでじゃだめ?廻」