1年1組のクラス代表の座をかけて戦った、その翌日。まあ火曜日だな。今日も平日だし、普通に授業だ。そういえば、IS学園は月曜から金曜までだけじゃなく、土曜日も午前中だけ授業があるらしいぞ。なんでも、一応高校生なので、一般教養科目、要するに数学や英語などもするためには、平日だけの授業時間じゃ足りないそうだ。そりゃそうだ、ここ数日はISの基礎知識しかやってないしな。
「さて、昨日行った、代表決定戦の結果ですが。ブルックスさん2勝、オルコットさん1勝、織斑くん0勝でしたね」
そうだ。セシリアとの戦いでは半分ぐらいを
「よって、1年1組の代表は織斑一夏くんに決定しました! あ、1繋がりでいい感じですね」
「はい先生」
俺が手を挙げて、山田先生がなんでしょう織斑くん、と返した。
「よって、の繋がり方がおかしいです」
「あっ、それを言っちゃうんですか……!」
「それに、俺はふたりに負けたんですが。なんで俺が代表になったんですか?」
「あ、それはですね……」
「わたくしが辞退したからですわ!」
山田先生のどこにつながってるのかいまいちわからない接続詞よりも更に気になる、俺が代表になっちゃった理由。それが俺の聞きたかったことだ。ちなみに一瞬、ジャンケンとかでよくある、負けたやつに押し付けるアレかと本気で思ってしまった。まさかな。
「結果はわたくしの勝利ではあったのですが、考えても見れば、イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットが相手なのですから、仕方ないことですわ。それと、大人気なく怒ったことを反省しましたの。ですから、一夏さんかアイリーンさんに代表の座をお譲りすることにしましたわ。IS操縦への上達の近道は、やはり実戦を積むのが一番ですし、アイリーンさんならやはり、見るだけで十分に勉強になりますので」
そうだな、クラス対抗戦とかで、代表は戦う機会には事欠かないだろうな。それは納得だ。ブルックスさんが戦うのを見ると勉強になるのも納得だ。正直ガトリングガンについて混乱してはいるけど、ISのパワーアシストがあるにしろ、あんな小振りな近接ブレード一本と、装甲も何もない左手一本で俺の袈裟懸けを受け止めるぐらいだ。間違いなく強い。あれ、じゃあ俺じゃなくてブルックスさんが代表の方がいいだろ。俺が戦うのを見たって、セシリアに勉強になるとは思えん。
「それとブルックスは最初から代表にはなれん」
俺の脳内でも読んだのか、千冬姉がすごいタイミングでそう言い放った。そういや何度か脳内で千冬姉って呼んでる時とか、出席簿アタックくるもんな。千冬姉は本当に人間なんだろうか。
「IS学園の暗黙の了解で国家代表は基本的にクラス代表にはなれん。その上ブルックスは既に生徒会に所属済みだから、やはりクラス代表にはなれん」
「……千冬さん、なんで私戦う必要があったの」
「織斑先生と呼べ、馬鹿者。一言で言うなら、思い上がっている馬鹿者共を叩きのめして己の弱さを認めさせるためだ」
思い上がっている馬鹿者共、か。そういや、俺もISの操縦の基本なんてすぐマスターできるだろうとたかを括ってたし、確かに思い上がってたかもしれんな。しかしやはりなぜかブルックスさんには降らない出席簿アタック。国家代表だってことが関係してるんだろうか。ていうか最初から代表になれないのか……国家の代表にはなれてもクラスの代表にはなれないのか。まあ暗黙の了解ってのは、飛び抜けて強い国家代表がクラス代表になると、クラス対抗戦とかで不平等ってことだろ。……代表候補生がクラス代表になる時点で不平等ってのは気にしちゃだめだ。
「そういうわけでクラス代表は織斑だ。異存はないな?」
クラス中の声がはーいと一致した。うん、仲がいいのはいいことだ。
**********
「やだ。なんで?」
えーっと。
どう説明すればいいんだ、この状況。端的に言うなら、ブルックスさんにIS操縦の指導を頼もうとしたんだよ。そしたら即殺された。以上。お、割と簡単に説明できたな。ついでに今は五限目が終わったところだ。最近授業の間の休み時間ですら自分の席にいないブルックスさんが珍しくそこにいて、俺は決行するなら今しかないと思ったわけだ。
「ほら、ブルックスさん、ISの操縦うまいじゃん。だから、教えてほしいなーって」
「私がやって得することなんてないからやだ」
うあ。またバッサリとやられた。代表決定戦で袈裟懸けを放ったのは俺だが、言葉の袈裟懸けを今俺は受けている。どういうことだ。自分でも言っててよくわからん。
「大体、戦い方のコツぐらいなら教えてあげるけど。展開にすら時間がかかる奴になんて、教えることなんてない」
うあ。ごもっともです。確かに俺は、未だに機体本体を展開するのですらスムーズ、というほどでもない。しかし、こう、あれだな。ブルックスさんのこの言い方。まるで、俺が強くなれば教えてくれるように聞こえる。都合のいい勝手な空想かもしれんが、これはこれでやる気になる。まあ掛け算九九もできない小学1年生に、いきなり分数の問題を解けって言うようなもんだよな、今の俺がブルックスさんの指導を受けるっていうのは。そう思うと、がぜんやる気が出る。
「じゃあ、俺がもっとISに慣れてきたらお願いするな!」
ブルックスさんは無反応だったが、嫌なら嫌ではっきりというタイプであろう彼女のことだから、期待はしていいのかもしれん。ただ、ブルックスさんと話してる間中、箒の視線が冷たく痛かったことを話しておこう。冷たさは時に痛さに変わるからな、うん。
そして話はその日の放課後に移り変わる。ISには射撃武装というものがある。その名の通り、射撃を行うための武装だ。アサルトライフルであったり、サブマシンガンであったりがメインだ。ちなみにスナイパーライフルとかは狙撃の方に近寄るが、これもIS学園では射撃武装として扱っている。この射撃について、アリーナの数は限られているため、アリーナでISの訓練をすることは可能だが、いつでも使用できるわけじゃない。だけど、アリーナが使えないからと言って訓練ができないわけではない。
そう、このIS学園で基本的にISを展開していいのはアリーナ、そして2年生以上の整備科と呼ばれる人達が主に使う整備室。そして、IS用射撃訓練場だ。ちなみに射撃部があるので、IS用じゃない射撃訓練場もある。そのIS用射撃訓練場はちょうど教室棟から俺達が普段使う訓練用アリーナに向かう途中にある。今日も今日とてセシリアと箒と放課後にIS操縦の練習をしているわけだが、今日に限ってセシリアがIS用射撃訓練場の前で足を止めた。
「どうかしたのか?」
「あ、いえ。中にアイリーンさんが見えたような気がしただけですわ」
「ブルックスか。あいつは射撃も上手いのか?」
「上手いなんてものじゃありませんわ。イギリスに
「アイリーンさんの強みは、近接格闘における強さや、戦術だけではないですわ。驚異の狙撃力こそが、アイリーンさんの強さの源です」
射撃型ISに搭乗するセシリアが言うほどだ。相当なんだろう。たしかにまあ、こないだの代表決定戦で、逃げ回るセシリアの急所に一発一発狙い澄まして撃ち込んで、絶対防御が確実に働くように狙ってたもんな。うん、恐ろしい。
「アイリーンさんがいらっしゃったら、見るだけでも価値がありましてよ。今日はこちらを見てから、アリーナに行きません?」
セシリアの熱心な誘いに、俺と箒は折れた。そのIS用射撃訓練場に入った俺達はそこで、驚くしかなかった。
IS用射撃訓練場は第3階層に普通の射撃訓練場のような場所を設けて、第2階層、第1階層には高速で動き回る的を狙い、「自分も動き回って」撃つフロアが用意されている。ちなみにこれは1フロアにふたりまでが限界だと脇の方に書いてあった。表示を見て、一瞬遊園地とかのアトラクションを思い出したのは俺だけじゃあるまい。
「あ、アイリーンさんがいらっしゃいましたわ」
第1階層、第2階層には観客席というほどでもないが、見学ができるようにベンチとシールドが用意されている。そこであの白いISを駆るブルックスさん。的の速さは半端じゃないのに、ブルックスさんの反応速度の方がもっと半端ない。白い6機のアサルトライフルがそれぞれ空中に浮いていて、そことブルックスさんの右手に握られたアサルトライフル1機の計7機が同時に7か所の的を狙い撃つ。完璧に真ん中に当たっている。……どうなってんだ?
「なあセシリア、あのアサルトライフルはなんだ? あれもビットの一種なのか?」
「いえ、あれはビットではありませんわ。イメージ・インターフェースを利用した兵装を2種も搭載することは、エネルギー効率の面でほぼ不可能ですもの。ですから、あのアサルトライフル6機はビットとは違う原理で動いているのですわ」
スマン、イメージ・インターフェースがなんなのかよくわからんが、とりあえず大人しくブルックスさんを見ておく。セシリアはビットを動かしている間、そっちの制御のために本体が動けないっていう難点がある。しかしブルックスさんはどうだ。右手にもう1機アサルトライフルを持って、射撃を続けているぞ。左手は空のまんまだ。俺と戦った時みたく、近寄られた時に緊急で近接ブレードを展開するためだろう。一度収納するためのタイムラグは相手次第では大きな命取りだもんな。
見学用ブースからはそのフロアにいる人の現在のスコアが見れるんだが、大変だこりゃ。現在1039分の1039。つまりすべて当たってるってわけだ。おかしい。おかしいぞどんな命中率でも、100%ってのはいくらなんでも無茶苦茶すぎる。その上この速さだ。国家代表って、こんなにすごいもんなのか。
「しかも、射撃の精度だけでなく、脳の処理速度まで問われるのがこのフロアでしてよ。高速で多方向に出現する的をハイパーセンサーで感じてから、どのアサルトライフルを使うのかを決めます。そうしないと、最悪の場合、誤射の恐れがありますわ」
なるほど。たしかにそれもそうだ。一瞬でロックオンしてるからわからなかったが、確かに言われてみれば、誤射するような方向には砲口は向いていない。なんつって。
最終的に、スコアが3573/3573の時にフィニッシュだという音声が流れた。結局、一撃も外していない。鬱陶しそうに手の中のアサルトライフルを収納して、こちらを向いた。
「アイリーンさん、お疲れさまです。相変わらず、素晴らしい射撃精度ですわね」
「別に。これぐらい普通だし」
本当にそう思っているのか、ブルックスさんの顔はまったく表情を変えないままそう言い放った。お、おう。クールなやつだ。
「それよりも。覗きが趣味なんてとんでもないな」
うぐ。隠れてみてるわけじゃなかったが、無断で見てたのも事実。覗きというとられ方をしてしまうのか。……いやちょっと待てよ。なんで見てただけでこんなに言われてるんだ。
「ま、いいけど。基本武装しか使ってないから」
基本武装。あのビットによく似たアサルトライフルが通常兵装だって言うのか? てことは……俺やセシリアと戦う上で、通常兵装すら必要ないって判断されたってことか。……もっと、強くならなきゃな。
「箒、セシリア。早くアリーナに行こう」
ふたりとも俺の思ったことがわかったのか、しっかりと頷いて、IS用射撃訓練場を後にした。いつか、絶対にブルックスさんに、あの6機のアサルトライフルを使わせてみせる。そのためにはまず、練習だ。
**********
織斑達に、キャンティの主力武装を用いての射撃訓練を見られてからしばらく。もう桜も散ってしまい、折角綺麗だったのにもったいないと思いつつ、今日も今日とてISの授業を受ける。俺が知ってることばかりだけどな。
IS「リリー・キャンティ」の主力武装であり、通常兵装の58口径離接アサルトライフル6機≪
ちなみにこいつの制御は俺の専属整備士が作ったシステムで行ってるから、イメージ・インターフェースを用いた第三世代型兵装とはちょっと違う。第三世代型兵装は既に≪リリーズ・ララバイ≫があるからな。エネルギー効率なんてあいつの手にかかればあってないようなもんだろうけど、イメージ・インターフェースよりこっちのシステムの方が使い勝手いいんだから仕方ない。なんで知ってるかって? イギリスがビット開発してる時に俺がテストパイロットしたからだよ。あとビットの使い心地が気に入ればイギリスの国家代表にならないかって誘われた。どんな勧誘方法だよ。断ったけど。
「遅いぞ織斑。熟練したIS操縦者は1秒とかからんぞ。このようにな」
今日はISの動きを実際にナマで見る授業だそうだ。ま、中にはナマでISを見たことがほとんどないって生徒もいるんだろうし。しかし、桜が散った様子もなかなか風情があるよな。来るまで実は渋ってたんだが、来てみると、割と日本はいい国だ。香港に比べて寒いってのが難点だけど。ぼうっと空を眺めていると、ドウッと重い音がして、IS用のショットガンが俺に向かって火を噴いたことに気付く。あー盾出すとめんどくせえからキャンティでいいよな。
-IS「リリー・キャンティ」 待機モード から 戦闘モード に移行します
-システム兵器≪リリーズ・ララバイ≫作動
-主力兵装 58口径離接アサルトライフル6機≪
-システム≪TS≫作動 ≪
-システム≪ALS≫作動 ≪
ショットガンの弾をきっちりと≪リリーズ・ララバイ≫は受け止める。……っておい。千冬さんが俺に向かって撃ってきたわけだけど……もう、生身でなんでIS用のショットガンが使えるのかはどうでもいい。こんな至近距離で撃つやつがあるか。確かに基本的には外れないだろうけど、俺がよければ後ろにいる女子生徒はほぼ確実に死ぬし、俺の展開が遅れたら逆に俺が死ぬんだが。
「千冬さん、いくらなんでも生身の人間に向かってこんな至近距離で撃たないでよ」
「お前の展開速度は0.1秒を切るから問題ないだろう。そら、3人はさっさと飛べ」
問題大ありだからな。むしろ普通の機体じゃあ、展開できたとして、あんな至近距離で撃たれた時点でシールドエネルギーが一気に減るし。
「あ、千冬さん。私のコレ、飛べない。スラスターもブースターもついてないし。浮くことはできても飛ぶなんてとんでもない。タンポポの綿毛に根付くところが決められないのと一緒」
「いい加減に織斑先生と呼ぶことを覚えろ、馬鹿者」
千冬さんはどこからともなくIS用の近接ブレードを持ち出して振り回した。……やっぱ人間じゃないな、初代ブリュンヒルデっていうのは。流石に俺にはできない芸当だ。ミカエルも体格は近いだろうけど、完全に近接格闘を武器として戦ってきた千冬さんとは筋力すら比べものになんないだろうし。
「ふう。織斑、オルコット。お前らは先に飛べ。山田先生、こんなこともあろうかと思って用意した打鉄を」
「はい。ブルックスさん、これを装着しての実演をお願いします」
千冬さんの言葉を聞いて、オルコットはすぐに飛翔した。ていうか待て。なんで「打鉄」が出てくる。さっきから出てきてた近接ブレードとショットガンはもしかしてここからか。まったく、面倒臭い。しかしやらないと後々また面倒臭い。ああ、面倒臭い。趣ある日本に来れたのはよかったが、面倒臭いことばかりだ。しかも女の園だし。
「せめてラファールがよかった。「打鉄」はブースターついてないし。どうせなら時速5000キロクラスのブースター搭載したようなのがよかったけど」
「文句を言うんじゃない。大体、訓練機にそんな気の違ったようなブースターがついているISが学園にあるわけがないだろう。そんなもの、元代表候補生の教師陣とはいえ、普通の人間には乗れん」
千冬さんいわく、俺は普通の人間じゃないそうだ。人間やめてるんじゃないかってレベルの千冬さんには言われたくないが。ちなみに陸軍出身ではあるが、対Gの訓練をしっかり積んできているから、常人よりそういう面では丈夫だ。俺はキャンティを解除しながら、唇を尖らせた。そして山田先生が差し出す打鉄を身に纏う。……うん、日本の武者鎧に似たデザインのISだから、妙に身に纏うって表現がしっくりくる。
「そら、飛べ。もうオルコットも織斑も遥か上だ」
めんどくさ。そう思いつつ、打鉄のスラスターを吹かす。それと同時にぐんぐんと高度を上げる打鉄。あっという間に、織斑やオルコットがいるところまで辿り着いた。その時、千冬さんが外部接続
「それでは、お先に失礼しますわね」
「織斑がオルコットに続いて。打鉄は遅い分、待たせるから」
「お、おうわかった。それじゃあ、セシリアが避けたら行くからな」
オルコットは代表候補生らしく、ちゃんと目標の10センチをクリアしたらしく、着地目標位置から避けた。そしてそれを確認した織斑が降りていく。スラスターの大きさと、今の日本のIS技術から考えるに、あれだけあれば、ステータス上では「ブルー・ティアーズ」よりスピード出るはずなんだがな、「白式」。それはまあ、操縦者の違いもあるか。だってまあ、急停止できずに地面にめり込んだぐらいだ、「白式」の操縦者は。まあ地面に着いたのは事実だし、俺も降りるとするか。打鉄のスカート状アーマーについてるのが、打鉄のスラスター。言ってしまえばそれだけしかないから、全然スピードが出ないんだけど。そもそも姿勢制御用だし。
心の中で文句を言いながら、急降下する。こんな小型スラスターだって、使い方ひとつで十分に使える。今の安定しない、
地上が近付き、視認で織斑が見えるようになる。そのままぐんぐんと加速して、地表がすぐそこまで迫る。その瞬間スラスターを逆噴射して垂直に降下する機体に逆向きの力を与え、すぐにスラスターを姿勢制御モードに戻す。ちなみに俺の場合は、専用機以外に乗る時は、PICがあんまり役に立たない。というのも、俺の専用機はPICの制御がマニュアル操作、つまり手動なのに対し、訓練機とかは大体オート操作だ。そんなのをどうやって使えと。俺の意識にリンクしてサポートぐらいはするかもしれないが、正直役に立たないな。専用機の方でも、PICは機動にはほとんど使わないし。機体制御にPIC使う暇があるなら、反動制御に使う。だからPICなんて浮遊する時ぐらいしか、訓練機では使いようがない。ISの画期的技術のうちのひとつなんだが、残念な話だな。
そしてスラスターの動きが完全に止まり、PICによる浮遊感のみだ。うん、「目標」の1センチ上、ぴったり。……ん?
「どうした、織斑」
「……死ぬかと思った……」
俺の足の1センチ下で地面に埋まってる目標、こと織斑が顔面を蒼白とさせていた。ISの操縦者保護機能があるのに顔面が青いのは、精神的なものだろう。じゃあいいか。
「地表から1センチが目標だ馬鹿者。地表からマイナス2センチでどうする」
「いや、
「地表だと何度言わせる」
千冬さんが、またショットガンをぶっ放した。打鉄にも肩に離接物理シールドがあるけど、壊れるとまた面倒臭いから、日本刀型近接ブレード≪葵≫を展開して弾を逸らす。あ、勿論逸らす方向は計算して、生徒の方にはいかないようにしてる。
「物理シールド壊れて怒るのは千冬さんなんだから、勘弁してよ……」
またぶっ放されないように、ショットガンは丁重に
「さ、流石アイリーンさんですわ……。それにしても、一夏さん。お顔が真っ青ですけど、大丈夫ですか? お怪我はなくて?」
まだ地面に埋まっている織斑をオルコットは起こした。織斑の顔面は未だ青いままだ。そんなに怖かったのか。実戦に出れないぞ、そのぐらいで怖がってたら。
「はあ、とりあえず次だ。織斑、武装を展開しろ。それぐらいは自在にできるようになっただろう」
起き上がって早々、織斑も大変なことだ。立ち上がってから正面に人がいないことを確認し、左手で右腕を握りしめて、しばらくすると≪雪片弐型≫が出現した。
「遅い。最低でも0.5秒で出せるようになれ。そのひとつしか武装がないなら、尚更だ。どの武装を使うか迷う必要もないのだからな。オルコット、武装を展開しろ」
オルコットが言われて左手を肩の高さまで横に上げる。瞬間、初弾エネルギーが
千冬さんから同じ旨のお叱りがオルコットにとんだ。それもそうか。
「ブルックス、機体を展開しろ」
-IS「リリー・キャンティ」 待機モード から 戦闘モード に移行します
-主力兵装 58口径離接アサルトライフル6機≪
-システム≪TS≫作動 ≪
-システム≪ALS≫作動 ≪
いきなり俺に話を振るなよ。言われた通りにキャンティを展開する。特に必要もないから、武装はいつも通り、初期設定通りの≪
「武装を展開しろ」
どれ展開するべきか。まあ≪クロカシア≫でいいか。俺割とこいつ好きなんだよな。この大きさには浪漫があると思う。
-68口径スナイパーライフル≪クロカシア≫展開 1マガジンをロードします
-システム≪ALS≫作動 ≪クロカシア≫とリンクします
ちなみにお気付きかもしれないが、俺の武装にセーフティなんてものはない。製作者曰く「誤射なんてしないでしょ」だそうだ。うんまあしないけどさ。セーフティを外すコンマ1秒の隙さえ許さない相手が敵だったらっていう状態を想定した機体だからな。軍用ってのはそういうことだ。大体、IS運用規定の中に、「競技用ISの銃火器にはセーフティをかけること」ってあるけど、あくまで競技用の話だし。
「展開速度、フォーム、状態までパーフェクトだ。流石国家代表だな」
右手に握られた≪クロカシア≫は5メートルの長さを持つ。ちなみに右手に展開してるのは、左手には装甲がないから、誘爆狙いでライフルごと狙われると厄介だからだ。一応≪リリーズ・ララバイ≫が作動してれば問題はないんだけど、相当エネルギーを喰う。その点、装甲があった方がまだエネルギーの消耗を抑えられるってわけ。
「オルコット、近接武装を展開しろ」
「は、はいっ」
オルコットは千冬さんの話を聞いていなかったのか、千冬さんの声に動揺を見せた。左手にある≪スターライトmkⅢ≫を
「ブルックスも近接武装を出せ」
右手のスナイパーライフルはそのままに、左手に近接ブレード≪ニードル≫を展開する。……おい。オルコット、まだか。いや俺と比べたら遅いに決まってるんだが、それでもこれは酷い。半ば自棄になって荒げた声でインターセプター、と武装の名を呼ぶと、やっと武器が展開される。
「オルコット、代表候補生なら、自機の武装ぐらいすぐに出せるようになれ。私はざっと8つぐらいの武装を積んでる上に、「ブルー・ティアーズ」と同じ中・遠距離射撃型だからな」
その時、俺の言葉にクラスメイトがざわつく。おっと、口が滑ってしまった。大体、どのISも武装は3~4ぐらいだ。理由は、たくさん積んでても、
「うう、返す言葉もございませんわ……」
「スラスターがついてないこの機体といえども、あんなに時間をかけてたら余裕で一撃入れれるから」
「ブルックスの言うとおりだな。実戦でも相手に待ってもらわねばならんのはなんとかしろ」
その時、チャイムが鳴った。これが今日の最後の授業だったから、これで放課だ。さて、今日はクラス対抗戦に向けて生徒会だったかな。面倒臭い。
初めて10000字超えました(笑)分けることも考えましたが、まあ分けると5000字なのでこのままで。