いよいよ当日だ。
昨日もいつも通り眠れたし、機体の調子も万全。今日までにペアを組めなかったやつらのペアも組めたとデーレンダールが報告を受け取ったらしい。トーナメントは俺がこれから開会セレモニーで見世物になってる間に手動作成だ。
「あーちゃん、もうすぐだって」
「了解」
本音がAピットのカタパルトデッキのすぐそばに立っている。そこは強化ガラスよりも更に丈夫なガラスがはめ込んであって、ナマで第3アリーナでの戦闘を見られるようになっている。ピットゲートの開閉が本音の仕事であり、その強化ガラスの近くに開閉ボタンがあるので、仕事上本音は俺の見世物をリアルタイムモニターで見るよりこの窓から見た方がわかりやすい。
今は生徒会長挨拶で更識がアリーナのど真ん中に立っている。IS学園が誇る第3アリーナの大きさと比べると、あの更識でさえ小さく見える。……なんて、ガラでもないことを考えるぐらいには、俺も緊張してるんだろうか。香港のダイヤモンドだなんて異名を賜る俺も、結局人の子ってことだな。
更識の挨拶が終わったので、実況係が俺の見世物の為の準備を始める。一番大きいものは更識の挨拶の間も出してあったが、こまごまとしたものは更識が退却する間に並べるそうだ。ものによっては中央に置いたりするものもあるからな。
「アイリーンちゃん? 後は私の実況通りにヨロシク」
「わかった」
ISのプライベートチャネルで更識の声が飛んできた。開会セレモニーは司会が虚さんなのだが、俺の見世物の間の実況は更識が担当することになっている。
『みなさま、お待たせ致しました! 毎年恒例、生徒会によるパフォーマンスをお楽しみください!!』
更識の声がアリーナ中に響き渡る。これをナマで見ているのは生徒会とゲストと警備のためにアリーナ内にいる教師達だけだ。生徒達は既に更衣室で自分の出番を、トーナメントの発表を待っているついでに、更衣室のリアルタイムモニターで俺を見ていることだろう。
「がんばって、あーちゃん」
「ん、行ってくる」
既に起動させていたIS「ヴァイオレット・キャンディ」のバイザー型ハイパーセンサーを着用し、本音が開いてくれたピットゲートから、盛大な拍手で溢れ返るアリーナ内部まで飛ぶ。
『今回のパフォーマーは、IS学園生徒会が誇る実力の持ち主! 生徒会実働部隊隊長です!』
紫色のバイザー型ハイパーセンサーがものの見事に俺の顔を隠してはいるが、流石にモンド・グロッソに出た時と同じ格好をしてるわけだから、会場が一気にどよめく。しかしそれを黙らせたのは、ジャキッとかガコッとかいう大きな音を立てて砲門を開いた大砲やミサイルの類である。
『彼女を襲うのは、5731発のミサイルと、8329発の砲弾です! なんとそんな中で彼女は、攻撃を全て無効化し、アリーナに設置された的を全て打ち抜いてみせます!!』
そう。今年の見世物は、ミサイルや大砲の迎撃をしながらの射撃だ。わざわざこの為にアリーナのシールドの形状を変えてもらい、ドーム状シールドモードからドーナツ状シールドモードになった。そうしないとミサイル使えねーもん。更識の時もこれはやったらしいから、すんなりとできたけど。なお的はホログラムによるもので、実体ではない。これは普通に射撃訓練場にあるものを使ってる。アリーナの電光掲示板にはミサイルや大砲の種類がずらーっと並べて書いてあり、残弾数が表示される。あと俺が命中させた数も。
『それでは開始5秒前! 4、3、2、1……スタート!!』
更識の合図と共に、全ての砲門が俺にロックをかける。ISは基礎性能として、敵機にロックオンされると警告されるようになっている。ミカエル曰くオープンチャネルと同じ回線を使ってロックオン情報を取得しているらしいが、こんな一斉にロックされると警告アラームがうるさいんだよな。あらかじめ警告アラームだけを外しておいてよかった。さっきからハイパーセンサーの履歴にはロックされていますの文字しかない。
-IS「ヴァイオレット・キャンディ」 準戦闘モード から 戦闘モード に移行します
-離接アサルトライフル≪レイン・ドロップ≫展開
-物理シールド≪ディープ・ミラー≫展開
-近接ブレード≪時雨≫展開
-システム≪RTS≫作動 ≪レイン・ドロップ≫とリンクします
-システム≪ALS≫作動 ≪レイン・ドロップ≫とリンクします
ちなみに今日この日まで、放課後に練習をしていたわけだが、毎回すべての射出タイミングは違うし、ミサイルの軌道も違うから、まあほぼ初めてぐらいの状態だな。しかも練習の大半が「いかに顔を生徒に晒さずにできるか」に重きを置いたものだったからな。顔を見せない練習とか、まるでモデルウォークの練習でもしてる気分だった。
ちなみに対IS用のISに搭載する兵器なんだよ、今俺をロックオンしてる兵器って。てゆーかそうじゃないと俺のこの盾の意味がない。こいつの防御力は盾本来のものと、イメージ・インターフェースによるものが融合してるから、ただでさえ堅いのに。むしろこいつに歯向かえるのは、≪雷鳴≫と、せいぜい≪トゥオノ≫ぐらいじゃないかな。
発射されたミサイルの弾頭を近接ブレード≪時雨≫で切り落としながら、キャンディの主力兵装≪レイン・ドロップ≫のDrop01、Drop02で的を的確に撃ち抜きながら、Drop03で砲弾を撃ち落とす。まだ一発たりとも喰らってないから、キャンディの消費したエネルギーはこの巨大かつ4対あるウィングスラスターによるものと、≪レイン・ドロップ≫を制御・給弾するためのシステム≪RTS≫、≪ALS≫によるものだけだ。消費なんて大仰な言い方したらダメなぐらい、エネルギー減ってないけどな。今のところ開始後1分でエネルギー消費1だから。
『ハイパーセンサーを完全に自分の感覚器官として扱っています!! 上下左右前後、どの角度からの攻撃も、視線のひとつも遣らずに的確に無力化しています!! 現在被弾率0%、的への命中率100%、そして攻撃無効化率67%です!』
更識の実況がアリーナに響き渡る。そーか残り33%か。てか配分ミスったかな、まだ的が半分ぐらいにしか減ってねーよ。もう盾いらねーよな。さっさと終わらせてしまえ。
-物理シールド≪ディープ・ミラー≫収納
-アサルトライフル≪キャンディ・ドロップ≫展開
-システム≪ALS≫ ≪キャンディ・ドロップ≫とリンクします
『おっと、ここで物理シールドを収納し、アサルトライフルを展開! 一気に決着をつけるようです!』
左手に≪時雨≫、右手に≪キャンディ・ドロップ≫を持ち、アサルトライフル4機全てで的を狙い撃ちながら、近接ブレードでミサイルを落とす。この攻撃は裏方で何名かの教員が「ラファール・リヴァイヴ」に乗り、管制しているはずなんだが、一向に砲撃が来ず、さっきからミサイルの山だ。……もしかして、もうあれを撃ち切ったとか言わねーだろうな。開始直後に砲撃の山だったから撃ち落とすのにDrop02も途中導入したぐらいになってたから、有り得なくはないのか。バランスってもんを考えてくれ、バランスってもんを。もしかして奇襲のつもりだったんだろうか。
『ラストスパート、残りミサイル28発、標的37箇所です! みなさま、最後の瞬間をお見逃しなきよう!!』
残り28。≪レイン・ドロップ≫の3機が的を狙い撃ち、≪時雨≫と≪キャンディ・ドロップ≫で迎撃。その時ハイパーセンサーが敵機のリボルバーカノンが次弾装填、ロックオンしたことを警告する。なんだ、やっぱ奇襲だったのか。そいつが撃ち出される瞬間、的命中率は100%になり、無効化率も99.99%になった。俺はきっと最後の一発であろうそれに、背を向けたままだった。
ハイパーセンサーで、観客が十人十色の顔をしたのが見えた。俺が最後に一撃喰らうことを察し、俺も万能ではないと喜ぶもの。素直に、俺の強さを認めていただけに、詰めが甘いことを残念がるもの。落胆するもの。呆れるもの。フン、誰が最後に喰らうって?
-物理シールド≪ディープ・ミラー≫展開
背を向けたまま、俺の背後をきっちり狙って撃たれたそれを、≪ディープ・ミラー≫はしっかりと防いだ。勿論、≪ディープ・ミラー≫本体に傷どころか、ホコリすらついてない。
『終了ーーーー!!!』
更識の高らかな声と共に、ビーッとブザーが鳴った。やっぱあれが最後の一撃だったのか。あんなに最初に砲撃固めたら、普通気付くだろ。もうちょっと自然にやれよな。俺は内心ぶつくさ言いつつ、礼をしてAピットまで飛んだ。この間に、トーナメント表も完成してるだろうし、すぐにそれが発表されて、第一試合に入る。んー、面倒臭いから第一試合じゃないといいけど。
**********
「ふう……やっぱすごいね、ブルックスさんは」
「ああ、ほんとにすごいな。……は?」
第1学年の学年別トーナメントに使用されるアリーナの第1更衣室。他の女子生徒が第2から第4までの更衣室にすし詰めになっている中、学園で唯一(仮)だった男と二番目の男性操縦者(偽)は更衣室を1室、ふたりで悠々と使っていた。勿論そこのリアルタイムモニターにも、先程の開会セレモニーは映し出されていたわけで、トーナメント表の完成を待っていたふたりは何をするあてもなかったので、そのモニターを肩を並べて見ていたのである。
それを見てのシャルルの反応と一夏の反応は似て非なるもので、シャルルの言葉に驚いた一夏にシャルルが驚いていた。言葉にすると紛らわしい。
「え?」
「シャルル、もう一回言ってくれ」
「えーっと、”やっぱりすごいね”?」
シャルルが首を傾げると、一夏は全力で首を横に振った。そしてシャルルはもう一度思い出し、さっきの言葉を反復する。
「その後だ、後!」
「ああ、”やっぱりすごいね、ブルックスさん”」
漫画で言うなら、体に落雷のような衝撃を受けた一夏であった。
「え? ブルックスさん? あの紫のISが?」
「うん、そうだよ? ミカエル先生がフランスに開発援助で来たときに、リヴァイヴの機動テストのために、模擬戦をしてくれたことがあるんだ。あのISはブルックスさんで間違いないよ。何より……」
「何より?」
ごくり。一夏は固唾を飲んでシャルルの次の言葉を待った。
「ブルックスさんは過去2回モンド・グロッソに出場してるけど、そのどっちもあの紫のISで出てたよ」
「ああ、そういえばブリュンヒルデだったんだよな」
一夏はうんうんと頷きつつも、どうしても腑に落ちないことがあった。
「でもさ、ブルックスさんは普段白いISに乗ってるんだよ」
「え? 白いIS?」
件のIS操縦者が駆るISについてである。先程モニターに映っていたまるでブドウ味の飴のような色をしたISはウィングスラスターと思わしき武装が4対、つまりは8枚も付いていた。
そしてあの圧倒的な機動力。純格闘型ISである「白式」と比べても何ら遜色がない、いやむしろ白式を超えると思われる機動性能が、あの白きIS「リリー・キャンティ」と同一とは思えない。装甲のカラー自体を変えることはそう難しくないらしいが、しかし「リリー・キャンティ」が搭載する第三世代兵器によるエネルギーシールドがあれば、紫のISが持っていたような巨大な物理シールドは必要がない。
「うーん、でもブルックスさんだからね。どんな機体に乗ろうと、理論値最高クラスの性能を叩き出す、IS操縦の名手だから、その白いISは香港の次のISの為のデータ取りのために持ってきてるのかも」
「そんなことまでできるのか。うーむ、ブルックスさんって一体何者なんだ……」
一夏が首をかしげた時、モニターにトーナメント表が映し出された。左から順に目を滑らせていく。織斑・デュノアペアはAブロック1回戦2試合目と、事前にクジを引いた瞬間から知っている。表の左端から見れば、自ずと見つかるはずだ。そう思って目を滑らせる途中で見つけた名前に、ふたりは目を見開いた。
-Aブロック1回戦1試合目 ボーデヴィッヒ・ブルックスペア対ベルナルドーネ・フェラーラペア。
一夏とシャルルは自分達の対戦相手そっちのけでそこに釘付けになった。ラウラとブルックスさんが、ペアを組んでいる?
確かに旧知の様子ではあったが、先週の様子だと仲がよさそうには見えない。じゃあクジでペアを決めたのか? ぐるぐると疑問が頭の中を渦巻く。そんな中、いち早く立ち直ったのはシャルルだった。今はそのことより、自分達のことが大事だと。1回戦を勝たなきゃ、ラウラとも対戦することはできないのだ。
「えーと、俺達の対戦相手は……新庄・湯浅ペアか。湯浅さんは1組だったよな?」
「うん、長い黒髪を三つ編みにしてて、眼鏡をかけてる子だよ」
「あー、あの子か」
-『それでは、各学年Aブロック1回戦1試合目を開始してください』
アリーナ中に響き渡ったその放送と同時に、モニターには戦闘の様子が映し出された。対峙する、黒白紅朱のIS。それを一夏がモニターで見つめようとしていると、再びアリーナ内に放送が入った。
-『Aブロック1回戦2試合目に出場する生徒は事前に指定されたピットへと移動してください』
Aブロック1回戦2試合目に出場する生徒。一夏とシャルルも該当する。指定されているピットはC。ふたりはISスーツを確認し、身に着けているISの待機形態であるアクセサリー(一夏の場合は防具)を確認し、更衣室を出た。
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「まさか、アイリーンちゃんと当たることになるなんてね。正直ビックリだよ」
「アイリーンとドイツの代表候補生が相手なら、不足はないね。正直事実上の決勝戦だし?」
俺とボーデヴィッヒと対峙するのは、イタリアコンビ、ベルナルドーネとフェラーラ。ふたりとも専用機を身に纏っている。おんなじテンペスタシリーズとはいえ、色が若干違うのはなんでだろうか。ベルナルドーネのテンペスタS01、機体名「アンジェロ」はどっちかっていうと朱色って感じの赤で、フェラーラの「テンペスタⅡF01」は深紅に近い赤だ。そういや「テンペスタⅡF01」にはあの≪トゥオノ≫が搭載されてるんだっけか。楽しみだ。
「ふん、イタリアの新人どもに私を倒せるか」
「ボーデヴィッヒ、口を慎め。千冬さんにチクるぞ」
そうそう、俺最近こいつの扱い方わかってきたわ。大抵のことは千冬さんにチクると言えば解決するんだよ。扱いやすくて何よりだ。
「まあまあ。アイリーンちゃん、あたし達気にしてないから」
「そうだね、アレッタの言うとおりだ。実力で黙らせればいいんだから」
ベルナルドーネとフェラーラが燃えてる。ISが赤いせいか余計に燃えて見える。なんつって。
『ボーデヴィッヒ、あいつらは幼少期から一緒らしいから、コンビネーションは間違いなく第1学年の中ではトップだ。油断するな』
『ふん、この私が油断などするものか』
……もう、この際油断しまくってる顔にしか見えないのは置いておこう。この話は平行線すぎる。それよりも、だ。どうやってこのコンビネーションを抑えるかが課題だな。ベストはフェラーラを先に潰すことだけど、ベルナルドーネの射撃技術だとそれは困難だろう。やっぱり、ベルナルドーネから行くか。
『ボーデヴィッヒはどっちとやりたい?』
『イタリアの最新鋭機に興味があるな』
そこでフェラーラと言えないボーデヴィッヒは、本当にフェラーラの名前を知らないのか、それともわざとそう呼んでるのか。俺的には後者に1票。いくらなんでも、大体代表候補生は他国の候補生の名前と顔ぐらい知ってるはずだからな。一部を除けば。
『じゃ、私がベルナルドーネいくから。くれぐれも邪魔はしないように』
『笑わせるな』
……しかし嫌な言い方だな。なんで俺、こいつと組んだんだっけ。……まあいいや、もうすぐ試合開始だ。
-『それでは、各学年Aブロック1回戦1試合目を開始してください』
ビーッとブザーが鳴る。よし、始めるか。
-IS「リリー・キャンティ」 準戦闘モード から 戦闘モード へ移行します
-システム兵器≪リリーズ・ララバイ≫作動
-主力兵装 58口径離接アサルトライフル6機≪
-主力兵装 57口径アサルトライフル2機≪ウィステリー≫展開 1マガジンをロードします
-20mm口径6砲身ガトリングガン≪アザリア≫展開 6000発をロードします
-システム≪TS≫作動 ≪枝垂れ柳≫≪ウィステリー≫とリンクします
-システム≪ALS≫作動 ≪枝垂れ柳≫≪ウィステリー≫≪アザリア≫とリンクします
両手にはガトリングガン、両肩と身体の周りには計8機のアサルトライフル。このアサルトライフルはアサルトライフルというよりは、オルコットの≪ブルー・ティアーズ≫に近い働きを持つ。特に離接の6機は全方向から撃てるという意味でも非常に近い。違うところと言えば、イメージ・インターフェースを使っているか否か、ぐらいだろう。
両手で弾幕を張るか近接ブレードを持ち、8機のアサルトライフルで狙撃と援護射撃を行う。これがキャンティの戦い方だ。システム≪TS≫によるロックオンは非常に正確で、正直なんで≪クロカシア≫を積んでるのかわからなくなるぐらいだ。まあ射程の問題を除けば、の話だが。
「へえ、アイリーンちゃん達はあくまで個人主義なんだ。それじゃ、あたし達には勝てないよ!」
フェラーラを前、ベルナルドーネを後ろに配置した縦のフォーメーションは、2対少数を想定したフォーメーションか。フェラーラがベルナルドーネの射撃技術を信頼してなきゃできないだろうな。後ろからの援護射撃は、失敗すると仲間まで撃ってしまうから。共に過ごした年月だけではなく、個々の能力によっても確立されている信頼関係か……更に崩すのは難しいな。
しかも射撃特化型モデルとはいえ、ベルナルドーネの「アンジェロ」も元々は近接格闘特化の機体なわけだし、劣化版キャンディみたいなもんだ。本来なら、俺とボーデヴィッヒが協力して先にフェラーラを落とすのがベスト……と考えるのが普通だが、あくまで俺とボーデヴィッヒは普通じゃない。
そもそも俺とボーデヴィッヒのペアはクジで決めたわけではないにしろ、急造であることに変わりはない。ボーデヴィッヒが、ISの基礎も知らない奴と組みたくない、と言って誘ってきたから、俺もそれに乗っただけだ。
俺もペアを組むような仲の生徒は生憎いないし、いたとしてもそいつらは先約済み。あと流石に基礎を知らない奴と組むのは面倒だっていうのはあったから、俺らの利害関係はぴったりと一致した。ボーデヴィッヒは他にも、ミカエルの技術の結晶体であるこの機体のデータをいくらか拾える可能性にもかけたんだろう。俺がそんなヘマするわけないけど、その姿勢は立派だな。
そういうわけで、俺とボーデヴィッヒは今日この試合が始まる時点まで、共闘したことなんてないのだ。そんな俺らが力を合わせようとしても、小さくまとまってしまうか、反発し合ってしまうかのどちらかだろう。そんなのではこいつらイタリアコンビや、一週間以上練習してきた織斑・デュノア組には苦戦すると踏んだ。だから、わざと力は合わせない。俺もボーデヴィッヒも、軍出身だからある程度の連携訓練はしてるが、逆に軍の特色が色濃く出てうまく噛みあわないなんてことはざらにある。だから合わせるだけ無駄だ。お互い1対多向きの機体なんだ、1対2と1対2でもいいだろ?
イタリアコンビはプラズマ手刀やワイヤーブレードを搭載するシュヴァルツェア・レーゲンを落とすことを最優先課題にしたのか、俺のことは意識はしてるけど、視線はボーデヴィッヒに向いている。つまんない。切りかかってくるフェラーラをAICとプラズマ手刀でいなし、後方から援護射撃を続けるベルナルドーネはリボルバーカノンで牽制しているボーデヴィッヒ。うん、流石軍事国家の秘蔵っ子だけはある、AIC以外は同時に操縦してる。ただまあ、いつかAICだけは遅れてると気付かれるだろう。それはまあ……ちょっと、困るんだよなあ。やるからには、圧勝するのがこの機体を作ってくれたミカエルへの恩返しだし。
『ボーデヴィッヒ、AICだけは意識を集中させないと使えないの、気付かれるなよ』
今のところうまくやってるけど、観察眼に優れたやつならあと5分でも戦闘してれば気付かれかねない。俺は優勝賞品の食堂スイーツフリーパスがほしいんだ。……というのも本音の一部だ。恥ずかしいから言わないけど。
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3日前に届いたばかりの、私の専用機「テンペスタⅡF01」。アレッタは「テンペスタS01」から「アンジェロ」に改名したけど、私は変える気はない。テンペスタⅡ型というイタリア発第三世代型ISの第1号機であり、イタリア産ISの絶対的条件である純格闘型を反映したファイティングモデルであることを示すこの名誉ある機体名を変える気になんてなれないから。
私がほんの5歳の時、世界にインフィニット・ストラトスというものが生まれた。
女性にしか扱えない最強の兵器であり、宇宙への進出を可能とするこの機械に、幼き日の私は強く焦がれた。
そして2年後に開催されたISの世界大会で、イタリアのISは格闘部門準優勝、総合部門準優勝の結果を残した。
私も、あのISに乗って、世界の舞台で戦いたい。世界の舞台で輝く、赤になりたい。そう強く願って、いろんな格闘技を習い始めた。
幸い私には才能があったのか、どんな競技も2年ほど習えば師範代クラスと戦えるまでになり、国内外問わずアマチュアの大会で何度も優勝した。それを聞きつけた政府が、私に代表候補生にならないかと話を持ちかけてきた。私の夢への第一歩だった。
ビーッ
第3回モンド・グロッソで初出場・3部門優勝・総合部門優勝の香港代表アイリーン・ブルックス。イタリア代表サラ・アメリアとも格闘部門決勝で争ったその戦乙女を今、目の前にしている。
アイリーンのお兄さん、ミカエル・ブルックスとイタリアが共同開発した近接武装≪トゥオノ≫が私にはある。「テンペスタⅡF01」の機動力と最高速度、そしてこの≪トゥオノ≫があれば、私に敗北の文字はない。悪いけど、勝たせてもらうよ、アイリーン。
~オリジナルキャラ紹介~
エリザ・フェラーラ
イタリア代表候補生。1年2組所属。
学年別トーナメントの3日前に届いた第三世代型IS「テンペスタⅡ」の一号機を乗りこなす、格闘技の天才。高身長かつ筋肉のしっかりとついた逞しい体付き。太い眉とサイドテールにされた茶髪が特徴。搭乗IS「テンペスタⅡF01」。