最強を目指す剣士の境界線   作:三代目盲打ちテイク

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『聖譜に記されていない初の世界大戦、見たいよね? 大罪武装を集める世界大戦、ぼぉく、見たいでえーす!』

「私もみたぁいでぇーす!」

「そんなことは、させません!!」

 

 元信と悠理が言った、その瞬間、男の声が響く。

 それと同時に力場が真っ直ぐに地脈統括炉へと飛来した。

 

「“悲嘆の怠惰(リピ・カタスリプシ)”の超過駆動!?」

『やれやれ先生がまだ話している途中なのに。本多君、何とかしなさい』

「よし、忠勝様、やっちゃって下さい」

「応!」

 

 忠勝は動いた。

 

「わりいな、ちょっと痛いが我慢しろよ」

「ッ!?」

 

 忠勝は蜻蛉切を伸縮機構を使い突き入れる。そして、瞬時に引き抜く。

 悠理の体が浮き、引っ張られる。

 急な動きに左手が緩み、蜻蛉切を抜き取る。

 そして、蜻蛉切を“悲嘆の怠惰”の収束しようとしている超過駆動へと向けた。

 

「結び割れ、蜻蛉切!!」

 

 割断が走り、“悲嘆の怠惰”の超過駆動によって発生した掻き毟りが消える。

 

 

 そうして現れるのは西無双立花・宗茂。

 彼の後ろでは、回収部隊と義腕の少女が、忠勝と鹿角が倒した部隊を回収していた。

 その少女は、宗茂に会釈し戻る時に、悠理を睨みつけていった。

 

「このような参上になり申し訳ありません。何分急いでいたので」

『なに、構わないよ。面白かったからね。それにまだ、少しとはいえ時間はある』

「Tes.」

 

 宗茂は戦場を確かめる。

 本多・忠勝、鹿角は健在。自分を拘束した宮本・悠理は、致命傷に近い重傷を負っている。

 負わせたのは、忠勝で間違いない。

 そうなると、悠理は忠勝と戦ったことになる。彼女が何を考えていたのかはわからないが、この場においては、敵ではないと考えて良いようだ。仮に敵だとしても、あの傷ならば脅威にはならない。

 そして、本多・忠勝。東国無双の名を冠する男。神格武装級であり、“悲嘆の怠惰”の試作兵装である蜻蛉切を持つ。

 実力は、東国無双の名に恥じぬものと聞く。それに“悲嘆の怠惰”の試作兵装蜻蛉切を持っているのだ、己自身が容易に御せる相手ではない。

 だが、蜻蛉切の側面、刃の基底部にある燃料系は、ほぼ空に近い。通常駆動もあと数回が限度であろう。

 だからこそ、

 

「投降をお願い致します。ここからならば、地脈炉が射程に入ります。ここから先は、言わなくてもわかるはずです」

 

 地脈炉をどれか一つでも破壊すれば、流体は逃げ場を得て、臨界は阻止され、三河は地図から消えずに済む。

 

「はぁーい、我わかりませぇーん」

 

 だというのに、本多・忠勝は、手を挙げてそう言う。

 

『ハイ、じゃあ、本多君、罰としてそこでバケツ持って立ってろ』

「どうぞ、忠勝様」

「鹿角は、何で、バケツ用意してんだよ!? 悠理は、何鉄塊入れようとしてんだよ!?」

 

 挙げ句、元信と鹿角、悠理まで加わってふざけ始めた。

 

「ふざけないでいただきたい!」

『ふざける? 何をふざけているというのかい立花・宗茂君?

 先生は、全くふざけていないよ』

「地脈炉を故意に暴走させ三河を消滅させようとし、さらに意味深な言葉を並べ立て世界大戦を起こそうとして、挙げ句、このような茶番を行っていることが、ふざけていないなら何なのですか!」

『言っただろう。末世を覆すと。大罪武装の全てを手に入れた者は、末世を左右出来る力を手に入れる』

「訳のわからないことを! それに大罪武装を配ったのは、貴方だ! そんな貴方が、六つの国を戦争に巻き込む気ですか!」

 

 宗茂が叫ぶ。そんな宗茂の様子に元信は、告げる。

 

『六つの国? 違うよ、違う。七つだよ』

 

 七つ!? と驚愕が広がる。

 

『そう、七つだ。

 七つの大罪。それなら、六つしかないのはおかしいだろう?』

「おかしくはないはずです! 大罪武装は、七つの大罪の基礎、八つの想念をモチーフにしているはず。それは、六つの国全てに分配されています」

『おやおや宗茂君。それは早計というものだよ?

 実は、その八つの想念にも原盤とも言えるものがあり、実は、九大罪だとしたら、どうする?』

 

 八つの想念が大罪として七つにまとまるとき、想念は、六つとなりて、“嫉妬(フトーノス)”が追加された。

 実は、八つの想念を論じたエウアグリオスは、書簡にて九つの悪について述べている。

 それが嫉妬。

 ならば、グレゴリウス一世はなぜ、嫉妬をあとから大罪に数えたのか。

 

『大罪には神世の時代の魔獣が当てられる。じゃあ、嫉妬に当てられたのは何でしょうか』

 

 表示枠が開き、教皇衣の男教皇総長インノケンティウスが叫ぶ。

 

『嫉妬に当てられたら魔獣は、全竜(レヴァイアサン)だ!』

 

 全竜。全ての化け物の様相を持つ竜。

 

『つまり貴様はこう言いたいわけだな! 嫉妬の大罪こそが、全ての大罪をまとめた最高の悪徳なのだと!』

 

 インノケンティウスの叫びに、元信はそうそう、と頷く。

 曰わく、全ての大罪は、何かを妬み、何かになりたいという願いの行き過ぎと反動によるものであると。

 

『ならば! その嫉妬は、どこにある!』

『全竜は、既に存在している。大罪武装の材料、それが人間って噂、知ってるよね?』

 

 元信が最大級の爆弾を落とす。

 

『それ、本当だよ』

 

 大罪武装は人間の感情を部品としている。その人間とは、ホライゾン・アリアダスト。現在は、自動人形P-01sとして、武蔵で生活していると。

 

『自動人形P-01s、その子の魂が、“嫉妬”の大罪武装“焦がれの全域(オロス・フトーノス)”そのものだよ』

 

 

 武蔵では、葵・トーリが駆けだしていた。

 目指すは、ただ己の後悔を宿す者の下。

 

 

「馬鹿な!」

 

 宗茂は吠えた。

 

「何故、このようなことを! 全てを犠牲にしてまで、やる価値があると思ったのですか!」

 

 問う宗茂であったが、彼の中では、とうに答えは出ていた。

 あったのだ。元信には、松平四天王の三人には、あったのだ。やる価値が。

 元信は、それを教材と称した。そしてのたまうた世界大戦をみたいと。

 ならば、立花・宗茂がやるべきことはなんだ。

 そんなことは、わかりきっていた。

 こんな馬鹿げた茶番の幕を引く。例え末世が避けられなくなろうとも、こんなことは間違っている。こんな授業内容は間違っている。

 だから、

 

「止めます!」

『いいぞ! いい答えだ! 君は“考えた結果”学級崩壊を起こすことにした。

 でも、いいのかい? 三河消滅が、末世を左右する為に必要なものだとしたら?』

 

 それなら、別の教材を作らせるだけだ。

 

『そっか。やれやれ、最近は先生が生徒殴ると先生が悪くなるんだよなあ。……だからおい、そこの副長共、ちょっとどうにかしなさい』

 

 直後、宗茂は風を感じる。それは、威圧の風。

 

「本多・忠勝、宮本・悠理……!!」

「おうよ」

「あいよ」

 

 槍を持つ武者と剣を持つ武者が、前に立つ。

 

「「止めるぜ学級崩壊!」」

 

 

 地を蹴る音がする。

 大気が避ける音がする。

 刃を打ちつける音がする。

 だが、それは悠理の耳には入って来ない。

 自分以外が、とてもスローだった。

 

「あはっ!」

 

 血の流し過ぎでハイになっているのを自覚した。

 

「あなたはっ! 何故、私の邪魔をするのですか!」

 

 そんな中、そんな問いかけが来る。

 ……何故、何故だっけ?

 自問自答。

 自分は、何故ここに来たのか。忠勝と鹿角を救うため? いや、違う。それは建て前。本当は自分の為だ。

 知っているのに何もしなかったと“後悔”したくないかったからだ。

 何だ、偉そうなことを言っておいて自分の為かよ。

 自分のことなのに呆れた。

 自己満足でしかないことに気が付いた。

 もっとやり方があったはずだ。もっと早く動けたはずだ。でも、自分はそうしなかった。

 ちょうど十年。区切りの年。もう、忘れるのにはちょうど良い。これまでかかったけれど、そろそろ本当の舞台に上がらないと。

 

「私が! そうしたいからだよ! 忠勝!」

「おう、何だ!」

「一撃でも当てたら私の勝ちでいいですか!!」

 

 十年前、ホライゾンを救えなかった。

 それが、後悔の始まりだった。

 おぼろげながらも、どうなるのかを知っていたのに、救うことを躊躇ってしまった。

 そうなれば、知っている未来と変わってしまうことに気が付いたから。

 だけど、死ぬほど後悔した。

 自分勝手な思いで、救えるはずの命を、見捨てたのだ。

 それも目の前で。

 後悔してもしきれない。

 だから、今回こそは、今回こそは救おう、そう思った。

 もう、後悔なんて苦しいことは嫌だった。それで、見たくもない、友達のふさぎ込む姿を見るのも、誰かが泣くのも、苦しい思いをするのも嫌だった。

 死ぬ定めにある、本多・忠勝と鹿角を、今回こそは救ってみせる。

 そう思ったからこそ、悠理はここにいる。

 

「できるならな!」

「Jud.、やってみせます!」

 

 歌と共に創作術式“輪廻”が起動する。

 繰り返す、繰り返す、繰り返す。

 八つを一つに、繰り返す。

 八つの八つを一つに、繰り返す。

 八つの八つの八つを一つに、繰り返す。

 繰り返し、繰り返し、繰り返し。

 歌にのせて思いを通す。通すための歌、通し道歌を。

 

 

「――通しかな!」

 

 何かが切れる音がした。

 だが、歌は途切れない。

 その程度で諦めるわけがない。もう後悔は十分だ。なら、その先に進むのは、これからだ。

 繰り返す。繰り返す。

 だけど、同じ過ちは繰り返さない。

 剣の山が宗茂を埋めた。

 

「忠勝様!」

「応! 結べ、蜻蛉切」

 

 剣の山に突き入れて割断する。

 

「やれやれ、無茶をすんなお前」

「Jud.」

「腕、大丈夫か?」

「Jud.、大丈夫、です。気持ちいいです」

 

 そうか、何て思っていると、剣の山から“悲嘆の怠惰”の仮想砲塔が伸びた。

 

「鹿角!」

「Jud.」

 

 鹿角が連続した重力制御で力場を逃がす。悲嘆の怠惰の掻き毟りが地脈炉を捉えることはなかった。

 悠理が剣の山を壊すと、悠理と同じように体に蜻蛉切を刺した宗茂がいた。気絶しているようだった。

 

「ふう、これで邪魔者はいなくなった」

 

 左手で刀を忠勝に向け、振り下ろす。

 

「続きを、忠勝さ、ま……」

 

 悠理の体がぐらつき、倒れかける。それを鹿角が支えた。

 

 

「勝負は、我の勝ちってことでいいな悠理?」

「大人げなさすぎですね忠勝様。それにいたいけな少女に傷を負わせるとは、どこまで駄目人間なのですか」

「仕方ねぇだろ。才能ないってのに、あんだけできんだから」

「Jud.、できるならば天下無双、成し遂げてもらいたいものです」

「だなあ。直接見れねえのが残念だが、まあ、向こうに来た時に、盛大に祝ってやるか」

 

 ふとそこに一人の少女がやってくる。宗茂を支える両義腕の少女だ。

 

「どちらが勝利を? 忠勝様」

「我の勝ちに決まってんじゃねえか。地脈炉は壊れてねえし、我はまだ動ける、し……ん」

 

 その時、額当てが落ち一筋の血が流れた。

 

「……ふう、全く、一撃貰ってたのか。我の負け、か」

「?」

「何、こっちの話だ」

「では、忠勝様達も避難を」

「しかしなあ」

 

 渋る忠勝に、元信の声が響く。

 

『いきなさい本多・忠勝。いくら君が落第ギリギリでも、約束だけは守らないといけないよ。

 何、先生のことは、心配はいらないさ。むしろ馬鹿がいなくなって楽だからね。見届けて来なさい。中退は、許さないからね』

「そりゃないぜ殿、ここまでやったってのによお。……だが、Jud.、見届けて来るぜ」

 

 少女は、宗茂と悠理を抱え上げ、走り出す。それに忠勝と鹿角が続く。

 背後で、元信の声が、響き渡った。

 

『これより、授業を始めます』

 

 次の瞬間、三河は消滅した。

 




ダっちゃん生存ルートです。感想、ご意見などなどお待ちしてます。

感想の指摘により、主人公の心理描写追加。これでいいのかわかりませんが、やるだけやってみました。

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