最強を目指す剣士の境界線   作:三代目盲打ちテイク

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「欠席は、ミリアムにミトにマサ、それにセージュンと東君、そして、悠理ね」

 

 あとは、机に突っ伏して動かないトーリ。とりあえず今は役に立たないので、放っておいて彼が起きるまでにいろいろと決めることにする。

 

「まあ、ぶっちゃけると、ホライゾンと武蔵がピンチなの」

 

 ハイディはそう言って始めた。

 武蔵は現在、消滅した三河の町の代わりに移譲して、武蔵住人は江戸の松平領へと移住されることになっている。ホライゾンは、極東が保有禁止である大罪武装の抽出、そして、三河消失の責任をとるという名目で自害が確定。自動人形であるため、それが最善と判断しているため、彼女にそれを覆す気はない。

 そして、武蔵アリアダスト教導院生徒会と総長連合は、副会長である正純を除いて、総長兼生徒会長のトーリ、会計のシロジロ、書記のネシンバラなどなどが全ての権限を武蔵王であるへたれトランプのキングヨシナオに預かられてしまっている。そのため、ホライゾンを救おうにも何もできず何も言えない状態なのである。

 唯一何か言える権限を持つ正純であるが、武蔵移譲と武蔵住人の移住を決めた、揉め事やめてな暫定議会の側についている。言わば敵となっている状態なのだ。演説能力の高い正純なので、かなり厄介な敵と言える。

 

「というわけで、私たちの方向性の確認をしようと思うの。え~っと、障害ありまくりだけど、そういうの無視でホライゾンを救ったり、武蔵の移譲を止めた方がいいって人ー」

 

 ハイディは手を挙げるが、予想に反して誰も手を挙げなかった。

 

「あれー、誰も手を挙げないの?」

 

 真っ先に挙げそうな二人は、一人は後ろで机に突っ伏している、もう一人は今はこの場にいないからいいとして、他にも何人か挙げると思っていたのだが、

 

「判断材料がない。それを先に言ったらどうだ」

 

 その答えはノリキが言った。正論である。

 

「そうね」

 

 とファッション雑誌を切り抜いている喜美が言うには、ほとんどの人が巻き込まないでくれの事なかれ主義に流れており、何の責任も自分にはないの逃げに入っている。そして、誰もが考えるベストは、ホライゾンなんてどうでもいいから、武蔵の移譲だけはやめてくれ。

 

「交渉の余地は、こっちの方がまだあるんじゃないの?」

 

 その問いにハイディはJud.、と答える。

 だが、しかし、ホライゾンは三河君主であった元信が持っていた全ての権利を相続してしまっている。それには当然、武蔵の所有権も含まれているのだ。そのホライゾンが自害したならば、その所有権および諸々の権利はどこへ行くのか。

 

「そんなの私に答えれると思ってるの!? ええと……空よ! 夕日の向こう!」

「無理に答えるなよ!」

 

 ツッコミのちハイディが言う。

 

「聖連だよ。嫡子がいなくなる以上、全部聖連預かりになるの」

 

 それはつまり、極東が完全に聖連のものになるということ。

 その事実に全員が言葉を失った。

 

「いい? 降りる、降りないは自由だよ」

「乗る、乗らないじゃないのね?」

「Jud.、だって、私たちは武蔵の住人だもの」

「ムシのいい話だろうけどさ、救いたい。このままでいたい。聖連との衝突を飲むか、飲まないかは人それぞれだとしても、それがないなら、誰だっておなじでしょ」

 

 そう言ったのは、我らが副長宮本・悠理。どうして、ここにいるのか、帰ってくるの早すぎだろとか、そんな疑問が浮かぶが、皆一様に思った。そんなこと、どうでもいいかと。

 

「じゃあ、今のところの解らないこととかをちょっと確認しようか」

 

 まずは、欠席者の動向確認。

 東とミリアムは警護隊によって、“警護”されているため近づくことはできない。トーリたちが、昨夜の肝試しで保護した幽霊少女は、東になついて寮の部屋にいる。

 

「へえ、そんなことがあったんだ。まあ、東なら大丈夫でしょ。そこのロリコンと違って」

 

 ハート様系体格の簡単に言えばぽっちゃり系の御広敷・銀二に向けて悠理が言う。

 それに御広敷は心外だと声を発する。

 

「小生のこれは、ロリコンじゃありません! 聖譜記述に基づいて再現された欧州ではメジャーな“生命礼賛”イコール若い生命力を尊ぶ生命信仰の一種です」

「でも、前に、ロリコンはタッチすると犯罪だけど、生命礼賛のタッチは崇高な行為だからオケーとか言ってなかったけ」

 

 全員の御広敷を見る目が、あまり変わりませんでした。どうせ、最初からここには外道しかいません。

 そんな御広敷は無視して話は進む。

 次は正純。これが一番厄介なのだ。正純が権限を持っているせいで、臨時生徒総会が開けない。

 臨時生徒総会とは、権限者がいないときに開ける生徒総会だ。それが開ければ、その結果が暫定権限を持つ。

 ついで直政。武蔵の機関部会に出ているため欠席。

 ミトツダイラは、武蔵野で行われている館内土地所有者の領主部会に学生代表として出ている。こちらも厄介である。ホライゾンが自害すると、当然、松平家がなくなってしまう。そうすると不味いため、分家である、水戸の松平家が本家に転化する。つまり、ミトツダイラ家が聖連支配下になった極東の主となるのだ。

 それが分かった途端、みんながひそひそと昔ミトツダイラに行った不祥事ともいえないことを話し始める。

 

「昔、ミトツダイラ・ネイトだからって、ミトネイト、ミトナットーとかからかったよな」

「あれは本人が速記体をしくったからだ」

「やっべー根に持ってたらどうしよー……、納豆みたいに藁巻きで、ミノ踊りかなやっぱり」

「私なんて、それどころじゃないよ。昔強そうだからって理由で初対面なのに辻斬り並みに奇襲しちゃって、ボコボコにして簀巻きにして、檸檬樽の真上に吊っちゃったことあるよ。やべー、私どうしよー」

「……皆どうして級友のことを猜疑できるかな」

 

 ハイディの言葉で皆が囁くのを止める。

 

「でも、ミトとは話さないといけないね。気化してるけど、騎士身分は失ってないから」

「武装所有許可をもってるで御座るな」

「それだけの実力もあるしねー。強いもんねー」

「悠理殿が言っても嫌味に聞こえるで御座るよ」

「なんでー?」

 

 みんながうーんと腕を組む。

 

「味方になれば強いけど、敵に回るとやりにくいよな」

「ああ、やっぱナットーとか言わなきゃよかった」

「簀巻きにして吊るすんじゃなかった」

「……だから、どうして皆そんなに級友にたいしてマズ後ろめたいことばかりなのかな」

 

 まあ、ともかく味方になってくれるように尽力するしかない。で、そろそろ。

 

「シロ君、良い?」

 

 現状は、武蔵とホライゾンがピンチ。だけど、武蔵勢は権限奪われて足並みそろってない。聖連に従えば、自動的に極東は聖連のものになる。しかし、逆らうと楽しい楽しい戦争のお時間に突入。

 

「シロジロー、あんた乗り気じゃないね」

「当たり前だ、そこの就労者ではないぞ。私は」

「いや、ノリキじゃないから、乗り気だから」

「ああ、乗り気じゃない。忙しいからな、仕事で」

「ですよねー。でも、ビッグビジネスのチャンスだって言ったら、どうする?」

 

 姿勢を正すシロジロ。なんてわかりやすいんだ。あともう一声だろう。

 

「私のコスプレ写真の流通の独占権をやる。ヌードも許可する!」

 

 その宣言に、おお、と男子勢から声があがる。

 悠理の趣味、各国教導院の制服を着ること。

 つまりコスプレ。このコスプレ写真は外に出回らず、出回ればかなりの高値でその筋で取引されるという伝説の写真。

 シロジロは前々から狙っていた。ちなみに盗撮なぞしようものなら、問答無用で殺される。

 

「――ビッグビジネスだな。良い響きだ。うむ、金か、金だな。いようし、思考もスッキリだ。というわけで、これから、私の大好きな金の話をする」

「最悪だよ、お前!!」

 

 皆のそのツッコミをシロジロは無視する。

 

「今、私たちは、君主であるホライゾンの命と、武蔵を代価にして、自分たちの身の安全を聖連相手に買おうとしている。それが私にとっての現状だ」

「それは、わかってるから、もっとわかりやすく、てか、聖連に敵対した場合がどうなるか話してちょ」

「ふむ、まあ、良いだろう。お前たちにも、わかりやすいように聖連に敵対した場合どうなるか教えてやろう」

 

 聖連に敵対したらどうなるのか。

 まず、寄港地での補給が受けられなくなる。それは、食料自給率が、どっかの世界のどっかの島国と同じで10%をきる武蔵にとって致命的である。

 

「あれ、でも武蔵にも畑ってありませんでしたっけ? よく悠理さんが勝手に耕してるの見たことありますよ?」

 

 アデーレが疑問を述べる。それに答えたのは、まさかの御広敷だった。

 

「無理ですよ。武蔵の総人口は十万弱それを支えるには、武蔵の一艦を潰しても足りません。それに、それを管理する人員もいません」

「な、なんか負けた気が……」

 

 まあ、アデーレは色々と負けてるよね。色々と。

 

「そうだ、そして、武蔵の基本備蓄は二週間分しかない」

「それじゃ、終わりじゃ」

「あらそうかしら? そこの守銭奴、さっさと教えなさいよ」

「簡単なことだ。聖連に逆らいつつも、補給を受けられるように、本多・正純を引き込む」

 

 やだ、シロ君かっこいい、とハイディが、色々とトキメイている間に、バンっ! とオリオトライが入ってきた。

 

「はいはーい、授業を始めるわよ。今日は、みんなの苦手な作文。お題は私がしてほしいこと。っと、その前に、これを見ましょうか」

 

 神肖筐体(モニタ)のスイッチを入れた。鳥居型の表示枠が現れ、映像が映し出された。

 

 

 人の群れがそこにはあった。それも三つ。赤と、洋の黒、それと和の黒。大別して、その三つ。それぞれが三征西班牙、K.P.A.Italia、そして、三河警護隊。ここで行われるのは返還だ。そう、現行極東最強の戦力である武者 本多・忠勝。その槍神格武装“蜻蛉切”。そして、自動人形 鹿角。それらを返還する。

 

「おうおう、そうそうたる光景だじゃねえか、おい」

 

 忠勝がそんな言葉を漏らす。それにこたえるは鹿角。

 

「Jud.、このような相対、できれば見たくはありませんでした。というより、本来は見るべきではなかったのでしょうね」

「悠理のおかげちゃあ、おかげだな。しかし、よく我まで帰れたよな」

 

 三河消滅の際に行ったことを咎められるかと思ったが、それがなかったのだ。

 

「ああ、それは、忠勝様が暴れるだけ暴れたり、食うだけ食ったり自分勝手やらかしまくった挙句の果て、何も知らないことが明らかになったからじゃないでしょうか。ようは体のいい厄介払いですね」

「ま、いいじゃねえか。さてと、わかってるな」

「Jud.」

「悠理に言われた通り、我らが示すぞ。極東のこれからを」

「悠理様も大概人使いが荒いですね」

「ちげえねえ。わざわざ我らを救うまでしてなあ」

 

 さて、行くか、と忠勝は蜻蛉切を肩に担う。

 返還が始まる。

 前に出るは、三征西班牙第三特務立花・誾と、本多・忠勝の娘本多・二代。

 

「極東、三河圏新名古屋教導院所属特殊予備役 本多・忠勝様と、神格武装 蜻蛉切、 自動人形鹿角を返還いたします。どうぞ、前に」

「おう、世話になったな」

「Tes.、できれば武蔵副長にもよろしくお伝えください。今度は、全力を以てお相手するとも」

「Jud.Jud.、しっかり伝えといてやるよ」

 

 忠勝は二代に向けて歩く、それが半分ほどまで来た時だ。蜻蛉切を持つ手に力を込めた。

 

「結べ、蜻蛉切」

 

 その瞬間、動いた者が1人。立花・宗茂。彼は誾を抱くと背後へと跳んだ。凄まじい速度で。回避と同時に、先ほどまで誾が立っていた場所より数センチの距離、否、数ミリの距離に一閃が走る。

 蜻蛉切によって大地が割断された。

 その理由は。

 極東には、まだ、力があることを示す。抵抗する意思があることを示す。そして、それは示された。

 

「じゃ、また来るぜ。この極東にはまだ、諦めてねえ奴が残ってるからな。我ができるのはこれくらいだ」

 

 

 さて、何を書こうか。悠理は悩んでいた。作文が苦手な梅組連中と違い、悠理は作文は得意だ。自宅にはコスプレ衣装と共に自作小説まである。

 まあ、ちょっと内容がアレ、ヨゴレ系とか、ビーなんちゃらなので、公開したら後悔せざるえないようなものばかりであるので、絶対に外にはだせないが。

 それでも、この作文は難しかった。“私のして欲しいこと”。やりたいことではなくしてほしいこと。先ほどまで考えていたことと真逆なのだ。

 それでも悠理からすればそれは簡単なことのはずだった。考えることは得意分野だ。クラス連中が聞いたら怪しいと言われるだろうけど。

 

「っとと」

 

 考えなしに書いてたら、エロ小説ができていた。いかんいかんとなかなかのできのそれを脇に置いて新しく書き始める。

 私がして欲しいこと。

 

「やっぱり、これかな」

 

 もっと、私を罵って、踏みつけて。

 

「いや、違った違った。確かにしてほしいけど」

 

 そして、書いたのは一言だけ。

 

 “トーリがホライゾンと心から笑いあえる世界を作ってほしい”

 

 その一言を書いて、作文の時間は終了した。

 オリオトライが浅間の作文を読ませようとしたが、浅間は公開不可のものを書いたので苦し紛れの嘘で回避。

 

「じゃあ、悠理は? なんかいろいろと考えてたみたいだけど」

「OKです。読みますよ」

 

 脇に置いてあった原稿用紙を手に取る。

 

「彼の指が、そっと彼女の肌を撫でる。それにつられて、彼女の吐息が熱を帯びる。彼は、そのまま彼女の双丘を優しく掴み、その甘く売れた完熟の果実を口へ――」

「お前は、何書いとんじゃ!」

 

 全員のツッコミが飛ぶ。

 

「エロ小説!」

「誇らしげに言うな!」

 

 ツッコミその二。

 

「悠理、ちょっと、窓からバンジーしない?」

「しないです。すみません。真面目なの読みますから。

 “トーリがホライゾンと心から笑いあえる世界を作ってほしい”私がやってほしいことはこれです」

「あら、素直に書いたわね。でも、一言だけって、あんたね」

「まあ、私の気持ちをこの一言に込めました」

「いや、あんた明らかにエロの方に込めてたでしょう。原稿用紙十枚って相当よ」

「否定はしません」

「いや、否定しろよ!」

 

 ツッコミその三。

 

「悠理のが短かったから、次行きましょ。鈴、あなたのは読める?」

「……は、い。だ、大丈夫です」

 

 しかし、聴覚に頼る彼女は書けても読むことはできない。

 

「あ、の……誰か、代わ、り、に、お願いしま、す」

「じゃあ、浅間代わりに読んであげて」

「はい」

 

 浅間は原稿用紙を鈴から受け取り、読み始めた。

 それは、告白だった。

 どこまでも真っ直ぐな、悠理では到底出来そうもないほど真っ直ぐな、告白の言葉であった。

 ああ、やっぱり凄いなベルさんって、本当、敵わないな。

 悠理は呟いた。

 浅間の声に後押しされたように鈴は声を振り絞る。

 

「御願い! ホライゾンを助けて、トーリ君!」

 

 そして、その声は、届いた。

 

「おいおい、ベルさん。なめちゃいけねえ、もとより俺はそのつもりだぜ? 安心しろよ。葵・トーリは、ここにいるぜ」

 




感想、ご意見などなどお待ちしてます。

二代の出番がダっちゃん生存ルートなためかなりなくなっております。どこかで、活躍できるといいなあ。

誰かいい案あれば、よろしくお願いします。

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