最強を目指す剣士の境界線   作:三代目盲打ちテイク

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 空に流体の波を作り進む全長八キロメートルもある巨大な艦。八つの船が連結して一つの都市を成すそれは極東唯一の領土。“武蔵”。

 時間は早朝、日が昇って間もない時間。

 その広大とも言える武蔵を走る武蔵アリアダスト教導院の制服に身を包んだ者が一人。

 髪は、水に濡れた烏の羽のようにしっとりと艶のある濡れ羽色で、肩甲骨辺りまで伸ばしており紐で一つに束ねている。瞳は紫を帯びた黒色であり、意志の強い光を放っていた。

 顔立ちは極東人のそれであり、なかなかに端正であろうと思われる。

 身長はかなり高く、かなり線が細く見えるものの、その肉体は鍛え上げられた鋼のようであり、どこか一本の刀を思わせる。腰部のハードポイントには一メートルほどの長さの黒い重量感のある直方体の箱が添えられていた。

 そいつは軽快に走って行く。走りに淀みはなく乱れもない。初めてから十三年になる日課なので当たり前だ。

 

「おっ」

 

 視界が前を走る身長もとある部分()もその他色々と貧しい少女を視界に捉えた。

 しかも、結構な数の犬を引き連れている。端から見れば何とも楽しそうなほほえましい光景であるが、その速度は全く微笑ましくはない。

 まさしく俊足と言っても差し支えがないほどの速度である。日頃から脚力自慢と言っている少女なだけはある。

 足に力を入れて速度を上げる。犬を避けて少女の隣を併走した。

 

「おはよう、アデーレ」

 

 アデーレ・バルフェット。それが少女の名前だ。

 

「あっ、副長、おはようございます」

 

 副長。それが武蔵における役職。肩にある腕章がその証。

 “副長 宮本・悠理”

 それが、この者の名であった。

 

「相変わらずはやいですね」

 

 アデーレが悠理に言う。それは足の速さか、時間のことか。あるいは両方か。おそらくは足だろうと悠理は当たりをつけて答える。

 

「いっつも走ってれば速くもなる。でも、これじゃ足りない」

「最強、ですもんね副長が目指してるの」

「Jud.武人なら目指さなならんだろうて」

「そういうものですか」

「そういうもんです」

 

 そんな風に世間話をしながら二人はいつものように武蔵を三周する。そのあとクールダウンをしている時に悠理が切り出した。

 

「ふう、そうだアデーレ、今日は朝飯食いにくる?」

「えっ!?」

 

 その台詞を聞いた瞬間、ピシリという音をアデーレは聞いたような気がした。

 

「どうした?」

「い、いえ、何でもないです」

「そうかな? で、朝飯食いに来るか?」

「え、遠慮します」

 

 アデーレの脳内で思い出されるのは悠理が作った料理(劇物)の数々。それが本当に料理ができなくて生み出されるものならばまだどうにかしようもあるのだが、残念ながら悠理は料理が上手い。それもその道のプロ並みにだ。

 悠理は真面目にレシピ通り料理すればかなり上手い。いつだったかアデーレが行った食事処でバイトしていた悠理を見つけた時は覚悟したものだったが、実際は出て来た料理は普通であり、しかもかなりうまかった。この時、悠理が普通に真面目に常人の価値観で料理をすればまともなことがわかったのだ。

 ……それなのになんでいつも最強食(あんなもの)ばかり作るんでしょうか

 ただ、わかっていることは悠理がいつも作る料理は毒と変わらないってこと。

 

「そうか……」

 

 ……うぅ、そんな残念そうな顔しないで下さいよ。罪悪感で了承しそうになっちゃうじゃないですか。

 だが、断らなければアデーレの運命は死、とまではいかないが苦痛が与えられるのは確実。

 

「じゃあ、今度――」

「私もう行きますね!」

 

 もう形振り構わず逃げることにした。

 

「あんなに急いで何か急ぎの用事でもあったのかな。また、今度は暇なときに誘うか。そうだ、アデーレだけじゃなくて鈴とかも誘ってみるか。クラスのバカ共と違ってあいつらまともだし」

 

 遠ざかって行くアデーレを見ながら悠理はそんな風に呟いた。良い迷惑である。

 それから朝食を食らい腹ごなしの散歩も兼ねて多少遠回りしつつ武蔵アリアダスト教導院に向かっていると――。

 

「ん、今日も歌ってるのか」

「――通りませ――」

 

 ――悠理の耳が風に乗って響くある歌を捉えた。

 

「――通しかな」

 

 聞こえる歌声に合わせて悠理も口ずさむ。

 その歌の名前は、通し道歌。極東でメジャーな童謡であり、悠理が誰かの歌声を聞いたら、口ずさむ程度には好きな歌であった。

 

「今日も良い歌声をありがとう」

 

 歌声にお礼を言うと、返礼の代わりに連続する鐘の音が響く。時報の鐘の音だ。

 それに被さるように放送の声も響く。

 

『市民の皆様、準バハムート級航空都市艦・武蔵が、武蔵アリアダスト教導院の鐘で朝八時半をお知らせ致します。

 本艦は現在、サガルマータ回廊を抜けて南西へ航行、午後に主港である極東代表国三河へと入港致します。生活地域上空では情報遮断ステルス航行に入りますので、御協力御願い致します。

 ――以上。』

「やばっ、急がないと。遅刻したらリアルアマゾネスに何を言われるか。今日は学長にスライディングバック宙三回転半捻り土下座までして頼み込んだ三河行きがあるんだ。なるべく穏やかに過ごさないと」

 

 それを聞いた悠理は走る。目指すは中央後艦奥多摩の上。

 木造の、横に長い三階建ては前後に二棟の武蔵アリアダスト教導院。その門と校舎の間にある、校庭を渡る一本の橋である。

 そこには幾つもの人影がある。その中の一人の声が響く。

 

 

「よぅ――し」

 

 よく通る声が校舎側に向かって飛んだ。

 

「三年梅組集合――。いい?」

 

 門側に立つ一人の女。黒い軽装甲型ジャージで、白塗りの、金属を柄とした長剣を背負った女だ。

 彼女の目の前には黒と白の制服を着た若者達がいる。人であったり、人でなかったりする彼らに、女は笑みを浮かべで言った。

 

「では、――これより体育の授業を始めまーす」

 

 教師は、生徒たちに明らかに演技の口調で言う。

 

「さて、ルールは簡単です」

 

 その際顎をしゃくって、艦群の先を示す。

 

「いい? ――先生、これから品川の先にあるヤクザの事務所まで、ちょっとヤクザ殴りに全速力で走って行くから、全員ついてくるように。そっから先は実技ね」

 

 さて、あからさまな私怨入りまくりの私情満載の授業内容に、制服姿の群、生徒達の中から、え? という声があがった。

 当然ながら女教師はそれらを無視である。

 

「遅れたら早朝の教室掃除でもしてもらおっかな。

 ――ハイ返事は? Jud.?」

「――Jud.」

 

 返答、了解の意を示す言葉を、皆が返した。半ば無理矢理な気がするが。

 それと同時に手があがる。“会計 シロジロ・ベルトーニ”という腕章をちけた長身の男子だ。

 

「教師オリオトライ、――体育と品川のヤクザとどのような関係が。金ですか?」

「馬鹿ねえシロジロ、体育とは運動することよ? そして、殴ると運動になるのよね。

 そんな単純なこと知らなかったとしたら問題だわ」

 

 シロジロの袖を、横にいた女子が引っ張る。

 彼のパートナー“会計補佐 ハイディ・オーゲザヴァラー”という名札のロングヘアは笑顔のまま言う。

 

「ほらシロ君、先生、最近地上げに遭って最下層行きになって暴れて壁割って教員課にマジ叱られたから。

 ――つまり中盤以降は全部己のせいなんだけど初心を忘れず報復だと思うのよね」

「報復じゃないわよー。先生、ただ単に腹が立ったんで仕返すだけだから」

「同じだよ!!」

 

 皆が突っ込むが、オリオトライは涼しい顔である。

 背中の長剣を鞘ごと手にして脇に抱え、柄に指を添えてこう言った。

 

「で、休んでるの、誰かいる? ミリアム・ポークウと東は仕方ないとして」

「ナイちゃんが見る限り、セージュンとソーチョーがいないかなあ、あっ、あとミヤモーフクチョーも」

 

 黒三角帽の金髪少女、“第三特務 マルゴット・ナイト”が背にある金の六枚翼を揺らしながら口を開いた。

 

「いやいや、マルゴット、ここにいるぜ」

 

 いきなり聞こえた悠理の声にえっ、と皆驚く。いつの間にか悠理は生徒の群の真ん中にいた。さも当然のように。

 

「あら、悠理、重役出勤とは偉くなったじゃない。いっぺん素振りの的になってみる?」

「いやいや先生、素振りの的とか勘弁してください。てか、何で素振りに的がいるんすか」

「ほら、的があった方が本気になれるじゃない?」

「いや、聞かんで下さい。それより正純と総長ですよね」

 

 オリオトライが長剣を構えながらにじり寄るのを悠理は話を変えて防ぐ。

 オリオトライはチッと舌打ちするが、出席をとらなければならないので、仕方なく話を聞く。

 

「正純は小等部の講師のバイトで、小等部の教導院に行ってる。午後からは一緒に学長を送りに行くから自由出席。総長は、ほら、喜美が知ってる」

 

 その言葉に悠理の後ろに立つ茶色いウェーブヘアの少女が腕を組ながら笑みを作る。

 

「フフ、皆、うちの愚弟のトーリのことがそんなに聞きたい! 聞きたいわよね? だって、武蔵の総長兼生徒会長の動向だものね。フフ。――でも教えないわ!」

 

 ええっ? と皆が疑問の声を作る。

 

「だって、朝八時過ぎに私が起きたらもういなかったから」

「お前いつも迷惑なくらいハイテンションのくせに起きるの遅えよ!」

「それと悠理、私はベルフローレ・葵、断じて葵・喜美だなんて、青い黄身みたいな餌食って生まれたみたいな名前ではないわ」

「この前はジョセフィーヌじゃなかったっけ?」

「あれは三件隣の中村さんが飼い犬に同じ名前をつけたから無しよ!」

「ああ、あの人、勧めた通りに名前つけたんだ」

 

 三日間ほど前に中村さんに犬に付ける名前を聞かれたので、咄嗟に思い浮かんだ喜美の名前を悠理は答えたわけだ。

 

「フフ、まさか、あんたが原因だったなんて。ああ、そうなの。つまりあんたは、私をあの獣と同じように首輪つけて全裸で調教したいってわけね。なかなかにいい趣味だわ!

 ノーマルだノーマルだって散々言い放ってたけどあんたもこっち側だったってわけね素敵!」

 

 えぇ、と主に女性陣からひいた声があがり、男性陣からはおお、というような感心の視線が悠理に降り注いだ。

 

「いや、違うから!」

「はいはーい、私語は慎むよーに。

 じゃあ、トーリは遅刻かな。――生徒会長で総長なのにコレはいかんねー。まあ、武蔵の総長はあんましっかりしてるとヤバイしね。……訳ありだし」

 

 訳あり。

 武蔵の眼下にある神州の大地は元々極東の領土であった。しかし、現在は各国に暫定支配されている上に神州の直轄領土はこの武蔵だけになっているのだ。

 原因は約百六十年前。“重奏世界崩壊”によって重奏世界から落ちてきたもう一つの神州と虫食い状態で合体したことにある。

 その後色々あって神州は極東に名を変えられた。そして、各国代表は学生に姿を変えて暫定支配。

 そして、武蔵の教導院では、総長は最も能力のない者が選ばれる。それが葵・トーリ。“不可能男(インポッシブル)”である。

 

「でも、そんなことをする理由としては、“それが極東が平和であるという事実を証明するものである”だよね」

 

 そんなことを眼鏡を掛けた少年“書記 ネシンバラ・トゥーサン”が言う。

 学生は特権階級。極東で良く言われる言葉だ。理由は学生のみしか軍事や政治に関われないからだ。各国の学生は上限年齢が無制限に対し極東は十八で卒業。そこから先は政治も軍事もできない。

 だが、それを悠理は右から左に聞き流していた。そんなことには興味がない。明日のことなど誰もわからないのだから。そんなことよりも今を生きなければならない。

 ネシンバラの発言のあとオリオトライは問いかける。

 

「そんな感じに面倒で押さえ込まれたこの国だけど、君らこれからどうしたいか解ってる?」

 

 その言葉に皆は沈黙で返した。ただ、一人を除いて。

 

「先生。そんなことよりもさっさと始めよう」

 

 悠理である。いい話が台無しである。

 

「うん、君は一度死ねばいいと思うわ」

 

 まあ、いいか、と頷いた上で女教師は僅かに身を低くする。それに悠理を始めとした幾人かが瞬間的に反応を示す。

 

「いいねえ、戦闘系技能を持ってるなら、今ので“来”ないとね。

 ルールは簡単、事務所にたどり着くまでに先生に攻撃を当てることができたら、出席点を五点プラス。意味わかる? ――五回サボれるの」

「五回、サボれるか」

 

 オリオトライの言葉にみんなが皮算用を始める。その中で、はい、と手を“第一特務 点蔵・クロスユナイト”という帽子を目深にかぶったままの少年と、その横にいる航空系半竜の“第二特務 キヨナリ・ウルキアガ”が挙げる。

 

「何?」

「先生、攻撃を“通す”ではなく、“当てる”でいいので御座るな?」

「おうおう戦闘系は細かいわねぇ。――別にそれでいいわよ。手段も問わないわ」

 

 その言葉に目聡く反応するウルキアガ。

 

「聞いたか? 女教師が何したっていいと申しましたぞ点蔵。拙僧、想像力使用してもいいか?」

「Jud.。しかと聞いた。しかし、あの女教師、オゲ殿のさっきの話以外にも、先日酒場で尻を触られ“そうになった”とかで居住区画の床抜く暴動を一人で起こしたで御座るよ」

「フッ、点蔵、現実を前にしても想像力は無敵だ。忍の貴公がそんなことにも気づかぬとはな」

 

 点蔵はその言葉に納得し、露骨に表情を変える。

 

「成程。――では、あの、オリオトライ先生、先生のパーツでどこか触ったり揉んだりしたら減点されるとこあり申すか? 逆にボーナスポイントが出るようなとことかありますか?」

 

 おお、と嫌らしく手をわきわきさせる二人にオリオトライが笑う。

 

「あはは、授業始まる前に死にたいのはお前ら二人か?」

 

 半目で言ったオリオトライは舌をだし、

 

「――んじゃ」

 

 え? と皆――約一名以外――が反応するより早く、オリオトライは跳んだ。

 その約一名、悠理はオリオトライが跳んだと同時に飛び出していた。その手には黒塗りの鞘に納められた一本の刀が握れている。構えは居合。

 体がういているオリオトライに向かい悠理は一歩、二歩と踏み込む。そして、鯉口を切り、抜刀した。鋼色の斬撃に重きを置いた刃がオリオトライへと迫る。

 オリオトライは背中の長剣を向かってくる刃の方へと移動させる。刀は総じて繊細だ。長剣に阻まれて刃はオリオトライを捉えることはない。

 

「甘いわね!」

「わかってますよ!!」

 

 悠理はあろうことか刀を手離し、鞘を明後日の方向へと投げた。そして、腰の箱を開く。ガシャンという音と共に箱が展開された。中には丁寧に折り畳まれた剣が幾つも入っている。そこから素早く一本の剣を取り出す。

 空中を蹴りだして、悠理は剣を振るう。

 オリオトライはそれを長剣で受ける。

 それも予想済みか悠理は次の動作に入っている。手離していまだ落下中の刀をオリオトライに向けて蹴った。凄まじい身体能力である。

 

「まだまだよ!」

 

 だが、それはリアルアマゾネスの称号をほしいままにしているオリオトライも負けてはいない。蹴りあげた姿勢の悠理の足を掴み、それを支点にして、後方へと更に跳んだ。行く先は階段下。

 

「行かせない!!」

 

 悠理は更に腰の箱から二本の剣を取り出してオリオトライへと投げる。更にもう一本を取り出して振るう。到底剣の届く距離ではなかった。だが、剣届く。刃が伸びたからだ。

 それは蛇腹剣と呼ばれる類の剣であった。流体によって接続されたいくつもの刃がオリオトライを狙う。

 しかし、オリオトライはその攻撃をも防ぐ。まず投擲された二本の剣のうち一本を弾き、一本はキャッチ。そのキャッチした剣を蛇腹剣へと投げつけて防いだ。

 

「残念だったわね! ――っと!」

 

 階段下に着地したところを十文字となった剣が地を滑るように飛翔してきた。それを飛んでかわす。それを予想していたのか蛇腹剣の刃がオリオトライを取り囲む。それを長剣で弾いたところで悠理が笑っていることに気が付いた。

 それと、何かが肩に当たったのはほとんど同時だったと言ってよい。肩に当たったのは先ほど悠理が投げて刀の鞘だった。

 なるほど、さっきまでの攻撃は全てこの鞘のためか。ご丁寧に鞘の存在をギリギリまで隠す術式符まで張られている。気が付かないのも当たり前か。

 

「どうだ!」

 

 悠理のドヤ顔がうざい。

 

「あー、まあ、攻撃っちゃ、攻撃よね。油断したわ」

 

 まさか攻撃を当てられるとは思わなかった。ちょっと悔しい。まあ、生徒がここまで成長していたというのはうれしくもあるが。

 その時、不意に良い考えが浮かんだ。

 

「じゃあ、ルール変更ね」

 

 オリオトライが悠理を見てニヤリと笑う。悪寒が悠理を駆け上がる。

 

「先生じゃなくて悠理に攻撃を当てることが出来たら悠理にあげた出席点五点をその人にあげる。悠理が逃げ切ったら出席点五点は悠理のものね。で、もし逃げ切れなかったら――」

 

 またもニヤリと笑う。

 

「一日クラスの奴隷ね」

 

 これの発言によってクラスの全員のやる気が上がった。何ともひどいクラスである。

 

「おい、まてコラ!」

「はい、黙りなさい。あなた最強目指してんでしょ、それならこれくらいやりなさい。あ、私も参加するから」

「勝たせる気なし!? というか攻撃当てたこと根に持ってるな!?」

「あとハンデとして術式使用禁止ね。術式使ったら誰も追い付けなくなるから。それと剣は一本までね」

「聞いちゃいねえ!?」

 

 実質的な死刑宣告じゃなかろうかこれは。

 

「拒否権は?」

「その時点で一日奴隷」

「先生! 悠理殿のパーツでどこか触ったりしたら減点されるとこあり申すか?」

「逆にボーナスポイントが出るようなとことかありますか?」

 

 点蔵とウルキアガが手を挙げて階段の上からオリオトライに聞く。

 

「う~ん、そうね」

 

 オリオトライが舐めるように悠理の体を上から下まで見る。

 

「自分で考えて判断なさい」

「なんで、先生が答えてんの!?」

「はい、それじゃ、改めて授業開始よ」

「もう、どうにでもなれ!!」

 

 開始宣言の瞬間、悠理は跳んだ。右舷側へ抜けて奥多摩中央通り。俗称“後悔通り”へ。

 

「うぅ、どうしてこんなことに……」

 

 本当ならばこんなところには来たくなかったのが本音だ。だから、早く終わらせようと思ったのだ。

 

 ――一六三八年 少女 ホライゾン・Aの冥福を祈って 武蔵住人一同

 

 そうかかれた石碑に呟きながら、背後、遠ざかっていく橋上では、皆が走り始めている。

 ……リアルアマゾネスはまだ動かないか。まあ、最後に来るだろうな。一応教師なんだし。

 

「って!?」

 

 とか、思っていると気がつけば真横にリアルアマゾネスことオリオトライがいた。しかも、剣を振りかぶっている。

 飛び退いてそれをかわす。間一髪だった。再び走り出す。

 

「よくかわしたわね!」

「よくかわしたわね、じゃないわ! 初っ端からでて来るとかどんな鬼だ!」

「あはは、いいじゃないの。敵なら待ってくれないのよ」

「そりゃそうだろうけどよ! あんた教師だろ!!」

「教師の前に人なのよね。ほら、やられたらやり返せって言葉があるじゃない?」

「お前、もう教師じゃねえ!!」

 

 会話の間に悠理は腰に手を伸ばす。

 そこから一本取り出す。縦から見るともはや長方形に思えるほどに幅が広い。まるで幾つもの剣を重ねて一本の剣にしたような剣だ。

 十徳刀と悠理が呼ぶ彼の持つ剣のうちの一本である。

 だが、オリオトライには振るわない。オリオトライが下がったからだ。となるとそろそろである。

 悠理は跳躍した。

 


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