オレを踏み台にしたぁ!? 作:(╹◡╹)
目が覚めたら猫に囲まれていた。大量の猫に。……これは一体どういうことなのだろうか?
悩めど答えは出ない。出ないならば仕方がない。ならば取り敢えず起きるべきだろうか。
「よっ… と」
上等過ぎるベッドから降りると、猫も気を利かせて散っていってくれる。空気の読める猫だ。
周囲を見渡す。広い間取りに高そうな調度品が飾られている… 全く以て見覚えがないな!
プレシアさんの屋敷とも違うようだし、ここは一体どこなのだろうか? 途方に暮れる。
最近眠って目が覚めるとこんなのばっかだ。いっそ睡眠を断つべきかと本気で悩んでしまう。
思わず絨毯に手をつきつつ嘆いていると、仔猫が寄ってきてオレの肩に手を乗せてくれる。
「なぁーお?」
「慰めてくれるのか… オマエ」
「なぁーお!」
「そうか、ありがとう。ところでここは何処なんだ?」
「なぅーん?」
うん、聞いても分からないよね。言葉が通じてないよね。そりゃそうだよね、猫だしね。
はてさてどうしたものか。……勝手にうろついてなんか壊したら、弁償させられそうだしな。
「(ん? 待てよ…)」
その時、オレに電流が走る。
猫とは確かに『言葉』は通じないかもしれない。だが、『想い』は伝わるのではなかろうか?
誠意は言葉ではなく金額。もとい、気持ちだ。ならばそれを伝えるにはどうすればいいか。
「それは、そう… オレ自身が猫となることだ!」
「いや、その理屈はおかしい… よね?」
「………」
綺麗なツッコミを入れられ、思わず声の方向を見る。そこには一人の少女が立っていた。
年は10歳前後だろうか? 綺麗な濡羽色の髪に清楚かつ上品な物腰。お嬢様だ、間違いない。
どっかで見たような気もするが、思い出せないということは多分大したことないのだろう。
「えっと、この家の方ですか?」
「あ、うん」
「すみません。ちょっと猫の気持ちを知ろうとしただけなんです」
「……えっと、言っている意味が」
「ここが何処か、オレは分からない」
「えっと… うん」
「けれどコイツ… この猫ならば知っているかもしれない」
「うん、まぁ… 知ってると思うよ」
「だからオレは猫に尋ねるしかないんだ!」
そう言って、オレは目の前の猫に向けて語り掛けた。そう一匹の猫として。
「ぶるにゃーお…」
「なぁーお?」
「ごるるるるるるなぁーおん! なぁーおん!」
「なぁーん! なぁーん!」
「あ、あのね… 桜庭くん?」
「ふにゃ… え? 今いいトコなんだから邪魔は」
「私に聞けば… いいんじゃないかな?」
………。
そこに気付くとは、やはり天才か。膝の埃を払い立ち上がると、彼女と固い握手を交わす。
若干アホの子を見るような彼女の瞳に傷付いたが… まぁ、きっと些細な問題であろう。
よし、ここは汚名返上だ。彼女の名前をピタリと言い当てて友好的な接触に切り替えるのだ。
オレは笑顔を浮かべて、彼女に声をかけることにする。えーと、確か名前は… 月… 月…
「月島さん!」
「誰!?」
違ったらしい… どうしよう。こんなんじゃオレ、思わず呟いてしまうよ。
「オレはついていけるだろうか… 君のいない世界のスピードに」
「知らないよ!?」
「まったく冷たいなぁ、ルリルリは」
「いきなり馴れ馴れしいよ! ていうかルリルリって誰!?」
「月島と言えば瑠璃子さん。断じて異論は認めない」
これは世間の常識のはず。
腕を組み直しながらうんうん頷くと、疲れ果てたようにお嬢様が口を開いた。
「……私は月村すずかだよ。今度は忘れないでね?」
「承知、オレは記憶力には自信がある。任せてほしい」
「悲しいほどに欠片も説得力を感じないね…」
「大変そうだな。月村さん」
「うん、誰のせいだと思う?」
しばし悩んでから「……世界、とか?」とつぶやくと彼女は深い溜息を吐いて歩き出した。
何故だか知らないけれど呆れられてしまった気がする。ちょっぴり傷付いた。
手招きされたのでついていく。ご飯でもくれるのだろうか。お金を請求されたらどうしよう。
高そうな調度品が一杯並んだ廊下を歩いて行く。美人なメイドさんが一杯いるし。
凄いなメイドさん。生まれて初めて実物を見た… 気がする。
うちにもメイドさんがいてくれれば、あの悲しい火災は起きなかったのではないだろうか。
うーん… でも日本人的には家政婦さんだろうか。
まぁ、うちは無理にしても八神のところには必要なんじゃないかな? そう思う。
なんかオレの顔を見ると買い物カゴ持たせようとしてくるし。
きっと、足が動かない車椅子生活というのは想像以上に不自由なのだろう。
八神の世話係に、病院の送り迎え… 家事のあれやこれやをやる人、やっぱり必要だよな。
交代人員も考えれば…
「二人… いや、三人といったところか」
「………」
「っと、すまない。独り言だ」
驚いたような表情で振り返る月村さんに、謝罪する。
そうだよね、こんな銀髪オッドアイ野郎がいきなりブツブツ独り言つぶやいたら怖いよね。
ましてや招かれている状況なのだ。失礼があってはいけない。
オレは重ねて謝罪することにした。
「本当に申し訳なかった。こちらのメイドさんを見ていたら、つい… な」
「ううん… いいんだけど、あまりにあっさりだったから驚いちゃって」
「……なに、そういうこともあるさ。悠人少年には稀によくあることらしいぞ」
流石に八神の名前を出しても伝わらないだろうから、適当に流すに留めておこう。
すると月村さんに驚いた理由について説明される。
ふむふむ、なるほど… あまりにあっさり謝ったから驚いたのか。これは手厳しい。
確かに学校じゃあまり喋らない根暗野郎だもんね。お昼とかいつもぼっち飯だし。
恐らく悠人少年もそうだったのだろう。
だから彼女もそのギャップに戸惑ってしまったというわけだ。これはしたり。
その辺のミスから悠人少年の正体がバレてしまっては、いずれの予定に差し支える。
オレは曖昧に微笑み「そういうことってあるよね? いや、あるとも(強弁)」と押し通す。
月村さんはちょっと考えた素振りをしてから、一つ頷くと再び歩き出した。
よし、セーフ!
やがて、立派な両開きの扉が備え付けられた部屋の前で立ち止まる。月村さんがノックする。
「どうぞ、開いてるわよ」
中から涼やかな声が響いてくる。声は間違いなく美人さんだ。
何も考えてないが何か考えているような表情でボケッとしていると、月村さんが振り返る。
「お姉ちゃん、大丈夫だって」
「ふむ… ここで待っていればいいのか?」
「いや、ついてきてよ。桜庭くんと話すために待ってるんだから」
「……そうなのか」
「そうなの。じゃあ、入るよ?」
こちらの返事を待たず彼女は扉を開ける。
「なっ!?」
部屋に入って真っ先に目が入ったのは、内装でも声が美人な人の姿でもない。
たくさんの猫に囲まれて、もたれかかられている赤い犬… アルフの姿だった。
考えるが早いか、オレは駆け出す。
アルフの周囲で寛いでいた猫たちが散っていく。だが、それでいい。
『え? ちょ、ちょっと…』
何故かアルフの声で夢電波が再生されるが、寝てる場合じゃないのだ! 黙れ!
オレはアルフを自らの身体でガッシリ抑えこむと、月村さんに向かって叫ぶ!
「猫たちを連れてここを逃げるんだ! 一刻も早く!」
「ど、どういうことなの!?」
「コイツは赤いんだ!」
「うん、赤いね!」
「フサフサなんだ!」
「うん、フサフサだね!」
「そして、喋るんだ!」
「うん、しゃべ… え?」
「そして名前はアルフという!」
「あの、ちょっと待って? 喋るって…」
「つまり、メルマック星人だったんだよ!」
オレが警告しても「な、なんだってー!」と返ってくることはない。それはいい。
しかし、あまりの驚きに呆然と固まっているようだ。
くっ、やはり小学生低学年の女の子に咄嗟の対応をしろというのが無茶だったか…。
歯噛みしながらも、暴れようとするアルフを抑えながらオレは再度警告する。
「だから早く猫たちを連れて逃げるんだっ! 鈴村さん!」
「はっ… だから、メルマック星人ってなに! あと私は月村すずかだよ!」
「ちっ、まさか知らなかったとは…」
「流さないでよ… それに、そんなに危険な子には思えないけど…」
「普段は気のいい、ジョークだって言える小粋なやつなんだ」
「そ、そうなの? だったら…」
「だけど、猫が好きなんだ!」
「全然問題ないじゃない!」
「食的な意味で!」
「みんな、早く逃げましょう!」
オレの懸念がやっと伝わったらしく、月村さんは両手に溢れんばかりの猫を抱え逃げ出した。
分かってくれたか… 良かった良かった。
恐らくアルフはハリウッド映画のために連れてこられたアクター犬だろう。
だが、万が一… ないと思うが、ハリウッド映画だというのがオレの勘違いだった場合は?
その場合は、『宇宙人』というのが近くなってくるだろう。
高度な科学力に、よく分からない用語を勝手に説明しだす人々… 確かに宇宙人っぽい。
まぁそんな人たちがそこらの小学生を巻き込むわけがないので、99%妄想だろうが。
だがしかし、メルマック星人が実在しないとは限らない。アルフの特徴はあまりに符合する。
むしろ、声が所○ョージさんだったら100%確定である。
無論言われるまでもなく、アメリカンコメディの大衆ドラマ・アルフは創作だと知っている。
だがクトゥルフ神話みたいに「真実を創作として世に伝えた」ならばどうなる?
可愛らしい猫ちゃんたちが頭からボリボリ食われかねないのだ。それは辛すぎるだろう。
1%でも懸念があるならば最善の手を打つべきだろう。鈴村さんが分かってくれてよかった。
「ふぅ… 行ってくれたか。なんとか猫を守り切れたな」
「ア、アタイは…」
「ん?」
「アタイは猫なんか食べなぁーいっ!」
「ぎゃああああああああああああああああああああっ!?」
鈍い衝撃を身体に受けて、オレの意識はブラックアウトしようとする。
相変わらず脆いのが悠人少年ボディ。壊れ物につき取り扱い注意である。
薄れ行く意識の中で、三人の男女の叫ぶ声が聞こえてきた。
「……マモレナカッタ」
最後にオレは、小さな声でそうつぶやいた。……特に意味はない。
うまく書けない… ブランクですねぇ。い、一応生存報告代わりになれば…(汗)。
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