オレを踏み台にしたぁ!? 作:(╹◡╹)
すまん、ありゃ嘘だ。
はい、申し訳ありません。後ほど纏めてという形になります。申し訳ありませんでした!
翌朝、俺はリンディさんの寄越した迎えの人によってアースラへと案内された。
快活で親しみ易い雰囲気のこちらの美少女は、エイミィさんというらしい。
美人というより可愛い系だが、やはり顔立ちが整っているのは天下のハリウッド・スター故か。
「そうだったんですか。リミエッタさんは…」
「あはは! リミエッタさん、なんて柄じゃないよ~。エイミィって呼んでよ、桜庭くん」
「失礼、エイミィさん。……では、自分のことも好きに呼んでください」
「そう? それじゃ… 改めてよろしくね、悠人くん!」
美少女の笑顔は魅力満点だ。しかしただの萌え系美少女と侮ってはいけない。
彼女はハリウッド・スターであり、その役職は最新鋭の次元空間航行艦船のオペレータ。
正確には通信主任兼執務官補佐、だったかな? 詳しくはあんまり分からないけど。
そんな紛れもないエリートでありながら気取らない人柄は、まさに奇跡の賜物。管理局万歳!
「で、なに?」
おっと。人との会話中に(心の中で)管理局万歳してしまうのは失礼だよね。気をつけよう。
「あ、はい。クロノさんとは同期だったんですねって」
「そ。まぁ、腐れ縁ってとこかな?」
その割には少しばかり年齢が離れてる気がしないでもないが。クロノさん飛び級なのかな?
なんてことだ。見た目だけではなく発言も心もイケメンで、更には文武両道だったとは。
まぁ腕に自信があるようなことはそれなりに匂わせてたから、大した驚きはないのだけれど。
しかもこんな美少女と腐れ縁だなんて。流石にクロノさんはイケメンだけあってリア充だな。
オレの場合は、八神になるのかな? ヤツは確かに美少女ではあるのだが恐ろしく凶暴だ。
叶うならば交換を申し出たいところだ。勿論そんなことは許される筈がないので思うだけだが。
「……さて、到着っと。うん、キミが一番乗りみたいだよ?」
え? マジですか? じゃあ今のうちにサインなんて貰ってもいいんですかね?
「……よし」
サインを書いて頂いたたくさんの色紙を鞄に仕舞いつつ、小さくガッツポーズをする。
エイミィさんは快く了承してくれたばかりか、その場にいたもう二人にも声をかけてくれた。
オペレータ役のアレックスさんとランディさんである。二人とも当然のようにイケメンだ。
そんなやりとりをしてるうちに多くのクルーが集まってきて、サインに応じてくれたのだ。
「あ、よろしければこちらどうぞ」
こんなモンしかお返しできずに心苦しいが、オレは缶コーヒーを渡すことしか出来ない。
しかし笑顔で受け取ってくれた。なんて素晴らしい人々なんだ。やっぱり管理局は最高だぜ!
ちゃんとリンディさんにも渡すように促された。無論、偉い人への配慮は忘れませんとも。
「え、えと… 桜庭くん。サインをするのは構わないのだけど…」
「あ、はい。ひょっとして、1本では足りませんでしたか? 言っていただければ…」
確かに艦長は重労働。全く、オレとしたことが気が利かぬ真似をしてしまった。
だが今日は備蓄は充分にある。期待に応えるため2本、3本と鞄から取り出していく。
「ひっ! いえ、違うの。その… エイミィ、喉乾いてないかしら?」
「私は悠人くんに貰ったばかりですから問題ありません。お気遣い頂き光栄です、艦長!」
ビシッと敬礼して答えるエイミィさん。流石、普段はフランクだけど決める時は決めるなぁ。
それに真っ先に部下の心配をするなんて… 流石はリンディ艦長! 改めて尊敬しますよ!
「あ、あぅ… そんなキラキラした目で見ないで…。あ、他のみんなはどうかしらッ!?」
「おいィ? お前らは今の言葉聞こえたか?」
「聞こえてない」
「何か言ったの?」
「俺のログには何もないな」
クルーの人々はそう返すと、缶コーヒーを片手に各々の席でコンソールのチェックを始める。
皆さん仕事熱心だな。けど艦長の声が耳に入らないほど熱心に仕事をするのもどうだろう。
いや、むしろ阿吽の呼吸で互いを尊重してるのかも。今の会話の連携とか凄く息が合ってたし。
――プシュー…
「お邪魔しま… どうしたんだ?」
そこにタイミングが良いのか悪いのか、名無しの少年たち3名が別にクルーに案内され到着。
「いえ、最高のタイミングよ3人とも。桜庭くん、そういうわけで仕事だから…」
「あ、はい。お時間取らせて申し訳ありませんでした。ハラオウン艦長」
こっちとしてはお返しのつもりでも仕事の邪魔しちゃったらいけないよね。反省反省。
「最高のタイミング…?」
「あ、これどうぞ」
「え? ちょっ…」
小首を傾げるユーノ君に、ちょうど取り出していた3つの缶コーヒーを手渡す。
3人連れだしちょうどいいだろう。なんだか他2名が受取拒否しているような気がするけど。
多分、きっと気のせいだろう。……うん。すまんな、ユーノ君!
「というわけで、本日0800を以て本艦全クルーの任務は…」
会議室のような場所に通され、リンディさんが任務の開始を口頭で宣言している。
普段の優しいほんわかした表情も良いが、真面目で凛々しい表情も素敵である。
オレはそんな下衆な思考は表に出さず、真面目な表情で話を聞き流しているのですが。
最低だというツッコミは重々承知の上だ。だが考えても見て欲しい。オレですよ?
ユーノ君たちが協力者として臨時職員の扱いとなるとかそういう話になるのは分かるよ?
しかし、だ。……こんな場に、果たしてオレなんかがいていいのだろうか。
サイン貰ったら邪魔にならないうちにさっさと帰ろうかと思っていたのだが…
なんか、流されてるうちにそういうコトを言い出せる雰囲気でなくなってしまったのだ。
こうなったら美人さんとか美少女さんを眺めて現実逃避をするしかないではないか!
こっそり握り拳を作って(心の中で)力説しているオレ。
「……そこで、桜庭くん」
「あ、はい」
そんなオレに、リンディさんから声がかけられる。……もう帰っていいよってことかな?
「強制ではないけれど、もし良ければ貴方にも協力をお願いしたいのだけど…」
「………」
絶句する。
え? 監督、まだオレをエキストラで使う気なんですか? 無能なオレに何を期待してるのか。
死に役のモブとかが必要なのかな? スタントシーンはなるべく痛くないのが嬉しいのだが。
この映画にかかってる予算は疑いようがないが、この映画の出来栄えが不安になってくる。
主にオレのせいで。他の役者さんはバッチリなのに、主にオレのせいで。胃が痛くなってくる。
「どうかしら?」
「自分に出来る範囲であれば喜んで。……協力は市民の義務でしょう」
まぁ、答えなんて決まっているんですけどね。
管理局は警察みたいなものという話だし、協力を要請されたからには応えねばなるまいて。
そうでなくてもリンディさんとクロノさんには多大な恩があるしね!
「ただ、両親が自分の為に使ってくれたお金を無駄にする訳には行かないので学校は…」
「……分かりました。どうぞ今までどおり通ってください」
良かった。うちの学校って授業料高そうだもんな。無駄にするのは気が引けたし。
ふと見ると名無しの少年とちゃっかり系少女が気まずそうな顔をしている。
どうしたんだろう? この二人に関してはオレと違って役者という仕事のはずだが…
あぁ、撮影が長引いて休みの期間が続くとクラスの話題に遅れそうで不安なのかな?
仲の良さそうな友人たちもいたものね。ぼっちのオレには分からない悩みといったところか。
「さて、それでは一旦失礼します」
打ち合わせが一段落ついたところで、オレは席を立つ。
「あら桜庭くん、どこへ?」
「これから道場へ。日課の稽古を済ませねばなりません。……クロノさんはどうします?」
「同行させてもらおう。……艦長」
「えぇ、行ってらっしゃい。二人とも、気を付けてね」
気遣ってくれるリンディさんに頭を下げる。
だが、部屋を後にしようとしたところで別の人物から待ったをかけられた。
「おい、待て桜庭。……どういうつもりだ?」
「どういうつもりだ、とは?」
名無しの少年だ。質問に質問で返して悪いが、どういうつもりだはこちらの台詞である。
そっちこそ頑なに缶コーヒーを受け取ろうとしないのはどういうつもりだと問い詰めたい。
小一時間ほど問い詰めたい。
「確かに鍛錬は大事だ。けど今はもっと大事なことがあるんじゃないか」
「………」
何を言っているんだ、コイツは。
そんなことをしたらウェイターさんとかキョーちゃんとか妹さんに殺されてしまうじゃないか。
死にたくないからこそ毎日欠かさず通ってたのに、オレに死ねというのかコイツは。
「毎日欠かさず続けるように言われているが」
「だとしても…」
言ってなかったっけ? まぁ、似たようなことは言われてた気がするし油断はできまい。
「必要だから言われる。必要でなければ言われない。オレはそう思ってる。……もう、いいか?」
「っ! ……分かったよ、引き止めて悪かったな」
お仕事で堂々と道場をサボれる名無しの少年が羨ましくて、つい刺々しい物言いをしてしまう。
すまんな、少年。
「オレにとっては日々続く日常すらも戦いだ。……おまえが羨ましいぞ」
いつになったらこの汗臭い体育会系スパイラルから抜け出すことが出来るのだろうか。
オマケにタイムセールは地獄を見るし、たまにエンカウントする八神は凶暴だし。
全く… なんて地獄だ。これでは悠人少年が中々戻りたがらないのも無理からぬところだな。
そんなことを溜め息混じりに考えつつ、クロノさんを案内してオレは道場に向かう。
あとはウェイターさんとかキョーちゃんに押し付ければいいや。
クロノさんほどのスペックならば、きっと道場の皆さんも大歓迎で夢中になることであろう。
………
……
…
「あれ? どうしたの、桜庭くん。二人なら山篭りに出かけてるけど…」
「………」
そう言えばこの間そんな話をしてましたね! 当てが外れちゃったよ、畜生!
仕方ないので道場の庭の隅っこを借りて、いつも通り素振りを始める。
というわけで、(オレが勝手に)お招きしたクロノさんの指導は妹さん… お願いします!
――ビュオンッ! ビュオンッ!
オレが無言で素振りを開始するのを受けて、二人は何やら会話を始めたようだ。
よしよし、いいぞ。その調子だ。美少年と美少女が並ぶと絵になるなぁ…。
さぁ、こんな全自動素振りマシーンのことは忘れて、二人の世界を作っちゃってください。
しかし、そんな願いも虚しく…
「なぁ、悠人。キミからも指導をお願いしたいのだが…」
「クロノさん、自分はまだまだ未熟な身。誰かを指導することなど、到底出来ません」
クロノさんが近付いてきて話しかけてきた。そっとしておいて欲しい。
素振りしかしてない下っ端だって見れば分かるでしょ?
ところで、いつの間にか素振りしながら流暢に喋れるようになってた件。ちょっと嬉しい。
「しかし、美由希さんがキミならば間違いがないからと…」
「……はい?」
思わず素振りをする手を止めて、少し離れた場所に立っている妹さんを凝視してしまう。
妹さんは笑顔で頷いてきた。……いや、可愛いけどそういう無茶振りは求めてませんから。
しかし幾ら可愛く無茶振りされようとできないものはできない。此処はお引取り願おう。
「そう言われても自分は一番の下っ端。熟練の方が戻られるまで待ってみるべきでは?」
「勿論その人達にも教えは乞うさ。だけど悠人、僕の事情を知るキミにだからこそ頼みたい」
……ふむ、そう言われると弱いな。
確かに、ハリウッド・スターのクロノさんをここまで引っ張ってきた責任がオレにはある。
とはいえ、真面目に修行なんぞしてないオレに指導など出来る筈がない。……困ったな。
考えた結果、クロノさんには申し訳ないが適当ほざいて煙に巻くことにした。
すまぬ、すまぬ…
人外たちが山から戻ってきたら、きっとまともな指導をしてくれるだろうから許してくれ。
「
「セイカ? タンデン?」
難解中の難解と言われた元祖・安打製造機のお言葉を引用する。
「教える、などという言葉は恐縮ですが… 自分から言えることはそれだけです」
それからは素振りに戻り、何度話しかけられようともスルーを貫いた。……すまぬ、すまぬ。
「
「丹田… 氣を集める器官… そうか、そういうことか!」
なんか二人で良く分からない話をしている。
まぁ、オレをスルーしてくれるならなんでもいいのだが。
自分の保身しか考えないオレはトコトン屑である。
数日後…
そんなクロノさんが、なんと妹さんとある程度互角に打ち合えるようになっていた。
「何アレ超怖い」
オレは小さく呟いた。
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