オレを踏み台にしたぁ!? 作:(╹◡╹)
原作キャラや原作ヒロインにもっともらしく中身の無い話をする回です。
「桜庭… 再戦だ! 今日こそオマエを倒す!」
名無しの少年が勢い良く向かってきた。その手には3DS。まさか前回で懲りてないとはな。
伝説ポケモンでも手に入れたのか? 外道コンボ対策でも練ってきたのか? その両方か?
ククク、ならばセカンドステージに上がろうではないか。相手がメタを張ったその上をいく!
「良かろう。ならば思い出させてやろう… あの日の恐怖と絶望をな」
「俺は負けない… 俺には頼もしい仲間たちがいるんだ。この力で必ずオマエを…!」
「余り強い言葉を使うなよ… 弱く見えるぞ?」
「ッ!」
すげぇいい気になってるオレ。まぁ、やってることはただのポケモンバトルなんですけどね。
藍染隊長っぽいキメ台詞でまずは軽いジャブ。こうかはばつぐんだ! が、ほどほどにね。
ゲームとは本気で遊ぶから楽しいのだ。そのためにはある程度の役作りというモノは必要だ。
だが役になりきっても、憎しみで戦ってはいけない。故にやり過ぎてはいかんのだよ。OK?
名無しの少年も、オレのイメージ通り主人公っぽい台詞をポンポン吐いてきてくれるしな。
クックック、おかげでオレも冷徹な悪役(笑)のイメージに徹することが出来るというわけだ。
しかし大した自信だ。こちらもそう簡単に負けてやるつもりはないが、はてさてどう出るか?
「出ろ、アバチュウ!」
「……はい?」
いや、おい待て。なんでポケモンやってて金子一馬っぽいデザインのキャラが出てくるんだ。
あれ? 金子一馬ってこの時もうやめてたっけ? いや、どうでも良いよ。良くないけど。
なんかどっかで見覚えのあるRPG史上最強最悪っぽい相手が出てくるコトの方が問題だよ。
「『ちぼのばんさん』… こうかはばつぐんだ!」
「いや、待て。おい、待てってば… おい」
なんか、オレの手塩にかけて育てたポケモンたちが一瞬で消し飛んだんだけど。何この虐殺?
ア○ラスって親会社の経営がやばい云々って話は聞いていたけど、任○堂に身売りしたの?
身売りしたからってそのまま出すか? 思い切りすぎだよ、任○堂。ふざけんなよ、任○堂。
「俺の… 勝ちだ!」
「ぐわぁああああああああああああああああああ!?」
………
……
…
――チュンチュン…
「……夢、か」
……朝から心臓に悪い夢を見たぜ。
ポケモンバトルをしてたら何故か遊戯王が始まったような、そのまま負けてしまったような。
負けて地獄の罰ゲームを受けたような、そんな恐ろしい夢だった。もう忘れつつあるけど。
取り敢えず名無しの少年との再戦はモンハンにしようか。うん、それがいい。きっとそうだ。
争いを助長するのは良くないよね。ゲームだからこそ楽しまないとね。チームプレイ最高!
ポケモンなんておこちゃまのお遊戯よ。ぺぺぺのぺーよ。怖いわけじゃないぞ。ないからな?
さて、トーストと缶珈琲でも召し上がるとするか。なんか久しぶりに缶珈琲飲む気がするな。
んなわけないか… 冷蔵庫を開ければ、だいぶ缶珈琲の在庫が減ってきたコトに気が付く。
オレはこれだけしょぶ、飲んできたんだ。あと少しで冷蔵庫はその本来の姿を取り戻すのだ。
スーパーで買ってきたレタスにプチトマトを用意し、トーストにジャムを塗って朝食は完成。
だいぶスーパーでの買い物も小慣れてきた感じがするな。商店街にも足を伸ばしてみるか?
駅前にも商店街があるみたいだし、其処の勝手を知ることは今後の生活にプラスになる筈だ。
しかし悠人少年は帰ってこねぇなぁ。マジでこのまま大人になったらどうしようか。不安だ。
今や着実に海鳴市での生活圏を広げており、当初の右も左も分からぬ状態のオレではない。
ソレは裏を返せばオレの足跡が残るということでもある。大した影響がないならそれでいい。
だが、楽観はできまい。戻ってきた悠人少年になんらかの不具合をもたらさぬとは限らない。
身に覚えがない相手との好悪感情やら繋がりが残っていたりしたら、彼とて戸惑うだろう。
ていうか彼の将来の夢が教師だったのを知らずにサラリーマンになる、なんて可能性もある。
「……難しいものだ」
そういえば缶珈琲からコーヒーゼリーって作れるのかな? ゼラチンパウダー買って試すか。
最近缶珈琲を余り渡せなくなってきた。オレの屁理屈で誤魔化すにも限界があるのだろう。
だがゼリーにすればスムーズに処理できそうだ。オレ自身も美味しく食べられるかもしれん。
「……悪くはないな」
――ピピピッ、ピピピッ…
忌々しい珈琲をゼリーにする皮算用に酔いしれていると時間を告げるアラーム音が鳴り響く。
む? もうこんな時間か。憂鬱だがそろそろ道場に向かわねばならないか。やれやれだぜ。
いや、ホントにオレは何故本来全く縁がないであろう道場なんぞに律儀に通っているんだよ。
あの日は普通に学校帰りに翠屋にケーキを買いに行っただけだぞ? 本当にそれだけだった。
強いて言えばウェイターの人に「先日は試合中お邪魔して失礼しました」と頭下げただけ。
それだけなのに何故かウェイターの人に誘われ道場に通う羽目になったのだ。マジで何故だ。
もしかして:嫌われてる?
身体はモヤシで出来ている悠人少年に道場とかどんな無茶だよ。死んじゃうだろ! オレが!
案の定、学生の身でありながら師範代やってるお兄さんにゲロ吐く寸前まで絞られたしな。
というか、お兄さんと妹さんたちの目を盗んで適度にサボってなかったら確実に死んでたね。
二度と行きたくなかったがそんなコトをすればオレを紹介したウェイターさんの顔が潰れる。
ウェイターさんの顔を潰してしまえば、翠屋でのショッピングも今後やり難くなるだろう。
ていうかウェイターさんもウェイターさんだよ。なんでサッカー少年たちを誘わないんだよ。
オレは心の中でブツクサ言いながら歯を磨いて家を後にするのであった。……はぁ、憂鬱だ。
………
……
…
「ごめんね。今日は恭ちゃん、兄が用事で出かけるの伝え忘れてて… 私しかいないんだ」
「あ、そうなんですか」
イヤッホぉおおおおう! 今日はあの鬼のようなお兄さんがいないぜ。あれ? てことは…
「……では、妹さんは今日はお休みなのにわざわざオレに伝えるために?」
「あ、ううん。そうじゃないの。私は私で鍛錬しようかなって… キミはどうする?」
う~ん… どうしたもんかね。帰ってもいいみたいだけれど、まぁ、掃除もしときたいしな。
何故オレが掃除にこだわるのか? 掃除大好き人間というわけではない。ただの処世術だ。
どんなに練習でダメでも、キチンと残って真面目に掃除をしているヤツは一定の評価を得る。
徐々にフェードアウトしていくとしても、しっかりと掃除していたという印象が残ればいい。
そうすれば後はちょろっと顔を出すだけで、道場と距離を置きつつ翠屋との繋がりは残る。
フフフ、オレの考えた完璧な将来設計。成功間違いなし! 成功… するといいなぁ(白目)。
「それではお邪魔でなければ、隅の場所を借りて素振りでもさせて戴きたいのですが」
「勿論お邪魔じゃないよ。……でも、いいの? そろそろ組み手とかしたいんじゃないかな」
「滅相もない。型は全ての基本にして奥義。其れをロクに覚えず組み手など恐れ多いですよ」
「そうなんだ。……うん、真面目だね」
組み手? 何その死亡フラグ? この眼鏡の似合うおっとりした妹さんを侮ってはいけない。
稽古初日にお兄さんと目に見えぬ速さで組み手を行って、オレをドン引きさせた人なのだ。
練習試合とか絶対にしたくないでゴザル! 幸いにも、随分アッサリと引き下がってくれたが。
「じゃあ、今日は私も型稽古に変更しようかな」
「? 他にやりたいことがあったのでは?」
「いいの。基本は大事だなって私も思ったわけだしね」
「まぁ、そうですね」
良く分からないけど、妹さん本人が納得しているなら好きにすればいいと思います(小並感)。
こうして稽古という名の耐久素振りレースはスタートした。隅で邪魔にならないようにな!
たまに妹さんがアドバイスしてくれる。ちょっと怖いお兄さんと違って優しく、耳に入り易い。
「……そういえば、キミは素振りの最中に数を数えないんだ?」
「フッ! まぁ、数を重視しているわけでは… ハッ! ないですからね」
そう、時間が来るまで素振りを続け誤魔化すことが大事なのである。数が重要なのではない。
「うん、数よりもイメージとかの方が大事だよね」
「フッ! そうですか… ハッ! ねっと」
良く分からない納得のされ方をした。今のうちにちょっと休憩しよう。深呼吸深呼吸、と。
ていうか素振りの最中に話しかけるの止めて欲しい。返事するの疲れるし、無視も失礼だし。
でも彼女なりの気遣いだろうし無碍にするわけにもいかないっていうか、お兄さん怖いし。
二人しかいないわけだから自然とサボったら目立つわけで、こちらのチェックも厳しくなる。
うん、地味にしんどいぞコレ。やっぱり帰ればよかった。
「ねぇ、キミはなんでこの道場に通おうと思ったの?」
「……なんで、ですか?」
「うん。もし良かったらだけど、教えて欲しいな… なんで強くなりたいって思ったのか」
真面目な表情でオレを見詰めてくる妹さん。が、なんでだと? そんなんオレが知りたいわ!
ウェイターさんに無理やり連れてこられたからですと正直に答えるか? ……アウトだな。
迂闊なことを口走ってウェイターさんの耳に入ってしまった場合、今後翠屋で気不味くなる。
それはいかん。……本音を交えつつふわっと答えて誤魔化すしかあるまい。がんばれ、オレ!
「別にオレは強くなりたいと思って此処に来たわけではありません」
「そ、そうなの?」
ゴリくんとかクロハラ(仮)さんがいるこの街で、強さを求めるのが如何に無意味なコトか。
「そもそも、人の数だけ強さがある」
「人の数だけ…」
ゴリくんもクロハラ(仮)さんも、貴方たち兄妹も大概ですよね。八神もデッドリーだしさ。
眼鏡くんも眼鏡ゾーン形成してるっぽいし。ホント海鳴市は地獄だぜー。フゥーハハハー。
出会う人出会う人がなんらかの人外に位置してるっぽいし。悠人少年もコレに絶望したのか?
「オレのような弱い人間にとって、それらはあまりに眩しすぎる」
「………」
取り敢えず喋っている間は休憩できる。ソレに気付いて、ゆっくりと噛みしめるように喋る。
「だけどその想いや繋がりに触れることは決して無駄じゃない。そう、思うんです」
「想いや繋がり、か」
うん、なんか自分でも何言ってるか分からなくなってきた感。ちょっと遠い目をしてしまう。
妹さんも目立った反応はしてないみたいだし、滑ったようだがスルーしてくれたんだろう。
このまま何事も無く素振りを再開しよう。今日のコトはきっと黒歴史にして忘れてくれるさ。
それから特に会話もないまま素振りを続け、休憩を挟んで型稽古の練習にも付き合わされた。
お昼は持ってきた塩おにぎりだった。昨晩の余りのご飯を握ってラップに包んできたのだ。
妹さんは何か作ろうかと言ってくれたが流石に悪いしな。……うん、ブラック珈琲に合わん。
………
……
…
掃除も終え、帰る頃にはすっかり外は夕焼け色に染まっていた。結構身体はだるいしなぁ。
今からスーパーに向かえばちょうどタイムセールの時間。ボコボコにのされてしまうだろう。
ふ~む… ここは朝も少し考えてみたとおり、ザッと商店街のチェックもしてみようかな?
「……おう」
そんなコトを考えながら例の公園を通りがかると、例の金髪の少女がベンチに腰掛けていた。
だが、傍目にも分かるくらいドンヨリと落ち込んでる。彼女の周囲が暗闇に支配されてる。
リストラされたサラリーマンかってくらいに落ち込んでる。コレが金色の闇ってヤツなのか?
「……隣、いいだろうか?」
オレはブラック珈琲を差し出しつつ声をかけた。暗闇といえば珈琲! 渡すしかないよね!
「……あ、はい」
彼女は涙目でオレの差し出した珈琲を受け取ってくれると、そのまま黙りこくってしまった。
ど、どうしよう… なんか茶化せる雰囲気じゃないんですけど。明らかにオレ邪魔っぽい。
オレがベンチに腰掛けると、お互いに気不味い沈黙が流れる。……なんで座ってしまったし。
え、えーと… そう、なにか気の利いたことを言わないと。ウィットに富んだ会話の出番だ!
「飲むといい。……多少は気が紛れる」
「……はい」
あかん(白目)。オレがこの一ヶ月で上達したのはブラック珈琲を勧める会話テクだけかよ!
「何も… 聞かないんですね」
「……多くの悲しみは時間が癒してくれるさ」
「………」
「だが、もし解決を望むならば相談には付き合おう」
よく男女間の喧嘩で話題になる“男は女の気持ちが分からない”っていうのがありますよね?
大雑把に言うと慰めて欲しい時に淡々と問題点と解決策を語ったってのが多いみたいです。
だから男性はKYだとか女って感情的で分かんねーとか、そういう対立があるとかないとか。
ソレが全てではないでしょうし例外もあるのだと思います。つまり何が言いたいかと言うと…
オレも感情的に愚痴られてもテンパるだけで何が何やら分からないよ! という話ですね。
卑怯かもしれないが予防線を張らせてくれ。すまん、金髪の少女。頼りにならん知り合いで。
「私が… 私が望むのは、“解決”です」
「……そうか」
顔を上げた少女が、真剣な表情で見詰めてくる。え? ひょっとして相談に付き合う流れ?
「聞いてくれますか? ……私の話」
「勿論だ。……といっても、役に立てるかどうかは保証しかねるがね」
更に予防線を張ってしまうオレ、マジでチキン。すまん、金髪の少女。ガッカリさせたかな?
「いえ、貴方なら大丈夫です」
「………」
……謎の信頼が重い。悠人少年は一体この少女にどれだけ信頼を積み重ねてきたのだろうか。
「実は…」
端的にまとめると、この街に散らばってしまった“あるモノ”を巡って取り合いになったと。
自分たちは二人、相手は三人と数では不利ではあったが経験が物を言い有利に進めていた。
だが、ある程度まで戦いとどめを刺そうとしたトコロで隙を突かれて陣形を入れ替えられた。
その後は勢いに押され後手後手に回ってしまい、不覚を取って敗れてしまったというコトか。
なるほど、分からん。そもそも“あるモノ”ってなんだよ。分からないから聞いてみようか。
「その“あるモノ”というのは…」
「はい、貴方もご存知の例のモノです。この地域の一般人にはまだ認知されていませんが」
え? オレ知ってるの? ……つまり自分で考えて当ててみろということか。コレは難問だ。
「……なるほど、な」
ティンときたぞ! この子は金髪の少女。その格好もあまり日本人らしからぬファッション。
加えて大型犬をリードも付けずに散歩させていたコトから海外暮らしが長かったのだろう。
となれば、オレの知識を総動員して浮かび上がった答えが一つだけある。恐らく間違いない。
「楕円形の例のモノ、か」
「はい」
念の為に確認したが、やはりか。分かればなんてことない謎だった。え? 答えは何かって?
無論『卵』だよ。正確にはイースターエッグ、“復活祭”と呼ばれる海外の風習ってわけだ。
毎年春先に行われ、茹で卵の殻に色を塗ったり絵を描いたりして街中に隠して皆で探すのだ。
確かに日本じゃマイナーな行事だよな。勝手を知っている彼女ならば優位に立ち回れた筈だ。
だが、そうそう上手くは行かない。対抗馬とイースターエッグの取り合いに発展した、と。
ならばとバトルで雌雄を決するコトにしたのだが、奮闘むなしく敗れてしまった。残念、と。
「大変だったな…」
「はい、途中までは勝っていたんですけれど」
なんか魔法とか魔導師とか謎の用語が出てくるけれど、まぁ、そういうゲームというコトか。
話を聞く限りでは3Dの格闘アクションっぽいニュアンスかね。
そっち方面はあまり得意じゃないが、部外者ならではのアドバイスも多少出来るかもしれん。
「まずはキミたち、そして相手についてを可能な限りで構わないので教えてくれ」
「は、はい。えっと…」
ふむ… なるほど。押せ押せで攻めてくる前衛アタッカーな空を飛べないタイプが一人、と。
それから、ターゲット・ロックオンして防御を抜くような砲撃してくる後衛タイプが一人。
そして最後に前衛後衛に指示を送りつつ支援魔法をかけて立ち回る器用な司令塔が一人、と。
対して金髪の少女サイドは、高速戦闘を得意とする少女本人と格闘戦を得意とするもう一人。
偏ってるな、オイ。陣形整えられたらそりゃ不利にもなろう。装甲も抜けられるっぽいし。
結構意気消沈してるな。説明しながら彼女も己の状況の難しさを実感してしまったようだし。
ならば、オレのすべきことは“決して勝てない相手ではない”と、彼女に気付かせるコトか。
具体的な勝ち方は経験者である彼女が見付けるだろう。オレが言うのは極論でも構わない。
彼女も多分こんなオレなんかに然程の期待は寄せていないだろう。きっと、多分、メイビー。
「二対三で戦うからには負けるのは何ら不思議ではない」
「……うぅ」
「数が多いというコトは暴力だ。それだけ戦術も対応力も増えるのだから」
「……はい」
「だが、二対一を三回繰り返したらどうだ?」
「……え?」
「キミたちが二で、相手が一だ。その状況を三回繰り返す。……どうだ、勝てるか?」
「それは、その… 勝てる、と思います。ううん、必ず勝ちます!」
力強く言い切る彼女に対し、オレはニヤリと笑みを返す。こういうのは“らしさ”が大事だ。
「ならば、その状況に持ち込むためにキミたちはどうすればいいか? ソレが問題だ」
「は、はい!」
「幸いにして、キミたちには彼らには決して真似できない最大の武器がある」
「……武器?」
彼女の問いかけにオレは一つ頷き、答えを促す。気分はすっかりアーサー・ヘルシング卿だ。
やはりこの少女は素質がある。管理局の追手に怯えるRPといい、このノリの良さといい。
オレが話していてもここまで楽しいのだ。きっと悠人少年との一時はさぞ心温まっただろう。
「……魔導師としての経験に優れているコト、ですか?」
「確かに… だが司令塔の彼は中々の熟練者だ。キミたちとそこまで差があるとは思えない」
「……チームワークがとれているコト、ですか?」
「ソレはあるだろう。だが決定的とは言えない。時間とともにその差は縮まる一方だろうね」
「………」
「もっと、もっと、もっと、もっと… 単純なことだ」
「……『速い』コト?」
「そうだ。キミたちはとても『速い』んだよ」
狙ったようなこのやり取り… そして表情や台詞選び。素晴らしいな、この金髪の少女は!
「速さは手数を生み、常に戦場のイニシアチブを握れる。思考時間すら相手に渡さぬままに」
「速さ… ソレが私たちの、武器」
「キミたちが阿吽の呼吸とともに生み出す素早い連撃に、相手は常に後手に回ることだろう」
「でも、それでどうやって相手を…」
「分断する。力技で断ち切ってもいいし、誘いこんでもいい… 其処は好きにするのだな」
「……なるほど」
「相手と闘いつつ、戦場を観察するのだ。もっと簡単に“戦場を支配しろ”と言い換えてもいい」
「……戦場を、支配」
こんなオレの話にもノリノリで付き合ってくれる少女。付き合いが良過ぎでちょっと心配だ。
「でも、此方の意図に相手が乗ってこなかったら…」
「そうだな。なるべく意図は悟られないに越したことはない」
「じゃあ、しっかりと陣形を固めて守りに入られたら…」
「あぁ、勝つのは難しい。だから…」
「……だから?」
「その時は“例のモノ”を持ってさっさと逃げてしまおう」
「……へ?」
「逃げてしまえば誰も追い付けない。どうだ? 『速い』ってのは得だろう」
うん。まぁ、カッコイイ言葉で誤魔化してるけれど特に何の中身もないいつものオレですね。
“速さを武器にして少しずつ相手の数を減らせ”ってソレができたら苦労しませんよね~。
少女の疑問も尤もだ。挙句ゲームと現実の世界を混同して“逃げちゃえ”だ。コレはアウトだろ。
「プッ… ご、ごめんなさい。なんだか、おかしくって」
「いや、戯言だったな。すまない、キミにとっては真面目な話だっただろうに」
「いいえ、おかげで楽になりました。無理に勝たなくても良いんだ、って」
「……そう言ってくれると此方も助かる」
いい笑顔でそう言ってくれる。彼女は優しい。此方のコトを気遣って笑ってくれたのだろう。
そんな彼女に冗談を言ったオレ。無責任にも程がある。嫌われる前にさっさと退散しよう。
……もう手遅れかもしれないけれど。“こんな敗北主義者は処刑だ!”とか思われてないかしら。
「つまらない話をしてしまったな。……オレはそろそろ行こう」
「い、いえ! すごく勉強になりました!」
ええ子や。こんなくだらない話に付き合ってくれたばかりか、キチンとお礼も言えるなんて。
さり気なくブラック珈琲も、二本目を渡せたし。受け取ってくれたし。めっちゃいい子だ。
家に持ち帰るもよし、友達にあげるのもよしだよ。今後も末永いお付き合いをお願いしたい。
………
……
…
それから暫く経った休み明け。久々に夢電波たちと回線がつながった。でも様子がおかしい。
『おっすおっす。どうした、今日は? なんか元気ないなー ヾ(ゝω・`)oc<キラッ♪』
『あ、顔文字の人。うん、実は温泉旅行に行った時にちょっと色々とあってね…』
電波さんたち温泉旅行とか行くのか。そういえば海鳴市にも温泉あったっけ? ま、偶然か。
『実は以前言ってた探し物を見つけたんだけれど… それで衝突があってね』
『おー、アレか。なんか宝石とか探してるんだっけ? (´・ω・`)』
以前ジュエルペットがどうとか言ってたもんね。まだ続いてたのか。結構流行ってるんだな。
『……其処でかち合った相手に負けたんだよ。ソレも以前勝った相手にな』
『あらら… まぁ、勝つ時もあれば負ける時もあるさ。ドンマイ! O(▽ ̄*)』
ソレで落ち込んでたのか。ポケモンバトルとかだったらオレもそれなりに指南出来るんだが。
『ソレは確かにその通りなんだけれど、今回はちょっと不自然さが目立ってね』
『どういうことなん? (。´-ω・)ン? 』
『以前戦った時は力押しで攻めてくる印象だった。確かにその実力は脅威だったけど…』
『あぁ、対応できないほどじゃなかった。だから前回も勝ちを拾えたんだ』
『今回は違ったってコトかー… (;´・ω・)』
『うん… 何がなんだか分からないウチに分断されて、各個撃破されちゃったって感じ』
要約すると手も足も出なかったわけか。そりゃキツイな… 落ち込むのも分からんでもない。
『単に相手が本領を発揮しただけって話は? 壁|°∀°)クヒヒ…』
『確かにソレもあるかも知れない。けれど事態はもっと深刻かもしれない』
『深刻? 壁|A゜)ジー』
『うん。相手に優秀なブレインがついた可能性もある… それだけ戦術的な動きだった』
なんと。其奴がこの事態を引き起こした元凶ってコトか。コイツはめちゃ許せんよなぁ~?
『マジかよ、オレのイマジナリーフレンズによくも… よくも… (ρ≧□≦)ノ…!!!』
『え? ちょ、イマジナリーフレンズって… 僕たち、ちゃんといるんだけど』
ハハッ、ナイスジョーク(笑)。
『もしソイツを見つけたらボッコボコにしてやんよ! (c=(c=(c=(c=(゚ロ゚;c=アチャチャチャチャチャ-!!』
『あはは… こうなったら顔文字の人は止まらないからね~』
『フッ、ようやく笑顔を取り戻したようだな… オマエら (`・ω・´)b』
『……あぁ、元気付けられたみたいだな。みっともないところを見せた。礼を言うぜ!』
なぁに、いいってことよ。(多分)子供たちは元気が一番。笑顔が一番似合うはずだからな。
だが、分断に各個撃破ねぇ… 最近どっかで聞いたような気がするが。ま、気のせいかな?
こうしてオレは、あまり深く気にせず以後はいつものように駄弁って盛り上がるのであった。
次回はフェイトさん視点になるかと思います。
ご意見ご感想にお叱り、誤字脱字のご指摘はお気軽に感想欄までどうぞ。