オレを踏み台にしたぁ!? 作:(╹◡╹)
非常にお見苦しい話である可能性が高いため、ご注意の上お読みください。
「将来かぁ…」
呟きながらタコさんウィンナーをプラスチックの爪楊枝で刺し、クルリと回して口に運ぶ。
お昼の時間… 屋上はそこそこの生徒数で賑わい、それぞれの話題に花を咲かせている。
私たち… アリサちゃん、すずかちゃん、刀真くん、そして私の4人グループもその一つだ。
「アリサちゃんたちは、もう大体決まってるんだよね?」
「うちはお父さんもお母さんも会社経営だし、一杯勉強してちゃんと跡を継がなきゃね」
「私は機械系が好きだから… 工学系で専門職になれればいいなって…」
う~ん… やっぱりみんなしっかり考えてるんだなぁ。
私はどうなんだろう? 喫茶『翠屋』の跡取り娘? それも勿論候補の一つなんだけど…
あれ? 刀真くん、さっきから難しい顔して黙ってどうしたのかな?
「刀真くん、どうしたの? 何か、考え事?」
「ん? あぁ、いや…」
いち早く気付いたすずかちゃんが彼の様子を伺う。
いつもだったらそれで笑顔に戻ってくれる筈。けれど、今日の彼はそれでも浮かないままだ。
ひょっとしたら… 彼も、漠然と同じコトを考えていたのかも。……“さっき”のことを。
「さっきの桜庭のコトで、ちょっと… な」
……やっぱり。口には出せないがそう思った。
ううん… 私だけじゃない。アリサちゃんやすずかちゃんにとってもそうだったのだろう。
先ほどまでのわざと話題を避けていたような、わざとらしい空気は既に吹き飛んでいた。
――全てを望む。そのためにはあらゆる困難や障害を力によって排除していく。
彼は迷いなくそう言い切った。“自分が望むのはほんのちっぽけなことだ”とでも言う風に。
其れが否定されることなどありえない、とでも言うように。其れは事実、果たされる。
彼の迫力に飲まれたクラスは、先生ですらろくな注意を挟めないままなし崩しの授業に入った。
「あんなのは世迷いごとよ! 最近ちょっとは変わったかと思ったけれど…」
「でも… 恐怖のない安息に満ちた生活とか、やっぱり簡単には手に入らないと思う…」
「すずか! アンタ、だからってあんなヤツの言うことを…」
「ううん、違うよアリサちゃん。そういうつもりじゃないの。けど、けどね…」
ど、どうしよう。二人が言い争いを始めちゃったよ… こんなこと、滅多にないのに。
でも、確かに内容はともかく迷いなく言い切った桜庭くんの姿勢は羨ましくて…
だから、どうやって二人を止めたら良いか分からないよ。……刀真くん、お願い。助けて。
私の願いが通じたのか、刀真くんは一つ頷き口を開いた。
「……確かにアイツは変わったと思う。以前までのように無軌道な暴れ方はしなくなった」
「あ、うん。そうだよね… お母さんもそう言ってた。割りとケーキ好きみたいよって」
「確かに変に知恵が回るようになったわね。それに、殴ろうとしてもすぐに逃げていくし…」
「あはは… 前だったらアリサちゃんに追われても逃げずに抱き締めようとしてたよね…」
みんな、心の何処かで思っていたことなのだろう。堰を切ったように思い思いに語りだす。
一番の違和感はあまり私たち3人に近付かなくなったことだろうか? むしろ避けてる?
翠屋ではたまに会うこともあるけれど、ケーキ目当てみたいだしアリサちゃん見たら逃げるし。
「けど、それだけに今のアイツには底の知れなさがある。……深みがあるって言うのかな」
「………」
一同、押し黙る。そうなんだ… たまに口を開けば余裕のある言い回しや難しい表現ばかり。
私たちに余り本気になってないっていうか、遊ばれているような印象すら受けちゃう。
それを感じるからこそ、プライドの高いアリサちゃんは怒って追いかけ回してるんだと思う。
「フン! どうせアイツのコトだからロクでもないコトを企んでるに決まってるわ!」
「それは… うん、そう考えるのが自然なんだけど…」
今の彼は問題行動らしい問題を起こしていない。けれど、時折滲ませる気配や表情…
それに、さっきの授業でのような言い回しなどで私たちの警戒をコレでもかと誘ってくる。
まるで慌てふためく様を楽しむか、あるいはその先にある何かを狙っているかのように。
「コレ以上ココで話していても結論は出ない。だったら、俺らしくやってみるさ」
「どうするつもり? 刀真」
「……考えてダメなら、当たってみるしかないだろう。アイツ… 桜庭本人に、直接な」
そう呟いた刀真くんの瞳は、決意に彩られていた。
………
……
…
今は夜だ。学校帰りに傷付いたフェレットを拾って槙原動物病院に預けたのが夕方のこと。
でも、昨晩夢で見たような景色で一瞬驚いたのは内緒だ。ううん、内緒はそれだけじゃなく…
“私と刀真くんだけ何かの声に導かれるようにフェレットを探し当てられた”という点だ。
私一人だけだったら空耳や幻聴ですまされたかもしれないけれど、どうして刀真くんまで?
塾での授業中もそれが気になって、当てられてしまった時もミスしそうになってしまった。
うぅ… 失敗失敗。真面目に受けないと。そういえば、桜庭くん最近全然塾に来ないよね?
帰宅し、晩御飯の時にフェレットのことを家族に切り出してみた。一時預かれないかなって。
アリサちゃんやすずかちゃんのお家は、他のペットを飼っている関係で難しいみたい。
刀真くんのお家は、お父さんとお母さんが揃って動物アレルギーで無理みたい。大変だよね。
ちゃんと話してお願いしたら、みんな賛成に回ってくれた。頑張ってお世話しないと!
アリサちゃん、すずかちゃん、それに刀真くんに首尾の程をメールにて送信… と。
はぁ、ホッとしたなぁ… コレで明日を迎えるばかりだよね。フェレットさんも安心だよ。
『聞こえますか… 僕の声が…』
そんな時だった… 不思議な声が頭に響いてきたのは。コレは、誰の声? なんなの?
『コレ… 昨夜の夢と、帰り道に聞こえたのと同じ声…』
『オマエは誰だ? 俺を呼んでいるのは、オマエなのか!?』
え? 声が増えた。そ、それにこの声… どこか聞き覚えがあるような…。
でも、呼びかけ主はこちらの反応に安堵の吐息を漏らしたみたい。
『良かった… 僕の声が聴こえるんですね。お願いです。僕に少しだけ力を…』
『ちょっと待って欲しい。オレの声も聞いて欲しい(´;ω;`)』
何らかの言葉を更に紡ごうとしていた呼びかけ主の声に、割って入る新たな声。
あ、あれ? えーと… 呼びかけ主さんと、それに応えた声さんと新たな声さんと私。
うぅ~… ややこしいよぉ。
『え? あの、貴方は誰ですか? 勝手に割りこまないでください。それに今は…』
『割りこんでゴメン。でもこっちもそれどころじゃないんだ。火事なう(´・ω・`)』
え、えぇ~!? か、火事って… 確かに其れは一大事だよ! ど、どうしよう!?
『オマエ… 火事って大変じゃないか! 大丈夫なのか!?』
『心配してくれてありがとな、元気な少年。今はなんとか無事だぜ!(`・ω・´)ゞ』
ほっ… 良かった。煙に巻かれて倒れてるとかだったら大変だったもん。無事でよかったよ。
『けど、長くは持たない。知恵が欲しい。パソコンは8000通の未開封メールのせいで動かない。スマホはキッチンの上に置きっぱだったんで取りにいけねぇ。てかお釈迦の可能性大(;・∀・)』
『……家族はどうなんだ? 親や兄弟は頼れないのか?』
『事情があって遠くで暮らしてる両親がいるぜ。……顔も知らないけどな(´・ω・`)』
うわ… 複雑な家庭の事情を知っちゃったよ。どうしよう。コレって結構ピンチだよね?
『余り心配かけたくないから、電話は最終手段にしたいけど… 電話すべき?(´;ω;`)』
『そっか… そうだよな、親御さんに迷惑はかけられないよな。できるだけ頑張ろうぜ!』
『うん、その気持ち… 私もよく分かるよ。力になってあげたい!』
『オマエらのヌクモリティに全オレが泣いた。ありがとう… ありがとう…(´;ω;`)ブワッ』
家族に迷惑はかけられない気持ち… 分かるもん! 力になってあげないと!
『あ、その、ごめんなさい。僕の方も結構ピンチでして、その…』
『おっと、すまなかった。じゃあ、元気な少年の方はそっちに向かってくれ!(`・ω・´)ゞ』
『そう言うなら行くが… 大丈夫か?』
『なぁに、こっちは少女に家庭の知恵を借りるさ。……大丈夫だ、問題ない( ー`дー´)キリッ』
こ、ここで私一人にこの重圧が乗りかかるのぉ!? が、頑張らないと…。
『わ、分かりました。とりあえず状況を話してください』
『任せろ。あれは今から三六万… いや一万四〇〇〇年前のことだったか…(o・ω・o)』
『て・ば・や・く! ……お願いしますね?』
『サ、サーセン…((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル』
要約すると、犬猿の仲の知り合いに挑発されてついカッとなって唐揚げを作ろうと思った。
サラダ油に火をかけっぱなしにして余所見してたら大炎上になって今に至る… と。
うわぁ… この人ホントに心の底からどうしようもないダメ人間だなぁ。ウフフ…(遠い目)。
『とりあえず、まずコンロの火を切ることです。次にお風呂場で濡れた毛布を何枚か用意!』
『お、オーケーBOSS!φ(*'д'* )メモメモ』
『あとは火元に重ねて消化してください! 次やったら素直に消防署に連絡しましょうね!?』
『は、はい… マジサーセンっした…(´;ω;`)』
もう! でも、ふざけた調子の人だけどどこか憎めない感じだったなぁ。
そんなことを思いながら、呼びかけ主のところに急ぐ。私だって何かできるかもしれない!
……あの人、なんで脳内の声であんなにフリーダムに顔文字っぽいの表現できたんだろ。
………
……
…
現場にたどり着くと…
其処には夕方のフェレットを背に庇いながら、怪物を足止めしている刀真くんの姿があった。
えぇっ!? こ、コレってどういう状況なの!?
「来たか! すまないが、オレの魔力じゃコイツを封印できないらしい… って高町ぃ!?」
流石の刀真くんもビックリしてるみたい。
あはは… そうだよね、私なんてビックリし過ぎてさっきからついていけないくらいだし。
「と、とにかく… そこのフェレット! 事情説明は任せた! 時間稼ぎは引き受けるッ!!」
そう言って、ボールのような怪物を蹴飛ばし刀真くんがラッシュを仕掛けている。
フェレットって… この子? 事情説明なんて、どうやれば…。
「あの…」
「わわっ、喋ったぁ!? って、コレ、さっき聞こえてた声…」
「彼と同じで来てくれてありがとうございます。どうか、僕に力を貸してくれませんか?」
「ち、力って? そ、それに… 刀真くん勝ってるんじゃ…」
そうなのだ。
怪物の攻撃は全てかわし、時に剣で薙ぎ払い、時に拳で撃ち貫き… 終始刀真くんのペースだ。
「えぇ、彼はよくやってくれてます。けれど、ジュエルシードを封印するには魔力が足りない」
「まりょ、く…?」
「どうか… 僕の力を、魔法の力を使ってくれませんか? お礼はします。必ずしますからッ!」
「なんだか分からないけれど、私にしか出来ないことがあって… それが貴方や刀真くんの助けになるってことだよね? だったら、いいよ。お願い、教えて! 一体、どうすればいいのッ!?」
このまま黙って見ているなんて出来ない。私しか出来ないことがあるなら迷うことなんてない!
「この宝石を手に… 目を閉じ、心を澄ませて。そして、僕の言うことを繰り返して」
「(この宝石、暖かい)……うん」
目を閉じるだけで、不思議と心が澄み渡っていく。この宝石に、まるで助けられてるように。
「我、使命を受けし者なり」
「――我、使命を受けし者なり」
「契約のもと、その力を解き放て」
「――契約のもと、その力を解き放て」
なんだろう? 私の手の中で、宝石が一つ脈打った気配がする。
「風は空に、星は天に」
「――風は空に、星は天に」
間違いない。この宝石は脈打ち、そして今や輝きを放っているではないか。
けれど、不思議と驚きや不安感はない。
『おっすおっす、今大丈夫? 無事鎮火したから連絡に。マジ、あんがとね!(`・ω・´)ゞ』
「おっすおっす、今大丈夫? 無事鎮火したから連絡に。マジ、あんがとね!」
『ちょ、邪魔すんなぁあああああああああああああああああああああああッ!?』
フェレットくんの絶叫が夜空に響き渡った。
あ、えっと、その… それから色々とあって私は無事に“魔法の力”を受け取りました。
魔法少女っていうのかな? に変身してから、刀真くんが弱らせてた怪物を封印して。
今夜の事件は解決ということになりました。
怪物を生み出していたのはジュエルシードっていう宝石。
異世界における古代遺産で、願いを叶える凄い力を秘めてるんだけど制御が難しいんだって。
全部で21個あって、さっき封印したのと合わせてそのうちの2個が手元にあるんだとか。
「さっきみたいな怪物が現れるんだったら放ってはおけないな。けど、高町。オマエは…」
「みなまで言わないで、刀真くん。私だって同じ気持ち。それに、封印役は必要でしょう?」
「ごめんなさい… 僕の事情で巻き込んでしまって」
項垂れるフェレットくんを慰めながら、詳しい話はまた明日… ということで解散しました。
家に帰ったらお兄ちゃんとお姉ちゃんにバレバレで、怒られちゃったよ。トホホ。
でも、フェレット改めユーノくんはお母さんが気に入ったこともあってウチで預かることに!
その晩は軽く自己紹介だけしてすぐに休むことにしました。
明日からジュエルシード探しで忙しくなるんだもん。つまり、身体が資本だもんね。
私にしか出来ないことがある。それがこんなにもワクワクすることだなんて!
え? 顔文字の人? 消火作業で疲れたって、アレからすぐに寝ちゃってたけど…。
一体誰だったんだろう?
どっかで聞いたことある声だったような… う~ん、気のせいかな?
次回はいよいよフェイトさんの登場と相成ります。楽しみの方はお楽しみに!
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