その頃、ガミラス星では、小マゼラン戦線から名将ドメル中将が召還されていた。
ガミラスの総統デスラーは、大浴場につかっていたが、青年士官が時間を告げにおとづれた。
「総統、ドメル中将の叙勲及び昇進式典の準備が整いました。」
「わかった。」
バレラスの中央通りでは、「ドメル!」「ドメル!」の歓声が響くなか、ドメルが反重力艇に乗りそのあと兵士の行列が続いた。
デスラーは正装すると総統府の1階にある謁見台の階段の上にマントをひるがえしながら現れる。
今度は、「デスラー総統万歳!」「デスラー総統万歳!」の歓声が幾度となく繰り返される。
ドメルが右手をひじを曲げて90度上に上げる敬礼をするとデスラーも同じ答礼をする。
デスラーが謁見台の階段をおりて、
「ドメル中将、貴君を上級大将に任じる。また銀河系方面軍司令長官を命じる。」
とドメルに伝え、自ら特一等デスラー勲章をドメルの胸につけると歓声はいよいよ大きくなり、
「デスラー総統万歳!ドメル将軍万歳!」の歓声が繰り返される。
ドメルはデスラーに
「総統、小耳にはさんだのですが、例のオリオン腕のG型恒星の惑星に住む野蛮人どもの「ヤマト」とかいう船がシュルツの基地をつぶし、その恒星系を飛び出してきたとのことですが。」とささやくと
「なに、銀河系をうろうろしているところをひまつぶしにかまってやったがね。」
「わたしがひねりにいってきましょうか。」
「君を派遣する前に、ゲールを召還して度重なる作戦の失敗の責を問う予定だったが手間が省けた。君の場合は彼と違って勲章が増えるだけだろうがね。ただ、枕元に蚊がとびまわっているのは、愉快なものじゃないということだ。とっとと叩き潰してきてくれたまえ。」
「はつ。」
その頃、ヤマトは...
「ワープ終了。」
「波動エンジン異常なし。」
「艦の損傷みとめず。」
「バラン星から5万光年ワープしました。自動操縦に切り替えます。」
「技術班は、バラン星で採集した資料の分析をいそいで。」
「はい。鋭意行っています。」
ワープが終了し、自動操縦に切り替えたため、千早は操縦席を離れることができた。
春香が千早に声をかける。
「千早ちゃん、分析室に行ってみようよ。現時点でどれだけのことがわかっているのか。」
「そうね。今後の航海のことを考えても決して無駄にはならないわね。」
二人は分析室へ行き、春香が律子に声をかける。
「律子さん、ガミラスがどこから、何のために、どうやって地球まで来たのかわかってきましたか。」
「まあ、敵は、ヤマトの基地攻撃が終わった後、艦隊戦と人工太陽をヤマトにぶつけることにこだわっていたから短い時間ではあったけれど幾分かの資料はあつめられた。それで、なんとなくわかってきたことはあるわ。」
「っていうと...。」
「それは、ガミラス人がどうやら何らかの理由で地球に移住することを考えていたのではということよ。具体的には、ガミラスの本星も大マゼラン雲のなかにあるらしいこと、遺体を収容したところ、体形やDNAは私たち人類に非常によくにているけど、放射能耐性というか、放射能があるほうが都合がよい青い皮膚と遺伝子をもっていること、地球の放射能汚染の測定を行って、本国へ連絡していた記録があるということね。」
「放射能汚染の測定記録って…?放射能があるほうが快適ということですか。」
「わたしたちの常識からは考えにくいけど、そういう種族である可能性があるということね。わたしたちが火星や木星の衛星を地球のような環境に変えていくことをテラフォーミングっていうのは春香も知ってるわよね。」
「はい...ということは、ガミラスフォーミングって言っていのかわからないけどそういうことを遊星爆弾で試みてたってことですか。」
「そーいうことになるわね。」
分析室で春香と律子と、自動操縦で操縦席から離れて休憩していた千早の話に、元気な双子姉妹がわりこんできた。
「ねえねえ。りっちゃんにはるるん。さっきから「てらふぉあぐら」とか「がみらすふぉあぐら」って話してるけど、それっておいしいの??」
「あのねえ。「フォアグラ」じゃなくてフォーミング。「テラフォーミング」は簡単に言えば「地球化する」ってこと。」
「亜美に真美、機関室の仕事は??」
「ワープ終わったし、機関室は交代で、亜美と真美は休憩時間なんだ。面白そうだからきてみたの。」
律子と春香と千早は顔を見合わせて苦笑する。春香が話をもどす。
「って話をもどしてっと。そうするとガミラス人の目的が地球への移住だとしたら、中間地点であるバラン星基地は重要な拠点っていうことになりますね。」
「そういった場所にある基地を破壊されて、だまってはいないでしょうね。何か仕掛けてくると考えたほうがいいわ。」
「何か仕掛けてくるの??爆弾かな。こわいなあ。りっちゃん?どうすればいいの?。」
「う~ん。もう。それをわかれば苦労しないわよ。」
ガミラス星ではドメルが出発に当たって戦場の選定にあたっていた。もうヤマトはバラン星のワープゲートを通過し、大マゼラン雲から2万光年弱の位置にいる。
ドメルは幕僚をあつめて作戦を練っていた。
「これがゲルマリウス三連星、通称「三つ子星団」です。」
「う~む。ここは放射能風が強すぎて、今回の作戦には向かない。」
「それでは、ネガ星系の重力星団はどうでしょうか。」
「我が艦隊の隠れる場所がないな。ここもだめだ。」
「七色混成発色星域です。通常「七色星団」と呼ばれています。それぞれの星が特殊な物質を含んでいるため、紫、青、緑、黄、橙、赤に輝き、暗黒星雲からなっています。」
「うむ。ここにしよう。俺の挑戦状をヤマトに送るのだ。」
「はつ。」
「実は、今回の作戦にあたっては、兵器開発部で新たに開発した新兵器を使うことにしている。」
ドメルは副官に
「新しく開発した瞬間物質移送機だ。これは簡単に言えばワープ光線で、物質移送空間をつくり、物体を好きな場所へワープさせられる。戦闘機を一挙にヤマト上空に移送して奇襲をかけるのだ。」
「司令。並みの戦艦ならそれで沈むでしょうがヤマトには艦載機がいます。それからやつは波動砲をもっています。その対策はいかがなさいますか。」
「これをみろ。民需用の岩盤掘削弾の転用だがドリルミサイルだ。これをヤマトの波動砲口に撃ち込み爆破させる。ただちに、ヤマトへ挑戦状を送り、ルビー戦線のゲットー、ダイヤ戦線のクロイツに決戦の檄を伝え集結させろ。」
「御意。」
その頃ヤマトでは航海班が航行日程の確認をしていた。
「あと1万7千光年でイスカンダルに着く予定だけど...」
「何もなければいいんだけど。」
「まあここまで60日で着いているわけだから上出来といえば上出来ね。」
「千早ちゃん、大至急第一艦橋へ来てくれる?」
「春香、どうしたの。」
5分前後で第一艦橋へ、メインクルーが集まってきた。
「何が起こったの?春香?」
「みんな、挑戦状よ。挑戦状。ガミラスからの。」
「挑戦状だって??」
真が口をへの字にまげてうなるよう話す。
「翻訳機セットしますぅ。」
雪歩が報告すると、舞が
「再生おねがいね。」と指示した。
雪歩が翻訳装置のスイッチを押して再生がはじまる。
「ヤマトの艦長及び乗組員諸君に告ぐ。そろそろ雌雄を決する時が来たようだ。
諸君がイスカンダルへ行こうとしているように、われわれには地球移住計画がある。
その目的を達するためには、お互いに敵である相手を倒さねばならぬ。
諸君はわれわれを、われわれは諸君をだ。もし、諸君がどうしてもイスカンダルへ行くことを欲するなら、我が軍を正面から打ち破る必要があるが、われわれこそが、諸君をかならずや撃沈してその希望を打ち砕き、ガミラス民族の移住を達成させていただくことになろう。本日より五日後に七色星団において決戦を申し入れる。大ガミラス帝国銀河系方面軍司令長官上級大将ドメルより、ヤマト艦長及び乗組員諸君各位。」
舞はしばらく沈黙していた。
「ねーねー、りっちゃん?「しゆうを決する」ってどういうこと?」
「どっちが優れているか勝負するってことよ。「雌雄を決する」って書くの。」
「ねーねーこの字って「雌(メス)」って字だよね。亜美たちみんな女の子じゃん。」
「そっかあ、亜美、雌(メス)の字のほうが先にあるから、これはきっと雌のほうが優れているって決めることなんだよ。」
「そっかあ。」
「二人とも、まぜっかえさないでw。さて、このあいだの分析結果ですが、ドメル将軍がいうように地球移住計画とガミラス人が大マゼラン雲にいること、地球をガミラスフォーミングしてきたことしかわかりませんでした。」
「まあ、忙しかったからね。あの時は。律子さん、ありがとう。」
「艦長、少しでも回避できるなら回避したいのですが。七色星団は難所ですし。」
「律子、春香、どう思う?」
「千早ちゃんの言うことはもっともだと思います。だけど七色星団での戦いを避けてもまた別の戦場でドメル将軍に待ち伏せされるだけなので...。」
「ガミラスはバラン星基地を叩き潰されてだまってないわね。」
「そうですね。千早のいうことはわたしももっともだと思うのですが、春香の言うような結果になるのが目に見えてるのが心配なんです。」
「だから戦場としての七色星団を分析。この際だからばーんとやっつけちゃう。春香!。」舞は春香に振る。
「みんな。ここまでがんばってきたんだもん。必ず勝ってイスカンダル行こう。ヤマトクルー、ファイト。」
円陣を組んで皆が手のひらを重ねて「ヤマトクルー、ファイト。」と唱和した。
「ところで七色星団ってどういうところなの?」
「七色混成発色星域といって、それぞれの星が特殊な物質を含んでいるの。カリウム、ナトリウム、ストロンチウム、銅を含んでいるので、炎色反応で紫、青、緑、黄、橙、赤に輝いているわ。それに濃密な暗黒ガスによる暗黒星雲があり、古い星の死骸である黒色矮星がある。恒星の近くには恒星風、電磁波。暗黒星雲の中はときどきイオン乱流が起こる。」
「うかつに入り込んでレーダーをつぶされたら苦戦必至ね。」
「敵艦載機の奇襲があるわよ。主砲と煙突ミサイル、サーモバリックモードね。
それから律子、やつらがヤマトのレーダーを効かなくしてハヤブサひっぱって、ヤマトの近くに艦載機とかをワープさせてくるってのはどうかしら。わたしだったらそうやってヤマトをふくろだだきにするわね。」
「!!」
すぐれた指揮官は、人知も及ばない直感があるという。古今の名将、ハンニバル、ナポレオン、チムールの戦術的センスと直感はおそるべきものだったが、律子はあらためて舞のすごみを感じた。そういえば、この人は訓練学校に入る前は歌えばビルひとつたつというアイドルだった。今は指揮官として天才的才能を発揮している。
「ガミラスの科学力なら十分に考えられます。」
「もし、艦載機がきたら、その作戦ね。そんときは、ただちにワープ。敵の後ろとってこっちがぶちのめす…あっと、やっつけるのほうがいいかしら~。レーダーがまったく効かないんじゃ困るから。」
そのころ、ガミラス本星では、各部隊がドメルの指揮下に加わるために各戦線から集結しつつあった。
ルビー戦線からえり抜きの部隊を率いてきたのはゲットーである。戦闘機が満載された第一空母を指揮している。ダイヤ戦線からは雷撃機を積んだ第三空母を指揮するクロイツが加わった。第七戦闘団を指揮するバーガーは急降下爆撃機の母艦である第二空母に指揮座を移した。また、ドメルの副官ハイデルンは、重爆撃機を載せた戦闘空母に指揮座を移して参戦することとなった。
「ひさしぶりに故郷の土が踏めるな。」ゲットーやクロイツは部下たちの顔をみながら笑いかける。部下たちもひさびさにガミラス本星に帰還でき、うれしそうであった。
第一空母が宇宙港に着陸し、その隣に第二空母が着陸する。
「よし。わが第三空母は、第二空母の隣に着陸する。降下用意。」
「了解。」
第三空母が着陸すると、ハイデルンも
「わが戦闘空母は、第三空母の隣に着陸する。降下用意だ。」
「了解。」
宇宙港に四隻の空母が並ぶ様子はさながら巨大な城が現れたような壮観さであった。
さて、作戦室に副総統のヒスをはじめ、将軍たちが集まってくると、ドメルは作戦を説明する。
「それでは、諸将、遠路はるばるご苦労であった。お集まりいただいたので、早速作戦を説明したい。まず、暗黒星雲の後ろ側に布陣する。第一空母から戦闘機を発進させる。そしてやつらの直援機を誘い出す。続いて第二空母から急降下爆撃機、第三空母から雷撃機を瞬間物質移送機で送り出します。」
「なるほど。ヤマトはさぞ混乱するだろう。」
ヒスが満足そうにうなづく。
「この攻撃は、完全に奇襲になります。突然現れる急降下爆撃機と雷撃機に対処が遅れ場合によってはこの時点で撃沈の可能性もありますが、万一撃沈できなくても相当抵抗力が弱っていることでしょう。そこへドリルミサイルを搭載した重爆機で波動砲口をふさぎ内部から爆破してしまいます。ヤマトは七色星団にただよう鉄くずとなりはてるでしょう。」
「ドメル司令。すばらしい作戦だ。大ガミラスの存亡と総統のご信頼に報いるためにも、思う存分戦いたまえ。」
「はつ...。」
ドメルは作戦会議を終え、居室へ戻ろうとしたところ、週番士官が彼に声をかけた。
「ドメル司令。ルビー戦線とダイヤ戦線から選抜された空挺団が到着しました。空挺団の各指揮官が司令にお会いしたいとおっしゃっておられますが...。」
ドメルは、かって戦場で労苦をともに分かち合い、勝利をつかんできた懐かしい戦友の顔に出会い、うれしさがこみ上げてくる。
「やあ、ゲットーか。よく来てくれた。」
「ドメル司令。お久しぶりです。また司令のもとで、働けることを部下ともどもよろこんでおります。」
「うむ。頼むぞ。」
「クロイツ、遠いところからご苦労だった。」
「いいえ。ドメル司令のお呼びとあれば、部下ともども喜んでかけつけます。」
「ありがとう。よろしく頼むぞ。」
「小耳にはさんだのですが、冥王星でシュルツが戦死し、バラン星基地も破壊されゲールも戦死したとか。」
「うむ。敵はあの反射衛星砲を打ち破ったのだ。それにヤマトのヒダカマイという艦長は、冥王星会戦で我が艦隊に敗北した地球防衛軍で、別働隊をひきいて隕石を用いた奇策で唯一我が軍に戦艦や駆逐艦を沈めるなどの損害を与えて戦果を挙げているそうだ。ゆだんならない敵だ。」
「さすがに今回の瞬間物質移送機には対処できないでしょう。」
「そうありたいものだな。」
「まあ、諸君、明朝が出撃だ。今晩は、ゆっくり休んでくれたまえ。」
ドメルが敬礼をするとゲットーとクロイツは答礼し、それぞれの居室へもどっていった。
ドメル艦隊の作戦を七色星団という戦場から分析し、非凡な才能をみせる舞。ガミラス星ではドメル艦隊が集結し、出撃に備えてしばしの休息をとっていた。