そのころ、バラン星では、ゲールがバラノドン特攻隊の訓練を繰り返していた。
バラノドンは、バラン星に生息する生き物でふだんは団子のようになってバラン星の火山岩のミネラルがたっぷりとけこんだ海水にすみついている。比較的テイムがしやすく、犬を凶暴にしつけることが可能なように、飼い主の意向によっては猛獣のような怪物にしたてることができる。分裂合体が可能で真空中でも12時間は平気で生きていることができる。
ゲールは数年間かけてバラノドンを兵器としてしつけることに成功し、それはもうすぐ仕上がろうとしていた。
いつものように火山岩の粒子が溶け込んで褐色をした海水のなかをバラノドンの粒子の群れがレミングのように一定方向に進み、ころがりながら徐々に合体していく。バラノドンの合体形は、回転しながら空中に巨大なボールのようになって浮かび上がる。ガミラス戦闘機が発進し、ゲールが頭にかぶったイメージ投影機によってバラノドンに念波をおくり、バラノドンの変身体が形成される。
「う~む。まだわしのイメージ投影力がたりんのかもしれん。明日また実験しよう。」
ゲールは、部下である戦闘機の操縦手に話しかけ、部下は
「はつ。」と短く答えた。
翌日...ゲールは実戦を想定した訓練を行うことにして、部下に命じた。
「ヤマトの航行能力を想定したダミー艦を打ち上げろ。」
「はつ。」
「バラノドン特攻隊、出撃。」
褐色をした海水のなかをバラノドン粒子の群れが一定方向に進み、合体して回転しながら巨大なボールとなって空中に浮かんだ。
ゲールがイメージ投影機に念じるとバラノドンの合体形は「トリケラトプス」のような形になる。バラノドン完成形である。
「おお。ついに成功だ。」
バラノドン粒子が次々合体し、完成形の「トリケラトプス」形状になっていく。
「トリケラトプス」の群れは、さらに合体し、350mに達する「巨大トリケラトプス」になった。バラノドン最終形態である。
「「ヤマト」発見。座標H3、X3、Y-6」
「バラノドン、「ヤマト」を攻撃せよ。」
「ヤマト」のダミーはショックカノンを撃つがバラノドンは分裂して再び「ヤマト」におそいかかり、ついにダミーの「ヤマト」を破壊する。
「ぐふふ。ヤマトも同じ運命になるのだ。ドメルが来るまでにわしが片付けてやる。勝利報告で召還命令は取り消しだ。」ゲールは満足そうに笑っていた。
ヤマトは、亜空間回廊を抜けてバラン星空域に現れた。
「ワープ終了。」
「航路に間違いありません。」航海班の千早の部下が報告する。
「バラン星と思われる天体まで100宇宙キロ。」
ヤマトの第一艦橋の窓には全体的には暗黒であるが火山活動で赤道付近が赤く輝く惑星が見えている。
「艦長、これまでの航路データと現在位置です。」
「どうやらバラン星にまちがいないようね。」
「いよいよここまできたわね。」律子が感慨深げにつぶやく。
第一艦橋の面々は感慨深げに安堵の息が漏れた。しかしそれが長く続かないことをヤマトの面々は思い知ることになる。
「小鳥、航宙隊を率いて偵察に行って来てくれない?。」
「了解。音無小鳥、コスモファルコン隊で偵察に行ってきます。」
「わたしもアナライザーを乗せてコスモゼロで行ってきます。」
「春香、無理しないでね。」
「はい。」
「アナライザー、直径はどのくらいあるの?」
「約2千600万キロ。地球ノオヨソ二倍強デス。」
「あれ??なんか輝いている星のようなものが??太陽のように見えるけど??」
「ソウデス。アレハバラン星ヲ公転スル太陽デス。」
「ええつ??太陽のほうが回っているの??」
「直径オヨビ質量ハ地球ト同ジクライデス。」
「植物みたいなものが生えてるけど地下にもぐろうとしている。」
「前方ニ強イ金属反応ガアリマス。」
すこし遠くに大きなクレーターがあり、半分が水と思われる液体でみたされていた。カルデラ湖と思われ、火山岩の成分が溶け込んで赤茶けて見える。その周囲には人工的な構築物が点在している。その中央にはそれほどは大きくないもののひときわ目立つ塔のような構築物がそびえていた。
「あれは...基地なんじゃ...。」
「小鳥さん、基地らしきものを発見。あのカルデラ湖の周囲を探りましょう。」
「了解。」
「ヤマト、ヤマト、聞こえますか。」
「こちらヤマト。聞こえてますぅ。」
「みんな、基地ですよ、基地です。ガミラス基地を発見しました。これから調査にはいります。」
「基地....」
「基地ですってえ。」千早と伊織が顔を見合わせる。
ガミラス基地は、ヤマト艦載機に気がついて対空砲火がはじまる。それからガミラスの迎撃機の編隊が現れる。
「きた...。」
「春香ちゃん、ここは私に任せて、ヤマトに帰還してください。」
「小鳥さん。」
「春香サン。操縦代ワリマス。」
ためらっている春香を操縦席から助手席にもちあげて、アナライザーが操縦席に座る。
小鳥機は、ガミラス機の前で機体を微妙にスライドさせて飛び、敵の機銃をながすようによけていき、巧みにガミラス機をひきつけて撃墜していく。
「春香機、着艦します。」
「了解。アナライザーお手柄よ。」
苦笑いを」浮かべながら春香が第一艦橋に戻ると、舞は
「ゆっきー、小鳥さんにも帰還するよう伝えて。」
「了解ですぅ。」
「こちらヤマト、こちらヤマト、小鳥さん、帰還してください。」
小鳥がヤマトにもどってきて、数分もたたないうちに、ブーツブーツという警報音が空気を破った。
「レーダーに反応あり。右15度、500宇宙ノットで接近中。ビデオパネルに映します。」
「ガミラス機だわ。」
「総員戦闘配備。」
ガミラス機の後方には4つの卵形のカプセル浮遊体がついてきていた。
「バラノドン粒子、放出。」
ゲールが命じるとバラノドン粒子がカプセル浮遊体から放出される。
バラノドン粒子は合体を繰り返してたちまち完成形になる。
「ショックカノン、発射準備します。」
「目標、射程距離に入ったわ。右5度、相対速度+4、主砲発射。」
ショックカノンはバラノドン完成形の群れに命中するが、ばらばらと粒子にかわり、粒子はイナゴの群れのようにヤマトへ向かってくる。
「なんなのよぅ。あれはー。」
伊織は思わず叫んでしまう。
「なんか、ばらばらになるだけなのね。効き目がまったくないわ。」
千早がぼそりとつぶやく。
「また合体してうしろからついてくるわ。もう変態~。ど変態。どっかへいってよ。三番主砲発射~。」
「伊織ちゃん、落ち着いてよ。」
また再びばらばらになったバラノドン粒子はヤマトの前方で合体を繰り返し、ついに最終形態の「巨大トリケラトプス」になる。
そのとき舞は、「波動砲発射準備。」といった。
「艦長、ワープが終了したばかりで船体への衝撃が心配です。」
「今、この危機を乗り切るには、船体へ影響があるかもしれないけど、これしかないわ。春香、真、準備して。」
「エネルギー弁閉鎖。波動砲への回路開け。」
「エネルギー充填100%。最終セーフテイロック解除。」
「修正右3度。軸線にのりました。電影クロスゲージ明度15。対ショック、対閃光防御。」
「エネルギー充填120%。波動砲発射準備完了。」
「発射10秒前....3,2,1,0 、波動砲発射。」
艦首の波動砲口から宇宙空間を照らすように輝くエネルギーの奔流がバラノドン最終形態にうなりをあげてぶつかった。さすがのバラノドンも激しい熱と光の奔流につつまれ、押し流されて、爆発し、粒子も溶けて燃え尽きていった。
ゲールは愕然としたが、気を取り直し、
「退却だ。」と部下に命じた。
「逃がさないわ。主砲発射。」
伊織がショックカノンを撃つが、その光条は、空のカプセルを数個破壊するものの、ゲール機には当たらなかった。
ゲールは、
「基地へワープだ。」と操縦手に命じ、ゲール機はワープして消えた。
ゲールは、
「全艦隊、出撃。ヤマトをバラン星の上空に誘い込み、人工太陽をバラン星に落としておだぶつにするのだ。」
ゲールは30数隻の艦隊を率いてヤマトへの砲撃を行う。ヤマトの射程距離ぎりぎりに引きつけ、人工太陽をじわじわとバラン星に接近させる。バラン星基地からはミサイルが発射される。
「バラン星の周りを回っていた太陽が軌道から外れてバラン星に接近しているわ。」
千早が気づいて皆に話しかける。
「あれは、おそらく人工太陽ね。バラン星ガミラス基地かゲールの艦隊で操作されているんだわ。」律子が説明する。
「バラン星の上空に誘い込んで、人工太陽をバラン星とヤマトの上に落として自分たちは逃げる気ね。」舞がゲールの作戦を見破る。
「側面非常弁噴射して、波動砲の軸線を人工太陽、ゲール艦隊、ガミラス基地に並ぶように姿勢制御して。」
「ええい、忌々しいヤマトめ。人工太陽にヤマトを追わせろ。」
「はつ。」
「アナライザー、千早にゲール艦隊とガミラス基地の軸線の座標と小ワープ後のゲール艦隊の予想位置を至急計算して送ってあげて。」
「ハイ。計算シマス。」
「アナライザー、人工太陽が接近してくるからはやくしてね。」
伊織が心配そうに声をかける。
数分後に「結果ガ出マシタ。千早サン、座標送リマス。」とデータが入力され、千早の席に数字とアルファベットの列が表示される。
「了解。ワープ十秒前。」
「人工太陽接近してきます。あと15宇宙キロ。」
「ワープ。」
次の瞬間、ヤマトはゲール旗艦のパネルからその姿を消した。
「ワープしたか。」ゲールはくやしがったがあとの祭りである。
「ヤマト、ワープアウト。6時の方向、300宇宙キロ。」
「!! 後ろへ回りこまれたか。」
「いくわよ。主砲、発射。」
ショックカノンの光条は、ゲール艦隊を貫き、地上のガミラス基地に雨あられのようにふりそそぐ。地上からの人工太陽のコントロールは効かなくなりつつあった。
「ぎゃあああ。」
「人工太陽の...制御装置が破壊されました。もう...コントロール不能です。」
バラン星ガミラス基地の悲鳴がゲールの旗艦の艦橋内のパネルに映し出されたパネルから響いてくる。
「こうなったらこっちもワープしてヤマトの後ろへ回り込み、人工太陽で挟み撃ちにするまでだ。人工太陽とヤマトの後方の軸線上へワープせよ。」
「マゼラン方面への亜空間回廊入り口発見ですぅ。現在位置から2時の方向に2300宇宙キロ」
「人工太陽とヤマトの後方にワープする気じゃないかしら。やつらがワープしてきたら人工太陽の引力圏に急接近してスウィングバイして一気にワープするわよ。もうこの戦いはほとんど意味がない。さっきの攻撃で30数隻だったのがもう10隻を割ってる。やつは無事に本国に帰ったところで作戦の失敗の責任取らされて処刑されるのが関の山よ。」
舞はゲール艦隊が小ワープするのを確認すると
「人工太陽にゲール艦隊を飲み込ませるとともに一気にスウィングバイして亜空間回廊へ飛び込むわよ。」
ゲールは人工太陽を操作し、ヤマトにぶつけるつもりだった。
(ヤマトはわれわれの艦隊の攻撃で蜂の巣になり、太陽の中に落ち込んで火の中の虫の運命になるのだ….)
「ワープ。」
「ヤマトの後方にワープ完了。」
「主砲を打ちながらじわじわ追い詰めるのだ。」
「ゲール司令、ヤマトがスピードをあげて人工太陽に接近します。」
「ばかがw。ついに観念して、火の中に飛び込むか。」
「司令、人工太陽がとまりません。」
「何いい!!」
「こっちへ向かってきます。とまりません。あ~ヤマト、人工太陽でスウィングバイして…あれはマゼラン方面の亜空間ゲートへ向かっています。」
「うぐぐ…謀られた。」
「ぎゃあああああ。のみこまれる….」
とまらなくなった人工太陽はゲール艦隊を飲み込んだ。軌道をはずれ、バラン星へだんだん接近して行った。人工太陽は周回軌道を落ち込むように公転し、一週間後にバラン星へ落下し大爆発を起こすことになる。
ヤマトはバラン星空域でマゼラン方面へ向かう亜空間回廊の入り口を発見、ワープしてとびこみ、一路イスカンダルへ向かう道をいそぐ。出航後55日が経過していた。人類滅亡まであと310日しかないのだ...
人工太陽をバラン星に落としてヤマトをほうむりさろうとしたゲールの策略を逆手にとっていっきに大マゼラン雲までワープしたヤマト。その行き先には何が待ち構えているのか...バレラスに召還されたドメルとヤマトの対決の日が近づいていた。