「ワープ完了。木星まで50宇宙キロの空間です。木星重力の影響は軽微。」
そのときヤマトの船体が振動した。がたがた動いている。
機関長席の通信ランプが点灯した。
「どうしたんだ。」
「まこちん、なんかエネルギーの動力回路の調子がおかしいよぉ。」
「うわ。火事だよ。」
「亜美、真美おちつけ。消火して、異常が回路のどこにあるのか至急調査するんだ。」
「右舷後部に破損確認。船体に負担がかかったようです。」
機関部員「伝導管が過熱。一部溶融。エンジン内にエネルギー30%オーバーで流入しています。」
「くっ...艦長、コントロールが...できません。」千早がうめく。
「木星にある程度接近して、その重力場をブレーキにしなさい。」
「亜美、真美、側面非常弁開け。全力で噴射しろ。」
「まこちん、がってん承知。」
機関部員「非常弁全力噴射。」
「木星の引力は地球の2.5倍もあるの。メタンの大気の奥に入ったら出てこられなくなるから艦の姿勢を制御して。」
「かろうじて木星大気の衛星軌道上に乗りました。前方に巨大物体。」
「コレハ艦隊ノヨウナ人工物デハアリマセン。面積19,000平方キロ。四国規模の巨大岩塊デス。」
「巨大岩塊カラミサイルデス。」
「ここにもガミラス基地があったのか。」
「ガミラス艦隊接近中。距離20宇宙キロデス。」
「艦首波動砲、発射用意。」
「ちょっと、舞、待って。波動エンジンも使いこなせないのに波動胞を撃つなんて...」
「律子。撃とう。エンジンの暴走でエネルギーは有り余る状態。ガミラス基地や艦隊を確実に破壊できるし、早めにヤマトのスペックを理解しておきたいし。それから重力アンカーははずしておいて。理由はわかるわね。」
「エンジンが不調なので、波動砲を撃った衝撃をばねにして木星の重力圏を脱出するということですね。」
「エンジンへのエネルギー弁完全閉鎖。回路艦首波動胞へ。波動砲安全装置解除。」
「電影クロスゲージ明度20、エネルギー充填80%」
「春香、操縦装置をわたすわ。」
「千早ちゃん。OK」
「対ショック、対閃光防御」
「エネルギー充填120%。波動胞発射準備完了、10,9,8,7,6,5,4,3,2,1、発射。」
ヤマトの船体が一瞬激しく揺れ、まばゆいばかりの光の束がヤマト艦首から発射された。
光の束はガミラス艦隊と巨大な浮遊岩塊をつつんで引き裂いた。
浮遊岩塊はこなごなにくだけていく。一方ヤマトは波動砲の衝撃で木星の引力圏からみるみる離れていった。
「木星の重力圏から完全に離脱し、土星軌道方向へ向かっています。」
「艦長、エネルギーが減って異常暴走がおさまりました。」
「そう。真クン。よかったわね。壊れたとこやエネルギーが何で暴走したかチェックと修理班による修理おねがい。」
「結果論を言えば、ガミラスの基地だけを破壊すればよかったんだけど、あの状態じゃしかたなかったかもね。」
「波動砲はとんでもない武器ね。やたらに使うのはさすがの私でもどうかと思うわ。」
「艦長、エネルギー伝導管、エンジン修理で備蓄のコスモナイトが底尽きつつあるわ。どこかで補給の必要があるけど。」
「アナライザー、最も近い採掘可能天体はどこ?。」
「土星ノ衛星エンケラドゥス、ヤペトゥス、フェーベガ考エラレマス。タダシ、エンケラドゥスハ重力ガ小サイ上ニ氷ニオオワレテ採掘ニ時間を要シマス。フェーベモ重力ガ小サスギ、着陸シテモ安定シタ作業ハ不可能デス。反重力車ト反重力靴ガ軽重力ニタエラレルノハ0.24m/s2ガ限界デスノデ、0.255 m/s2ノヤペトゥスガ適当ト思ワレマス。」
「地球の有人宇宙船が楽に離発着できて、基地設置にテキトーな規模の星を前提に作ってるからしたかないわね。では、進路右60度、ヤペトゥスへ。」
「ヤペトゥスまで50宇宙キロ」
「アナライザーは探査艇に乗ってコスモナイト鉱山の正確な位置を分析して。」
「イヨイヨワタシノ出番デス。オマカセクダサイ。」
「探査艇発進。」
アナライザーは、調査員と一緒に乗り込んで発進する。
「小鳥ちゃん、万一ガミラスがいるといけないから探査艇の護衛にいってきて。」
「了解。発進します。」
「わたしも行っていいですか。砲撃は伊織ちゃんがいるのでパトロールしたいんです。」
「しょうがないわね。天海大尉の出撃を許可します(まあ、コスモゼロに乗ってる分には、そこそこ操縦できてたからいいでしょう)。気をつけてね。無理と思ったらさっさと帰ってくること。」
「行ってきます。」
「ガミラスの戦闘機出現。」
「航宙隊は、戦闘しつつヤマト側面と真上にひきつけなさい。」
ブラックファルコン隊は、戦闘しつつヤマトの真上とパルスレーザー砲塔群の前にガミラス戦闘機をひきつけ、次々に撃墜されていく。真上のガミラス機は煙突ミサイルに貫かれて次々と四散した。
「ヤペトゥスの北緯40度、東経60度の位置にガミラス基地発見。20機の陸攻が発進してきます。」
「春香ちゃん、こちらへひきつけてヤマトへ帰って。」
「小鳥さん、基地を爆撃してから帰ります。」
春香はガミラス機の死角を飛行してやり過ごすと基地の攻撃をはじめた。しかし、それに気がついたガミラス機群がもどってくる。
「基地撃破完了。きゃあ。」
帰還しようとする春香機を4機のガミラス機が囲んだが小鳥のファルコン隊がすんでのところで間に合って、機銃で次々ガミラス機を撃墜していく。
(やっぱかなわないや。こんなふうに赤羽根教官も撃墜されちゃったのかなあ。)と春香は思ったが我に返って、
「小鳥さん後は任せます。」
「了解。ここは、まかせてヤマトにもどって。」
小鳥機はガミラス機をひきつけると宙返りをして、機体を左側に捻らせて旋回し、ガミラス機の真後ろに着いた。ガミラス機のパイロットからは小鳥機が消えたかのように見えたであろう。この小鳥の神技ともいうべき「左捻りこみ」にガミラス機はたちまちのうちに5機、6機と後ろへ回りこまれ落とされていく。
また小鳥機は、ガミラス機の前で機体を微妙にスライドさせて飛び、敵の機銃をながすようによけていく。
他の機は三機一隊でガミラス機を落としていき、巧みにヤマトへ帰還し、パルスレーザーの砲塔前に引きずり込む。
その間に無事に探索艇はヤマトに帰還し、
「コスモナイト採掘隊、帰還しました。」と技術班が舞に報告する。
その後数分たって春香機はなんとかヤマトに着艦。
「天海大尉、ただいま帰還しました。」
「無理しないでって言ったでしょう。」
「はい。すみません。」
小鳥が帰還したのはさらにその数分後であった。
「皆無事に帰還したようね。中央作戦室に集まって。」
と舞は全員に命じた。
「これからワープしていよいよ冥王星空域にでるわ。無駄な戦闘は極力避けていきたいところだけど、遊星爆弾をさんざん地球に降らせ続けた冥王星基地だけはたたきつぶす。」
舞はにやりとしてこぶしを握って胸の位置まであげてみせる。
「冥王星の表面には熱源反応のある箇所が30箇所ほど確認されているわ。このうちひとつがガミラス太陽系方面軍の中枢基地ってことね。」と説明をつづける。
「ガミラス冥王星基地はおそらくなんらかの遮蔽装置で発見されないようステルス化しているものと思われます。一方こちらにも次元波動装置を応用した波動防壁でたいていの陽電子ビームについては防御できます。」律子が重要な情報を付け加える。
「ヤマトが敵をひきつけている間に航宙隊がニクス、カロンといった衛星の陰に隠れつつ、冥王星に接近、基地を発見しだい航宙隊と艦砲射撃で叩きます。」春香が作戦を説明する。
「意見具申。」
「水瀬中尉、どうぞ。」
「波動砲で冥王星ごと吹き飛ばすってのはどうかしら。」
「伊織、実は冥王星にはあの酷寒のなかで生きている原生生物がいることがわかってるの。火星、エウロパ、タイタン、エンケラドスで発見されたのも驚きだったけどまさか冥王星にもいるとはおどろきだった。さすがの私でも太陽系の同胞を死なせるのはしのびないわ。」
「でも航宙隊に犠牲がでることを防げます。」
「伊織ちゃん、気持ちはありがたいけどだいじょうぶだから。」
「小鳥...」
「波動砲を使用しないのは既定事項よ。水瀬中尉、絶対大丈夫だからみんなに任せて。」
「はい...」
「では、みんな自席にもどって。ワープ準備、各自ベルト着用。」
数分後、土星空域からヤマトの姿は消えた。
ヤマトは、木星圏をみごと脱出し、ガミラスの妨害を受けながらもコスモナイト採掘に成功する。いよいよ遊星爆弾を発射してくる冥王星基地を叩くときが来た。
コスモナイト採掘を行なった土星の衛星は旧作だとタイタンで2199だとエンケラドスですが、現在の知見だとタイタンは分厚い大気の描写やメタンの湖の描写が必要になります。エンケラドスは小さすぎるのでとびはねてしまって採掘どころでないと思い、ヤペトゥスにしてみました。反重力車と反重力靴が安定するのに限界の重力であるというオリジナル設定に、岩石でできた衛星ですのでエンケラドスの氷の描写をなくし、春香には兄はいないし、旧作では名場面であった『ゆきかぜ』と戦士の銃の描写もなくました。
舞は艦長なので、夫の『ゆきかぜ』をみつけるという設定には無理があるという理由もあります。
小鳥は加藤の位置づけなので旧日本海軍にはそういう技術をもった方がいたのを最近知ったので、操縦でチートぶりを見せる描写を加えました。
艦載機のブラックファルコンとは、2199ネタです。つまり「ハヤブサ」です。
また春香は操縦はダメでもなぜかコスモゼロだけは操縦できることにしました。そうしないとのちのち描写に困るのでw。