ヤマトは、マゼラニックストリームの亜空間回廊を巧みに使い十二万光年の行程を二~三週間で帰還し、銀河系を目前にしていた。放射能除去装置の組立ても律子の指揮の下、前羅(まえら)という下士官など技術班の面々が精力的に取り組み、完成間近となっていた。
「銀河系だよ。千早ちゃん。」
「戻ってきたのね。」なつかしげに千早がつぶやく。
銀河系外縁部に達すると、雪歩と通信班は一刻も早く地球に吉報を伝えたいと通信機の調整に余念がなかった。二万光年までは減衰せず、ほぼリアルタイムの会話が可能である。ある日、通信装置のランプが点滅し、通信可能になったことがわかった。
「み、みなさん、地球との更新が回復しましたぁ。」
雪歩がうれしそうに伝える。
「メインスクリーン投影しますぅ。」
「こちら地球防衛軍司令部だ。もしかしてヤマトか。放射能除去装置が入手できたのか。」
「こちらヤマト。放射能除去装置はもうすぐ完成します。」律子が答える。
「了解した。ヤマトの地球到達まであとどのくらいなのか。」
「ワープを繰り返し、あと三週間ほど、3月下旬には到着予定できます。」舞が答える。
「そうか。よかった。地球は救われる。君たちのおかげだ。ありがとう。」
「舞君。」
「はい。」
「君のご主人のおっしゃったとおりだったな。ほんとうにありがとう。」
「長官。あの程度の敵、わたしには役不足です、って言いたいところですが。」
舞と武田は笑いあう。
「作戦はそれを忠実に実行してくれる部下なくしてはなりたちません。優秀な部下を配属していただいてありがとうございます。この勝利は彼らの力です。」
画面に春香、千早、真、律子、雪歩をはじめ第一艦橋の面々が映る。
「ゆきぴょん。ずるいよ。亜美たちも映してよ。」
「双海君たちか、二人とも元気でなによりだ。」
「長官。ごほうびまってるからぁ。」
「あはは。君たちにはかなわないな。」武田は笑顔を二人に向けるやいなやプツンという小さな音がして、通信がきれる。またスクリーンは漆黒の状態に戻る。
雪歩が必死に操作するものの回復しなかった。
「で、電波状態が悪化しましたぁ。これ以上調整できません。」
「きっと地球側の出力が不安定なのね。」律子がつぶやく。
「ワープします。各自ベルト着用してください。」
千早が伝達する。乗組員はそれぞれの定位置でベルトを着用し、ワープの秒読みがはじまった。
そんなヤマトを7000宇宙キロ後方で、憎憎しげに見つめる目があった。
ガミラス星が崩壊したときかろうじて脱出に成功したデスラーが、天井都市のひとつに隠してあった、いざというときの旗艦に乗り込んで追いかけてきたのである。
「ヤマト発見。1時の方向。6900宇宙キロ。」
「デスラー砲発射用意。」
「デスラー砲発射用意。エネルギー充填。」
「エネルギー充填100%。デスラー砲発射用意完了。」
砲手が照準を固定し、発射レバーを押さえデスラーの命令を待っていた。
デスラーは鞭をならし、砲手に近づくと彼を押しのけて自分がその席に座る。
砲手をしていた士官は驚きながらも偉大なる総統にその席をゆずる。
「デスラー砲、発射。」
レバーを引くとうす赤色の太い光条が昼間のように宇宙空間をてらしヤマトへ向かっていく。しかし、その光条がヤマトのいる空間に達しようとしたとき、ヤマトの姿はその空間から消え去った。
「!!どうしたのだ。」
「一瞬の差でヤマトはワープしたものと思われます。」
(ヤマトめ、運のいいヤツだ。)
「追え!直ちにワープするのだ。」
デスラーは語気を強めて士官に命じる。
「総統、航路計算に時間を要します。しばらくお待ちを。」
「推定位置でかまわん。ワープしろ。」
「ワープ終了。太陽系圏内にはいりました。」
「波動エンジン異常なし。」
千早と真が報告したそのとき、大きな振動と衝撃がヤマトを襲った。
「うわーーつ。」「きゃああああ。」
艦内は悲鳴に包まれ、座席から床にたたきつけられる乗組員もいる。
「どうしたの。」
窓の外を見るとガミラス艦が右舷に斜めに突き刺さった状態になっている。
ガミラス艦では、士官たちがようやくたちあがり、デスラーも額の傷から血をながして顔を上げる。窓からはあの怨んでも怨みきれないヤマトの艦橋がみえる。
「これは、どういうことだ。」
「ワープアウト地点が偶然に一致してヤマトの艦腹に突っ込んでしまいました。」
「そうか。」デスラーは不敵な笑いを浮かべる。
(復讐を晴らすときがこんなに簡単にめぐってくるとは...)
「ガミラス本星での敵をとるときがきた。総員、ヤマトへ乗り移って白兵戦を挑むのだ。放射能ガスを送って地球の虫けらどもを駆除するのだ。」
ガミラス艦からは接舷通路がヤマトに打ち込まれ、放射能ガス射出パイプからガスが放出される。ガミラス兵が武装して乗り込んでくる。
接舷通路は、機関室に開いていた。真は
「みんな、大丈夫?」と衝撃で倒れた部下たちを励ましていたところ、シュウシュウと音を立てて、煙のようなものがひろがってくる。そしてその奥からガミラス兵の人影が見える。
「うわああ。しゅーしゅーってへんな音がするよ。まこちん。」
「現在、右舷にガミラス艦が接触。戦闘準備。」と艦内放送がなされ、真は事態に気がつく。
ガスに巻かれた部下たちが苦しむのに気がつき、
「亜美、真美、みんな、マスクをかぶれ。毒ガスだ。」と叫びマスクつきフルフェイスヘルメットにとびついた。亜美は近くにあった艦内放送マイクをとって、
「みんなぁ、機関室にガミラスがはいってきちゃったんだって。まこちんが、ガミラスがどくがすをばらまいてるって言ってる。こわいからマスクつけて~。」
と放送する
真美は必死に機関部員に呼びかける。
「みんな、どくがすだよ~。こわいからマスクつけようよ~。」
機関室で機関部員とガミラス兵の戦闘がはじまり、コスモガンの光条が飛び交う。
春香は腰のコスモガンを抜き、
「小鳥さん、伊織、行こう。」と指示する。
舞は「艦内隔壁閉鎖」と命じ、平常通路は隔壁閉鎖され、ガミラス兵は非常通路をめざとくみつけて侵入する。非常通路に侵入してきたガミラス兵を倒しながら春香たちは機関室にたどりつき、
真が傷ついた部下を背負っているのに目が止まる。
「真!」
春香たちが真にかけよると
「はつはっは...。」という笑い声が響きわたる。」
「!?」
機関室の配管が複雑にからんでいる向こう側に大またになった男が春香たちをにらみつけている。
「ぼうや、じゃないか、これはこれはお嬢ちゃん方。無駄な抵抗はするもんじゃないよ。」
不敵な笑みをうかべてデスラーは春香たちを見すえる。
「艦長はどこにいるんだ?お嬢ちゃん。」
「誰ですか?」
「はつはつは。勇ましいなお嬢ちゃん。私がガミラスの総統デスラーだよ。」
春香は息を飲む。
「ふふふ。死んだと思っていたようだな。ガミラスは死なんよ。このデスラーもな。」
「わが大ガミラスとこれまでよく戦ってきた。ほめておいてやろう。しかし、戦いの本番はこれからなのだよ。」
マスクをかぶっているため息苦しくならなかったが倦怠感と痺れが体をおそう。
「これは放射能ガスだよ。ヤマト艦内はあの赤い地球とおなじになる。われわれがミラス人はなんともないが、たしかお前たちは生きられないだったな。はっはっは。」
「ひ、非常警報!非常警報ですぅ!放射能ガスは全艦に充満しつつありますぅ。総員、宇宙服を着用してください。」
「春香さん。」
技術班の一人が工作室にかけこむ。律子の部下で放射能除去装置の組立てに精力的にかかわった下士官の前羅だった。彼は戦闘になるとびびってしまう臆病者として有名だったが、技術面での腕はたしかで、律子は彼に一目置いていた。前羅は、血相を変えて、放射能除去装置によじ登る。
「前羅君、何をするつもり!」
前羅は、放射能除去装置のコントロール席に座った。
「機関室に放射能ガスが充満しているんでしょう。今こそこれを使うときじゃありませんか。」
律子はあせる。しかし、作動するかどうかもわからない放射能除去装置を使わせるわけに行かない。
「やめて、前羅君。」
駆け寄ろうとしたとき、ガミラス兵が侵入してきた。律子はコスモガンを抜いてとっさに撃ち倒し、放射能除去装置に走りよって
「やめて、前羅君、まだテストもしていないのよ。」
「今すればいいじゃありませんか。」
前羅は、パネルの操作を始める。自分は臆病な一技術士官だ。だけどこの放射能除去装置を組み立てている。作動すればすべてがうまくいく。
「前羅君!」
律子は倦怠感におそわれる。放射能ガスがひろがっているに気づき、すぐさま工作室を出て行く。
「前羅君、ガスが来ているわ。早く逃げて。」
「僕はかまいません。春香さんが死んでしまう。」
「そういえば、あなたは春香のファンだったわね。」
「はい。班は違うとはいえ、憧れの人と同じ船に乗れて幸せでした。」
律子は微笑み
「わかったわ。メインボタンをセットしたら、起動プラグの振幅をプラスになるまで確認して。」
律子の声に前羅は振り向く。工作室を見下ろす位置にある技師長室のガラス張りの窓の向こうに律子がマイクを持って立っているのが見える。
「技師長。ありがとうございます。」
「振幅プラス30、始動装置セット完了。コスモクリーナー起動。」
前羅は、レバーを一気に押し下げる。放射能除去装置は、低い唸るような起動音を発して震えはじめる。
律子は、放射能除去装置を見つめていた。
放射能ガスの中で閃光がはしった。ひときわ大きなゆれが技師長室にまで伝わる。
「前羅君!」
放射能ガスが薄れていき、ついに工作室全体の空気が澄んでいく。
安定した静音が続いて放射能除去装置は順調に運転していた。
「やったわ。放射能ガスが消えた。成功だわ。」
律子は喜んだが、深刻な事態が起こっていることに気がつく。
放射能除去装置のコントロール席にうつぶせのまま動かない部下の姿に蒼白になった。
「前羅君! 前羅君!」律子は技師長室を駆け下りて工作室の部下のもとに駆け寄る。
放射能ガスは、急速に浄化されて消えていく。通路から機関室までガスが消滅していく様子にデスラーのほうがあせりを見せる。
「放射能ガスが消えていく。なんていうことだ。」
部下のガミラス兵も苦しみ始める。
「撤退だ。地球型の空気ではこっちが宇宙服を着なければならん。」
ガミラス兵は我先に接舷通路に入っていく。
「ヤマトよ。わたしは必ずもどってくる。お前を沈めるために。」
とデスラーはヤマトの艦内をにらみ、引き上げ、ガミラス艦の接舷通路は切り離された。
放射能ガスが消えたのは、放射能除去装置の効果であると考えた春香は律子にお礼を言おうとして工作室へ入る。
「春香、無事でよかった。」
「律子さん。亜美の艦内放送がなければヘルメットをかぶらなかったんですが、さすがにあのガスのなかでは、倦怠感としびれがひどかったです。」
「あのね、春香。」
「どうかしたんですか。」
「覚えてる?あなたがアイドルやってたときのファンレター送ってくれた人に前羅君っていたのを。」
「はい。」
「彼、実はヤマトの技術班にいたのよ。」
「ええつ。そうなんですか。」
春香は驚く。彼女が無名時代から熱心にファンレターを送ってきていた一人が彼だったからだ。namugoプロがスキャンダル記事を書かれたときにも
「僕は、味方です。」と書き送ってくれていた。
「結婚してくれって書かれちゃって。」春香はほのかに顔をあからめる。
「そんなこともあったわね。」
律子が笑う。
「イケメンタイプとか浮気するタイプじゃないと思ったから逆に断りにくかったな。」
「でも、そんなわたしの気持ちをくんでくれて無理強いしないでくれた。彼氏はいないって書いて、のらりくらりとして結局ほったらかしにしちゃった。」
「それでよかったのよ。夢をこわさないでくれたと彼は思ってたんだから。」
「訓練学校では雪歩や千早ちゃんと赤羽根教官をとりあっちゃってたけど。」
「そんなこともあったわね。」
「あのね。春香聞いて。彼は...さっき亡くなったの。コスモクリーナーは起動時するときに決定的な欠陥というか問題点があったの。彼は、放射能除去装置を起動させたとき工作室が一瞬酸欠空気になって...。」
春香は愕然とした。赤羽根教官のことはあきらめていた。しかし、自分のことを本気で受け止めていてくれた人が亡くなった。彼は自分からの返事をいつまでもまっていただろうに...。
「あの、律子さん。彼のために「Do-dai」と「キッチン・ビーナス」を歌って録画したディスクを彼の宇宙葬用カプセルに入れようと思います。わたしの顔写真入りで。」
「そうね。後の曲はnamugoプロの曲じゃないけどリクエストがあって歌ったらヒットしたもんね。」
律子はガミラス兵が侵入し、放射能除去装置を操作して切り抜けた顛末を舞に報告する。
「なるほど。そういうことがあったのね。これからのことだけど...
敵は、かならずまた仕掛けてくる。いやあの様子からはあのガミラス艦はヤマトを完全に捕捉していた。もういちど仕掛けてくるとしたら今度は遠距離攻撃の可能性が高い。律子、あの光学兵器反射装置は完成しそう?」
「いえ、どうしてもあと1年、短縮できても半年は要します。」
「それなら、千早に小惑星帯にワープするよう伝えて。反重力反応機を小惑星帯内の岩塊につけてヤマトに装着させる。」
「あの案を使うんですね。」
「そう。冥王星会戦のときはいきなり応用問題だったけどね。それから、ヤマトの反応を消してパッシブレーダーのみにするやいなやデコイを発射する。」
ガミラス艦の図がパネルに投影される。
「相手の艦形からみて艦首波動砲をもっていそうね。エネルギー充填から発射反応、発射時間を計測できるかしら。」
「可能です。」
「それなら様子を見ましょう。」
律子が千早に指示を伝えるとヤマトはワープした。
「周囲5000宇宙キロに敵の反応みとめず。」
「反重力反応機発射。岩盤装着。」
反重力反応機が発射され、岩盤がヤマトに装着される。
「エンジン停止、パッシブレーダー作動。デコイ発射。」
ヤマトの反応が消され、デコイが発射される。
「敵艦、ワープアウトしてきました。」
「ヤマトめ。こんなところに隠れていたか。」
今度は時間をかけてヤマトのワープアウト地点を正確に計算したデスラー艦が出現する。
「デスラー砲、エネルギー充填。」
「デスラー砲、発射準備完了。」
「10,9,8....3,2,1、ヤマトよ。これで終わりだ。発射。」
デスラーは、確信した笑みをうかべ、デスラー砲を発射する。
デスラー砲は、デコイを貫いて爆発する。
しかし、ヤマトのレーダーにその様子はしっかりとらえられていた。
「敵艦3時の方向に発見。エネルギー反応増大。」
「敵艦から発射反応。高エネルギー帯やってきます。」
「あれは...波動砲そっくりね。」
「そう見ていいと思います。」
「デコイに弾着。」
「エンジン始動」
「主砲発射準備。目標デスラー艦」
「3時の方向、仰角1度。」
「発射。」
「ぬ。」
「ヤマト発見。」
「何だと?さっきのはデコイだったのか。」
「ヤマトから発射反応あり。」
ショックカノンがデスラー艦に命中するが効果がない。
「!!なんですってえ。」伊織が驚く。
「波動砲しかないじゃない。でも艦首を動かしている間に攻撃されたら...。」
「大丈夫。敵は波動砲を撃ってくるだろうけど、もう対策済みだわ。」律子は微笑んでみせる。
「ふははは...この艦はドメルのゼルグート級と同じでショックカノンは至近距離からでないと効果がないのだよ。さて、波動防壁などしても無駄なように、デスラー砲でとどめをさすか。」
「!!総統、敵魚雷、デスラー砲の砲口へ向かってきます。」
「何!」
デスラー砲のエネルギーを充填している砲口へヤマトの魚雷がとびこむ。
デスラー砲口の奥に魚雷が命中し、デスラー艦は、エネルギーが艦内で暴走し、高温になる。
「ぎゃああああ。」
次の瞬間、デスラー艦は、爆煙とエネルギーの奔流があふれ出して輝き、船体は引き裂かれた。そして、宇宙空間を昼間のように照らして、大爆発を起こした。
「まこちん、機関室の修理完了したよ。」
「聞いた?千早。あとは地球へ向かうだけよ。」
「了解。地球へ向けて、最終ワープ。」
西暦2200年3月20日、ヤマトは人類滅亡まで7ヶ月を残して帰還した。放射能は除去され、地球はもとの青い姿をとりもどした。一方、小マゼラン銀河の軍事バランスが崩れ、再び地球に脅威が訪れるのは1年数ヵ月後となるがそれは後の話である。
デスラーの復讐を退けたヤマト。地球は以前のように澄んだ空気と海を取り戻し、赤茶けた姿から、生命のあふれる青い星によみがえった。しかし、あらたな脅威がすこしづつ頭をもたげつつあった。
12話のほうがよかったかもしれませんが、「ばかめ」と同じくらいか、もしかしたらそれ以上に有名な戦史上のネタを仕込みましたw。