宇宙戦艦YAM@TOガミラス戦役編   作:Brahma

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ガミラスとの苦しい戦いの末、ついにヤマトは約束の地、イスカンダルへ到着した。その場所は清浄な地であったが、スターシャ以外だれもいない星だった。その理由は...


第12話 約束の地、イスカンダル

「イスカンダル地表まで、高度2000キロまで接近しました。衛星軌道にうつります。アナライザー、着陸地点設定のために報告お願い。」

「ハイ。イスカンダルノ表面ハ、海洋ガ95%、大気主成分は窒素71%、酸素22%、二酸化炭素1.5%...、平均気圧は1010ヘクトパスカル。」

アナライザーが報告を続けていると、雪歩が

「イスカンダルより入電ですぅ。」とうれしそうな声をあげた。

「誘導電波が回復しましたぁ。」

「雪歩、メインスピーカーに切り替えて。」

「はいっ。」

「こちら、イスカンダルのスターシャ...こちらイスカンダルのスターシャ...ヤマトの皆さんを歓迎します。皆さんには、マザータウンの正面の海に降りていただきます。着水を誘導しますので、操縦装置を私の指示にあわせるようお願いします。」

まもなく真はヤマトが大気圏に入ったことを計器で確認する。

「本艦はイスカンダルの大気圏にはいりました。波動エンジン停止してください。」

「波動エンジン停止。」

ヤマトはゆっくりと降下していく。眼下には、ひときわ高く聳え立つ水晶のようにきらめく建物があって、それを中心に放射状に道路が延びて、またその道路沿いにある建物も小さいながらガラスないし水晶のような輝きを放っている。最も高い建物の頂点には、うす桃色の宝石のようなものが乗っている。スターシャの住む宮殿であろう。

舞はスターシャのもとへ派遣する使節団を決定し、指示をあたえた。

えらばれたのは、春香、千早、律子である。

「わたしの指示は以上よ。春香、あなたは地球を代表する全権大使ってことだから。アリーナライブでリーダーをすでに体験してるんだからよろしくね^^。」

「はいっ。」

「ところで、艦長はなぜいらっしゃらないのですか。」

「わたしが行ったらどっちが女王だかわからなくなるじゃない。」

舞は胸をはってみせる。そこかい、と第一艦橋の面々はのけぞるが

「ていうかね。いざというときの保険よ。ガミラスの総統はあれしきのことじゃ死んでないかもって実は思ってるのが本音ね。」

「敵に決定的な打撃を与えて戦意を喪失させようとおもったけど、波動砲を撃った後も、弱弱しいとはいえミサイルや爆雷の反撃が数発だったけどあった。最後まで抵抗しようという執念か感じられた。こうして安心しきってるときが一番危ないのよね。アナライザー、監視おねがいね。」

ヤマトはマザータウンの港の桟橋に接岸し、艦腹の一部がひらいてタラップになる。

春香、千早、律子の順にタラップを降りる。

「春香。あれは...。」

小高い丘の上で手を左右に振る女性の姿が見える。

「あれは、スターシャさん!」

春香はうれしくなり、大きく手を振る。

「スターシャさあぁーーーーん。」

スターシャが出迎えに出ていることを知った3人の足は自然と早足なった。

丘に着くと、春香と千早は火星での出来事を思い出した。

(よく、似ている...)

「イスカンダルへようこそ。わたしがスターシャです。」

春香は、はっとして直立姿勢になった。

「天海春香です。こちらは...」

「サーシャ...あなたは髪を青く...」

「あ...わたしは...」

スターシャははっとして、まったく別人であることに気づく。千早のすらりとした長身と長い髪に妹のサーシャの面影をおもわず重ねてしまったのだ。

「サーシャって、もしかしてあの火星でなくなった方ですか。」

春香の言葉に

「やはり、そうでしたか。サーシャは、妹は、どうなったのですか。」

「妹さんの宇宙船は、おそらくガミラスに攻撃され、火星に不時着しました。

わたしと千早ちゃ..如月大尉は火星にいて、その宇宙船の調査を命じられました。現地へ駆けつけたときには、すでに妹さん、サーシャさんは、息をひきとっておられました。

でもその宇宙船のなかから、放射能除去装置を取りに来るようにというあなたのメッセージと波動エンジンの設計図をいただくことができたのです。」

スターシャは、目に浮かんだしずくをそっとぬぐって、

「妹は、命がけで私の使者を果たしてくれたのですね。」

春香はうなずいて

「地球の恩人です。感謝してもしきれません。」

「しかし、結局地球を救うのはあなたがたの知恵と勇気です。はるばるとイスカンダルへやってこさせ、あなたがたを試すようなことをして...すみませんでした。」

「いえ。どうなることか...とおもいましたが...無事にたどりつけてよかったです。」

ほほえみながらうれしそうに語る春香の言葉を聞いてスターシャもほほえんだ。

(彼女には「明日の幸せは...」などという言葉は必要はないだろう、この航海とそれ以前に積み重ねた経験が笑顔から感じ取れる)、とスターシャは感じていた。

春香は、地球に残してきた後輩の顔を思い浮かべた。

(加奈ちゃん、愛ちゃん、ついにイスカンダルまで来たよ。まっててね。)

春香のような宇宙戦士になりたいと受験勉強をはじめた矢吹加奈、そして舞の娘で訓練学校に入学したばかりの愛のことである。

 

一方、スターシャの指示で放射能除去装置の部品が大型トレーラーに積み込まれて運ばれ、リフトでヤマト艦内に積み込まれていく。

 

律子が運びこまれる部品リストをチェックしているのを艦医のあずさが眺めていた。

「これが地球の大気から放射能を除去してくれる装置なのね…。」

「完成品という形ではなかったので、部品と設計図を受け取りました。地球に帰り着くまでに艦内工場で組み立てます。本当はイスカンダルの技師に見てもらいたかったのですが…。」

「なんとか3ヶ月で運よくイスカンダルへ着けたものの、帰路もありますし。」

「帰路に何も起こらずにすむとは限らないしね。」

「そういえば、人がスターシャさん以外一人もいませんねえ。」

「実はそのことなんですが…」

 

放射能除去装置を受け取る直前、律子、春香、千早はマザータウンの背後の丘で、ささやかであるがサーシャの葬儀をおこなったのだ。そのとき

「お葬式に参列していただいてありがとう。天海さん、如月さん、秋月さん。これでサーシャもイスカンダルの大地へ還ることができました。」

「スターシャさん?」律子がたずねる。

「何ですか?」

「私たちは、イスカンダルへ来てあちこちご案内いただきましたけど、スターシャさん以外の方をお見かけしません。イスカンダルの皆さんはどこにおいでなのでしょうか?」

「ここです。」

そこには見渡す限りの墓標の列が並んでいた。

「それじゃあ、イスカンダルの皆さんはお亡くなりになっているってことですか。」

「そうです。王家の娘であるわたしとサーシャが最後のイスカンダル人でした。妹のサーシャを葬った今はわたしが唯一のイスカンダル人ということです。」

「なぜ、そうなってしまったのですか。」

「すべてのものには定められた寿命というものがあります。このイスカンダル星と」

といいかけて、スターシャは空にうかぶガミラス星を指差す。

「あのガミラス星は、二重惑星として誕生したのですが星の寿命が終わりに近づいているのです。」

「そこでガミラスの人々は地球を第二のガミラス星としようとした結果は、あなた方のよく知っているとおりです。わたしたちイスカンダルの者は、よその星に迷惑をかけたくないと決心しました。運命をだまって受け入れ、子孫を残すことすらあきらめました。」

 

「ということなのです。」

「そんな決心をしてまで渡そうとした放射能除去装置なのね。私たちの生き方が問われるわね。」

 

二週間が経過し、放射能除去装置、食料などの物資の補充、船体の修理が完了した。

「千早、いつでも発進できるわ。」律子は千早に伝える。

千早が艦長室へ報告へ行くとそこにはスターシャと春香と真がいた。

「発信準備完了しました。地球へ向け、発進したいと思います。」

舞は「全艦発進準備。部署に付きなさい」と命じる。

「はい。」春香、千早をはじめ乗組員は敬礼する。

 

「スターシャさん、わたしたちといっしょに地球へいらっしゃいませんか。」と舞はスターシャに問う。

「お気持ちはうれしいのですが、私はイスカンダルを離れることはできません。」

「ひとりさびしくこの星でお亡くなりになるより、恩人として地球で暮らしたほうが良い、と考えるのはあさはかなのでしょうか。でもそのような決断を下したイスカンダルの語り部としてもいらしていただきたいと思いますが。」

舞の顔と口調が真剣になる。舞は、この人を説得するのはガミラス一万隻を沈めるよりも困難かもしれないと悟り始めたのだ。しかもその予感はあたることとなる。

「祖先からの星、家族が眠る星を残していくということは考えられません。それに滅び行く星といっても今日明日に滅びるわけではありませんから、わたしには見捨てられません。」

スターシャの返答は実に単純であった。舞はどんな策もこの人には通用しないことを悟った。

「では、いつまでもお元気で。」舞と春香は交互に手を差し伸べ、スターシャもその手を交互に握った。

スターシャはタラップを降り、舞と春香はタラップを昇る。

「さようなら。」と手を振ると、スターシャが笑顔を浮かべて手をふった。

「地球へ向けて出発。」春香が宣言し、千早が操縦舘桿をにぎりながら笑顔を向ける。

「補助エンジン動力接続、スイッチオン。」

「補助エンジン動力接続。スイッチオン。」

「微速前進0.5」

「波動エンジン内エネルギー注入」

「波動エンジンシリンダーへの閉鎖弁オープン。」

 

「波動エンジン内圧力上昇。」

「フライホイール始動。」

「メインエンジン点火、10秒前、9,8,7.....2,1,0、ヤマト発進。」

ヤマトはイスカンダルの海から飛び立っていった。第一艦橋の窓から見えるイスカンダルは青いビーチボールのように見えていたが、みるみる小さくなり、青い光点となり、ついには見えなくなった。

 




イスカンダルの人々はほかの星に移住して生きながらえることを選ばなかった。舞はスターシャに地球の恩人として移住してほしいと伝えるが、スターシャは父祖の地、イスカンダルを離れることはできないと固辞する。ヤマトは放射能除去装置を積み込むとイスカンダルを出航した。

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