ヤマトは、強磁性フェライトの雲に包まれた状態であった。
「律子、この雲のようなものの物質は何なのかわかった??」
「強磁性フェライトです。」
「なるほど、さすがにこんな手があるとは、さすがのわたしも思いつかなかったわ。」
舞は自嘲気味に笑う。
「わたしもあきれました。それほどガミラスは追い詰められているということです。それに、残念ながらこの強磁性フェライトの雲は除去できません。」
「磁石のように空洞の中にヤマトをひきつけて、あの岩盤の裏面あたりと地上にミサイルがあって、それで袋だたきにしようって算段なわけね。律子、あの地上になにかあるかほかにわからないかしら。」
「火山があるようです。あと陸地と海に分かれているようです。」
「なるほどねえ。どこかに磁石のようにひきつける装置があるんでしょうけど...」
「艦載機で装置を破壊してもこの状態は変わりませんから。敵がヤマトを空洞に近づけた後はこの雲は不要になるはずですからそのときがチャンスなのですが...。」
皆が思案にふけっていたとき、雪歩が
「み、みんな!、スターシャさんからの声がはいりました!。」
第一艦橋の面々は「え?」
と軽く叫んで雪歩のほうをみる。スターシャの声はゆがんで聞き取りにくいものの、内容は理解できる。
「こちら、イスカンダルのスターシャ...ガミラスによって通信が妨害されています。誘導はできません。ガミラスの妨害を破って自分の力でイスカンダルへ来てください。そこまでくればもうお分かりでしょうが、私たちは双子星なのです。一方がガミラスで、一方がイスカンダル...」
「千早ちゃん...」
「春香...」
(少しでも疑って)「ごめんね。」
「わ、わたしもごめんね。」
「いえ...いいのよ。よかった...。」
千早の顔は、不安から責任を果たした者の安堵感にみちた表情に変わった。
「もう一息ね。」
「うん。」春香と雪歩の表情が明るくなる。
そのとき鈍い振動がヤマトの船体全体にかかり、第一艦橋の面々はよろめく。
「当艦ニ強力ナ磁力ガ作用シテイマス。ガミラスノ方向ニ引ッ張ラレテイキマス。」
「きたわね。真。逆噴射できるかしら。」
「亜美、真美、逆噴射だ。」
「逆噴射最大出力....だめだよ...まこちん、ひっぱられていくよ。」
「総員、戦闘配置。おそらく引っ張られていくでしょう。上下から攻撃があるだろうから波動防壁を展開できる準備だけはしておいて。」
「了解。」
第一艦橋では、工具や小物がぷかぷか空中にうかぶ。
医務室でも器具がぷかぷかうかぶ。
「あらあら...」あずさが器具をおさえつけて引き出しに入れてテープでとめる。
「こまったわねえ。こんなときにけが人とかこなければいいけど...。」
「くつ...操縦できない...」
千早は操縦桿をにぎっているのがやっとの状態である。
ガミラスの外皮の孔からヤマトの船体が空洞のなかにはいってくるとマグネット発振機が作動をやめ、強磁性フェライトの雲は消失していく。
ヤマトは「地表」に激突し、艦内の乗組員はころげてはねかえり床にたたきつけられる。
非常ベルがけたたましくなり始める。
千早は必死に操縦パネルにしがみついた。やがてヤマトは「海」に着水して止まった。
「痛い....。」春香はかろうじてたちあがり、非常ベルのスイッチを停止させた。
「もう、レディを招待するのにこんな手荒な扱いして...ガミラスぅ...ただじゃすまないわよ。」伊織が怒りをあらわす。
「春香、外皮裏の天井都市をなぎはらうわ。伊織に指示して。」
「了解。主砲、発射準備。」
「右20度、次左15度、その次右2度。」
「右20度仰角35度、次左15度仰角20度、その次右2度仰角15度。」
「にひひっ。主砲発射ぁー。」
三連装ショックカノンは天井都市の爆雷群を次々に掻き落としていく。
デスラーの作戦司令室では
「総統…先手を打たれました。第三、第四、第五、第七、第九、第十二地区全滅です。」
「何い!?」
「残った地区でヤマトを攻撃するのだ。ホーミングミサイルを使え。気圧変圧器を作動させろ。」
「アナライザー、敵の発射指令電波を特定できる?」
「艦長、春香、さっきの衝撃でアナライザーがばらばらになってしまってる。ごめんね。組み立てるからちょっと待って。」
「雨雲が広がっているわ。嵐になるかもしれないわね...。」千早がつぶやく。
空中に黒雲が立ちこめてきた。やがて強い風と雨が降り始める。「海」面には、波がたちはじめた。
「修理完了。アナライザー頼むわよ。」
「ハイ、ヤッテミマス。」
律子と春香がチューブやコードをアナライザーにつなげ、発信源の解析が開始される。
「電波微弱により発信源特定デキマセン。」
「仕方ないわね。それじゃあ高い建物をさがして。」
「了解。」
「敵ホーミングミサイル多数接近。後方120、距離5500。前方からも110、距離6500。」
「デコイ、2時と11時と5時と7時の方向へ放出!」律子が命じる。
ガミラスのホーミングミサイルは、熱源及び赤外線反応を探知するとともに、レーダー照射を行なうタイプのものであるため、中途半端なデコイでは効果がないが、律子が放出したデコイはヤマトとそっくりの熱源及び赤外線反応を示し、レーダー照射をされるとヤマトの形を返す精巧なものであり、一定の効果を示し、多数のミサイルがデコイへ向かっていくものの、一部はヤマトへ接近してきた。
「前方12時40基、距離500、後方6時45基、距離450、ミサイル接近。」
「第一砲塔、第三砲塔、サーモバリックモード、発射。」
多数のミサイルが一瞬で爆発して消失する。
第二主砲のみが天井都市のミサイル群を搔き落とし、地上のミサイルを破壊していくが、海が荒れ、嵐が激しくなり命中率がさがる。
「敵ミサイルが海で溶けていきます。」
「!!」
「アナライザー、海水及び雨水の成分を分析して。」
「ハイ。」
数分後に分析が終わり報告がなされる。
「報告シマス。大気ハ希硫酸ガス。雨ハ希硫酸、海水はPh3ノ濃硫酸デス。」
「....」
「敵ホーミングミサイル、第二波接近。3時の方向150、距離7500。8時の方向130、距離8000」
「デコイ、3時と8時の方向に放出。」
「しかし、きりがないわね。」
「律子とアナライザー、技術班に、総統府がどこにあるか解析させて。」
「波動防壁展開。」舞が命じる。
「あの~どうでもいいですけれど、デコイに「のワの」「川 ゚ -゚)」「lw '‐'ノv」
「(-Φ-Φ)」「∬゚ ヮ゚)」「凸」「(^ヮ゚)b」「d(゚ヮ^)9」「ミ*゚ー゚)」という表示があるのはどういう意味なんでしょうか。」千早が律子へ向かってたずねると
律子は恥ずかしそうにうつむき、「ああ、あれ?深い意味はないわよ。」舞が即答する。
そのとき第一艦橋では、はぁ…というため息がもれる。
「なんなのよう。あれ、なんか一つ顔文字っぽくないものがあるじゃない。」
伊織が抗議するように叫ぶと、第一艦橋は微妙に笑いをかみ殺す空気にかわった。
その頃、ガミラスの作戦司令室では、デスラーが仁王立ちになり敵意むき出しで自ら指揮をとっていた。
「第二十一号基地、爆雷投下しろ。続いて第二十五号基地上空へミサイル発射だ。ホーミングミサイル150発射。」
「第二十一号基地、爆雷投下します。続いて第二十五号基地も上空ミサイル発射。ホーミングミサイル130発射。」
「ヤマト、2時の方向へ旋回。」
「第十七号基地、爆雷投下だ。第三十二号基地、ミサイル発射しろ。」
「第十七号基地、爆雷投下。第三十二号基地、ミサイル発射。」
「ヤマト、今度は11時の方向へ旋回。」
「第三十六号基地、爆雷投下。第三十九号基地、ミサイル発射だ。」
「ミサイル、爆雷がバリアで防がれています。」
「こしゃくな。気圧変圧器作動を最大にしろ。硫酸の嵐でヤマトを叩き落すんだ。」
「了解。」
「嵐が激しくなってきたわ。」
千早が不安そうに空模様をみあげる。
「総統府はまだ発見できないの?」伊織が不安そうに話す。
「波動防壁が切れるまであと5分ね。」
「総統府らしき建物を発見。3時の方向、距離15000」
「よくやったわ。じゃあ主砲で気圧変圧器を攻撃。」
「にひひつ。2時の方向1500、10時の方向2500、主砲発射。」
近くの気圧変圧器が破壊され、嵐がおさまっていく。
「ヤマト、気圧変圧器を破壊。」
「うぬぬ、ホーミングミサイル1000発見舞ってやれ。」
「波動砲エネルギー充填。発射用意、発射10秒前に着水。」
「艦長、溶けてしまいますが。」
「かまわないわ。発射時間程度じゃとけないでしょ。」
「敵ミサイルと総統府をまとめて始末するわよ。千早、サイドキック、じゃなかったw
発射後右180度まで船体を旋回させて。」
「はい。」
「エネルギー充填、90%」
「エネルギー充填、100%、対ショック、対閃光防御。」
第一艦橋の面々が遮光ゴーグルをつける。
「最終セーフテイロック解除。エネルギー充填120%」
「ターゲットスコープオープン、電影クロスゲージ明度20」
「波動砲発射10秒前、9,8,7・・・3,2,1,0、発射。」
「海面で右方向に旋回します。」
波動砲が昼間のようにガミラスの地底を照らし左から右方向へ天井都市が次々となぎ倒され、ホーミングミサイルが光の本流に飲み込まれことごとく溶解した。ガミラス星の外皮が轟音を立てて崩れ、地底のミサイル群が天井の崩落により爆発していく。
地底表面ではすでに、相次ぐミサイル、爆雷及び外皮崩落の衝撃で、固形化リソスフェアに亀裂が走っていた。波動砲によっていっぺんに外皮と天井都市が崩落すると、ついに固形化リソスフェアを突き破ってマグマが噴出し、割れ目噴火を起こす。また、火山が次々に噴火する。ついには数十もの火山がいっせいに轟音をたてて溶岩と噴煙を噴出し、外皮裏面と地下空洞上の都市を破壊していく。溶岩がどろどろと流れて林立するキノコ状の建物を押し流していく。
ガミラスの地底表面では火山性地震が続いていた。デスラーはよろめきながら司令室の窓辺に近づいた。眼下には赤々と溶岩流がてらついて流れている。その照り返しを受けてデスラーの顔も赤く見えたであろう。
ガミラスの人々は何が起こったかわからずに逃げ惑い溶岩流に流されていく。まさしく地獄絵図のようであった。
デスラーは
「ふはははは...ヤマトめ....やりおったか....ヤマトめ....ふはははは....」
デスラーは上半身で踊るようにして高笑いをはじめ、しばらくの間笑い続けた。
副総統のヒスや側近はまゆをひそめ、(気が狂われたか...)と感じていた。
「ふはははは....」
何分経ったであろうか。側近たちには時間が長く感じられた。
デスラーはスクリーンに示されたヤマトの光点をにらみつけ、
「やつの前方の天井都市と地底都市のミサイル、爆雷を発射しろ。」
と命じた。しかし、ヤマトはショックカノンで残り少なくなった天井都市のミサイルを打ち落とし、地底都市のミサイルを破壊しながら進んでいく。ガミラス星の外皮はさらにいたるところで崩れ落ちた。
ヒスは考えた。
(このままだと移住どころか脱出すらかなわなくなる...)
デスラーは
「われわれも苦しいがヤマトも苦しいはず。勝利はこの一瞬を耐え抜いた方に訪れるのだ。諸君、あと一歩の辛抱だぞ。」
「総統。お願いです。もうおやめください。」
「何!」
「まだ、お気づきになりませんか。このままではガミラス自体がこのまま滅んでしまいます。攻撃をおやめになって、遅まきながらもヤマトとの和平を...話し合いによる地球との共存の道を...」
デスラーは冷淡な視線をヒスに向け、彼の額へ向かってブラスターを撃ちこんだ。
顔面を血で染めて、ヒスはどうとたおれる。
「ほかには敗北主義者はいないだろうな。」
デスラーは部下たちをにらみつける。部下たちは蒼白になりながらうつむくばかりだった。
そのときだった。ヤマトの波動砲が総統府の周辺に命中した。天井に亀裂がはいり、ゆれが激しくなり、瓦礫がデスラーの真上に落下してきた。
「うわーーーつ。」
デスラーは絶叫して瓦礫の下に埋まったと思われた。総統府の建物は地盤が崩壊して倒壊していった。ガミラス星のミサイル、爆雷攻撃はいっさいとまっていた。
ヤマトは建物も溶岩もないやや高台になった平たい固形化リソスフェアの上に着陸する。ガミラス都市の残骸と溶岩流が見渡す限り広がっている。遠くには噴煙と溶岩を流している火山がいくつか見える。
生き物の姿は一切見られず、火山の爆発音のみが響く。
春香は、宇宙の星のひとつが最後を迎えた..と感じた。
「千早ちゃん。」
「春香...」
「アイドル時代はオーディションで負けても、切磋琢磨してやり直しが効いた。いくら意地悪されても終わりではなかった。地球が滅びるわけでもなかった...。でもこの場合の負けはやり直しが効かない。ガミラス星は滅んでしまった。ガミラスの人々は地球に移住したがっていたけど滅んでしまった。」
「ガミラスの人も地球の人も幸せに生きたいという気持ちに変わりなかったのに...
なんでわたしたち、戦ってしまったんだろう...わたしたちは戦うべきではなかったのに...。千早ちゃん、くやしいよ。あのドメル将軍だって生き残るために戦ったけど、ガミラスにもあのような立派な人はいたはずだよ。戦争すべきじゃないって意見をもった人もきっといたはずなのに。」
「誤った指導者を選んだ者のたどる末路よ。」
舞は得意そうに胸をはってつぶやいてみせる。しかし、次の瞬間には足早に艦長室へ立ち去った。
「あの人はいつもそうなのよ。敵が心理戦を挑めばそれを見破ってかえって冷静になって倍返しを考えるような強い人。アイドルとしても指揮官としても死角はない。だけど、人並みに悲しいことは悲しいから徹底的に弱いところは見せまいとするの。トップアイドルの時代もそうだったし今もそうだわ。」
律子が述懐する。
「何よ。つらいときは泣いたっていいじゃない。わたしんちは知らない人がいないくらい大きな会社だけど、私は兄たちのようになれなかったわ。だからわたしは負けた人間。でもアイドルをやっていくつかのオーデイションに受かったし、訓練学校へ行って砲撃のプロになったわ。そして今私たちはガミラスに勝った。だけど勝つってことがこんなにむなしいなんて...。」伊織がつぶやき、皆がその言葉をかみしめる。
「みんな、行こう、イスカンダルへ。」春香は第一艦橋の面々をはげます。
千早が操縦席に戻る。千早と真が顔を見合わせかすかにうなずく。
「補助エンジン動力接続スイッチオン」
「微速前進0.5」
「波動エンジン内エネルギー注入」
「フライホイール始動」
「メインエンジン接続、点火。」
「ヤマト発進。」
そのとき、舞は艦長席にもどってきた。
「みんな...」しばらく間をおいて舞は言葉を続ける。
「艦長の日高舞よ。わたしたちは、ついにイスカンダルへ来た。ほら、みんなの前にイスカンダルがあるわ。」
第一艦橋の面々は青い海におおわれた美しいイスカンダルを見つめていた。
「この機会に艦長として一言みんなに伝えたい。ほんとうにありがとう。」
地球を出航して87日が経とうとしていた。ヤマトは、苦しみながらも最終的には圧勝してここまで来た。人類滅亡まであと278日にせまっていたが、ヤマトの乗組員たちの表情は希望にあふれていた。
3ヶ月弱でガミラスを破り、イスカンダルを指呼の間にしたヤマト。人類滅亡まであと278日。地球は君たちの帰りだけを待っているのだ...
ぜんぜん死闘になってないじゃん^^とのご感想をお持ちの方!あなたは正しいw
どうやって舞チートにしようか考え、いったん書いた火山脈を波動砲で撃つ話をやめて最初から天井都市を壊す話にしました。しかもちょうどよいことに昨年の秋アニメにみぽりんの中の人と、響の中の人が演じるすばらしい作品が...あれだけのナガラを一掃する場面を思い出し、ティンと来ましたw。
もちろんDVDとコミックは全巻そろえ、12月には生まれて初めてライブというものに行きましたw
サブタイトルはガミラスにとってはまさに死闘だったということで^^;