フルメタルWパニック!!   作:K-15

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相変わらず更新は遅いです。
誤字脱字や「ここが変だ!」と、言う箇所があれば遠慮なく言って下さい。


第8 話 激動の誕生日!

トゥアハー・デ・ダナンのブリッジで艦長のテッサはレーダーに表示された複数のASの反応に頭を悩ませた。

ASの反応は無人島に集中しており、ここには世間には知られていないが化学兵器開発の為の施設と基地が備わっている。

化学兵器を危険視していたミスリルは人工衛星で常に監視をしていたが、昨晩に基地内で戦闘が行われた。

詳しい情報はまだ集まっていないが、作られている化学兵器を使われては周囲にも甚大な被害が及ぶ。

 

「マデューカスさん、進路を南へ変更します」

 

「メリダ島の進路から外れますがよろしいので?」

 

「被害が出る前に基地を制圧します。残念ですけどパーティーは中止ね。相良軍曹にもそのように連絡を」

 

「了解しました。進路変更、取舵!」

 

副艦長のマデューカスの号令でトゥアハー・デ・ダナンの進路が変更され南方の無人島へと向かう。

通常の潜水艦と比べて倍以上もある巨体が広大な海で唸りを上げる。

けれどもその声は誰にも聞かれる事なく波の音にかき消され、作戦領域へと進む。

テッサの考えとは裏腹にトゥアハー・デ・ダナンとその乗組員達はガウルンの仕掛けた罠へ足を踏み入れてしまう。

 

///

 

宗介とかなめが向かう南の島、メリダ島へ行く為に2人はミスリルが用意した航空機に搭乗し大空を飛んでいた。

だがシートに座っているかなめは不満をあらわにして窓の外の景色をじっと眺めている。

対する宗介はいつもの様に怒鳴り、感情をぶつけて来る彼女とは違い何も言おうともしない態度にどうやって接すればいいのかわからずに冷や汗を流すしかなかった。

腫れ物に触るように宗介は慎重にかなめに言葉を掛ける。

 

「千鳥……怒っているのか?」

 

「ううん、別に。気にしないでいいから」

 

「うぅっ……体調は問題ないな?」

 

「えぇ、至って快調よ。アナタがこれ以上話しかけて来なければ」

 

かなめは完全に宗介を受け付けようとせず、顔も向けずに窓に向かって返事を返した。

対応のやり方を知らない宗介にはこれ以上機嫌が悪くならないようにそっとしておく事しか出来ない。

以前にかなめを旅行へ誘った時には『2人だけ』と言っていたが、当日になって飛行場へ来ると宗介は『テスタロッサ大佐もお待ちしている』と言ってしまう。

『誰も居ない2人だけ』と言う条件に惹かれて南の島への旅行を決めたかなめの心を、宗介は気が付きもせずにライフル銃で破壊していた。

それからは顔も合わせず満足に口も聞こうとしない。

 

(まずい……何故千鳥が怒っているのかが全く理解出来ん。とにかくこの空間は居心地が悪い。アフガニスタンの最前線で戦闘しているほうがまだ楽だ)

 

他人の感情を読み取る能力が低い宗介にもかなめが今もの凄く怒っている事だけは理解出来た。

けれども怒っている理由まではわからないのが彼であり、故にどのように接すればいいのか検討もつかない。

緊迫した室内ではあるが順調に飛行を続けている所に乗組員から宗介に報告が来た。

 

「相良軍曹。ダナンから連絡です」

 

「俺に?わかった、すぐに行く」

 

予想していないトゥアハー・デ・ダナンからの通信に一瞬頭を悩ませるが、時間の無駄と考えを止めてシートから立ち上がる。

通路を跨いではいるがすぐ隣のかなめの様子を伺うもこちらに振り向きもしない。

声を掛ける事も出来ずに口から息を吐き諦めるとコクピットの通信機へ歩く。

1人置いて出て行く宗介をかなめは横目で見ながらも、表情を悟られないように決して顔は動かさない。

操縦席に設置されている通信機の受話器を手に取り耳へ当てると通信機の向こう側の相手にコールサインを言う。

聞こえてくるのは女性の通信係の声だ。

 

「こちらウルズ7、緊急の要件か?」

 

『はい、艦長の指示で予定を変更します。同乗者の千鳥かなめさんと共にダナンへ戻って下さい』

 

「時間は?」

 

『0125時にそちらの航空機予定進路上に浮上します。作戦の都合上、着水してから180秒で乗船して下さい』

 

「了解した。通信終わり」

 

要件だけを最短で確認した宗介は通信を切りかなめが待っている席へ踵を返す。

かなめにビクビクしていた思考は完全に切り替わり、限られた時間の中で全ての動作を完了させなくてはならないのでいつも以上にキビキビとした動きになる。

早歩き気味に歩く宗介はかなめの元へと戻ってくると事情も説明しないまま彼女に予定が変わったと告げた。

 

「千鳥、予定変更だ。今すぐこのウェットスーツへ着替えてくれ」

 

「はぁ?ちょっと、いきなり何言って―――」

 

「時間がない。俺がやろう」

 

状況が飲み込めないかなめは説明を求めるが宗介は時間短縮の為にそれすらも拒み、普段着のかなめに手を触れようとする。

手が服に触れるか触れないかの距離に近づいた時に一瞬で血が沸騰し顔が赤くなったかなめは、宗介が持っているウェットスーツをもぎ取りパニックになる頭の中を何とか落ち着かせようとした。

 

「ひ、1人で出来るわよ!?もう少しデリカシーをかか、考えなさいよね!?」

 

「わかった。7分で支度しろ。荷物は俺が預かる」

 

『分かった』と言いつつもちゃんと理解していない宗介はかなめが持ってきたキャリーケースを掴むとまた1人置いて出て行ってしまう。

エンジン音とプロペラの音だけが響く室内に1人残されたかなめは、手に握るウェットスーツの感触がようやく脳に伝わり冷静さを戻す。

すると忘れていた怒りがまたこみ上げて来て体が震え、ウェットスーツを力一杯床へ叩き付けた。

 

「ふん!!」

 

彼女の気持ちを知るはずもない宗介は降下の為のパラシュートと、かなめの荷物を海水で濡らさないように防水性のケースへ詰め込み黒いウェットスーツへ着替え準備を終える。

パラシュートを背中へ装備し体を固定させるベルトを握りかなめの元へと戻った。

 

「準備は出来ているな?」

 

「……」

 

戻ると同じ黒いウェットスーツを来たかなめが右手を腰に当てて待っていたが、宗介に返事も返さず全身で怒りを表すもいつもの如く気がつかない。

着替えているのを確認した宗介は素早くかなめの背後へと回りこむと了承も得ぬまま自分と彼女の体をベルトで巻いて離れないようにする。

 

「えっ!?ちょっと!?」

 

「よし、行こう」

 

「放しなさいよ!行くって何処に行くのよ?」

 

「海の中だ」

 

「ウミ?」

 

暴れるかなめだがベルトで体はしっかりと固定されており宗介から離れる事は出来ない。

何をするのかもわからないまま強引に宗介に動かされて航空機の出入口の扉まで来てしまう。

2人が来たのを確認した乗組員は荷物の入ったケースを手渡し降下の残り時間を伝えた。

 

「後2分でダナンが浮上します。時間通りです」

 

「了解した。今までありがとう」

 

宗介の最後の言葉を聞くと扉が開き、外の空気が突風となって中に襲ってくる。

風でかなめの長髪が乱暴に流され皮膚に固く叩きつけてきてようやくこれから何をするのかがわかった。

体験した事のない未知の経験に恐怖しながら恐る恐る体を密着した宗介に伺う。

 

「も……もしかしてここから飛び降りるんじゃ」

 

「肯定だ。行くぞ!」

 

「ちょっとま―――」

 

心の準備も出来ぬまま、かなめは大空へと飛び立った。

航空機は見る見るうちに離れて行き、目の前には青い空と大海原が視界一杯に広がり重力に引かれて落ちていく。

近づいてくる海面にかなめは恐怖を忘れて現実逃避した。

 

(青い空に白い雲、南の島の白い砂浜に水平線に輝く太陽。とっても綺麗……)

 

宗介は腰のフックを引き背中のパラシュートを展開させ落下スピードを低下させ着水の体制に移行する。

パラシュートが開ききり空気の塊が2人を浮き上げそのままゆっくり海面に着水した。

海水の冷たさが体に伝わり虚ろになりつつあったかなめの意識が完全に蘇る。

 

「もう嫌ぁぁぁ!!!」

 

///

 

ガンダムにより制圧された基地は朝になり、圧倒的なまでの戦闘力で破壊しつくされた現場がよくわかる。

ASなどの戦闘兵器は全て破壊しつくされており、マシンキャノンとビームサーベルにより斬り裂かれた残骸は元が何だったのかも推測がつかない有り様だ。

マシンキャノンはASを破壊するだけでは飽きたらず貫通して地面のアスファルトを粉々に砕き、ビームサーベルは装甲を飴のように溶かしネジ1本残っていない機体もある。

だがミサイル貯蔵庫と開発施設だけは無傷の状態で残っていた。

それでも戦闘に駆り出された兵士は戦死、非戦闘員は既に島から脱出し島にはヒイロしか残されていない。

ガンダムは片膝を付けた状態で動きを止めており、ハッチも開放され中にパイロットは乗っていなかった。

ヒイロは貯蔵庫の巨大な天井クレーンを操作して使用出来るミサイルを一箇所へ集めている。

集められているのは戦闘機に使用される小型の物だが破壊力は充分にあり、ASでも直撃すれば致命傷は避けられない。

誰も居ない場所でクレーンの重厚な音だけが響き渡る。

 

「トマホークの移送完了。次は対艦ミサイルの移送だ」

 

基地に置かれている爆発物を片っ端から一箇所へ集めていくヒイロ、任務遂行の為に着々と準備を進めていくが目的が何なのかは本人しか知らない。

全ての兵器を集約すれば基地全土を簡単に吹き飛ばせる破壊力がある。

誰にも悟られる事なく基地での作業は進んでいく。

 

///

 

トゥアハー・デ・ダナンへ乗船した宗介とかなめはシャワールームに来ていた。

宗介は既に迷彩服に着替えており休めの姿勢で入り口を警備しているが、部屋の中から微かに聞こえる声が気になって冷汗を流す。

シャワールームには青いワンピースに着替えたかなめがタオルで髪の毛を拭いており、さらには艦長であるテッサも同じ場所に居る。

 

(千鳥と大佐殿は何を話しているんだ?)

 

椅子に座り長い髪の毛の水分を丁寧に拭き取るかなめの正面にテッサも腰を下ろし久し振りの再会を喜んだ。

 

「トゥアハー・デ・ダナンへようこそ。無茶をさせてしまってすみませんでした」

 

「何処かの軍曹殿でもない限り、スカイダイビングして冷たい海を泳がされても平然としていられる女子高生なんて日本には居ないと思うわ」

 

かなめの嫌味にテッサは苦笑いするしかなかった。

勿論本気で思っている訳ではなく、久し振りに再会したテッサに笑みを浮かべるかなめ。

でも宗介はまたかなめの逆鱗に触れたのではないかと気が気ではない。

2人の様子を離れた入り口から黙って見守るしかなかった。

 

「すみません。本当はメリダ島と言う所にまで来てもらう筈だったのですが、急遽事情が変わってしまって。強引な方法でしたがこうするしかありませんでした」

 

「ううん、大丈夫よ。それにテッサにも会いたかったしね。話したい事もいろいろあるし」

 

「お話はまた2人の時にしましょう。予定は変わってしまいましたが、2泊3日の海中旅行を楽しんでもらおうと思っていますので。取り敢えず艦内の案内をしますね」

 

そう言うとテッサとかなめは立ち上がり宗介が立っている入り口に向かう。

大股で横へ1步移動する宗介は退室する艦長に右腕を上げて敬礼すると、テッサは立ち止まり部下として宗介に指示を出す。

 

「相良軍曹。かなめさんは私が案内しますので、アナタは主格納庫へ行って下さい。案内が終わり次第向かいますので、そのように伝えて下さい」

 

「了解しました」

 

返事を返す宗介は通路へと出た2人とは逆方向に向かって歩いて行った。

遠ざかって行く背中を見つめて、かなめはテッサに艦内の案内をしてもらう。

 

「それではかなめさん。これから艦内をご案内しますので、一緒に来て下さい」

 

「わかった。お願い」

 

かなめはテッサの誘導に従い鉄製の通路を白いサンダルで歩いて行く。

トゥアハー・デ・ダナンは潜水艦であるが、現存する他のどの潜水艦と比べても2回り以上サイズが大きく、2人で横並びに歩いても通路の幅はゆとりがある。

かなめは初めて見る潜水艦の内部を見渡しながら、エンジンやスクリュー音の全く聞こえない物静かな通路をテッサと話しながら歩いた。

 

「何か、凄いわねぇ。潜水艦なんて始めて乗るから」

 

「ここは私の家みたいな物ですから、わからない事があれば何でも聞いて下さいね」

 

「そう言われても海の中を動く以外は全然知らないから、何を聞いたらいいのかもわからないわ」

 

「一般の人に潜水艦なんて馴染みがないですからね。潜水艦は非常に隠密性に優れていまして、簡単に言えば見つからずに攻撃出来るんですよ。このトゥアハー・デ・ダナンは全長は約218メートルもあって、通常なら運用方法が限定される潜水艦ですが偵察に敵地の遠距離攻撃、部隊の派遣まで海の続く場所でなら何でも出来る凄い艦なんです」

 

トゥアハー・デ・ダナンを自慢気に語るテッサは我が子を紹介しているかのような気分でかなめに説明する。

右手の人差し指を上げてまるで指導員の如く内部の構造や機能をレクチャーするテッサに、かなめも歩きながら言われた言葉を記憶に留めておく。

 

「へぇ~、そうなんだ。映画みたいに海の中で潜水艦同士で戦ったりもするんだ?」

 

「実際には潜水艦同士での戦闘はありません。今までの記録上でも過去1度しか行われていないようです。隠密性が高いのでそもそも見つからないのです」

 

「映画の演出って訳ね」

 

「はい。でもこのダナンでなら―――きゃっ!?」

 

話していると壁の配管にテッサの肩がぶつかってしまい体のバランスを崩し、鉄の床に前のめりに倒れてしまう。

幸いにも怪我はしなかったが、この程度の事で転けてしまう自身の運動能力の低さと、無様に床に倒れてしまっている事に顔が赤面する。

かなめは少し呆れながらも両膝と手を付いているテッサに手を差し伸べて立ち上がらせた。

右手に触れる彼女の手は鉄の床で冷えていて冷たい。

 

「何やってるのよ。怪我はしてない?」

 

「いたたた~。すみません、大丈夫ですから」

 

「アナタそんなので本当にこの船の艦長なの?」

 

「運動は苦手なんです。でも私はれっきとしたこの艦の艦長なので、安心してください」

 

「そう言えば―――」

 

かなめは初めてテッサと出会った時の事を思い出す。

マンションの部屋で『所属する部隊の上官』と説明されたが、自分とほとんど年齢が変わらない彼女が宗介の上司と言われても納得出来なかった。

『実力が伴えば若くても大丈夫です』と彼女は言ったが、それでも半信半疑で完全には信じ切れない。

ただの軍事オタクと思っていた宗介が本当の軍人でASの操縦も出来ると言う前例はあったが、初めて出会った彼女に口だけで説明されても信ぴょう性は薄く、こうして本当に潜水艦に乗らせてもらう事でようやく現実味が出てきた。

 

(ヒイロ君はテッサが本当に潜水艦の艦長だって信じたのかな?まさかねぇ~、アタシだって初めは信じてなかったし)

 

「そういえば?」

 

「ううん、何でもない。次に行こ」

 

テッサの呼びかけに日本に居る友人を思い出していたが、思考を中断させて潜水艦内部の探索へ戻る。

 

///

 

基地でガンダムと戦闘した後撤退したガウルンであったが、ASのECSを稼動させ周囲の景色に溶け込み息を潜めている。

光学迷彩により見えなくなった状態ではガンダムのモニターでも確認出来ず、何もしなければ存在を悟られる事はない。

ヒイロが1人で基地内に残っている兵器をかき集めている間に、ガウルンは双子の姉妹の姉のユイファンにASのカメラで映像を録画させていた。

無残にへし折れた丸太の上に座り、思考が読み取れない不敵な笑みを浮かべてシャドウの頭部に向かって声を出す。

 

「親愛なるミスリルの諸君、元気にしているかな?今日は折り入ってお願いがあってね。俺のASが不具合で動かなくなっちゃってね。できればそちらで修理して欲しいんだが、頼めるかな?もし来てくれるならプレゼントも用意しておく、とびきりのをな。カシム、お前が来てくれるのを首を長くして待ってるぜ」

 

「録画、終了しました」

 

外部通信でユイファンは伝えるとガウルンは丸太から立ち上がり腰に両手を添えた。

 

「よぅし、後は適当な回線に流せ」

 

「了解しました」

 

何を考えているのかを聞こうともせず、敢えて不利になる状況に自らを追い込むガウルンの行動にユイファンは素直に従う。

録画した映像を何1つ加工せずに無線で垂れ流す。

ミスリル程の技術力がある組織や部隊でなくとも、通信位置を割り出しこの島だと気づかれてしまう。

でもそれこそがガウルンの狙いであり、ミスリルにこの島まで来てもらう事で思惑は完了する。

可能性は限りなく低く到着したミスリルの部隊により死んでしまうかもしれないが、ガウルンは自分の死など度外視し今の状況を楽しんでいた。

 

「そっちはどうなっている?」

 

「以前として動きはありません。基地内部で何かしている可能性もあります」

 

妹のユイランはASの望遠カメラで基地で動かなくなったガンダムをずっと監視しており、濁った瞳でカメラから送られてくる映像を見続ける。

監視を始めてから数時間が経過したが不満1つ漏らさず、機械的にガウルンへガンダムの様子を伝えた。

 

「そうか。ミスリルの連中が来るまで大人しくしてくれれば、ほとんど終わったも同然なんだがな」

 

「先生。相手の戦闘力は、現状では測りかねます」

 

「だからいいんだよ。アイツがどれだけ強いのかを俺に見せつけてくれ。まぁ、失敗したならそれでもいいが」

 

「わかりました」

 

ユイランは静かに声を返すとまたガンダムの監視を再開する。

空の雲行きが少しずつ悪くなり、青い空が次第に灰色の雨雲に隠れていき島全土を覆う。

 

///

 

テッサはかなめにトゥアハー・デ・ダナン内部の構造をひと通り教えながら回った。

シャワールームは体を温める為に始めに行き、食堂、居住区、ソナーや通信室など各割り当てられた部屋を簡単に説明し最後にASやヘリなどの巨大な兵器を置いている格納庫へやって来た。

格納庫の入り口は冷たく重い鉄の扉で閉ざされている。

 

「ここが主格納庫です。今開けますので少し待って下さい」

 

テッサはそう言うと扉中央に設置されている煙室扉ハンドルの丸い円を両手で掴み左へ回す。

鉄独特の冷たさが彼女の手の平に伝わり、高い水圧や気体を完全に密閉する煙室扉は重くハンドルもドアノブを回すように簡単にはいかない。

口から息を吐きながら自身の軽い体重を掛けてハンドルを回すが、非力な彼女では少しづつしか回らなかった。

 

「っは~」

 

見かねたかなめはため息を吐きながらもテッサの横へ行き同じようにハンドルを握る。

 

「左へ回せばいいの?」

 

「す、すみません。お願いします」

 

「行くわよ。せ~のっ!」

 

特殊な扉とは言えただ開けるだけでも苦労してしまう自分の身体能力の低さにテッサは恥ずかしくなり、かなめの顔をすぐには直視出来ない。

一方のかなめはテッサの身体能力の低さは既に理解しており今更気にする事でもなかった。

2人でハンドルを握りかなめの声に合わせて同時に力を込めて、重たいハンドルを左へ回す。

ハンドルは難なく回転し、それと同時に鉄の扉も開き奥の格納庫が視界に広がる。

けれども格納庫に明かりは灯っておらず、闇に慣れていない目では中に何があるのか全くわからない。

格納庫へ足を踏み入れた2人、テッサはかなめの手を引いて奥へと進んで行く。

音も聞こえず視界も頼りにならないのでテッサの誘導に従って歩を進めるしかなった。

冷たい空気が肌を冷やし、テッサのハイヒールとかなめのサンダルの足音だけが不気味にこの空間に響き渡る。

 

「テッサ、ここで何するの?」

 

「見てのお楽しみです」

 

答えになっていない返事を返されて困惑するかなめだが、突然に頭上から眩いライトの光が照らされた。

視界が広がり全体が見えていなかった格納庫の様子がはっきりとわかるが、ようやく慣れ始めてきた目には光が眩しすぎてすぐに見れない。

目の前に手をかざして光を遮り何とか前を見ると、テーブルに白いクロスを引かれたのがいくつもありトゥアハー・デ・ダナンの乗組員達が2人を待っていた。

中には宗介と以前にも会ったことのあるクルツとマオも居る。

その光景に目を奪われているとメガネを掛けた乗組員の1人を大きな声を上げて全員を束ねる。

 

「全員気を付け!!」

 

迷彩服がこすれ合う音と軍靴の足音がリズムのように音を鳴らして、その場に居る全員がかなめを直視して姿勢を正す。

 

「テスタロッサ大佐と我が隊の窮地を救ってくれた民間人、千鳥かなめ嬢に最大の敬意を込めて。敬礼!」

 

また声が響くと全員がかなめに向かって右手を頭部に斜めに当てて敬礼してくる。

かなめはこの光景に唖然とし、どんな言葉を発したら良いのかがすぐには考えつかない。

 

「驚きましたか、かなめさん?」

 

「ええっと~、これは一体?」

 

「今までに協力してくれた事への感謝の気持ちです」

 

「そうは言っても、アタシたいした事してないし」

 

「謙遜しなくても大丈夫です。私もここに居るみんなも、アナタの行動に敬意を払っています」

 

真っ直ぐに向けられる感謝の気持ちにかなめは顔を赤面して照れながらも、自分に向かって敬礼してくれている面々を見据える。

かなめは恥ずかしさを振りきって、今まで自分を窮地から守ってくれてきた人達に感謝の言葉を言った。

 

「その……ありがとうございました!」

 

言うと乗組員の1人であるクルツが1人で勝手にかなめの前まで出てきて緊張をほぐすようにいつもの軽口を言って来る。

 

「そんな固くならないでかなめちゃん。こんなヤロウ共なんて気にしなくていいから」

 

「ウェーバー軍曹、口を慎め!」

 

「おっと!?まぁ、もっと楽にしてさ。これからパーティーもあるし!」

 

「パーティー?」

 

メガネの乗組員、マデューカスに口を刺されながらもクルツの態度はいつものまま。

まだ緊張しているかなめにテッサは肩に手を添えて、これからの事を説明する。

 

「今日はこのトゥアハー・デ・ダナンが建造されて1年経つんです。だから今からそれのパーティーをするんですよ」

 

「その通り、豪華な景品も付けるぜ。楽しんで行きなよ、かなめちゃん」

 

乗組員達が一斉に手にクラッカーを握ってヒモを引っ張っり紙テープや紙吹雪が格納庫に舞い上がる。

歓声が湧き上がり冷たく感じていた空気も暖かく包まれて、かなめは凝り固まった肩から力をようやく抜けた。




ヒイロが基地でしようとしている事とは何なのか?
かなめを乗せたトゥアハー・デ・ダナンはガウルンの誘いに乗ってしまうのか?
今回は地味な話ですみません。
恐らく次回も地味です、次の次ぐらいには戦闘シーンが入るかな?ぐらいです。
今回の話のように派手さがないと、自分としても執筆意欲は落ちてしまいます。
しょうがない事なのか?他に書いている作者様はどうしているでしょうか?
次回をお待ち下さい。

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