フルメタルWパニック!!   作:K-15

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前回の投稿からかなり時間が空いてしまいましたが、ようやく投稿します。
あまり筆が早くはないのでこれからも遅くなると思いますが、見てくれると嬉しいです。


第6話 写真部部長はキミだ!

正体不明の巨大なアームスレイブ。

否、ガンダムのコクピットにヒイロは搭乗している。

ヒイロの技量とガンダムの性能の前には、この世界の兵器など人間に戦いを挑む子猫に等しい。

ベヘモスもラムダ・ドライバ―が発動してようやく対等の土台へ上がれるが、結果は完璧なる敗北。

ビームサーベルを防ぐ事が出来てもそれまでで、ガンダムにはキズひとつとして付いてはおらず過負荷によりラムダ・ドライバ―も1度強制解除されてしまった。

戦いが長引けばさらにラムダ・ドライバ―も不安定になり結局は負けていただろう。

故にこのまま1人で戦っていたとしても勝てる自信はあったが、途中から現れた白いASはベヘモスの両足の隙間へ潜り込むと装備しているボクサーでベヘモスの冷却装置を撃ち抜いた。

機能を停止させ動きを止めたベヘモスにヒイロはガンダムのバスターライフルを構えて照準に収めた。

最大出力で放たれたビームは空気を焼き、周囲にも衝撃波を生み出しながら赤い巨人へ向かっていく。

動けもせず、ラムダ・ドライバ―も使えないベヘモスはただの鉄塊でしかなく、バスターライフルで消し去るのは容易だ。

タクマの最後の声すら誰にも聞き取られず、ビームに飲み込まれたベヘモスはネジ1本として残らずにこの世から消えた。

でも一緒に破壊したと思っていた白いASだけはマグマのように赤く発熱するアスファルトの中でまだ立っていた。

そして白いASの背後のアスファルトだけは何故か溶けておらず疑問を抱くヒイロだが、目標はベヘモスの破壊であり生き残ったASをそのままにする。

 

「任務完了。撤退する」

 

攻撃対象を撃破したヒイロは右足でペダルを踏み、背部の羽からバーニアを吹かし両足を地面から浮かせ空へと飛び立つ。

バスターライフルをシールドと一体化させ人型だった姿を変えていく。

一瞬で鳥のような造形に変形したガンダムはこの戦域から離脱した。

一方のアーバレストに乗っている宗介は状況がまったく理解出来ていない。

目の前を覆う輝きに、どうして自分は助かったのかすらわからずにいる。

 

「今のは何だったんだ……新型のASに新型の武器。どうして俺は生きている」

 

『ラムダ・ドライバ―の発動を確認。機体にダメージはありません』

 

「ラムダ・ドライバ―がアレを防いだのか。だとしても、アレは強力すぎる」

 

『肯定』

 

マグマの中でアーバレストだけが佇み、マグマの高熱は白い塗装を焦がしていく。

宗介は他の隊員の無事も確かめようと通信回線を合わせるが、バスターライフルのビームは強力なプラズマを発生させ脆い機器は一時使用出来なくなる。

通信も同様で雑音が聞こえるだけでこちらからの声は流さないし他には何も聞こえなかった。

 

「通信はダメか。アレは?」

 

『発煙筒の光と推定。救難信号と思われます』

 

「わかっている。ウルズ7、救助に向かう」

 

アーバレストは膝を曲げると助走もなく跳躍し、港から上がる発煙筒の煙へ向かって走る。

 

///

 

カリーニンは車に備え付けられている発煙筒を炊き、すぐ傍に倒れているセレナへと駆け寄った。

ベヘモスが起動した時に強引に彼女を連れ出したカリーニンだったが、その後に現れたガンダムの攻撃の余波が離れた港にまで襲って来た。

バスターライフルから発射されたビームの衝撃波は車程度は簡単に吹き飛ばし、ベヘモスが壊していった残骸が溢れる港では雨のように鉄くずが舞う。

セレナの白いパイロットスーツは黒く汚れ、綺麗な所はない程ズタズタになっていた。

そして右の脇腹からは赤い血で染まり今も流れ続けている。

 

「まだ意識はあるな?今、味方に救難信号を送った。もう少しだ」

 

「む……無理よ。カリー……ニン……」

 

息も絶え絶えのセレナ、流れ出る血液は確実に彼女の体力を奪って行き手で抑えても止まってはくれない。

もう彼女に以前の生気はなく目を開けるのも辛く苦しかった。

でもカリーニンはセレナを助けるのをまだ諦めてはいない。

 

「キミは生きなくてはならない。武知征爾の為にも」

 

「死ぬ思いは……何度もし……してきた。だからわかるの。もう……助からない。死ぬ時が……来たんだって……」

 

「セレナ、私は言った筈だ。生きて償えと。そうしなければキミは兵士としてではなく、ただの人殺しとしてこの世を去る事になる。それは彼の望んだ結末ではない筈だ」

 

「カリーニン、人の……人の罪なんて……消えないの。1人でいい。1人でこのまま……」

 

「セレナ……」

 

カリーニンに見守られながら彼女は息を去った。

まぶたはもう開く事はなく、心臓の鼓動も止まってしまう。

誰にも認められず、生きてきた意味も見つけられずセレナの短い人生はこれで幕を閉じる。

熱の冷めていく彼女の体を抱きかかえたカリーニンの元へ、救難信号をキャッチした宗介のアーバレストがやって来た。

 

『少佐、ご無事ですか』

 

「相良軍曹か。私は問題ない」

 

『そちらの女性は……』

 

「私からのせめてもの手向けだ。ちゃんとした場所へ埋葬したい」

 

その言葉を聞いて宗介は彼女がもう死んでいるのを理解した。

コクピットモニターから映しだされる彼女は眠っているように美しい。

でも血は流れ汚れた体、力なくぶら下がる両腕に外から見ても生気は感じられなかった。

 

『わかりました』

 

宗介も必要以上に言葉は発さず、アーバレストに膝を付かせると2人を乗せれるようにマニピュレーターを差し出す。

上空のヘリコプターからは、かなめとテッサが宗介のアーバレストが無事であった事に安堵した。

 

「宗介も無事なのね?」

 

「はい、スムーズに動いていますから損傷もしてないと思います」

 

「よかった~。さっきのアイツの攻撃に当たっちゃったかと思った」

 

「あのASは……いえ、ASとすら呼べる代物ではないかもしれません」

 

テッサは既に戦闘領域から離脱した謎の機体に表情を曇らせる。

今回の短い戦闘の中だけでもガンダムの性能は段違いに高い事にかなめ以外の人間は気が付いていた。

ビーム兵器による高い攻撃力、ガンダニュウム合金の強度、飛行能力も備わっている機動力は現代の兵器の性能を遥かに凌駕している。

ガンダムが如何に強力なのかを理解しているのはパイロットのヒイロだけ、テッサにも今の段階では全てを把握出来てはいない。

それでも圧倒的にも取れるガンダムの戦闘力は彼女の目にこびりついて離れなかった。

 

「もしあの兵器が敵になったら、私達は勝てるのでしょうか……」

 

飛び去ったガンダムは夜空に輝く星に消えたが、テッサはいつまでもそこを眺めている。

 

///

 

ベヘモスが街で暴れまわった翌日、新聞や各報道機関はそれ一色になった。

犠牲者や建造物の被害額、予測されているだけでも膨大な額に昇り詰める。

それだけでなく衆目にさらされたベヘモスとガンダムも話題に加わっているのは必然だった。

一体誰が作ったのか、何が目的なのかなど議論を呼んだが男子の間で1番騒がれているのはその造形。

隠密性はないに等しいトリコロールカラー、背部の巨大な羽、現代の兵器には似つかわしくないが世の男子の心を鷲掴みにした。

心奪われた男子の1人である風間信二は学校の教室でガンダムの姿が映った写真を見て血が沸騰するかのように興奮している。

 

「すごい!全長はおおよそ18メートル、にもかかわらず単独で自立ているなんて。トリコロールカラーと左右対称のシンメトリーが生み出す形状は、もう芸術品とすら呼べる!」

 

命知らずの報道機関のカメラマンなどが撮影した写真が底かしこで出回っており、ただの学生の風間は知り合いを通して写真を入手した。

写っているのはヒイロが乗っていたガンダム、本人はパイロットが同級生など夢にも考えていない。

 

「ねぇ、相良君はどう思う?」

 

「現状で揃っているデータは少ない。断定するのは危険だ」

 

「それはそうだけどさ。大きいだけのハリボテだと意味が無いしね。これどんな名称なんだろう?」

 

「俺にはわからん。風間、俺は今から生徒会の活動へ行く。話はここまでだ」

 

宗介は席を立ち横に掛けているカバンを手に取り、熱弁する風間を置いて教室から出て行く。

話す相手が居なくなってしまった風間は宗介の背中を恨めしそうに眺めると、視界にまだ帰っていないヒイロの姿が映った。

ヒイロの傍へ擦り寄る風間は手に持った写真を魅せつけて感想を聞く。

 

「ヒイロ君はどう思う?誰が作ったのかはわからないけれど、今までにない画期的な造形だと僕は思うんだ」

 

「興味がない。兵器は使用者の意図通りに使えれば充分だ」

 

「そうだけど……でも―――」

 

「これ以上話す事はない。俺は行く」

 

「ま、待って!!」

 

風間を突き放して帰ろうとしたヒイロだが、再び風間に呼び止められてしまう。

面倒と思いながらも足を止めて振り返りもう1度だけ風間の話を聞いて上げた。

 

「あの千鳥さんから聞いたんだけど、ヒイロくんは部活をやってないんだよね?」

 

「それがどうした」

 

「僕は写真部に入っているんだけど、部員が1人抜けちゃって人数が足りないんだ。だからお願い!写真部に入って欲しいんだ!」

 

藁をも掴む気持ちでヒイロに頼む風間、頭を垂れて最後の望みを託す。

けれども数秒が経過しても返事どころか声1つ聞こえてこない。

ゆっくりと下げていた頭を上げると、目の前に居た筈のヒイロは風間を置いて教室から出ていこうとしている。

気付いた風間は急いで走りだし廊下へ出てしまったヒイロを追いかけた。

 

「待ってよ!ヒイロ君!」

 

部活の存続が掛かった一大事に風間は焦り、廊下のヒイロにすぐに追いつき肩を掴んだ。

歩みを止めたヒイロは鋭い眼光で風間を睨むが、今の彼には写真部の事で頭が一杯でまったく動じずに語り始める。

真正面に向き直り必死の思いを伝え始めた。

 

「お願いだよヒイロ君!入ってくれるだけでいいんだ!」

 

「興味がない」

 

「それでもいい。とにかく今は部員の規定人数を埋めないと廃部になっちゃうんだよ」

 

「だったら俺の必要はない筈だ。他に頼め」

 

「他はもう別の部活に入っているし、写真部に進んで入ってくれる人なんて居ないよ。だからヒイロ君だけが最後の希望なんだ!」

 

人生の終わりの如く大げさに言う風間だが、どれだけ言われようともヒイロに入部の意思は存在せず、このまま突き放してでも帰るつもりでいる。

そうしようと頭の中で考え実行しようとしたその時に、また別人から肩を掴まれた。

視線を向けた先に居たのは同級生のかなめ、ベヘモスとの戦いで別れた後も何事もなく学校へ登校し、それからは戦いの事を話していない。

 

「いいじゃない。ヒイロ君何処にも部活入っていないんでしょ?友達のお願いなんだしさ」

 

「友達……」

 

『友達』の単語に言葉を詰まらせるヒイロ、戦いばかりの日常で頼れるのは自分1人で学校へ入学しても潜入調査の為であり、友達など作る必要がなかった。

だが現在陣代高校に入学しているのは潜入捜査は関係なく、純粋に学生として日々の日常を過ごす為に入学している。

それでもまだ本人には普通の学生として過ごす気はまだない。

長きに渡る戦闘訓練がヒイロをそのように変えてしまったのかもしれないが、普通の少年がどんなのかをヒイロは知らなかった。

かなめが『友達』と言った時に頭の中ではわかっていても心の底からは理解しておらず、だから言葉を詰まらせてしまう。

 

「よし!ならヒイロ君は写真部に決定!風間君、部室まで案内してあげて」

 

「本当に!?ありがとう、ヒイロ君!」

 

「俺は……」

 

ヒイロの返事も聞かずにかなめは強引に写真部へと入部させた。

風間は瞳に涙を貯めて両手を掴み感謝の気持ちを伝えるが、ヒイロはまだどうするかも決めていない。

2人に流されるがまま写真部へ入部させられ片手を取られ部室まで風間に連れて行かれる。

 

「うんうん、やっぱ学生らしい活動をしないとね。でも……」

 

かなめは救助された後に宗介からさらに念を押されていた。

初めはただの戯言だと流していたが、タクマを奪還する為に襲撃してきたテロリストにヒイロは恐怖1つ抱かない。

 

『いいか千鳥、ヒイロ・ユイには余り近づくな。襲撃されてもアイツは冷静に対応出来ていた。普通ならこうはならない。俺も目を離すつもりはないが、充分に警戒しろ』

 

(アイツはそう言ってたけどまさか……ねぇ)

 

いつもの宗介だと思いたかったが、完全に疑いを払拭出来るだけの行動をヒイロはしておらず、不安だけがかなめの心に纏わり付く。

 

///

 

風間に連れて来られてヒイロは写真部の部室へとやって来た。

本来は理科室として使用されている部屋の中へと入ってみると写真部とは到底思えない人物が3人、部屋を占拠し武道の練習をしている。

柔道着を着た筋肉質のスキンヘッドが3人、机や椅子などの障害物を避けながら拳をぶつけあっている。

 

「どうなっているのさ!?ここは写真部の部室だよ?」

 

「ここは我々、空手同好会が貰い受けた!」

 

「どうしてもここから出て行ってほしいのなら!」

 

「力ずくで掛かって来い!」

 

「そ、そんなぁ~」

 

勝ち目のない勝負に落胆する風間、スキンヘッドの男たちは高笑いを上げて勝ち誇る。

ゲラゲラと部屋の中に響き渡る笑い声の中でガラス瓶が割れる音が唐突に聞こえた。

 

「ん、今の音は何じゃ?」

 

「お前たちはここから出る気はないんだな」

 

「ヒイロ君……」

 

ヒイロは風間を下がらせ警告を促す。

本気を出せば3人を殺すなど造作もないがただの学生にそんな事はしない。

けれども床にはビーカーのガラス片が散らばっており中の液体もこぼれてしまっている。

気付かれないように準備室から持ってきた薬品をヒイロがばら撒いたのだ。

中身がどんな物なのかを知らないスキンヘッドの男たちは、負け犬の遠吠え程度にしかヒイロの声は聞こえていない。

 

「あぁ、この部屋を返して欲しければ俺たちと戦い勝ってみせろ」

 

「でなければ俺たちはここから出るつもりはない」

 

「お前のような弱々しい男に俺たちに勝てるとも思えんがなぁ」

 

「「「がっはっはっはっは!!」」」

 

再び高笑いを上げる男たちにヒイロは愛想が尽き、もう1つ隠し持っていた薬品を床に溢れている液体にぶちまけた。

2種類の液体が混ざり合っていくのを確認したら3人に背を向けて部屋から出て行く。

 

「そうか。行くぞ風間」

 

「で、でもこのままじゃ部室が……」

 

「安心しろ。すぐに終わる」

 

風間に有無を言わさずヒイロは部屋を後にして扉を閉め、密室の部屋の中にはスキンヘッドの3人が取り残された。

状況を理解出来ていない風間は戸惑うばかりで廊下に出てすぐにヒイロに理由を聞く。

 

「安心しろって何を?あの人達に勝たないと部室は返してくれないって」

 

「時間だ」

 

「時間?時間がどうしたのさ?」

 

「薬品の効果が現れる頃だ。じきにわかる」

 

説明をしてくれないヒイロに風間は一向に目的がわからなかったが、閉め切った部屋の中から男たちの絶叫が響いた。

 

「め、目がぁ~~!!」

 

「ぐごっはぁっ!?喉が……息が苦し」

 

「頭が割れるーーっ!!」

 

次々に聞こえる苦痛の叫びに風間は恐怖したがヒイロは平常心のまま傍にある掃除用具入れから箒を取り出し、横へスライドさせる扉を開かせないようにストッパーを噛ます。

限界が近づいてきた男たちは部屋の外へ逃げようとするも、ヒイロが内側からは出られないようにしたせいで扉は1ミリたりとも動かない。

 

「た……頼む!助けてくれ!!」

 

「もう……限界……息が……」

 

「し、死ぬぅ~」

 

どれだけ助けを呼ぼうとヒイロは扉に触れようともせず、残酷な現実を3人へ突きつけた。

 

「お前たちは勝たなければ部屋から出ないと言った筈だ」

 

「そぉ!それはぁ~!」

 

「俺はお前たちと戦ってすらいない。だからこの部屋から出す理由もない」

 

「わかった!部室は返す、だから!このままだと本当にぃ~」

 

体の限界の近い3人の声はもはや奇声のような声になり、姿が見えなくても中の悲惨な状況が容易に想像出来るほどに緊迫している。

『部屋を返す』と耳にしたヒイロはストッパーの箒を手に取り扉を開けて上げた。

開けた瞬間に3人は廊下へ雪崩れ込み、正常な空気を肺に入れると生きている喜びを噛み締める。

 

「い、生きている……」

 

「助かったのか?」

 

「アヒャヒャヒャッ!蝶、虹色の蝶が見える」

 

あまりにも強引な手段に風間は友人である宗介を頭に浮かべた。

だが宗介でも戦闘不能にさせるだけでここまで痛めつけたりなんてしない。

 

「ヒイロ君、いくらなんでもやり過ぎじゃ」

 

「1度でも負けを認めれば相手は付け上がる。教師に報告する手段もあったが、これが1番手っ取り早い。部屋からも出し戦意も喪失させ、2度と楯突こうとは思わない方法は」

 

「そうかもしれないけど」

 

「いいや、まだ主将の俺が残っている」

 

2人は声がする方向へ視線を向けた先には牛乳瓶の底のようなメガネを掛けた男子生徒が1人、両腕を組んでこちらを睨んでいた。

空手同好会の部長、椿一成は闘志をあらわにして部員を倒したヒイロを指さす。

 

「俺は椿一成、お前は転校生のヒイロ・ユイだな」

 

「何のつもりだ」

 

「こいつらを倒したのは褒めてやる。空手同好会主将と写真部部長、どちらが上か勝負だ!」

 

「あの~、写真部の部長は僕なんだけど」

 

「やるならさっさとしろ。これ以上時間を掛けるつもりはない」

 

風間の声は2人にかき消され、ヒイロを写真部の部長だと勘違いした一成との最後の勝負が始まった。

構えを取る一成は長年の経験で相手は強者だと感覚で察知する。

 

(コイツは強い、やばい雰囲気が体中に伝わって来る。これは一撃必殺の奥義で決めるしかない!)

 

心の中で戦い方を見定め、決心が付いた一成は初撃からヒイロを倒しに行く。

そんな事など露知らずヒイロは視力の悪い一成が気が付かない内に両手で消火器を握っていた。

 

「行くぞ!大動脈流おう―――」

 

『奥義』と叫ぼうとした瞬間、目の前から赤い円柱状の物体が飛び一成の顔面へ直撃する。

消火器を顔へまともに受けた一成は脳しんとうが起こり、何もわからないまま意識を飛ばし廊下へ倒れた。

 

「終わったな。行くぞ」

 

「う、うん」

 

意識を失っている一成をそのままにしてヒイロは写真部の部室奪還に成功した。

この事から写真部の部長がヒイロであると誤った情報が学校中に広まり、いらぬ騒動に巻き込まれていくのはまた別の話。

 

///

 

トゥアハー・デ・ダナンの作戦会議室ではベヘモスと未確認機体との戦闘を映像を頼りに解析していた。

艦長のテッサ、陸戦コマンド指揮官のカリーニン並びにSRT班も部屋に集められている。

前回の戦闘に参加している3名も勿論部屋に集まった。

普通ならばSRTの作戦指揮はカリーニンだけで行うが今回だけは別で、テッサは未確認機体の危険性を隊員に知ってもらおうとする。

 

「今回みなさんに集まってもらったのは、他でもない未確認機体です。あの戦闘の後から現在までミスリル本部の追跡班が手がかりを探ってはいますが、情報はゼロに等しいです。だから直接自分の目と耳で体験したのを頼りに対策を進めていくしかありません」

 

会議室の先頭に立つテッサは未確認機体、ガンダムの性能を危険視していた。

もしも戦う事になればミスリルに勝ち目はあるのか、目の前に立ち塞がる強大な壁に彼女は悩む。

 

「短い時間ではありましたが、未確認機体の戦闘映像を私なりに分析しました。ベヘモスの頭部からの砲撃を5.7秒間受け続けてもダメージらしき物は見当たりません。もしかするとキズ1つ付いていないかも。巡航ミサイルでも使わないといけないかも」

 

「装甲が馬鹿みたいに固いのはわかった。アイツが持ってた光る剣とライフルは何なの?アタシも長い事軍隊に居るけど、あんなの見た事も聞いた事もないよ」

 

「これもまだ推測の域を出ていませんが、アレは荷電粒子砲。現代の技術では実現不可能の兵器です。特にライフル砲の破壊力は想像を絶する威力です。ASではかすめただけでも全身が溶解するだけのエネルギーを持っているかと」

 

艦長であるテッサが嘘のような話を真面目にしている会議室では誰も声を出そうなど考えない。

歴戦の兵士達は映像だけ見てもガンダムの危険性を本能で理解出来た。

だがバスターライフルの破壊力は見た者でしかわからない。

ラムダ・ドライバ―の次に最強、最悪の兵器かもしれないとテッサは考える。

それ以上に宗介は自分がまだアーバレストを使いこなせない事を懸念し、目の前で見たガンダムの姿が脳裏から離れない。

 

(いつか未確認機体と戦闘になった時に、俺は勝てるのか?未だに使えないラムダ・ドライバ―で)

 

「あの~、テッサちゃん。こんな時に言うのもどうかと思ったけど、一応報告したいことが」

 

「ウェーバー軍曹、口を慎め」

 

「構いません。ウェーバーさん、報告とは何ですか?」

 

上官に軽い口をしたせいでカリーニンに睨まれるが気にする素振りすら見せずクルツは話を続ける。

 

「宗介に頼まれてヒイロ・ユイってガキを追跡したんだけど、アイツはどうにも怪しいぜ」

 

「ヒイロ・ユイさんは私も会っています。どのように怪しいのですか?」

 

「アイツ、俺の尾行に感づきやがった。足音が出にくいパイロットスーツも着てたのによ」

 

「アンタが間抜けだっただけじゃないの?」

 

「いいや、それはねぇよ姐さん。バレただけなら俺のミスだが、あのヤロウ俺にみぞおちを決めやがった。仕掛けた発信機の受信装置もご丁寧に持って行ったしな。ただの高校生が俺を気絶させて気付くはずもない発信機を見抜いていた。普通じゃねぇよ」

 

クルツに言われテッサは顎に手を当ててヒイロについて思考する。

一緒に行動していた時にもこちらの言う事を聞こうともしなかった態度と、今のクルツの情報を頭の中で巡らせこれからの対応を考えた。

ヒイロの事もこれだけの情報では考えられる事が少なく、出来る事が限られている。

 

「確かに普通の高校生と比べると変わっている所はありましたが、それだけで結論を出すにはまだ早いと思います。こちらからも情報が引き出せるようにアプローチしてみます」

 

「大佐殿。ヒイロ・ユイについては自分にお任せください。必ず尻尾を掴んでみせます」

 

「相良さん……」

 

転校初日からヒイロの事を怪しいと踏んでいた宗介は誰に頼まれるでもなくより一層ヒイロを警戒した。




偶然が重なりあい写真部に入部した上に、部長と誤解され空手同好会を倒してしまうヒイロ。
これからの学園生活はどのように変化していくのか!
ミスリル内でもガンダムの危険性が注目されています。
近い間に戦闘になる……かも。

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