フルメタルWパニック!!   作:K-15

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アナザー・1

12年の歳月が経過した。

当時はミスリルに所属してたメリッサ・マオも今や民間軍事会社D.O.M.Sを経営する社長。

そんな彼女は社長室のデスクで大量に用意された資料に目を通しながら頭を悩ませて居た。

 

「う~ん、なっかなか良いのが居ないわね。人手を増やしたいのは山々だけどお金と相談しないといけないし。どいつもこいつも経歴の割に金を要求しすぎなのよ!!」

 

外部から人を雇う為には当然契約金が必要になる。

マオが持つ資料には顔写真とこれまでの経歴が書かれてたが当人達が求める金額が高い。

生死を別ける戦場で戦うのだから当然それだけの金額を要求される。

だがそれだけの余裕がないからマオは悩んで居た。

 

「どうしたモンかね~」

 

資料をデスクへ置き設置されたノートパソコンに手を伸ばす。

スクリーンセイバーが解除されると動画投稿サイトが画面に表示される。

 

「ったく、あの子がまた勝手に」

 

表示されるブラウザを閉じようとカーソルを移動させるマオだが、ふと指の動きが止まった。

目に映るのは12年前に日本で開かれたASの大会。

動画の再生時間は20分程とそこまで長くはないがタイトルに『パート8』と書かれており、この大会で行われた試合が全て投稿されてるのだと予想出来る。

 

「そう言えばあったわね、こういうの。確か宗介も出場してたっけ」

 

独り言を呟くとマオは試しに再生をクリックしてみた。

読み込みが始まって数秒後に動画は再生される。

 

///

 

『続きまして準決勝を行います。出場選手はASに搭乗して第2競技場に集まって下さい』

 

大会の実行委員からアナウンスが流れる。

練馬駐屯地で開かれるこの大会もこの年で既に5回目。

準決勝は陸上自衛隊練馬駐屯地と陸上自衛隊習志野駐屯地。

互いに助っ人を用意しており自衛隊員がASの操縦者ではない。

陸上自衛隊習志野駐屯地の用意する96式に搭乗するのは相良宗介だった。

友人である風間信二はこれからの試合に緊張と不安が走る。

 

「相良君、準備はどう?」

 

「問題ない。機体も順調だ」

 

「ごめんね。本当なら見てて貰うつもりだったのに」

 

「相手との力量を考えれば、あのまま普通に戦ってれば惨敗だっただろう。流石に見ては居られなかった」

 

「でも凄いよ。去年まではあんなに苦戦してたのに、相良君が乗れば相手を一瞬で倒してくんだもん。ASのスペシャリストって言うのは本当なんだね」

 

「当然だ。だがもう、こういう機会がなければ乗る事もないだろう」

 

宗介は用意された緑色のヘルメットをかぶると両手、両膝を地面に付けて待機させた96式に向かって歩き出す。

信二も直前までは一緒に居たいと考え宗介の左隣を歩く。

 

「対戦相手は陸上自衛隊練馬駐屯地。去年は負け越したけど相良君が居るなら勝てるよね?」

 

「いいや、相手はヤツだ。負けるつもりなどないが、やってみなければわからん」

 

そう言い切る宗介の視線は鋭い。

待機させてある96式の所にまで来ると風間を置いてコクピットの中へ入り込む。

狭い空間で操縦桿を握りエンジンを起動させる。

電力が供給されコンソールパネルや計器類のライトが光りカメラの映像が戦闘画面に映しだされた。

ハッチをロックした宗介は外部音声を繋げると、まだ機体の近くに居る風間に向かって声を掛ける。

 

「これ以上は危ない。観客席に戻るんだ」

 

『う、うん。わかったよ』

 

言われて風間は小走りに96式の元から離れるのを宗介は確認して右足でペダルを踏み込んだ。

地べたに這いつくばってた機体が息を吹き返しゆっくりと動き出す。

自重を両腕で支え脚をアスファルトへ設置させる。

パワーシリンダーから発生する油圧は重たい重量を立ち上がらせた。

難なく立ち上がった96式は試合会場に向かって進む。

1歩歩くだけで重たい鉄の足音が響き地面が揺れる。

風間は観客席に戻る最中、振り返り宗介が乗る96式の背中を見た。

 

(頑張ってね、相良君。でも、絶対無茶だけはしないで)

 

心の中で祈り、風間は試合を見るべく急いで自分の観客席に戻った。

 

///

 

2機の96式がグラウンドの中央で向かい合う。

片方は緑色の機体の両肩に白いペイントを施され、もう片方は赤いペイントをされて居る。

宗介が乗る96式は白いペイント。

右手には巨大なハンマーが。

相手の機体は高圧電流の流れる警棒が握られて居る。

向かい合う両者からは闘士が漂う。

そして時間が経過すると運営委員からアナウンスが流れた。

 

『両者出揃いました。この準決勝からは時間無制限となります。どちらかが降伏するかASが戦闘不能になるまで戦って頂きます』

 

アナウンスからは見てる人にもわかりやすいようにこの試合のルールが流れる。

けれども宗介の耳にはそんな言葉は入らず、戦闘画面に映る目の前の相手を鋭く睨むだけ。

 

(1度、お前と戦ってみたかった。出し惜しみはしない。全力で行くぞ!!)

 

『それでは、準決勝を開始します!!』

 

スピーカーからゴングの音が雑音まじりに鳴り響くと同時に宗介は機体を動かす。

 

(ヤツは接近戦を仕掛けて来る。機体が冷えてる今は回避に徹して暖機が終わると同時にハンマーを叩き込む)

 

宗介は相手の機体から距離を離す。

実戦とは違いライフルなどの射撃武器のない試合でリーチの差は大きい。

だが宗介が持つ武器はリーチはあるが取り回しにくいハンマー。

これまでの試合で一切のダメージを受けずにここまで勝ち上がって来たが試合が終了するごとに整備の為に機体を運営に預けなければならない。

その間に温まったエンジンが冷えてしまい試合開始直後は出力がスペックよりも低い為、それまでの時間を稼ごうと宗介は機体を動かす。

 

(条件は同じ。あとはヤツがどのタイミングで仕掛けて来るかだ。俺の立ち回りはセオリー通り過ぎてヤツにもバレてる。それよりも前に態勢を崩しに来るか? それとも機体の疲労を狙うか?)

 

ハンマーは一撃必殺の武器になるが重たい重量はそれだけ機体にも負担が掛かる。

全力で何回も振り続ければ負荷が蓄積して腕の関節や駆動部の動きが悪くなってしまう。

ASの操縦に精通する宗介だからこそ使う事が出来るが、一般の自衛隊員では至難の業。

肩に赤いペイントをした96式は警棒を構えると距離を詰めるべくジリジリと近づいて来る。

 

(あの高圧電流。今までの試合から見てそう長くは電流を流せない。バッテリーの電力消費を減らす為に当たった瞬間に電流を流す。だがそれでも数十秒が限度と見た。なりふり構わず最大出力に設定してるな)

 

離れながらも相手の機体を分析する宗介。

脚部は動かしながら相手が先に動くのを待つ。

 

(悠長に動くような相手じゃない。そろそろ来るか……)

 

宗介の読みは的中し、痺れを切らした相手が警棒を振り上げて宗介に迫る。

目を見開きバックステップ。

警棒は空を切る。

相手の攻撃はこれでは止まらない。

更に一閃。

警棒の先端が一瞬、宗介の機体の装甲に触れる。

だが一瞬、高圧電流を流すに至らなかった。

宗介が狙うのは機体が温まってからの反撃。

故にまだ攻撃は仕掛けない。

また1歩2歩と後退し相手との距離を開ける。

一切の反撃をしようとしない宗介に対して相手は距離を縮めながら斬り込んで来た。

振りかぶり袈裟斬り。

寸前の所で横へ飛び退き警棒が装甲に触れる事はない。

 

(攻撃が単調だ。ヤツもまだ本気を出してない。どこで仕掛けて来るつもりだ?)

 

目の前の相手は接近戦を仕掛けて来るが機体の性能を出し切っては居ない。

それを見破る宗介は慎重になりながらも自分が攻め込むタイミングを見計らう。

攻められては逃げ、攻められては逃げを繰り返す事3分。

最初は冷えてた機体のエンジンが温まりパワーを充分に引き出せる。

背中に背負うハンマーの柄を両手で掴み、遂に反撃に打って出ようとした。

だが、宗介の動きが変わったのとほぼ同時に相手の機体の動きも変わる。

目を見開く宗介は今になってようやく相手が考えてる事がわかった。

 

(ASの情報は俺の方がよく知ってる。だから深読みし過ぎて簡単な事に気が付けなかった。ヤツも考えてる事は同じ……機体の調子が万全ではない前半では本気で攻めて来なかった。ここだ、機体の性能をフルに出し切れるこのタイミング!!)

 

相手の機体の動きが早くなる。

斬り込む速度、立ち回り。

立て続けに振るわれる警棒は高圧電流を流し込むべく装甲を狙う。

 

「リミッター解除。こちらも仕掛ける!!」

 

『ロック解除、目標を撃破する』

 

「勝負だ、ヒイロ!!」

 

戦闘ではなく競技である為、機体にはセーフティーが掛けられてる。

コンソールパネルを叩く宗介はそれを解除し一気に攻めに行く。

重たいハンマーを相手目掛けてスイング。

鉄塊は空気を切り裂きながらヒイロの96式の胴体に迫る。

だが避けるのではなく懐に迫るヒイロは警棒の高圧電流をここで一気に開放した。

放電する電力はスパークを起こし、更に放熱が間に合わないせいで原型が溶け始める。

装甲と装甲が触れ合うくらいに接近したヒイロは警棒を右マニピュレーターへ接触させた。

それと同時にハンマーが背部へ直撃する。

 

『ぐぅっ!! 機体はまだ動く』

 

衝撃がコクピットを襲い機体は吹き飛ばされてしまう。

歯を食いしばり耐えるヒイロ。

その間も両手の操縦桿は決して離さず戦闘画面に映る相手の姿を捉える。

砂まみれになりながらも立ち上がる96式。

唯一の武器である警棒は手放してしまう。

対する宗介の機体も無傷とはいかなかった。

 

「右手はもうダメか。武器も使えない……」

 

警棒の一撃で宗介が乗る96式の右マニピュレーターは溶解してしまった。

片手ではハンマーを持ち上げて振るう事は出来ない。

損傷した状態ではあるが宗介はまだ勝機を捨ててない。

ペダルを踏み込み、立ち上がるヒイロの96式の元へ走った。

 

「ASの操縦技術は俺の方が上だ!!」

 

『切り札はまだある』

 

近づくと同時に左手で頭部にパンチを叩き込む。

ヒイロは両腕を使いコレを防ぐ。

腕の装甲とマニピュレーターがぶつかり合い火花が上がる。

 

「まだだ!!」

 

宗介の動きは早かった。

溶けた右手でも容赦なくヒイロの96式を殴り付ける。

相手に反撃させる暇を与えず何度も何度も殴った。

飛び散る火花。

マニピュレーターがぶつかる衝撃音。

 

「このまま叩き込む!!」

 

『ここだ!!』

 

交互に迫るパンチ。

右手を引き、左手を突き出す僅かな隙を付いてヒイロは体当たりを仕掛けた。

もつれ込む2機はそのまま地面に倒れてしまう。

 

「ぐぅっ!? ヤツは?」

 

『あまいな』

 

両手で操縦桿を握り締め立ち上がる宗介の機体。

戦闘画面に映るヒイロの機体もほぼ同時に立ち上がる。

宗介は勝ちをもぎ取るべく再びパンチを繰り出すが、マニピュレーターが頭部に当たるよりも早く左腕に防がれてしまう。

そしてヒイロの機体から繰り出される拳を胸部に叩き込まれた。

 

「くっ!! さっきまでと動きが違う!!」

 

『タイムリミットは10秒。勝負を決める』

 

ヒイロの96式の胴体、装甲の隙間から黒い液体が流れだす。

緑色の装甲を黒く汚すと共に機体の運動性能を向上させる。

だがそれは諸刃の剣。

 

「オイルか!? 機体重量は軽くなるだろうが長くは保たないぞ!!」

 

機体内を循環して居たオイルが排出される。

重量が軽くなる事で動きも良くなるが、放熱性も悪くなり関節部などよく動く箇所にオイルが失くなると金属同士が摩擦を起こし最後にはパーツが焼き付き動けなくなってしまう。

わかっていながらもヒイロはそれを選択した。

 

『操縦技術で負けるのなら他の要素を使うまでだ』

 

「負けられるか!!」

 

宗介は正面からヒイロとぶつかり合う。

武器も何もない拳による肉弾戦。

試合の様子を観客席から見てた風間は敢えて戦いに行く宗介の行動に疑問が浮かぶ。

 

「どうして? ここを耐えたら相良君が圧倒的に有利なのに」

 

「惚れた女の目の前で逃げるなんて出来るかよ」

 

その疑問に応えたのは隣に座る男、クルツ・ウェーバーだった。

更に彼と一緒に居る女性、メリッサ・マオもその意見に同意する。

 

「そうだよ。この会場にはかなめも居るからね。勝つだけなら坊やの言う通りに逃げれば良い。そうすれば相手が勝手に自滅する。でもそうじゃない」

 

「この戦いは男と男のガチのど突き合い。試合に勝つんじゃない。勝負に勝つ為にあの2人は戦ってるんだ」

 

2人の戦いの意図を説明するクルツとマオ。

呆然と見守る風間の瞳に映るのは熾烈を極める宗介とヒイロの戦う姿。

通常の96式では考えられない素早いパンチ。

宗介は避ける事が出来ずに頭部へそれを受けてしまう。

機体はよろめき後方へ数歩たじろぐ。

ヒイロは機体のタイムリミットが迫る中で最後の一撃を叩き込もうと電力で右腕を引く。

宗介もすぐに態勢を立て直し迫るヒイロに目掛けてパンチを叩き込もうとする。

 

「行くぞ、ここしかない!!」

 

『お前の負けだ。宗介!!』

 

「俺の勝ちだ。ヒイロ!!」

 

互いの拳が交差する。

機体を限界以上に動かすヒイロの方が早い。

ヒイロの96式の右腕から繰り出されるパンチは、またも頭部を捉えマニピュレーターでグチャグチャに叩き潰す。

宗介のコクピットに設置された戦闘画面から映像と光りが消えた。

だが機体はまだ動く。

一方、ヒイロの機体にも一瞬遅れてパンチが叩き込まれた。

胸部装甲を捉えるとエンジン出力とパワーシリンダーの駆動を全力で駆使してヒイロの96式を吹き飛ばす。

数メートルだけ地から足を離す機体。

そして重力に引かれて背面から着地した。

砂埃が巻き上がり落下の衝撃が周囲にまで伝わる。

静寂するグラウンド。

宗介の機体はまだ動くがカメラが完全に壊れてしまい前も後ろもわからなくなる。

ヒイロの機体は各部から黒いオイルを吐き出しながらも立ち上がろうとマニピュレーターを地面に付けた。

ヒイロは上半身を起き上がらせようと操縦桿を動かすが、機体はもう彼の言う事を聞かない。

この試合の勝負が決する。

 

『赤ペイントのAS、動く事が出来ません。準決勝の勝者は陸上自衛隊習志野駐屯地です!!』

 

運営委員からのアナウンスの声が響くと会場からは大きな歓声が上がる。

数秒後、この動画も終わりを迎えた。

ノートパソコンを閉じたマオは1人の社長室でポツリと呟く。

 

「あいつら、今頃何やってんだろ……」

 

///

 

市ノ瀬 俊之はトラックに乗って現場へ向かう途中でヒッチハイクをする男を見つけた。

その男はカメラケースを肩で持ち、それ以外のモノは持ってないように見える。

俊之はハンドルを握りながら助手席に座る男の顔を覗く。

鋭い目線から伺える雰囲気は日本人とは違った。

 

「アンタ、外人さん? こんな所に観光かい?」

 

「仕事で来ただけだ」

 

「仕事って何してんの? サラリーマンには見えないけど」

 

男は窓の外を眺めながら質問に淡々と応えるだけ。

 

「只のカメラマンだ」

 

「へ~、カメラマンか……そう言えば、お兄さんどこかで見た気がするんだよね?」

 

「気のせいだ。俺は知らない」

 

「う~ん、気のせいか。俺も歳かな、娘に笑われちまうよ」

 

男は必要以上には語らない。

トラックは錆び付いたマフラーから排気ガスを出しながら進んで行く。

またこの地で新たな物語が始まるかもしれない。

 

                             To be continued?




これにて完結です!!
2年以上に渡るこの作品を見て頂きありがとうございます。
終わらせ方がかなり強引になってしまいましたが楽しんで頂けたなら幸いです。
アナザーはまだ連載途中ですのでこれの続きを書くのは少なくともそれが完結してからになりそうです。
誰か他に書いてくれる人が居るならそれでも良いですが。
次回作については後日、活動報告に書かせて頂きます。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
ご意見、ご感想お待ちしております。

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