フルメタルWパニック!!   作:K-15

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更新が遅れてしまい申し訳ありません。
活動報告にてオリジナル機体を募集中です。
見たくなくても見る!!


第42話 グラップル

星の光すら地上に届かない、冷たい雲の上。

輸送機は滞り無く飛行し作戦開始時間まであと少し。

目標地点に差し掛かり宗介はシャドウのコクピットの中で呼吸を整え、通信機でレイスへ確認を取る。

 

「予定では目標地点まで残り120秒。そっちはどうだ?」

 

『異常なし。後はお前の仕事だ。言ったが回収は無理だぞ。降りたら1人で何とかしろ』

 

「肯定だ。1番の目的は千鳥の奪還。それ以外は無視する」

 

宗介は計器類のスイッチを押して機体の暖機を始める。

エンジン出力が上昇し操縦桿を両手で強く握りしめた。

頭部の赤い1つ目が発光し輸送機のハッチが開放される。

強風が吹き荒れ風がぶつかる轟音が響くが、今の宗介は雑音など耳に入らない程に集中して居た。

目の前の戦闘画面を真っ直ぐに見つめ表示される高度計を確認し、口から息を呑み右足でペダルを踏み込んだ。

機体を固定してたロックが解除され重力に引かれてゆっくりと動いて行く。

 

「ウルズ7より各員へ。これより奇襲作戦を開始する」

 

宗介はいつも通りにコールサインを読み上げる。

ミスリルはアマルガムに潰されてもはや僅かな残存戦力しか残っては居ないが、それでもまだ『ウルズ7』と名乗るのは仲間がまだ戦って居るから。

ミスリルが失くなったとしてもかなめを守ると心に誓った。

 

「行くぞ……」

 

脚部装甲に強風がぶつかる。

暗闇に投げ出される灰色の機体は地上に向かって急速落下して行く。

見る見る内に変化する高度計。

雲に包まれて戦闘画面には何も映らない。

凍て付く空気は装甲に霜を詰む。

激しい振動はコクピットを襲い強く引かれる重力に筋肉や骨が軋むが、宗介は歯を食いしばりながら耐えるしかない。

 

「ぐぅっ!!」

 

操縦桿を強く握り締めて体を支え、目まぐるしく変化する機体状況をチェック。

正常に作動するパラジウムリアクターが生み出すエネルギー。

マッスルパッケージの電力供給も異常はなくいつでも動く事が出来る。

視界が開け雲を抜けるがそれでもまだ遥か上空。

目の前には孤島の森林が広がり目標ポイントとの誤差は殆どなかった。

けれども敵に見つかれば空で動く事も出来ないまま砲撃の雨を浴びて蜂の巣にされるだろう。

 

「思ったよりも落下速度が早い。着地時のタイムラグは2.25秒。ヤツが上手くやればカバー出来る」

 

近づいて来る地上。

そのままでの着地は不可能、機体はバラバラに砕け散りパイロット諸共動く事は出来なくなる。

故に背部に落下速度を減速させる為のバリュートを装備させた。

パラシュートをASでも使える程まで大型化したモノで、スペースシャトルに本来なら使われるモノをハンターが調達し宗介が無理やり装備したが作動試験は行われてない。

それだけの時間の猶予はなかったし、ぶっつけ本番でやるしかないと判断したからだ。

 

「秒読み開始。3……2……1……展開」

 

バリュート展開のコンソールボタンを押し込む。

だが機体の速度は変化せず尚も地上に向かって落下して居る。

 

「配線が切れたか、作動しない。なら――」

 

別に用意した無線機を取り出し右手の親指で赤いボタンを押し込んだ。

 

「強制解除!!」

 

背部に設置された小型のプラスチック爆弾が起爆し炎が上がる。

四散した鉄塊が舞い上がり夜の闇に消えて行くと同時に無理やりバリュートが展開された。

ASを包み込む程の巨大な白い布が広がり空気抵抗を受けて落下速度を抑えこむ。

急激な減速に再びコクピットにまで振動が伝わる。

 

「グッ!! 展開したな」

 

ゆっくりと地上に向かって降りて行くシャドウだがバリュートもあるせいで夜とは言え外から見れば丸わかりだ。

だが安全な距離に降下するまではバリュートを解除する事は出来ない。

 

「どうした? 早くしろ」

 

大々的に居場所を宣言し的になってるような状況に宗介も額から冷や汗が流れる。

敵の防衛部隊が展開されるのにシャドウが着地するまでの時間は必要ない。

このままでは撃ち落されてしまう。

息を呑み戦闘画面をジッと凝視する。

その時、最終ポイントである白い別荘の近くから巨大な爆発。

近くの森林にまで燃え広がる炎。

響き渡る爆音と黒煙。

爆発は1回だけでなく連鎖して何度も起こり、宗介の位置からでも爆発の規模は見て取れた。

 

「陽動は成功か!? 少しは動きやすくなる」

 

事前に立てた作戦通りにヒイロが陽動と撹乱の為に盛大な爆発を起こした。

これで少しの時間ではあるが注意を反らす事が出来る。

ゆっくりと降下するシャドウは攻撃を受ける事もなく着地地点を見定めバリュートを解除した。

機体重量が失くなったバリュートは風に流され、機体は重力に引かれて落下し膝をバネにして衝撃を吸収。

地に足を着けたシャドウは1つ目を赤く輝かせ瞬時に走った。

 

「敵反応ナシ。迅速に行動する」

 

木々の間を縫うように、機体が走る速度を上げていく。

もっと早く、もっと先へ。

暗闇の中でも目指すべき場所はわかる。

使い込まれ磨かれた技術が体を勝手に動かし、機体の反応に変わって自分の思うがままに動く。

 

(この先に千鳥が居る。そしてあの男もだ。このASではラムダドライバ搭載機には勝てない。そんな事はわかってる。でも行く、そうしなければ取り戻せない!!)

 

装甲に引っ掛かった枝がへし折られ、巨大な足音に反応した動物達は危険を察知して逃げて行く。

向かう先には爆発の炎。

依然としてレーダーに敵機の反応はない。

それでも蓄積された戦闘経験が僅かな変化を見逃さなかった。

空間が歪み、闇の中から姿を表す。

 

「っ!?」

 

息を呑み全身の神経が過敏に反応する。

反射神経が勝手に体を動かして敵の攻撃を寸前の所で回避した。

ようやく捉えたレーダー反応には表示されるのはデータにはないAS。

真っ黒な装甲と日本刀のような単分子カッターを構えた相手、リー・ファウラーが搭乗するエリゴール。

 

『ここから先は通す訳には行かない』

 

「クッ!! 面倒な相手だ』

 

『レナード様が予測された通りだ。ならば貴様はあの時に仕留め損ねたミスリルの白いASのパイロット』

 

黒いエリゴールは地面を蹴った。

瞬間、機体は加速し瞬きする暇もなく攻撃の間合いまで詰め寄る。

リーはラムダドライバでコーティングされた単分子カッターでシャドウに目掛けて袈裟斬り。

空気すらも分断され触れるモノは何であろうと斬り裂く。

けれども宗介の反応も早かった。

素早く左へ姿勢を低くさせて前転し、握って居る40ミリライフルのトリガーを引く。

激しいマズルフラッシュと吐き出される薬莢。

 

『無駄ですよ』

 

至近距離からの射撃を動作1つなくラムダドライバの防壁で防ぐ。

発射された弾丸は塵となり消えた。

 

(やはりアルが言ってた通りだ)

 

単分子カッターがシャドウを襲う。

横一閃。

急いで後ろへ飛び退いた宗介だが切っ先が僅かに胸部装甲をかすめる。

着地して更にトリガーを引く。

だが何度攻撃してもラムダドライバの前には無力。

リーは単分子カッターで弾丸を全て受け流しながら流れるように機体を動かし近距離戦に持ち込もうとする。

 

『無駄だと言った』

 

鋭い突き。

ラムダドライバは発現してるが機体性能はM9と同程度。

ソ連製の第3世代型ASシャドウも高い運動性能を持って居る。

反応さえ出来れば相手の攻撃を避ける事が出来るが機体を動かす技術は相手の方が高い。

 

(こいつは部分的にラムダドライバを展開させて攻撃力を強化させて居る。だが性能的に見てアーバレストを超えて居るのはソレだけだ。機体前面に展開させれば範囲が広がってラムダドライバの攻撃を防ぎきる事は難しい。こいつも昔の俺と同じで――)

 

頭部に繰り出された突きを首を横へ傾け寸前で回避した。

至近距離でも構わずにライフルのトリガーを全開で引く。

激しいマズルフラッシュ。

だが素早く引き戻した単分子カッターに防がれてしまいまたも塵と消えた。

左のマニピュレーターを伸ばしシャドウも単分子カッターを腰部から引き抜く。

黒い胸部装甲を狙って突き刺すがエリゴールは単分子カッターを切り上げ肘から先を分断した。

けれども刀身の高周波振動は止まってない。

弾き飛ばされた左腕の先にある単分子カッターの切っ先はエリゴールの頭部へ斜めの傷を付ける。

 

「ラムダドライバの使い方が下手なんだ!!」

 

『良くも言ったな!!』

 

宗介は傷付いた頭部を見て、確信を持って叫ぶ。

僅か2秒程の攻防で片腕を失ったが宗介はまだ勝つ気で居る。

ライフルの残弾を確認して銃口を敵へ向けた。

 

『斬り落とす!!』

 

リーは単分子カッターで袈裟斬りをし、シャドウの唯一の武器であるライフルを奪いに来る。

シャドウはバックステップを踏み距離を離すが相手もそう簡単に逃がしてはくれない。

 

「ぐぬぅっ!!」

 

歯を食い縛りながらトリガーを強く握る。

銃口から連続して放たれる弾は下方から斬り上げられた刀身にまたも消されてしまう。

立て続けに横一閃。

背を向けて逃げる事は出来ない。

前を見据えたままマッスルパッケージが悲鳴を上げる程に膝のバネを強引に使う。

僅かな屈伸動作からシャドウはエリゴールの斬撃を飛び越え更に上へジャンプした。

 

『飛んだ!?』

 

「当てる!!」

 

『この程度!!』

 

エリゴールは飛び上がるシャドウが向ける銃口の射線上に単分子カッターを構えて撃ち出される弾をあしらおうとする。

ラムダドライバの力場がコーティングした刀身は弾を消し去るが、上から迫るシャドウの動きに完璧には対応出来なかった。

右肩の付け根と右脇腹へ弾が着弾する。

たった2発。

けれどもラムダドライバを持たない機体でダメージを通す事に初めて成功した。

 

「通ったぞ」

 

『私の機体に傷を!?』

 

飛び越えたシャドウは着地体制に入る。

右足で地面を蹴り前方に向かって前転。

衝撃を受け流しながら移動する事で敵とも距離を取る。

振り返りライフルを構えるがタイムリミットが迫りつつあった。

 

(こいつを倒さなくては千鳥の所にまで行けない。だがこのままではレナードに逃げられる。振り切って辿り着く可能性は限りなく低い。短時間で決めるしかないか……)

 

『損傷はしたが機能に問題はない』

 

エリゴールは再び単分子カッターを構えてシャドウを睨み付ける。

前回とは違い1対1でダメージも通したが圧倒的に不利な状況は変わらない。

ジリジリと迫るエリゴールに宗介もゆっくりと後退するしか出来なかった。

片腕が失くなりマガジンの交換は出来なくなり、今装備してる40ミリライフルだけが唯一の対抗手段。

残弾も減りつつあるが宗介はトリガーを引く。

マズルフラッシュが灰色の機体を照らし、連射される弾は正確にエリゴールに向かうが相手は前面にラムダドライバの防壁を展開させてこちらへ突っ込んで来た。

攻撃は通用しない、逃げる暇もない。

エリゴールは防壁を展開したまま振り上げた単分子カッターで袈裟斬り。

空気を斬り裂き、閃光は40ミリライフルを分断した。

 

『これで終わりだな』

 

「終われるかぁぁぁ!!」

 

ライフルを瞬時に手放しマニピュレーターを思い切り伸ばした。

ラムダドライバの力場は単分子カッターへ移って居るのがわかった宗介。

赤く光る1つ目、そいつの頭部をフルパワーで掴み取る。

ヒビが入るレンズに回線がショートしスパークが走った。

 

「このまま潰す!!」

 

『ふざけるんじゃない!!』

 

セオリーから逸脱した宗介の戦い方にリーは激怒した。

意識を集中させラムダドライバの防壁を展開させ、残された右腕も鋭利な刃物で斬られた様に分断されてしまう。

切断面から漏れだすオイル。

すぐにシステムが感知して噴出をストップさせる。

どす黒い色をしたオイルはエリゴールを汚した。

 

「くっ!? ダメか」

 

『いいや、充分だ』

 

突如回線に割り込まれる声。

その声に宗介は聞き覚えがある。

レーダーに新たな反応が現れ、ソイツは何もない空間から突如として現れエリゴールの背後を取った。

エリゴールと同じ黒い装甲。

鋭く光るツインアイ。

クルーゾーが搭乗するAS、ファルケはリーの反応よりも早く握る単分子カッターで縦に一閃。

 

『新手だとっ!?』

 

「良い反応をして居る。だが!!」

 

一太刀でエリゴールを機能停止に追い込む事は出来なかった。

不意を付いた攻撃にラムダドライバの展開を遅れてしまい単分子カッターの側面で受け止めてしまう。

単分子カッターの側面にそれだけの耐性はなく、エリゴールの唯一の武器は破壊されてしまった。

半分に折れた単分子カッターの切っ先は地面へ刺さる。

 

「ウルズ7、聞こえるな」

 

「クルーゾー中尉!?」

 

「このまま畳み掛ける。援護しろ」

 

「了解!!」

 

援軍として駆け付けたクルーゾーのお陰で状況は変わった。

相手の武器も奪い数で有利になれば勝機が見え始める。

2機に挟み込まれた状態のリー、だが性能だけで見れば確実に上を行くエリゴールに搭乗して居るからまだ余裕を醸し出す。

 

『ラムダドライバも使えない旧型機風情が。武器などなくとも貴様らを倒す事など容易なもの』

 

エリゴールは単分子カッターの柄を捨て肉弾戦の構えを取る。

今まではラムダドライバのコーティングは刀身へ掛かって居たが今では両方のマニピュレーターを覆って居た。

只のパンチでも触れれば一撃で機体は破壊されてしまう。

その事を理解した上でクルーゾーは接近戦を挑む。

 

「容易かどうか試してみるが良い」

 

『参る!!』

 

構えを取ったままエリゴールが足を踏み出す。

瞬速で放たれる右腕。

ファルケは姿勢を低くさせてそれをかわして単分子カッターで肘を刺しに行く。

届かない。

右腕を引くと同時に左腕を伸ばし掌底打ちでファルケが握る単分子カッターをバラバラに破壊した。

 

『武器だけか』

 

「武器などなくとも!!」

 

組み付いたファルケは損傷したエリゴールの頭部目掛けて頭突きを繰り出す。

激しい振動がコクピットを襲い両者共に一瞬動きが止めてしまう。

それでも立ち直るのはクルーゾーの方が早い。

宗介の攻撃で損傷したメインカメラに追い打ちが掛かり、リーの戦闘画面には砂嵐が広がり目の前の状況はわからなくなる。

 

『こんなっ!?』

 

「仕留める!!」

 

『ふざけるなと言った!!』

 

トドメとばかりにクルーゾーは頭部を吹き飛ばそうとマニピュレーターでパンチを繰り出す。

伸ばされた右腕はスパークする頭部目掛けて高速で迫る。

閃光。

眩い光はエリゴールの前面を守り、ファルケの右腕を瞬きする間もなく吹き飛ばした。

続けて追撃。

ファルケの首元へ手刀を叩き込む。

激しい衝撃、太いケーブルが幾つか分断されてしまう。

同じ様にカメラに異常が起こりクルーゾーの戦闘画面には砂嵐が走るがこの程度では闘志は失わない。

 

「まだ終わりではない!!」

 

左マニピュレーターで手刀が繰り出された腕を掴み上げすかさず足払いを掛ける。

 

『小癪な』

 

エリゴールは姿勢を崩しかけるがファルケが次の手を出す前にラムダドライバの力がを左手に展開させた。

鋭い掌底突きが放たれる。

 

『これで……』

 

胸部、至近距離からではもう避けられない。

力場が黒い装甲へ触れる。

けれども破壊されない。

ヌルリと姿勢を横へ流しマニピュレーターを宗介が放った弾丸が直撃した脇腹へ叩き込む。

 

『ぐっ!! 合気道と言うヤツか!?』

 

「貴様は優れた武闘家かもしれん。だがラムダドライバなどと相手よりも絶対的に有利なモノを使う時点で、貴様の腕は劣る!!」

 

『私の武術が鈍ってるだと?』

 

「絶対的な安心と言うモノはだな、人間を堕落させるモノだ!!」

 

『だが貴様らは死ぬ!!』

 

ファルケの拳はエリゴールの脇腹へぶつかるが致命傷にはならない。

機体前面に展開されたラムダドライバの防壁がこれ以上の侵攻を許さず、衝撃波がファルケを後方へ吹き飛ばしてしまう。

 

「ぐぅっ!!」

 

残された左腕すらもちぎれ飛び、受け身も取れずに背面から地面へ激突。

衝撃はコクピットのクルーゾーを襲い、歯を食い縛り操縦桿を握り締める。

クルーゾーは殆ど映らない戦闘画面を見るが、ファルケが立ち上がるよりもエリゴールがトドメを刺すべく動く方が早い。

ほぼ無傷の状態のエリゴールが倒れ込むファルケに向かって歩を進める。

それでも、両腕を失った宗介のシャドウが全速力で走り出した。

使える武器はもう何もない。

 

『それだけの機体損傷で私に挑む覚悟だけは称賛しよう。しかし――』

 

「行ける、手応えはある!!」

 

シャドウは地面を蹴った。

跳躍する機体は残された右脚部を伸ばし、再度損傷する脇腹を狙う。

 

「でぇぇぇいっ!!」

 

『無理の一言!!』

 

伸ばした脚部はその機体速度と慣性を乗せて黒い装甲を蹴り上げる。

エリゴールは姿勢を崩されてしまい側面から倒れ込もうとしてしまう。

だがそれと同時にシャドウの胸部装甲へも掌底が叩き込まれた。

ラムダドライバの力場を乗せた右手は頭部を付け根からえぐり取った。

完全に力を失くすシャドウ。

そしてまた、背面から地面へ激突してしまう。

エリゴールへ最後の一撃が通ったが外見的変化は見当たらず、満身創痍のASを2機破壊するだけならラムダドライバを使わずとも数秒で終わる。

 

『ふん、レナード様に楯突くとは。機能が完全停止したのを確認した後、本体と合流する』

 

倒れるエリゴールはマニピュレーターを支えにして地面から起き上がり倒れ込む宗介のシャドウを視界へ入れた。

ラムダドライバの力場を胸部装甲へ叩き込めばそのままパイロット諸共完全に動かなくする事が出来る。

装甲により抉られた地面の土で汚れた黒いボディー。

リーは立ち上がらせると自らの機体に1歩を踏み出させる。

1歩1歩確実に迫るシャドウ。

もはや動く事もままならない機体の傍まで来るとラムダドライバを展開させた。

 

『さらばだ』

 

表情を一切変えずに告げる無慈悲な一言。

振り上げられる拳。

けれどもそこで空気が固まった。

 

『WARNING!! WARNING!! WARNING!! WARNING!!』

 

けたたましく鳴り響く警告音。

戦闘画面一杯が赤い背景に塗り潰される。

 

『馬鹿な……』

 

『WARNING!! WARNING!! WARNING!!』

 

リーは思わず呟く事しか出来ない。

振り上げた拳も降ろせぬまま、AIが発する警告音に耳を傾けるしか出来ない。

 

『馬鹿な……』

 

『WARNING!! WARNING!!』

 

『馬鹿なぁぁぁぁっ!!』

 

『WARNING!!』

 

エリゴールのパラジウムリアクターが急激に出力低下を始める。

ラムダドライバを展開させるだけのエネルギーはなく、自立するのもやっとの状態。

重点的に殴られた右脇腹。

宗介が通した弾丸の1発が決定打となりエリゴールを機能不全にまで追い込んだ。

数秒後には立つ事も困難になり力なくうつ伏せに倒れ込んでしまう。

静けさすら感じる戦場の中で唯一立ち上がったのはクルーゾーが搭乗するファルケ。

 

「やれたか……。仕留めるぞ」

 

頭部のチェーンガンから発射される弾丸はエリゴールの装甲をズタズタに破壊して行く。

ラムダドライバが展開されなければ通常のASの装甲と変わりない。

穴だらけになる装甲。

至る所からスパークと煙が上がり機体は完全に動く事が出来なくなる。

確実に相手を仕留める為にコクピットハッチを狙いチェーンガンの弾を撃ち込んだ。

大きな風穴がハッチに出来上がる。

脱出する事が出来ないリーはそれを最後にこの世から命を断つ。

コクピットからは肉体が焼け焦げた臭いが漂うがASに乗るクルーゾーはそんな事に気が付かない。

 

「任務完了。だが俺の機体はもう戦闘続行は不可能だ。ウルズ7、聞こえるか? 生きてるな?」

 

「肯定であります。中尉もご無事で」

 

「今はその事は良い。先に行け」

 

「了解」

 

宗介は完全に動かなくなったシャドウのコクピットから這い出ると湿った地面の土を踏む。

暗闇で殆ど視界が効かない中で宗介は白い別荘地に向かって走った。

 

(千鳥、今行く!!)




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