ついに!とうとう!アレが!動き出します。
「わかりました、千鳥かなめさん。可能な限りお話ししたいと思います」
テッサは重たい口を開けると今までの経緯を語り出した。
「まずは名前から、私の名前はテレサ・テスタロッサ。テッサと呼んで下さい」
「それでこの子は誰なの、宗介との関係は?」
「私は相良さんが所属する部隊の上官、ってわかりますか?上司のようなものです」
「それは戦争映画とか見てたからわかるけどそう言うのってもっと歳を取ったおじさんがやるもんじゃないの?」
「実力が伴えば若くても大丈夫です」
「実力ねぇ~」
「話を戻します。この子はタクマ、ある事件に関わっていて私たちの組織で保護するつもりです」
「ある事件って?」
「タクマはラムダドライバー搭載機に乗せる為に薬物を投与されています。あの凶暴性はその為です。
タクマが居なければラムダドライバー搭載機は稼動しません。敵はタクマを取り返しに来るはずです」
「それでアナタは、テッサはここまで来たと」
「はい、大体の事情は理解していただけましたか?」
テッサは掻い摘んで事の成り行きを説明したがかなめはまだ完全には信用出来ないで居た。
宗介の例はあるが自分よりも若い少年がASに乗るなど無理だと思ってしまう。
「今は迷って居る時間は無い」
「ヒイロ君」
「事実がどうであれいつまでもここに居る必要がない。行くぞ」
悩むかなめに踏ん切りを付けるようにヒイロは行動しようとする。
テッサはもちろん民間人の単独行動なんて危険な事をさせない。
「待って下さい、話を聞いていなかったのですか!」
「事情はわかった、だがお前たちについて行くつもりはない」
「危険なのはタクマと私たち2人だけではありません。こうなってしまった以上、命の危険も出てきます。少なくとも私たちに従ってくれれば安全は保証します」
なんとか言う事を聞いて貰おうと説得する、ヒイロは睨みつけるような目線を向けるとテッサに向かって今までに感じていた事を話し出した。
「お前は実力があると言ったな」
「えぇ、言いました」
「なら千鳥かなめぐらい簡単に言いくるめて見せろ。そんな事も出来ないなら底が知れる」
「何ですって!」
明らかにヒイロはテッサを見下して居る。
その言い方は誰から見ても明らかで温厚な彼女も我慢出来ずに声を上げた。
怒れる彼女に変わって宗介がヒイロの前に出た。
「ヒイロ・ユイ、これ以上大佐殿へ暴言を吐くなら容赦しない!」
「思った事を言ったまでだ、事実アイツは何も出来ていない。ただ逃げているだけだ」
「キサマッ!」
宗介は懐から銃を取り出すとヒイロの頭部に狙いを定めた。
眉ひとつ動かさず驚きもしない、場は凍りついた空気に変わる。
でもかなめはいつものように宗介の頭にハリセンをお見舞いする。
「痛いぞ千鳥」
「いいから銃を終いなさい。何でも銃とか武器を使って解決しようとするのはアンタの悪い所よ。ヒイロ君もあんな言い方してたら相手が怒って当然よ」
かなめが宗介をなだめると大人しく銃を終いピンと張り詰めた空気も和らいだ。
けれどもヒイロは依然として同調しようなどと考えていない。
「ふふふ、何をやっているんだか」
初めて聞く声、その笑い声が発する場所に皆が一斉に振り向くと眠っていたタクマが目を覚ましていた。
「タクマ、気がついたのね」
「僕をあそこから運び出したんですか、無駄な事を」
「アナタは私たちが保護します。戦いの道具になんて利用させません」
「どうぞご自由に、でもそこのお兄さんが言うように移動したほうがいいと僕は思いますけどね。テレサ・テスタロッサさん」
両腕を手錠で、両脚は縄で縛られ満足に動けないのにタクマは人を見下した態度のままだ。
余裕とも感じられる態度にヒイロは疑問に思う。
「お前たちの目的は何だ」
「お兄さん、ヒイロさんだっけ?僕が言えた事じゃないけどもうちょっと周りに合わせたほうがいいよ」
「お前と話すつもりはない。アイツの言っていたラムダドライバー搭載機はお前しか乗れないのか?」
「それがどうしたのさ、言っていたように早く逃げないの?」
「そうか、なら」
ヒイロは床にうつ伏せに寝ているタクマの髪の毛を右手で掴むと無理やり頭部を持ち上げた。
「うぅ、何を!?」
髪の毛が数本抜け痛みが走るがヒイロは一切気にしない。
「タクマに何をする気ですか!」
「コイツはラムダドライバー搭載機に乗る以外存在価値はない」
「確かにタクマはそれ以外は普通の人です。それが何なんです?」
「コイツが死ねば敵は新しいパイロットが必要になる。俺たちの攻撃も緩くなる。その間は機体は動かせない」
ヒイロはタクマを殺すと平然と言ってのけた。
その言葉に迷いは無くテッサとタクマもそれを感じていた。
タクマはヒイロに恐怖するがテッサは認めない。
「ダメです!!彼を普通の少年に戻す為に我々が保護をするんです!!」
「コイツはテロリストだ」
「それでも止めなくてはダメなんです!!」
「戦場に置いて兵士は戦闘単位に過ぎない、誰であろうと関係ない。違うか、相良宗介」
投げかけられた質問を答えるのに少し迷ってしまう。
何故ならヒイロの言う事は正しく自分も少年期の頃はその境遇だった。
けれども今はミスリルに所属している身、上官の指示には従わなくてはならない。
「俺は今はミスリルに所属している。大佐殿のご命令は絶対だ」
「それが今のお前の答えか?」
「そうだ、だからお前には俺たちの言う事を聞いてもらう」
「嫌だといったら?」
「実力行使で連れていく」
一呼吸置きヒイロは宗介の決意を認識した。
己の感情に従い行動する、幼い頃にヒイロが学んだ事の1つである。
今の宗介は兵士として彼女の元に就く事を選んだのを理解出来た。
「わかった、なら急いだほうがいい。敵は確実に近づいている筈だ」
ヒイロの了解を得ると宗介はここから逃げる準備を始める。
手には1丁だけ銃を持ち敵に悟られない安全な場所に全員で逃げる。
「大佐殿、街の角に廃ビルがあります。そこへ行きましょう」
「待て、行く前にやることがある」
ヒイロはそう言うともう一度タクマに近寄っていった。
///
スナイパーライフルのスコープから覗く視線の先にはマンションの一室が良く見える。
仲間からの連絡を待ち、向いのビルから指定された部屋のベランダを監視して30分が経とうとしている。
既に他の仲間はタクマが連れられている部屋の包囲を完了しており突入の機会を待つばかり。
片耳に付けているインカムからは仲間から状況が常に送られてくる。
「タクマはどうなっている?」
『生きてはいる、発信機の反応はまだある。コレより突入する、そちらも気を抜くなよ』
「了解、しくじるなよ」
インカムの通信が切れるとスナイパーライフルのスコープをまた覗いた。
ベランダから見えていた部屋の中は数秒で煙に包まれ見えなくなり仲間が突入したのが確認出来た。
情報では女と男が2人づつ居るだけと聞いたので簡単に終わると考えて居た。
だがインカムから聞こえて来た声は作戦が失敗したのを伝える。
『部屋には誰も居ない、どうなっている?』
「何かあったのか?」
『タクマが居ない、そちらから何か確認出来るか?』
「監視を続けているが変化はない」
『クソ!一足先に逃げられたか!発信機が抜かれている』
悪態をつく隊員は床に血が付いた発信機を踏み潰すと容易く破壊されさらに細かい部品が飛び散った。
タクマに仕掛けた発信機は手術で腕の中に入れられており取り出すには同じ事をするしかない。
『あいつ等、腕からナイフか何かで無理やり取り出したな』
「これからどうする?急がないと逃げられるぞ」
『わかっている。各員調査を続けろ』
再びわからなくなるタクマの所在に敵も焦りが見え始める。
ベヘモスが動かなくては計画は実行出来ず全てが水の泡となる。
荒らされた宗介の部屋を後にして隊員はタクマの捜索に出た。
///
時刻は既に午後8時を過ぎていた。
5人は部屋から出ると市街地から離れ空き家となった廃ビルを隠れ蓑とした。
水も電気も通っていないビルで何もせずに何時間も篭城するのは年頃のかなめには精神的に辛い。
タクマの右腕には包帯が巻かれておりナイフで無理やり取り出した発信機の傷跡が赤く滲んでいる。
「何が僕を守るだ。ナイフで切ってくるなんて」
タクマは有りっ丈の恨みを込めて自分を切った相手、ヒイロを睨み付けた。
だがどんなに憎悪をぶつけてもヒイロは気にも留めない。
「普通ならお前は生きていない。そこの2人に感謝するんだな」
「感謝だと!?こんな事をしておいて!」
怒りをあらわにし声を荒げるが両手足を拘束されて動くことも間々ならず手は出せない。
けれどもタクマはせめてもの抵抗か声を上げ続けた。
「殺してやる!お前の事は絶対に許さない!ここを出たらお前を―――」
「静かにしろ、敵に見つかるかもしれん」
宗介は手に持った銃をタクマに向けこれ以上しゃべらない様に口を閉ざさせた。
味方の救援が来るまでにはまだもう少し時間が掛かる。
それまでは無事に生き残らなければならないしタクマを敵の手に渡す訳にはいかない。
そうなればラムダドライバー搭載ASと市街地での戦闘になり街は炎に包まれる。
「ねぇ宗介、あとどのくらいここにいるの?」
逃げ続ける中でかなめは不安に苛まれていた。
敵に襲われる恐怖からではなく、今も傍に一緒に居るヒイロの事がわからなくなっていた。
発信機が埋め込まれている腕にヒイロは躊躇なくナイフの刃を突き立てた。
ただの学生が何故そのような事が出来るのか、人を傷つける事に抵抗はないのか疑問が生まれる。
流れ出る赤い鮮血に彼女はたじろくが宗介とヒイロは違っていた。
(もしかして本当に宗介が言うように工作員なの?そんな訳ないわよね、でも何でヒイロ君はこんな状況に慣れてるの?)
かなめが見るヒイロの表情はいつもと変わらない無表情で鋭い目線、何を考えているのかもわからない。
それが余計に彼女を不安にさせてしまう。
「千鳥、今は我慢してくれとしか言えない。迂闊に通信しては敵にも傍受されるかもしれん」
「そうなんだ……」
「だがマオには少なからず今の状況を伝えてある。部屋から逃げる前に暗号を送っておいた」
いつまでこの状況が続くのかは結局は誰にもわからなかった。
幾度も戦地を駆け抜けてきた宗介は希望を捨てずに全員が生きて帰れるように模索している。
だが長く続いた逃走劇も終わりを迎える事となる。
「敵が来た」
ヒイロが呟くと静寂した空気が緊張感に包まれる。
宗介も銃を構えて襲撃に備えて周囲を警戒する。
でもかなめには何が起こっているのか理解出来ずに思考が追いつかない。
「なに!?一体どうしたの?」
「千鳥、敵が来た。危ないから伏せていろ」
「敵ですって!?」
次の瞬間に敵部隊の襲撃が始まった。
周囲からガスが噴出し視界が阻まれ何も見えなくなってしまう。
「スモークか!千鳥、大佐殿!」
「お前はあの女を見ていろ。千鳥かなめは気にするな」
「ヒイロ・ユイ、お前を信用しろと言うのか?」
ヒイロの事を工作員と疑い信用出来ない宗介だが迷っている間に敵部隊が銃を乱射してきた。
甲高い音とスモークの中からでも見えるマルズフラッシュにここが戦場に変わった事を意味する。
飛び交う銃弾に姿勢を低くして対処すると持っている銃を構えてマルズフラッシュから想定されるであろう場所に向かいトリガーを引いた。
「囲まれている、このままでは2人が危ない」
2人を守りながらでは満足に動けない宗介、だが銃撃は突如として止まり次第に視界を妨げていたスモークが晴れていく。
「撤退したのか」
敵の気配も消え周囲を見渡し安全なのを確認するとかなめとテッサに振り向いた。
すると覆いかぶさるようにヒイロが2人を守っていてくれた。
その事に宗介は驚きを隠せない。
ヒイロは立ち上がると何もなかったかの様に宗介に向かって歩いてくる。
「ヒイロ・ユイ、お前は」
「無駄話をしている暇はない。アイツが連れて行かれた」
2人を守る事に頭が一杯でタクマの警備がおろそかになってしまっていた。
敵がすぐに撤退を始めたのはタクマを連れ出す目的を達成したからに過ぎない。
「クソッ、してやられた訳か」
「相良さん、急いでダナンに通信を」
床に伏せていたテッサもかなめに支えながら起き上がるとすぐに宗介に次の指示を下す。
「タクマが敵の手に渡ってしまったのはもう仕方がありません。それよりも次の敵の行動を抑えないと」
「次の行動とはやはりラムダドライバー搭載機の稼動ですね」
「はい、動き出す前に止めないといけません」
「わかりました。こちらウルズ7―――」
指示通りに宗介は持っていた通信機でトゥアハー・デ・ダナンに繋げた。
宗介が話している間にヒイロはこの場から出て行こうとする。
「ヒイロ君、どこへ行くの?」
「敵の目的はあの男の確保だ。俺たちを生かしておくと言う事は敵にも余裕がなくなってきている」
「だから、何なの?」
「これ以上あの女に従う必要はない。俺は行く」
「ちょ、ちょっと待って!行くってどこに行くのよ!?」
ヒイロは振り返るとかなめを突き放すように冷たい言葉を言い放つ。
「お前には関係ない」
「関係ないって……」
「待ってください、ヒイロさん。敵の襲撃が止んだとは言えまだ危険なのには変わりありません。ここは私の指示に―――」
「さっきも言った筈だ、命令するなら相良だけにしろ。お前に従う理由はない」
ヒイロは2人の呼びかけには耳を貸さず1人で廃ビルから出て行ってしまう。
かなめはそれを止める事が出来なかった。
「わかりました。大佐殿、数分後にマオがM9をヘリで輸送してここへ来ます。アナタはそのヘリで帰艦してください。自分はマオと合流したら敵ASの阻止に向かいます」
「お願いします。かなめさんもこちらで一時保護します」
本部との通信が終わると宗介はその旨をテッサに報告した。
勝手に進んでいく話よりもかなめは1人でどこかへ行ってしまったヒイロの方が気がかりだ。
「宗介!ヒイロくんが行っちゃったわよ!守ってあげないと危ないわよ!」
「千鳥、アイツなら大丈夫だ。さっきの襲撃でヤツの動きを見て確信が持てた」
「だがらヒイロ君はあんたと違って―――」
「アイツの事ならクルツが護衛に付いている」
「クルツ君が?」
「制服の中に発信機を隠しておいた。それを頼りにクルツが追いかけてくれる。それよりも俺はキミを安全な所へ避難させるほうが重要だ。大佐殿と一緒にヘリに乗ってくれ」
「でも、でもね」
ヒイロの事が気になるかなめだが宗介もかなめとテッサの事が心配である。
2人を守りながら戦うのはもうここまで来てしまっては無理かもしれない。
これから先はASを使っての戦闘になる。
戦闘に意識を集中出来なくては待っているのは死、かなめを守る事も出来なくなる。
そうしている間にも廃ビルの中にまで聞こえる大きな音が響き渡った。
大型ヘリのプロペラが空気を切り裂く音と一切消音していないエンジンの音が空気を揺らして耳に入ってくる。
「とにかく今は屋上へ行こう。君をこれ以上危険な目に合わせたくはない」
「うん、わかったわよ」
かなめは完全には納得出来なかったが3人は屋上に待機しているヘリに向かった。
///
回収されたタクマは大型船舶に隠してあるベヘモスをセイナと一緒に見ていた。
赤く塗られた装甲に無骨な手足はゴーレムを想像させる。
「これから僕がベヘモスに乗って街を壊すんだ。そうしたら姉さんは喜んでくれる?」
「えぇ、その為にアナタはここに居るのよ」
タクマに姉さんと呼ばれているがセレナは彼の本当の姉などではない。
ベヘモスに乗せる為に薬物で強制的にラムダドライバーを作動出来るように強化しその後遺症で精神が錯乱しておりセレナを姉だと思い込んでいる。
戦う為だけに作られた存在、その彼にセレナは戦えと呼びかけるのだ。
それだけが今のタクマが感じ取れる幸福、戦う事で姉に喜んでもらえる。
「わかったよ、姉さん。行ってくるからちゃんと見ててよね」
笑顔でセレナに呼びかけるとタクマはベヘモスの頭部に備えてあるコクピットに搭乗した。
ハッチが閉じると赤い装甲で少年の姿は見えなくなり目の前には巨人ベヘモスが聳え立つのみ。
「これでいいのよ。これで先生の名が、私たちの意志が世界に伝わる」
「本当にこれでよかったと本気で考えているのか?」
彼女が振り向いた先には負傷して囚われの身になっているカリーニンが来ていた。
上半身には包帯が巻かれており額からは激痛からくる脂汗が滲んでいる。
でもカリーニンは逃げる訳でもなく、武器を取る訳でもなく彼女に諭すように問いかけた。
セレナもそんなカリーニンを捕まえずに問いかけに応じる。
「そうよ、これが私たちに出来る先生への最後の恩返し」
「戦う事がか?戦って、無関係な人を死なせ街を炎に包む事がタケチ・セイジへの恩返しなのか?」
「……ウソね、ウソを付いているわ。私」
セレナは完成して今にも動き出すベヘモスを眺めると自分の本心をカリーニンに語った。
「戦う事でしか自我を確立出来ないのよ。私たちはいろいろな技術や知識を会得してきたけれど人としての生き方がわからなかったのね。だから戦った、戦っている間は目の前の敵を見るだけでいい。それ以外に戦場には何もない」
「軍に入る手段もあったはずだ」
「無理ね。言ったでしょ、生き方がわからないって。私たちはただ安息の地を求めていただけなのだから」
タクマが乗ったベヘモスが起動する。
古い大型船舶の鉄骨を簡単に折り曲げて鉄板を突き破る。
次々と崩壊していく船舶の中でセレナはその場から動かなかった。
(これで何もかもが終わる)
ベヘモスが起動する事で作戦は完遂し彼女はここで死ぬ決意を固めた。
けれどもカリーニンは負傷した体で彼女を強引に抱えると出口を目指して歩き出す。
「何をするのよ!?」
「キミをここで死なす訳にはいかん。キミは生きて償わなければならん」
「償う?一体誰に、何を償えばいいのよ!」
「目を背けては現実は変わらん。セレナ、生きてここから出るんだ。その時こそ現実と向き合い戦う時ではないのかね?」
間接が動く事で鳴り響く金属の擦れる音はベヘモスの咆哮にすら聞こえる。
街を炎に包み込もうと巨人は動き出した。
///
大型のプロペラが空を切る音とエンジンから放出される排気ガスの音が爆音となり空気を揺らす。
ビルの屋上に着陸しアイドリング状態とは言えプロペラからの風は運動能力のないテッサにとっては歩くのも苦労してしまう。
宗介に支えながら機内へ乗り込むとそれに続いてかなめも乗り込んだ。
「アンタ、仮にも軍人なんでしょ?そんなので大丈夫なの?」
「私は主に部下への指令が仕事ですから動くのは苦手で」
「だからって運動神経悪すぎでしょ」
テッサの運動能力に一般人であるかなめでさえも少し呆れてしまう。
「無駄口を叩いている暇はない。千鳥はこのままヘリで大佐殿と脱出してくれ」
「宗介はどうするのよ?」
「俺はマオと一緒に行動する。敵のラムダドライバー搭載機を止めなくてはならん」
その時街に巨人の咆哮が響き渡った。
港から大型船舶を破壊して40メートルはあろう巨大なASが動き出した。
特撮映画の怪獣のように1歩歩くたび地面が揺れアスファルトが踏み潰されていく。
「あれが敵なの?宗介はあれと戦うの?」
「そうだ、だから安全な所へ避難してくれ。俺が必ず阻止してみせる」
ついに動き出したベヘモス、未曾有の事態に警察も自衛隊もまだ対処すら出来ない。
///
廃ビルから1人で出て行ってしまったヒイロ、その後姿をクルツは身を隠しながら追跡している。
「何でスナイパーの俺がこんな事をしないといけないんだ?」
文句をこぼしながらもクルツは通信で宗介に頼まれたヒイロの追跡を続けた。
通信で話を聞いている時は何故ただの学生を追わなくてはならないのかと疑問だったがヒイロを見てそれはわかった。
「ただの学生にしては隙がない。宗介が言いたい事は何となくだが理解出来そうだ。にしても誰が好き好んで男なんて追わなくちゃならないんだ。どうせならかわいい女の子のほうが―――」
街に響き渡る咆哮がここまで聞こえてくる。
クルツもその目に動き始めたベヘモスを目の当たりにして息を呑んだ。
「ついにおっぱじめやがったな。あんなのが動き出したらマジでヤベェぞ」
敵の最終目的はベヘモスの起動、それで何がしたいという理由はなくただ街を破壊しつくすまで動き続ける。
死を覚悟した相手は強い事を今までの経験で理解しているクルツにはどのようにあの巨人を止めればいいのかを考えていた。
「あんなの姐さんと宗介だけで止めれるのか?」
「他人より自分の心配をしろ」
「なに!?」
声が聞こえて振り向くとそこには追跡していたはずの少年が目の前に居た。
みぞおちに拳が突き刺さると肺から全部の空気が吐き出てしまい激痛に意識が朦朧とする。
「てめぇ……やっぱり……」
意識が途切れるとクルツはアスファルトの地面へと倒れてしまう。
クルツを気絶させたヒイロだが彼に興味はなくその場に放置して再び歩き始めた。
「追跡されていた、発信機か?」
ヒイロは自分の体を弄り発信機を探すと学生服のポケットに見覚えのない指輪が入っていた。
「これか」
発信機を見つけたヒイロだがそれを壊そうとはせずに右手に握り締めた。
そしてヒイロも街を破壊するベヘモスを見ると誰も居ない場所1人で呟いた。
「ガンダムが必要になった」
アレ=ベヘモス
ご意見、ご感想お待ちしております。