フルメタルWパニック!!   作:K-15

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戦闘シーンが盛りだくさんです。



第29話 少年の翼

風間 信二はリビングで急遽入れ替わったテレビの生中継に食い付いて居た。

映像はヘリコプターで上空から撮影しており、エンジンの轟音がアナウンサーの持つマイクに紛れ込んで来る。

 

『こちらは都内上空!! 今2機のASが姿を現しました。互いに交戦を繰り返しており、周囲の被害は甚大です!! 自衛隊と警察が総動員で市民を避難誘導してます!!』

 

アナウンサーはエンジン音と外から聞こえて来る音に負けないようにと、大声でマイクに向かって声を張り上げる。

カメラが映す先はビルなどの建造物がそびえ立つ街並み。

いつしか雨は通り過ぎて、まだまだ明かりがそこかしこに点灯しており街は活気に溢れて居る筈なのだが、そのような様子は一切伺えない。

映像に映し出されるのは燃え上がる炎。

 

『見えますでしょうか!! 一つ目のASが自衛隊の包囲網を突破し、羽の付いたASと戦闘を繰り広げてます!!』

 

一つ目のASはなりふり構わず構えたライフルのトリガーを引き、車やアスファルトを破壊して行く。

砕け散り雨の様に降り注ぐ高層ビルの窓ガラス。

響き渡る銃声。

東京の街は今、戦場と化した。

映像がスタジオに切り替わり、専門家を呼び込んでアナウンサーが対談する。

 

『はい、緊急速報です。周囲の住民は警察や自衛隊の指示に従い速やかに避難して下さい。元アームスレイブ開発者である関さんに来て頂いております。今回の件をどう思いますか?』

 

『あの赤い目をしたのは、恐らく第3世代型のASと考えられます。ソ連が開発したシャドウと呼ばれる機体に見えますねぇ』

 

『いきなりの東京襲撃、テロでしょうか?』

 

『テロには違いないでしょうが意図が全く見えて来ません。それと交戦して居るもう1機のAS、アレは私も見た事がありません』

 

神妙な面持ちで語る専門家。

軍事知識のないアナウンサーは続けて質問を投げかけるが、こればかりは専門家も検討が付かない。

 

『羽の付いたASは何処で開発されたモノでしょうか?』

 

『私にもソレはわかりません。先程の映像を見る限りでは従来のASと比べても2倍の高さがあります。16メートル程でしょうか。あの羽は単独飛行する――』

 

解説がまだ途中の所でテレビの電源が消されてしまう。

風間が振り向いた先には軍服に着替えた父親の姿があり、右手にはテレビのリモコンが握られて居る。

 

「信二もすぐここから避難するんだ。父さんはすぐに現場に行かなくてはならん」

 

「まだ避難勧告出てないよ?」

 

「危なくなってからでは遅い。最低限のモノだけもって母さんとすぐに行くんだ」

 

「わかったよ」

 

AS同士の戦闘など一般人に見れる機会などない。

本音ではもっと見て居たかった。

それでも父親の言う事は正しく、渋々ではあるが信二は簡単な身支度を始め移動する準備を始める。

携帯の財布をポケットへ入れ、自分の部屋に置いてある一眼レフカメラを撮りに行こうとする。

でもどうしてもこの先の経過が気になる信二は、家を出る前の父親に1つだけ聞いてみた。

 

「ねぇ、父さん。父さんはどっちが勝つと思う?」

 

「父さん達自衛隊は市民を、信二達を守るのが仕事だ。これ以上、あんな所で戦闘を続けさせる訳にはいかん」

 

信二が求めた答えとは違うが、父親はそのまま別の部屋に行ってしまう。

諦めて自分の部屋へ大事なカメラを取りに行き、静まり返った部屋のカーテンを開けた。

外から見える暗闇の向こうには度々眩い光が見える。

 

「僕は白い機体が勝つと思うな」

 

誰も居ない部屋で信二は誰に聞かせる訳でもなくそう呟いた。

 

///

 

ガンダムが握るビームサーベルが振るわれる。

見えない壁に阻まれほとばしる閃光。

ラムダドライバを搭載したコダールはガンダムと互角に戦っており、その性能のお陰で未だに装甲は傷ひとつ負ってない。

 

「こんなモノなの? 前は私達に勝ってたのに」

 

ユイランはラムダドライバを巧みに使い、ガンダムの装甲へ銃弾を直撃させる。

それでもガンダニゥム合金は消耗して居るにも関わらずまだ耐えた。

 

「右脚部の反応が悪い。あの時のダメージか」

 

ガウルンのコダールと初めて戦闘した時に負ったダメージがここに来て尾を引く。

市街地の戦闘では飛行出来るガンダムでもどうしても足で動かなくてはならない場面が出て来る。

AS1機相手に市街地で飛行した所で攻撃面では余り優位は取れない。

マシンキャノンの弾はもう失くなって居る。

バスターライフルは腰へマウントし、ヒイロは右マニピュレーターに握るビームサーベルしか使うつもりはなかった。

故に非情にやりにくい戦いを強いられて居る。

 

「少しくらいの損傷なら支障はない」

 

だがヒイロは毅然と相手のコダールに接近戦を挑む。

右足でペダルを踏み込んだ。

両翼から青白い炎が吹き出し、猛スピードでコダールへ迫る。

空気を斬り裂き風圧が分厚い窓ガラスを揺らした。

右腕を振り上げ、ビームサーベルで袈裟斬りするが眩い閃光がコダールへの攻撃を防いでしまう。

 

「これがラムダドライバの性能か!!」

 

「先生の命令は絶対。負けられない」

 

コダールはバックステップを踏む。

ビームサーベルは空を斬りアスファルトを一瞬で溶解させる。

 

「落とす……」

 

「くっ!!」

 

ライフルを構えたコダールはまたラムダドライバで強化された弾丸を発射する。

シールドでボディーを守りながら、瞬時に反応したヒイロはペダルを踏み込んだ。

ガンダムは上空へ飛び上がり、背後のビルにクレーターが出来る。

飛び上がったままガンダムはコダールに突っ込み、上空から奇襲を仕掛けた。

 

「見えてる」

 

ビームサーベルは不可視の壁に阻まれてコダールに届かない。

だがヒイロは攻撃の通らない相手でも一切諦めておらず、弾き返されてもすぐに着地し体制を立て直す。

何度でもビームサーベルを振り、相手のコダールに追撃の手を緩めない。

それでもラムダドライバの防御力は絶対で、ビームサーベルは寸前の所で防がれてしまう。

 

「ラムダドライバを使って居る間は攻撃が出来ないようだな」

 

「アナタのやってる事は無駄なの」

 

ガンダニゥム合金も無敵ではない。

ラムダドライバの攻撃を受け続ければいつかは崩壊の兆しが見えてくる。

そうならない為にヒイロは攻撃させる隙を与えない。

通用しないとわかっていても、ビームサーベルでコダールのコンパクトなボディーを突き刺す。

 

「未確認機体。アイツのと違って綺麗で真っ白」

 

どれだけ攻撃してもラムダドライバが形成する不可視の壁は貫けない。

それでもコダールは完璧ではなかった。

度重なるビームサーベルによる高出力エネルギーを防いだ事で、通常よりも早くに冷却装置が悲鳴を上げる。

オーバーヒートしてしまえば、暫くはラムダドライバは使用出来ない。

そうなればユイランのコダールに勝ち目は失くなる。

でもヒイロはその事に気が付いてない。

明確な勝算があって戦って居る訳ではなかった。

 

「俺は最後まで戦い抜く!! それが俺の唯一出来る抵抗だ!!」

 

メインスラスターから青白い炎が吹き出し機体が急上昇する。

 

「飛んだ……」

 

「俺はもう、誰の言う事にも従わない。感情のままに生きる。それが、ここに来てわかった事だ」

 

上空からの急加速とガンダムのパワーに物を言わせ強引に斬り掛かる。

それでもまだ、ラムダドライバの防壁は破れない。

 

(千鳥かなめ、お前は……)

 

ヒイロの頭の中に過ぎるのはかなめの姿。

学校での普段の彼女、そこから見えるのは普通の学生生活。

けれどもかなめは宗介が支えにもなり、ヒイロを助けようと自ら危険な戦地へ飛び込んで来た。

 

「俺には、こんな事しか出来ない」

 

「無駄」

 

コダールの冷却が追い付かなくなる前に、ユイランはラムダドライバの出力を限界まで引き上げる。

生成される防壁が更に強く輝き、2機の装甲を照らす。

 

「付け入る隙はあるはずだ」

 

「邪魔者は消す。先生の任務も遂行する」

 

ガンダムは続けて左腕のシールドの先端を突き出すが爆音と閃光が走る。

強力な衝撃波が襲い掛かり、7トンの重量があるガンダムが背後へ吹っ飛ばされた。

両脚部が地面から離れ、ボロボロに破壊されたビルへ背中からぶつかる。

この程度で攻撃の手は緩まずライフルによる追撃が襲う。

 

「来るか」

 

「これで終わらせる」

 

シールドを構えコダールの攻撃を防ぐ。

だがラムダドライバで強化された銃弾は消耗したガンダムの装甲を少しずつ削って行ってしまう。

 

「レフトアーム損傷。機体の負荷も大きい」

 

機体の損傷状況を淡々と読み上げるヒイロ。

戦況が押されている今でも決して焦ったりはしない。

尚も続くライフルの連続射撃。

マズルフラッシュが絶え間なく光り、コダールの周囲には大量の薬莢がアスファルトに広がる。

動く事も出来ないガンダムはその場でじっと耐える事しか出来ず、次第に砂煙で巨大な姿が消えて行く。

コクピットのユイランは目標が煙に隠れてもまだ、トリガーを引く指を緩めはしない。

絶対有利な状況のまま、敵にトドメを刺すべく最大限の攻撃をぶつける。

 

「終わった。予定よりも手間取ったけど」

 

マガジンが空になりこれ以上はトリガーを引いても意味が無い。

予備も用意しておらず、ユイランはかなめを追い掛けるべくガンダムに背を向ける。

ラムダドライバによる継続的な射撃を受けて居たガンダムはビルの壁に埋もれて居た。

大量のコンクリート片、舞い散る砂埃。

マニピュレーターに握らせたグリップからはもうビームの刃は出ておらず、頭部のツインアイと胸部サーチアイの輝きもない。

動きの止まったガンダムに自衛隊の96式が駆け付ける。

 

『やられたのか?』

 

『白い機体のパイロット、聞こえるか!!』

 

戦闘態勢は解かず、武器を構えたまま自衛隊員はガンダムへ勧告する。

だが返事のなければ動きも一切見せない。

 

『応答ありません』

 

『呼び掛け続けろ。こちらは本部へ連絡する』

 

『了解。白い機体のパイロット、聞こえるか!!こちらは練馬駐屯地――』

 

さっきまでの激闘からは一転、物静かな空気が周囲を包み込む。

雨で冷やされた夜の冷たい風。

煙と埃がガンダムの装甲を灰色に染める。

 

///

 

ヒイロと別れてからかなめはずっと走って居た。

振り向きもしない。

ただ前だけを見て力の限り走り続ける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」

 

警察と自衛隊の避難誘導で住民の殆どは避難が完了して居る。

かなめとサムだけが湿ったアスファルトの上を只走り続けた。

 

(音が遠ざかってく。とにかく出来るだけ遠くに行くしかない)

 

『ニャァ』

 

突然、サムが鳴き声を上げる。

かなめは足元で走るサムに視線を移すとあらぬ方向へ走って行ってしまう。

 

「ちょっとサム!? そっちじゃないって!!」

 

かなめの言う事は聞かず道路脇に向かって進んで行く。

そこには4階建ての古いビルが。

中に居た人達は避難して居たので扉に施錠はされておらず、サムは自らの体を擦り付けて通れるだけのスペースを作る。

 

「待ってったら、サム!!」

 

放って置く訳にもいかず、かなめはサムの後ろからビルの中へ入る。

サムは初めて入る建物にも関わらず、間取りを知ってるかの様に速度を落とす事なく階段を上がって行く。

 

「どうしたってのよ?」

 

かなめとサムの距離は縮まる事も遠ざかる事もない。

一定の間隔を保ちながらサムとかなめは屋上にまで行ってしまう。

屋上へ続く扉。

普通なら登れない様に施錠されてるが、今は開放されたままだった。

サムはドアノブへ飛び付き扉を開けようとするも、ネコにそんな器用な事は出来ない。

 

「はぁ、はぁ、サム。何してるのよ」

 

『ニャア、ニャアァ』

 

追い付いたかなめに体を抱え上げられるが、諦めずに前足をドアノブへ伸ばす。

 

「この先に何かあるの?」

 

『ナァゴ』

 

悩むかなめ。

けれども時間に余裕がある訳ではない。

生唾を呑み込み意を決したかなめは右手をドアノブへ伸ばした。

 

「んっ!? 行くよ」

 

屋上へ行くと風が吹いて居た。

かなめの長髪が揺れる。

そこには深緑色のコートを着た中年の男が、入って来たかなめを見据えて居た。

 

「だ、誰?」

 

『何故この場所がわかった? いや、今はその事を話して居る場合ではない。あのベノムタイプ以外にも侵入者が居る』

 

変成器で声を変えられてくぐもっており、元の声がわからない。

見た目は中年の弛んで脂ぎった顔にメガネと、今と言う状況を関与しなくても怪しかった。

 

「そんな事聞いてない!! アンタは誰よ!!」

 

『アマルガムの構成員が他にも居る。すぐにここから離れるぞ』

 

身元も顔もわからない相手をかなめは信用出来ず1歩後ずさる。

 

「こ、来ないで!!」

 

『チッ、仕方がない。相良宗介と同じミスリルに所属して居ると言えば信用出来るか?』

 

「ミスリル……宗介と同じ」

 

『そうだ。急いでここから――』

 

強烈な爆発音と振動が響く。

余りの揺れにかなめは足元がフラつき膝を付いてしまう。

 

「何かあったの?」

 

『羽付きがやられたか』

 

「羽付き……ガンダム」

 

『これは本部に応援を要請する必要があるかもな』

 

コートの中の携帯端末へ手を伸ばす中年の男。

けれどもかなめはそんな心配はしなかった。

 

「大丈夫、ヒイロ君は負けたりしない」

 

///

 

自衛隊の96式に囲まれたまま沈黙するガンダム。

こうしてる間にも敵の距離は離れて行くし、周囲は完全に包囲されてしまう。

 

『羽の付いた白いASは完全に動きを止めてます。機能が停止したのかもしれません』

 

『これ2倍くらいあるよな』

 

『それよりもう1機はどうなってるんだ!!』

 

現場では自衛隊員が上からの指示を仰ぎながら作業を進めて居る。

沈静を保ったままヒイロはコクピットの中で損害状況を確認見て居た。

ディスプレイに映るのは全身に渡り損傷、消耗したガンダムの装甲。

内部構造にも支障が出始め、両脚部と左腕の反応が悪い。

 

「機体状況、損小過多多数。だがメインスラスターには異常なし。行けるな」

 

ビルに面して居る両翼は辛うじてダメージを負ってない。

まだ動けるのを確認し、操縦桿を握り直しペダルを踏み込むヒイロ。

灰にまみれたガンダムが再び息を吹き返す。

 

『う、動いた!?』

 

『全員、戦闘態勢。目標を補足!!』

 

輝きを取り戻すツインアイ。

各部モーターに電力が供給され、コンクリート片に埋もれたガンダムがゆっくり動き出す。

膝を曲げ地に足を付ける。

 

『発砲許可、撃てぇ!!』

 

96式は装備したライフルを構え、立ち上がろうとするガンダム目掛けトリガーを引く。

積み上がったコンクリートが弾けまた砂煙にまみれる。

けれどもこの程度では止める事など出来はしない。

度重なるラムダドライバの攻撃に装甲にヒビが入った箇所、フレームが剥き出しの右膝。

それでもまだガンダムは戦える。

 

「目標は1機、ラムダドライバ搭載型。確実に仕留めて見せる」

 

『撃て、撃ち続けるんだ!!』

 

ヒイロは96式の攻撃など気にも止めず、立ち上がったガンダムを歩かせる。

そしてコクピットの天井のレバーを引いた。

グリップをシールド裏へ、バスターライフルをマウントさせる。

肩を折り畳み両翼を広げた。

 

『見たか!?』

 

『へ……変形した!?』

 

『ASなんかじゃないぞ、アレは!!』

 

バード形態に変形し一瞬で飛んで行く。

そこには吹き荒れる風と、メインスラスターから見える青白い光だけが空に残る。

 

「距離は離れてない。一気に勝負を付ける」

 

レーダーに反応するコダールの現在地。

バード形態の加速力なら数秒で追い付く事が出来る。

敵は自衛隊の包囲網をラムダドライバを使用して強引に突き抜けて居た。

 

「雑魚は邪魔」

 

単分子カッターを片手にユイランのコダールは96式を殲滅して行く。

元からの機体性能でも劣って居るが、ラムダドライバによる底上げもあり蟻を蹴散らす勢いだ。

 

『うわあああァァァ!!』

 

「消えなよ」

 

単分子カッターが緑色の装甲を容易く突き刺し、中のパイロットは絶命した。

援護射撃をする1個小隊だが、それらも全てラムダドライバの防壁に防がれる。

弾丸はアスファルトの上に転げ落ち、弾だけが無駄に消費されて行く。

 

「千鳥かなめは何処? 先生の命令を遂行出来ない」

 

『これ以上の侵攻を許すな!!』

 

「鬱陶しい、私の前に来ないで」

 

コダールの人差し指で前方を指す。

ラムダドライバがまた見えない力場を発生させ、目の前に居たASは上半身を吹き飛ばされた。

見えない攻撃、見えない防御に前線部隊の指揮は乱れる。

 

『な……何が起こった!?』

 

『撃ってるのに!! どうして当たらない!?』

 

「言ったよね? 雑魚は消えて」

 

また人差し指を向け、射線上に居た96式が吹き飛ばされ再起不能になる。

どれだけの数が揃っても、並の性能しかない96式ではコダールを足止めする事も叶わない。

その上空から1つの影が迫る。

 

「ターゲット確認、破壊する」

 

ヒイロはもう1度天井のレバーを引き、モビルスーツ形態へ変形するガンダム。

右マニピュレーターにはビームサーベルのグリップを握り、胸部サーチアイが眩しく光る。

メインスラスターが推進力を生み、ガンダムは一直線に突っ込んだ。

 

「沈め!!」

 

「っ!?」

 

初めて、ユイランの操作にミスが出た。

上空には意識を張っておらず、ガンダムの奇襲に反応するのが遅れてしまう。

 

(ASは地上戦を目的に設計された。そしてお前は宇宙で戦った事がない。言ってしまえば視野が狭い。そこが付け入る隙だ!!)

 

ラムダドライバの防壁を生成するが間に合わない。

ビームサーベルの先端が左肩を溶断し、辛うじて残ったパーツとケーブルがダランと左腕を繋ぎ止める。

 

「ラムダドライバを通った。畳み掛ける!!」

 

ヒイロは休む暇を与えず更にビームサーベルで一閃する。

この戦いで初めて損傷したユイランだが、すぐに気持ちを立て直しガンダムに迎え撃つ。

 

「右腕の操縦系統はまだ生きてる!! パワーを上げる!!」

 

両手の操縦桿は絶対に手放したりしない。

ラムダドライバの出力を更に上げるが、機体の限界が見え隠れする。

それでもユイランは戦う為に前に出た。

 

「命令は絶対!! 先生の願いは絶対!!」

 

単分子カッターとラムダドライバを組み合わせガンダムへ飛び掛る。

 

「俺は自分の意思で戦う!!」

 

「どけぇぇぇ!!」

 

ビームサーベルとぶつかり合い閃光が広がる。

押し返すガンダムに、コダールは空中で姿勢制御出来ない。

背面からアスファルトにぶつかり内部の電装系がスパークした。

 

「くっ!? まだ動ける!!」

 

「次が最後だ」

 

尚も果敢に挑むユイラン。

満足に着地も出来ず衝撃はダイレクトにコクピットへ伝わり、歯で唇を切ってしまう。

新品同然だったコダールの装甲もボロボロだ。

単分子カッターを構え、ラムダドライバを作動させながら飛び掛る。

けれども唇から流れ出る血が、ユイランに一瞬の気の緩みを生む。

舌が感じる鉄の味。

あの時の味、嫌いではない味。

感じる匂い。

それは自分とは似ているが、確かな違いがあった。

 

(わかった。お前はあの時の……)

 

この時になってようやく、ユイランは戦って居る敵が誰なのかを理解した。

迫り来るガンダムの攻撃。

でもユイランはその事よりも、目の前に映る美しい景色に見とれて居た。

 

(翼、白い翼が見える。お姉ちゃん、私にもあるかな? 真っ白な白い翼が。私も、この人みたいに……)

 

心地よい感覚がユイランを支配する。

しかし淡い夢も唐突な機械音に阻害された。

 

『冷却装置に異常発生。機体維持の為、ラムダドライバを解除します』

 

「白い翼……」

 

ラムダドライバを強制解除されたコダールにガンダムのビームサーベルが袈裟斬りされた。

今までの様に防御は出来ず、装甲が容易く溶断される。

真っ二つに分断されたコダールはエンジンに誘爆し、空中で大爆発を起こした。

 

「任務……完了」

 

ガンダムもこの戦闘でボロボロになりながらも、アスファルトに着地しビームサーベルのエネルギー供給を止めた。

 

「終わったか」

 

ヒイロはカメラで空を見上げる。

そこにはまた、雨雲が差し掛かって居た。




いかがでしたでしょうか?
ラムダドライバの扱いが今でも深く理解してる訳ではないので、ヒイロとガンダムが苦戦する所に納得がいかない人や、コダールが負けた事に納得がいかない人も居るかもしれません。
TSR編ももう少しで終わりです。
ご意見、ご感想お待ちしております。

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