ですが、かなり横道にそれてます。
ネタを思い付いたけど長編としてやる程に仕上がってはいない。
毎度恒例のあの手法で無理やりねじ込みました。
木の葉も青さを失い枯葉に変わり、アスファルトの隅で大量に固まって居る。
空気中の水分も少なくなり、冷たく乾いた風が吹き付ける季節に変わった。
夕方の太陽はすぐに沈み辺りは6時にもなると夜のように暗くなってしまう。
学校の授業を終えた宗介はマンションの自室でノートパソコンのキーを叩き、本部へ送る報告書の作成を急いで居た。
『ミスリル情報部所属 レイスの護衛任務について』
開かれた液晶ディスプレイには黒文字で頭にそう書き込まれて居た。
後にも文字がビッシリ書かれており、内容はかなめに関連する事ばかり。
かなめの直接の護衛任務を任されて居るのは宗介だが、情報部のレイスも誰にもバレないよう姿を隠しながらかなめの事を影で監視して居た。
それでも宗介には納得の出来るモノではなく、改善を求めて今までにも報告書を作成して居る。
しかし送った所で内容を組み入れてはくれず何も変わらないまま今日に至った。
「ふぅ、これなら良いだろう」
宗介はテーブルに置いたマグカップの取手を握り口元へ運ぶ。
作ってから時間の経ったコーヒーは冷めて来ており、生暖かくて苦い黒の液体を喉に通す。
ひと口だけ飲むとまたテーブルの上に置き、デスクワークで凝り固まった肩をほぐしながらイスから立ち上がる。
必要最低限の生活必需品と武器などの銃火器しか置かれていない部屋の中で、宗介はベランダのカーテンを開け外の様子を覗く。
向かいのマンション、かなめの部屋からは蛍光灯の明かりが漏れており何事もないのが見てわかる。
確認した宗介は安心してカーテンを閉じ、またテーブルの所に戻った。
テーブルの上には学生鞄が置かれており、中から教科書とノートを取り出す。
ノートパソコンのディスプレイを閉じ教科書を広げる宗介の右手にはシャープペンシルも握られて居る。
「明後日は小テストだからな。あまり点数が悪いと、また千鳥に怒られる」
自分以外には誰も居ない部屋で呟いた宗介は黙々と今度はテスト勉強を始める。
かなめの護衛任務以外にも仕事をしなければならない宗介は度々欠席しており、授業の内容に追い付く事が出来ない。
教科書に印刷されてた文字を読んでもすぐには理解出来ず頭に入らないが、かなめに借りたノートを見て何とか覚えようとする。
それでも日本に置ける一般教養がない宗介に高校生の授業の内容は難しかった。
表紙に歴史と書かれた教科書を睨み付けるように熟読するも、すぐに成果に結び付かない。
「徳川……トクガワ……ヒデヨシ。違う、どうも俺は歴史や古典を上手く覚えられない。チェ・ゲバラのキューバ革命などなら良く知っているのだかな」
宗介のテスト勉強はこの後2時間程続く。
それが点数に関わって来るのかは定かではない。
///
翌日の朝、宗介はいつもの様に胸ポケットへ拳銃を仕込んで電車に乗り、時間通りに都立陣代高校へ登校した。
制服は半袖のYシャツから黒の学ランへ衣替えして居る。
いつもの様に授業を受け、いつもの様に騒動を起こしかなめや教師に怒られる日々。
「ちょっとどうすんのよ、これ!!」
「見た事のない怪しい車だ。爆弾が仕掛けられていないか分解して調べる必要がある」
「爆弾なんてある訳ないだろ!! これ、神楽坂先生が買ったばかりの新車よ。5時半になって仕事が終わるまでに直さないと」
職員用駐車場で宗介はまたかなめに起こられて居た。
そこにはコンクリートブロックで車体を浮かされ、タイヤを4本とも外された赤い乗用車。
無残な姿に変わった車のボディーからはコーティングにより光が反射して居る。
青いビニールシートの上には分解されたパーツが整理されて置かれており、ドアやシートまで外されて居た。
丁寧な作業でキズなどは付いておらず、組み立てれば元の状態へ戻す事は出来る。
だがボンネットまで取り外した所でかなめに呼び止められ、作業を中断する宗介。
「そうなのか?」
「そうよ」
「うむ……わかった。早急に――」
「あああぁぁぁァァ!!」
金切り声が響き、耳の奥がキーンとする。
かなめが恐る恐る振り返った先には担任の神楽坂が立っており、瞳には涙が浮かんで居る。
「先生、これには深い事情が」
「買ったばかりなのよ!! ローンも3年あるのよ!! ETCやカーナビだって付けてコーティングだってしたんだから!! まだ100キロも走ってない!! 200万円もしたんだから!!」
宗介に詰め寄る神楽坂の剣幕は凄まじく、宗介も怯んで1歩後退る。
恥も外聞もなく泣きながら怒る神楽坂に宗介も只ならぬモノを感じ取り、説明しても聞いてはくれないと判断し、冷や汗を流して直立不動で立つ。
「今すぐ元に戻します!!」
「キズでも付けたら承知しませんから!!」
「了解です!!」
宗介はステンレス製の赤い工具箱を抱えて、バラバラに分解された車を大急ぎで直して行く。
かなめは呆れながらその様子を眺めて居た。
「全く、退学になっても知らないんだらか。そうだ、時間!?」
慌てて左手首の腕時計を見るかなめ。
時間は3時25分を指しており、それを確認したかなめは全速力で校舎に向かって走った。
///
やがて授業は終わり私は帰り支度をしていた。
あの後に教室に戻ると他の生徒からの質問攻めだった。
その全てが彼女、ベヨネッタの事について聞かれた。
それでも私はなんとか知り合いの人と誤魔化して昼食を取り今に至る。
「さて、準備も出来たし帰る――」
カバンを手に持ち帰ろうとした瞬間に強力な魔力の反応を感じた。
周りの人達は気付いていないけれど魔術師の私には分かる。
(この魔力量は普通じゃない。もしかしてサーヴァント!?)
サーヴァントはこの学校の敷地内に1人居る、ベヨネッタだ。
けれどもこんな量の魔力を開放するなんて絶対におかしいし、彼女の感覚ではない。
何かあったに違いない。
そうなると周囲に被害も出かねない。
(急いで行かないと。この感覚だと場所は体育館の裏あたりね)
あまりに膨大な魔力量は敵の存在を確認するには十分だった。
私は急いで校舎を駆け抜けて行く。
口で息を吐きながら全力疾走で体育館の裏へと走る。
そして近づくにつれて魔力量はさらに増大していく。
これから戦闘が始まるのを理解し、幼少から育てられてきた魔術師としての本能が私を臨戦態勢へ取らせた。
サーヴァントを召喚してわずか2日、こんなにも早くに2回も戦闘があるなんて思いもよらなかったがここで負けるわけにはいかない。
「ベヨネッタ!!」
草木が生い茂るこの場所でも彼女の黒いスーツは良くも悪くも目立っていてすぐに見つけた。
ベヨネッタは拳銃のような宝具を両手に握るとそれを構える。
その照準の先には紫色の長髪の女性が居た。
けれどもその見かけはおおよそ一般人とはかけ離れて居る。
両目にはバイザーで隠されており両手には鎖つきの短剣を握って、明確な殺意が私の背中を撫でて来た。
(アイツもサーヴァント!! けれどもマスターの姿が見えない)
私はすぐに周囲の状況把握をするために見渡したがマスターは見当たらなかった。
魔力を探知しようにもサーヴァントが2人も居てはそれも叶わない。
サーヴァントと比べた人間の魔力は余りに微弱でかき消されてしまう。
「ベヨネッタ、無事ね?」
「私を誰だと思っているの、子猫ちゃん」
いつも通りに余裕綽々に応えるベヨネッタに、これから戦闘するという緊張感は感じられない。
「そんな玩具では私に傷は付けられません」
「そう? 玩具でもちょっと楽しむぐらいなら出来るわよ」
ベヨネッタはそう言ってるけど、相手の対魔力の方が高ければ攻撃はすべて防がれてしまう。
現にバーサーカーにはベヨネッタの宝具から放たれた弾丸は傷を付けられたかった。
闇雲に戦っても不利、作戦を考えないと。
「ベヨネッタ、相手がどんな宝具を持っているか分からないわ。ここは慎重に」
あの時はベヨネッタが先に行ってしまったけど、今なら的確な指示を出して倒せなくてもより多くの敵の情報を得なければならない。
その為にどのようにして動くか考えていると、敵を目の前にして居るのにベヨネッタは私に振り向いて話し掛けて来た。
「ねぇ、アナタは玩具でやるのってどう?」
「こんな時に何を言ってるの!?」
「初めてが玩具じゃさすがにイヤ?」
「敵が目の前にいるのよ、戦いに集中しなさい!!」
「最近はいろんな種類が出てるのよ。それよりも本物のほが好き?」
(いろんな種類? 本物? 玩具?……っ!?)
ここでやっと彼女が何を言っているのかが分かってしまった。
断じてそんなものを実際に見た事も触った事もないが知識としては頭に入っている。
(緊張感どころか何を話し出すのよ!!)
再会して早くも私のストレスを溜めさせるベヨネッタ、一体何を考えているのか私には理解出来ない。
(それにそういうのを玩具とは言わない!!)
相手のサーヴァントもそう思ったのか悠長に話しをさせてはくれなかった。
明らかにこちらに敵意を向けて攻撃してくる態勢だ。
「おしゃべりはこれまでです。こちらから行かせて貰います」
「そうね、逝かせてあげるわ。死ぬほどね!!」
私の目の前からベヨネッタの姿が一瞬にして消えた。
どうでも良いけど、敵のサーヴァントの言っていた『いく』とベヨネッタの言っていた『いく』のニュアンスが違うような気がするのは私の気のせいだろうか。
頭の片隅でそんなどうでも良い事を考えているとベヨネッタはもう動いていた。
ベヨネッタは人間離れした跳躍をして敵サージャントの上まで飛び上がる。
そのまま空中で逆立ちするような体勢に移り、腕をクロスさせて回転しながら下方の敵へ弾丸を雨を降り注ぐ。
両手に持った2丁の宝具から放たれる弾丸は雨どころかストームの如く、それでも相手のサーヴァントは弾丸のストームに傷ひとつ負って居ない。
弾丸は草の生えた地面を抉り薬莢と土煙が舞い散る。
(相手の動きも相当早い!! ベヨネッタで追いつけるの?)
私には既にサーヴァントの姿は視界に映ってない。
何処に敵が居てどんな攻撃をしてくるのかも分からないのに、ベヨネッタは余裕の表情を崩さなかった。
すると木の陰から何かが高速で飛んで来た。
早すぎてそれが何なのか判断が付かないけれど、その飛来する物体はベヨネッタの体に突き刺さろうとして居る。
「こんなんじゃ燃えないわ。あなたもそうじゃないの?」
でもその短剣はベヨネッタが連続して放つ弾丸が無数にぶち当たり、勢いを殺されて重力に引かれた。
敵のサーヴァントは短剣に繋がれた鎖を引き手元に戻すと、それを構えて再びベヨネッタへと構えを取る。
「燃える? 敵を倒すのに感情など要りません」
「あら、そう? あの忌々しい天使を潰す快感をアナタにも分けてあげたい」
「敵と話をするつもりもありません」
敵は短剣を握り締めると卓越した脚力で一瞬にして接近をして来た。
(マズイ、接近されたら銃じゃ対応出来ない。前に見た召喚魔法でどこまでできるか)
ベヨネッタは両手の宝具で接近されまいと迎撃をするが、右へ左へ移動する敵サーヴァントに簡単に避けられてしまって居る。
でも目前に迫る敵の真上から魔人の巨大な足が召喚され地面を踏み潰した。
地面が抉れ地響きが木霊するがその足の下には何もない。
「ベヨネッタ、上よ!!」
跳躍したサーヴァントが短剣を逆手に持つとベヨネッタの顔に目掛けて振りかざして来る。。
もう間に合わない、心の中でそう叫んだその時に甲高い金属の音が聞こえた。
「そのような宝具まで持っているとは。これは私の油断です」
「手の内は最後まで隠しておくものよ」
ベヨネッタのその手には刀身の長い刀が握られて居た。
ぎらりと輝くその刃には一筋の赤い滴が付いて居る。
「その宝具は斬った相手の魔力を吸い取る。こんな浅い傷でも今私の魔力は確実になくなって居る」
「さぁ、それだけじゃないかもよ?」
「ここは1度引きます」
捨て台詞を吐くと敵サーヴァントはものすごい跳躍力とスピードで目の前から消えた。
遠ざかっていく魔力の源に私は戦闘の緊張感を解く。
そして山程ある聞きたい事の内の1つをベヨネッタに聞いた。
「で、アナタはここで何をしているの?」
「何って? 面倒なサーヴァントをさっさと倒そうと思ったんだけど、思ったように上手くいかなかったわね」
「何回も言ってるけど相手の能力もわからないのに戦うなんて無謀だから。下手したら何も出来ないままやられちゃうわよ?」
「私がそんなに弱く見える?」
「そうじゃな――まぁいいわ。それでどうやって敵サーヴァントを見つけたの?」
「見つけたというか釣ったって感じね。この敷地のいろんな場所に結界が仕掛けられてるわ」
「それは私にもわかる。学校に来たときから感じてた」
「アナタがお勉強している間、結界を何個か解除していおいたの。そしたら勘付いた相手が戻って来ると思って」
「戻って来なかったらどうするつもりだったの?」
「別にどうもしないわ。今日はなかなか楽しめたし、またこれからの事を考えるわ」
本当に彼女の自信は何処から出てくるのか、慣れ始めてきている自分が居る。
「それと最後の質問よ。あの宝具は何?」
「たしか名前は妖刀修羅場だったかしら。まぁ名前なんてどうでも良いわよね」
「じゃなくて!! あの銃以外にも宝具があるなんて聞いていないんだけど」
「だって聞かれてないもの」
いつもの様にまったく悪びれる事なく平然と言うベヨネッタ、だったら聞いてやろうじゃないの。
「なら聞くけどその修羅場って宝具はどんな能力があるの?」
「聞きたい? うふふ、どうしよっかなぁ?」
「こ、こいつはぁ!? いいから言え!!」
「教えてア・ゲ・ナ・イ。少しは自分で考えて見なさい」
「アホかぁ!! わかんなきゃ作戦の立てようがないでしょうが!!」
「作戦? そんなの考えてどうするの?」
「どうするって、作戦を考えなきゃ戦いようがないじゃない」
「必要ないわ。それより私、もっとここを廻ってくるから」
「ちょっと待ちなさい!! 勝手に行くな!?」
ついさっきサーヴァントと戦ったばかりだって言うのにコイツは本当に緊張感がないわね。
そんな事よりベヨネッタを1人にするのは非常にマズイ。
一体何をしでかすのかわかったもんじゃない。
私は急いで彼女を追いかけ体育館裏から走る。
裏から抜けてグラウンドに出ると運動部員が汗を流して部活の練習をしている中で、レディーススーツを着こなした彼女はすぐに見つかった。
「ふ~ん、キュウドウねぇ」
「はい、体力があるに越した事はありませんが女性でも出来るスポーツですよ」
「でも手が汚れそうだから。やっぱり私は見てるだけでいいわ」
「すぐ先が練習場ですので是非見て下さい」
そこには私の目の錯覚でなければベヨネッタと1つ下で後輩の桜が立ち話をして居た。
聞く限りでは弓道の練習を見に行くようだがそんな事を許す私ではない。
今すぐにここから立ち去って貰わないとまた変な事を仕出かすに違いから。
「ベヨネッタ!! アンタ勝手に何してるの」
「あら? 言わなかった、子猫ちゃん? このあたりを廻ってくるって」
「それが勝手な事なのよ。1人で動かれたら何が起こるかわからないじゃない」
「別に何も起こりはしないわ。それとも何? 私はアナタの所有物だとでも?」
「それは――」
チラッっと隣を見るとポカンとした顔で桜は私達2人を眺めていた。
私は学校では物静かにしているから声を荒げているのは珍しいのもあるだろう。
でもそれ以上に気になっているのはベヨネッタとの関係に違いない。
けれどもどうすれば上手く誤魔化せるのか私はまだ思いつかないで居た。
「遠坂先輩と知り合いなんですか、ベヨネッタさん?」
「えぇそうよ。私とこの子は――」
「あーー!! あーー!! あーー!! これ以上喋らないで!! 私とこの人はただの親戚なだけだから」
「親戚……ですか?」
「そうよ。『ただの』親戚よ。わかってくれた?」
「は、はい」
かなり強引に、有無を言わさずこの場は納得させる。
でもそんな私に追い討ちを掛けに来たのか、ストレスの溜まる人がまた1人やって来た。
「誰かと思ったら遠坂か。そっちの背の高い女は知り合いか? まぁ、今はどうでもいいんだけどさ。それよりも僕が用があるのは桜だ」
「兄さん、今から練習ですか?」
「それもあるけどさ、お前また衛宮の家に行ってただろ?」
「はい、その……」
「僕は前にも言ったよな? 衛宮の家にはもう行くなって」
「はい、でも――」
「口答えをするな!! お前は僕の言う事を聞いていれば良いんだ!!」
やってきたのは桜の兄、間桐慎二は周囲の目も気にせずに桜を怒鳴りつけて居た。
他人の家庭事情に首を突っ込む気などないけれど、コレは見ていて不愉快極まりない。
「その辺にして置いてあげたら間桐君。ここに居たら他の生徒にも迷惑になるわ」
「遠坂、今だけは僕達兄妹の話だ。関係ない他人は引っ込んでくれ」
「そうは言うけれど、こんな場所で声を荒げられても何にもならないわ。続きは家に帰ってからでも良いんじゃない?」
「いいや、今回ばかりはもうダメだ。僕が何回も言っているのに聞かなかった桜が悪いんだ。おい桜!! 今度と言う今度は――」
桜さんに怒りをぶつけようとした間桐君の口が止まったのを見て、周囲の状況が変わっているのに気が付く。
いつの間にかあの2人の姿が見えなくなって居る。
まさに一瞬の隙を付かれたと言っても良い、私も居なくなるまで気が付かないなんて。
周囲を2人して見渡すと弓道場に歩いて行くベヨネッタの後姿が。
その両腕にはお姫様抱っこされた桜が抱えられて居た。
「あ、あの~、わざわざ抱きかかえなくても」
「いいのよ、それにあの2人の話長そうだし。それよりもキュウドウジョウってコッチでいいの?」
「はい、あそこの建物です」
まったく何をやっているんだか、私はベヨネッタを急いで追いかけた。
もちろん一緒に居た間桐君も付いて来る。
「おい遠坂!! あの女は一体誰なんだ。人の妹を勝手に連れ出すなんて」
「詳しくは説明出来ないわ。勝手に連れて行ったのは私から謝るけど」
追い付いた頃には2人は弓道場の入り口に立っていた。
「すみません。わざわざ送って貰ったりなんてして」
「それくらいいいわよ。それより中に入りましょ」
ハイヒールを履いているベヨネッタと桜の身長差はまるで人差し指と小指ぐらいの差でプロポーションの良い桜でさえ見劣りしてしまう程に。
私は寸前で弓道場に入ろうとする2人を呼び止めた。
「待ちなさい。さっきからアンタは――」
「オイ!! 人の妹を勝手に、どういうつもりだ!」
私の言葉を遮り間桐君は怒りをあらわにしてベヨネッタに詰め寄ってしまった。
走りっぱなしで息が上がってしまった私は彼を止める事が出来ない、何も起こらなければ良いけれど。
「どうって、ここでキスでもしてみる?」
「きっ!? 女性同士でそういうのは良くないと思います!!」
ベヨネッタは桜さんの首に腕を巻くと唇に顔を近づけて見せた。
顔を真っ赤にして否定する桜さんだけど、ソイツの口車に乗せられてはダメよ。
「良いからさっさと桜から離れろ!!」
「そう言うアナタは誰なの? ボーイフレンドか何か?」
「お前には関係ない」
「あ~、兄さんって確か言ってたわね。妹を守りに来たんだ、お兄ちゃんカッコイ~」
「茶化すな、さっさと来い桜!!」
「ずいぶんな言い方ね。相手に頼むだけじゃなくてたまには自分でしてみたら?」
「どう言う事だ?」
「別に、3歩も歩けば手が届く場所よ。自分で歩いて来て見なさい」
「ふん、言われなくても」
相手をからかう態度は間桐君相手でも変わらない。
相変わらずベヨネッタが何をしたいのかは検討もつかないけれど。
このまま桜さんを連れて行かせるつもりなのだろうか、いつもの余裕の笑みで彼女は笑って居た。
挑発に乗って間桐君は足を1歩、2歩と踏み出す。
3歩目の足を踏み出して弓道場の石畳に足を付けようとした瞬間にそれは起こった。
「ん、気のせいか?」
目の錯覚だろうか、それとも偶然歩幅が足らなかったのだろうか。
3歩目を踏み出しても彼は石畳に足を付けては居なかった。
立ち止まった間桐君はもう1度、足を踏み出す。
でも、私の目が節穴でなければ彼はその場から動いてない。
「気のせいなんかじゃないぞ!? 何があった、僕は確かに歩いたはずだ!!」
「何をおかしな事を言っているの? 愛おしい妹まで後少しよ」
「このオンナ!! 僕に何かしたのか、さっさと元に戻せ!!」
「歩くぐらい自分で何とかしてみなさい。それとも妹が居ないと力が出ない?」
「何処までも馬鹿にしやがって、このぉ!!」
さすがにこんな事まで言われて我慢の限界が来たのか、シスコンのような言われ方をしては普段の彼からしたら我慢出来る筈もない。
右手を振り上げてベヨネッタに殴りかかろうとする。
不思議な石畳の呪縛は解けたのか足は前に進み、ベヨネッタに走りその拳をぶつけようと力を込めた。
余裕綽々の笑みを浮かべたままその場から動こうとしないベヨネッタ、反面隣に居る桜さんは激怒する兄の姿に縮こまってしまって居る。
でも振り上げられた右手はベヨネッタに当たることなく、何故か通り過ぎて弓道場の扉にぶつかった。
「だああぁぁっ!? 何をやっているんだ僕は? また何かやったな!!」
木で作られた扉を殴り激痛に襲われる右手を押さえながら、背後に立っているベヨネッタを睨む。
気が付くと彼は瞬間移動してベヨネッタと桜さんを通り過ぎて扉を豪快に殴って居た。
擦り剥いた手の皮から血が出てきて、痛いだろうに。
「中々良いパンチね、ボクシングでもしてみる?」
「ベヨネッタさん、一体何があったんですか? 私には何が何だか。何で兄さんはいきなりあんな所に行ったんですか? ちょっと前まで確かにここに居たのに」
「お嬢ちゃん、良い事を教えてあげる」
「はぁ~」
「もっと良い男を見つける事ね。せっかくの美貌も廃れちゃうわよ?」
「え?」
ベヨネッタの言う事も、さっき目の前で起こった出来事も訳がわからないと言う表情をしている桜さん、私も分からないけれど。
間桐君が扉を殴った音や騒ぎを聞きつけて弓道場から人がやって来てしまう。
その中には顧問の藤村先生も紛れて居た。
「なになに? 何の騒ぎって!? 慎二君の右手ケガしてるじゃない」
「藤村先生。もういい!! 桜、今日の事は覚えているからな!!」
傷付いた右手を押さえて間桐君はその場から立ち去った。
さっきの瞬間移動や石畳に入れないのはベヨネッタの仕業だろう。
一体何をしたのか気になるがどうせ聞いた所で教えてくれない。
それよりも人が増えてきたこの場をどのように切り抜けるかが今直面すべき問題だ。
「あら~、ケガした手大丈夫かな? みんな道場に戻って練習に戻りなさい!! 桜さんも今は聞かないで置いてあげるから早く着替えていらっしゃい」
「は、はい!」
「それから遠坂さんも部活がないなら早く下校しなさい」
「はい、藤村先生」
「それからそこの外国人!!」
ヤバ、やっぱり聞かれるわよね。
さっきのように親戚って事で誤魔化そうか。
今の私には瞬時にそれ以外の誤魔化し方を考え付かない。
「藤村先生、その人は私の遠い親戚なんです!! 勝手に学校に来ちゃって、すぐに出て行きますので!」
「せっかく来たのにキュウドウ見ていかないの?」
ここはやり過ごしてさっさと学校から出よう。
これ以上、聖杯戦争と関係ない事で神経をすり減らすのはゴメンだわ。
「それでは藤村先生、失礼致します」
私はベヨネッタの手を掴むと学校を出ようと校門へと歩いた。
ハイヒールを履いて明らかに身長差が開いている彼女を引っ張っていくのは傍から見たら滑稽だったかもしれない。
けれどもそんな事は気にせずにとにかく私は彼女を連れて歩いた。
「もう帰っちゃうの? せっかく新しく服買ったのに」
彼女の言葉に私は校門から出る直前で歩みを止めた。
たしかベヨネッタを初めて召喚した時は黒いボディースーツを着ていた筈。
それが今はレディーススーツを着こなして居る。
ずっと忘れてたが彼女はその服をどうやって買ったのだろう。
「ベヨネッタ、1つ聞きたいのだけれども。その服はどうしたの?」
「どうしたって買ったに決まってるじゃない。シャツだけじゃないわ、ハイヒールもパンツも全部店に選んで貰ったわ」
「それ一式全部ですってぇ!? 一体いくらしたのよ!!」
「ちゃんとお金は払ったわよ?」
「じゃなくて値段よ!! ネ・ダ・ン!!」
「カードで払っちゃったから覚えてないわ」
目の前が真っ暗になる。
たしかコイツ携帯も買ってたわね、朝食も高いデリバリーを頼むし他にも何か買ってるかもしれない。
今月の明細が怖くて仕方がないわ。
「聖杯にお金ちょうだいって頼もっかな~」
///
日も傾き次第に景色は暗くなって行く。
学校の呼鈴が鳴り、下校時刻を報せる。
生徒と教職員は家路に付き学校に残っている人は居ない。
今日1日でいろいろ有り過ぎたけど、私はこの時が来るのをずっと待ってた。
今なら学校に貼られている結界など調べる事が出来る。
私とベヨネッタは校門前に立って居る。
「行くわよベヨネッタ。学校に居る間に何個かは見つけたわ。まずは屋上に行く」
「何個かはもう消しちゃったわよ。それにその結界はあの女のでしょ?」
「十中八九そうでしょうね。でもこの結界をそのままにはしておけない。発動すれば結界の範囲内に居る人間は昏倒してしまう」
この結界は1個人に対して仕掛けられては居ない。
ベヨネッタも言っていたけれど、複数存在する事を考えると恐らく学校の敷地すべてを囲ってる。
人の精神力を奪い自らのエネルギーに変える、そう言う結界だとわかる。
「悪趣味ね、こんなことをして」
「同感ね、それじゃさっさと消しに行きましょ」
「えぇ、私を抱えて屋上までジャンプしてちょうだい。アナタの跳躍力なら簡単に出来るでしょ」
「子猫ちゃんの御守りだなんて」
私の事を子猫ちゃんと言いつつも、体を抱きかかえて驚くべき跳躍力で助走もなくベヨネッタは飛んだ。
夜の冷たい風が髪を揺らしながらベヨネッタは屋上のコンクリートに着地する。
抱きかかえてた私を下ろすと夜空に輝く月を見上げる。
「今日は三日月なのね」
私は1人で屋上の出入り口の扉まで歩くと、そこには赤い文字で書かれた結界が張られて居た。
「思った通りこれが結界の起点ね。でも私には手に負えない、一時的に消せても魔力を供給されればまた元に戻ってしまう」
この結界は段違いの技術で張られており完全に消すのは至難の業。
完璧に道具をそろえても一か八かの賭けだ。
それに間近に結界を見て分かった事がある、この結界が1度でも発動すれば結界内の人間は溶解されてしまう。
文字通りの溶解、人としての形も残さずに溶かす。
私は学校の人間から精神力を奪いサーヴァントのエネルギーに変えているものだと勝手に思い込んでたけど、これはそんな生易しい結界ではない。
これは魂を食う、結界内の人間の体を溶かしにじみ出る魂を強引に集める血の要塞だ。
「これを仕掛けたサーヴァントのマスターは人として何処か欠落しているわ」
「そんなの初めからわかっていた事でしょ? いいから早く消すわよ」
「そうね、とりあえず時間稼ぎくらいには」
ベヨネッタに言われ書かれた呪刻に近寄り左手をさしだす。
左腕に刻まれた私の魔術刻印は遠坂の家系が伝える魔術書だ。
心の中で意識のスイッチを入れ、魔術刻印に魔力を通して結界消去が記されている部分を読み込んで発動させるだけ。
「Abzug Bedienung Mittelstand」
左手を扉に書かれている結界に密着させ一気に魔力を流した。
赤い文字で書かれた結界が青く発行したのを見て、ちゃんと消えたのを確認する。
「せっかくの結界を消しちまうのか?」
その時、結界消去を阻むようにベヨネッタではない第3者が私の背後から話し掛けて来た。
咄嗟に振り返る先には、青い服を着た男が給水塔の上で私を見下ろして居る。
「これはアナタが仕掛けたの?」
「そういうのは魔術師の仕事だ、俺の本文は敵と戦うこと。そうだろ嬢ちゃん?」
夜の闇に溶け込むような深い群青のソイツの目は、獲物を前にした獣のように私を見つめて居る。
深紅に染まる2メートルはある長い槍を取り出したそれは、紛れもなく宝具だと理解した。
「また新しいサーヴァント!?」
「またって事は俺以外ともう戦ったって訳か。あ~あ、失敗したな。何もわからないと思ってちょっとからかおうと思ってたのによ。こんなんなら遠慮は要らねえ」
全身に冷や汗が流れ背筋が凍る。
今まではベヨネッタが戦って気が付かなかったのか、明確に向けられて強い殺気に私は恐怖した。
これからどうすればいいのか考えるよりも早く体が動く。
すべての力を振り絞りフェンスに向かって体当たりをする気持ちでジャンプした。
「っ!?」
瞬きをするよりも早く槍を握ったサーヴァントは先ほどまで私が居た場所でベヨネッタと対峙して居た。
私を貫くつもりで振るわれた槍は、コンクリートに突き刺さるどころかクレーターのように周囲が円形に凹んで居る。
ベヨネッタはハイヒールで刺さっている槍を踏みつけるといつものように余裕の笑みを浮かべた。
「私を無視して子猫ちゃんの相手? ずいぶんと舐められたものね」
「何だい、アンタが相手してくれるのか? それなら話が早い、ちょっと体が鈍ってた所だ」
「そんな悪い子にはお仕置きが必要ね。元気になるどころかそのままへし折ってあげる」
「言うじゃねえか」
不敵な笑みを浮かべる2人の間からは火花が飛び散るのではないかと思えるくらい、鋭い緊張感と殺意は充満して居る。
サーヴァント同士の戦いに只の人間が介入する事は出来ない。
私はここから指示を出し、決着が付くのを見守る。
「Let's rock, baby!!」
『臨時ニュースをお伝えします』
///
「え゛!? これからメッチャ良い所なのに!!」
テレビが設置された教室でかなめは大声を上げた。
彼女が時間を気にしていたのはこのアニメの放送を見る為。
途中で中断され怒りが収まらないかなめは、テレビ画面の向こう側の男性キャスターに向かって声を荒げる。
「深夜に3話だけ放送された幻のアニメなのに!! DVD化もされてないから今日見れるのは奇跡に近いのよ!!」
「かなちゃんってこう言うのも見るんだね」
教室には恭子も一緒に居り、テレビのニュースを眺めた。
『現場では5機のASが確認されており、死傷者も出ている模様』
「何だか大変な事になってるね』
「ニュースなんて夜でも良いでしょ!!」
怒りの収まらないかなめはイスの上でふんぞり返った。
そこへ突然教室の扉が開き、神楽坂の車の修理をして居た筈の宗介がやって来る。
「宗介、車はもう良いの?」
「問題ない。全て元通りだ。それよりも千鳥」
「うん?」
「今日は寄り道せずに真っ直ぐ帰るんだ」
ピリピリした緊張感を孕んだ声でかなめに告げる宗介。
意味をすぐには理解出来ないかなめを置いて、宗介はまたすぐに何処かへ行こうとする。
「明日は学校に来れない」
「来れないって、また仕事なの? 明日は小テストだよ」
「テストは受けられない」
「アンタは単位危ないんだから、期末テストはちゃんと受けないと進級出来ないかもしれないわよ?」
「了解だ。時間があれば勉強する」
それだけ言い残して宗介は教室から出て行った。
異様な雰囲気を感じ取るかなめだが、言葉にする事が出来ずにその日は終わってしまう。
タグは追加した方が良いのだろうか?
そうでなくても必要最小限にしか付けてませんからね。
助言してくれるとありがたいです。
次回からは真面目にストーリーを進めますので。