フルメタルWパニック!!   作:K-15

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※重大なミスが発覚!!今まで工藤 詩織として扱ってきたキャラは稲葉 瑞樹の間違いでした。
修正はさせて頂きました。今後はこのような事がないように注意します。

瑞樹はまともに登場したのが1回しかないのでキャラが掴みにくい。
こんなので良いのか疑問だ。


第20話 はた迷惑なスケット団!!

かなめの心配とは裏腹に事態は進展して行く。

取り敢えず事態は沈静化し、各々は近くに置いてあるイスの上へ座った。

会長の林水は何事もなかったかのように、ヒイロにラグビー部の話を続ける。

 

「話が途中で反れてしまった。そのラグビー部のスケットとして千鳥君と相良君に行ってもらう。キミも同行してくれないか? きっと良い経験になる筈だ」

 

林水の発言に対してヒイロは真っ直ぐに見つめるだけで何も言葉を返さない。

それよりも突然名前を上げられたかなめの方が動揺して居た。

 

「えっ!? アタシもですか!!」

 

「聞こえなかったかね。千鳥君はマネージャーとして、相良君はスケットとしてラグビー部へ行って貰う」

 

「そんな勝手な……」

 

嫌がる素振りを見せるかなめに、林水は掛けているメガネを右手でクッと正すとレンズを光らせた。

 

「私はこれからPTA会長と予定がある。あの人の事だ、2時間以上は座ったまま帰してくれないだろう。退屈極まりない面会だが、今からキャンセルする訳にはいかん。それともキミが代わりに行ってくれるかね?」

 

今年で還暦を迎えるPTAの会長はおしゃべり好きとして有名だった。

その喋る内容も他人の陰口や嫌味ばかりで、ドラマなどで良く見る絵に描いたような嫌な人である。

厚化粧と肉が付いてきて少し小太りになった彼女の話を延々聞くだけの作業は、かなめにも辛く精神に負荷が掛かってしまう。

何も発言は許されず、耳にタコが出来る程彼女の声を聞かされては夢にまで見るかもしれない不安が過る。

そこへ参加するのとラグビー部のマネージャーとを比べれば、嫌々ではあるがマネージャー業を選ぶしか出来ない。

ため息を吐きながら大きく肩を落としてかなめは渋々ではあるが了承する。

 

「はぁ~、わかりました」

 

「結構。では美樹原君、千鳥君にアレを」

 

「はい、会長」

 

林水に言われて美樹原は机の横へ引っ掛けてあった紙袋からセーラー服を取り出した。

そしてかなめにも見えるように机の上へ黄銅色をしたヤカンと白いセーラー服を置く。

何の事か意味がわからず呆気に取られるかなめに、林水は淡々と言うだけだ。

 

「ラグビー部のマネージャーをしている間はそのセーラー服を着て貰う」

 

「それは良いですけど、何でそんな事を?」

 

「マネージャーと言えば、あずき色のジャージかセーラー服だと決まっている」

 

「アタシが言える立場じゃないですが、テレビの見すぎじゃないですか?」

 

「いいや。それは違うぞ、千鳥君」

 

林水は胸ポケットから扇子を取り出し、右手首をしなやかに揺らすと扇面がバサァっと音を鳴らして広がる。

白い扇面には達筆な筆字で日本男児と書かれていた。

林水はその扇子で口元を隠しながらかなめと宗介に言う。

 

「日本人としての義務だよ。ラグビー部には相良君も同行して貰う。わかってくれたかね?」

 

「はっ!! 了解しました!!」

 

嫌な目をするかなめに対して宗介は直立不動で林水に敬礼すると、ハキハキとした声で言うのだった。

かなめはふとヒイロの方を見てみると、両目を閉じ腕を組んで居て寝ているのかどうかわからない。

そしてヒイロに熱い眼差しを向ける瑞樹。

かなめの考えとは裏腹に勝手にしている他の3人を見て、また深いため息を付いた。

 

「はぁ~、何でこうなるかなぁ?」

 

「そう心配する必要はないぞ、千鳥くん。何故なら今回は彼にも一緒に行って貰う」

 

そう言った林水は再びヒイロに視線を向ける。

ヒイロは微動だにしないまま、目を閉じたまま口を開いた。

 

「俺が行く必要があるのか?」

 

(起きてたんだ)

 

声を出してくれたお陰でヒイロが寝ていない事がわかったかなめ。

林水はそのまま話を続ける。

 

「言わなかったかい? きっと良い経験になる筈だ」

 

言われてヒイロはまた口を閉ざしてしまった。

緊迫した空気が張り詰め生徒会室を覆う。

全員の視線が2人に集中し、ヒイロがどうするのかを固唾を飲んで見守るしか出来ない。

窓の外からは大勢の野球部の掛け声と、金属バットにボールが当たった甲高い音が響いて来る。

生徒会室がそれらの音に支配されかけた時に、ようやくヒイロは目を見開き答えを出した。

 

「いいだろう。お前が言う良い経験と言うのを見せて貰う」

 

「そう言ってくれると思っていたよ。さて、時間も限られている。千鳥君が着替え次第、早急にラグビー部の部室へ向かってくれ」

 

言われて宗介はもう1度林水へ敬礼する。

ヒイロもまた腕を組んで両目を閉じてしまい、林水と美樹原も生徒会室から退室してしまう。

かなめはあきらめて、机の上に置かれたヤカンとセーラー服を手に取った。

 

「ダーリンが行くならアタシも行く!!」

 

すっかり忘れ去られて居た瑞樹がイスから勢い良く立ち上がり、大声で叫んだが誰も言葉は返さない。

生徒会室は再び静寂に包まれ、窓の外から野球部の掛け声だけが聞こえて来る。

 

///

 

かなめは林水の指示通りに白いセーラー服に着替えると、ヤカンを持ってラグビー部の部室へと向かう。

彼女に続いて宗介、ヒイロ、瑞樹が続いて歩いて来る。

部活動に勤しむ生徒はグラウンドや体育館で練習をしており、向かう途中の廊下ではほとんど誰ともすれ違わない。

かなめの後ろを歩くヒイロは持っているデジカメの画像データをまた確認していた。

 

『ピッピッピッ』

 

ボタンを押す度に機械音が鳴り、かなめの耳にも入って来る。

ヒイロは視線をデジカメの小さなディスプレイに向けたまま、前を見ずに歩き続けていた。

そのヒイロの傍でソワソワと落ち着かず、ヒイロが持つデジカメを覗きこもうとしたり横から表情を見つめたりしている瑞樹。

何かをする訳でもなくちょこまかと動かれてかなめは非常に鬱陶しかった。

けれども宗介は嫌な表情1つせず、キッチリと真正面を向き背筋を伸ばして進んでいる。

それぞれが思い思いの行動をしており、かなめに気を掛けてくれる人など皆無だった。

 

「何が心配するな、よ。こんなので大丈夫なのかなぁ?」

 

「千鳥、ラグビーとはどのようなスポーツなのだ?」

 

「はぁ~、ダメだこりゃ」

 

ラグビー部のスケットとして行くかなめだが、ルールなど把握している筈もなかった。

同じ女子の瑞樹も同じだと簡単に予想出来る。

隣に居る宗介も知らないとなれば残るはヒイロだけだが、彼は一切口を開く素振りを見せない。

かなめの心の中では不安が募る一方だった。

『心配する必要はない』と言った林水だが、早くもかなめは心配ばかりしている。

誰も居ない通路を歩ききり部室棟まで来ると、扉に白いプラスチックの板で部活名が黒字で書かれていた。

 

「あぁ、嫌だなぁ~」

 

「会長閣下のご命令だ。俺達はスケットの任務を果たすだけだ」

 

「アンタが居るから心配なのよ」

 

ラグビー部の部室を目で探す千鳥。

野球、サッカー、テニス、バスケットと続き、その次に書かれていたのが『ラグビー部』の文字。

かなめはその扉の前に立ち、他の3人は彼女が中へ入るのを待つだけだ。

 

(ラグビーっでゴツイ男が汗まみれ泥まみれになってるイメージがあるから、何か汚そうなのよね。どうせ部屋の中だってクッサイんだろうなぁ~。帰ったら念入りにお風呂に入ろ)

 

「どうした、入らないのか?」

 

「わかってる。ちょっと心の準備をしてた所」

 

「ラグビーとは覚悟のいるスポーツなのだな」

 

勝手に勘違いしている宗介を放っておいて、かなめは水色に塗られた扉を右手でノックした。

鉄で作られた扉から鈍い音が2回鳴る。

 

『はい、只今』

 

中から男の声が聞こえると、外側に扉が開かれガタイの大きいラグビー部員が現れた。

身長は180㎝はあり腕や首も普通の人よりも筋肉で太い。

 

「生徒会の千鳥さんと相良さんですね。他にも来て頂いてありがとうございます。僕は部長の郷田 優です。宜しければ中に入って下さい」

 

言われてかなめ達は部長と名乗った郷田に迎え入れられ部室内へ足を踏み入れた。

けれども部屋の中はかなめが想像とは全然違う。

塵1つない床、真っ白な壁紙、透き通った窓ガラス。

オレンジ色のソファーと色とりどりの観葉植物が飾ってある。

とても男子高校のラグビー部の部室とは思えず、かなめの口がポカンと開く。

 

「何、この綺麗な部室は……」

 

「綺麗な部室の方が気持ちが良いじゃないですか。それに部員もみんな綺麗好きなので。今、紅茶を用意しますのでソファーで待っていて下さい」

 

「はぁ、それなら」

 

自分の想像とは180度違う光景にあっけらかんとし、かなめは言われるがままソファーに座ろうとした。

だがそこで、沈黙を貫き通していたヒイロが1人前に出る。

 

「ヒイロ君?」

 

「おい、無駄話をするつもりはない。早く本題に移るぞ」

 

屈強な男にも高圧的な態度は崩さず、ヒイロは郷田の目の前に立つ。

身長の低いヒイロと郷田では大人と子供くらい差があるが、郷田は鋭い眼光に睨まれて少したじろぐ。

 

「ど、どうかしたのかい?」

 

「お前達は1週間後、硝子山高校との試合に勝つ必要がある。だが現状では勝つ可能性は限りなく低い」

 

「そ、その為に千鳥さんや相良さんをスケットに呼んで、今からみんなで練習を――」

 

「ダメだ、間に合わない」

 

郷田の言葉を最後まで聞きもせずにヒイロは遮る。

途端に部屋の中の空気が一変し、ピリピリとした緊張感が漂う。

他の部員もヒイロの気に当てられて、反論する事も出来ずに部屋の隅で縮こまるだけだ。

平常心を保っているのは宗介と、状況を全く理解していない瑞樹がキョロキョロとヒイロと郷田を交互に見ているだけ。

ソレを見てかなめは少し横暴ではないかと、郷田に助け舟を出した。

 

「ねぇ、ヒイロ君。1度練習を見てからでもいいんじゃないかな?」

 

「必要ない。それに、時間を掛けるつもりもない」

 

「ならどうやって試合に勝つのよ?」

 

言われてヒイロはより一層睨みを効かせて郷田の顔を睨んだ。

郷田は生唾を飲み込み、背中から冷汗を流す。

 

「んっ!?」

 

「次の試合、勝てれば何でもいいのか?」

 

「何でもいい? どう言う事だい?」

 

「もう1度言う。試合に勝てれば何でもいいのか?」

 

ヒイロが言う事を理解出来ずに郷田は聞き返すが、それ以上の事は一切説明せず同じセリフを繰り返す。

何を考えてこのような事を言っているのかは誰にもわからず、時間だけが刻一刻と過ぎて行く。

硝子山高校との試合に勝つ以外の選択肢が残されていないラグビー部、郷田は黙って頷くしか出来ない。

 

「う……うん。でも――」

 

「よし、ならここに用はない。行くぞ」

 

 

承諾を得たヒイロは郷田の言葉を最後まで聞く事なく、背中を向けてラグビー部から立ち去ってしまう。

あっけらかんとする郷田と他の部員を他所に、残された3人もヒイロに続いて部室から出て行く。

 

「ちょっとヒイロ君!? 何処に行くのよ?」

 

「ダーリン、待ってぇぇ!!」

 

「怪しい……何か裏があるのか」

 

ただ1人、宗介だけはヒイロの動向を探って居る。

ここに残っている訳にもいかず、先頭を歩くヒイロに遅れまいと宗介も走った。

4人が出て行った後の部室では屈強な男子が呆然と立ち尽くして居るだけだ。

部室棟を出たヒイロは迷いなく歩き続け、かなめ達はそれに付いて行くしか出来ない。

これからの事を言おうとしないヒイロに、かなめは廊下を歩きながら話し掛ける。

 

「ねぇ、これからどうするの?」

 

「対戦相手の所へ直接乗り込む」

 

「乗り込むって硝子山高校へ!?」

 

「あぁ」

 

「まさかとは思うけど、変な事考えていないでしょうね?」

 

宗介と言う事例があり、かなめの頭の中は不安で一杯になってしまう。

額から汗を流しジト目でヒイロの顔を見つめるが、前を向いたきり視線すら反らさない。

不安がぬぐい去られる事はなく、また更に不安が募る事を言い出すヤツが居る。

 

「ラグビーとは覚悟が必要なスポーツなのだろう? なら敵地に乗り込むのは通過儀礼の筈だ。俺も初めてゲリラの夜戦基地に突撃した時は覚悟が必要だった。これを乗り越えられれば、一人前の兵士に近づける」

 

「兵士じゃなくて、ただの高校のラグビー部員よ。普通の高校生がそんな危ない事する筈ないでしょうが」

 

「そう言うモノなのか」

 

常識とは逸脱した宗介の発想にかなめは呆れてしまう。

一々事細かに説明した所で宗介は理解出来ないので、かなめは軽く言うだけに留めた。

そしてヒイロと会話したかなめに、瑞樹が嫉妬心を剥き出しに敵意の眼差しを向けて来る。

かなめは深いため息を付いて、1階の下駄箱まで到着する。

 

「ねぇ、本当に硝子山高校に行くの?」

 

「そうだ」

 

「行ってどうするの? せめてそれだけでも教えてくれないの?」

 

「教えた所でお前達には関係ない。後は俺1人で出来る」

 

ヒイロは学校指定の黒い革靴に履き替えると、そう言い残して本当に1人で行こうとする。

そんな彼に瑞樹は無条件で後ろから後を追いかけ、宗介も動向を探ろうと付いて行ってしまう。

校舎にはかなめだけ取り残されてしまい、一瞬の寂しさを感じると同時に自らも靴を履き替えて距離の離れてしまったヒイロを追いかける。

 

「わかったわよ。行けばいいんでしょ!! 行けば!!」

 

先を進む3人に遅れる事、約50メートルはあった。

 

///

 

歩き続ける事およそ30分、かなめ達のすぐ目の前に硝子山高校の白い校舎が見えてくる。

 

「ようやく見えてきたわね」

 

「これから乗り込むのだな。となると、それ相応の装備が必要だ」

 

「必要ないから」

 

素っ頓狂な事を言う宗介を軽く否し、心地良い風が吹く中アスファルトの上を進む。

放課後になってしばらく経っているので下校する硝子山高校の生徒とはすれ違わない。

硝子山高校のグラウンドは校舎から少し離れた場所にあるが、ヒイロはそこに行こうとはせず校舎まで真っ直ぐに行く。

かなめは疑問に思いながらも、ヒイロの背中を眺めながら付いて行った。

そのまま4人は何事も無く校門をくぐり抜け、硝子山高校の玄関前へと到着する。

校舎を見上げるヒイロにかなめは半ば諦め気味に聞いてみた。

 

「練習を見に来た訳でもないし。本当に何をする気なの?」

 

「すぐに終わる」

 

何度聞いても説明はしてくれず、ヒイロは校舎の中へ入って行ってしまう。

 

「ちょっと!?」

 

残されたかなめも一緒に付いていこうとするが、足を1歩踏み出した瞬間に宗介に肩を掴まれ止められてしまう。

振り向いた先に居る宗介の表情は険しく、今までの経験から嫌な予感が頭を過ぎる。

 

「千鳥、キミはここで待っているんだ」

 

「一応、アンタにも聞いておくけど。何するつもり?」

 

「ヤツが騒動を起こさないか監視するのは、治安維持係としての俺の仕事だ」

 

「いや、騒動起こしてるのはいつもアンタだから!!」

 

「ここで姿を見失う訳にはいかん。速やかに突入する」

 

宗介は制服の内ポケットから拳銃を取り出し、かなめを残して走って行ってしまう。

未だに戦場での感覚が抜けていない宗介は何もない場所でも銃を構えて走り、壁に背中を密着させ進行方向に敵が居ないか確認しながら進む。

話を聞かずに突っ込んで行った宗介を眺めながら、両腕をダランとぶら下げ体から力を抜く。

 

「はぁ~、本当に大丈夫なんでしょうね~」

 

今日何度目になるかわからないため息を付く。

その時になってようやく、この場に自分しか残されて居ない事に気が付くかなめ。

右を見ても左を見てもアスファルトと数台の車が止まっているだけ。

急いで周囲を見渡すも彼女の姿は何処にも見当たらない。

かなめの心配を誰も察してなどくれなかった。

 

///

 

宗介は銃を構えていつでも発砲出来るように、ターゲットから目を離さない。

壁に半身を隠しながら、前を進むヒイロを尾行するも怪しい素振りは見せなかった。

それでも360度警戒は怠らず誰に頼まれた訳でもないのに監視を続ける。

ヒイロがガンダムのパイロットだとわかってから、宗介の監視の目はより一層強化された。

 

「アイツをまだ信頼する事は出来ない。このまま監視を続ける」

 

足音を消しながら進む宗介。

ヒイロは振り向く事もなく1階の廊下を歩いて行き、辿り着いた先には職員室があった。

宗介は一旦通路脇へ隠れて様子を見るが、ヒイロは自分の家の様に平然と他校の職員室の中へ入って行ってしまう。

ガラガラと扉を横へズラす音が聞こえ、また数秒後にはガラガラと音が鳴り扉は閉じられた。

 

「陣代高校だけでなく、この学校の内部情報まで掴む気だな。治安維持係として、見過ごす訳にはいかない」

 

意を決した宗介は胸ポケットからスモークグレネードを取り出し、中に居る教師達に悟られない様に扉の前で姿勢を低くする。

扉を空いている左手で軽く掴み隙間を開け、握っていたスモークグレネードの安全ピンを引き抜いて職員室内へ投げ込んだ。

床を数回バウンドした後にコロコロと転がって行き、デスクの足に当って止まった瞬間に白い煙が吹き出し瞬く間に室内に充満する。

 

「な!?何だぁ!!」

 

「火事でも起こったのか!!」

 

「イヤァァァ!!」

 

突然の出来事に慌てふためく教師達は逃げる隙すらなく、煙から逃れようと目と口を自らの腕で隠すのが精一杯だった。

ある者はデスクの隙間に入り込み、ある者は般若心経を唱え。

騒然とする職員室で悲鳴や怒声が飛び交い、宗介はそれを確認して中へ突入した。

 

「よし、今だ!!」

 

中腰の姿勢で煙で充満した室内を突き進む宗介。

教師の誰もそんな事に気が付く余裕はなく、簡単に侵入を許してしまう。

ターゲットであるヒイロを捕らえる為に視界の悪い中で目を凝らしながら進む。

密閉された空間ではあるが、煙もいつまでも発生し続けはせず速やかな行動が必要だ。

並べられた幾つものデスクを超えた先に、他と比べて一回りは大きな木製デスクが置かれており、ターゲットはそこに居た。

宗介は背後に立つと拳銃を後頭部へ突き付けトリガーに指を掛ける。

 

「そこまでだ。これ以上お前の好き勝手にさせん!!」

 

「撃つのか」

 

銃を突き付けられたヒイロは振り向いても居ないのに自分の状況を理解していた。

動揺もしなければ反撃はおろか逃げようとすらせず、呆然と立ち尽くしたまま。

そして次第に、スモークグレネードの霧が晴れて行く。

 

「言う通りにしないのなら、ケガでは済まないぞ」

 

「わかった」

 

視界が良好になり始め、ヒイロの後ろ姿がより鮮明に見える。

ゆっくりと一呼吸置いて返事をしたヒイロは、背後の宗介に振り返った。

2人の男のぶっきらぼうな表情が対面する。

 

「ヒイロ・ユイ。お前を――」

 

「ちょっとアンタ!! アタシのダーリンに何してくれてんのよ!!」

 

人差し指に力を入れようとした瞬間に宗介のさらに背後から声が聞こえる。

驚いて振り向いた先にはいつの間にか稲葉瑞樹が立って居た。

両手を腰に当てて表情は怒りに満ちあふれており、宗介はこうなった女性のなだめ方を知らない。

 

「いなば!?」

 

「てか、銃なんてよくも向けてくれたわね!! 顔にキズが付いたらどうすんのよ!!」

 

そう叫ぶと瑞樹は銃を握る宗介の右手に飛び掛かった。

咄嗟に腕を上げ銃口を天井へ向けて誤射しないようにするが、危険である事には変わりない。

尚も瑞樹は宗介に組付き、どうする事も出来ない宗介は只々慌てていた。

 

「止めろ!! こんな事をしている場合では!!」

 

「うっさいわね、さっさとソレを寄越せ!!」

 

どうにも対処出来ない宗介の指の上から瑞樹の指が重なってくる。

セーフティーを解除した拳銃は実弾が装填されており、誤って力を込めてしまった。

 

「しまっ!?」

 

トリガーが一杯に引かれると銃口から甲高い音が響き渡る。

鉛弾が勢い良く発射され、それは真っ直ぐに天井の防火センサーに直撃してしまう。

校舎全体にアラームが響き渡り、近くの消防署に無線で装置が作動した事を伝える。

理科室や調理室など火を使う所ではスプリンクラーから水が降り注ぎ、瞬く間に学校中で騒ぎになった。

宗介と瑞樹が取っ組み合いになって居る間に、ヒイロはもう何処かへ行ってしまって居る。

数分もするとサイレンを鳴らしながら消防車が駆けつけ、玄関前で待っていたかなめは考えなくても宗介の仕業だとわかった。

黒い防火服と銀色のヘルメットを被った消防士が車から降りて来て、呆然と立ち尽くすかなめに声を掛けて来る。

 

「ケガはありませんか?」

 

近くの民家やマンションからも見物人が現れ始め、いよいよ収集の付かない事態に陥ってしまう。

 

「嫌ねぇ、火事かしら?」

 

「怖いわねぇ」

 

「あ!! ブラックレンジャーだ!!」

 

羞恥心と一瞬でも宗介を信用してしまった過去の自分に腹が立ち、血がにじみ出るくらい歯を噛み締め体がワナワナと小刻みにふるえてくる。

かなめ1人では事態を収める事など出来るはずもなく、ぶつけようがない怒りを腹の底から吐き出した。

 

「あんのぉぉ……アホンダラアアアァァァッ!!」




思ったよりも長くなってしまったので続きはまた次回。
ヒイロは硝子山高校で一体何をしていたのか!?
ご意見、ご感想お待ちしております。

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