フルメタルWパニック!!   作:K-15

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以前に書いていたように、今回から少しの間だけは日常パートです。
本家みたいに面白おかしく話を書く技量はあまりありませんので、生暖かく見てくれると嬉しいです。


第19話 恋はフィルムに収まらない?

午後3時30分過ぎ、放課後の学校では部活動に勤しむ生徒達が試合に向けて懸命に練習している。

青いジャージに袖を通した男子のテニス部員は、黄色いボールを追いかけコートの上を走った。

額からにじむ汗をリストバンドで拭い、飛んで来るボールに意識を集中させる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ」

 

セメントで作られたハードコートの上を白いシューズで反射的に走った。

バウンドするボールにタイミングを合わせ、握っているラケットを右手で力強く振る。

新しく買ったばかりのラケットはプロテニスプレイヤーが実際に使っているモノをモデルとした、26000円もする高価で性能も高い最新型のラケットだ。

その高いラケットの性能を引き出せているのかと言えばイマイチだが、対戦相手も格段に強い訳でもないので少しだけ試合は優位に進めている。

ガットに反発し相手のコートへ飛んで行く黄色い玉。

放物線を描き前回転が掛かるボールはアウトになるギリギリに落下し、相手は追いつけず得点を許してしまう。

ボールは地面に何回もバウンドし回転力を失って、最後は敷居のフェンスに阻まれて動きを止めた。

 

「よっしゃ!! 俺の勝ち!!」

 

「ま……負けた」

 

喜びに叫び声を上げる3年生のテニス部員、吉田は見ている事がバレないように横目でチラリとコートの外を見た。

普段なら入ったばかりの下級生達が試合を見てくれていて優越感に浸る吉田だが、今日に限っては少し様子が違っている。

複数人の女子がフェンス越しに確かに来てくれているが、見つめる視線の先が試合に勝った吉田ではない。

 

「何なんだよこれ!? せっかく勝ったのに!!」

 

どうして女子達が自分の方を見てくれないのか理解出来ない吉田に、デジカメのフラッシュが光り写真が撮られる。

その先を見るとデジカメを構えた転校生。

2年生の写真部部員、ヒイロ・ユイが鋭い目つきで写真を撮っていた。

 

「10枚もあれば充分だ。次へ行く」

 

機械的に独り言を呟くとデジカメの電源をオフにしてスボンのポケットの中へしまった。

用のなくなったテニスコートから歩き始め、次の目的地へ向かう。

ヒイロが進んで行く先に合わせて、フェンス越しに眺めていた女子部員達も視線を動かして視界に彼を収める。

 

「あのカッコイイ先輩は誰?」

 

「何でも写真部の部長なんだって。成績優秀、スポーツも万能でどれをやってもレギュラーに引けを取らない。名前はヒイロ・ユイ先輩、アメリカから来たらしいよ」

 

「アキコ、詳しすぎ」

 

「もう結構有名だよ。もう1人の有名人と対比されてるのもあるから。カッコイイとは思うけど、背が低いのはアタシはちょっとなぁ~」

 

もう1人の有名人である相良宗介の名前は1年生のみならず全校生徒に知れ渡っている。

度重なる器物破損、爆発騒ぎ、負傷する生徒。

年中無休で巻き起こる騒動は嫌でも耳に入って来る。

見た目とルックスは悪くはないのだが、それ以外の欠点が多すぎて宗介があまり女子に言い寄られる事もない。

同じ転校生としてヒイロと宗介は良く比較され、彼らの知らない所で2人の名前は幅広く広がっていた。

練習をサボり和気あいあいと喋る女子部員達の声は吉田の元にまで聞こえている。

 

「いいじゃん。私も背が低いから全然OKだけどなぁ」

 

「でも絶対に彼女居るでしょ? 生徒会の千鳥先輩と話してる所、ユキが見たって。アタシもあんな彼氏欲しい」

 

「あぁ言うのってベッドだとどうなのかな?」

 

「ミサキ先走り過ぎ!! でも、案外そう言う事になるとひ弱になるタイプかもよ? あぁっ!! ミサ、優しく出来るのか、ボクは不安だ!!」

 

「大丈夫!! 今日は私がヒイロ先輩をリードしますから!!」

 

「ミサ……」

 

「ヒイロ先輩……」

 

「やっぱりもうちょっと背が高かったらなぁ」

 

本人の知らない所で女子部員達は思い思い勝手な想像を膨らませて行く。

彼女達の目線の先は次の目的地へ向かうヒイロに釘付けになっている。

そして試合に勝ったのに賛美されない吉田は苦虫を潰した表情で、恨めしくヒイロの小さくなって行く背中を睨んだ。

 

「あのかきゅうせぃぃぃ~~!! ちょっと前まであの声援は俺のモノだったのに!!」

 

知らない所で人に恨みを買う所は、宗介に似ている。

 

///

 

次にヒイロが目指した先は料理研究部。

研究部と名前はなっているが、実際には生徒達が作りたい、食べたいモノを作るだけ。

栄養価を算出したり消化、吸収を考えて作ったりなどは出来ない。

インターネットや料理本の調理法を見て作り、余った分は家に持ち帰ったりもしている。

2階の廊下を歩くヒイロは誰にも阻まれる事はない。

この時間帯に調理室を目指す生徒など皆無であり、白いタイルを敷かれた無人の通路を1人で淡々と歩く。

突き当りまで歩き進め、調理室と書かれた扉を右手で軽く2回ノックする。

 

「は~い!! 今行きま~す!!」

 

扉越しに女子生徒の声がヒイロにまで聞こえて来た。

ポケットから風間に借りたデジカメを取り出し、電源を入れていつでもシャッターを押せるように準備する。

スイッチをオンにしてバッテリーから電力を供給されたデジカメ。

小さなモニターに映るのは、先ほどテニスコートで最後に撮った写真が映し出される。

調理室の扉が開かれるまでの間に、ボタンをカチカチと押して撮影して来た画像を見直した。

無言で操作する姿からは威圧感が漂ってくる。

 

『ピッ!! ピッ!! ピッ!!』

 

ボタンを押すと鳴り出す機械音。

画像を振り返って確認したヒイロは確信をもって呟いた。

 

「良いだろう。残り1時間で終わらせる」

 

その時になってようやく扉が開かれた。

視線をモニターから移すと、青いエプロンを付けた3年生が迎え入れてくれる。

 

「あら? 男子が来るとは珍しい。どうしたの?」

 

「写真部です」

 

「あぁ!! 確か、ちょっと前に転校して来た2年生?」

 

「そうです」

 

「写真部の部長になったって聞いてるよ。転入したばかりなのに、部長を任されるとは凄いねぇ。私は3年でここを任されてる桐谷。まぁ、ゆっくりしてってよ」

 

許可を得たヒイロは中へ足を踏み入れた。

砂糖の甘い匂いが広がり、机には色とりどりのデザートが皿に陳列されている。

ボールの中には生クリームが入っており、泡だて器が動くモーター音を響かせて作っていく。

女子生徒しか所属していない料理研究部では、男のヒイロはどうしても浮いてしまう。

普通の男子生徒なら恥ずかしがったり下心で女子生徒を見てしまうが彼はそんな事はなかった。

頼まれた作業をこなす為にデジカメのレンズを覗き、1人の生徒にピントを合わせる。

その裏で、今日だけ偶々調理室に来ていた稲葉 瑞樹はヒソヒソ小さい声で隣に居る同級生に声を掛けながら、写真を撮るヒイロの事を見つめていた。

茶色に染めたショートボブが揺れる。

 

「ねぇ、あの男子って誰?」

 

「写真部の部長さんなんだって。アタシ写真部なんて辛気くさいイメージしてたけど、あの人になら全然写真撮られてもいいなぁ」

 

「ふ~ん、写真部部長ねぇ。名前は何て言うの?」

 

「確か……ヒイロ……えぇっと何だっけ?」

 

「知ってる訳ないでしょ!! こっちが聞いてるんだから!!」

 

「そりゃそうか。でもヒイロって部分は合ってるよ。成績優秀、スポーツ万能、アメリカ育ち。あとは背さえ高ければ持てる要素を全部持ってるんだけどね」

 

「アタシちょっと前に彼氏に振られたんだよね」

 

「それは同情するけど、アレを狙うのは高望みが過ぎるよ。絶対彼女居るって」

 

手に持ったリンゴの皮を包丁で丁寧に向いていく2人。

薄く赤い皮は螺旋を描きまな板の上に落ちる。

小声で会話しながらヒイロの眺めている前で、1年生が自作したチョコレートケーキを皿に盛った。

きめ細かいパウンドケーキ、ほんのりと香るカカオの匂いとチョコレートが食欲を唆る。

 

「よし、出来たぁ!! これならイケるかも」

 

「頑張ってカズハ。応援してるから」

 

「うん。行ってくるよ」

 

決意を胸にケーキを作ったカズハはソレを手に取り、まだデジカメのレンズを覗いているヒイロの元へ向かった。

撮影に集中しているヒイロはカズハが近づいて来る事に気が付いても一切気にも留めない。

視線すら逸らさず淡々とシャッターのスイッチを軽く押す。

最新の手ブレ補正機能や自動ピント調節が素人でも簡単にカメラ撮影出来るように作られているが、ヒイロは敢えてそれらを全てオフにしている。

機械を使っているのか使われているのかわからなくなるのと、機械に頼っていては自身が習得している技術が錆びついてしまうからだ。

破壊活動だけでなく潜入調査も当然のごとくこなして来ており、情報源の画像などが必要となる場合もある。

目標だけをピンポイントに撮影せねばならず、それを考えれば敵に見つかるプレッシャーもないこの活動は楽なモノだった。

シャッターのスイッチを今度は強く押し込もうとすると、赤面したカズハが話し掛けて来る。

 

「あ……あの!! ヒイロ君!!」

 

呼ばれたヒイロは視線だけ横を向けて、それ以上の事はしなかった。

彼女の顔を見ても露知らず、いつもの無表情なまま。

 

「チョコレートケーキ作ったの。私の手作りだけど。良かったら食べてくれない? 感想とか聞きたいなぁって」

 

「今はいい」

 

「そ、そっか。忙しいもんね。ゴメン」

 

冷たい言葉で突き放すヒイロに、カズハは何も言う事が出来ず手にケーキを持ったまま逃げるように友人の所へ行く。

勇気を振り絞った彼女の行動は爪痕すら残らず無意味に終わった。

カズハの瞳には薄っすらと涙が溜まっている。

 

「さっきの見た? いけ好かない男。今はいい、だって!!」

 

「まぁ、ケーキ食べにここまで来たわけじゃないしね」

 

「だからってあんな言い方ある? ここは私が、ちょっと目に物見せて来る」

 

稲葉 瑞樹は包丁と剥きかけのリンゴをまな板の上に置き、デジカメを構えているヒイロの所に向かう。

調理台を通り過ぎる前に作ってあったショートケーキが乗った皿を掴み、意気揚々と近づいて行く。

 

(ふふふっ!! つまずいたように見せかけて、その制服をクリームで真っ白にしてやる!!)

 

付き合ってい彼氏に振られてヤケになっているは、積もりに積もった鬱憤を面識もないヒイロにぶつけようとする。

それはただの嫌がらせでしかなく、彼女の言い分に正当性は全くない。

1歩ずつ距離を詰める瑞樹はヒイロにケーキをぶつける体制に入った。

寸前まで迫っていると言うのに横を向いたヒイロは握ったデジカメばかり見ており瑞樹に見向きもしない。

瑞樹は何も置かれていない床で足をつまずかせたようにして、掴んでいる皿をヒイロの胸に目掛けて伸ばした。

 

「あっ!? 危ない!!」

 

わざとらしく声を上げる瑞樹をヒイロはずっと前に認識しており、右足を後ろに引き体をケーキの射線上から外した。

宙に浮く皿を卓越した反射神経で掴み上げ、空いている左手はデジカメを握ったままだが腕全体で瑞樹の背中に添える。

不安定な彼女の足を横から払い上げて姿勢を強引に崩した。

 

(本当にヤバイ!? コケる!!)

 

足が床から離れる感触が伝わり、身の危険を察知するがどうする事も出来ずに背中から倒れていく。

天井の蛍光灯が視界に入り、体が重力に引かれていく感覚が伝わって来るも、温かい腕がそれを支えてくれた。

緊張と驚きで動揺する瑞樹は目を見開き助かった事に安心し、自分の背中を支えてくれている人物を目の当たりにする。

左腕1本で瑞樹を支えるヒイロの顔が息が掛かりそうな程近くにあり、まるで抱きかかえられているようだ。

瑞樹は自然と顔が赤面し、全身が一気に熱くなる。

 

(このキュンッってする感覚はなに? 胸がドキドキするのが止まらない。もしかして新しい恋!?)

 

「おい」

 

「はっ!? はい!!」

 

「気をつけろ」

 

自分の気持ちに整理が付いていない瑞樹を尻目に、ヒイロは抱えていた瑞樹を立ち上がらせ掴み取った皿を調理台の上に置く。

用の済んだヒイロはデジカメをまたズボンのポケットへ入れて、調理室から出て行こうとする。

 

「もう帰っちゃうの? ケーキ食べてけばいいのに」

 

「次があるので」

 

「部長となると大変だね」

 

3年生の桐谷にも最低限の言葉で無愛想に返事を返すと、背中を向けて廊下へ歩いて行った。

瑞樹は出て行ってしまうヒイロを逃がすまいとケーキの事を頭の外へ捨てて急いで付いて行こうとする。

今日だけ特別に招き入れてくれた同級生に責めてもの断りを入れて。

 

「ゴメン!! 私行ってくる!!」

 

「行くって何処に!? ケーキどうすんの?」

 

「食べといて!! 新しい恋が呼んでるの!!」

 

本来の目的をあっさりと捨てて、瑞樹はヒイロの背中を追いかける。

全力で廊下を走って行く姿を見て聞こえないようにボソリと呟いた。

 

「懲りてないんだから」

 

///

 

ヒイロが風間に渡されたプリントに印刷されている部活名は、そのほとんどがボールペンの黒い横線を引かれている。

歩きながら料理研究部の文字にも黒線を引き、残り僅かになった写真撮影に取り組む。

次なる目的地は生徒会室。

厳密に言えば生徒会は部活動ではないが、毎年学内に貼り付けられるポスターに使われている。

生徒会役員の集合写真を撮ればいいだけなので、スポーツなどの動きまわる競技と比べて短時間で終わらせる事が出来ると考えていた。

3階の生徒会室にまで足を運ぶと、扉を軽くノックし数秒経過すると内側から扉を開けてくれる。

 

「いらっしゃいませ。ご用件は何でしょう?」

 

扉が開いた先では、2年生生徒会書記の美樹原蓮が出迎えた。

黒く伸びた長髪と日に焼けていない色白な素肌。

丈が膝まであるスカートを履いており、落ち着いた声と物腰は大和撫子を連想させる。

学校内でも指折りの美人として知られている彼女だが、ヒイロは一切興味すら湧かない。

返事も返さず中へ足を踏み入れ部屋全体を見回す。

そこには生徒会長の林水敦信と千鳥かなめの姿がある。

 

「待っていたよ。写真部に所属しているヒイロ・ユイ君だね。キミの噂は常々聞いているよ」

 

「無駄な時間を使うつもりはない。用が終わればすぐに出て行く」

 

「そう焦る必要もない。きっとキミにも良い経験になるはずだ」

 

誰に対しても高圧的な態度を取るヒイロは林水が相手でも変わりはしない。

睨みつけるヒイロの視線をメガネ越しに見る林水の表情は、不敵な笑みを浮かべていて読み取る事が出来なかった。

立ち往生している所へ同じ生徒会のかなめが声を掛けにやって来る。

 

「まぁいいじゃない。こうゆう機会そんなにないんだし」

 

「関係ない。俺は――」

 

「お茶とお菓子をお持ちしました」

 

頑なに居座ろうとはしなかったが、いつの間にか美樹原がトレイに人数分の熱いお茶を用意していた。

湯気を上げるお茶からはほんのりと渋い香りが伝わって来る。

お茶請けに屋台で購入したトライデント焼きもあり、小腹が空いてくる時間にはちょうどいいモノが揃った。

林水の机の上にお茶とお菓子を置く美樹原を見て、ヒイロは渋々空いているイスに座る。

トレイを持つ美樹原はいつまでもニコニコと笑顔を浮かべていた。

 

「ちょっと困り事があってね。キミはこの学校にラグビー部があるのを知っているかい?」

 

「あぁ、把握している」

 

「そのラグビー部なんだが、近年は成績不振でね。県大会の予選は勿論、練習試合ですら全く勝てていない。この事が原因で職員会議で廃部か決定してね」

 

「無理もない。現状のままでは、アイツラが試合に勝つ事は不可能だ」

 

「少なからず事情を知っていてくれて助かるよ」

 

ヒイロは陣代高校に所属する教職員を含め生徒全員の住所、生年月日その他もろもろを既に調べて把握している。

その調査の過程でラグビー部がとてつもなく弱い事くらいは簡単にわかった。

真剣に話している2人を邪魔しないように、かなめも空いているパイプ椅子に座る。

 

「この学校は生徒の自主性を大事にしていてね。確かに今のラグビー部は弱いが、教師側の意見を一方的に聞く訳にもいかない。そこで交渉してみた所、部の存続を引き伸ばしてくれる変わりに条件を提示してきた。何かわかるかい?」

 

「いいや」

 

「この地区には硝子山高校があってね。ウチとは違い強豪校で県大会にも常連だ。そこと来週行われる練習試合に勝てば引き伸ばしてくれると折り合いを付けた。これがどれ程難しい事がわかるかい?」

 

「いいや」

 

林水からの質問に一言で返すヒイロは全く取り合うつもりがない。

上級生に無礼な態度を取っているにも関わらず、林水は嫌な顔1つせず話を続ける。

 

「そこで、来るべき試合に備えて助っ人を――」

 

「両手を上げろ!!」

 

「また何かおっぱじめたわね」

 

話の途中で扉の向こう側から宗介の声が聞こえて来た。

物騒な物言いにかなめは瞬時に面倒な事をしていると判断し溜息を付く。

バタバタと騒がしい音が響き渡り、生徒会室の扉が開かれた。

 

「会長閣下、反逆者を捉えました。よもや自分の知り合いにこのような者が居るとは予想出来ませんでした。掴まれた情報をリークされないように厳重な処罰が必要と考えます」

 

そう言って入って来た宗介の傍にはロープで身動きが取れなくなった瑞樹が居た。

宗介の早とちりにより捕まえられた瑞樹は、見の覚えのない余罪でこんな目に会わされて酷く不機嫌である。

 

「私は別に会長の話の内容なんてどうでもいいのよ!! 興味があるのはヒイロ君だけ!!」

 

「嘘を付くな。機密事項を入手したとなれば、顔見知りとは言え容赦せん」

 

「嘘じゃない!! この燃え上がる心のときめきは、まさしく恋よ!!」

 

平行線を辿る両者の会話では決着が付く兆しがなく、かなめが間に割って入った。

いつもの事ではあるが、かなめはなりふり構わずこういう事をする宗介に呆れてモノも言えない。

 

「はいはい、そこまでにして。宗介、ロープ解く」

 

「しかし千鳥!! 知り合いだと野放しにしては、また被害が――」

 

「いいからさっさと解く!!」

 

かなめの激昂にプレッシャーを感じた宗介は、コレ以上は何も言わずに黙って瑞樹を縛っていたロープを解く。

キツく締め上げられて彼女の体には、服の上からでも赤い痕が付いてしまった。

 

「イッタ~、どうすんのよ!! 痕が付いたじゃない!! お嫁に行けなくなったらどうする気!!」

 

金切り声を上げる瑞樹は赤くなった腕を優しく撫で回す。

このくらいですぐに取れる痕ではなく、撫でる前と比べてもほとんど変わっていない。

そんな彼女の元へ知らない間にヒイロは近寄っており、ロープの痕を見ると唐突に言い放った。

 

「この程度なら気にする必要はない」

 

(優しいヒイロ君!! 私、本当にアナタの事が!!)

 

「どうしても気になるなら俺が何とかしてやる」

 

(何とかする? それってもしかして、傷モノになっても俺が貰ってやるって事!? イヤッーー!! 私達まだ付き合ってもいないのに。でもでも、今はまだ結婚は無理だけど、婚約ならぁ~)

 

何の変哲もない普通の言葉を盛大に勘違いする瑞樹に、ヒイロが気付く事はない。

かなめはヒイロが自分から話しかける珍しい光景を目の当たりにして、周囲に溶け込めるようになったのだと歓心する。

 

「うんうん、ヒイロ君も少しは他の人と仲良くなれるようになったか」

 

「違う。鬱陶しいだけだ」

 

「またまた照れちゃって。ねぇ、瑞樹も――」

 

再び見た瑞樹の表情は、みっともなくヨダレを垂らしており目の焦点も合わさっておらず何処を見ているのかすらわからない。

口から漏れる不気味な笑い声に、かなめは恐怖した。

 

「な、何かとんでもない事が起きそうな予感」




工藤詩織は1期とふもっふで声優が替ちゃってるんですよね、細かい事ですが。
話の中で出て来た他の女子生徒の名前は全て自分が適当に考えて付けただけです。
次回で廃部寸前のラグビー部がどうなるのかがわかります。

※重大なミスが発覚!!今まで工藤 詩織として扱ってきたキャラは稲葉 瑞樹の間違いでした。
修正はさせて頂きました。今後はこのような事がないように注意します。

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