どうでもいいですが自分はガンダムWのTV版だけでも10周は見ました。
数少ない自分の自慢です。
夕方に差し掛かった街にヘリコプターの轟音が響き渡る。
マンションの屋上にまで高度を下げたヘリコプターは、ハジゴを下げ宗介が搭乗するのを待つ。
学生服のままの宗介とかなめは屋上への扉を開け、プロペラから発生する強風が髪の毛を揺らした。
「よし、時間通りだ」
「うぅっ!?」
宗介はヘリコプターの強風程度慣れており物ともせずに歩を進めるが、かなめは舞い上がる砂埃に前を見るのもやっとで、右腕で顔をかばわないと無理である。
ずんずんと進んで行く宗介に遅れながらも後ろから付いて行く。
体へ叩き付けられる強風は痛い程に強く、鳴り止まないエンジンの爆音でかなめには耳鳴りも鳴ってくる。
ハシゴへと手を掛けた宗介は立ち止まり、振り返った先に居るかなめに大声で呼びかけた。
「千鳥!! キミは残るんだ!!」
「何でよ!!」
「ここから先は戦場だ!! 危険を犯す必要はない!!」
「アタシも行く!! ヒイロ君を止めないと!!」
「話を聞くようなヤツではない!!」
宗介の言う通りで、このような状況下で一般人のかなめの話を聞いてくれるヒイロではない。
それでもとかなめは力強く歩を進め、宗介の肩を掴み視線を向けた。
「それならぶん殴ってでも聞かせてやるわよ!!」
こうなったかなめは意地でも行動する事を、宗介は短い期間ではあるがそういう所があるのをわかっていた。
目標を決めた後の彼女の行動力は高く、有無を言わさずに実行へ移る。
その御蔭で今までにも窮地を脱出する事が出来た。
今回はどうなるかまでは宗介にもわからないが、かなめの意思を尊重しようと心が働きかける。
「わかった。ただし俺の言う事は聞いてもらうぞ」
「モチロン。なら行くわよ!!」
「肯定だ!!」
2人は吊るされたハシゴに足を掛けてヘリコプターへと搭乗した。
///
高度1万メートルを超える上空で、ウイングガンダムは目標地点に迫っていた。
酸素の薄くなった雲の上では生物は存在せず、気温もマイナスに到達し空気中の水分が凍り付く。
バード形態のガンダムの左翼のメインスラスターは以前の戦闘で損傷してしまったが、通常飛行する分には問題なく使用出来る。
整備はされていないので最大出力は出せないが最新鋭の戦闘機でも追いつくのは難しい。
コクピットの中でヒイロはレーダーで位置を確認しながら、右足でペダルを踏み込みさらに加速させた。
「目標地点確認。これより任務を遂行する」
操縦桿を倒し機首を地上へと向け機体の高度を下げさせる。
巨大な翼の先端から飛行機雲で青空に2本の筋を作りながら急降下して行く。
ガンダムは重力に引かれながらさらに速度を上げて行き、豆粒程度にしか見えない建造物に狙いを定める。
空気を切り裂きながら進むガンダムに基地の防衛システムがすぐに反応した。
地上に配備されている対空ミサイルが稼動し、衛生とレーダーからの情報を頼りに領空圏へ侵入して来た敵へ照準を合わせる。
水平に向いていたミサイルが空を向き、射程圏内へと迫るガンダムを狙っていた。
ヒイロは関係ないと、ペダルをさらに踏み込みメインスラスターから機体を加速させてゆく。
大気を突き抜け進むガンダムに地対空ミサイルは発射された。
エンジンが点火され推進力が発生し、白い煙を上げながら上空へと飛びスピードを上げて行く。
一瞬の内に見えなくなるミサイルは3発が発射され、真っ直ぐにガンダムの元へと飛んでいった。
スピードを上げて行く両者は進路を一切変えない。
刻一刻と迫る時間。
もうミサイルとの距離はわずかでしかない。
そしてミサイルはガンダムの装甲に直撃した。
「司令、ミサイルは全弾目標に直撃。沈黙したと思われます」
「後続が来る可能性もある。警戒を怠るな」
基地内の司令部では敵の襲撃に対応しASを配備し、いつでも襲撃犯に攻撃出来る準備は整っている。
核貯蔵基地でもあるここは厳重に防衛されておりASや装備も充分に揃っているが、並の兵器ではガンダムを止める事は出来ない。
ミサイルの爆発の炎に包まれる機体。
灼熱の炎にガンダニゥム合金は容易く耐え、バード形態から変形する。
コクピットの中でヒイロは照準を定め、バスターライフルの銃口を地上の基地へと向けた。
「戦闘レベル、ターゲット確認。排除開始」
炎に包まれながらも銃口を向けたガンダムはトリガーを引いた。
最大出力で発射された巨大なエネルギーは空気を焼き目標へ突き進む。
可視化出来る程の強力なプラズマを纏いながら、ビームは地表に直撃した。
放出されるエネルギーにAS程度の装甲では防ぎきれる訳もなく、衝撃波で空間を揺らすと共に周囲の建造物ごと巻き込み基地1画を飲みこむ。
配備されていたASは一瞬の内に姿を消し、建造物も原型をなくしていく。
広い基地の1ブロックがこの一撃で完全に破壊され機能停止してしまう。
司令部にも破損状況が報告されるが戦闘力が未知数の相手に現場は酷く混乱していた。
「第7ブロックが壊滅!! 生存者は不明、ASは完全に壊滅しました!!」
「一体何処のどいつだ!? たった一撃で壊滅だと!! くっ、他のブロックからASを全機廻せ!! 敵の動きはどうなっている!!」
司令官は下唇を噛み締め悔しさを滲ませながら、部下に向かって檄を飛ばす。
突然のガンダムの襲来に完璧に対応出来る筈もなく、闇雲に部隊を動かした所で被害は広がるばかり。
ASのパイロットは緊急警報が響き渡る基地で自らの機体に乗り込むべく全力で走っている。
「各員戦闘配備!! 自分の持ち場へ付け!!」
大音量の部隊長の怒声が拡声器で伝えられる。
迷彩服を着た隊員が鉄骨とコンクリートで作られた格納庫で動きまわり、両手と両膝を付いて待機させられているサベージに乗り込む。
軍靴の足音が響き渡る中で、狭いコクピットに体を滑りこませエアロックでハッチを完全に密閉させた。
原動力のガスタービンエンジンに火を入れ排気ガスが吐出される爆音が鳴り、カエルのような頭部のカメラに光が灯る。
「Rk-92サベージ、エンジン稼動。これより作戦行動に移ります」
モーターが唸りを上げ、駆動部にオイルが循環されサベージが肩膝を付いて立ち上がった。
他の隊員のASも同様でエンジンを起動させたサベージ達が立ち上がり、格納庫に収納されている10機以上の機体も次々に動き出す。
出入口でもあるシェルターが開放され薄暗く埃の舞う倉庫に太陽の光が差し込んでくる。
薄闇に包まれたサベージが照らされ、クリーム色の装甲が入り口から僅かに垣間見えた瞬間に、マシンキャノンの銃声が響いた。
先頭のサベージは為す術もなく弾丸に貫かれ、パーツがバラバラに破壊されてしまう。
「て、敵がもう居るのか!?」
「早く脱出しろ!! 誘爆するぞ!!」
シェルターの鉄板を突き破り次々に降り注いでくる弾丸に1機、また1機とサベージが戦闘不能にされていく。
開放されたシェルターから我先にとサベージが逃げるように出てくるが、その先に見えるのは瓦礫と機械の残骸が散らばる殺戮の場。
余りにも一方的な戦闘はただの破壊作業に等しい。
「任務遂行に支障はない。障害は取り除く」
地上へと降下したガンダムは両肩のマシンキャノンで格納されているASを蜂の巣に変えて行く。
モビルスーツを相手に想定されて作られたガンダムを前に、第2世代のASではどれだけ束になろうと有象無象の集団でしかない。
連続して発射される弾丸だけでもセオリーを無視した戦略級の破壊力がある。
立ち塞がるモノは容赦なく破壊され、目的である核兵器貯蔵庫まで誰も止められない。
それでも度重なる戦闘で消耗している機体に、マシンキャノンの弾がなくなりカタカタと音を鳴らして空転する。
「弾切れか。それなら――」
操縦桿のトリガーから指を離し、マシンキャノンを収納させる。
マニピュレーターをシールド裏に伸ばし、グリップを握るとそれを引き抜きビームの剣を発生させた。
続々と集結してくる基地の戦力、数では圧倒しているが手間が省けるとヒイロにとっては好都合である。
ペダルを踏み込み両翼のメインスラスターを吹かせ機体を加速させ、右手に握るビームサーベルを振り上げた。
サベージが装備する37㎜ライフルや対ASミサイルがガンダムに容赦なく直撃するがその程度では足止めにもならない。
「うっ!? うぁぁぁあああ――」
接近してきたガンダムのビームサーベルにサベージのパイロットは反応出来ず、コクピットのモニターは前面輝く緑色に覆い尽くされる。
次には機体が斜めに寸断されパイロットはこの世から消えた。
乗っていたサベージも上半身と下半身が分離し、切断面は溶けた鉄の熱で真っ赤になっている。
ガンダムを前に恐怖する兵士も多いが、ここで逃げれば例え生き残っても敵前逃亡の罪で極刑のこの国で
、兵士は無駄死とわかっていても突き進むしか出来ない。
「攻撃するのだ!! 撤退など許されん!!」
「このぉぉっ!! バケモノめぇぇ!!」
銃口をガンダムへ向けながらサベージは1歩また1歩と距離を詰めるが、それも無駄な足掻きでしかない。
「邪魔だ!!」
ビームサーベルを水平になぎ払うと目の前のサベージが2体まとめて胴体から輪切りにされた。
それでも尚逃げようともしないサベージにヒイロは左腕のシールドを突き立てる。
装甲と同じガンダニゥム合金で作られたシールドは固く、鋭い先端はサベージの胸部を押しつぶす。
鉄板を容易くへこませ、疲労限度が耐え切れなくなるとシールドは装甲を突き破りコクピットを破壊した。
動かなくなった敵機から腕を引き、鉄塊と化したASが力なくアスファルトへ横倒れる。
硝煙と炎が漂う戦場で敵の足音はまだ消えない。
「サベージ6機確認。破壊する」
レーダーに表示された新たな敵影にヒイロはすぐに撃墜行動へ移る。
両翼を広げメインスラスターから推進力を発生させ高速で移動するガンダム。
雨のように飛んでくる弾丸の中を強引に突き進み、補足したサベージが眼前に迫る。
基地の全戦力を投入しているがこの状況で被害を食い止めるのは不可能だ。
「う、うわぁぁぁ!!」
振り下ろされたビームサーベルが敵をバターのように簡単に溶かし、パイロットもろとも灼熱の業火に焼かれた。
次の目標に狙いを定め、握っているビームサーベルを相手に突き出し胴体に風穴を開ける。
サベージに搭乗する兵士達はガンダムに戦いを挑み死ぬしか選択肢は存在しない。
「ここでヤツを止めるんだ!!」
「皇帝陛下に栄光を!!」
銃口を向けながら前に進んでくるサベージはトリガーを引くのを止めなかった。
どれだけ無謀であろうとも彼らはこの国の兵士として最後まで戦わなくてはならない。
例えその先に待っているのが逃れようのない死だとしても、兵士はこの国の為に自らの意志で死を選択する。
彼らは長い年月をこの為に教育されて来た。
マインドコントロールと呼ばれる類でもあり、兵士は戦う意味を国の為と心に刷り込まれている。
だから自分の意志では戦えない。
国の為と建前があって初めて行動する事が出来る。
故に進む、故に逃げない。
自らの意思を表に出し、群れから溢れでた者は社会の体制に殺される。
死の恐怖に心を蝕まれた彼らには、正常な判断を下せる人は少ない。
「来るなぁぁぁ!!」
また1機、ビームサーベルに機体を貫かれパイロットが絶命した。
叫び声を上げるた所で無駄でしかなく、ヒイロは無慈悲にサベージに袈裟斬りで止めを刺す。
気が付いた瞬間にはもう遅く、痛みを感じる間もなく死んでいくのはせめてもの救いかもしれない。
「数が想定よりも多い。制圧に時間が掛かり過ぎる」
ヒイロはビームサーベルのグリップをシールド裏へと収納し、腰をマウントさせているバスターライフルを手に取った。
ぞろぞろと湧き出るASの元を断つ為その銃口を格納庫へと向けるが、立ち止まった所を背後からミサイルが打ち込まれる。
コクピットで察知した時には遅く背部に直撃し、爆発で機体が大きく揺れ衝撃がガンダムを押し倒す。
満足に受け身も取れぬまま前のめりにアスファルトへ転けてしまう。
「ぐぅっ!!」
シートベルトが体へ喰い込み声を漏らすが眼光は鋭いままだ。
力強く操縦桿を握り締めガンダムを起き上がらせる。
基地司令部では初めての有効打に僅かばかりに指揮が戻り精神に余裕が生まれる。
冷汗を流して状況を見ていた司令官も思わず笑みが出た。
「アイツが倒れたぞ!! 怯むな、このまま畳み掛けるんだ!!」
号令と共にガンダムへ攻撃が一斉射され、この好機を逃すまいと一気に制圧しようとする。
弾丸やミサイルがおびただしく撃ち込まれ、爆音と銃声がより一層大きくなる。
膝を付いて立ち上がろうとし、周囲を囲む敵の数をレーダーで確認するヒイロは照準を見定めた。
少しの時間ではあるが全機で取り囲んで攻撃したにも関わらず、ガンダムの装甲はほとんど変わらずに破損状況も同じままだ。
「む、無理だ!? 立ち上がったぞ!!」
「沈め、沈めぇ!!」
敵パイロットの嘆き声は次の瞬間にはこの世から消え失せる。
「ターゲットロックオン。最大出力で破壊する」
向けられたバスターライフルの銃口、トリガーを引くとカートリッジに充填されたエネルギーが発射された。
景色が光に包まれ飲み込まれたサベージ、数秒と持たずに全身の装甲が溶かされエンジンが爆破する。
密集していたせいもありたった1発で大量の機体がビームに破壊されてしまう。
溢れ出る高エネルギーは空気を焼き空間を歪ませる。
ASが10機20機束になった所でビームの進撃は止まらず、進路上に立ち塞がるモノは全てなぎ払いながら真っ直ぐに格納庫へ直撃した。
外からの攻撃のも耐えられるように設計されているが、熱で真っ赤に光る分厚い外壁も3秒として保たずビームは貫く。
発進準備をしていた大量のサベージが消し飛ばされ、機体の爆発が連鎖的に連なり更なる爆発を呼ぶ。
引火した燃料が被害を拡大させ、兵士達は逃げる時間も術もない。
「熱い!! 熱いぃ!!」
「腕が!? 俺の腕は!!」
「ギャあああァァァ!!」
怒号と悲鳴が飛び交う中で苦痛にのたうち回る兵士達だが、突如として声は途絶える。
バスターライフルから発射されたビームのエネルギーは臨界点を超え、格納庫全体を一撃で爆発させた。
眩い巨大な光が輝くと、かつてソコにあった筈のモノは全て塵に消える。
破壊による衝撃波は基地全土に走り、車程度なら簡単に弾き飛ぶ。
建造物のガラスは砕け散り、コンクリートにもヒビが入る。
ビームのプラズマは電気機器に影響を及ぼし通信装置等は正常に作動出来ない。
2発のバスターライフルの攻撃により既に基地は壊滅寸前だ。
「目標破壊、次の行動に移行する」
倒していった敵の事など気にも止めず、ヒイロは自らの目的を果たす為にガンダムを動かす。
貯蔵されている核兵器。
もはやガンダムの侵攻を止めるのは不可能な所にまで迫っている。
///
ヘリコプターで現地へと向かう宗介とかなめ。
ミスリルの手の加わった軍用ヘリと言う事もあり通常よりも索敵を気にせずに飛行出き、早い速度で北朝鮮の核貯蔵基地へと向かっている。
エンジンの振動に揺られながら2人はシートに隣り合って座って居た。
かなめは宗介の様子を伺うようにして、少し気まずそうに言葉を発する。
「この前は……ゴメンね」
「何の事だ?」
「その……潜水艦で怒っちゃって。あの時は感情的になって」
チラチラと横目でしか表情を伺えないかなめ。
宗介は真っ直ぐな視線のまま、珍しく自分の感情で語る。
「俺は気にしていない。あの後にクルツにも言われた」
「クルツ君に?」
「あぁ。千鳥、俺は不器用な人間だ。学校の授業も付いて行くのが難しい。新型のアームスレイブも満足に動かせない。それでも、キミを守る任務だけは真っ当する」
「宗介……」
振り向いたかなめはしっかりと宗介の顔を視界へ収める。
いつもと変わらないぶっきらぼうなだけの顔だが、長い間一緒に行動してきた彼女には少しばかりその変化に気が付いた。
(ちょっとは丸くなったかな)
「千鳥、俺はアイツを……ヒイロ・ユイを認める気はない」
「その気持ちも今ならわかるわ。仲間の人が戦死したって聞いたから。いくらアンタでも、そんな時くらいはセンチになっちゃうわよ。アタシが無神経過ぎたわ」
「そうではないんだ。俺がアイツを認めないのは味方を殺したからではない。俺達傭兵は死ぬ覚悟を持って任務を遂行している。だがヤツは違う。自らが死ぬ為に戦うなど俺は認めない」
高速でプロペラを回転させ飛行するヘリコプターは目的の核貯蔵基地へと接近して来た。
見えてくるのは真っ赤に燃え上がる炎と黒い煙。
もはやここが基地だったのだと言う面影はないに等しく、破壊されたコンクリートと鉄のゴミ捨て場の様だ。
その中で唯一佇むのはトリコロールカラーの機体、ウイングガンダムがバスターライフルを握っている。
ヘリコプターのパイロットは目視でガンダムを確認すると、搭乗している宗介にすぐさま報告した。
「軍曹!! 目標の基地で羽付きを確認しました!!」
「肯定だ。こちらでも確認出来た。間違いなくヤツだ」
宗介とかなめは側面の窓から外の様子を覗くとすぐにソレは見て取れた。
今はまだ核兵器に手を出していないが、基地の防衛部隊は壊滅状態ですぐにでも手を打たなくてはならない。
けれどもガンダムと対等に戦えるだけの戦力どころかアーバレストも今はない状況で、宗介に出来る事は限られている。
このままでは指を加えて見ているしか出来ない。
けれどもかなめは根拠のない確信を持って宗介に詰め寄る。
「宗介、拡声器とかない?」
「拡声器だと? そんなモノをどうする?」
「いいから!! こっから呼びかけてヒイロ君を説得するのよ!!」
宗介の立場から見れば今のヒイロは敵である。
敵を説得するのは並大抵の事ではなく、専門のネゴシエーターを通して会話するのが普通だ。
しかし現状を考えればソレが許される時間と余裕などなく、敵を無効化するのが1番安全で確実な方法なのを宗介は知っている。
セオリーを知らないかなめの行動は想定外であり、驚きを隠せないと同時に無理だと簡単に否定してしまう。
「無茶だ!! こちらの話を聞くようなヤツではない!! それにもしもこのヘリが標的にされれば逃げ――」
「やってみなきゃわかんないでしょ!! 早くマイクでも何でも出す!!」
「むぅ、わかった」
かなめの覇気に押されて宗介は渋々口を閉ざし、言われた通りに奥から拡声器を取り出す。
窮地に陥った時にかなめはいつも奇想天外の発想で宗介達を驚かせて来た。
今回も上手くいくとは限らないが宗介はそれに賭けてみる。
「危険だと感じたらすぐにヘリを離れさせる。くれぐれも注意してくれ」
「わかったわ。任せといて」
渡された拡声器を右手に握り、かなめはスライド式のドアに手を掛け勢い良く左へと動かした。
突風が中へと入り込みかなめの長髪がかき乱させる。
吹き飛ばされないように左手をドアの取手にしっかりと握らせ、拡声器を口元に運び大声で叫んだ。
「ヒイロォォーー!! アタシの声を聞きなさァァァいぃ!!」
ガンダムと対等に戦える相手がまだ居ないせいで、戦闘シーンではヒイロのセリフがほとんどなくなってしまうんですよね。
久々に登場させたというのに……
次でガンダム破壊を巡るこの話も終わり(予定)です。
これが終わればいよいよ日常パートだ!!