フルメタルWパニック!!   作:K-15

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ここからいよいよストーリーが盛り上がってきます。
2013年の投稿はこれが最後になりますが、楽しんで頂けたら嬉しいです。


第10話 開戦

「速力は現状維持、EMFC正常に作動。海流の影響も問題なし。海上は微風」

 

作戦領域に入ったトゥアハー・デ・ダナンでは既にASの上陸準備が行われている。

ブリッジで周囲の状況を艦長のテッサに報告し、艦内の状況が数値で巨大スクリーンに表示されていく。

 

「AS用気密チェンバーに注水を初めて。注水が完了次第、順次発進を」

 

「イェスマム。AS用気密チェンバーに注水を開始」

 

艦長シートに座ったテッサの命令を隣に立つマデューカスが復唱し、それに合わせて各員が迅速に動きトゥアハー・デ・ダナンは統括された動きを見せる。

出撃する6機のASは海中から出撃する為に海水を注水させていきボディーを水に濡らしていく。

瞬く間に海水は溜まっていき数秒でASの膝まで浸かってしまう。

機体の背部にはバックパックが装備されており水の中を進む為にスクリューを外付けして居る。

必要な武器はそのままでは移動の邪魔になり持ち運びもやり辛いので分解して巨大な鉄のケースへと詰めた。

それを両手で抱え出撃準備が整うと注水が完了し海水が満タンまで貯まる。

ハッチが開放されバックパックのスクリューを稼動し、6機のASは光のない夜の海へ出撃した。

作戦目標の島へと近づいていく6機、領海内には機雷もなく上陸は容易に出来る。

宗介はアーバレストのコクピットの中で、これから戦闘するであろうベノムとガウルンの事を考えていた。

 

(あの島にヤツが居る。オレは使いこなせるのか?コイツを)

 

心の中のつぶやきにAIのアルは何も答えてはくれない。

ASとしての性能はアーバレストは充分に持っているが、ラムダドライバを使用しないのならM9で事足りる。

だが敵もラムダドライバを使用出来るASを徐々に投入しており、ミスリルはそれの対策もしなくてはならない。

ミスリルのラムダドライバ搭載機はアーバレストしかなく、パイロット登録も宗介で登録されてしまっているので急に変える事も無理だ。

他の者に任せた所で自由自在にラムダドライバを操れると言う保証など何処にもない。

 

(俺がやるしかない。ガウルンを!)

 

『軍曹、何か考え事ですか?』

 

「問題ない。それよりウェイポイントが迫っている。サポートを頼む」

 

『ラジャー』

 

(AIにまで心配されているようではダメだ。とにかく気持ちを切り替える)

 

コクピットの操縦桿を握り直し、目の前のディスプレイから映る映像に意識を集中する。

3つに分けられたチームで宗介の担当は島に上陸してからの敵ASの撃退。

通常のASならばここまで思い詰める必要はなく雑念を排除して任務を遂行出来るが、使いたい時に使えない不安定な装置のラムダドライバが宗介のストレスになっている。

心に不安が残ったまま作戦は次に段階へと進んでしまう。

 

『ウルズ1より各機へ。これよりウェイポイントを通過する。別れた後は速やかに作戦行動に移れ』

 

『ウルズ2了解』

 

「ウルズ7了解」

 

部隊長のマッカランの通信にマオと宗介がそれぞれ応答し他の3人もそれに答え、2人ペアになりそれぞれの持場へ向かった。

基地内部の化学兵器の起爆を防ぐべく、マオとダニガンは回りこんだ後方から内部へと侵入する。

島に近づくにつれて水深が浅くなり、バックパックのスクリューを使用しなくてもM9の足で歩く事が出来るほどになった所で、不要になったバックパックをパージして海へと捨てた。

抱えていたケースを地面へと下ろし、中に入っている武器を取り出しマニピュレーターで掴む。

40㎜ライフルを構えたマオのM9はすぐ目の前の敵基地が余りにも静かすぎる事を長年の経験が教えてくれる。

 

「変だと思わない?いくらなんでも静かすぎる」

 

『敵に気づかれてないって証拠だ。ノロマなヤツらだ』

 

「でも、この感覚は……」

 

戦場の違和感を敏感に感じ取るマオだったが、その先に何が待っているのかまでは自分の目で見ない事には判断のしようがなく、不確かな感覚よりも作戦を優先させる。

けれども纏わり付く不信な気配を頭の隅に置いただけで、状況を感じ取るアンテナは常に張り巡らす。

敵の動向に警戒するマオとは違いペアのダニガンは面倒な作戦内容に愚痴をこぼした。

 

『毒ガス処理なんてついてねぇぜ。何だってこんな事を』

 

「化学兵器が拡散なんてしたら汚染が酷いわよ」

 

『俺には関係ないね。ワイキキビーチで綺麗なオンナと酒、後は自由があれば何処の誰が死のうと構うもんか』

 

「ダニガン、人命を軽視しないで」

 

マオは通信越しにも伝わるほどの気迫でダニガンに注意勧告をする。

組織で雇われている以上はそのリーダーの方針に従わなくてはならず、それが出来ないならここから出て行くしかない。

テッサとの付き合いが長いマオには戦いに見を置きながらも関係のない人を巻き込みたくない、助けられる人は助けたいと言う彼女の気持ちを充分理解していた。

故に、例えジョークと言えども先ほど言葉は聞き流せる者ではない。

 

『わかったよ。ギャラの分はキッチリ仕事するさ』

 

「当然でしょ。ECSを不可視モードで起動」

 

光学迷彩を起動させた2機のM9は周囲の景色に溶け込み完全に視界から消えた。

マオを先頭にして生い茂る木々を慎重に歩いてくぐり抜けていく。

姿を消しているが歩いた時に発生する振動までは打ち消せず、名前も知らない虫や鳥達が羽を広げて逃げ出す。

枝をへし折り、地面に巨大な足跡をつけながら前へ前へ進んでいく。

 

「巡回している監視兵も居ない?」

 

『確かにお前の言う通りかもしれんが、今は進むしかないぞ』

 

「ん……行くよ」

 

マオの予感は確信を帯びて来て、外周と言えども全くの無防備な基地の状態に疑問が湧いてくる。

原因が何なのかを確かめている時間などなく、ダニガンに言われたように今は作戦を遂行するのが彼女の役目。

作戦通りの順路を進み木々を抜けた先は基地の真裏、化学兵器の格納庫がそこにある。

鉄筋とコンクリートで作られた巨大な建造物に侵入しようとダニガンは周囲の探索に行く。

 

『ここがそうだな』

 

「えぇ、データとも一致している」

 

『ならさっさと始めようぜ。何処から回る?』

 

「アナタは先に行って。アタシは他を見てくる」

 

『どういうことだ?さっき言ってた、勘が気になるのか?どうせここまで来ちまったんだぞ』

 

「90秒で戻る。先に行って」

 

自身の感がどうしても気になるマオは、ダニガンを置いて化学兵器の格納庫から離れて行った。

幾つもある横並びの格納庫の隙間を潜って行き基地内部がどのような状況に至っているのかを自分の目で確かめようとする。

ECSを起動しているので発見される可能性は低くなるが、敵地の中で見つかり集中砲火されればM9の性能とマオのパイロットとしての技量が合わさっても逃げる事すら難しい。

M9の脚部を屈伸させ推進剤もなしに10メートル以上を軽く跳躍し、格納庫の屋根へと降り立ち片膝を付かせる。

 

「どうなってるの……これは……」

 

頭部のカメラがコクピットのディスプレイに映し出した映像は、瓦礫に変わり果てた建造物と破壊された大量のASの残骸だった。

以前の状態は見る影もなく、地面は分厚いアスファルトごと粉々に砕かれている。

そして基地中央部には1度目にすれば忘れられる筈がない正体不明の機体がそこに居た。

 

「あの時の未確認機体!?なら、ここを攻撃したのはアイツなの?」

 

基地を制圧したヒイロのガンダムはまだ基地に残っている。

マオは望遠カメラでピントをガンダムに合わせて様子を伺おうとするが、胸のハッチが開放されておりパイロットはそこには居ない。

ガンダムの構造を知らない彼女でもASに長く乗り続けてきた感覚で胸部がコクピットなのだと理解する。

M9の設定を索敵モードに変更させたマオは周囲から聞こえる微弱な音や振動を読み取り、ガンダムのパイロットが何処に居るのかを探す。

 

(これは重機を動かす音。何かを運んでいる)

 

拾い出した音は重苦しく鈍行な重機が稼動している音で、M9の索敵は鮮明にその音をマオに聞かせる。

聞こえてくる音は工事現場のように爆音が響くのではなく、敷地を貸しきって練習しているかのように他の音は一切聞こえない。

微かではあるが物を運び下ろす際に振動が発生しM9はそれを読み取って震源地をも索敵する。

他の雑音や振動が混じっていない状況で、震源地が特定されるのは数秒で完了した。

導き出されたその場所はマオのM9が肩膝を付いて待機しているこの格納庫の真下である。

 

(この下に居る!あの未確認機体のパイロットが!)

 

場所を特定したマオを索敵モードを解除して光学迷彩を起動させたまま、強引に格納庫入り口へと飛び立った。

着地の際に膝の屈伸とサスペンションをフル稼働させ、振動や音を最小限に止める。

振り向いたその先で見えた物はありとあらゆる爆発物の集まった、武器弾薬格納庫と間違える程に積み上げられたミサイル郡だった。

 

「基地にある全ての武器を集めたとでも言うの。普通こんな収納の仕方はしない、て事はアイツが」

 

ミサイルをコンクリートの床に置き、戦闘機などの燃料の入ったドラム缶も大量に、それでいて無造作に敷き詰められている。

中には魚雷まで放置されており、ひとたびこれらが爆発すれば島の基地は吹き飛びクレーターが出来上がるくらいに、その量は異常だった。

マオは慎重に格納庫へと足を踏み入れると内部の様子を直ぐ様見渡す。

見えてくる映像はミサイルだけでなく、雷管を繋がれたプラスチック爆弾もへばり付いている。

 

「プラスチック爆弾!?電気配線も繋がれてるって事は、何処かに受信装置がある。遠隔操作で爆発させるっての」

 

発信機からの信号により受信機から繋がれている電気配線に電力が流れ、設置されたプラスチック爆弾を起爆させる比較的簡単な構造であるとマオは瞬時に理解する。

残してきたダニガンに通信回線をすぐに繋げて、向こうの状況がどうなっているのかを聞く。

 

「こちらウルズ2、そっちは?」

 

『化学兵器は無事だ。でもお前が言った勘は当たってるかもな。人っ子ひとり居ねぇ、お陰でなんにもする仕事がねぇがな』

 

「すぐ外へ出て。今ならまだ間に合う」

 

『了解。人使いの荒いこって』

 

ダニガンは話の内容を聞こうともせずにマオに指示通りに動き出す。

軽口を叩いてはいるが兵士として戦ってきた経験が、説明不充分なその一言だけで理解した。

光学迷彩で周囲に溶け込んだままダニガンのM9は動き、マオを通信を切って次に移る。

今まで積み重ねてきた訓練や実戦での経験が頭で考えるよりも早く体を動かし、M9のECS不可視モードを解除させ電磁波吸収モードへ切り替えた。

プラスチック爆弾に使用されている起爆装置は即席で作られており、無線機からの電波など簡単に遮断出来る。

 

「よし、後は……」

 

黒いパイロットスーツから携帯銃を引き抜きM9の右膝を床へ付け、コクピットのハッチを開放させた。

ECS不可視モードを解除した今の状態では外からM9の存在がバレてしまっているが、マオは構わずにハッチから飛び降りる。

コンクリートに地面に着地し、右手に握った銃のセーフティーを解除し人差し指を軽くトリガーに触れさす。

感覚を研ぎ澄まし周囲を警戒しながら足音を立てずに爆発物の間をすり抜けながら走る。

積み上げられたミサイルの山の間を走りながら人の気配を感じ、瞬時に足を止めミサイルの影へ身を隠す。

 

「誰か居る……」

 

息を殺し、存在を消して、物陰の奥に潜む相手の様子を伺う。

その先に居る相手は背中を見せて空対艦ミサイルの操作パネルをいじっている。

銃口を相手に向けたまま1步ずつゆっくりと歩みを進め相手との距離を詰めて行く。

彼女が距離を詰めている間も相手は作業を止めず、制御装置のパネルの音が冷たい空気に反響して格納庫に響き渡る。

残りの距離が15メートルぐらいに迫ってきた所で不意にパネルを叩く音が止まり体中一気に緊張がほとばしった。

目の前の相手はマオよりも身長が低く、緑色のタンクトップを着て動きを止めたまま振り向く素振りも見せない。

マオは冷静に銃の照準を足に定め相手を動けなくする為に人差し指のトリガーに力を込める。

あと数ミリ、時間にして1秒掛からずともトリガーを引いて弾丸を発射しようとした瞬間に、姿勢を低くして走り抜けていく。

 

「しまっ!?」

 

急いで照準を逃げていく相手に向けてトリガーを引こうとするが、爆発物が充満するこの空間で外れた弾丸がミサイルに当たり爆発でもすれば自分や味方もろとも消し飛ばしてしまう。

躊躇した次には姿が視界から外れてしまい、追いつくべく走りだしながらインカムでダニガンに一方的に呼びかける。

 

「ダニガン!銃火器を使わずに相手を取り押さえて!」

 

『了解。こっちは未確認機体の前で待機している。ウルズ1からベノムを発見したと連絡が来た。こっちへ向かっているぞ』

 

「最悪、そっちは任せた!」

 

インカムでの通信を終わらせて追尾に全力を注ごうとするが離れていく後ろ姿を白い煙が遮ってしまう。

視界は煙で充満し数メートル先も見えなくなるくらいに濃くなり、爆発物で入り組んだ格納庫での追尾は不可能だ。

 

「スモークグレネード!?チィッ!!」

 

強引に突き進んだ所で追いついて見つけ出せないとわかっていたマオは舌打ちをして今来た道を引き返し待機させている自身のM9へ戻る。

 

///

 

マオの追尾を振りきったヒイロは走りながらプラスチック爆弾を起爆させる為の無線機のボタンを何度も押した。

だが無線機の電波はM9のECSに妨害せれておりどれだけボタンを押そうとも反応が見られず、使えないのがわかるとヒイロは無造作に投げ捨てて格納庫の入り口へ向かう。

向かった先の入り口からは夜の闇が薄くなり始め太陽が登り始めていた。

見えるのは逆光に照らされるガンダムと、そのすぐ近くでダニガンのM9がガンダムに近づけないように防衛している。

 

「外にはASか。それなら」

 

格納庫の何処に何があるのかはほとんどヒイロが配置しているので目的の物はすぐに見つけた。

対戦車ミサイルを搭載した車に走り運転席のドアを開けてシートに乗り移ると左足でクラッチを踏み込み刺さっているキーを捻る。

冷えているディーゼルエンジンはクランキングしてもすぐに火が付かないが構わずにスターターモーターを回し続け、引火した軽油が爆発を起こしてエンジンを動かし車体が振動した。

シフトノブを握り1速へ入れ、アクセル全開と同時にクラッチペダルを離す。

エンジンの振動と加速でシートに背中がへばり付くが構わずにアクセルを踏み続けシフトを2速へ変える。

格納庫を飛び出した車は真っ直ぐにガンダムへ向かって速度を上げ突き進んで行く。

 

『来やがったな。止まれ!これは威嚇とは違う!』

 

「警告は無意味だ」

 

『言ったぜ。ならくたばりやがれッ!!』

 

ダニガンは40㎜ライフルを構えて警告を促すが、ヒイロは聞く耳を持たず更にアクセルを踏み込む。

止まる気配のない車にダニガンは運転席の窓ガラスから見える人間に照準を合わせためらいなくトリガーを引き、ライフルの銃口から閃光が輝き弾丸がヒイロ目掛けて高速で飛来する。

臆する事なくヒイロは右足でペダルを全開まで踏み続けたまま弾を回避しようとハンドルを左に切り、スピードと重量から来る遠心力に耐え切れずタイヤが白煙を上げスキール音を鳴らす。

飛んでくる弾は黒いアスファルトに突き刺さり穴を開けボロボロにしていく。

初撃の2、3発は外れたが弾は当たってしまい車の右リアタイヤを周囲のボディーごと一撃で吹き飛ばした。

衝撃で重たい車も浮き上がり、バランスを崩して左側面に倒れてしまう。

 

『終わったな』

 

タイヤは完全に地面から離れて動けなくなるが慣性のスピードでアスファルトに擦り付けるボディーから火花を上げながらも進んでいく。

衝撃と耳障りな異音がヒイロを襲うがこのぐらいではびくともせず、車内からの操作で搭載されている対戦車ミサイルをガンダム目掛けて全弾発射した。

活動不能になったと思い込んだダニガンは意表を付かれてミサイルに反応するのが遅れてしまう。

 

『冗談だろ!?クソッタレ!!』

 

直撃を避ける為に急いでM9に回避行動を取らせ横へ思い切りジャンプした。

対戦車ミサイルがガンダムの装甲に直撃し爆発と炎を上げ、衝撃波で空気が揺れ動く。

至近距離からの爆発の衝撃にM9のボディーも流され、満足に着地も出来ずうつ伏せに地面へぶつかった。

 

『グォォッッ!!アイツ正気か?自分の機体にぶち込みやがった!』

 

両手を使い機体を地面から起き上がらせ反転すると、地面に尻を付いて直撃を受けたガンダムの方向を見る。

M9のモニターからは右膝軽微の表示が現れ、地面にぶつかった時に膝から行ったせいで必要以上に負荷が掛かってしまった。

前世代と比べて機動力と静粛性、運動性では勝っているが耐久面では劣り操作にも繊細な操作技術を必要とし、当たり所が悪ければ簡単に損傷するし長時間の負荷にも弱い。

それでも全力疾走や跳躍は制限されるが通常戦闘レベルでならまだ問題なく動いてくれる。

炎が燃え盛る爆破地点ではガンダムが無傷のままそこに居た。

 

『アレだけのを直撃して無傷!?どうなってやがる!』

 

対戦車ミサイルを撃ち尽くした車はガンダムの右脚部にぶつかりようやく動きを止めた。

爆発の高熱と鉄の焼ける匂いで現場は悲惨な状況になっているが、バラバラに砕けたフロントガラスから身を乗り出しヒイロは外に這い出る。

 

「この程度ではダメだ。残りは格納庫内の空対艦ミサイルだけだ」

 

立ち上がり未だに健在なガンダムと損傷したM9を交互に見て、ヒイロは開放したままのハッチからコクピットに乗り込む。

シートに座り両手で操縦桿を握り締めハッチを閉じ、ガンダムのエンジンに火を入れる。

 

「敵AS2機、任務の障害になるなら排除するだけだ」

 

頭部のツインアイに光が灯り18メートルの巨体がゆっくりと動き出した。

ダニガンはその様を呆然と見ている事しか出来ず、マオのM9が格納庫から急いで出てきた時には既にもう遅い。

立ち上がったガンダムが1歩踏み出しヒイロが乗っていた傷だらけの車を踏み潰した。

燃料に引火しまた爆発を起こすがガンダムはびくともせず、胸部のサーチアイがグリーンに光り輝く。

 

「最悪の状況ってヤツ?ダニガン聞こえる?」

 

間近でガンダムの性能を見ていたマオにはウイングガンダムがどれだけの性能を持っているのかを理解している。

ベヘモスと単機で渡り合える性能を持っている事ぐらいは知っており、だからこそパイロットが乗り込む前に捕獲したかった。

マオは通信をダニガンに繋げ生き延びる為の行動に打って出ようとする。

 

「ソイツから急いで逃げて!無理に交戦しないで!」

 

『右足を少しやられた。だがこれくらいで!このヤロウ対戦車ミサイルを6発も喰らって平然としてやがる。マトモじゃない』

 

「えぇ、マトモじゃない。ウルズ6とウルズ10に援護して貰いながらウルズ1とウルズ7と合流。撤退も視野に入れて行動して」

 

『撤退だと!?撤退するぐらいなら始めっからこんな所に来ねぇよ!』

 

「命令よ!たった2機で―――」

 

『デカイってこたぁノロマって事だ!後ろからケツを突き回してやる!』

 

以前にテッサから情報を聞いているにも関わらず、ダニガンはガンダムを見くびっていた。

ミスリルにガンダムの正確な情報は一切手に入っていないが、AS1機だけで破壊出来る相手ではない事ぐらい誰にでもわかった。

ダニガンはテッサやマオら女性に命令されるのが気に食わず、そのフラストレーションを戦闘で発散するような非情な男。

この上陸奇襲作戦でダニガンはまだ戦闘、人殺しをして居なかった。

アドレナリンが大量に発生しているダニガンは貯まった鬱憤の矛先をガンダムへ向ける。

M9はライフルをフルオートにして弾を発射しながらガンダムの背後へ回ろうと走りだす。

立ち上がったガンダムにライフルの弾は間違いなく直撃するが、どれだけ当てても直立したまま蹌踉めきもせずトリコロールの装甲にダメージはない。

 

『クソッタレが!!』

 

「戦闘レベル、ターゲット確認。排除開始」

 

ガンダムはマニピュレーターをシールド裏へ伸ばしビームサーベルのグリップを掴み引きぬいた。

ヒイロは攻撃目標をまずはダニガンのM9に絞り、袈裟斬りでビームサーベルを振るう。

走っているM9は跳躍し回避に移るが、膝の損傷でコンマ数秒跳躍が遅れてしまい飛んだ瞬間にビームが左腕と左足をもぎ取って行く。

熱した包丁でバターを切るように一瞬で、M9の左半身は容易く切断された。

姿勢制御が出来なくなりダニガンのM9はまた体から地面に突っ伏してしまう。

切断面は真っ赤に焼けただれ、ビームが触れていない箇所も塗装が焦げ装甲が溶解している。

M9のAIはうるさい程警告音をコクピットで鳴らし甚大な損傷状況を知らせてくるが、今のダニガンに冷静にそれを聞いて行動出来るだけの余裕はない。

次々にショートし使い物にならなくなる電気系統、至る所から漏れだすオイルがボディーを茶色く汚す。

 

「ぐおぉっ!?どうなった……俺は一体何をされたんだ」

 

『ダニガ―――に―――て!すぐ後ろ―――』

 

雑音まじりに通信でマオの声が響くがその内容をちゃんと聞き取る事は出来なかった。

かろうじて動かせる残った右腕で歩伏前進するが完全に戦闘不能になるまでヒイロは敵に攻撃を止めるつもりはない。

ビームサーベルを振り上げ動くのもままならないM9にもう1度ビームの高熱を振り下ろす。

 

「ダニガン!」

 

ガンダムにやられたダニガンの救助に向かおうとマオのM9は走ったが、もう助ける事はかなわない。

彼女の目の前でM9はビームサーベルに真っ二つに焼き切られ動力源のパラジウムリアクターごと破壊された。

悲鳴も上がらずに、M9と共にダニガンはこの世から姿を消す。




いよいよ始まってしまったミスリルとガンダムとの戦闘。
果たして軍配はどちらに上がるのか!?
次の話では突撃チームの宗介と狙撃チームのクルツがどうなっているのかを書いていきます。

外部チャットもよろしくお願いします。
年末年始はだいたい張り付いていますので、気軽に話し合いましょう。

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