真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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91話 ヤンデレ疑惑

 反応するな反応するな……。

 

 約束どおりに嫁さんたちと海水浴。

 嫁さんたちの水着姿は素晴らしく、元に戻った俺の主砲(ジュニア)が発射体勢に入ろうとするのを堪えるのも大変だ。やっぱり外見相応に精力や性欲が増大しているっぽい。まずいなあ。

 いや、今は変身魔法で小さい俺になっているけどね。学園島のビーチだから誰に見られてるかもわからんし。

 

「他にもやるべきことはあるのだけれど、海にきてよかったわ」

 華琳も満足そうだ。

 その目は俺と同じく水着美少女たちに釘付けになっている。

「でも、愛紗や梓はもっと露出度の高い水着でもいい気がするわね」

 駄目だって。今でさえ膨張しないように頑張ってるんだから。人数多いから目移りして俺の理性がなんとか耐えられてるだけなんだってば!

 

「そんなの、俺以外のヤローに見せてたまるか」

「相変わらず独占欲は強いのね。……現状を見る限り、それは無駄なようだけど」

 ……うん。それは俺もわかってる。

 ここは学園島でプライベートビーチなんかじゃない。他の客もいるわけだ。そのせいで俺も魔法で小さくなっているんだし。

 海にきた男子生徒たちは、普段以上に開放的になっているようだ。つまり、ナンパされまくっているのだ、嫁さんたちが!

 

「男連れなのに……というか、夫がいるのに」

「この人数ではフリーにしか見えないでしょ。それとも子供連れに見えてるんじゃない?」

 くっ。雪蓮の言うことも一理ある。男が俺だけでは、そばにいない嫁さんたちがナンパされるだけだ。ラジオ体操で知り合った乙級のファンたちも呼ぶべきだったか。

 ……いや、やつらは狙っている相手が決まっている分、余計にまずいな。

 こんなときこそ分身がほしい。GPを消費して覚えられるスキルにあればよかったのに。

 

「ほう。今のところ、桃香さまが一番人気のようじゃのう。焔耶が必死に蹴散らしておるわ」

 桔梗と祭の元熟女はそんな嫁さんたちの撃墜数を肴にしている。飲んでるのはラムネだけどね。

 残る元熟女、紫苑は璃々ちゃんや乙級の子たちといっしょに砂で城を建設中だ。あ、クランは幼女枠な気もするけど、ヨーコとともにパラソルのかげでぐったりしている。まだ歩くのが辛いのかもしれない。

 

「むしろ2人でいるから余計に声をかけられているのじゃろう」

 あれか、1人の女の子は用心深くなっているから、だっけ? ナンパ側も2人組みばかりだな。「ちょうど人数も同じだし」って声をかけているのかな。

 まあ、桃香と焔耶の巨乳ペアならそんなこと関係ないのかもしれない。おっぱい星人たちが次々とチャレンジしていく。

 

「だが、一番は権殿じゃな」

 蓮華もすごいな。こっちは思春が対応してるけど、そのせいで別のベクトルの男も集まってきているっぽい。……俺の同士たる貧乳好きじゃなくて、罵られたいって方向で。

 

「桃香と蓮華か」

 あの2人はちょっと気になっていることがある。今はこうやってみんなとはしゃいでくれてるんだけど……。

「ふん! 一番は華琳さまに決まっているだろうが!」

「そうよ! 巨乳や巨尻なんかに惑わされるなんて、これだから男なんてのは救いようがないのよ!」

 春蘭と桂花が吼えた。まわりから注目されているのにもかかわらず、稟が続く。

「まったくです。水着姿の華琳さ……」

 途中で鼻をおさえてうずくまる稟。興奮抑制のスキルがあるからだいじょうぶかと思ったら、すでにMPはゼロで指輪のMPを使用しているようだ。

 

 稟はこのおかげで最大MPの伸びがすごい。

 穏も同じく興奮抑制スキル持ちだけど、彼女の場合は読書での欲情も楽しみにしている節がある。まわりに迷惑がかからない時はスキルを使わないから、最大MPは稟の方が大きい。……欲情の後始末は俺がしてるんで、スキルを使えとも強制はできないし。

 やばいな。思い出しちゃいけない! 俺が欲情してどうする。

 

「私は男たちの評価など気にしていないわ。……煌一?」

「えっ、……う、うん、すごいよく似合ってるよ、その水着。他の嫁さんたちも似合っているけど、このまま押し倒したいぐらいだ」

 って、なにを口走っている俺!?

「あら、その気があるのなら拒まないわ。できるのかしら?」

「無理ですごめんなさい」

 即座に謝る。そんなことができるわけないでしょ。

 

「なぁんだ、一線をこえて度胸がついたのかと思ったじゃない」

 雪蓮、なんでそんなに残念そうかな?

 それは度胸じゃなくて露出癖だと思うよ。

「だってこんなに他のヤローがいるのに、そんなとこを見せるわけにいかないでしょ。水着姿だってもったいないぐらいなのに」

「本当に独占欲の塊じゃのう」

「うむ、たしかヤンデレというのだったな」

 呆れた表情の祭と桔梗のあんまりな評価。

 独占欲はまあしょうがないとして、ヤンデレはどっか間違っているよね。

 

「俺は恋敵を惨殺したりしない!」

「本当に?」

 ……なんでみんな疑うかな。一刀君をちゃんと復活させたじゃないか。ちょっと熟女萌属性にしただけで。

「私たちが暴行されたら?」

「その前に全力で相手を排除する。そうならないようにチョーカーだってつけてもらってるんだし」

 嫁さんたちの貞操は俺が守る!

 うん、惨殺じゃないよね、これは。

 ……チョーカーの時点で浮気を疑いすぎてるというツッコミはなしで。作った時はみんなの愛を信じられなかっただけなんだから!

 

「そ、それに独占しようと嫁さんを監禁したり殺したりもしないし」

 ファミリアだから死んだらカードになって、本当に俺の目にしか触れない場所に保管できるけど、そんなことをしようとは思わない。

 それ以前に、俺より強い嫁さんたちを殺すことなんて不可能なんだけどさ。

 

「……煌一は私が死んだらどうするの?」

 華琳が俺の目を見ながら聞いてきた。

 俺のヤンデレ判定はまだ続くの?

「ファミリアはカードになるから絶対に復活させる。……その前に死なせるわけがない!」

「カードにならなかったら? 干吉たちが人形にしたように方法はあるかもしれないわ」

「……そんなことを言われても」

 後半の死なせないってのはスルーされた模様。俺もけっこう強くなったつもりなんだけどまだ頼りないのか。鬼モードでの力の使い方ももっと訓練しないといけない。

 

「泣いて思考停止してないで考えなさい」

 考えてはいるんだよ。ただ、華琳が死んだらなんて……。悲しくてそれ以外のことが思いつかない。

「わかんないよそんなの! 華琳が死んだら悲しい! 他の事は考えられない。いっそのこと俺も」

「他の妻たちを置いて?」

「そっ、それは……」

 華琳がいないのは悲しいけど、他の嫁さんたちを残して死ぬことはできない。

 ……まさか、独占したまま後を追うために他の嫁さんも道連れに……っていうヤンデレ判定なの?

 どう答えるのが正解なのか悩む俺にため息をつきつつ、華琳は続けた。

 

「私は民を無駄な争いに巻き込まないために大陸を去った。なのに残された民たちは無事ではなかったようね……。だけど私が自ら死を選ぶことはない。私についてきたくれた者たちのためにも」

 真・恋姫†無双の漢ルートでも、呉ルートのように民のために大陸を去ったのか。なのに、たぶん干吉たちに世界ごとどうにかされた可能性が高い。干吉たちの説明のためにCS版の無印恋姫もプレイしてもらったから、華琳もそのことに気づいているのだろう。

 

「私にもしものことがあっても、残された娘たちを頼むわ。あなたはその程度には頼れるようになった。『魔法使い』は失ったとはいえ、代わりに『大魔法使い』にもなっている」

 よかった。頼りにはされているみたい。

 大魔法使いに関してはよくわからないけど、たぶん俺の人形からの復活時に嫁さんたちが改竄してくれたんだと思う。

 華琳が『双頭竜』、ヨーコが『KOC耐性』、クランが『愛神化』、梓が『鬼制御』を追加してくれていた。残るレーティアが無駄毛削除ってだけなはずがない。ちゃんと俺が魔法使いを卒業した後のことも考えていたようだ。さすがは天才!

 大魔法使いのスキル効果はほぼ魔法使いと同じっぽい。MP最大値も相変わらず急上昇してるし、そのうち文字化けするかもしれない。……そういやセラヴィーがたまに自分のことを『世界一の大魔法使い』って言ってるけど、あっちは確実にヤンデレなんだよなあ。近づく男を排除してたり、他に行き場がなくなるように世界を破壊しようとしたり……。

 

「頼ってくれるのは嬉しいけど止めてよそんなの。死亡フラグみたいじゃないか! 絶対に死なせないからね!」

 華琳、異世界の自分である華琳ちゃんがカードになったことで、いろいろと考えたのかも。安心させてあげないと。

「死ぬことはないかもしれないけれど、この前のように離れ離れにされる可能性はあるわ」

「必ず探し出す! そのためのアイテムも準備中だ」

 たとえ別の世界にさらわれたって見つけるためのアイテム。結婚指輪が完成すれば問題はない。

 FSSのドラゴンドロップも考えたけど、あれは分割された2つが共鳴するものだから、人数分用意するのにはむいていなさそう。時も宇宙も飛び越えてってのは捨てがたいんだけどね。

 

「それってやっぱり監視用じゃないの? 煌一はやっぱりヤンデレよ」

 ぐ、と唸りそうになってゆきかぜちゃんを睨む。水着焼けの彼女らしく海ではしゃぐかと思ったら護衛と称して俺から離れない。

「スマホの浮気調査アプリといっしょにしないでくれ」

「まあ、私たちからも煌一の場所が特定しやすくなるのならかまわないけど」

「それは当然だろ。俺は隠れて浮気なんかしない」

 嫁さんたち大事にしてるから、他の女なんて。これ以上増えても俺が持ちそうにないし。主に精神的にね。

 

「へえ。隠れてなければ浮気はするってことは、やっぱり度胸がついたのね」

「なんでそう曲解するのさ!」

 雪蓮こそ隠れてアルコール摂取してない? 泳ぐ時は飲んだら危険なんだからね!

 

「可愛い娘なら妻を増やしてもいいわよ」

「華琳!?」

「むこうの皇一(あなた)は璃々も嫁にすると言っていたそうよ。煌一はどうなのかしらね?」

「マジですか?」

 璃々ちゃんまでって、なんて羨ましい! じゃなくて、まずいでしょそれは。紫苑は嫁にしていないらしいとはいえ、年齢的にさ。あ、するって言ってるだけで育つまで待つつもりなのかな。義娘じゃなかったらそれもありなのかもしれない。

 

「貴様、璃々にまで手を出そうというのか?」

 ゆり子が俺に冷たい視線を投げかける。

「娘に手を出したりなんかしないよ! ……智子は? まさかナンパされちゃったの?」

 ゆり子は智子といっしょにいたはずだ。To Heart智子シナリオエンディング仕様の麦藁帽子に白ビキニで。我が娘ながら見事なスタイルであれなら男たちはほっておくまい。

 

「ちゃんとここにおるわ。ほんま、お父さんは心配性やな」

「俺の娘や嫁さんは美人揃いだから、こんなとこじゃ心配するのも当然でしょ」

「そんなことよりも、あれなんとかしてや」

 俺の心配をそんなこと扱い? もしかして俺、いらない父親?

 いじけそうな心をなんとか持ち直して智子の指さしの先を追う。

「詠美? こんな場所で刀なんか出して」

 呆れた声の華琳。

「はい。潮風で刀が傷んでしまいます」

 いや、そうじゃないでしょ春蘭。

 

 詠美ちゃんは水着姿で鍔迫り合いをしていた。相手は吉音。もちろん彼女もその水着姿を惜しげもなくさらしていた。……やっぱでかいな。

「ファンディスクのイベント? でもスイカは多目に用意したはずだけど」

 スイカ割りの挑戦権をかけて戦ってるんじゃないのか? てか、なんで吉音もいるの?

 

「……スイカ、美味しい」

「まだまだありますぞ!」

 ああ、ねねが恋に提供済みだったのか。先にスイカ割りの説明をしておけばよかったな。

「あんまりスイカばかり食べちゃうとトイレが近くなるぞ」

「うっ……!」

 同じくスイカを食べていた翠が咽ている。

 これは教えないでおいた方がよかったかな? 翠がピンチになったら仮設トイレをスタッシュから出して2人でお楽しみに入ればよかったかもしれない。

 ……いかんな、そっち方面は考えないようにしないと。

 

「そんな時こそ王子さんのアレの出番どすぇ」

 越後屋もいたのね。せっかく考えないようにって決意したのに蒸し返さないで。

「まだ狙っていたのか。残念だけど売り物じゃないから」

「つれないお方やわぁ」

 ……あの、当たってるんですが。泳ぐとポロリすることが確実な、もはや水着とは言えそうにない代物に申し訳程度に隠されたその二つの質量兵器が俺の背中に!

「当ててるんどすぇ」

「なに鼻の下伸ばしてるのよ」

 ゆきかぜちゃんや桂花たちが極寒の視線で睨んでいる。やはり巨乳を敵視しているのだろう。明命からは殺気すら感じそうで、夏だというのに寒気がマッハだ。

 

「ほら、俺にくっついていると護衛のはじめちゃんが困るでしょ。彼女、俺のこと嫌いなんだからさ」

トイレの話題も微妙に居心地が悪そうだし。失禁のことを気にしているのかもしれない。

「……別に、嫌いじゃない」

 水着と眼帯のコラボ中のはじめちゃんがそう言ってくれた。魔顔の呪いがかかっているはずなのに、なんていい娘なんだろう。顔色も青褪めているんじゃなくて、赤みがかっているのはこの日差しのせいだろうか。

 

「ふむ。はじめならいいわよ」

「なにがいいの?」

 ……さっきの嫁追加の話なんだろうけどさ。

 そりゃ嫁になってくれれば俺の呪いの対象外になるから、仲良くできるようにはなるはず。でも、そのために結婚はいき過ぎでしょ。

 

「王子さんほどの甲斐性ならはじめをまかせてもええ思うてます」

 やっと背中から離れてくれた越後屋が俺の正面にまわる。改めて確認してもなんつう水着だという感想しかない。

「越後屋さん?」

「ついでにウチのようなタチの悪い女でも受け止めてくれそうなとこに惹かれますわぁ」

「自分でタチが悪いとかいうなよ」

 悪徳商人ぽいけど、この越後屋という少女は貧乏人に無理強いしてる気はあまりしないんだよな。出せるやつらからは毟りとるけどさ。その辺りの加減が上手いというか。……外見がカブりそうな、無駄づかいの激しいうちの金髪巨乳にも見習ってほしいところだ。麗羽は越後屋の水着を見て対抗意識を出したのか、着替えに戻ってまだ出てこない。斗詩と白蓮が止めてくれてるんだろう。

 

「ほな、ウチのこともろうてくれますの?」

「なんでそうなるの!?」

 うちは家族が多いから必要な物資の購入でよくお世話になっているし、越後屋本人が納入の手続きをしてくれることも多いけどさ。俺に惚れてるってわけじゃないよね?

 ……ああ、あれか。こないだ婚約指輪のことも調べてたみたいだから、それ狙いか。

「トウキョウ解放の立役者や。お近づきになりたいんは当然どす」

「……よく知ってるね。でも、あまり言いふらしちゃ駄目だよ」

 そっちだったか。誤魔化しても無駄だろう。逆に目立って面倒そうだ。

「もちろんどすぇ。情報の価値を下げることなどしません。それに怖い方に襲われるんも嫌ですわ」

 ちらりと紫を見る越後屋。いや、いくら極秘事項だからって消されたりなんかしないよ。……たぶん。しないよね?

 

「越後屋、イックスさんの販売はそちらに任せると言ったはずだが」

 レーティアの水着はシンプルなワンピース。成現(リアライズ)した時の黒ビキニは刺激的すぎるのでこれでよい。

「もうちょいと安うなりませんの?」

「価値がわからぬ者に売る必要はないだろう」

「儲けは二の次ですのね。ほんまに王子さんのとこはお大尽やわぁ」

 そんなことを言われてもね。

 一瞬、越後屋にファミリアになってもらえればビニフォンや仮設トイレなど開発部の商品でもっとGPを稼いでくれるんじゃないかという考えが頭をよぎった。

 ……今はいいか。GPはあって困るものじゃないけど、大量に必要な予定もない。俺やみんなの成現を完璧なものにもしたいけどさ、そのためのGPは途方もないし。

 

 

「詠美ちゃん、新将軍選挙に出なきゃ駄目だよ!」

「それは吉音に任せると言ったでしょう!」

 鍔迫り合いの原因はスイカ割りでも、食べられてしまったとっておきのプリンでもなかった。――関係ないが、うちの場合はスタッシュ持ちばかりなので冷蔵庫に保管する必要がなく、あまりそんな問題はおきない。

 

 あっぱれのメインヒロインの片割れであり、詠美ちゃんの従姉妹の徳河吉音(とくがわよしね)。モチーフは暴れん坊将軍なはず。

 あっぱれ主人公の八雲君は彼女のルートで進んでいて、2人は恋仲だ。全員に手を出したファンディスクルートじゃないので詠美ちゃんはふられた扱いなのだろう。にもかかわらず、吉音は気にもしないで詠美ちゃんに選挙の出馬を求めているのか。

 ……八雲君が詠美ちゃんとのルートに入りかけていたなんて気づいてないだけか?

 

「あたしは詠美ちゃんに将軍様になって欲しいの!」

「だから無理だと言っているでしょう! 私にはその資格はないの!」

「そんなことない! 詠美ちゃんならみんなが……」

「はいストップ!」

 2人の間に割って入る。

 犬の喧嘩は最後までやらせて順位をはっきりさせた方がいいっていうけど、彼女たちの場合は終わりそうになかったので止めるしかないだろう。

 

「え? うそ、片手で?」

「煌一さん?」

 彼女たちの刀をGGKで受け止めていることに驚愕する詠美ちゃんと吉音。俺は二刀流。片手で詠美ちゃん、片手で吉音の刀をそれぞれ止めたが、それが気に障ったのか、吉音がさらに力をこめてくる。それでも力押しなら割と平気みたいだ。

 

「なんで、こんなちっちゃい子なのに!」

 いや、中身はおっさんですから。姿が変わらない程度に鬼の力を使っているだけだし。純粋なパワーだけならなんとでもなる。まだ使いこなすまでには至ってないので加減しろってのは無理だけどね。卵なんて掴んだ途端に割っちゃうよ、きっと。

 

「嫁は無理と言っている。嫌、じゃなくて無理だと。察してくれ」

「嫁? って詠美ちゃん本当に結婚してたの? それもこんなちっちゃい子と!」

 あまりちっちゃい言わないでほしい。仮の姿だから! それも微妙に急成長中だから!

 

「え、ええ。この煌一さんが私の夫よ」

 頬を染めつつ、刀を納める詠美ちゃん。吉音もそれに続いたのを見届けて、鬼パワーを解除してGGKをしまった。

「あれ? その名前どこかで聞いたような……?」

「そりゃあ、今話題の王子様だからねぇ」

 カメラ片手の輝がキシシと笑っている。小遣い稼ぎに嫁さんたちの水着写真を売るつもりだろうか。あとでデータを回収、いや、検閲しなければ!

 

「王子様……あのお嫁さんが何十人もいるっていう……じゅーしーのお兄さん?」

 じゅーしーって柔志郎のこと? そういや同じクラスだったっけ。

「ついでに、わしや十兵衛たちの婿でもある」

「ミッキーまで?」

 そりゃ驚くよね。でもさ、婿入りするわけじゃないから誤解しないでね。

 

「ボクのお兄ちゃんだよ」

 今度は唯ちゃんか。子住姉妹まできてるってことは、ねずみやは今日はお休みなのかな。

 

「……もしかして詠美ちゃん騙されてない?」

 うん。そう思うのもおかしくはないと思う。彼女は徳河の一族だから、それに近づき、手に入れようとする者は多いだろう。

「そんなことはないわ。煌一さんは徳河にはあまり興味はないようだし。むしろ、徳河だからと結婚を拒否されそうになったわ」

「なにそれ!」

 いや、当然でしょ。俺って一般市民だったんだから。そんな面倒な家のお嬢さんなんてお断りしたい。詠美ちゃんだから受け入れたんだよ。

 

「もしかして詠美ちゃん、この子のお嫁さんになったから将軍様になりたくないの?」

「そうではないわ。全くの無関係とは言えないのだけど……。ともかく、私は出馬しないから吉音、あなたが将軍になるのよ」

 まあ、俺のファミリアになったから、将軍になれないってのが理由だろう。将軍職は急がしそうだし。

 

「あたしだって無理だよ」

「まあ、君1人では無理だろう。だからサポートしてくれる人を早めに見つけ出してくれ。俺のおすすめは八雲君かな。あとは甲級3年で出馬は無理だけど由比雪那にも相談してみて」

 エヴァが投獄されたから革命はないと思うけど、念のため。彼女は頼りになると思う。革命騒ぎを起こしてないんで、表に出てきても問題のない人材だし。

 

「詠美ちゃんは?」

「無理と言ったでしょう」

「そんなー」

 両手を胸の前で組んで涙目でうるうるする吉音。今度は泣き落としか。

「かっかっか、ならば詠美は副将軍になればよかろう。次の学年には水都家もおらんしの」

「ミッキー、それほんと?」

「うむ。ただし詠美やわしには、学園や徳河よりも重要なことがある。それだけはわかってくれ」

 さすがに世界の救済、なんて説明はできないか。信じられないだろうしね。……吉音ならあっさり信じてくれるかも?

 

「うん、よろしくね詠美ちゃん!」

 詠美ちゃんの両手を握り、ぶんぶんと上下させる吉音。そんなに嬉しいのか。

「……私の意見も聞かないで。それにまだ当選すると決まったわけじゃないでしょう? 吉音はともかく、私はエヴァ事件の関係者なのよ」

「そんなの全然問題ないよ!」

 まあ、俺も詠美ちゃんの副将軍は当確だと思う。詠美ちゃんも執行部に関わってた方が元気が出そうな気がするし、これでいいのか。

 

 その後、十兵衛のライバルな大神伊都(おおがみいと)に絡まれたり、みんなに日焼け止めを塗ったり塗られたり、と大変だったがそれなりに楽しく海水浴は終了した。

 

 

 

「……予想外だな」

 その晩、初夜のために俺の部屋を訪ねたレーティアが連れてきたのは桃香と蓮華だった。美羽ちゃんと七乃じゃなかったのか。

「なに、煌一が2人のことを気にしているようだと華琳から相談されたのでな」

 気づかれていたのか。……昼間かな?

 華琳には隠し事なんて無理だろうなあ。

 

「桃香、蓮華、悩んでいることがあるみたいだね」

 俺の問いかけに驚いた表情の彼女たち。桃香はすぐに笑顔になったが。

「えー、悩みなんてないよ、煌一さん。すっごい幸せだもん」

「隠さないでいい。わかっているから。だって桃香と蓮華のEPがかなり低下しているんだ」

 ビニフォンで2人のステータスを見せる。感情値であるEPがこんなに低下しているということは、かなり危険な状態だろう。

 サイコロ世界に戻り、病院の回復ベッドを使えば回復はするだろうけど、問題を解決してからじゃないと意味がない。

 

「え、ええっと、夏休みの宿題で気が重くて……」

「誤魔化さないでくれ。夫婦なんだから」

「うっ……。ぷらいばしーの侵害だよぅ」

「ごめん、もっと早く気づいてあげられればよかった」

 空元気でうまく隠していたのか、昨日みんなのステータスを確認するまでは全く気づかなかった。

 

 ファミリアの状態はコンカのコンフィグで警告が出るように設定できるらしいけど、レベルが足りないのかよくわからなくて設定してなかった。音も出ないから気づきにくいし。

 なので、小隊メンバーやファミリアのステータス低下、状態異常をわかりやすく表示、警告や警報音を出してくれるビニフォンアプリを開発部に提案、依頼しておいた。そんなに難しくないからすぐに完成するとメールが返ってきたので期待している。

 

「……心配させたくなかったの」

「うん。それはわかる。みんなを心配させたくなかったってのは。でも、俺には相談してほしかった。……頼りないかもしれないけどさ」

「そんなことないよ!」

 否定してくれるのは嬉しいけど、本当にそう思ってるなら今度からちゃんと相談してね。

 

「それで、悩んでいるのは……国民のこと?」

 また2人の表情が変わった。当たりのようだ。

 昼間、華琳が話してくれたのは、このことを教えてくれたのか。

「さすが煌一さんね……」

「……うん。あの人たちを守ることができなかったのに、わたしがこんなに幸せでいいのかなって思っちゃって」

 桃香は蜀の、蓮華は呉の民を思っていたのだろう。……呉は雪蓮が思い悩みそうだが、彼女は割り切っているのかもしれない。

 

「助けてあげられればいいんだけど……たぶん無理だ。ごめん」

 無印恋姫でも外史の終末から助けられたのはヒロインたちだけだったはずだ。

「いいえ、手遅れだっていうのはわかっているから。私たちが人形にされてから何年もたっているわ」

 弱々しく首をふる蓮華。

「せめて最後くらいは知りたいんだけど、干吉さんたちどこにいるのかわからないし」

「まあ、ほっといてもむこうから来ると思うよ。あまり会いたくもないけど、次に会うことがあったら、聞いてみるよ」

 あいつ、俺が生存していることはもう気づいたかな?

 対策のために貂蝉と卑弥呼の復活を本気で考えないといけない。ううっ、気がスーパーヘビーウェイトだなあ。

 

「2人の幸せはね、国民たちも願っていると思うよ。だからね、義務だと思って幸せになりなさい」

 我ながら無茶苦茶言ってるな。でもさ、こんなに可愛い君主や姫なんだから民だって幸せを願っているはず。うん、間違っていない。

「煌一さん……」

「桃香はさっきすごい幸せだって言ってくれたけど、本当にそう思ってるの?」

「うん。だってみんなが元気で笑ってるし、ごはんも美味しい。それに素敵な旦那様! すっごい幸せだよ」

 うあ……。なんか照れる。

 桃香のシンプルな幸せに物欲や色欲まみれな俺は恥ずかしいぐらいだったけど、素敵なって言われたのがそれ以上に照れる。そう言われるのに相応しい男にならないと。

 

「さて。話もすんだところで私も幸せにしてもらうぞ」

 赤面しながらも俺に抱きついてくるレーティア。話にまざれなくて寂しかったのかな。彼女も国民を大事にする君主だけど、自分がフィギュアでその国民が存在しないことも理解しているから、問題はないようだ。

 

 ある意味三君主丼だな。一番幸せなのは確実に俺だ!

 レーティアの唇を貪りながら、ふとそんな考えがよぎったのだった。

 

 




遅れてすみません。
イブニクルやっとクリアしました。

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