真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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60話 呼び出し

 ペストXさんスゲエ。

 俺んとこのコンバットさんの戦果が謎虫2匹だけだったからそんなもんかと思っていたら、そんなことはなかった。

 早朝、指定した廃棄所にG詰めの袋が。

 あの大きさっていったい何匹始末したんだろう? 中を確認する気はまったくないけれどさ。

 ……でも、この屋敷にはまだまだGがいるんだよね。ホイホイさんも用意した方がいいのかも。

 

「なー、たいちょー、あれウチにくれへん?」

「駄目。渡したらすぐにバラしそうだから。まだ量産の参考にすることがあるかもしれないし」

 真桜にはあとで俺の積みプラモを渡しておこう。なにがいいかな?

「あれ? そういや肝心のペストXさんは?」

 ペストXさんを選んだ理由の1つでもある、専用バイクのオボロは残っているから任務中ってことはないだろう。

 

 まさか電池切れ?

 ペストXさんの充電台(クレイドル)がどんなのかわからないからまだ用意してなかったけど、たぶんまだバッテリーは持つと思うんだけど……。

 ほぼ姉妹機っぽい設定なはず、ということでホイホイさんの充電台を成現(リアライズ)するしかないか。

 ホイホイさんのは本体とは別売りだけどプラモが出てるし、持っている。俺としてはコンバットさんの充電台の方がほしかったんだけどね。出ないから結局自作したしさ。

 あ、オボロの充電台も必要だな。

 

「ウチは知らんよ」

「むう。だとすると春蘭か七乃かな?」

 春蘭の部屋は……あっちか。

 

「入るぞ」

 コンコンコン、とちゃんとノックしてから襖を開けた。

「な、なんだいきなり!」

 机に向かって作業中の春蘭が驚いた顔をしている。

 そしてその机の上にはペストXさんが。

「よかった。まだ無事だったか」

「もう少しで完成したものを」

 春蘭の手には作りかけの部品。それは、ヘッドパーツだろうか。

 木製で、たぶん華琳の頭になるのだろう。

 

「頭とっかえちゃうと動かなくなるんだけど」

 ペストXさんはミクスドフレームを採用していて身体のどの部位も自由に組み替え、自作もできる。

 らしいんだけどさ。木で作った頭を乗せただけじゃ無理でしょ。

「なに! そうなのか?」

「うん。量産できたら改造してもいいからさ、それは返して」

「動き回るちっちゃな華琳さま人形が……」

 やっぱりそんなことを考えていたか。

 だけどさ。

 

「いいのか? 華琳の顔にしちゃって」

「当たり前だ!」

「だって、Gと戦うことになるよ。その華琳人形」

 俺に指摘されて、やっとそのことに気づいたらしい。

 若干青くなった顔を引きつらせながらペストXさんを返してくれた。

 

「やつらと戦わない人形はないのか?」

「あるよ。勝手に動きはしないけど」

「あるのか!」

 春蘭にもプラモやフィギュアを渡したほうがよさそうだね。

 ……ドールの方がいいかな? あっちも奥が深いんで俺は手を出してないんだけど。

 

「それは聞き捨てなりませんねえ」

 七乃?

「やはりここにありましたか」

 やっぱり七乃も狙っていたのか。

 七乃は美羽ちゃん顔の子にG退治させても気にしなさそうな気もする。それを見て涙目の美羽ちゃんを堪能しそう。

「これはあげないよ」

「かわりの下さいね、旦那さま」

 むう。こんな時に嫁という立場を利用するとは。

 

「あとで」

 ドールの素体を渡すのがいいか。俺は持ってないからこっちで売ってるといいけど。

 ……って!

「ああ! あそこトウキョウじゃん!」

 俺でも知ってる、素体で有名なあの製作所はたしか葛飾にあったはず。

 ……ん? 葛飾なら行けるのか。ディスクロン部隊に調べといてもらおう。両さんなら場所を知ってるかもしれないな。

 

「そうだね。基礎講習が終わって、君たちが出陣できるようになったらいっしょにそれを回収しにいこう。職人はもうゾンビになってると思うけど、人形の身体はあると思うから」

 世界的な損失だよなあ。

 プラモの工場は静岡だから油断してたけど、出版社やTV局ってサブカルチャーの発信地はトウキョウに集中してたはずだから、こっちの世界じゃ失われちゃったものってもっとあるんだろう。

 ドール素体、サービスセンターでの買取りで補充できるといいな。

 

 

 昨日持ち帰ったサメ肉は軍師たちから料理担当の子たちに渡してあるので今朝もそれを塩焼き。サメって鮮度が落ちると臭くなるらしいけど、開発部の冷蔵庫もスタッシュも鮮度が落ちないので問題はない。

 屋敷の冷蔵庫も開発部やアパートのみたいにマジックアイテムにできればいいんだけどなあ。

 まあ、料理担当の子たちのスタッシュだけでもけっこう入るけどさ。

 

 ペストXさんの戦果の後始末は結局、俺が担当にされてしまった。

 ……いいけどさ、袋詰めしてくれてるし。

 そういやうちのコンバットさんの戦果の謎虫の死骸は見つかってない。冷蔵庫の裏あたりで干からびていたりするんだろうか?

 それとも消えた? はは、まさかカードになって契約者の元に戻るファミリアじゃあるまいし。

 ……まさかね?

 

 登校時、もうみんな制服だというのに注目を集めている気がする。

 いや、昨日よりも見られているよね、絶対。

 昨日学校に行ったことで知名度が上がっているのか?

「うう、視線が痛い」

「これだけ美しい娘たちが多いのよ。見られるのは当然」

 そうだろうけどさ。俺には爆発しろとの念が送られまくってる気がする。自意識過剰じゃないよね、これ。

 

 みんなと別れ、やはり突き刺さる視線を耐えて、自分のクラスである甲級3年い組に辿り着く。

 光姫ちゃんに聞いた話だと、トップクラスの家柄の生徒たちが各学年のい組に回されるらしい。それからいろは順に成績等も考慮に入れながらクラス分けされるとのこと。なんたる格差社会。

 ……なんで俺、こんなクラスにいるんだろう?

 見回しても、アニメの下敷きなんて使ってるやつはいない。話、通じるのだろうか? ジェネレーションギャップもあるだろうし、気が重い。

「よお、ボーイ、昨日はよく眠れたかい?」

 こいつがいてくれたか。こんな変態でほっとするなんて。クラスで友人が銀次しかできなかったらどうしよう。

 銀次もすごい家柄なんだろうか? いや、光姫ちゃんのお供で身辺警護してるらしいから、護衛のためにいるのか。

 なら、他にもお付きのためにこのクラスにいる子もいるのかもしれない。

 

 朝の出席確認で徳河吉彦も同じクラスだったと判明。そりゃそうか。

 彼は入院中で今日は欠席するが、数日で出席できるようになるらしいとのこと。

 よかった。桃子も喜んでいるだろう。

 

 授業はしんどかった。

 高校の授業ってこんなに難しかったっけ? さすがは明日のニホンを背負う子の育成機関なのね。

 変に見栄を張らずに、乙級にいけばよかったと後悔したよ。乙級だとロリがいっぱいで授業に集中できなかっただろうけどさ。

 

「ずいぶん疲れた顔をしてるわね」

 昼休み、華琳たちが昼食に誘いにきてくれた。

 今日は学食を使用することにしている。弁当もいいけど、どんなものかは確認しておきたい。

「華琳は授業、どうだった?」

「面白いわね。まだついていけないところもあるけれど、教科書は用意してもらったのだからなんとかなるのではないかしら?」

 教科書は、自分の学年以外に全学年分、さらに小学生の教科書も用意してもらった。軍師をはじめとした頭のいい娘たちはそれで猛勉強中らしい。……俺も頑張らないと。

 

 なぜか俺のクラスが集合場所にされていたようで、続々と集まってくる嫁さんたち。

 教室では邪魔になったので、廊下で待つことに。

「違う校舎の子もいるんだから食堂で待つほうがよかったんじゃないか?」

「そうね。今度からはそうしましょう」

 弁当も食堂でいいだろう。それとも、屋上もいいかな?

 

 みんなが揃ったので食堂へ移動する。集まるのを待っていたせいか、全員が揃って座れるような場所はなく、結局数グループに分かれて座ることに。

「明日からは場所取りの子を先行させましょう」

「そこまでする?」

 空き教室か、空き部室を探した方がいいのかもしれない。

 普通、部活はどれかには必ず入らなきゃいけないはずだけど、大江戸学園はどうなってるのかな?

 使徒の活動もあるから、ダミーの部を作ってもいいかもしれない。

 

 俺がどのグループと座るかもめたので、最年少のとこと座ったら、華雄がすごい疲労している。

「ずいぶん疲れた顔をしてるな」

 華琳と同じ台詞で聞いてみた。

「当たり前だ。なんだあの組分けは! 璃々はいいとして南蛮の連中も私が面倒を見る羽目になってしまったではないか!」

「まあそこは年長者ということで」

 華雄は璃々ちゃん、ミケちゃん、トラちゃん、シャムちゃんと同じクラスか。

 設定改変でロリ華雄になってしまったから問題はないはず。思わず華雄ちゃんって呼ぶと怒られるけどね。

 同じ最低学年でも違うクラスになったねねちゃんと二喬はそれぞれ、恋と雪蓮、冥琳の隣に座っていた。

 かわりに璃々ちゃんの隣にやはり若くなった紫苑が座っている。

 

「璃々ちゃん、学校どうかな?」

「むずかしいけど、おもしろいよ、おとーさん」

 うんうん。璃々ちゃんはいい子だなあ。

 周辺で咳き込む声や、椅子がガタッとなる音が多発したけど気にしないでおこう。聞き耳を立てていた生徒たちが驚いただけだから。

 

「あれ? 璃々ちゃんピーマンは食べないの?」

「これ、にがいのにゃ」

「にがにがにょ」

「にがいにゃん」

 璃々ちゃんのかわりに南蛮兵たちが答える。

 美以ちゃんは美羽ちゃんと同じクラスで萌将伝と同じく仲良くなったらしくていっしょに食べていてここにはいない。

 

 そんなに苦くはないと思うけどなあ。ピーマンって恋姫世界にもあったよね?

「ちゃんと食べないと大きくなれないわよ」

「おかーさん」

 泣きそうな顔で紫苑を見る璃々ちゃん。

 再び騒音を発生させる周囲のウォッチャー。若くなった紫苑は胸も相応に小さくなっちゃったけど美少女。そりゃお母さんって呼ばれたら動揺するよね。学生だしさ。

 

「どうしても苦手なら食べなくてもいいけど、美味しいのにもったいないなあ」

「おいしいの?」

 璃々ちゃんたちが残したピーマンを美味しく見えるように意識しながら食べて頷く。

「うん。今晩はもっと美味しく料理してあげるね」

 ピーマンの肉詰めなら食べてくれると思う。ソースでかなり誤魔化せるし。あ、コンソメスープで煮込んだのも美味しいから、両方作るか。

 

 

 眠かった午後の授業を終え、昼休みの反省を元に廊下で嫁さんたちを待っていたら、見知らぬ生徒に声をかけられた。

「天井君、先生が呼んでるよ」

「ありがとう。君は?」

「田中だよ」

 彼の案内についていくと、向かった先は職員室ではなく校舎裏。

 うん。予想はしてたけどね。彼の名前、偽名だし。

 

 午後の授業、眠いのを堪えるためにクラスメイトや教師を鑑定していたら、鑑定・人物のスキルレベルが上がって、名前やある程度のステータスがわかるようになっていたからね。

 ……授業に集中してればその教科のスキルが手に入ったのかな?

 

 で、校舎裏に数名のガラの悪い生徒。本当に学生か? ってな顔のやつもいる。

「よお、王子さん」

「それ、誤解なんだけどなあ」

「嫁さんがたくさんいんのは本当なんだろ?」

「うん」

 俺を妬んだ男たちの嫌がらせなんだろうか?

 それなら気持ちはすごいよくわかる。モテ男は敵。同士っだったら、事は荒立てたくないんだけど。

 

「けっ。むかつくぜ。モテない俺たちを傷つけたってことで、慰謝料払ってくんね?」

 なんか同士じゃないっぽい。これってカツアゲ?

 だが、俺には通じない。

 その場で軽く2、3度ジャンプしてみせる。

「金なんて持ってないよ」

 この学園島での通貨はすべて貨幣。所持していてこんな動きをしたら音が出るってものだ。

 だが俺の財布はスリ対策のためにスタッシュに収納しているので、当然音なんて出ない。

 

「じゃ、嫁さん待たせてるから」

「ま、待て!」

 田中(仮)が慌ててる。

「なに? 山田君」

「このまま帰すわけないだろ!」

 本名を呼ばれたことにも気づかないなんて、相当慌ててるね。

 ガラの悪い生徒たちも刀を抜いてきた。

 いきなり?

 

「あんまりナメたマネすっと、痛い目みんかんな」

「最初っからそのつもりだったみたいだけど?」

 かなりヤバい雰囲気なのに俺が強気なのは、嫁さんたちが隠れて見ているからだ。

 隠形スキル覚えてない子が俺の感知に引っ掛かっているので、もっと多くの嫁さんたちが控えているんだろう。

 危険だったら止めてくれるだろうし、嫁さんたちの前でカッコ悪いとこは見せたくないので、無理をする。

 

「やれ! 剣徒とはいえ、まだ刀は持ってないはずだ!」

 なんで俺が剣徒だって知ってるんだろう? い組の生徒はみんな剣徒なのかも。

 素手の相手に大勢で刀を振るうって、酷いなあ。

 正当防衛だと判断してGGKをスタッシュから呼び出す。生徒防衛ってネタは今の子たちには通じないかな?

 

「なっ、剣魂を使うなんて聞いてねえぞ!」

「剣魂じゃないから安心して」

 ただの木刀でもないけどね。

 昨日覚えたばかりの構えでGGKを2刀構える。

 教え方がよかったのだろう、柳宮新陰流を1レベルで入手してしまった。使徒ってすごいなあ。

 

「ガキ相手にビビってんじゃねえ!」

 一番ゴツイ顔の不良生徒が切りかかってくる。刃引きとはいえやっぱり怖い。

 体格差もあるのでGGK2刀で受け止めたら、別の不良生徒が切りかかってきた。

「卑怯な」

「ホメ言葉だぜ」

 肩と脇腹の攻撃された。刃はないので切れることはないが、それでも痛い。打撃耐性のスキルがなかったら骨を折られてたかもしれない。

 

 さらにしばらく次々と攻撃を受けて、やっと攻撃が止んだので意識を集中させる。

 あの程度の攻撃で集中できないなんて、俺はまだまだなんだろう。

「ちっ、まだ倒れねえか」

「効いてないからね」

 痛いけど、痛み耐性も持っているので失神するほどではない。

 華琳の特訓に比べたらこんなもの、へでもない。

 再生魔法(リジェネレイト)を使っているので、傷もすぐに治るし。この魔法、便利なんだけど自分にしか使えないのが難点だ。

 必死にガードした頭をやられたりしない限りはだいじょうぶなはず。って、俺はGじゃねえ!

 

「とはいえ、多勢に無勢か」

 仕方ないよね、GGKを本格使用してもさ。

 木刀に魔力を流しながら、不良生徒の1人に切りかかる。見た目が幼い俺の攻撃となめていたのか、そいつは刀で受けた。

「残念だったな、ぼくぅ」

 からかうように言うその表情は、すぐに凍りついた。

 ……文字通りに。

 

「ありゃ、加減ミスったか」

 殺しちゃマズイからもっと弱めに。

 幸い、表面に氷がついた程度だったようで、不良Aも生きていた。

「ザコ相手に使うことになるなんて……」

 他にも攻撃魔法はあるけど、さらに加減がきかない。ファイヤーボールで火事になったら困る。

 ザコ掃討用の魔法、考えておくべきだったか。

 

 その後は逃げ惑う不良生徒たちを追いかけて、手足を氷で固めていく。凍傷なんて知ったことではない。

 攻撃してきたやつは、くらってる間にGGKを相手の身体や刀にふれさせればこっちのもの、という華麗さの欠片もない戦い方。

 気づけば山田の姿はなかった。逃がしちゃったか。

 なんの目的で俺を襲わせたか聞きたかったのに。

 

「さて、残るは君だけだよ」

 ゴツイ顔の不良を壁際に追い詰めて、壁に氷で貼り付けた。

 残念なことに卑怯だとは言ってくれなかった。ホメ言葉って言い返そうと思っていたのに!

 凍らせてない頭をGGKで軽く殴って、彼に問う。

「誰に言われてやった?」

「……さっきのやつだ」

 やっぱり山田か。でも黒幕じゃないんだろうなあ。

 

 大きくため息をついて、俺は不良たちを残して校舎へと戻る。

 途中で潜んでいた嫁さんたちと合流、彼女たちから説教された。

「知らないやつについてっちゃ駄目って言ったろう!」

「ごめん」

 涙目の梓に頭を下げる。

 柳宮新陰流スキル入手で浮かれてたみたいだ。

 もっと用心しないと。

 

「痛みに強く、傷の治りも早いようだが、それに頼りすぎだ。真剣相手ではこうはいかないぞ」

 剣の師匠である十兵衛からの指摘。

 他にも武将からも似たようなことや、あの程度の相手にてこずるな、なんて言われてしまった。

 でも、他に戦い方なんて……あ、スリープ使えばよかったじゃん!

 俺、そんなに剣の腕、試したかったんだろうか?

 

 


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