真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

45 / 137
45話 聖鐘

 夕食の準備は梓と華琳にまかせて、4面本拠地(アパート)の廊下の隅に置かれている両さんと華佗ぬいぐるみの元へ。

 その隣で二つ折りにした座布団枕で寝る。この面の今の季節は夏なので風邪はひくまい。

 昼寝の直後なので、ちょっと寝にくいかとも思ったけど疲れていたのか、まだ寝ることができた。

 2面で回復ベッドを使うことができたながらも、戦女神(ワルテナ)の精神攻撃と、朝、昼食後の2度の夫婦性活。

 しかも昼食後のは3人でという充実しすぎな疲労感。

 ……もう1度回復ベッドを使いたいというか、自室にほしいというか。

 俺の固有(ユニーク)スキルでつくれないかな、あれ。でも、性能を考えるとコストがすごそうか。

 

「ここは一体?」

「わっ、ぬいぐるみが喋った」

 華佗と両さんが見詰め合っている。

 うん。ちゃんと両方とも契約空間もどきにこれたみたい。

 

「両さん、それがこの前話したぬいぐるみ」

「ああ、元は人間だっていうあれか?」

 医者王ぬいぐるみを指差すカモメ型眉毛お巡りさん。

「俺は華佗。五斗米道の教えを受けた、流れの医師さ」

「わしは両津勘吉。見てわかるだろうが警察官だ」

 いや、華佗は警察官わからなそう。

 っと、俺も名乗らないとね。

 

「俺は天井煌一。……使徒をやらされている」

 しまらないなあ。俺も名乗り考えた方がいいかな。「……何の因果か落ちぶれて、今じゃ駄神の手先」みたいなさ。

「警察官? 使徒? ……どっちも気の量が凄いな。特に両津からは尋常じゃない生命力を感じる。本当に人間か?」

「わははは。まあ、わしは銅像らしいがな」

 両さんのHPはビニフォンでも確認できなかった。文字化けどころか、存在がバグ扱いなのかもしれない。

 

 華佗と両さんに状況を説明する。

「人が人形になるなんて」

「助けられる娘たちは助けた。俺の力で元にも戻せる。華佗もだ」

 漢女は売っちゃったから、運営の瀬良さんかワルテナに相談しなきゃいけないけどさ。

「本当か?」

「うん。両さんを人間にするには全然足りない力だけどね」

「その分、食事とプラモ、TVとゲームを待ってきてくれてるんだ、気にするな」

 TVとゲームの電源は、廊下のコンセントに繋いだ電源タップを両さん銅像の腕にからませる様にして持たせていたんだけど、それでなんとかなったみたい。

 あ、忘れるところだった。両さんに夜祭りのお土産があったんだ。

 パック詰めされた屋台の料理をスタッシュからいくつも取り出して、両さんに渡す。まだほかほかと温かく、いい香りがしてくる。

 スタッシュエリアは中の時間が動いてないみたいで、料理が傷んだり、冷めたりしないのが非常に助かる。

 

「おう、催促したみたいですまんな」

 わはははと笑いながらそれを受け取る両さん。

「ん? なんだ、お前も食うか?」

「いや、この身体だ。食事は無理だろう。腹も減ってないしな」

 両さんも本当は銅像なのになんで空腹感があるんだろう?

 

「それで、華佗が戻った後のことなんだけど」

 華佗の歳じゃ大江戸学園に行ってもらうのは……。その問題をクリアしても、おとなしく学園生活を楽しんでくれるようなキャラじゃなさそうだし。

「できれば、頼みたいことがあるんだけど」

 とても難しい治療を頼むことにした。

 ……もちろん、俺のオタク趣味や変態ではない。これは治療不能だからね。

 

 

 

 夕食が出来たというので梓に起こされ、1階大部屋へ。

 みんなもう帰ってきてるね。ララミアもいるってことはちゃんと柔志郎と契約できたのだろう。

 今日は鍋か。夏だけどエアコン効いてるから気にはならないけど……これはもしかしてスッポン? あの百貨店てこんなものまで売ってるの? まさか、夜祭りの亀すくいの戦利品じゃないよね?

 そりゃ精はつきそうだけどさ。俺はさすがにスッポンは捌けない。こんなものまで調理できるって、2人の料理スキルとんでもないな。

 

 食事しながら剣士にさっきの提案をしてみる。

「ワシのファミリアに?」

「そう。医者なんだけど戦闘力も高いし、もちろん治療技術も高いから頼りになる男だよ」

 華佗に頼んだのはこれ。

 剣士の面倒を見てもらうこと。

「そりゃ助かるぜよ。これでもっと楽になるぜよ!」

 この、ゆとり気味な駄神の教育をお願いした。もう少し熱くしてやってほしい。

 俺は暑苦しいの苦手なので無理だけど、華佗ならこの任務はピッタリだと思う。華佗の熱さの少しでも剣士に伝染してもらいたい。

 

 剣士の方はこれでいいとして、次はゆり子(ダークプリキュア)

「学校?」

「うん。大江戸学園ってとこ」

「私も行くのか?」

「当然や。あんた、義務教育すら受けてへんやろ? なに、心配はいらへん。お姉さんが勉強みたる」

 義務教育は受けてなくても、ゆり子の頭はよさそう。月影ゆりの妹なんだし。俺の娘だし。

 

「ララミアはどうする?」

「大尉は?」

 まだクランを大尉呼びか。

 うちには階級ないんだけどなあ。

「クランもできれば行ってほしい。学校に不慣れな連中をサポートしてもらえると助かる」

「私もなのか?」

「学校行くの初めてな子が多いんだよ。頼むよ」

 両手を合わせてお願いのポーズ。

 

「大尉、私もご一緒します」

 ララミアにそう言われてクランが考え込む。

「大江戸学園はね、名前だけじゃなくて江戸時代をコンセプトにしたアトラクションみたいな場所でね、十兵衛のような侍っぽい生徒も多いんだ」

「侍はすごいが、私は大人の女なのだぞ」

「俺はクランの制服姿も見たいんだ!」

 大江戸学園の制服は着物を基本にしたものでかなり珍しい。レギュレーションもけっこう緩いらしいから、みんながどうアレンジするかも楽しみだったりする。

 

「シリアス顔で言うことか!」

「好きな娘の色んな姿を見たいのは当然のことだ!」

「一理あるわね」

 うん。華琳もわかってくれるか。

 問題があるとすれば、いつも見れるわけじゃないことぐらいだ。おっさんな俺は学園に行くわけではないからね。

 

「……わかった。そ、そこまで言うのなら仕方ないのだ。でも、仕事はどうするつもりなのだ?」

 よかった。微妙に赤面したクランがやっと納得してくれた。

「仕事って使徒の? 十兵衛は魔族の動きも監視してるみたいなことを言ってたから、その情報を元に対策を立てるつもりだよ。やつらの拠点がわかるかもしれないし」

 2面で開発作業してきたレーティアが補足意見をくれる。

「そのことだがな、ワルテナからの情報がある。剣士、お前なぜ聖鐘(ホーリーベル)を使わない?」

「聖鐘? あんな無茶苦茶高いもの、使えるわけないぜよ」

 質問に対する剣士の答えにため息をつく銀河アイドル。

 聖鐘って、たしか高範囲の浄化アイテムだっけ? 剣士がいってたような気がするな。

 

「1年前から聖鐘は値下げ中だ」

「1年前?」

 それって、あっぱれ世界にゾンビタウンが発生し出した時期。

「ああ。魔族はその時期から他の世界でもゾンビタウンを急増させている。ゾンビタウン作成アイテムをキャンペーン価格で販売してるんじゃないか、というのがワルテナの見立てだ」

「それにあわせて、こっちも対策アイテムの値下げか」

「修行中の神なら申請すればさらに安く買えると、ニュースや新聞で報じていたらしいぞ」

 ……だって剣士、新聞はとってなかったし、ニュースもほとんど見てなかったもんなあ。

 やっぱり監督かコーチが必要だ。頼むよ、華佗。

 

「剣士、あとでワルテナに連絡して詳しい話を聞いてくれ。ビニフォンはすでに渡してあるから」

「わ、わかったぜよ」

 渋々頷く駄神。

「剣士はどうするッス? 学園行くッスか?」

「ワシゃ勉強はいいぜよ」

 やっぱりか。

 ま、剣士の制服は気にならないので別にいいか。

 セイバーライオンのは気になるけど、会話できないんじゃ学校はちょっと無理そうだし。

 

「で、聖鐘ってどんなのなんだ?」

「聖なる音でアンデッド系を浄化するアイテムらしい」

 うん。イメージそのまんまだね。でも、音か。

 ゾンビタウンはいくつもあるし、トウキョウだけに絞っても全域に届くとは……。

 けど、対策アイテムとして販売されているなら効果範囲も広い可能性があるか。

「剣士、聖鐘の詳しい性能も聞いといて。効果範囲と、ラジオ放送や録音でも効果があるかとか」

「ラジオ? ようわからんがとにかく聞いてみるぜよ」

 あとサイズや使用回数も重要か。

 サイコロ世界にもインターネットがあればすぐに調べられるのになあ。

 

 

 夕食後、洗い物を済ませて自室でEP注入作業。

 まずは華佗だ。

 一刀君と同じく人妻は対象外と設定改変。

 あとはどうしよう? 智子みたいに変身できるようにしてみる?

 勇者王じゃなくて勇者特急の方なら柔志郎が喜ぶかもしれない。

 ……それだったらガインを用意した方が喜びそうか。

 スロットの追加だけにしておこう。

 

 次は、陸遜、郭嘉、賈駆の体質改善。

 問題が起きるタイミングでMP消費でそれを無効化できる、とすればいいでしょ。

 1人ずつぬいぐるみを持ち、設定改変を行っていく。

 ぬいぐるみを見つめてるこの姿は誰にも見られたくないなあ。

 ……ぬいぐるみたちには見られちゃってるのか。

 

「問題はこれからだ」

 冷蔵庫から発泡酒を取り出し、飲みながら設定改変。

 これからの作業は素面(しらふ)でなんてやっていられないから、酒に逃げる弱い俺。

 

 まずは最重要な大喬。

『EP注入

 両性具有を解除。完全に女性化』

 よしっ! これで嫁さんの貞操は守られる!

 でもこれだけじゃ俺が非難されそうなので、あんまりしたくないけれど記憶も操作。

『EP注入

 保有していた男性器とそれに関する記憶を削除』

 うん。これで生まれた時から普通の女性だったってことになっているはず。

 

「ふぅ」

 大喬だけでこんなに疲れるのか。500ミリ缶をもう1本空けちゃったし。

 でもまだだ。

 大喬以外の関係者の記憶も消さなければ。

 小喬、孫策、周瑜は確実として、黄蓋も非処女だ。絶対に知らないとは言いきれないだろう。

『EP注入

 大喬の保有していた男性器とそれに関する記憶を削除』

 もしかしたら、他の非処女も可能性があるか?

 ……EP低下で疑心暗鬼に陥ってるのかな? それともウィスキーをロックでやってるから酔いが回ってる?

 ツマミのスルメ、もうなくなっちゃったなあ。また仕入れないと。百貨店で売ってるかなあ?

 

 面倒なので非処女ぬいぐるみを全部設定改変。黄忠、厳顔、夏侯惇、夏侯淵、一応念のために華雄も、っと。

 やっぱり酔ってるなあ。

 でもこれで安心して……いや待て。

 大喬で処女喪失してたとしたら、非処女なのはまずいな。

『EP注入

 処女化』

 これでいいか。

 あ、でも大喬以外の経験だったらどうしよう?

 

『EP注入

 処女喪失時、及び男性経験の記憶削除』

 ……これでもう問題はないよな?

 なんか泥縄だなあ。

 大喬のムスコさんはともかくとして、人生経験まで弄くるなんて、人としてどうなんだろ?

 処女喪失なんて、大事な記憶だよね。それを奪う権利なんて俺にはないはずなのに……。

 

「ああ、EP低下でまた落ち込んできたなあ。ツマミもないし……」

 俺だって華琳たちとのそんな記憶、奪われたら絶対に許さないだろう。……初めてはまだだけどさ!

 早く卒業したいなあ。

 最大MPもすっごくなってるんだから、そろそろ許してくれてもよさそうなのに。

 やっぱり、俺以外に本命がいるからそっちは駄目なのかな?

 

「煌一……うわっ、お酒くさい」

 部屋に入ってくるなり、ヨーコは呆れた声を出す。

「ヨーコ? こんばんはー」

「こんばんはーじゃないでしょ、もう。どんだけ飲んだのよ。待ってなさい、この子たちは華琳に渡してくるから」

 華琳に言われていたのか、ぬいぐるみたちを運んでいくヨーコ。

 俺はくさいと言われたのが少しショックだったのか、自分自身に消臭魔法を念入りに何度もかける。

 

「みんな置いてきたわよ」

「そう」

 ぬいぐるみを置いてきたってことは、彼女たちの目を気にしないでもいいわけで。

 ヨーコもそれを期待しているわけで。

 ……でも、本番は無し。

「どうしたの?」

「ヨーコ、今日は最後までしたい」

 俺の懇願に困った顔の巨乳新妻。

 

「……駄目よ」

 やっぱりか。やっぱり、本番はカミナのために……。

「まだ早いでしょ」

「だってみんな助けた」

 もうさせてくれたっていいじゃないか。

「その分、使うMPも大きいでしょ。みんながGPでちゃんと人間になってから。時間制限なんてなくなってからの方が安心してできるわよ」

「そんなの、いつになるかわからない」

 俺がおっさんどころか、爺さんになってるかもしれないじゃないか!

 ムスコの元気がなくなってからじゃ遅いんだってば。

 

「……煌一ならやってくれるって信じてる」

「本当に?」

「もちろんよ」

「それまで、処女でいてくれる? 俺だけのものでいてくれる?」

 カミナのところに行かないで……とは、いくら酔っていても言うわけにはいかない。

 でも、ヨーコは察したらしい。

 俺を抱きしめてくれた。

 

「まだ朝の精神攻撃の傷が残っているのね」

 どうなんだろう? カミナが現れてからはずっと不安でしかたなかった気もする。

「だいじょうぶよ。あなたを捨てたりなんてしないわ」

「ヨーコ……」

「それに、今日は絶対に駄目でしょ。その様子じゃせっかく初めてをあげても、明日になったら忘れてそうよ」

 うっ。言われてみればそんな気もする。

 納得してしまい、無性に恥ずかしくなった俺は、彼女の固有スキルを気にもせずにその唇を貪る。

 

「んっ……もう」

「絶対に誰にも渡さない」

「はいはい。あたしがそう思える男でいてね」

 しっかりしなきゃいけないよな。頼れる男になろう。

 ……アルコールでしっかりしないかな、とちょっと心配になったジュニアもスッポンのおかげか、しっかりしすぎて。

 本日3度目なはずなのに、一番激しく求めてしまった。

 

 

 翌朝、二日酔いに傷む頭とともに自己嫌悪。

 酔ってたとはいえ、なんてことをしてしまったんだろう。

 ……いや、酔ってたのはいいわけか。お酒のせいっていう逃げ道を用意しておいた、せこくて卑怯な男。

 ああ、俺ってば……。

 

「まずったなあ」

 なんで黄忠を処女にしちゃったんだろう。璃々ちゃんって娘がいるのに!

 ビニフォンで昨晩の成現のログを確認して落ち込む俺。

 記憶も消去しちゃったし、戻せないよね、これ。

 

「どうしたの? 朝から青い顔して」

 ヨーコが心配そうに覗き込んでくる。

「……心配ないよ。ただの二日酔いだから」

 これは誰にも言えない。

 いや、黄忠には言わなきゃいけない。謝らないといけない。

 気が重いなあ。朝からEPがレッドゾーンかもしれない……。

 

「シャワーでもあびてスッキリしてきなさい」

「いっしょに入る?」

 昨日のことを思い出して、つい聞いてしまった。

 落ち込んでいても、性欲は別らしい。

「……ムリ。あんた激しすぎ。もうちょい寝させて」

 ヨーコはタオルケットに潜り込んでしまった。

 そんなに激しかったか……いかん、思い出したらまたムラムラしてきそう。

 俺ってこんなに精力強かったっけ?

 ……もしかしてヨーコのキス・オブ・クライマックスのステータスの大幅アップって、そっちにまで影響してるんじゃ?

 

 はっ。朝からネガティブ爆発中なのは、死亡判定のマイナス修正の効果で、俺の自殺願望に歯止めがきかなくなってるってこと?

 だとしたら後ろ向きな考えはしない方がいいか。

 やっちゃったもんはしょうがないと割り切ろう。

 今日は、死なないように気をつけないと。

 

 

 迷ったが、朝食の準備前に華佗を成現した。

「げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」

 そして針を打ってもらった。うん。二日酔いのツボの。

 針は効いたよ。前フリが煩くて頭が痛くなったり、みんな起きてきちゃって怒られたりしたけどね。

 

 起きてきたついでに剣士と契約してもらった。

「よろしくぜよ」

「ああ。こっちこそよろしく!」

 あ、華佗の部屋どうしよう?

 落ち込んでたせいでそこまで考えてなかった。

 剣士のファミリアになったんだから剣士がなんとかしてくれるはず。

 ……剣士の部屋、201号室は狭いけど物が全然ないから一緒でも問題ないか。セイバーライオンは202号室で寝ているようだし。

 

 華佗を紹介すると、ヨーコと梓が微妙な表情。

「どっかで会ったことなかったっけ?」

 あ、中の人繋がりか。ヴィラルと柳川もそうだったっけ。

 柳川なんて声で犯人バレしそうだったもんなあ。

 

 みんなで朝食後、今日の予定を相談。

「学園に入る前に、ぬいぐるみたちに日本語や基礎知識を教えておいてほしいんだ」

「ぬいぐるみにッスか?」

「うん。あの状態でも意識はあるから」

 学校の教室を借りれればいいけど、それが無理だとしてもぬいぐるみなら場所をとらないから1F大部屋(ここ)や、2面開発部の会議室を借りてもいい。

 

「本当なら小学校あたりから教科書を持ってくると教えやすいと思うんだけど、さすがにゾンビだらけの小学校なんて行きたくない」

 子供のゾンビなんて考えるだけで、いたたまれなくなる。

 それが集団でいるとこなんて気が滅入ってしまうだろう。

「あるものでなんとかするしかないか」

 レーティア小隊が教育担当になってくれることになった。

 ヨマコ先生とクラン先生がいればなんとかなるだろう。

 

「私は基礎講習か」

「いや、ゆり子もぬいぐるみたちと基礎知識を覚えておいて」

「今さらそんな必要はない」

 そりゃそうだろうけどさ。

 今日2日目をしてもらわないのには理由がある。

「ララミアと華佗も基礎講習を受けてもらうからさ、基礎講習2日目は3人で受けて貰った方がいいでしょ」

「そんな理由か」

 ララミア、華佗には基礎講習1日目を受けてもらって、ゆり子は今日は講習なし。明日にでも3人で基礎講習2日目ってことで。

 2日目のチーム戦、1人だったらどうなるのかはちょっと気になるけどね。

 

「アニキはどうするッスか?」

「俺はセラヴィーにちょっと用がある」

 彼ならたぶんエリザベスの成現時間延長を代金代わりに頼めば、相談に乗ってくれると思う。

 城にいるといいけど。

 

「ワシは聖鐘の申請があるんで、あっちには行けんぜよ」

「ワルテナから説明聞いたのか?」

「おう。いっしょに運営に行ってくれるんじゃ。そん時に聖鐘のチラシをくれるそうぜよ」

 親友の弟だからか、ワルテナも剣士に甘いみたいだ。

 あんまり甘やかさないでほしいかもしれない。

 今回は重要な案件だけに1人で行かせるのは不安だから助かるけど。

 

「なら、あたしたちも煌一と行くよ」

「そうね。煌一だけでは不安よ」

 1人だと不安なのは俺の方も同じだったらしい。

 あの城へ行くだけだからだいじょうぶだと思うけどなあ。

 けど、KOCの効果もあるから用心した方がいいか。2人がいいっしょだと嬉しいし。

 

「智子たちはどうする?」

「もちろん、ゆり子の勉強のお手伝いや」

「みたいッスね」

 これで全員の予定が決まったか。

 レーティアたちは2面に行くようだな。レーティアはヨーコとクランに教育を任せて開発をするのかな。

 

「それでは、今日も張り切って行くのだ!」

 クランの号令で俺たちは出発した。

 

 

 サンダル世界の大魔王城。

 主はもう大魔王を止めたらしいから、元大魔王城か。

 セラヴィーは留守にすることなく、そこにいた。

「若返りの薬、ですか?」

「そう。作れない?」

 セラヴィーに会いにきた目的がこれ。

 赤ずきんチャチャで出てきた魔法薬。これを使えば熟女たちを若返らせて大江戸学園に入れることができる。

 

「ちょうどセラヴィー先生が作ったばかりのがあるの!」

「待ってくださいエリザベス、あれは」

 セラヴィーの制止の声も聞かずに、エプロンドレスのエリザベスが薬を取りに席を立った。

 

「ずいぶんとタイミングよく作っていたんだね?」

 梓の疑問はもっともだが、セラヴィーには作る理由があるだろう。

「もしかして、どろしーちゃんに使うつもりだった?」

「なんのことでしょう?」

 この反応、当たりっぽい。まだ諦めてないのか。

 処女化させたり記憶操作したりした俺が言える立場じゃないけどさ。

 

「はい、これ」

 中に液体の入ったガラスの小瓶をエリザベスが渡してくれる。

「こっちの世界では必要な材料がなかなかなくて、それしかできなかったんですよ」

 ぶつぶつと文句を言うセラヴィー。

「これだけ? ……これって何人分?」

「もちろん1人分です」

 むう。これでは熟女を若返らせるには量が足りない。

 

「どうしよう?」

「1人分あれば十分よ」

 もしかして華琳、1人だけ選んで残りは剣士か柔志郎のファミリアになってもらうつもり?

 選んだ以外の熟女に恨まれそうで、俺には選べそうに無いんだけど。

 

「だって煌一が飲むのでしょう?」

「俺が?」

「そうすれば煌一も学校に行けるわ」

 そりゃそうかもしれないけど。

 ……熟女たちには、設定改変で若い姿への変身能力を追加するしかないのか。

 俺、ちゃんとイメージできるかなあ?

 好みに合わせちゃって必要以上にロリにしそうで避けてた案なんだよ。

 

「いいんじゃない? 煌一も入学すれば」

 梓も同意しちゃうの?

 ううむ。ゲームと同じトラブルの解決には、現場にいた方がいいのはたしかだしなあ。

 学生じゃなきゃ島内には入り辛そうってのもあるし……。

 

「年増やしの薬も作れるんだよね?」

「セラヴィー先生なら当然なの」

 元大魔王ではなく、ロリメイドが胸をはる。

 ならいいかな?

 若返るってのも悪くなさそうだよね。

 人形薬の時は回復ベッドで治ったから、たぶんこれもベッドで元に戻れるはず。

 

 目的の年齢になれる分量をセラヴィーに確認して、俺は魔法薬を一気にあおった。

 セラヴィーがぶつぶつ文句言っただけで、素直に薬をくれたのが頭の隅に引っ掛かってはいたけど……。

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。