真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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32話 セラヴィー

 元の――フィギュアではなく、成現された人間の――姿に戻ったレーティアを連れ、たまにはと百貨店の屋上に移動。早めの昼食をとることにした。

 普段なら節約するGPで自販機のジュースを買ったりしながら。

「これがコーラ? 随分と甘いのね」

「炭酸は……ああ、ビールで知っているか」

 瓶のコーラなんて何年振りかな。

 

 大魔王サンダルことセラヴィーをみんなに説明する俺。

 さすがに赤ずきんチャチャのDVDは持っていなかったので記憶が頼りになるけど。

「魔力が滅茶苦茶高かったのはわかったよね? それだけじゃなくて、見様見まねでたいていの魔法を使えてね」

「煌一みたいなのだな」

 クラン、なんでそうなるのさ?

 セラヴィーは見本よりも上手く使っちゃうんだけど。

 俺は見ただけじゃだめで、受けないと使えないっぽいし。

 

「それだけじゃなくて家事も得意で」

「煌一みたいじゃない」

 ヨーコ、俺は頭巾を作ったりしません。

 

「さらに人形好きの変態で」

「煌一みたいだな」

 レーティア、俺のプラモと、初恋の子をモデルにした人形をいっしょにしないで。

 だいたい、俺は作る方が好きなわけで。メインはロボだし。

 フィギュアはちょっとしか買ってないんだってば。

 

「ふられ続けている女性を自分のお嫁さんと言い続け、その女性に近づく男を始末していて」

「煌一」

 華琳が人差し指で自分の首をとんとん。……チョーカーを指差してるのね。

 はっ。俺も嫁に男が近づかないようにしているって言いたいの?

 そりゃ浮気防止には力入れたけどさ!

 

「なんか、聞けば聞くほど煌一みたいなやつなんだな」

 梓、そんな大きなため息つかないで。

 

 ……もしかして俺とセラヴィーってキャラかぶってる?

 というより、俺の上位互換? 俺って劣化セラヴィー?

 いやいやいや、まさかまさか……。

 そりゃ俺も根に持つタイプだけど、あそこまで性格悪くないと思うし、フィギュアで妄想はしても人形と腹話術で会話するほどの上級者じゃないよ。

 これは誤解をとかなきゃいけないな。

 本屋か古本屋でチャチャの漫画を探さないと。

 

「あの頭は被り物だと思う」

 アニメ版の敵である大魔王の姿だったけれど、漫画ではセラヴィーは大魔王の長男サンダル。

 同じく大魔王の息子で末っ子の平八があの被り物を使ってたまに魔王をしていた。

 たぶん、その時の制服なんだろう。

 

「華琳、君の鑑定でわかったことってあった?」

「セラヴィーという名前はわからなかったわね」

 サンダルの方が本名だもんなあ。

 セラヴィーは通称とか人間名ってことになるのかな。

「けれど、魔人ではあるようね」

「やっぱり魔族側のプレイヤーなのか。……ということは、他の世界から連れてこられた可能性もあるのか」

「そうじゃろうな」

 似た立場なだけに同情する。

 レーティアを人形にして自分のものにしようとしたことは許さないけどさ。

 

「あと、洗脳という状態異常になっていたわ」

「え?」

 洗脳?

 自分の意思で大魔王やってるんじゃないってこと?

 でもコミックスの最終巻で大魔王になったんじゃなかったっけ?

 

「魔族が魔人をつくる時は、神さんたちと違うて、相手を騙したり洗脳したりして魔人にすることも多いんぜよ」

「騙して?」

「そうじゃ。普通じゃ無理なやつでも、心が弱ってる時に誘惑したりしてのう」

 まさに悪魔。

 じゃなくて魔族か。

 

「そういえばレーティアを人形にした時、これでもう逃げられないって言ってたわね」

 もしかしたら執着している女性、どろしーちゃんに逃げられたのかもしれない。

 それで落ち込んでいる時に魔族に唆されたのかな。

 漫画でも、最終話でどろしーちゃんとの勝負に敗れ、決定的にふられて、やつれるほど落ち込んでいたはず。そのタイミングで隙をつかれたか。

 

「よし。洗脳を解こう」

「なにを言うとるんじゃ。大魔王ぜよ、倒すんぜよ!」

 倒せば世界救済って簡単に思い込んでるのかな。

 あのセラヴィーを倒したところで、第一の修行クリアって気はしないんだけど。

「……無理でしょ、あんなの倒すなんて」

「き、きっと弱点ぐらいあるぜよ」

「弱点、ねえ」

 ギャグ漫画ならではの不死性能だろうし、殺すのは不可能。

 それ以前にダメージ与えられるかも怪しいし。

 世界一の魔法使いということでその座をずっと狙われ続けて実戦経験も豊富。魔法攻撃は得意のラーニングとカウンターで倍返しされるとみていい。

 バリアーで物理攻撃も効きそうにないし、ギャグで対抗しようにもうちにはそんなメンバーはいない。

 相手の弱みにつけこむのも得意な両さんがいればなあ。

 ……ちょっと話聞いてくるか。

 

 

「セラヴィーか。あの根性悪はたしかに厄介だな」

 持っていったデスクでプラモを作ってる片手間に俺の話を聞いてくれてる両さん。

「知ってるの?」

「まあな」

「やっぱりどろしーちゃんを探すかな」

「どろしーじゃあの極悪人には勝てないし喜ばすだけだろ。どろしーはいいやつだ。あんな悪魔にやるのは可哀想だぞ」

「マジで詳しいですね」

 もしかして同じ出版社だから?

 ……あ、そういえばドラマの両さん役がチャチャの(わんわん)の中の人だったっけ。だから詳しいのかな。

 

 

 両さんからの情報を持ち帰り再びみんなと相談。

「返せないように僅かな時間差をつけながらの魔法系の連続攻撃?」

 うん。ただ、俺の魔法をもっと上級にしてから行うべきだけど。

「バリアーを貫通できる武器の開発?」

 特種な弾丸や、カウンター系の武器もいいかも。

 

「なんてのが、思いついた戦い方なんだけど」

「……どれも時間がかかりそうぜよ」

「そう思うんなら、自分で案を出せ」

「わ、わかったぜよ」

 剣士が悩み始めたが、あてにはならない。

 しばらく待つが意見も出てこないようなので次の案へ。

 

「セラヴィーには大事にしている人形があるんだ」

 そう。初恋の女性、どろしーちゃんの幼い頃をモデルにしたぬいぐるみ、エリザベス。

 セラヴィーといえばエリザベスを使っての腹話術も印象が強い。

「それを使おう」

 ただ、さっきは持っていなかったので城内を探さなきゃいけなそう。

 

「問題はどうやって城に侵入するかなんだけど」

「囮を使いましょう」

「囮?」

「あれはこの様な髪型が好きなのでしょう?」

 自分のくるくるを指でいじる華琳。

 

「けど、男じゃ駄目だよ」

 男でいいなら、剣士にヅラでもかぶせるんだけど。

「ん? なんじゃ?」

「神様なんだから、女の子になれたりしない?」

「無理ぜよ」

 それぐらいできたっていいだろうに。

 スケ番ルックな美少女をちょっと期待したのに。

 

「囮は煌一に用意してもらうわ」

「また新しい娘を成現させろってこと?」

 むう。金髪くるくるか。

 神月かりん……華琳とまぎらわしいか。似たタイプのルヴィアなら近接戦闘もできるし、ステッキで魔法少女にもなれるな。

 流星のの委員長もいいかもしれない。オヒュカス・クイーンに電波変換できるようにして。……それだったらオヒュんちょの方でもいいか。

 ユーミル……武器の調達にはいいかもしれない。姫と参謀のどっち? で迷うけど。

 はじけるレモンの香り……くるくるには違いないけど、どうなんだろう?

 

「候補はいるようね。けれど、囮にするなら相応しい者がいるのよ」

「それって恋姫†無双ぬいぐるみに?」

 だとしたら2人ぐらいしか金髪くるくるは思い浮かばない。袁紹と袁術ちゃん。

 袁術ちゃんは既に救助済みではあるんだけど。

「いくら強運とはいっても小さい子を囮にするのは気が引けない?」

「……袁紹の方よ」

 ああ、袁紹を救出してから囮にするというわけね。

「じゃ、今日の残りははメダル購入のために自動車回収かな」

「ワシもか?」

「いや、俺たちだけで大丈夫だから、剣士はあっちの世界で大魔王の情報を少しでも集めてきなさい」

 元はといえば、剣士の情報不足が悪い。

 金髪くるくるフェチだとか、あの外見がわかっていれば、大魔王の正体ももっと早く判明したのに。

 

 ……あっちの世界、大魔王の城しか見てないんだよなあ。

 もっと普通の城や、武器屋とか見たかったな。

 定番の冒険者ギルドもあったりして。

 いきなりラスダンはちょっとなあ。

「剣士のスタッシュに車が入れば、俺たちが情報収集するのにさ」

 共有スタッシュの容量は小隊の人数も影響するから、まだ髑髏小隊の共有スタッシュでしか自動車入らないんだもんなあ。

 

「わかったぜよ」

「あと、大魔王の攻略法も一応、考えておくんだよ。使わなかったとしても、今後こういうのを考えることが増えるんだから。あとでちゃんと聞くからね。宿題だよ」

「しゅ、宿題……」

 剣士は顔を青ざめさせながら出発した。

 そんなに頭を使うのが嫌なの?

 

「煌一、先生みたいだな」

 勘弁してくれ。

 それこそセラヴィー先生と呼ばれていた大魔王みたいじゃないか。

 ……俺だってロリになら先生って呼ばれたいけどさ。

 

「そういうのは教師役というのが最初の目標だったヨーコとクランにまかせたいんだけど」

 ヨマコ先生ルックもクランの白衣もまだ見てないし。

「そう言われてもなあ」

「あんな見た目だけど、中身は子供だからさ」

「たしかに剣士はなんか小さな子みたいなところ、あるわね」

 小学生というか、もっと小さな子というか。

 実はスキルで姿を誤魔化していて、正体はショタだったりして。

 もしそんな姿だったら……逆にむかついて、暴力的指導しちゃったかもしれないか。ゲンコツぐらいはくれていたろうな。

 せめてロリだったらなあ。……今度は甘やかしすぎたかもしれん。

「やっぱ今のままの姿でいいか」

 なに言ってるんだ? という表情の嫁さんたちの前でうんうんと頷く俺だった。

 

 

 柔志郎担当世界に移動した俺たち髑髏小隊は、亀有にあるもう1つのデパートに向かった。

 環状七号線沿いで、駅のデパートと同じ系列だがショッピングモールや映画館もある、いわゆる郊外型の店舗だ。

 駐車場も大きいので、車も多いはず。

 その分、ゾンビも多かったけど。

 路上の車と違って雨ざらしになってないので、少しでも高く売れると思う。

 臭いけど、消臭魔法を使えば問題ないし。

 

「なあ、中にゾンビが入ってる車の方が鍵がついてるんじゃないか?」

「そうだろうけどさ……」

 ドアを開けられずに窓を叩いてるゾンビが中にいる車の前で相談する。

「ドアを開けてダッシュで移動してさ、追いかけてきたゾンビを上手く巻いたらスタッシュに入れればいいだろ」

 うん。合理的な作戦っぽい。

 だが、その計画には穴があった。

「あれ見て」

 照明魔法の光球を車の側へと移動させ、車内を照らす。

 魔光球の魔力に反応してゾンビの動きが激しくなった。

「げっ」

 助手席にチャイルドシートで固定されている乳幼児のゾンビ。

 あいつは、追いかけてはこれそうにない。

「親ゾンビがいなくなったら、あの子を車外に放り出して車を奪う?」

「……ごめん、無理」

「だよねえ」

 俺たちは諦めて、感知で確認しながら車内にゾンビがいない自動車を選んで共有スタッシュへ入れてポータル、ゲートで移動。サイコロ世界に自動車を置いてまた駐車場へ、を繰り返した。

 

「こんなもんかな」

 ゲートそばの道路に並べた10台の自動車。

 共有スタッシュのレベルも上がり、もう軽自動車だけでなく、普通自動車までも収納できるようになっていた。

「あとは鑑定して、車種と年式を調べて買取り用紙に記入、と」

 これが意外と時間がかかる。

 カーナビ付き、カーステレオ付き、等で別物扱いになりそうだからだ。

 

「ハイブリッド車か。これもビニフォンみたいにバッテリーに魔力で充電できれば燃料の心配はなくなるな」

 まあ、その前に鍵だろうけど。

「そうだなあ。ここって大きいけど密閉されてるんだろ? 空気はあんまり汚したくないし」

「それは当然なのだ」

 排ガスも考えると、このサイコロ世界では自動車は乗りにくいか。電気自動車は研究所が用意できてからだな。

 そのためには、剣士の世界を救済してGMやGPを一気に稼ぐのが、一番早そう。

 

「そもそも自動車乗るほど遠くに行く時はポータル使っちゃうんだよなあ」

「出陣先での移動には使えるのではないか」

 うん。そうなんだけど、それこそ鍵と燃料なんだよねえ。

 スカイツリーや秋葉原にも行ってみたいから、手頃なのが見つかればいいけど。

「ならさ、柔志郎に買ってきてもらえばいいだろ」

 あ、その手があるか。

 でもトウキョウがゾンビタウン化してる影響で物価が上がってそうだしなあ。登録の時の身分証明も考えなきゃいけない。

 ……燃料だけでも買ってきてもらえばなんとかなるか。

 

「これでおわり」

 書き終わった買取り用紙をもう一度見直してから、残った1台にペタリと張る。瞬時に車が消えて、買取り終了。

 ビニフォンでGPを確認する。

「外車でもそんなに高くなかったのは予想外だったねえ」

 車の元の販売価格は関係ないのだろうか?

 それでも、かなりのGPが貯まったので、ポータルで百貨店に移動する。

「やっぱり車あっても、ここじゃあんまり使わなさそう」

 そうだよねえ。

 

 

「ああっ、惜しい!」

 出口目前でアームから落ちる袁紹ぬいぐるみ。

 彼女の前に先に数人を救助しないと取れない位置だったので、メダルの残りも少ない。

 これは下手したらもう一度、自動車泥棒してこなきゃ駄目か? 

 金のかかる女である。

 

「まあ、ここまでくればそうは失敗しないか」

 重心を捉えたアームにほっと一息。

「手間のかかる女ね」

 この後の説得も手間かかりそうなんだけど。

 剣士もまだ戻ってこないし、大魔王攻略は明日かな。

 

 今回、救助できたのは馬超、厳顔、璃々ちゃん、夏侯淵、典韋、郭嘉、甘寧、呂蒙、袁紹、公孫賛、ミケ、シャムの12名。

 袁紹救助を優先しなければもう少し人数が増えせたはずなんだけど仕方ない。

 なんとか璃々ちゃんも助け出せたし、よしとしよう。

「さっそく袁紹を復活させる?」

「明日でいいわ」

「今夜寝るまでにやっといた方がMP使いきれていいんだけど」

 寝る場所がないのが問題なのかな?

「明日1日だけ戻っていればいいわ」

 むう。それはそれで可哀想な気もするけど……。

 

 

 夕食のうな重は、戻ってきた剣士や柔志郎にも好評で、多目に買っておいて正解だった。

 俺も今日は酒も飲まないで食事を堪能したし。

「こうなると、季節のものをチェックしに百貨店はこまめに行った方がいいか」

「そうだな。今度は西瓜、あるといいなあ」

 カキ氷も食いたいな。ディスカウントショップあたりに氷かきとシロップ、置いてないかな?

「素麺もいいッスよ。流し素麺やりたいッス」

「竹ぐらいなら、剣士んとこにもあるかな?」

 あったら竹の子も期待できるんだけど。

「竹? 見た記憶はあるぜよ。どこじゃったかなあ?」

 あとで、剣士の担当世界の国、地名やモンスターの生息状況をまとめさせよう。

 ……結局俺たちがやることになりそうな気もするけどさ。

 

 夕食後はデパートで新たに入手したトランプやボードゲームを楽しむ。

 環七沿いのデパートには待望の玩具店があったので、駐車場への移動のついでに個人用のスタッシュに入れておいたのだ。

 ちゃんとマーキングもしてあるから、あとでまた行こう。

「単純なワリに面白いわね」

 華琳とレーティアがプレイ中なのはオセロ。

 囲碁があればよかったんだけど、あれはやっぱり分厚い盤でやってほしいな。あれってどこで手に入るんだろう。……なければ作るしかないか。

 

「2人には勝てないわね」

「角とったはずなのに、そこしか残ってなかったりするしな」

 ヨーコと梓が言うのも無理はないだろう。天才同士の駆け引きは、オセロなのに見ていてかなり盛り上がる。

 智子の解説で、なんとなく俺たちにもその指し手の意味がわかる気もするし。

 

 剣士は獣組とババ抜きで盛り上がっている。

 一番先に抜けたのがカシオペアか。あの前足でよくカードを掴めるな。

 最後に残ったのは剣士とセイバーライオンか。2人とも顔に出やすいから延々とババが行ったりきたりしているようだ。

「なかなかやるぜよ」

「がお!」

 

 俺は夕食の洗い物を終えたら、203号室に戻って、アイテム作成に入る。

 今回用意するものは生活用品。

 デリケートな部分に使う物だから、もし成現が切れても人体に害がないものを素材にしたい。

 インターネットで調べてみる。

 ふむ。水と片栗粉でできるのか。

 203号室のキッチンで試しに作ってみた。……これでいいのか?

 迷ったあげくにできたものをプラ製のボトルに入れてEP注入開始。

 

 ……なにやってるんだろう俺。

 生活用品じゃなくて性活用品だよね、これ。

 ならいいじゃん。この後のお楽しみのためにも!

 

 あれ? EP低下によるネガティブがあっさり通過できちゃったな。

 これは作っているアイテムのおかげ?

 悩みながらも俺は成現する。

 

 

 翌朝。

 満ち足りた気分で目覚める俺。

 隣で眠るクランの髪をなでながら、昨夜を思い出す。

 

「ちゃ、ちゃんと綺麗にしてきたのだ!」

 華琳情報だろう、真っ赤になってその事を告げるクランに俺は我慢できるはずもなく。

 何度も「でかるちゃー」って声を上げさせたわけで。

 隣の部屋に聞こえていないかちょっと心配。

 

 けれど今回は回復魔法の熟練度は上がらなかった。

 準備をしっかりしたからね。

 成現したローションも効果バッチリだったしさ。

 

 今確認したら、かわりに開発系のスキルを入手していた。

 18禁系の開発スキルを……。

 

 

 

 1日ぶりの剣士担当の世界。

「その大魔王さんとやらに会いに行けばいいんですのね」

 元に戻ったばかりなのに、やけに自信たっぷりな袁紹。

 彼女は小隊に入ってないばかりか、大魔王に疑われないようにファミリアにすらなっていない。

「ええ。そして攫った女性たちを解放するよう説得なさい。麗羽ならできるでしょう?」

「もちろんですわ。この私の言葉を聴けば、大魔王さんも改心するでしょう」

 華琳の挑発ぶくみの説明にあっさり乗っちゃったし、だいじょうぶかな、この人。

「危険はないわ。大魔王は美しい女性に目がないのだから」

「まさか華琳さんが私を頼るとは思いもしませんでしたわ。けれど、それも美しさが必要なら当然ですわね。おーほっほっほっほ!」

 命の危険はないだろうけど、別の危険はあるんだけどなあ。

 予想以上の袁紹のキャラに、華琳以外のみんなが引きつった表情してる。俺もあんな顔になってるのかな?

 

「それでは、大船に乗ったつもりでお待ちになってればよろしいですわ!」

 おーほっほっほと高笑いしながら門番の大リザードマンに向かっていく袁紹。

 門番も面食らってるみたいだな。

 

「次はワシの番じゃな」

 袁紹が強引に中に入っていったのを片方のリザードマンが追っていったのを確認。今度は剣士の小隊が動き出す。

 

「またきたぜよ、大魔王サンダル! 今度こそ年貢の納め時ぜよ!」

 大声で宣戦布告。

 ……あとでもっとカッコいい口上を華琳に教えてもらった方がいいかもしれない。

 

「大魔王様は今、変な女と会っているのデ、お忙しイ!」

「なら、おまんが相手ぜよ!」

「がお! がおがおが!」

 セイバーライオンも挑発に参加する。

 俺にはよくわからなかったけど、リザードマンには通じたようで、彼は門の側を離れた。

 

「今なら敵の反応はない」

 その隙をついて、俺たちは城内へと侵入する。

 隠形と探知を最大に使いながら、城内を探索する。

「もっとモンスターに会うかとも思ったけど、全然いないな」

「昨日も大魔王が直接確認しにきたぐらいだしさ、人手不足なんじゃないか?」

 ……大魔王と門番しかいないってことはないと思うんだけどなあ。

 っと、ここはまずい。たぶん謁見の間とかそういうの。

「大魔王の注意が麗羽にうつっているようね」

「うん、見つからないように急ごう」

 ずっと巨大な城内を走っているけど、鍛えたおかげかなんとかバテずに走っていられる。それとも昨日のうなぎが効いたかな。

 

「あの塔の上!」

 やっと目的のエリザベスの探知に成功し、塔を駆け上がった。

 ……けっこう高い塔だね。俺も飛べたらなあ。

 飛行魔法とかありそうなんだけどなあ。

 

「煌一! 麗羽の反応が消えたわ!」

 大魔王の方を探知していた華琳が叫ぶ。急がなくては。

 塔のてっぺんの部屋、何重にもかけられた鍵を魔法で強引に解除していく。

「開いた!」

 部屋の中は綺麗に片付けられており、いくつもの人形が並べられていた。

 その中央、人形たちの玉座のような綺麗な椅子に乗っている人形を手にとり、俺は話しかける。

「やっと会えたね、エリザベス」

 俺は、作戦の内容を彼女に話すのだった。

 

 

「そこまでです!」

 扉から大魔王の声が聞こえる。

「なにを企んでるかは知りませんが、この子たちになにかしていたらただじゃおきませんよ」

 部屋に入ってきたその手には袁紹ぬいぐるみ。

 やはりぬいぐるみされていたか。

 だが、その犠牲は無駄ではなかった。俺たちが間に合ったのだから。

 

「なにを言ってるの? セラヴィー先生」

 大魔王をそう呼ぶのは、頭に大きな赤いリボンをつけた金髪碧眼の幼い美少女。

 その姿を見て、サンダルの動きが止まる。

「どろしーちゃん?」

「違うわセラヴィー先生」

「どろしーちゃん、どろしーちゃんどろしーちゃん!!」

 違うと言っているのに少女に駆け寄り、袁紹ぬいぐるみを放り投げて、彼女を抱きしめる。

「痛いわセラヴィー先生。その手袋を外して」

 少女が苦しがったので、慌てて少女をはなし、指先の尖ったガントレットのような物を外した。

 再び少女を抱き上げようとするが、少女が両手を前に突っ張って拒絶する。

 

「そんなものを被っているから私がわからないのね。セラヴィー先生、顔を見せて」

 今度も素直に頭の被り物を脱ぐ大魔王。

 そこから現れた顔は、漫画やアニメで知ってるセラヴィーの顔。そして、だばーっと滝のような涙を流していた。

「どろしーちゃん」

 今度は素直に抱き上げられる少女。

「セラヴィー先生、まだ正気じゃないの」

 悲しそうな表情を見せる少女。

 それを困った顔で見つめるセラヴィー。

 

「あなたは……エリザベス!?」

 そう。彼女こそ、俺が成現させた人形、エリザベス。

 俺たちの作戦の真の目的はエリザベスを人間にすること。

 そして、エリザベスにあるアイテムを渡すこと。

 

「思い出すのが遅いの、セラヴィー先生」

 微笑みながら、エリザベスは俺たちが渡した小さな球体をセラヴィーの額に叩きつけたのだった。

 

 




このセラヴィーは、最近出たチャチャNではなく、チャチャの最終話のどろしーたちが魔界にくる前のセラヴィーです

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