真・恋姫†有双……になるはずが(仮)   作:生甘蕉

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今回は3人称


124話 天井さんの家庭のじじょー

 豪華旅館にしか見えないが4面の新たな本拠地であるそこの1室、営業中の喫茶店で地和は立ち上がってブイサインしながら集った面々に宣言した。

「では、これより『次女の会』の記念すべき第1回会合を行うわよ」

 ブイサインはVではなく、次女の2の意味のようだった。

 

 ぱち、ぱち、という盛大な、ではなくとりあえずつきあいで的な拍手が行われる中、おずおずと挙手する者がいた。

「なに蒲公英?」

「会長、お姉様のとこの次女だったらたんぽぽじゃないんだけど?」

「んー、次女的ポジションってやつ?」

 英雄譚のキャラがいないから……と諦めたように呟きながら蒲公英は手を下ろした。

 

「はい、蓮華さま」

 次に手を挙げた蓮華はちらりと隣を見る。

「華琳やレーティアがいるのは?」

「次女的ポジションなのでしょう? 愛紗と同じよ。私はクラン姉さんの義妹なのだから」

「ああ、クラン、華琳、ヨーコの義姉妹だっけ」

 彼女たちは盃を分けた義姉妹だった。思い出したようにぽんと手を打つ梓。

 

「では私はなぜ呼ばれたのだ? 義妹ということなら美羽だろう?」

 レーティアが首を傾げる。

「だってあんた、麗羽の義妹でしょう。美羽さんの姉なら私の妹になるのは当然ですわ、とか言ってたわよ、あいつ」

「な……」

 天才少女は珍しく絶句した。その肩を華琳が叩く。

「あれの頭の中ではそう決定しているようね。諦めなさい」

 

「なんで私まで……私はあいつを父親とは認めていないぞ」

 不満そうなのはダークプリキュアことゆり子。

「認めてないわりには素顔を見てるのに呪いがかかった様子もないが?」

「元から嫌いなだけだ!」

 秋蘭のツッコミに顔を真っ赤にしながら立ち上がりゆり子が怒鳴る。

「まあ、あんたは智子の妹ってことは認めてるんでしょ。だから次女、それはオーケー?」

「……わかった」

 隣の結真になだめられて、ゆり子は座ってコーヒーを口にした。姉直伝の砂糖たっぷりのコーヒーを。

 

 現在この(テーブル)にいるのは、言いだしっぺで会長である地和の他、華琳、梓、レーティア、愛紗、蓮華、秋蘭、蒲公英、結真、ゆり子といった4面のメンバーの他にワルテナ、チックウィードといった他の面からのゲストもきていた。

 

「朱里ちゃんも次女だと思うのですわ」

「史実とやらに準じたら季衣もそうだし他にもいるのでしょうけど、確認がとれた次女のみよ」

「ワルテナこそ、次女ではなく長女ではないのか?」

 ワルテナの疑問に答える華琳と質問で返すレーティア。ギリシア神話ではアテナがゼウスの長女とされることが多かったはずだ、と。

 

「長女はお姉様ですわ」

「それはもしかしてポロりんの双子の姉?」

「そうですわ。お姉様は産まれてすぐにポロりんの出産に立ち会い、安産も司っておるのですわ」

 産湯と称して海に叩き込まれたとポロりんがガクブルしながら語るスパルタな産婆女神だったりする。

 

「それが、柔志郎なのね」

「柔志郎さん? ……言われてみればポロりんに似てますね。そういえば最近お姉様に会っていないのですわ」

アポロン(ポロりん)の双子ってアルテミスよね。なに、柔志郎ってアルテミスだったの?」

 特大のパフェを堪能していたチックウィードもさすがに驚いた。

 

「言われてみれば会った頃は弓を使ってたしファミリアは狼だな」

 腕組みした梓がうんうんと頷くが、ワルテナはそれに首を傾げる。

「あら、お姉様の好きな獣は熊ですわ」

「そうなの? 月の神だからてっきり狼かと思ってた」

 結真の声にワルテナはちっちっと指を振って。

「狼が聖獣なのはポロりんですわ。でも、柔志郎さんがお姉様……それが合っているのかはわかりませんわ」

「まあ、いいでしょう。今のところはそれにたいした意味もなさそうだし」

 自分で言い出しておきながら華琳はあっさりとその話題を引っ込めて意識をテーブルのモンブランに移した。今は柔志郎の正体よりもモンブランの出来栄えの方が気になるとばかりに。

 

「で結局、集まったのはいいけどなにを会議するんだ?」

 梓の問いに地和への視線が集まる。

「次女の地位の向上についてよ! 姉妹の中で次女が一番素晴らしいことを世間に知らしめるにはどうすればいいのかを話し合うための会合よ」

「そうなの? 私はてっきり姉妹の愚痴を語り合うための集いかと思ってたわ」

「結真んとこも仲よさそうだけど、やっぱりそんなのあるんだ」

「そりゃああるわよ。アンタだってそうでしょ?」

 会長の議題をよそに、姉妹についての愚痴りあいが始まってしまった。

 

 

 

「だからさ、柏木家は4姉妹だっつの。あたしを病院で間違えた子扱いするなっての……会いたいなあ」

「梓もけっこうたまってたのねぇ」

 話している内に会えるはずのない家族のことを思い出して感極まったのか、目を潤ませて黙ってしまう梓。

 

「そろそろ話題を変えましょう」

「では……そうね、煌一のことでも話し合いましょうか」

「次女関係ないじゃない!」

 華琳の提案に地和が反発するも、秋蘭が妥協案を出した。

 

「姉妹を任せられる男かどうか、なら問題はあるまい」

「それなら、まあ……まず秋蘭はどうなの?」

「姉者に耐えられる男だ。精神的にも物理的にもな」

「あー」

 姉の夫に求めるのはそれなの、な秋蘭の意見に皆は春蘭を思い浮かべて納得するしかなかった。

 

「ずっと呪われていたせいで自己評価は低いが、あいつは凄いぞ」

「そうだよね、格好いーよね!」

「あのお顔をいつも隠しているのは残念だ。早く呪いを解いて差し上げたい」

 レーティアの意見に夫の顔を褒める蒲公英と愛紗。

 

「助け出してくれた時や、初めて素顔を見た時はすごくかっこよく見えたわね」

 姉いわく3倍くらい増量だった凛々しい夫の顔を思い出して蓮華は頬を染める。女神の祝福により呪われた時に見たのは初めてにカウントされないらしい。

 

「幼くなった時の煌一さんにそっくりなエロ坊も美少年で有名ですわ。成長した姿はさぞ美形だと想像できるのですわ」

「ふーん。ちょっと見てみたいかも」

 ゲスト2人はいまだ見たことのない煌一の素顔に興味を示す。

 

「ワルテナは女神様だから呪いかからないだろうからいいけど、チ子は……エルフは人間じゃないから平気なのかな?」

「子供が作れる組み合わせだとたぶん駄目ですわ」

「そう、残念ね。それともチックウィードも煌一の妻になる?」

「そのつもりはないわ」

 特大パフェを食べ終えたエルフの少女はメニューをひろげ、次の注文を選び始めた。この少女もエルフの細い見た目とは裏腹にかなりの量を食べる。ただし、甘味限定だが。

 

「顔だけじゃないぞ。煌一のMPやスキルは驚異的だろう。特にあの成現(リアライズ)は無茶苦茶だ」

「そうね。人形から人を作り出して、今は巨大な乗り物までも。それも思い通りになんて妖術というより、もはや神の創造のよう」

「成現はレアスキルの中でもかなり珍しい部類なのですわ。それをあそこまで使いこなしているのですから、師匠は凄いのですわ。もし、上位スキルの顕現でしたら、すぐにでも神降ろしができるクラスなのですわ」

「……煌一ならフィギュアがあれば神様も成現できちゃうんじゃない?」

 梓の問いかけに静まりかえる。

 皆がありえると思っていたがそれを認めてしまうと、夫がさらに人外になるようで妻たちは口にできなかった。

 

 その沈黙を破ったのはゆり子である。

「あの男は鬱陶しい。毎日のように学校のことなどを聞きたがる。娘ではないというのに」

「これが反抗期ってやつかねぇ」

「もっと甘えればいいのに」

 梓と蒲公英が呆れ顔。

 

「もしかして、父親と認めたくないのは煌一のことを父親ではなく男として見ているからではないかしら?」

「誰があんな男を!」

「真っ赤になるのがあやしいわね」

「私は姉さんとは違う!」

 智子のことを姉さんと呼ぶのにはやっと慣れたゆり子。今回も無意識のうちにそう呼んでいた。

 

「智子の方もなの?」

「あの子、好きな人がいるからって告白断ってるの見たことあるけど、それが煌一? 禁断の恋?」

「ただの口実じゃないのかしら? それにもしそうだとしても血は繋がってないのだから問題はないでしょう」

 この場にいない者にも話はとびはじめ、いつのまにか誰が夫を狙っているという話題に変わっていた。

 

「越後屋は確定でしょ」

 地和は、仕入れのためと称して毎日のように屋敷に顔を出す越後屋の名を出す。

「だな。だけどあいつは煌一のことを好きでってわけじゃないから認めるわけにはいかないだろ」

「そうだな。あいつははじめとは違う」

「損得のみでのつき合いでは夫は落ちこんでしまうわね。それどころか私たちのこともそうなんじゃないかと疑う可能性も高い」

 ため息をつきながらの華琳を抗議するかのように愛紗が続ける。

 

「打算では呪いをこえられなかったのだろう。だからあの方は愛にこだわられるのだ。そして、私たちはそれに応えねばならぬ!」

「わかってるじゃないか。愛紗もしっかりと煌一を見てるんだな」

「フィルターかかってる気がするけど……」

 感心する梓に、若干引き気味のチックウィード。しかしすぐに運ばれたばかりのケーキの切り分けに集中する。さすがに1ホール全てを自分1人で食べるつもりはないようだ。

 

「たしかに私たちの結婚は煌一さんに恩を返すため。だけど、もはやそれだけではない。姉様だってシャオだって彼を愛しているわ。わ、私だって……」

 耳まで真っ赤になった蓮華の声が小さくなっていく。

 

「そうね。きっかけはどうあれ、煌一のことを本当にわかる娘じゃないとねえ。結真のように」

「えっ! っ……」

 ジンジャーエールを飲んでいる最中に急に自分にふられて咽る結真。

 

「みなさんが本当に師匠を愛してるのが伝わってきますわ。ごちそうさまですわ」

「あれで伝わってくるの?」

「乙女の妄想力を舐めてはいけないのですわ!」

 金髪爆乳で派手な見た目だがこの女神は処女神だったとチックウィードは思い出した。

 

 

 

「煌一狙いで出てきそうなのはこんなとこか」

「私は違うっての!」

 自分も候補に挙げられて断固としてそれを認めないチックウィード。

「そりゃ、あいつはよく差し入れ持ってきてくれて、それがお菓子の時は私も喜ぶけど、それだけだから!」

「あー、はいはい。餌付けされたんだな」

「ちっがーう! そんなことよりもレーティア、エンジンはできそうなの?」

 これ以上否定してもこいつらには通用しないと話題をそらすエルフの少女。図星をさされて焦ったわけじゃないと心の中でいいわけをしながら。

 

「設計図はもう送ったぞ。あとは素材とドワーフたちの腕次第だな。そっちは信用してるから問題なかろう」

「それが完成すれば応用して他のロボットもできるんですわね?」

 ぽんと大きな胸の前で手を打つワルテナ。

「ああ。ワルテナはなにか乗りたいのがあるのか?」

「そうですわね。私の名前からいくとやはりバルキリーかパラス・アテネでしょうか。キングゲイナーのブリュンヒルデは微妙ですわ」

「……すまん、バルキリー以外はわからん」

 聞いておきながらわからなかったことを謝るレーティア。

 

「かまいませんわ。こちらで私の話についてこれるのは師匠ぐらいですもの」

「そういえば煌一が新作のΔでもうワルテナが召喚できそうなことになったとか言ってたな」

「ああ、彼ですか。……狙い撃ちされたのが心臓じゃなくて脳だったらすぐにでも英霊召喚(ヴァルキリースカウト)したのですわ。けれど、あのシリーズはサイボーグも出てきますし、最終回をむかえてから召喚を試すのですわ」

 自分としては敵役の美少年たちの方にこそ期待してるのですが、と戦死者を希望する女神。他の会合出席者はその不吉ながらも神々しい微笑みに背筋が寒くなるのを感じた。

 

「そ、そろそろ議題もつきたみたいだしお開きにしよっか?」

「そ、そうね。次回はどこでやる?」

「それなら次は2面にするのですわ。この前のお寿司屋さんをキープしておくのですわ」

「あなたは今回限りのゲストのつもりだったのだけど。……でもあの店なら悪くはないわね」

 交流戦のあとに行った店ならば、と華琳もそれに賛成する。

 

「うーん、甘味じゃないなら私ゃパスね。忙しくなってそうだし」

 同じくゲスト扱いのはずのチックウィードは欠席を表明。他に拒否者はいなかったのでそのまま次回開催地が決定した。

 

 

「ねえねえ、この後どーする? 本拠地(ここ)のゲームコーナーよってかない?」

「シミュレーター何台も設置したんだっけ。それもいいな」

 会計を済ませ全員が蒲公英について行くと、そこはすでに温泉地のゲームコーナーというレベルではなくなっていた。

 

「こんな大型筐体を16台も置いたの?」

「小隊同士の対戦ができるようにな。ついでにあっちの大型モニタで対戦風景が第三者視点で見れるぞ」

 そこにいた煌一がドヤ顔でその大型モニターを指差す。さすがに立体表示型ではないらしい。

「大型ゲームセンターじゃないんだから……」

 呆れながらも順番待ちの列に並ぶ梓たち。かなりの人数がここに集まっているようだ。

 

「GPがかからなかったからいいじゃないか。訓練用だと思えば本格的にこしたことないわけだし」

「そりゃそうだけど。……なんかみんなのロボがそれぞれ違わない?」

 大型モニターに登場するプレイヤー機を指差す梓。今はバルキリーではなくUHを操作しているようだ。

 

「成現した専用機のデータを使えるようになっている。スキャンしたデータを入力したビニフォンをセットすれば、その機体が使えるように改良した。もちろん工房の方のもバージョンアップする予定だ」

 それでも実機との差はあるから調整は必要だけどな、と補足する夫にやっぱり無茶苦茶だと再認識するレーティアたちであった。

 

 


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