クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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真理

「開かれよ、新しき世界を開く扉! 永続罠、虚無光アイン・ソフを墓地に送り無限光アイン・ソフ・オウルを発動! これにより私のモンスターの攻撃力は元に戻る! ネフィリムでドリーム・シャークを攻撃!」

 

 3つの輪より放たれる光を背に修道女蔵は慈愛の表情を浮かべながら迫り来る。

 その伸ばされる手に宿りし効果は破砕、それを受けてしまえば1ターンに1度、守備力を1000下げることで戦闘破壊を免れることのできるドリーム・シャークでも生き残れない。

 裕に悩む時間など与えては貰えない。即座に決断し叫ぶ。

 

「アリバリアの効果発動、攻撃を1度だけ無効にする!」

 

 続くは口を開き砲をのぞかせる機械竜、放たれるレーザーはドリーム・シャークを直撃するも1度目の破壊を守備力を下げることで免れるも、迅雷の騎士がなだれ込むように空を駆ける。

 

「ガイアドラグーンでドリーム・シャークを攻撃、さらにガイアドラグーンは攻撃力が守備力を上回っている場合、その数値分のダメージを与える!」

 

 迅雷の騎士が槍を掲げ、刺突がドリーム・シャークの固い表皮を貫き、裕へと叩き込まれる。

 ドリーム・シャークの今の攻撃力は1600、ガイアドラグーンの攻撃力は2600、その差は1000、そのダメージが裕の体を貫いていく。

 

「ダメージを受けたこの瞬間、俺は手札よりトラゴエディアを特殊召喚する!」

 

 手札より立ち上る黒い闇、その闇は持ち主の手札の数で力を変える邪悪なる意志を持つ悪魔へと姿を変える。

 

「希望皇龍ホープ・ドラグーンでトラゴエディアを攻撃!」

 

 手札は3枚、よってトラゴエディアの守備力は1800、そんなものでは希望皇龍の光耐えきれるものではない。

 希望皇龍の放つ光閃に僅か数秒ほど耐えるも爆散する。

 

「耐えきって…………ない!?、まだ来るのかよ!」

 

 爆風の中、せき込みながらも立ち上がった裕が目にしたのは黒紫の靄、その中で蠢く竜の顎だ。

 

「永続罠、影依の原核を発動! このカードをモンスターとして特殊召喚する! そして影依の原核で直接攻撃!」

 

「くうっ!」

 

 靄竜の顎が大きく開かれ、裕達3人を飲み込み、暴風の如く後方へと過ぎ去っていく。

 この攻撃により裕達が前のターンに回復した3050のライフは先ほどのこの攻撃で僅か600にまで減少してしまう。

 

「そして私は速攻魔法、神の写し身との接触!」

 

 声に目を開き、裕がまず感じるは身を竦むような冷気、見るは黒紫の靄の内より裕達の足元へと広がりを見せる氷の原だ。

 それは魔術による死者復活も仲間を呼び出す奇蹟を許さない魔氷、発するは氷に封じられしインフェルノイド・リリス(悪徳を担いし大蛇)

 

「シャドールモンスター、シャドール・リザードと影依の原核を水属性融合素材として扱いを融合召喚を行う。黒紫の糸に導かれ姿を現し、その身に纏う氷で奇跡を凍て付かせ、可能性を閉ざし給え、エルシャドール・アノマリリス!」

 

 氷に封じられし巨大な蛇、それを鎧のように身に絡ませ、もう1体のネフィリムが裕達へと突進してくる。

 その後ろ、リペントの眼の前に墓地へと続く門が開き、中より黒紫が濁流の如くあふれ出る。

 

「カード効果で墓地に送られた影依の原核とシャドール・リザードの効果、墓地より神の写し身との接触を回収しデッキよりシャドール・ヘッジホッグを墓地へ送る、更にヘッジホッグの効果でシャドール・ビーストを手札へと加える」

 

 手札を2枚回収、アノマリリスが氷の上を滑るように来、腕を頭上へと振りかぶる。

 

「アノマリリスで直接攻撃!」

 

「相手モンスターの直接攻撃宣言時、墓地より虹クリボーの効果発動、このカードを守備表示で特殊召喚する!」

 

「砕け、アノマリリス!」

 

 虹クリボーが張ったバリアにアノマリリスの手刀が叩きこまれ、音を響かせ砕ける。

 遊馬は虹クリボーへと感謝の言葉を呟く。

 

「メイン2、私はカードを3枚伏せてターンエンドだ」

 

リペント・プラネタリー場 迅雷の騎士ガイアドラグーン ATK2600 (ORU1)

LP120200        サイバー・ドラゴン・インフィニティ ATK2700(ORU3)

手札2・2         エルシャドール・ネフィリム ATK2800

             No.99希望皇龍ホープ・ドラグーン ATK4000 (ORU1)

            エルシャドール・アノマリリス ATK2700

             帝王の連撃

             無限光アイン・ソフ・オウル

             伏せ3

             機殻の要塞

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン (スケール4) PSブラック・サン(スケール12)

 

遊馬・裕場  伏せ1

LP600    天輪鐘楼

手札2・5  リビングデットの呼び声

       アリバリア

 

 裕と遊馬のエクストラデッキの枚数は残り少ない、すでにデッキの半分以上は無くなり何かしらの手段で墓地よりNo.を回収しない事には攻撃も満足にできない状況だ。

 そして遊馬の行動を制限するのは墓地、手札よりモンスターを特殊召喚出来なくさせるエルシャドール・アノマリリスのみではあるが伏せられた3枚の内、1枚はおそらく神の写し身との接触、アノマリリスを突破すれば次に来るのはエルシャドール・ミドラーシュだろう。

 他にもモンスター効果の対象になるとオーバーレイユニットを使う事でその効果を無効にする希望皇龍、カード効果を発動すればその効果を無向にし破壊するインフィニティと遊馬を縛る鎖は何重にも存在している。

 守備に回る事など出来る訳が無く、そして遊馬の手札にはもしかしたらと希望を抱けるカードが存在する。

 だがあと1枚足りない。遊馬の手札だけでは現状の打破には届かない。

 遊馬は自分の手を見る。

 その手に光り輝く力は宿らない。裕が傍に居てNo.を持ち全力で全ての能力を打ち消しているからだ。

 

「行くぜ、アストラル。俺達のかっとビング魂をリペント達に見せてやろうぜ!」

 

「ああ、行くぞ、遊馬!」

 

 今の状況で遊馬とアストラルはゼアルにはなれない、それでも遊馬はアストラルとともにデッキトップへと手を乗せる。

 父親より渡されたデッキを自分とアストラルで睨めっこし、時に言い争いもしながらも組み上げ、激戦を打破してきた思い出のあるデッキ。

 2人の手には書き換えも、必然も、光も宿りはしない。半身である相棒ともオーバーレイもできない。

 それでも遊馬とアストラルの顔には不安などありはしない。

 1人が無理でも2人ならば乗り越えられる、心にかっとビング魂が輝き、デッキを信じているならば、

 

「俺達のターン、ドロー!」

 

 デッキはそれに答えようとする。

 

「来たぜ! ブラック・ホールを発動!」

 

「インフィニティの効果発動、オーバーレイユニットを使い効果を無効にする!」

 

 黒い重力の塊はインフィニティの力により沈められる、だがそれで良い。

 

「俺は更にガガガシスターを召喚! デッキよりガガガボルトを手札へと加え、エルシャドール・アノマリリスへ発動、アノマリリスを破壊する!」

 

 ガガガシスターより放たれる雷、それをリペントは止める動きを見せない。

 爆散したアノマリリスの内部より黒紫の靄が溢れだしリペントの手に影依の原核を握らせる。

 

「そしてセメタリー・リバウンドを発動! このターン自分の墓地に存在する魔法・罠カード1枚を発動する事ができる。俺が発動するのは罠カード、裁きの天秤! 俺の場には6枚のカード、そしてそっちの場には12枚のカード、よって6枚ドロー」

 

 連続するドロー、その動きにリペントは少年のように満面の笑みを浮かべ、そして手は動かない。

 遊馬は手札を見、そして思い出したかのように裕が伏せていた伏せカードを確認、裕へとアイコンタクトを送る。

 裕もその意図を正しく理解したのだろう、頷く。

 

「俺は装備魔法、ガガガリベンジを発動、墓地のガガガマジシャンを」

 

 特殊召喚、と言おうとする遊馬、そこまで来てリペントが動く。

 

「伏せカード、神の写し身との接触を発動!」

 

 このタイミングで融合召喚されるはエルシャドール・ミドラーシュ、もしくはアノマリリスだ。

 だが裕がその動きに得意げな笑みを浮かべ、

 

「読んでんだよ! 永続罠、リビングデットの呼び声を発動! 墓地より甦れCNo.101!」

 

「更に速攻魔法、銀河再誕を発動、墓地より銀河眼の光子竜を特殊召喚する!」

 

 連続し発生する墓地の門、内部より放たれるは遊馬達の仲間達のカード達、それらを目にし、リペントは後出しジャンケンの如く今出せる適切なカードを選び、抜く。

 

「シャドールモンスター、シャドール・ヘッジホッグと手札の地属性、クリフォート・ゲノムを融合召喚、現れ給え、機殻取り込みし影依の長、エルシャドール・シェキナーガ!」

 

 特殊召喚されたモンスターの効果を封殺するエルシャドールだ。

 遊馬は1度だけすまなさそうに特殊召喚されたDarkknightを見て、

 

「Darkknightの効果発動、シェキナーガをカオス・オーバーレイユニットにする!」

 

「シェキナーガの効果発動、特殊召喚されたモンスター効果を無効にし破壊! 更にシャドールカードを墓地に送る。そしてカード効果で墓地に送られたビーストの効果でドロー!」

 

 機殻の玉座に座したる修道女像より伸びる糸が暗黒騎士を雁字搦めにし細かく裁断する。

 カオスオーバーレイユニットを持たずNo.101が墓地に居ないために暗黒騎士は特殊召喚されないがシェキナーガの効果を使わせたことに意味はある。

 

「まだだ! 魔法カード、エクシーズ・リベンジを発動! ガイア・ドラグーンのオーバーレイユニットを奪い墓地のDarkknightを特殊召喚する! そしてDarkknightの効果発動、エルシャドール・ネフィリムをカオス・オーバーレイユニットにする。ダーク・ソウル・ローバー!」

 

 先ほど破壊された暗黒騎士が墓地より復活、そしてシェキナーガよりも厄介な能力を持つ修道女像を自らの糧にしようと光を放つ。

 そこで遊馬はリペントの手が一瞬だけ動きかけるのを見る。

 だがそれ以上は何も起こらず、修道女像は暗黒騎士のカオスオーバーレイユニットになった。

 

―――今、伏せカードを発動させようとした? でもやめたって事は……。

 

 罠なのか、それともブラフなのか、その行動にどのような意図があるのか悩む、悩むも遊馬はアストラルほど賢くはなく、相手もそれの真意を答えてくれることは無い。

 それならばと、

 

「そしてDarkknightをエクシーズ素材としてランクアップ・カオスエクシーズチェンジ! ランク7、CX冀望皇バリアン! レベル8の銀河眼の光子竜と銀河眼と同じレベルのエクシーズ素材にできる銀河再誕でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろNo.62、銀河眼の光子竜皇!」

 

 輝く渦より姿を見せる仲間の切り札達、そして遊馬の前、2人の魔術師が渦へと飲み込まれていく。

 

「ガガガマジシャンとガガガシスターのレベルを6に変更し、レベル6となっているガガガマジシャンとガガガシスターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 渦の中、飛び出るはドン・サウザンドとの死闘の中で遊馬達が手に入れた希望皇の最終進化系、その身に宿るは全ての相手の力をそぎ落とす力、どの様な絶望をも打破していくための力だ。

 

「未来を掴むために限界を突破しろ! No.39希望皇ビヨンド・ザ・ホープ! ガガガリベンジの効果で俺の場のモンスターエクシーズの攻撃力は300ポイントアップ、そしてビヨンド・ザ・ホープの効果発動、相手の場のモンスター全ての攻撃力は0になる!」

 

 虹色の閃光がリペントの場に居並ぶモンスター達を舐めていく。

 全体へと発揮される弱体化を強いる光の前には希望皇龍の効果も無力である。

 

「俺はアーマード・エクシーズを発動、CX冀望皇バリアンに墓地のアビス・スープラを装備、そしてバリアンの効果で墓地のNo.100ヌメロン・ドラゴンの効果をコピー、ヌメロン・ドラゴンの効果発動、オーバーレイユニットを使いバトルをするとき、攻撃力を場のランクの合計×1000ポイントアップする!」

 

 冀望皇の外装にアビス・スープラの装甲が追加される。

 更に手に握られる黄金の槍にはアビス・スープラの錫杖が新たに合致、反対の手に握られる盾には100の刻印が刻み込まれ全身を黄金に染め上げていく。

 

「そして最後のエクシーズ・トレジャーを発動、場には6体のモンスターエクシーズ、よって6枚ドロー! バトルだ! 冀望皇バリアンでサイバー・ドラゴン・インフィニティを攻撃! ヌメロン・ランドチャリオット・スラッシュ!」

 

 軍神が機械竜へと振りかぶる黄金の槍、その切っ先へと水と黄金の煌めきで収束する。

 三千世界すらも照らし出せるような黄金の輝きはまるで太陽が生まれ落ちたかのように全てを平等に照らしだし、機械竜の抵抗をもかき消していく。

 場のランクの合計は44、よって攻撃力は49300、今出せる最大火力が攻撃力が0になった機械竜をぶち抜き、リペントを直打する。

 轟音、砂埃と衝撃波が世界を揺らし、リペントが立つ大地をバラバラに砕け散っていく。

 世界の1部を割り砕く攻撃だがまだリペントのライフは70900も残っており、決闘は続いている。

 

「更にアーマード・エクシーズの効果発動、装備カードを墓地に送る事でもう一度、攻撃が出来る! 冀望皇バリアンで迅雷の騎士ガイアドラグーンを攻撃! セカンド・ヌメロン・ランドチャリオット・スラッシュ!」

 

 激瀧瀑神の外装が勢いよくパージされ、それにより得た加速で軍神は戦場を駆ける。

 得た加速を殺さず、崩壊し始めた世界を蹴り軍神は更に加速を得、身を捻り黄金に輝く刃先を迅雷の騎士へと、その先に笑顔で両手を広げるリペントへと叩き込む。

 場のモンスターエクシーズの数が減ったために冀望皇バリアンの攻撃力は40300にまで減少するもその1撃はリペントのライフを激減させる。

 そして2度の万超えの攻撃をぶち込まれたリペントの足場、今まで遊馬達やリペントが立つ足場が震え、悲鳴を挙げながら裂け始める。

 

「やべっ!?」

 

「こっちだ裕!」

 

 空を飛ぶことが出来ない遊馬達はバラバラになりながらも浮遊する大きな大地へと避難し、リペント達は黒紫の糸で張り巡らせ足場を構築する。

 そうしている間にも大地の崩壊は続き、大地は崩壊、重力は強弱も方向性すらもバラバラに発生する。

 バラバラになった大地は縦横より発生する重力に轢かれその場に浮かび、それはまるで宇宙空間に出たかのように普通では絶対に見られない光景を作り出している。

 未知の光景に遊馬は言葉を失い目を輝かせながらそれらを食い入るように目に焼き付け、ふとアストラルへと呟く。

 

「なあアストラル、アストラル世界にもこんな光景が広がってんのか?」

 

「これほどのものは無いが、人間世界では見ることが出来ない様な光景はアストラル世界にも存在している。天馬も竜も、人間世界では空想上の動物と言われていた存在も存在している」

 

 まだ見ぬ世界、光景に遊馬は思いを馳せる。

 未知を恐れず、知らない物を見たいと手を伸ばし、道なき暗闇を切り開き前に進む。それこそ父親が求めたものなのだろう。

 この眼前に広がる遊馬の人生で見た事も無い世界の他にも遊馬が知らない光景は存在し、別の世界が更に広がっているのだとするならば、

 

「いつか…………こんな光景をアストラルと一緒に見たいな」

 

「その時は、君がもう少し思慮深くなっていると私としては助かるというものだ」

 

 笑みを浮かべ言葉を紡ぐアストラル、その中に否定は無い。

 軽口を口にし、遊馬は待っていてくれた相手を見る。

 リペントは静かに笑みを浮かべ遊馬達を眺め、両手を広げる。

 声は届かなくても体の動きは語る。

 全力で来い、と。

 

「光子竜皇でエルシャドール・シェキナーガを攻撃! エタニティ・フォトン・ストリーム!」

 

 浮かぶ大地をも消滅させるような銀河光が機殻に座する修道女像を貫く。

 

「俺のモンスターが相手モンスターを戦闘で破壊したとき、速攻魔法、シャイニング・ホライゾンを発動! デッキより1枚ドローしそれが魔法カードならば発動できる! 俺がドローしたのは通常魔法、インフィニティ・トゥースだ!」

 

 場にあるオーバーレイユニットは7つ、よって7枚が遊馬の墓地に送られ1枚カードをドローした。

 

―――死者蘇生!

 

 どうせ来るならばシャイニング・ホライゾンで来てほしいカードではあったが、どうしようもないと遊馬は悪い考えを切り捨て墓地を見る。

 今、送られたばかりのカードを確認し、

 

「そしてNo.39ビヨンド・ザ・ホープでNo.99希望皇龍ホープ・ドラグーンを攻撃!ホープ剣・ビヨンド・スラッシュ!」

 

 大地群を蹴り、希望皇は空を飛ぶ。

 真っ直ぐに、一直線に、両手の動きに連動する3刀を振りかざし希望皇龍へと迫る。

 叩き込む3刀は抗いの動きを見せる希望皇龍の翼、外装を切り裂き、流れるように滑らかな動きでもう片方の3刀でこちらへと射出された大剣を両断する。

 両の掌を掲げ6刀を巨大な光剣へと変え、音をも切り捨てるような速度で希望皇龍を両断する。

 

「更にビヨンド・ザ・ホープの効果発動、オーバーレイユニットを使い場のモンスターエクシーズを除外する事で墓地より希望皇ホープを特殊召喚し俺のライフを1250ポイント回復する!」

 

 ビヨンド・ザ・ホープの外装が先程の冀望皇の様にパージされ、内部より希望皇が射出される。

 手に握られた剣を振りかぶり、今まさにリペントを貫かんとしたその時、鐘の音が鳴り響く。

 それは天輪鐘楼の音色だ。

 本来ならばシンクロ召喚を祝福する音である筈のそれが済んだ音色を響かせている。

 

「なんで!?」

 

 裕が驚いて背後を見、そして遊馬がリペントの背後で光り輝くソレを見つけ声を挙げる。

 

「あれは!」

 

 遊馬が指さす先、3つの輪が光を放っている。

 まるでシンクロ召喚のように地より上へと並ぶ輪より光が放たれ、白青の光が真っ直ぐに天を突き、輪の最下よりは黒赤の光が漏れる。

 それはまるで大樹の如く天と地へと根を伸ばしリペントはその輪へとカードを投げ入れる。

 

「虚無と無限の中より作り出される無限の光より芽生え、その御身を世界に知らしめ給え生命の樹! 10種類目、時械神メタイオン!」

 

 爆光の中より10種類目の時械神がその姿を現し、それと同時に地へと伸びる根には10の悪徳が、天を貫く枝には10のセフィラが浮かび上がり、その中には10の機殻と10の時械神が現れる。

 

「10体目の時戒神っ?」

 

 それを目にし、裕は決闘盤を操作しメタイオンの効果テキストを確認する。

 時械神メタイオン、裕はその効果テキストを2種類ある事を知っている。

 このカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時に相手モンスター全てを手札に戻し戻した数×300のダメージを与える、そして全てのモンスターを手札へと戻し戻した数×300のダメージを与えるという物だ。

 どちらでも大問題である、だがこの状況で出されたらまずいのは間違いなく前者だ。

 

「げっ、やっぱそっちの効果か!」

 

 裕の嫌な想像は的中する。

 メタイオンの効果テキストにあるのは時械神の持つ共通効果、そしてこのカードが戦闘を行ったバトルフェイズ終了時に相手モンスター全てを手札に戻し戻した数×300のダメージを与える、だ。

 無限光アイン・ソフ・オウルの効果で時械神はスタンバイフェイズにデッキに戻らない。つまりは厄介なモンスターがそのまま居座る状況になる。

 

「まだだ、俺は速攻魔法、RUM-クイック・カオスを発動! 場のホープをカオスナンバーズへとランクアップさせる! 希望皇ホープでオーバーレイネットワークを再構築!」

 

 ホープは剣を止め、天へと伸びる大樹の枝を突き破り空に開かれる銀河の渦に突入していく。

 その渦の中、カオスによって作り出されるのは青白黄色の明るい色の外部装、幾度となく危機を救ってきたそのカードを遊馬はアストラルと共にエクストラデッキより抜き、頭上に翳し、その名を叫ぶ。

 

「カオスエクシーズ・チェンジ! CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー! バトルだ!」

 

「守備表示にしておいて正解か。来るがいい、ランクアップの担い手よ!」

 

 銀河の渦を突っ切り空より時械神へと黄色の閃光が目掛け飛翔する。

 カオスオーバーレイユニットを使い新しく腕を構築し、背にある4刀を抜き、時械神へと切り掛かる。

 

「ヴィクトリーの効果発動、カオスオーバーレイユニットを使い相手のモンスターの効果を無効にする! ホープ剣・ヴィクトリー・スラッシュ!」

 

 時械神は苦悶の声を挙げながら砕かれていく。

 その体から漏れ出した白い光は生命の樹の最も上にあるセフィラへと吸い込まれていく。

 その光景を見るも、全ての攻撃を終え手札にあるカードでは追撃を仕掛ける事の出来ない遊馬に出来るのは、

 

「メイン2、俺は死者蘇生を発動、墓地の光帝クライスを特殊召喚し、クライスの効果発動…………」

 

 遊馬はそこまでして悩む。

 アイン・ソフ・オウルを狙うか使いものにならないリビングデットの呼び声を破壊するかだ。

 そして遊馬はリペントがDarkknightの効果に伏せカードを発動させようとしていた事を思い出す。

 あのカードがなんなのかは分からない、だがあの状況で発動しようか迷い、そして今までの戦闘で発動させる機会が無いカードを遊馬は知っている。

 

―――もしもあの伏せカードの1枚がスキル・プリズナーだったら。

 

 予想は当たるかは分からない。だがもしもこの状況でその予想が的中したならば遊馬の魔法罠ゾーンは3つ埋まったままとなる。

 次のターンを生き延び裕へとターンを渡す事を考えるならば、今の魔法罠ゾーンにあるカードを破壊するのが良い答えと言える。

 その意図を察したのだろう、裕は、

 

「良いよ、破壊しても。なんとかするから、お前もやること全部やっちまえ」

 

「裕……ああ、天輪鐘楼とリビングデットの呼び声を破壊、そして2枚ドロー!」

 

 今なお圧倒的な存在感を放つ生命と邪悪の樹を遊馬は見上げ、これから来るであろう猛攻を覚悟し、

 

「俺はカードを4枚伏せてターンエンドだ!」

 

遊馬・裕場  CNo.39希望皇ホープレイ・ヴィクトリー ATK2800 (ORU0)

LP1850    CX冀望皇バリアン ATK2300 (ORU2)

手札2・5   No.62銀河眼の光子竜皇 ATK4300 (ORU2)

       光帝クライス DEF1000

       アリバリア

       伏せ4

 

リペント・プラネタリー場 連撃の帝王

LP27600         無限光アイン・ソフ・オウル

手札2・2          伏せ2

             機殻の要塞

オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン (スケール4) PSブラック・サン(スケール12)

 

「儂のターン」

 

 崩壊していく世界、その中でプラネタリーの静かな声が響く。

 興奮の色は無く、ただカードに導かれるままにリペントはカードをドローする。

 

―――まずは状況の確認からかのう。

 

 先ほどのインフィニティ・トゥースで遊馬の墓地に送られた7枚を見る。

 墓地で発動できるカードはライトハンド・シャーク、ブレイクスルースキル、タスケルトン、その内で今の状況で邪魔となるカードはタスケルトンだ。

 

―――次のターンに回すと厄介じゃな。だが伏せカードが分からないこの状況で焦るのはまずいのう。

 

「2色の眼持つ竜と黒曜の狭間で揺れ動く振り子よ、その軌跡であちらとこちらを結ぶ陣を描け、ペンデュラム召喚」

 

「カウンター罠、神の宣告! そのペンデュラム召喚を無効にする!」

 

 伏せカードを破壊しようとペンデュラムからエクシーズに繋げようとするも防がれててしまいプラネタリーは僅かに面食らう、だがそれは相手も同じの様だ。

 本当にまずいカードが出てきたときの為にとっておきたかったのだろう、その表情には僅かに悔しさが滲んでいる。

 

「ならば、じゃ。慧眼の魔術師を召喚、そして儂の場に魔法使い族のモンスターが存在するこの瞬間、手札よりこのカードを特殊召喚できる。出でよ、デーモン・イーター」

 

 プラネタリーの場に現れた2体のモンスター、そのレベルは共に4、それを見て遊馬とアストラルは息を呑む。

 

「レベル4のモンスターが2体…………来るか」

 

「ああ、儂はレベル4の慧眼の魔術師とデーモン・イーターでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 2つの並び集うモンスター達は星のように輝く渦に飲み込まれる。

 その渦の中、錬成されるは濁った黒き宝石、光すらも逃さないような黒は周囲に輝く光を全て取り込み体を構築していく。

 やがて石が擦れるような音が遊馬の耳に届く。

 いつものエクシーズ召喚とは違う様子に目を奪われる遊馬の眼、その輝きの主を捕らえた。

 幽鬼のようにバラバラに乱れ踊る黄色の髪を尾の様に揺らし、輝きを奪われた渦の中より鈍く輝くダイアモンドの拳を地面に擦り付けながら鉱石で出来たモンスターがこちらへとゆっくりと歩み寄って来る。

 

「暗遷士カンゴルゴーム!」

 

 姿を現した暗遷士、それはこれより降臨する究極時械神の効果を安全に通すためのカードだ。

 その光をも飲み込む暗遷士の存在すらも気にも留めない様に生命の樹より光があふれ出る。

 視界すらも青白に塗り潰すほどの光が全てを覆い尽くし、10のセフィラと悪徳がその光臨に喝采、祝福、歓喜の声を鳴り響かせていく。

 10のセフィラを繋ぐ22のパスが生命の樹に陣を描き、その内側より隠されし11番目のセフィラ、真理(ダアト)を担うカードを構築する。

 リペントより手渡されしそのカードをプラネタリーは両手で掲げる。

 長く苦悩し戦う日々の終わりを願い、誰かの願いが叶う世界を願い、全てを見捨てれなかった男は今、旧世界を終わりを悲しみ、新世界の到来を喜びの声を挙げる。

 大地も、星も、世界も、全てがその存在に声を高らかに響かせる中、金に輝く機械仕掛けの天使が光臨する。

 

「10の悪徳と10のセフィラが降りしこの地にその御身を現し、新世界の到来を示せ! 無限光アイン・ソフ・オウルを墓地に送る事で究極時械神セフィロンをデッキ、手札、墓地より特殊召喚する」


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