クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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過去と未来の選択

 リペントは目を閉じればいつでもあの光景が思い浮かんでしまう。

 それは仲間が自ら死を選ぶ前、アストラル世界より追放される前、普通に決闘を楽しんでいた時代だ。

 普通に友が居て、更なる高みへとランクアップを目指し、そして楽しみながら決闘をしていた時代だ。

 決闘は神聖なる儀式で楽しむものではない、そう理性で分かっていてもカードをドローする瞬間の鼓動の高鳴りを無視することができない。

 相手が繰り出す攻撃を凌ぎ、こちらの攻撃が通るのかと胸が躍るのを無かったことにできない。

 たとえ引きが悪かったり相手の実力がこちらよりも上で決闘に負けても次は勝とうと心に決めデッキを構築する事が不純だとは思えない。

 楽しい日々がずっと続く日々に惚け、感情とデッキと共に戦いドン・サウザンドという強さに憧れを持ち、そして、世界に棄てられた。

 夢と感情に遊び呆ける事を悪だと糾弾されランクアップを目指さない者などこの世界の害になると弾かれた。

 そしてドン・サウザンドはこう言った。

 

―――私達を追放した閉鎖的でつまらないアストラル世界よりももっと優れて彼らが羨む様な物を作り上げる事がきっと出来る。私達は挫折し捨てられたのかもしれない、だけど挫折したから終わらなくてはいけないのか? 捨てられた物には何の価値もないのか? いいや違う筈だ、捨てられた私達は、だからこそ私達にしかできない事がきっとある筈だ、その可能性を私は信じたい。

 

 リペント達はそれに縋った。

 その言葉は未来に対する希望を持たせるには十分であり、今は苦しくても未来に向けて頑張ろうと夢持つには十分であった。

 だが先行き不透明な日々が続き次第に決闘の楽しみよりもこの日々がいつまで続くのだろうという不安ばかりが大きくなる。

 決闘が終われば現実を見なければいけない、だからこそ楽しさではなく現実逃避のために決闘し続けた。

 そのような浅ましい感情で決闘をし続ければどうかなるかなど、誰でも分かる事である。

 不純な思いを抱えた決闘は楽しいものではなく、ただ現実を忘れるための麻薬へと変わってしまう。

 現実が猛毒のように頭を焼き、吐き気をもたらし、気力も生きる喜びも何もかもを奪い去っていく。

 その痛みから逃れ、楽しい日々をに浸るために決闘を続け、そして終わればまた苦しみが来て、不純な決闘が始まるのだ。

 そんな麻薬中毒者のような生活を送り続ければ未来に希望を持ち続ける事が出来なくなる者が現れるのは必然だ。

 リペントの心を抉るのはその犠牲者の中でたった一人、多くいた友の中の一人だ。

 

―――未来への希望も夢なんて持たなければよかった。決闘なんて楽しまなければよかったんだ。ただ与えられた使命を果たす事だけを、永遠とランクアップだけを目指していればよかったんだ…………ああ、失敗したなぁ。

 

 そう言って彼女は次元の狭間へと身を投げた。

 彼女のその時の顔をリペントは忘れることが出来ない。

 笑顔だった。

 終わる事に救いを見出し、満面の笑みで彼女は身を投げたのだ。

 あの日の事が、あの場所での言葉が今もまだリペントの胸に突き刺さっている。

 

―――何故、私はあの時、夢、希望などという言葉に縋ってしまったのだ!

 

―――何故、私は絶望した彼女や仲間達の手を取れなかったのだ!

 

―――何故、何時、何処で、私は選択を間違えてしまったのだッ!

 

 何故と言う言葉、今という時間まで生き振り返って自分の過去を後悔し、懺悔する。

 それだけが気が遠くなるほどの時間、積み上げられてきた。

 だが、

 

―――だが、過去を後悔するだけの私がついにここまで来たぞ。今まで夢見、だが敵わないと諦めていった力を手にする場所へ、後悔を無かった事にできる場所に私は立っている!

 

 リペントは友と同じ笑みを浮べて。そして言葉を重ねていく。

 

「私がヌメロン・コードをどうするかは語り終わった、さあ、次は君の番だ。君は犠牲者も悪も見捨てず世界をどう書き換えるのだ」

 

 リペントは固まってしまった遊馬を見て次にどうするかを考える。

 

―――さて、あとは遊馬君が答えを出すだけだ。

 

 リペントは遊馬には何の恨みもなくむしろ感謝と尊敬の念を持っている。

 だからこそヌメロン・コードで歴史を変えたあと、彼が人間世界に無事に生まれるように歴史を改竄するつもりがある。

 だがそれを言ったところで何になるという。

 遊馬達はドン・サウザンドを無かったことにする事を許さない。

 リペントはドン・サウザンドを無かったことにしたいのだ。

 互いの一番重要な事が水平線のままである。

 

―――実際のところ遊馬君は自分で作り上げた袋小路にいるようなものだ。

 

 遊馬はドン・サウザンドを無かったことにはしないだろう、だが存在していれば周りを巻き込んで勝つために動き出すのは必然だ。

 リペント達が与えた洗脳能力などを無かったことにすれば被害は押さえられるだろう、だが押さえられるであって無くならない。

 ならばドン・サウザンドを神の座まで届かせたその渇望を無かったことにすればいいにではないか、それも違う。

 遊馬がエリファスとの決闘でこう語ったのをドン・サウザンドの記憶より知っている。

 

―――誰でも心の中じゃあ良い心と悪い心が戦ってるんじゃねえのかよ、でもそこから逃げ出さなきゃ、きっとどんな事でもやり直せる! 誰とだって理解り合える。

 

 そう言ったのだ。

 遊馬がドン・サウザンドの他人を踏み台にして勝ちを願う心を無かったことにしてそれは本当に遊馬が絶対に諦めないと誓ったドン・サウザンドなのだろうか。

 それはただの人格否定であり、ドン・サウザンドを拒絶するものでしかない。

 故にそれも出来ない。

 

「…………っ」

 

 遊馬は黙り顔には苦悶がある。

 すぐには答えが出ないだろうと考え、リペントは今、こちらを見ている裕へと視線を移す。

 

―――私の願いはすでに成就された同然だ。あとは決闘の準備をするだけだ。

 

 遊馬が答えを出し、そしてリペントはそれに賛同できず決闘が始まるだろう。それは確定している。

 そこに水田裕が共に戦うと言う可能性はある。その為にリペントは準備を始める。

 自分が出てきた糸の繭の中、自分と共に戦ってくれた戦友、プラネタリーの体を構築する。

 そして受け渡された11のセフィラとアポクリファの作り上げた10の悪徳、対極に位置する21の力を分割し2つのデッキを作り上げていく。

 後悔しか生まない過去とあったかもしれない未来の可能性をデッキへと詰め込む。

 

「さて、答えを聞かせてもらう」

 

 九十九遊馬との決闘になり、勝てば永遠の平穏が作り上げることが出来るのだ。誰からも咎められず誰からも否定されない夢の中に居続ける事が可能となる。

 それができない現実だからこそ夢に見たのだ。

 それが出来ると知ったからこそ、全身全霊をかけてリペントはこの場所に立とうとしたのだ。

 

「君はどうしたい?」 

 

「俺は、俺は、俺もドン・サウザンドも、過去に喪った全員を、お前も見捨てるなんて出来ねえ…………! 俺はヌメロン・コードを使って今まで喪われていった人々を蘇らせる、そして新しい世界で皆で笑って、夢見て未来を掴む!」

 

「それが君の答えか」

 

 自分の事を諦めず、理不尽な現象に喪われた人間を生き返らせ、ドン・サウザンドを見捨てない。遊馬はそう結論付けた。

 本来ならば死者を蘇らせるべきではないと言うべきなのだろう。

 だが死者を蘇らせるという行為と死者が死んだ事実を無かった事にするという事の何が違うというのだ。

 結局の所、後悔を持ち死んでいった死者の苦しみとそれから逃避するための選んでしまった選択を踏みにじる事に変わりはない。

 リペントは遊馬の言葉を否定せず、問う。

 

「ならば未来に絶望した者に前を向かせることが出来るとでも言うのか? 膝を折った者全ての手を取れると言うのか? 誰一人喪わせないと今この場、ここに集いし者達に誓う事が出来るのかっ!?」

 

―――誓え。

 

 リペントは最後の問いを放つ。

 これに遊馬が頷いたならばあとはもう決闘をすればいい、勝ちたい、だが負けても良い下地ができる。

 それを理解し、リペントは口元に笑みを浮かべ、体の中に滾る熱を吐き出す。

 ここまで戦い抜いた最強の決闘者と本気の決闘が出来るのだ。それを愉しまずに何が決闘者だというのだ。

 楽しんで愉しんで勝つために死力を尽くし、相手の本気の刃を受け止め、払い砕き勝利したいのだ。

 勝ちたい、勝って幸せな夢に浸りたい、そして負けても良い。そう矛盾した願いを抱きながら遊馬の最期の言葉を待つ。

 

「俺は」

 

「待ちな」

 

 遊馬が口を開き、それを遮る様に声を出したのは水田裕だ。

 何かを拾う様に動き、そして立ち上がると遊馬の前に立ち、こちらを見る。

 真っ直ぐな瞳をこちらへと向け、しっかりとこちらを見据え、否定の言葉を口にする。

 

「んなもん、無理に決まってんだろうが」

 

「何?」

 

 裕はリペントへと向き口を開く。

 後ろにいる遊馬にも聞こえるように、そして自分自身へと向ける様に大きく息を吸い、

 

「確かに遊馬はすげえぜ、ドン・サウザンドみたいなのだって分かり合おうとするし戦い続けるなんて言いやがった。正真正銘、真正の大馬鹿野郎だ」

 

 裕は素直にそう思っているのだろう、迷いなく、真っ直ぐに遊馬への賞賛を述べている。

 裕ならば殴り倒して能力なしにして適当な場所に置いてくる、それかリペントが今しようとしている様に無かった事にする方がよっぽど楽である、それが一般人が抱く常識的な事であろう。

 だが遊馬はそれをしないと言うのだ。そして手を差し伸べるのだ。

 それは手放しで称賛されるべきだ。

 不利益があろうとも無条件に誰かを助けようとする気持ちを、その行動が、例えその裏にどのような感情が在ろうともそれは手放しで称賛されるべきものだ。

 決して他人が後ろ指をさして良いものではない。

 

「だけどこいつの手は短い、遊馬とアストラルが頑張ったって俺達がいくら手助けしても出来ないことが在る。だってこいつは凄い力を持った中学生だぜ。金がある訳でもねえし、車を運転できねえ、酒も飲めねえ、一度に十人の話を聞けるわけでもねえ。それなのに全員を助ける? 遊馬の体がいくついると思ってんだ? 九十九遊馬は一人しかいないんだぜ、一度に手を伸ばせるのはせいぜい2人が限度じゃねえか」

 

「ならば救えない者が出ると?」

 

「そもそも大前提が間違っているんじゃねえか、お前の仲間が自殺して、それをお前が助けたいんだろ、だったらお前が助けろよ。自分の思い描いた夢を他人に任せんじゃねえよ!」

 

「…………」

 

 言われた言葉は正しい。

 自分が助けたいのだから自分が助けるべきだ。

 夢をかなえる機会を与えられただけでも奇跡であろう、自分がしたいと願う事を他人に押し付けて良い訳が無い。

 

―――流石は異なる自分を殴り倒しただけの事はある。自分が本当に欲しい者は自分の力で手に入れろ、か。

 

「他人なんかの手を借りるなよ、自分がしたい事をすればいい、どうせこいつはお前だって蘇らせるんだからお前がお前の手で助けたい奴らを助ければいい、それでなくてもドン・サウザンドっていう面倒な相手がいるのに、その上アレだろ、悪人全員蘇らせるっていうんなら大混乱が起きるだろ」

 

 あ、と遊馬は声を漏らす。

 ベクターと七皇の溝が埋まっていない、そもそも悪人すらも蘇らせるのだからそれに付随した問題が発生するのは明白だ。

 そこまで考えが回っていなかったのだろう、微妙に焦り出した遊馬を裕は見て、もう一度リペントへと視線を移す。

 

「まあ俺らも力を貸すしそこはどうでもいい、それと俺もリペントに聞きたいことがある。要するにリペントはヌメロン・コードを手に入れて自分の幸せな世界に引きこもりたいんだろ?」

 

「そうだ」

 

 裕の言葉は辛辣にリペントの持つ願いを削っていく。

 

「じゃあ聞くけどさ、お前の仲間が最上みたいに俺は楽しむよりも決闘に勝ちたいんだ、とか言い出したら消すんだよな。だって考えてることがドン・サウザンドと同じじゃん、そいつがドン・サウザンドみたいなのになる可能性があるんだから」

 

「……ああ」

 

 言質は取ったとでも言わんばかりに裕は笑みを浮かべる。

 それはまるで最上の様に、邪悪な笑みだ。

 他人を嬲るのが好きな少女と、全く似ても似つかない目の前の少年が重なって見える。

 

「それってさ、結局他人を自分の思い通りにしたいって事だよな。じゃあリペントが過去を書き換えて理想の世界を作ろうとも生き返った人々はそこで幸せに本当に暮らしているのかな?」

 

 リペントは裕の言葉に動きを止める。

 そして否定の言葉を吐き出そうとし、だが自分が望む事を客観的に見れば、自らが望む世界を顧みれば自分が望む世界は閉じられている、そう判断することが出来る。

 ドン・サウザンドが勝利に餓え世界と住まう人を自分のためにあると思うように、最上愛のように他人が自分の欲望を満たすために存在していると世界を認識しているように、自らの望む世界が可能性が何もなく閉じられている事を理解する。

 ベクトルが違おうとも自分が幸せになりたいだけろ、裕の言葉はリペントを抉っていく。

 裕からすればそのような意思が無くとも、その言葉はリペントを打ちのめす。

 だが、

 だが、

 

「例え誰から何を言われようと、私は夢見た過去がある。私は私が幸せな夢に浸りたいのだ。悲しみなど無くていいではないか、辛い事に心を砕く事など無い、楽しさのみを求めて幸せを貪り続けて何が悪いという。私は誰も欠けずに仲間達と永久に共にありたい、そう願っているだけだ」

 

                    ●

 

 開き直ったというべきリペントの言葉を聞き、裕はひそかにため息を漏らす。

 

―――ここで折れてくれれば戦わずに済んだんだけどなぁ

 

 上手くいかなかった事にため息を吐きつつ、相手の意思を崩すべく参考にした最上と自分の話し方のどこが違うのかを考える。

 

―――やっぱりあれか、もうちょっと心を抉り抜く感じにいうか、それとも全力で嘲笑わないとダメってか。じゃ俺には絶対にできないな。

 

 しょうがないと腹をくくり、裕は自分の意見を言う。

 

「そりゃそうだけどさ、辛いも悲しいもあるのが人生ってもんだろ。敵がいてどうしようもない現実にぶち当たってたまに負ける。全てが思い通りになるもんか。楽しさだけがあるもんか、合う奴全員と分かり合えるなんて出来ねえよ」

 

 裕の本心の吐露は遊馬へ被弾する。

 思わず疑問の声を挙げた遊馬を置き、裕は言葉を続けていく。

 

「分かり合って、本当に止めたかった事ができない事だってあるんだッ! どうしてなんて誰でも言うじゃねえか。夢が敵わない事なんていくらでもある。それでもそれを諦めたくないから、叶えたいから、人は倒れても立ち上がるんだろうが!」

 

 裕が叫ぶのは己の後悔だ。

 止められなかったことを後悔し、だが次は放さないと願う心だ。

 そしてこちらの意図を理解しても止まらないリペントを真っ直ぐに見て、相手の意思が揺るがない事を確認、裕は後ろにいる遊馬へと確認をとる。

 

「俺からすれば消滅した魂が元の体に戻れればそれでいい、あと、遊馬に確認したいことがある」

 

 くるりと振り返り遊馬の眼を見る。

 真っ直ぐにこちらを見て来る目を見返し、

 

「俺は最上愛って人間の中身を理解しているよ。だけど最上は俺の敵で、最上からすれば俺は敵だ。どんだけ背中合わせで戦って親睦を深めようとも俺はあいつの敵だ。俺があいつを理解しようとも、あいつが俺を理解しようとも俺達の持っているものは平行線だ」

 

 それらが重なるとするならばたった一つだろう。

 真っ直ぐと真っ直ぐな心と感情が触れ合う場所など一つしかない。

 

「俺達は自分の意見が素晴らしいって考えて、相手の意見が悪いものだと思って境界線上で殴り合うだけだ。理解し合えたからどうだっていうんだよ。自分がしたいって決めた事を自分が折らない限り自分が決めた事を至高と信じて諦めない人間だっているんだ」

 

 水田裕は最上愛の事をよく理解している。

 自分を最も上だと信じ、それを愛している彼女の中身を水田裕は理解している。

 どれだけ笑顔で親睦を重ねようとも殴り合う敵だ。敵でしかない。

 それはドン・サウザンドにも言えるだろう。

 彼の腹の内を理解したからどうだと言うのだ、彼が自分で自分の夢を諦めなければ他人が何を言ったところで諦める訳が無い。

 つまりは遊馬はドン・サウザンドと死ぬまで戦い続けるんじゃないのか、そう心配して言うのだ。

 

「多分、底が浅い最上よりも最悪の中身を持ってるだろうけど、それでも戦い続けるのか? お前がそんなことしなくてもいいんじゃないのか?」

 

 裕は答えが分かり切っている事を聞く。

 それを遊馬の口から聞き、自分が納得したいだけだ。

 

「いいや、俺は絶対に諦めねえ、例え不可能に思える事でも俺は挑戦する、それが俺のかっとビングだ!」

 

 納得した。

 あーあ、そう心の中で呟き、しょうがないから手伝えることが在るのならば手伝おうと決め、リペントへと向き直る

 

「んじゃ、俺は遊馬の意見を支持するよ。それが俺のしたい事にも繋がるしな」

 

 ふと思うのは遊馬の作り出した世界だ。

 人間がいつも通り自分の我欲の為に突っ走って、他人とぶつかって分かり合ったり、殴り合ったり、喧嘩したり、後悔を残して死んだりするだろう。

 そしてそうやって後悔をもった者はバリアン人になる。

 自らの後悔を無くすために全力で生き、そしてランクアップして人間に戻ったりアストラル人になる。満足した者は成仏したりしてそうして人が輪廻転生を続けていくのだろう。

 人生で後悔を持った者がチャンスを得れる地獄があり、向上心や卓越した技術を持つ者が行ける天国が存在する世界。

 それは失敗も成功も、悪があり善も全てを在って良しとしていく世界だ。

 それは自分の感情のままに人生を謳歌する人間がいて、自分の幸せのために他人を利用し、押しのけるような人間がいる世界だ。

 それは正義と信じ自分が悪だと思うものへと拳を握る人がいて、他人の為に自分が犠牲になれる人がいる世界だ。

 まさに清濁併せ持つ混沌とした新しい世界。

 穴があり未熟な世界であろうとも、だが後悔も失敗も抱いたまま終わらせない世界だ。

 

「そうか、そうだな。確かに君達の答えは聞いた。君達は前を向けばいい。そして私は幸せな夢に惚けていたいのだよ。敵も居ない、友とひたすらに永遠に、使命も何もかも他人から強制されることなく自分がしたい事をし続けたい。嫌な事など何もなく自分に都合の良い世界でずっと遊び呆けていたい。胸で啼く後悔の叫びを消し去り、その隙間に楽しい喜びだけを詰め込むんだ」

 

 君達の願う夢良い物だ、だがそれは誰でも出来るものではない。

 そう呟きリペントは右手を空へと伸ばす。

 

「私達の意見は対立したままだ、だからこそ私達は戦わねばならない。未来を砕き過去を救うのか、過去より後悔を持つ者を呼び戻し未来で救うのか。全てを賭けて戦おうじゃないか」

 

 リペントが生まれ出た繭が動く。

 中より出て来るはリペントと同じように紅と蒼の体を持つ初老の男だ。

 目には確かな意思を持ち、リペントの横に並び立つ。

 

「これより行うはタッグ決闘、ルールはタッグルールだ。攻撃できないのは先攻の1ターン目のみ、後攻からは攻撃が可能となる。各々の手札、デッキ、エクストラデッキは別々に扱い、場、墓地、除外ゾーン、ライフポイント8000は2人で共有する。そしてエクストラデッキ、デッキへと戻るカードはその時のターンプレイヤーのデッキへと戻り、手札誘発カードは己が相手と向かい合っている場合にのみ可能だ」

 

 裕達の前に巨大な蒼白で構築された光の板が構築される。それと同時にリペント達の前にも同じような紅黒の光版が作られる。

 

「さあ勝ちを願い自らが正しいと歌い、相手に勝つことを願い乱れ舞おう。ここにいる者達で楽しき夢の中で遊び呆けようではないか」

 

 黒紫の糸が輝き地面へと陣を描き出していく。

 人を惑わし影へと落とす糸が描くは頑丈な足場だ。

 この決闘が足場が崩れ飛べ途中で終わる事など許さない、この楽しき決闘を最後まで愉しみ抜く。そうリペントは語るのだ。

 陣の完成と共に光板より意図が伸びる。それは裕と遊馬の決闘盤へと突き刺さっていく。

 

「これは!?」

 

「安心しろ、カードを書き換える事はしない。ただ2つの決闘盤を同期させただけだ。これにより君達の決闘盤に挿入されたカードをターンが回るたびに渡す必要は無くなった、そして相手の決闘盤にあるカードを把握することが出来る」

 

 互いの決闘盤の同期が終わったのだろう、決闘盤には決闘の申し込みがありますと表示されている。

 それを見て、裕は遊馬を見る。

 遊馬とタッグ決闘をした事はある、敵になった事も味方になった事もある。ある程度はお互いの弱点を把握していて、だがシンクロ主体のデッキとエクシーズ主体のデッキでは相性が悪かった事を思い出す。

 だが今回のデッキは違うのだ。

 白黒を入れ、リベリオンがデッキには眠っている。

 願った夢を実現させるためにも勝たなければいけない。

 

―――それに俺にはこいつらがある。

 

 手の中で輝くカード達をデッキへと装填し裕はリペントへと決闘盤を構える。

 

「俺が先に行くぜ。妨害は任せろ」

 

「ああ!」

 

 遊馬は残されていたカイトと凌牙のデッキよりカード達を抜き出し、3人で一緒に戦おうとするようにデッキへと入れて立ちあがる。

 

「まずは君か、ならば行くぞ。最後の決闘の始まりだ! ここが過去と未来の狭間、終わりと始まりの分岐点だ!」

 

 決闘盤を構え裕達は4人そろって声を挙げた。

 

「決闘!」

 

                   ●

 

 先攻はリペントへと決まる。

 ターンはリペントと裕より始まり、リペントと遊馬、プラネタリーと遊馬、プラネタリーと裕とターンプレイヤーを切り替えながら進んでいく。

 

「私のターン!」

 

 デッキよりドローしたカードを見、リペントは手札より2枚のカードを手に取る。

 その光景を目にし裕も急ぎ自分の手札よりカードを抜く。

 

「私はスケール1のクリフォート・アセンブラとスケール9のクリフォート・ツールでペンデュラム・スケールをセッティング。これで私はレベル2から8までのクリフォートモンスターを手札、エクストラデッキより同時に特殊召喚可能になる」

 

「クリフォート・アセンブラってなんだ?」

 

 裕はアセンブラという名前に聞き覚えが無いのだろうか、一瞬だけどのようなモンスターなんだ? と言わんばかりに首を捻るも、すぐさま手札に握ったカードを発動させる。

 

「俺は増殖するGを発動!」

 

 構わない、そう言い切りリペントは電子基板の形の機殻と目の描かれたモノリスのような形の機殻の間で揺れる振子を動かし空へと軌跡を描く。

 光によって描かれる陣は徐々に光の密度を上げ、門を構築していく。

 

「醜悪と不安定の狭間で揺れ動く振り子よ、その輝く奇跡であちらとこちらを結ぶ門を開き給え!」

 

 銀光で描かれるは異なる次元を繋ぐ門、そのうちより出でるは異次元を行き来するモンスター達だ。

 

「無形の底にて虚ろな夢見る10のクリファよ、虚無の胎にて悪魔宿し、闇の中より悪徳司りて現れ給え、ペンデュラム召喚! クリフォート・アーカイブ。クリフォート・ゲノム」

 

 現れたるは2つの機殻、そして光が収まっていく振子の左、ツールより光が新たに放たれる。

 

「私はライフを800支払いペンデュラムゾーンにあるクリフォート・ツールの効果発動、デッキよりクリフォートと名の付くカードを加える。私が加えるのはフィールド魔法、機殻の要塞だ。そして私は機殻の要塞を配置、更に永続魔法、冥界の宝札を発動」

 

「冥界の宝札って事は!」

 

 裕の脳裏によぎるのはアポクリファの戦術、墓地に送られる際にエクストラデッキへと送られるペンデュラムモンスター達を使ったアドバンス召喚の連打だ。

 

「私はクリフォートモンスター2体をリリース。無感動を司りしクリフォート・ディスクをアドバンス召喚」

 

 ギャギャギャッ、そう歯車が軋む音を響かせ現れるのは青き宝玉、仲間達をデッキより呼び出す虹色に変化する円盤機殻。

 そして効果が発動するのはディスクだけではない。

 

「2体のモンスターをリリースしアドバンス召喚したため冥界の宝札の効果、更にクリフォートモンスターをリリースしアドバンス召喚したディスクの効果! デッキよりクリフォートモンスターを2体を特殊召喚する特殊召喚する。再び現れよ、色欲と貪欲を司りし機殻達よ」

 

 デッキよりゲノムとアーカイブが再び特殊召喚される。

 そして冥界の宝札の効果で2枚カードをドローしたリペントは更に動く。

 

「更にフィールド魔法、機殻の要塞の効果発動、私は通常召喚に加えてもう一度クリフォートモンスターを召喚出来る。ゲノムとアーカイブをリリースし」

 

 色欲と貪欲の機殻達は光となり、リペントのエクストラデッキへと送られる。

 そしてそれらのエネルギーを吸収し機殻の要塞より発信するのは巻貝の様な形の機殻だ。

 

「拒絶を司りしクリフォート・シェルをアドバンス召喚。冥界の宝札で2枚ドロー、更にクリフォートモンスターをリリースしアドバンス召喚に成功したシェルは貫通と2回攻撃を得る。そして私はカードを3枚伏せてターンエンド」

 

 これだけ大量のペンデュラムモンスターをエクストラデッキへと送り込んだとはいえ、それらが再び姿を現すのは次のリペントのターンだ。

 3枚カードを伏せたと言えどもリペントの手札は0、伏せカードをなんとか破壊しペンデュラムゾーンにある2枚のカードを破壊してしまえばアドバンス召喚の連打は止まる。

 そう考えていた。

 そしてすぐさま、そんな簡単な事ではないと言う事を思い知らされる。

 

「エンドフェイズ時、クリフォート・アセンブラのペンデュラム効果発揮される。私がこのターンにアドバンス召喚の為にリリースしたクリフォートモンスターの数だけデッキよりドローする。よって4枚ドローする」

 

 手札補充され高攻撃力、そして7以下のランクとレベルのモンスター効果を受け付けないという厄介な機殻の軍勢が場を席巻する中、遊馬へとターンが回った。

 

リペント&プラネタリー場    クリフォート・ディスク ATK2700

LP7200             クリフォート・シェル ATK2800

手札4・5            伏せ3

                冥界の宝札

機殻の要塞

クリフォート・アセンブラ(スケール1)    クリフォート・ツール(スケール9)

 

遊馬&裕場

LP8000

手札5・6   


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