クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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混沌終焉

「これで邪魔者は居ない。ヌメロニアス、希望を砕け」

 

 金色の輝きが雪の様に降る平地、座り込んだ遊馬へと白面の神が襲い掛かる。

 カイトが命がけで手に入れてくれた希望も、重症を負いながらもこの場に駆けつけてくれた裕の望みも喪われた。

 遊馬の見つめる先にはただこちらへと向かう絶望の化身のみがある。

 場にも手札にも墓地にもこの場を切り抜けるようなカードなど無い。その状態で攻撃力1万の攻撃を受ければどうなるかなど誰でも分かる。

 そして遊馬が敗北すれば次は凌牙の番だ。

 スペリオル・ドーラでDarkknightを破壊されバトル終了時にヌメロニアスの効果が発動されカイトの場が壊滅、そしてDarkknight、銀河眼の光子竜、カオスエンド・ルーラーがドン・サウザンドの場に並ぶだろう。

 そうなってしまっては本当に2人に残っているのは絶望と敗北のみだ。

 カイトはそれを理解し、その未来を選ばせないために自分がするべき事を見つける。

 

「…………まだだ、俺達の希望がそんな簡単に終わるものか!」

 

 叫び、この場において最も正しく、そして正しくない行動に出る。

 

「俺は罠カード、ルート・チェンジを発動、相手モンスターの攻撃を俺への直接攻撃とする! このとき俺が受けるダメージは半分になる!」

 

 絶望のみで埋め尽くされた遊馬は放たれた言葉を噛み締め、カイトへと向く。

 カイトの顔には死への恐怖が僅かにある。そして遊馬が今まで見てきた希望を他人に託す笑みがある。

 

「更に墓地のブレイクスルー・スキルを使ってもらう、俺はプレアデスの効果発動、ヌメロニアスを手札に戻せ!」

 

「望み通りにしてやろう、我は墓地のブレイクスルー・スキルの効果発動、このカードを除外し場のモンスター効果を無効にする」

 

 プレアデスより放たれた星の光が打ち払われ砕け散っていく、

 それはまるでこの後、カイトに何が起こる事を予感させるような不吉な物だ。

 

「遊馬、覚えておけ。いつか突然に、誰にでも平等に別れはくる」

 

 唐突に切り出されるは当たり前で、だが認めたくない事実だ。

 何事にも始まりがあれば終わりが来る。出会いがあれば別れがあり、生きていればいずれ死ぬ。

 カイトはそう言い切りヌメロニアスの攻撃の余波で遊馬達が傷つかない様に距離を取り始める。

 背を向け歩いていくカイトへと遊馬は手を伸ばし、どこにも行くんじゃねえ! と声を挙げるもカイトの歩みは止まらない。

 そして歩いていくカイトを凌牙は何も言わずに見送るのみだ。

 

「それはお前と、アストラルにもだ。だから、俺で慣れておけ」

 

 ヌメロニアスはカイトの上空で止まるとヌメロン・ドラゴンを破壊したときと同じく砲撃をぶち込もうとエネルギーを貯めはじめる。

 言いたい事、伝えたいことはまだあったはずだ。遊馬だけではなくハルトにも言い残すことが在る筈だ。

 死にたくないという思いがあったかもしれない、だがカイトがそれ以上口を開く時間を相手は与えない。

 

「カ、カイトぉおおおおおおおお!」

 

 声を裂き、超超超超高密度の砲撃が空を割り、主を助けんと砲撃へ身を投げた超銀河眼と神影龍をも両断し大地を抉り滅砕した。

 滅砕してもなお入念に爆撃される大地、爆発と打撃が吹き荒れ自分に逆らうものは死体すらも残さないという残虐な意思が遊馬の心をズタズタにしていく。

 爆発の余波だろうか、カイトが着けていた白い決闘盤が宙を舞い、遊馬の足元に転がって来た。

 遊馬がそれを持ちあげ、抱き、仲間に助けられそして身代わり喪った悲しみで涙を流し嗚咽を漏らす。

 

「スペリオル・ドーラでDarkknightを攻撃!」

 

 そして有無を言わせず、悲しみに暮れる時間を相手は与えない。

 砲塔列車よりぶち込まれた砲撃が凌牙の場の暗黒騎士を砕いていく。そこまで遊馬達の場を荒らしに荒らし、ドン・サウザンドは手札を見た。

 膨大なカオスが手札を最良のものへと変換しようとし、だが形を成さずに霧散する。

 

「ほう」

 

 見ればドン・サウザンドの手首、金色の鎖が絡みついている。蒼と金、赤黒の光が消滅しそうな鎖を維持しているのだ。

 手札を書き換える事、ドローカードの書き換えを防ぐ。そうすれば仲間が、遊馬達が必ず勝機を掴む。死してなお仲間を想い信じている力をドン・サウザンドはくだらないと嘲笑う。

 

「ヌメロン・ドラゴンを目覚めさせた3竜か、無駄な事を……! 我はこれでターンエンドだ」

 

ドン・サウザンド場 CNo.1000 夢幻虚神ヌメロニアス ATK10000 (ORU2)

LP3500      No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ ATK3200 (ORU0)

手札2       

 

ナッシュ場    No.73 激瀧神アビス・スプラッシュ ATK2400 (ORU1)

LP9100     ドリーム・シャーク DEF2600

手札1     水神の護符

 

遊馬場     

LP4000    

手札0

 

 ドン・サウザンドの手札が2枚、まだエクゾディアが揃う心配はない。

 だがドン・サウザンドの不敵な笑み、あれを見てしまえば増殖するGがあるのだろうと予測が出来る。

 故に凌牙が今、勝つために考えるのは相手の放つカードの予測だ。

 

―――ドン・サウザンドはエクゾディオスで墓地のカードをデッキへと戻した。あのときデッキほとんど厚みが無かった。そしてあの手札より発動されたカードを考慮するならば…………あのデッキに残っているのはエクゾディアパーツ、クリボー、エフェクト・ヴェーラーが2枚、カオスエンド・ルーラー、増殖するGが2枚以下、金華猫とミスティック・バイパーか。

 

 まだ見ていないカードがデッキに残っている可能性は十分にある。

 だが、と考え遊馬を見る。

 カイトの死が遊馬の精神へと大きな傷跡を残している。

 いつもならば即座に立ち上がる所なのだが遊馬は立ち上がりもせずその場に座り込み涙を流しているままだ。

 仲間を立て続けに喪いボロボロになった遊馬の精神が回復するには時間がかかるだろう。そして敵はその時間を与えないはしないだろう。

 ならばこそ自分に出来る事は何かと考え、

 

―――増殖するGを防ぐ手立てがない。だが遊馬がこんなざまじゃ俺が決めるしかねえ!

 

 この状況を打開するためにはどうしても特殊召喚が必要だ。つまりは大量にドローされるかもしれない。

 その中で効果無効が2回、戦闘ダメージを0にされるという手札誘発カードを潜り抜けた上でどこまでドン・サウザンドのライフを削り取れるかが勝負のカギとなる。

 ヌメロン・ドラゴンと3竜の力がどこまでドン・サウザンドの能力を封じていられるか予測ができない以上、早めに決着すべきだ。

 

「俺のターン」

 

 カードを引き抜いた瞬間、ドン・サウザンドは動く。

 

「我はこの瞬間、増殖するGを発動!」

 

 それを受けた凌牙はこのままカードを伏せてターンを終了させることも考えれる、だがもう一枚の手札が増殖するGであるからこそのあの行動だろうと考えれる。

 動けば手札が増える、動かなければ死が徐々に迫って来る。

 

「俺は運命の宝札を発動、サイコロの出目は6、よって6枚ドローし6枚除外する!」

 

 手札に加えるは必殺のカード達。

 もはやデッキは数えるほどしか残っておらず運命の宝札を発動しよう物ならばデッキ切れとの可能性すらも秘めている。

 前半の決闘で凄まじい効果を秘めたカード達も少なからず墓地に堕ちたり除外されている今ではこの手札が最良だろう。

 

「行くぞ、ドン・サウザンド!」

 

 凌牙はこの瞬間、ドン・サウザンドを倒すために全力をぶち込んでいく。

 防がれたならばなんとか遊馬を励まして自分の罠カードでサポートしていけばいいと考え、出来るだけ相手の場を荒らす事を集中する。

 

「水属性ランク5のアビス・スプラッシュをエクシーズ素材としてこのカードはエクシーズ召喚できる。ランクアップエクシーズチェンジ、現れろFA―クリスタル・ゼロ・ランサー!」

 

 ナッシュの記憶を守護していたナンバーズはメラグの記憶を保持していたナンバーズの強化体へと姿を変える。

 黒い外装を纏う極氷姫は大槍を振りかざした先、全てを封じ込める氷が広がっていく。

 真っ直ぐに伸びた氷の群れは神を絡め取り身動きを封じていく。

 

「ランク5以上のモンスターエクシーズが特殊召喚に成功した時、RUM―アージェント・カオス・フォースを墓地より手札に加えることが出来る。そしてクリスタル・ゼロ・ランサーの効果発動、オーバーレイユニットを使い俺のターンエンドフェイズまで相手モンスターの効果を無効にする!」

 

 これによってヌメロニアスの持つバトルフェイズ終了時に発揮される効果を心配する必要は無くなった。

 だがクリスタル・ゼロ・ランサーではヌメロニアスは倒せない。

 ならばどうすればいいか、

 答えはすでに凌牙の手の中にある。

 ドン・サウザンドが至ったカオスの極地が自分の勝利のみを渇望する物だ。それもある意味、感情が齎した究極の力なのだろう。

 だが凌牙の手の中より放たれる力が導くは仲間と共にあり、仲間と共に高みへと至ろうとする感情が齎すもの、一人では至る事の出来ぬ高みである。

 

「俺はRUM―バリアンズ・フォースを発動! ランク6、戦士族であるFA―クリスタル・ゼロ・ランサーをエクシーズ素材としオーバーレイネットワークを再構築!」

 

 バリアンの王として、七皇として至った高み、それを導くはバリアンの力。

 導かれるはナッシュとメラグの記憶を守護してきたナンバーズ達。

 

「ランクアップ・カオスエクシーズチェンジ!」

 

 天へと開いたカオスの門へと昇って行く極氷姫、そして凌牙のエクストラ、墓地よりそれを追うはオーバーハンドレット・カオスナンバーズ。

 それぞれのモンスターが実体化し、バラバラになり一つの皇の元へと武装、鎧となり集っていく。

 願うはバリアン世界と仲間たちの平穏な生活。打ち払うは全ての元凶である神と敵。

 真紅に輝く鎧を纏い盾と槍を手にし軍神がカオスに塗れた大地を踏みしめ立ち上がる。

 

「混沌の具現たる軍神よ。切なる望みを我が元へ。集え、七皇の力! CX冀望皇バリアン!! バリアンズ・フォースの効果でヌメロニアスのカオスオーバーレイユニットを奪う」

 

 冀望皇バリアンの攻撃力は自分の持つカオス・オーバーレイユニットの数だけアップする。よって攻撃力は3000となる。

 だがそんな攻撃力では届かないと言わんばかりに口元を歪めるドン・サウザンド、それを見返すべく凌牙は更に動く。

 

「そして冀望皇バリアンのモンスター効果を発動。俺の墓地のナンバーズの名前と効果を得る。俺が選択するのはDarkknightだ!」

 

「我はエフェクト・ヴェーラーを発動、バリアンの効果を無効にする」

 

 その効果を聞き即座にドン・サウザンドは手札よりモンスター効果を放つ。

 これによりバリアンの攻撃力は0になってしまう。

 

「ならばエクシーズ・リベンジを発動、ヌメロニアスのオーバーレイユニットを奪いDarkknightを特殊召喚する! Darkknightの効果発動、ヌメロニアスをカオスオーバーレイユニットにする!」

 

「もう1枚、我はエフェクト・ヴェーラーの効果発動、その効果をも無効にする」

 

「全部防いだと!?」

 

 地面に腰を落としたままの遊馬に代わりアストラルがまずいと言わんばかりに声を挙げる。

 だが凌牙からすればそれすらも予想通りだ。そして本当の狙いは先ほど加えたカード。友と呼ぶ男を自らの手で倒した際にデッキより零れ落ちたカードだ。

 

「行くぜⅣ! 俺はRUM―アージェント・カオス・フォースを発動! 俺の場のランク5以上のモンスターエクシーズをランクの1つ高いCNo、またはCXにランクアップさせる。俺はDarkknightをエクシーズ素材としオーバーレイネットワークを再構築、カオスエクシーズチェンジ!」

 

 紋章の力に開かれた門、その中へと飛び込んだ暗黒騎士は海神へと姿を変え、更にカオスの海へと身を投じていく。

 姿を現すは膨大なカオスの海さえも支配する海神。ベクターがランクアップさせた海神とは違いその瞳には理性と意思が宿っている。

 

「現れろ、CNo.73! 渦巻く混沌の水流を突き破り、今、かの地へ浮上せよ! 激瀧瀑神アビス・スープラ!」

 

 今ここに揃うはカオスによって導かれた凌牙とナッシュを象徴するモンスターエクシーズ達だ

 軍神は動かず、だが海神が氷漬けにされ身動きの取れない神を討つべく錫杖を振り上げる。

 

「バトルだ、アビス・スープラでヌメロニアスを攻撃!」

 

 生成されていくは空を覆い尽くすほどの巨大で聖なる水で構成されたメイスだ。

 抗う事も逃れる事も出来ぬ神が砲撃をばら撒こうともそれを物ともせずに海神はメイスを振りあげ。

 

「この瞬間、アビス・スープラの効果発動、オーバーレイユニットを使いアビス・スープラに攻撃するモンスターの攻撃力を加える、よって攻撃力13000だ! 受けろドン・サウザンド、これが俺と七皇の絆、そしてバリアン世界に住む者達の想いだッ!!」

 

 叩き込んだ。

 神もその下に広がる大地もドン・サウザンドをモンスター全て飲み込み砕く大瀑布がぶちまけられた。

 氷と共に流される水の大質量は普通の決闘者ならば流されるのが道理であろう、だがそのような物でドン・サウザンドは傷つかない。

 その場に立ち、氷と大瀑布の進行を片手で受け止め、

 

「我はダメージ計算時、クリボーの効果を発動した、このカードを手札より墓地に送る事で受けるダメージを0にする」

 

 払い砕く。

 水撃はモーゼの十戒よろしく2つに引き裂かれていく。

 それを見、凌牙は一瞬だけこの男に本当に勝てるのだろうかと思ってしまうも、恐れを振り切る様に声を挙げる。

 

「だがこれでヌメロアニスは破壊した、お前のデッキにはもう蘇生カードは残っていない、そしてあとはお前の手札に来るであろうカオスエンド・ルーラーを凌げば俺達の勝ちだ!」

 

 凌牙の言う事は正しい。

 ドン・サウザンドのデッキにはヌメロニアスを蘇生させるカードは残っていない。カオスエンド・ルーラーさえどうにかできれば勝てる、筈だ。

 アストラルも凌牙も、そしてこの状況をぼんやりと眺める遊馬でさえもそう思ってた。

 この男が嗤うまでは。

 

それはどうかな(・・・・・・・)

 

 言葉と同時に吹き上がるのは黒の柱。

 それは粉砕されたヌメロニアスの残骸より湧き上がり黒の沼を形成、そして屍を糧に蓮の花が開いていく。

 それは咲くと同時に枯れ堕ち、腐り果て、腐臭を孕んだ汚泥をまき散らすだけの蛇口へと変わった。

 その汚泥に含まれるは相手の事を理解せず、人として見ず、ただ勝つという渇望は自分だけのオリジナルナンバーズを構築する。

 

「ヌメロニアスが破壊された時、墓地のこのカードをエクシーズ素材としてオーバーレイ! エクスターミネーションッ!」

 

 無尽蔵に生み出される汚泥はドン・サウザンドの体を飲み込み増大し、ヌメロンの力をも飲み込み新しき形へと書き換えていく。

 あるべきではない虚数のナンバーズが今、創り出されようとしている。

 

「カオスエクシーズチェンジ、降臨せよ、CiNo.1000! 我が天は長し、地は久し。人の縋る夢は一場の幻に過ぎず。虚無の大神よ、闇をもて、光に鉄槌を!」

 

 汚泥中より浮かび上がるは黒と紫の機械の躰、絶望と勝利を象徴するモニュメントがゆっくりと姿を現していく。

 勝ちを渇望するだけのドン・サウザンドを象徴するように無機質であらゆる願いを拒絶するようなモニュメント、その中央の核と呼べる部分にはドン・サウザンドの上半身があり、巨大な翼がこちらを招くように僅かに動いている。

 

「夢幻虚光神ヌメロニアス・ヌメロニア!」

 

 アストラル世界の代表のみが辿り着いたかに思われた常識外れのランク13、攻撃力はライフ4000からすればオーバーキルでしかない10万、そしてそれが持つ効果は不明だ。

 全力で攻撃し切り札を倒した、これで勝機が訪れる! という甘い夢は一場の幻でしかない。自分の勝利を邪魔する者の抱く希望も願いも全てを砕き勝利する。その欲望がヌメロニアス・ヌメロニアを形作っている。

 

「さあ、どうするナッシュ、お前に選ばせてやろう。これに立ち向かい七皇の絆とやらを差し出すか、それともこのままターンを終えるのか?」

 

 冀望皇バリアンの攻撃力は0、アビス・スープラの効果を使おうとも同じ攻撃力10万にしかならずナンバーズでは無い為に戦闘破壊されるのはバリアンのみだ。

 スペリオル・ドーラへと攻撃する事も可能だが七皇の絆の象徴に相打ちを命じられるほど凌牙の心は強くない。

 

「………………ッ、俺はカードを5枚伏せてターンエンドだ」

 

 その言葉を聞き、ドン・サウザンドは嘲りの表情を浮かべる。

 どのみち無駄ではあるが、それでも攻撃を仕掛ければよかったものを、と。

 絆などに縋りつき、大切にして壊す事を恐れる。そして喪う事を恐れ自分と仲間の時間を永遠にしようとしたその行動を、ドン・サウザンドは嗤い嘲笑う。

 

「そうか、それでは我はヌメロニアス・ヌメロニアの効果発動」

 

「何!?」

 

 アストラルと凌牙は同時に声を挙げ、そして見た。

 ヌメロニアス・ヌメロニアの周囲よりカオスが収束していくのを。

 ヌメロニアスがカイトを倒した時よりもその砲撃は苛烈で、その砲撃にあるのは濃厚な死、そのものだ。

 

「このカードを相手モンスターが攻撃対象にせずターンを終えたとき、そのプレイヤーは敗北となる」

 

「なっ…………や、止め」

 

 凌牙とアストラルが驚愕の声を挙げ、遊馬が凌牙へと手を伸ばし、砲撃がそれを断ち切る様に叩き込まれた。

 

ドン・サウザンド場 No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ ATK3200 (ORU0)

LP3500  CiNo.1000 夢幻虚光神ヌメロニアス・ヌメロニア ATK100000 (ORU1)

手札3       

 

遊馬場    

LP4000    

手札0

 

 コトリ、と軽い音を立て落ちたのは決闘盤、凌牙が先程までつけていた物だ。

 それを手に取り、握りしめ再び遊馬の眼に涙が浮かぶ。

 

「七皇の絆とやらを我に差し出せば命だけは助かったものを、だから貴様らはクズなのだ」

 

 決闘において能力を説明する義務などない、そもそも対等なルールで決闘をする気などドン・サウザンドに在る訳が無い。

 だが、だがそれでもこれはあまりにも酷い行動だ。

 無策で攻撃力10万のモンスターへと攻撃、しかも自分のモンスターのみが破壊されるような戦いを凌牙がしかけれる訳が無い。

 その攻撃しなければいけないモンスターエクシーズが大切な七皇の絆と言うべきモンスターならば尚の事だ。

 そうできない事を知ってドン・サウザンドは凌牙を煽り、効果を伝えずに特殊勝利したのだ。

 

「お前に何が分かるってんだよ! シャークがどれほど仲間を愛していたのか、あのモンスターエクシーズがその絆の証だったんだぞ。それを差し出せなんてできる訳ねえじゃねえか!」

 

「それだから貴様らは弱いのだ。そんなものに囚われているから、シャイニングドローを持ちながら真のランクアップが出来ない。ここまでの極地に至ることが出来ないのではないか」

 

 一蹴される。

 遊馬の中に怒りが芽生え、立ち上がる。

 瞳の奥には憎しみと怒りが燃え滾り、サルガッソで見せたダークゼアルの姿が遊馬と重なり始める。

 アストラルが焦り遊馬を正気に戻そうとするが近づくだけで強制的にオーバーレイされダークゼアルになってしまうと思い、踏みとどまり遊馬へと声をかけ続ける。

 

「そんなの真のランクアップじゃねえ! エリファスやアストラルが目指しているランクアップってのはそんなもんを目指しているんじゃねえ!」

 

「同じだ。結局誰も彼もが他人に勝つ事しか求めていない。敵は排除し味方を愛でる、それしか出来ていないではないか。カオスを総べる我が自分を愛で敵を滅ぼし、更なる高みを目指すアストラル人どもが仲間を愛で敵を排除する。ならばそれより下の人間風情がそれ以外の事を行える訳が無いではないか。全ての生きとし生ける者全てが等しく自分を愛でているだけだ、そこに理由を付けて自分は違うと言い張っている。なんと見苦しい事ではないか」

 

 その男の持論はある意味、正しいのだろう。

 自然界、いや生きとし生けるもの全てがそれを日頃より行ってきている。

 他者より先へ、他者より強く、願い争い夢を掴む、それは大なり小なり行ってきている。

 

「それは……俺とエリファスが決闘して」

 

「分かりあった? 何を言っているのだ? 貴様がエリファスに勝ったからではないか。貴様がエリファスよりも強いという事実、それが動かしようのない真実だからこそエリファスは貴様の言う事を聞いた。それを奇跡だの分かり合っただのと自分に都合の良い理屈をこねくり回し、聞こえの良い理由を言っているだけではないか」

 

 遊馬がどれだけ言葉を並べようと、今は仲間であろうとも前は対立する敵と決闘し勝ってきた事実は変わらない。

 勝たなければアストラルは喪われていた、勝たなければ世界の危機だった。どれだけ理由を並べようとも、それでどれだけの仲間が出来たとしても、九十九遊馬がナンバーズを狙う敵に勝利してきた事実は変えようがない。

 

「勝つ、ただ他人に勝ち自分の意見を押し通す。それができる能力があったからこそエリファスが貴様を選んだ。九十九遊馬の希望が他人の願いを、希望を砕いている事を何故気づかん? それすらも気付けんような愚者なのか? それとも自分に都合の良い理由を並べて自分で納得し見ないようにしているだけなのか?」

 

 遊馬は言葉で否定しようとする。

 今まで自分が積み重ねてきた仲間との絆、思い出を汚されているような言葉達が遊馬の視界を真っ赤に染めていく。

 怒りに言葉すらもでない遊馬を見おろし、ドン・サウザンドは嗤いながらさらに続ける。

 

「そうか、そうか。そういえば貴様は決闘をすれば分かり合うと言ったな、だが我は分かり合う気などない。貴様らは我に勝ちを捧げ慰撫するだけの道具にすぎん、道具風情に心を開くような阿呆など居る訳が無い」

 

 だからこそ、そう呟き、ドン・サウザンドは両手を広げる。

 手札にある4枚のカードは空へと舞い上がり五芒星を宙に描き、その3つの頂点にカード達が収まっていく。

 

「ならばよし、選ばせてやろう。貴様が我とこのまま相対し、もしも。ありえないだろうが。万が一にでも、いや無量大数にも等しい確率だが、まぐれで勝ちを得るかもしれない。だがたとえ敗北をしようとも我は貴様と分かり合う気など無い」

 

 片手に掲げるのは分かり合わない平行な道。

 

「そして貴様が本当に分かり合うと言うのならば我にその決意を見せてほしい」

 

「決意、だと?」

 

 遊馬の怒りから強制的にダークゼアルに引きずり込まれそうになりながらも抵抗するアストラルはその言葉を反芻する。

 掲げる反対の手は可能性がある、かもしれない世界だ。

 

「そうだ、このまま我が7ターン目を迎えるまで貴様らが何もしなかったならば我は九十九遊馬を人として見て、心を開き、話をしようではないか」

 

 7ターン何もせずに過ごすと言う事はドン・サウザンドのデッキは無くなると言う事だ。それはつまりエクゾディアを揃えてしまう可能性があり、同時に遊馬が敗北する未来だ。

 

「貴様らは大好きだろう。もしも、可能性、未来、希望。分かり合う。そのような未来が広がっているかもしれないのだ。さあ選べ。貴様が欲しいのは敵を排除する事か? それとも分かり合えるかもしれない未来か?」

 

 ドン・サウザンドは言外に問う。

 自分が今まで信じて戦ってきた理想が大事なのか、それともアストラルと自分の命が大事で勝ちに来るのかと。

 

「俺は…………ッ」

 

 もっとも遊馬がもしもの可能性にかけ7ターン待つなどと言ったところでドン・サウザンドが分かり合う努力など見せる訳が無い。

 ヌメロン・ドラゴンが施した鎖は今にも砕け散りそうであり、7ターンが迎えるまでにエクゾディアを揃えてしまえば遊馬と交わした約束など守る必要などないのだ。

 

「遊馬!」

 

「アストラル、俺、俺は…………」

 

 選ぶのは簡単だ。

 ドン・サウザンドの話など嘘だと一蹴し、デッキよりカードをドローすればいいのだ。 

 だがそれではエリファスのとの約束が果たせなくなってしまう。

 説得するそう誓ったのだ、だからこそ迷ってしまう。

 答えを求める遊馬へとダークゼアルに飲み込まれる可能性など考えもせずに近づき、アストラルは目線を合わせ、

 

「遊馬、君はアストラル世界でエリファスに言った事を覚えているか?」

 

 え? という疑問と共に思い出されるのは、あのシャイニング・ドローをした際に叫んだ宣誓だ。

 俺は誰も置いていかない、見捨てたりしない。アストラル世界もバリアン世界も人間世界もみんな見捨ない!

 確かに分かり合えなくてぶつかり合う事だってある、だけど決闘でみんなの心が繋がっていく、皆で可能性と希望を持って新たな未来に行く、そのためなら何度だって俺は戦う。

 そう言ったのだ。

 

「立て遊馬、ここでの戦いは皆が見ている。みんなの未来を決める重大な局面だ」

 

「だけど」

 

 ぐずる遊馬、そして手を伸ばし立ち上がれらせようとするアストラル。それはいつもの光景とは逆だ。

 その事にアストラルは笑みを浮かべ、

 

「遊馬、どうしてその二つしか選べないんだ?」

 

「えっ」

 

「いつもの君ならばどちらでも選ぶ、どちらも諦めない。そう言う筈だ。君の父親より教えられたかっとビングは君にとってどういうものだ?」

 

 遊馬は自分の中にある父親より教えられた言葉を口に出す。

 

「それは勇気を持って一歩踏み出すこと」

 

「そうだ」

 

 言葉を言い、遊馬の失われた希望が復活していく。

 

「それはどんなピンチでも決して諦めないこと!」

 

「そうだ」

 

 遊馬の手足に力が戻り、黄金へと輝いていく。

 

「かっとビング!! それはあらゆる困難にチャレンジすることだっ!」

 

「そうだ!」

 

 ダークゼアルになりかけた体は今や黄金の輝きを放ち、二人より漏れたエネルギーは荒れ果てた大地に花を芽吹かせていく。

 

「アストラル、俺、決めたぜ!」

 

「ああ、私も君と同じ物を抱いている、ならば選ぶ未来は決まっている」

 

 拳を突き上げ遊馬は紅い光となり天馬の様に空へと駆け上っていく。

 

「お前が俺達と分かり合う気が無いって言うんなら分かり合うまで決闘する、お前だってベクターだって、誰だって置いていかない! 俺達はみんなで新しい未来を創るんだ!」

 

 アストラルは蒼き光になり遊馬と反対側の空へと昇っていく。

 

「私達は誰も諦めない、見捨てたりなんかしない。不可能に挑戦しなんにでも勇気を持って立ち向かう!」

 

 二人は紅と蒼の螺旋を空へと描きながら1つになる。

 放たれたゼアルの光が焦土と化していた筈のバリアン世界に命を芽吹かせていく。

 

「くだらん、最後にたどり着いたのは結局未来に希望があるという楽観論か、そんな物ある訳が無い事に何故理解しない!?」

 

 夢幻虚光神はドン・サウザンドと共に動く。相対する者を消し潰さんとするがために。

 そしてゼアルⅢとなった遊馬は、自分の意見をドン・サウザンドへとぶつけるべくデッキへと手を伸ばす。

 相反する2つのエネルギーは互いを食い合い、黒と黄金の光が何度もぶつかり合い砕けて星の様に輝いていく。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

「増殖するGだ。我のデッキに残るエクゾディアパーツは2枚、そして!」

 

 ドン・サウザンドの体、ヌメロニアス・ヌメロニアより供給されるカオスがヌメロン・ドラゴンの鎖に圧力をかける。

 鎖は軋む様な悲鳴を上げ、そして砕け散ってしまう。

 

「これで我が能力は復活した。貴様が出来る特殊召喚は1回のみ、それ以上行ってしまえば我のエクゾディアは完成する!」

 

 デッキの残り枚数がどれだけあろうとも関係ない。次のドローはエクゾディア、次の次のドローはエクゾディアと確定した。

 故に特殊召喚など簡単には行えない。それを突きつけられ遊馬達の顔が歪むも、

 

「それは」

 

「どうかな」

 

 思わぬ場所より声が響く。

 声の出所はバリアン世界の端、そして今、侵攻を受けているアストラル世界だ。

 いましがたゼアルに至った遊馬とアストラルと同じように紅と蒼の光がドン・サウザンドへと突進していく。

 音と光をぶちまけつつドン・サウザンドを挟み込んだ2つの光、その中に居たのはトロン、そして

 

「父ちゃん!?」

 

 九十九一馬は遊馬へと気楽に手を挙げ自分の健在を示す。

 それを見た遊馬は安堵と今までどこにいたのか、連絡を寄越さなかったのか、それの性でどれだけ家族に心配をかけたか、等という様々な感情が膨れ上がるも今はそれを聞く時間が惜しい。

 

「この力は……!」

 

 ヌメロニアス・ヌメロニアとドン・サウザンドを丸ごと押さえつけられるという稀有な状況にドン・サウザンドは驚きの声を挙げ、そして気付く。

 

「そうか、貴様等!」

 

「そう、俺達が今の今まで遊馬達の所に行かなかったのはそれぞれの世界の力を自分達の体に貯える為だ」

 

「そして世界の力を吸収した僕達がヌメロン・ドラゴン達と力を合わせカードの書き換えを押さえつける!」

 

 二人の父親はドン・サウザンドを命を賭けて抑え込み、未来を切り開こうとする。

 だが、だがドン・サウザンドはこんなものでは止まりなどしない。

 

「たかが2つの世界の力を吸収した程度で我を止められる思うな!」

 

 拒絶するように全方位へと放たれる衝撃波、だが2人はなんとかその場に踏みとどまり遊馬達にチャンスを創り出していく。

 

「行くぞ、遊馬! 2人が作り出したこのチャンスを何としても掴みとる!」

 

「おう! 俺は貪欲な壺を発動、ホープレイ・ヴィクトリー、ホープレイ、ゴゴゴゴーレム、エフェクト・ヴェーラー2枚をデッキに戻して2枚ドロー! 墓地よりブレイクスルー・スキルの発動、このカードを除外しヌメロニアス・ヌメロニアの効果を無効にする!」

 

 この一撃でヌメロニアス・ヌメロニアの持つであろう凶悪なカード効果は封じられた。

 

「死者蘇生を発動、蘇れNo.39希望皇ホープ! そしてエクシーズ・トレジャーを発動、場には3体のモンスターエクシーズ、よって3枚ドロー!」

 

「結局貴様も我を排除するだけか、貴様もアストラル世界も!」

 

 今、ドン・サウザンドに勝つべく動いている2人へとドン・サウザンドは声を張り上げる。

 それは敗北を前に揺さぶりをかけている訳では無く、ただ自分の持論より遊馬達の行動を判断し、糾弾する言葉だ。

 

「いいや、俺は、いや俺達はお前を排除なんてしない!」

 

「ならばその行動は何だ、貴様等が今やろうとしていることは、結局貴様は我に勝ちに来てるではないか!」

 

 その言葉の裏に潜むのはどれだけの理屈を並べようとも自分に勝ちに来る遊馬を嘲笑うものだ。

 遊馬の行動はそう見えるだろう、だがドン・サウザンドが見ているのは倒そうとする今、そして遊馬が見ているのは倒した後の未来だ。

 

「「そうかもしれない、だが俺達とお前が今日分かり合えないのならば明日! 明日分かり合えないのならば明後日、何度でもぶつかっていく。お前を排除なんかするもんか!」」

 

 遊馬とアストラルは共に声を挙げ、そして2人の手が翳すのは一枚のカードだ。

 

「「俺はRUM―ヌメロン・フォースを発動、希望皇ホープをエクシーズ素材としてランクアップ・カオスエクシーズチェンジ!」」

 

 現れたホープは天に開いた渦へと昇っていく。

 外装を書き換えられ、再構築されるは赤と黄の鎧。翼、そして4刀を収納した鞘が背中に取り付けられ、勝鬨の声を挙げる。

 

「現れろCNo.39! 未来に輝く勝利をつかめ。重なる思い、繋がる心が世界を変える! 希望皇ホープレイ・ヴィクトリー! 更にZW―阿修羅剛腕をホープレイ・ヴィクトリーに装備させる!」

 

 これによりホープレイ・ヴィクトリーは本当の意味で必殺の一撃を手に入れる。

 カオスオーバーレイユニットがあるヴィクトリー、複数の相手モンスターが攻撃表示で並んでいるこの状況でバトルを仕掛けることが出来たならばゲームエンドへと持ち込むことが出来るのだ。

 

「バトルだ!」

 

「まだだ!」

 

 遮る様に振るわれたドン・サウザンドの手、開かれるは五芒星を描いていた3つの頂点の1枚。

 

「我は手札よりエフェクト・ヴェーラーを発動、ホープレイ・ヴィクトリーの効果を無効にする」

 

 これ見よがしに五芒星を描いておきながらエクゾディアじゃないだなんて詐欺だろう、と言いたくなるような不意打ちが炸裂する。

 これによってホープレイ・ヴィクトリーの必殺の一撃は失われる。

 更にそのあけた穴を埋める様にドン・サウザンドの手札の2枚が開かれ新しく五芒星を埋めた。

 4つの角が開かれ見えるのは通常モンスター枠、空間は軋みを響かせ手足がすでに具現化しようとしている。

 遊馬達の手札にある最後の1枚は必殺の一撃を凌がれた際の追撃手段だ。この状況では効力を発揮しない。故に仕掛けるのみ。

 

「バトルだ、ホープレイ・ヴィクトリーでスペリオル・ドーラを攻撃! ホープ剣・ヴィクトリースラッシュ!」

 

CNo.39希望皇・ホープレイ・ヴィクトリー ATK3800 VS No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ ATK3200 

破壊→No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ

ドン・サウザンドLP3500→2900

 

 断ち切られた砲塔が爆発を起こし、連鎖する様に内部機械が爆破していく。

 紅蓮の花が咲き乱れる中、遊馬は連撃用に取って置いたカードを引き抜く。

 

「自分モンスターが相手モンスターを戦闘破壊したこの瞬間、俺は速攻魔法、シャイニング・ホライゾンを発動! デッキより1枚ドローしそのカードが通常魔法カードだったら発動する!」

 

 遊馬達の手に集う光は黄金を超え虹色に輝いている。

 それを目にし、ドン・サウザンドは次に引くであろうカードを予想し、自らのカオスを1点に収束させていく。

 相手がそれを使うのならば自分も使う、そう言わんばかりに収束していくはどす黒いカオス、ヌメロニアス・ヌメロニアすらも用済みだと言わんばかりに力を奪い取り次のドローで勝利する事を目指すドン・サウザンド。

 そしてそれを防ぎこもうとする父親達の体には触手が突き刺さりドン・サウザンドへと力を奪われている。

 時間など残って居ない。

 その事実をぶち抜かんと遊馬達がデッキへと手を置き、ドローしたカードは、

 

「これが俺達の、未来へと繋がる希望だ! RUM―アストラル・フォースを発動! 俺達の場のランク5のホープレイ・ヴィクトリーをランクアップさせる! 限界を突破しろ希望皇ホープ! ランクアップ・エクシーズチェンジ!」

 

 発生するは黄金の御柱、そこへとカオスを纏うホープが吸い込まれていく。

 それと同時に遊馬のエクストラデッキ、除外ゾーンよりNo39の名を持つホープ達が実体化し柱へと吸い込まれていく。

 

「現れろ、No.39! 人が希望を越え、夢を抱くとき、遥かなる彼方に、新たな未来が現れる! 限界を超え、その手に掴め!」

 

 カオスを脱ぎ捨て新たなランクへと昇華するホープ、だがそのカオスは置いていかず身に纏う外装の一部としていく。

 虹に輝く星達が舞い踊る中、ホープレイ・ヴィクトリーを取り囲むように4体のホープが並び、そして剣を抜き、歓声を挙げ祝い、そして分解されていく。

 遊馬達の積み重ねてきた戦いを全て集い束ねる様に、ホープ達の外装は形を変え、だが何も置いていかずにヴィクトリーへと装着されていく。

 火花を星屑のように輝かせながら現れるは白銀に身を包む希望皇の最終形態。

 遊馬達が掲げる願いを体現した希望を超える、そして他者の望みを絶つという負の面と夢を体現するその希望皇の名は、

 

「希望皇ビヨンド・ザ・ホープ!!」

 

「だが負けん、まだ我は負けていない、最後に勝つのは我だぁ!」

 

 ヌメロニアス・ヌメロニアが崩壊していく。

 それはビヨンド・ザ・ホープが放つ弱体化の光によってではない。ドン・サウザンドがカオスを吸収していくせいだ。

 この男が能無しの木偶人形なんかにいつまでも構う必要などない。

 望む1枚をドローできればそれでいいのだ。故に夢幻虚光神すらも使い捨てにする。ただのカオスの貯蔵庫として扱う。 蓄えられていた全ての力を吸収しドン・サウザンドは勝ちを得るために手を伸ばす。

 

「これで貴様ら全員、終わりだッ!」

 

 衝撃波となりトロンと一馬を跳ね飛ばし、ドン・サウザンドはデッキへと手を伸ばす。

 ヌメロン・ドラゴンの鎖も砕け、トロンと一馬が跳ね飛ばされた今、彼を止める者などいない。

 

「間に合わない…………ッ!」

 

「我が、勝つのだッ! カオス・ドロー!!」

 

 ドン・サウザンドの手に収束したカードはデッキトップを書き換えが始まり、そしてそれを引き抜いていく。

 誰もが手を伸ばし、それを止めようとするが、それよりも先に黒い極光が全ての者の視野を覆い尽くした。

 

                     ●

 そして裕は龍の咆哮を聞いた気がした。

 

「またか、2度も死にかけてんじゃねえよ」

 

「え?」

 

 気付けと言わんばかりに光で打撃され裕は意識を取り戻す。

 目の前にあるのは目玉神とあった際と同じような真っ白な世界、そしてをもう少し上を向くと自分と同じ顔があった。

 驚き、飛び起きようとするが体が上手く動かない。

 

「こんな所に居ていいわけねえだろ、さっさと帰れ」

 

 手短に辛辣な言葉を言う彼、そして自分はさっきまで何があったのかを思い出した。

 自分が居なくなるだけで絶望的な状況に陥るという自負は無い。

 まだ本命のヌメロン・ドラゴンが居るのだから、そう怯えることは無い。そう考えるも何かが裕の背中を押す。 ここで立ち上がらないとまずい、と語り掛けて来る。

 

「そうだな、お前との約束を守らないとな」

 

 言うも体が動かない。

 指の一本たりとも動かせず起き上がれない。

 一筋の汗が流れ、行かなくてはいけない事を理解し、だが動かせない焦りから生まれ、そして涙すらもが浮かんでくる。

 最上と黒原が同時に襲い掛かって来たときは軽く起き上がれたのだ。

 彼に怒られて、励まされ背を蹴り出されて起き上がる事が出来たのに今回は起き上がれない。

 

「どうして、どうして起き上がれないんだよ!」

 

 そりゃ死にかけてるからに決まってんだろが、そう言って彼は自分の前に立ち、

 

「行きたいのか?」

 

「当たり前だ、今ここで起きないとまずいってクェーサーが言ってる気がする! それにここで起きないとお前との約束を守れねえじゃねえか」

 

「そうか、なら決まりだな」

 

 彼は裕の肩に手を回し裕を起き上がらせ、呟く。

 

「俺が代わりに死んでるやるからお前は立ち上がれ、勝てよ。このくそったれな世界を作った奴に、この状況に」

 

「待てよ、他に方法は無いのか!?」

 

 無いな、そう呟いた彼の顔は明るく笑っている。

 白い壁は崩壊し、そして裕の体へと彼が分解され流れ込んでいく。

 裕が自分の力で立てる様に力を与え、傷を治し、そして消えていく。

 

「時間が無いんだろ、行けよ。行って俺達が約束を果たせる未来を創れ。俺の夢を砕いたんだ。だったら最後まで突き進みやがれ。俺達はそれしかできねえんだから」

 

 その言葉を聞き、裕は泣く。

 己の不甲斐なさを、そして夢を砕き吸収した少年に再び助けられる事実を。

 白い壁は消えていき、何も感じなくなり、そして全身をぶん殴られた衝撃で目が覚める。

 眼の前の状況を確認するよりも早く、クェーサーが守っていたナンバーズの塊を即座に握りしめ、己の感情を絞り出し叫ぶ。

 己の後悔を、怒りを、不甲斐なさを憤り叫ぶ。

 

「どいつもこいつも、書き換えだのなんだのと、全員っ、まともな決闘を、しやがれぇええええええええええええええっ!!」

 

 再び稼働する無効化の力、ナンバーズと感情を上乗せしたそれはドン・サウザンドへと襲い掛かる。

 ぶちまけられ混沌と化す状況、その状況でドン・サウザンドがドローしたカードは、

 

「カオスエンド・ルーラーだとッ!?」

 

 その名はまさしく混沌の終焉を暗示させるカード、混沌の神の最後にふさわしいカードだ。

 カード名を見、裕へと眼を移すドン・サウザンド。 その瞳の中に輝くは赤黒の光、射殺さんばかりの憎しみと殺意がこもっている。

 

「おのれ、おのれ、水田裕、九十九遊馬ぁっ!!」

 

「遊馬、行けっ!」

 

 裕の叫びに遊馬は親指を立て、裕もそれに応える。

 

「ビヨンド・ザ・ホープのモンスター効果、エクシーズ召喚に成功した時、相手の場のモンスター全ての攻撃力を0にする!」

 

 背中、翼より放たれる蒼白いが夢幻虚光神を包み込み弱体化させていく。

 これにより最強と思えるような攻撃力10万は攻撃力は0になった。

 

「行け、ビヨンド・ザ・ホープでヌメロニア・ヌメロニアスを攻撃!」

 

 ドン・サウザンドによって奪われ、ビヨンドの効果で更に弱体化した夢幻虚光神、その砲撃が放たれ地面を砕いていく。

 だがビヨンドには当たらない。

 虹色の軌跡を刻みながらドン・サウザンドと夢幻虚光神を肉薄するビヨンド。

 流星のように無数に放たれる砲撃が地面に着弾、更には裕へと風穴を開けるべくぶちまけれられるも恒星龍の腕がそれを払いのけていく。

 

「天地神明に俺は誓う、俺達の望む未来を掴むために戦い抜くと!」

 

 砲撃を打ち払い、避け、ビヨンドは宙に浮く3刀を振りかぶり夢幻虚光神へとぶち込む。

 その斬撃で僅かに罅が入るも夢幻虚光神はまるでその男の意思を象徴するように砕けない。

 それならばと言わんばかりに両腕付近に浮く6刀を束ね巨大な光剣を作り上げ、上空よりドン・サウザンドを避けるような角度で振り下ろした。

 その光剣は一度、外殻に衝突したわみ、切り裂いていく。

 

「輝け、希望の光! ホープ剣・ビヨンドスラッシュ!!」

 

 光剣より漏れ出した虹光が夢幻虚光神の内部のカオスを食らい取り込んでいき、その巨体の内部を食い破り光の柱が何本も生える。

 そして内部より漏れ出す光を抑えきれなくなり夢幻虚光神はドン・サウザンドと共に光に食われた。

 その光は2つの世界の何処からでも見ることが出来るほどに輝き、永い永い戦いの終局を感じさせるものであった。

 

No.39希望皇ビヨンド・ザ・ホープ ATK3000 VS CiNo.1000 夢幻虚光神ヌメロニアス・ヌメロニア ATK0

破壊→ CiNo.1000 夢幻虚光神ヌメロニアス・ヌメロニア 

ドン・サウザンドLP2900→0

勝者 九十九遊馬


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