クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

89 / 104
迫るタイムリミット 下

「はっ、やべっ!?」

 

 裕が意識を失い能力を制御していなかった時間は一瞬の事だった。

 それはある意味無理もないだろう。だがその一瞬が命取りになる事を裕は理解していた。

 

―――ドン・サウザンドがドローするたびになんかがゴリゴリ減っていく、しかもずっと自分の手札を書き換えようとしてやがる、時間をかけてんじゃねえよ、ラスボスだろうがッ……!

 

 裕はあまり泣き言を吐きたくない、だが今、この瞬間だけは誰か助けてくれと強く願う。

 この状況は自分だけではどうにもならない。自分の能力とナンバーズの力が合わさった程度ではどうにもならないという事を裕はこの短時間で骨の髄、魂にまで刻み込まれていた。

 遊馬達を3人同時に相手をし圧倒できるだけの実力を持ち、更には裕にまで盤外戦略を仕掛け磨り潰さんとする勝利への渇望、その渇望がもたらす全てを塗り潰さんとする力、それはまさしく神と呼ぶにふさわしいほどに凄まじく、遊馬達一人一人ではドン・サウザンドの足元が見えるか見えないほどの力を持つ究みの極みにある存在だ。

 だからこそ、だからこそ援軍を、と求める裕の脳裏に映るのはカイトが態々月に行って決闘し手に入れたというヌメロン・ドラゴンの事だ。

 世界を創造し自らの力をナンバーズへと分け与え眠りについた龍、まだ白紙で目覚めていないその龍の力の凄まじさを裕は身をもって知っている。

 

―――誰でもいいから早く何とかしてくれ! この、ままじゃ、マジで死ぬ……。

 

 ドン・サウザンドが隙あらば手札を書き換えようとしてくるために能力を解除する暇など無く。

 ついでにいえば遊馬とナッシュのエクストラデッキより発せられる凄まじい力をもカードが目覚める? カードが新しく創られる? なんだそれ、そんな事ある訳が無い、と裕は考えてしまい、味方の効果すらも無効にし無駄に体力を削ってしまっている。

 敵がドローすれば疲弊し、味方がドローしても疲弊するという板挟みの中、裕はひたすらに自分の願いを祈り続ける。

 例えそれが自らの命を喪う事になろうとも、裕は自分の願いを諦めない。

 

                    ●

 

 ドローし凌牙は思案する。

 ディスプレイにノイズが走り始め、裕を見れば手が震え顔が白になりかけている。息も荒くどう見ても健常な人間には見えない。

 裕が何らかの危険な状況にあるのだろうという事は理解できる。

 早く終わらせるべきだと言う急く気持ちを押さえつけ、今ある手札でシニューニャの放つバーンダメージをどう無力化するかを考える。

 

―――ここは裕には悪いが少しだけ時間をかけるべきだ、今ある手札で何が出来る? ヌメロン・ネットワークをどうにかすべきか…………!

 

 手札はある程度揃ってはいる。

 だが凌牙のデッキには大嵐はもちろん幻魔の扉やらドン・サウザンドが作り出した強烈過ぎる魔法カードが満載だ。

 普通ならば頼もしい味方のはずなのだがうかつに魔法カードを使えば仲間の首を絞める事にまで繋がる。

 ここはじっくりと攻めるか、凌牙はそう考えドン・サウザンドの眼を見、手札を煌めかせる。

 

「俺はライトハンド・シャークを召喚、そしてライトハンド・シャークが俺の場に存在する時、墓地よりレフトハンド・シャークを特殊召喚できる、この効果で墓地から特殊召喚されたレフトハンド・シャークのレベルは4となる」

 

 手札より呼び出された鮫を追う様に墓地よりもう一頭の鮫の鮫が浮上する。

 並ぶはレベル4の水属性モンスターが2体、だがドン・サウザンドは目を細めるだけで何も動きは無い。 

 ナッシュは一度だけ息を吸い、

 

「そして装備魔法、アクア・ミラージュをレフトハンド・シャークに装備させる」

 

 ドン・サウザンドは、動かない。

 凌牙の手札はまだ3枚も存在する、アクア・ミラージュを囮にし宝札シリーズを使われる事を恐れたのだろうか。

 

―――動かないのならば別の手を使うまで!

 

 エクストラデッキに手を伸ばし、リミテッド・バリアンズ・フォースを使う前に遊馬達が言った言葉を思い出す。

 ベクターが自分達七皇にした事を許せるわけが無い。たとえ死ぬ寸前で自分達に益となる事をやったとしても彼を悪い奴ではない、なんて言える訳が無い。

 人は何度だって同じ事を繰り返す。

 遊馬が人を助け、裏切られようともまた助ける様に、ベクターも自分の享楽のためにまた裏切るかもしれない。

 

「ベクター、お前のやったことは決して許される事ではない、だがお前は最後の最後で遊馬を助けた、その事が無ければ俺達は今この場に居なかっただろう」

 

 ならば自分は何を繰り返すのだろうか。

 良かれと思い成した決断が多くの大事な人達を喪わせることか、そのようなクソったれな運命に唾を吐き、凌牙は大切な仲間たちと縁を切りヌメロン・コードを欲した。大切な仲間を喪わない世界を望んだのだ。

 そして今、神代凌牙はナッシュとしてこの場所に居る。

 全ての元凶を打ち払い己が望む世界を作るために、ドン・サウザンドを倒した後にたとえ遊馬と再び戦う事になろうとも、その決意は変わらない。

 全てを喪わない世界を作るために、

 

「俺とお前に絆なんていうものがあるのかは分からねえ、前世からの因縁しかねえのかもしれねえし、俺とお前は敵対する運命にあるのかもしれねえ、だが今だけは」

 

 凌牙の手で閃くは一枚のモンスターエクシーズ、この戦いを終わらせるだけの、限定的でピンポイントだが協力なカードだ。

 

「今回だけは俺と共に肩を並べ共に戦う事を許そう! 俺はレベル4のレフトハンド・シャークとライトハンド・シャーク、アクア・ミラージュでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 輝く銀河の渦の底、全てを掴むという野心を掲げていた男を象徴する天へと手を伸ばすモニュメントが浮上する。

 そこより発生するは翼の様なマント、3連結したジャグリングが響かせる音は主役の登場に湧き立つ歓声の様に木霊していく。

 

「いでよ! No.104! そのまばゆき聖なる光で全ての元凶を跪かせよ! 仮面魔踏士シャイニング!」

 

 これによってバトルフェイズ中に手札より放たれるモンスター効果は3回まで無効にすることが出来る。ドン・サウザンドが速攻のかかしやバトル・フェーダー、オネスト等のカードを握って居ようとも無効にすることが出来る。

 

「そしてインフィニティ・トゥースを発動、俺と遊馬の場にあるオーバーレイユニットの数は6、よってデッキより6枚を墓地に送り1枚ドローする」

 

 魔法カードを更に使おうとも凌牙の瞳にある企みに気づいたのだろうか、ドン・サウザンドは動かない。

 

「バトルだ、俺はシャイニングで直接攻撃!」

 

 レベル4のモンスターを3体、同じ素材ではショックルーラーという事も考えたが、モンスター効果を封じると次の遊馬の動きまでも封じてしまう。

 もしもなんらかの手段で防がれた時の事を考えれば手札誘発カードを多めに入れているであろうドン・サウザンドに対しては非常に良い手だ。

 

「だが我はその上を行く。手札より罠カード、女教皇の錫杖を発動。場にモンスターが存在しないとき相手が直接攻撃を宣言したときに手札より発動出来る。攻撃を無効にしバトルフェイズは終了、更に相手プレイヤーに500ポイントのダメージを当たえる」

 

「くっ、メイン2に入り俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

ナッシュ場  CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU1)

LP3500   No.104仮面魔踏士シャイニング ATK2700 (ORU3)

手札2    伏せ2

 

遊馬場   CNo.39希望皇ホープレイV ATK2600 (ORU2)

LP4000

手札2

 

カイト場

LP2000

手札1

 

ドン・サウザンド場    

LP7500   

手札5      ヌメロン・ネットワーク

 

「俺のターン、ドロー! ガガガシスターを召喚、召喚時効果で俺はデッキよりガガガボルトを手札に加え、そしてガガガボルトを発動、ヌメロン・ネットワークを破壊する!」

 

 ガガガシスターのピンク色の携帯より放たれた稲光、それに呼応する様に裕馬達の足元の光が強くなっていく。

 

「我はヌメロン・ネットワークの効果発動、デッキよりカウンター罠、ヌメロン・リライティング・マジックを発動、ガガガボルトの効果を無効にする」

 

「それはどうかな。俺は伏せていた速攻魔法、サイクロンを発動。ヌメロン・ネットワークを破壊する!」

 

 凌牙がブラックホールなどを打ち込まれるという危険を冒してまで魔法カードを発動させ続けたのはサイクロンを妨害されることなく発動させるための布石だ。

 発生した竜巻と稲光は混じり合い遊馬達の足元を直撃する。

 気持ちの良いぐらいに澄んだ破砕音が響き渡り、走り回っていた赤黒の光が動きを止めていく。

 これでシニューニャの効果は発動できず除外ゾーンより特殊召喚された瞬間に自らの効果で自壊する事となる。

 遊馬と凌牙は拳を握り自分達のチームプレイで危機を乗り越えた喜びを表に出す。

 残るはドン・サウザンドが放つ手札誘発を掻い潜りとどめを刺すだけだ。

 

「俺は装備魔法、ガガガリベンジを発動。墓地よりガガガマジシャンを特殊召喚」

 

「我はこの瞬間、手札より増殖するGのモンスター効果を発動」

 

「くっ、ガガガマジシャンを特殊召喚し効果発動、レベルを3に変更する。そしてガガガシスターの効果発動! ガガガシスターとガガガマジシャンのレベルを5に変更する、そしてレベル5となっているガガガシスターとガガガマジシャンでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 渦の底を駆け抜け、大地を蹴りながら姿を見せるは黄と赤に煌めく戦鎧獅子だ、仲間を呼び主を勝利へと導くべくこの場に現れた獅子は咆哮し、ホープレイVへと走り寄る。

 

「現れろ、ZW―獣王獅子武装! 獅子武装の効果発動、オーバーレイユニットを使いデッキよりZW-荒鷲激神爪を加える。このモンスターは俺のライフが2000ポイント以上少ない時、手札より特殊召喚できる。天かける空の王、汝の爪牙で万物を掌握せよ! 来い、ZW-荒鷲激神爪!」

 

 紅い翼を羽ばたかせ空より来るは巨大な荒鷲だ。

 増殖するGが放たれているこの状況で遊馬がこのモンスターを特殊召喚したのには訳がある。

 

「そしてZW―獣王獅子武装とZW-荒鷲激神爪をホープレイVに装備させる! 紅き荒鷲と共に希望の元へと集え! 仲間の絆が強く、強く結びつくとき、その剣は神をも打ち砕く! 翼鎧獣装合体、ライオ・ホープレイV!」

 

 戦鎧獅子は咆哮し、荒鷲もそれに習い吠える。

 そして己の力を強化外装に送り込み体をパージし空を飛ぶ。

 目指すは希望皇、散っていった者と今ある希望を守り戦う皇へ。

 バラバラに分解された戦鎧が胸、手、脚へと絡みつき黄白赤の嵐となっていく。

 連打するのは金属の噛み合う音、それに混じり風を切る音が強く響く。

 それを起こすは翼を残し追加腕甲へと成った荒鷲だ。

 荒鷲はホープレイVの背中へと回り込み、強く結びついていく。

 合致が終わった巨大な強化四肢を試す様に動かし、翼に新しく装備された追加腕甲を拳へと変化、握りしめホープレイVは構える。

 

CNo.39ホープレイV ATK2600→7600

 

「いっけぇ、ホープレイV、ドン・サウザンドを攻撃!!」

 

 荒鷲激神爪には装備されている場合、1ターンに1度、相手フィールド上で発動した罠カードの効果を無効にするという効果がある。

 つまりドン・サウザンドはバトルフェイズに入ってしまえばモンスター効果は3回まで無効、罠カードを発動しても1度だけ無効にされる状況になる。

 ドン・サウザンドが女教皇の錫杖を発動させようとも今度ばかりは無効にされる。

 誰もが勝った、と思う中、ドン・サウザンドは鼻で笑う。

 

「甘いと言った、我は墓地より罠カード、幻影騎士団シャドーベイルの効果発動。このカードをモンスター扱いとして特殊召喚する」

 

「そんなカードいつ墓地に!?」

 

「…………先ほどの手札調整で捨てられた3枚か」

 

 アストラルが気づいた所でもう遅し、必殺の剣は墓地より幻影のごとく蘇った騎士によって受け止められた。

 

「くっ、俺はこれでターンエンドだ」

 

遊馬場   CNo.39ホープレイV ATK7600 (ORU2)

LP4000   ZW―獅子武装 (装備魔法)

手札1    ZW-荒鷲激神爪 (装備魔法)

 

カイト場

LP4000

手札1

 

ドン・サウザンド場    

LP7500   

手札5    

 

ナッシュ場  CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU1)

LP3500    No.104仮面魔踏士シャイニング ATK2700 (ORU3)

手札2    伏せ2

 

「俺のターン、ドロー」

 

 スタンバイフェイズを終わらせようとするカイトの耳を再びドン・サウザンドの声が叩く。

 

「何故、貴様らはヌメロン・ネットワークを破壊した程度で喜ぶのだ?」

 

 まるで理解できないとでもいう様に、そして手札を一枚つかみ取る。それに呼応する様に遊馬達の足元がまたしても輝き出す。

 

「誰がヌメロン・ネットワークが1枚だと言った?」

 

 言葉を喪い絶句する遊馬達、そして再び放たれるヌメロンの力。

 

「我の場にカードが存在しない相手のスタンバイフェイズ、我は手札よりフィールド魔法、ヌメロン・ネットワークを発動」

 

「なっ」

 

「なん、だと!?」

 

「この凄まじいヌメロンカウンター罠を十全に活かし、ヌメロンモンスターエクシーズの効果をフルに使えるカードを1枚だけ入れているとでも思ったのか、ヌメロン・ネットワークを破壊すればどうにかなるとでも思っていたのか。甘い、甘すぎる。所詮、貴様ら等、その程度でしかない」

 

 遊馬とナッシュがやっとの思いで破壊召喚たヌメロン・ネットワークが再び起動する。これによりまたしてもシニューニャへの恐怖がぶり返してくる。

 

「カイト!」

 

 心配そうにカイトを見る遊馬とアストラル。

 遊馬達がやれる事はやった。あとはもう、カイトのドロー運を信じるしかない。その視線を受けカイトは笑顔を見せる。

 

「任せておけ、俺はエクシーズ・トレジャーを発動」

 

「……引いていたか、ならばデッキ圧縮に努めよう。ヌメロン・ネットワークの効果発動、我はデッキよりヌメロン・リライティング・マジックの効果を得る」

 

「俺はサイクロンを発動、ヌメロン・ネットワークを破壊する!」

 

 再び停止するヌメロン・ネットワーク、それを見て遊馬達は再び安堵の息を吐く。

 

「デッキより2枚ドロー、銀河眼の光子竜を墓地に送りトレードインを発動、デッキより2枚ドローする。セメタリーバウンドを発動、墓地よりエクシーズ・トレジャーを発動し更に2枚ドロー。フォント・スペクターを墓地に送り銀河戦士を特殊召喚」

 

 手札交換とドローを繰り返しカイトもようやく動く準備が整ったのだろう、自らが月で手に入れたナンバーズを呼び出しにかかる。

 

「この効果で特殊召喚した銀河戦士の効果発動、デッキよりギャラクシーと名の付くモンスターを手札に加える、俺が手札に加えるのは銀河騎士だ。更に俺の場にギャラクシーと名の付くモンスターが存在する時、銀河騎士はリリースなしで召喚出来る、更に召喚した銀河騎士の効果で墓地より銀河眼の光子竜を特殊召喚する、蘇れ我が魂!」

 

 墓地より姿を現す銀河眼、2体のレベル8のモンスターが咆哮するとき、巨大な銀河の渦が鵜方を見せる。

 

「レベル8の銀河騎士と銀河眼の光子竜でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、今こそ甦れ! 未来を操る光の化身 No.62! 銀河眼の光子竜皇!」

 

 カイトが月で覚醒させた銀河眼のナンバーズ、アストラル世界に存在していた崇高なる竜皇がこの場に降臨する。

 更にモンスターを特殊召喚する気配を見せずドン・サウザンドへと攻撃を叩き込もうとするカイトを見、ドン・サウザンドは手札を1枚、掴む。

 

「我は手札よりエフェクト・ヴェーラーを発動、シャイニングの効果を無効にする」

 

「光子竜皇でドン・サウザンドへ直接攻撃。この瞬間、光子竜皇の効果発動、オーバーレイユニットを使い場のランクの合計×200ポイント攻撃力をアップさせる、ランクの合計は8、よって攻撃力は5600だ! エタニティ・フォトン・ストリーーーーーム!」

 

 叩き込まれた爆光、七つの碧球より放たれた一撃は星をモンスター貫通する物だ。だがドン・サウザンドはそれを片手で受け止め、何の感情も見せずに口を開く。

 

「ダメージ計算時、我は手札よりクリボーのモンスター効果を発動させる、我が受けるダメージは0になる」

 

「ッ、俺は1枚伏せてターンエンドだ」

 

カイト場  No.62銀河眼の光子竜皇 ATK4000 (ORU1)

LP2000   銀河戦士 DEF0

手札0   伏せ1

 

ドン・サウザンド場    

LP7500   

手札4     

 

ナッシュ場  CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU1)

LP3500    No.104仮面魔踏士シャイニング ATK2700 (ORU3)

手札2    伏せ1

 

遊馬場   CNo.39ホープレイV ATK7600 (ORU2)

LP4000   ZW―獅子武装 (装備魔法)

手札1    ZW-荒鷲激神爪 (装備魔法)

 

 3人がかりで大ダメージや必殺の一撃を何度も放つもドン・サウザンドのライフを削る事は出来ない。そしてまたドン・サウザンドのターンが回ってくる。

 

「我のターン、ドロー」

 

「増殖するGの効果発動だ!」

 

 遊馬が翳したカード、それを見た所でドン・サウザンドの動きに変化などない。

 

「我のスタンバイフェイズ、シニューニャは特殊召喚される、そして我の場にヌメロン・ネットワークが存在しないときシニューニャは破壊される」

 

 ドローしシニューニャが破壊された事で笑みを浮かべる遊馬達を一瞥し、ドン・サウザンドはため息を吐く。

 失望と嘲笑いの感情がこもったそれを吐き捨て、

 

「愚かな、まだ分かっていないようだな。自らが更なる絶望の扉を開けたと言う事実を、我は墓地のゴーストリック・デュラハンとビッグ・ワン・ウォリアーを除外しカオスエンド・ルーラーを特殊召喚」

 

「ま、まずい!?」

 

 カオスエンド・ルーラーの特殊召喚時にドローした遊馬は思わず声を挙げる、今、遊馬が引いたカードではあのモンスターの効果を防ぎ切れないからだ。

 

「我のライフを1000支払いカオスエンド・ルーラーのモンスター効果だ、九十九遊馬のカード全てを除外する」

 

 終焉を操りし戦士が放つ闇光が遊馬へと迫る、遊馬はアストラルと共になんとかその一撃から逃れようとするが、それより先に遊馬とアストラルは闇光に飲まれる。

 

「まだだ! 効果ダメージが発生した時、墓地のドリーム・シャークの効果発動、効果ダメージを無効にしてこのカードを墓地から特殊召喚する」

 

 遊馬達は墓地より出現した鮫によって光闇の一撃より守られた、だがこれは手痛い代償だ。

 遊馬の場にあったホープレイVも、墓地にあったカードも全てが根こそぎ奪い取られている。唯一救いがあるとすればホープレイのオーバーレイユニットだったホープとゴゴゴゴーレムが墓地にあるくらいだろう。

 

「邪魔者を排除させてもらう、カオスエンド・ルーラーとクリボーを除外し3体のカオスエンド・ルーラーを特殊召喚。そして我はライフを1000ポイント支払効果発動、ナッシュのカード全てを除外する」

 

「今度は俺がシャークを助ける番だ! 俺は手札からエフェクト・ヴェーラーの効果発動!」

 

 今度はナッシュを飲み込まんとする光闇、それを遊馬の手札より飛び立った少女が防ぐ。

 普通ならばこの必殺とも呼べる2連撃を防がれたら狼狽の一つも見せるのが普通だろう、だが防がれた事すらも想定内だと言わんばかりにドン・サウザンドは感情一つ動かさず更なる手をモンスターを呼び出しにかかる。

 

「我はレベル10のカオスエンド・ルーラー2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚」

 

 光子竜皇が出現する際に発生した渦よりも更に広大な光が遊馬達の足元を照らす。

 アストラルはその渦の中、今まさに現れようとするモンスターエクシーズより発せられる力に目を見開く。

 

「遊馬、ナンバーズだ!」

 

「なんだって!?」

 

 渦の底、鈍く輝く線路が4つ、飛び出してくる。そして次に聞こえてくるのは規則正しく響く金属音だ。

 何が出て来るのかを待ちかねる3人の眼に映るのは砲塔を乗せ4つの爪の様に伸びる牽引列車だ。

 そしてそれだけの運動量で牽引しなければ動く事すらもままならない巨体が姿を見せる。

 それは一言で言い表すならば巨大な卵、鋼色に艶めく右中央にはオレンジで自分の番号を示す81の数字が爛々と煌めいている。

 それは遊馬を助けに来た仲間達の魂の奥底にあった物の1枚、敗北した人間の魂を人間世界とバリアン世界を結び付ける際に分解、抽出したナンバーズだ。

 

「現れよNo.81、その砲塔より放たれるは絶対無比の払砕の力、希望に縋る愚者達を一片残らず砕け、超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ」

 

 その巨体の大きさに遊馬達は息を呑む、だがまだ終わりではない。これはただの始まりでしかない。

 ナッシュが効果テキストを確認しようとディスプレイに目を落とすもそこには砂嵐があるのみだ。

 急ぎ裕へと振り向き見れば。裕は額に脂汗を滲ませ何かを堪える様に体を丸めている。

 時折吐き出す様に濁った咳音をし、ナンバーズ達を掴む両手の指先は生気が喪われ白く、まるで苦悶の声を漏らすだけの人形のようである。

 そのような生きているのかと心配になるほどの悲惨な姿にまでなるも、それでも、裕は友達達の勝利の為、祈りドン・サウザンドの書き換えを抑え込むのを止めない。

 人間のちっぽけな願いを嘲笑い砕く現実の様に、それは姿を見せる。

 

「見せてやろう、貴様ら程度の感情がもたらすカオスなど児戯でしかないと、勝利への渇望が生み出すカオスの深淵を。ヌメロン・カオス・リチューアルを発動」

 

 開くは墓地に通じる黒き門、飛び出すは破壊されたヌメロンカードの残骸達だ。

 

「我の墓地よりナンバーズと名の付いた4枚のカードとヌメロン・ネットワークをレベル12のエクシーズ素材としてエクシーズ召喚できる」

 

 スペリオル・ドーラよりも更に巨大、限界まで広がった渦の底、混沌に溢れかえる門がある。

 だがその門は今、歪み溶け落ちかけている。

 門の内部より膨れ上がるカオス、それが膨大なエネルギーとなり扉を爆砕、渦を突きやぶり地上へと噴出する。

 

「我はCNo.1ゲート・オブ・カオス・ヌメロン-シニューニャ、No.1ゲート・オブ・ヌメロン-エーカム、No.4ゲート・オブ・ヌメロン―チャトゥヴァーリ、No.3ゲート・オブ・ヌメロン―トゥリーニ、そしてヌメロン・ネットワークでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 赤黒、赤紫のカオスが躍る中、その躰が構築されていく。

 尊ぶは自分の渇望のみ、それ以外に何も考えない、厭わない事を示すように純粋で純潔を示す白を基調とした躰、仮面の様な貌、罪人を処刑する刃物のように尖った脚、鞭の様に撓る尾。

 

「現れろ、CNo.1000、混沌の憂えは浅ましき人の業。天壌の夢は無窮の幻。虚ろの神よ、闇をもて、光に鉄槌を」

 

 赤黒の空を舞い落ちるは漆黒の羽、半人半鳥の畸形(きけい)なる神がここにいると誇る羽ばたきが残す残滓だ。

 

「CNo.1000 夢幻虚神ヌメロニアス!」

 

 ドン・サウザンドのカオスナンバーズ、その姿に裕馬達は一瞬言葉を喪い立ちすくむ。

 

「攻撃力1万だと!?」

 

「我はエクシーズ・トレジャーを発動、場には4体のモンスターエクシーズ、よって4枚ドローする。更にミスティック・バイパーを召喚。ミスティック・バイパーをリリースしドロー、ドローしたのはレベル2の増殖するG、よって追加ドローは無い」

 

 手札補充を済ませ、ドン・サウザンドは最後の仕込みを始める。

 スペリオル・ドーラの中核、鋼色の卵にラインが走る。

 それに切り取られる様に卵は開かれ、排熱と防御を担う装甲が展開する、そして中より現れるは巨大な円筒だ。

 その中央が滑らかにせり上がり一つ、一つ、また一つと伸び、砲塔が天を貫く様に展開される。

 

「ヌメロニアスを対象にスペリオル・ドーラの効果発動、オーバーレイユニットを使いヌメロニアスはこのターン、カード効果を受け付けない」

 

 オーバーレイユニットが吸い込まれ砲弾へと変わる。

 発射されたそれは地を揺らし、発射音だけで鼓膜が破れそうになるほどの強烈な物だ。

 それを受けたヌメロニアスが翼をはためかせ暗黒騎士へと迫る。

 

「まずはナッシュ、貴様から葬ってやろう、バトルだ。ヌメロニアスで仮面魔踏士シャイニングを攻撃」

 

 攻撃力10000、Darkknightの攻撃力は2800。当然それを止めなければナッシュのライフなど残らない。

 ナッシュは敗北を防ぐべく、自分の伏せカードを開く。

 

「させるか、俺は罠カード、和睦の使者を発動!」

 

「ならば我はヌメロニアスの効果発動する。相手、自分のターンに一度、カオスオーバーレイユニットを使う事で場のモンスター、Darkknightを破壊する」

 

 5つのカオスオーバーレイユニットの1つを吸収したヌメロニアスは大きく羽ばたく、その翼より抜け落ちた羽の一つ一つが爆撃の様にDarkknightへと直撃、破壊していく。

 

「そしてエクストラデッキよりC(カオス)と名の付いたカードを召喚条件を無視して特殊召喚する、現れよCNo.106溶岩掌・ジャイアント・ハンド・レッド」

 

「だがカオスオーバーレイユニットを持ったまま破壊されたDarkknightの効果発動、このカードを特殊召喚、更に俺のライフを2800ポイント回復させる! リターン・フロム・リンボ!」

 

「スペリオル・ドーラでカイトの銀河戦士を攻撃!」

 

 牽引された列車に装備された2門の砲塔がカイトへと向けられる。

 先ほどの砲撃よりは小さいがかなりの轟音を轟かせながら砲撃が2射、砂煙を巻き上げながら発射されカイトのモンスターを砕いた。

 

「そしてバトルフェイズ終了時、ヌメロニアスの更なる効果を発動」

 

「なんだと!?」

 

 攻撃力1万、相手自分のターンにカオスオーバーレイユニットを使いモンスターを破壊しエクストラデッキからカオスエクシーズを特殊召喚させるというまさに切り札と呼ぶに相応しい性能を持ちながら更なる効果を発揮させることにナッシュは叫ぶ。

 

「相手場のモンスター全てを破壊する、我はナッシュの場のモンスター全てを破壊する」

 

 ヌメロニアスより衝撃波が放たれナッシュの場にいたモンスター達を砕いていく。カオスオーバーレイユニットを持たないDarkknightは復活する事は出来ず他のモンスターと同様に砕けるだけだ。

 

「そしてこのターン、墓地に送られた全てのモンスターを我の場に守備表示で特殊召喚する。甦れ、Darkknight、ミスティック・バイパー」

 

 このターン中に墓地に送られていればこの神は自分の都合で死者を呼び覚ます。自らの欲望のために見方も敵も全てを傀儡に仕立て上げるのだ。

 そして、の言葉と共にドン・サウザンドが手に取るは、 

 

「カオスエンド・ルーラー」

 

 このターンだけで3体目のカオスエンド・ルーラーがこの場に姿を現した。

 遊馬はデッキへと手を翳し祈るように目を閉じ、勢いよくカードをドローする。

 

「我はライフを1000ポイント支払い、カオスエンド・ルーラーの効果発動、ナッシュのカード全てを除外する!」

 

「俺はエフェクト・ヴェーラーの効果発動、無効にする!」

 

 凌がれた事に一瞬だけ不快感だと言う表情を見せるも、ドン・サウザンドは気を取り直し、

 

「ならば我はDarkknightの効果発動、天城カイトの光子竜皇をカオスオーバーレイユニットにする。更にミスティック・バイパーの効果発動、リリースしドロー」

 

 特殊召喚されたモンスターに効果無効などのデメリットは無い。故に起こるのは地獄の様なカード効果の連打だ

 

「ドローしたのは貪欲な壺、よって追加ドローは無い。だが貪欲な壺を発動。我の墓地に存在するシニューニャ、増殖するG2枚、封印されしエクゾディア、エフェクト・ヴェーラーをデッキに戻し2枚ドロー」

 

 更には凌牙がやっとの思いで妨害したエクゾディアパーツもデッキへと戻る、これによりエクゾディアを揃えられてしまう可能性もぐっと高まった。

 すでに連続するサーチ、ドローでドン・サウザンドのデッキは薄くなっている状況であり、シニューニャを突破すればなんとかなるのではないか、等と思っていた遊馬達の淡い願いなどたった1ターンで消し飛ばされた。

 

「我はカードを2枚伏せてこれでターンエンドだ」

 

 

ドン・サウザンド場 CNo.1000 夢幻虚神ヌメロニアス ATK10000 (ORU4)

LP4500      カオスエンド・ルーラー -開闢と終焉の支配者- DEF2000

手札5       No.81 超弩級砲塔列車スペリオル・ドーラ ATK3200 (ORU1)

        CNo.101 S・H・Dark Knight DEF1500 (ORU1)

           伏せ2

 

ナッシュ場  

LP6300   

手札1    

 

遊馬場   

LP4000   

手札2    

 

カイト場  

LP2000   

手札0   伏せ1


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。