クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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迫るタイムリミット 上

更地になった荒野に声が響き渡っていく。

それは仲間達が一人の少年の身を案じる声だ。

それを煩わしく思いながらもドン・サウザンドは白と黒の光の中、カイトに動きがあったのを見た。

 

―――流石にこれぐらいで終わるような決闘者ではないな。なら次の手は!

 

 ドン・サウザンドは思案しつつ他へと意識を飛ばした。

 決闘をしているバリアン兵の眼を盗み見るのは巨大な修道女像が荒れ狂う戦場、そして8竜を操る少女とその仲間達だ。

 どちらの顔にも笑みが浮かんでおり希望を信じている。他人を信じ託す笑みがある。その中でも一際ドン・サウザンドの目を引くのはリペント達の笑みだ。

 してやったり、計画通りと言わんばかりに笑みを浮かべるそれが気に食わない。今にも負けそうなのに笑みが浮かんでいる事が気に食わない。

 

―――なぜ笑う、自分が負けそうになっているのになぜ笑う? 自分の様に決闘を愉しむだけの余裕があるとでもいうのだろうか? いいや違う筈だ。彼らは敗北しかけ死を目の前にしている、怯え逃れるべきものを前に何故、笑うことが出来るというのだ。

 

 ドン・サウザンドはこの状況を愉しんでいる。

 4329億7452万8064分の1(いつも出来る当たり前)の事が出来なくなり、まともな知略と相手の裏を読む決闘は何千年かぶりだからだ。

 己が勝利のみを追求し組んだデッキを用い相手が自分を倒そうと知略を巡らし全力で殺しに来る、これに勝利してこそ自分の渇望が僅かでも埋まるのではないかと期待しているのだ。

 

「俺はクリフォトンの効果発動、2000ポイントのライフを支払う事でこのターンに受けるダメージを0にする!」

 

 カイトはギリギリで生き残った、だがその代償に手札と墓地のカードを全てを除外されてしまった。

 だがそんな事ではドン・サウザンドは気を緩めない。

 本当に強い決闘者はデッキと固い絆で結ばれている、例え能力を使えなくなっても奇跡を呼び起こせるであろう。LPを0にしカード効果を発動させなくなりようやく本当の勝利と言えるのだ。

 だからこそドン・サウザンドは勝つために考える。他の自分が敗北した理由を。

 

―――No.100ヌメロン・ドラゴンの効果を我は知っている、そしてあの世界で我が負けたのは己の力を見せ付けすぎた、勝てると驕ったゆえの敗北。何故、秘匿すれば勝てるカード効果を説明する? 発動するときに説明し殺せばいい。幸いな事に我を縛る能力は弱まってきている。

 

 ドン・サウザンドは今なお力を放出する少年を見る。

 自分の命を削り能力をばら撒き友の勝利を祈る水田裕、それが発する無効化能力は今なお荒れ狂い放出が続いている、だがその力は徐々に弱くなる傾向を見せ続けている。

 もうすでに水田裕の命が限界に近いからだ。

 祈る様に手を組むその小さな体はドン・サウザンドが仕向けたこの世界の水田裕、ギラグ、最上、黒原、そしてバリアン兵、それらによってもうボロボロだ。

 

―――時間を置けば置くほど力は弱くなりいずれは死ぬだろう。そうすれば我の力が蘇り3人まとめて消し潰すことが出来るようになる。ならば自分が今ここですることは何か、決まっている。

 

 ドン・サウザンドは黙って手札を見続ける。たっぷりと1分か2分ほど時間を置き、

 

「我はターンエンドだ」

 

ドン・サウザンド場  カオスエンド・ルーラー -開闢と終焉の支配者- ATK3500

LP11000   

手札6

       

ナッシュ場  

LP4000 

手札6

 

遊馬場   

LP4000

手札5

 

カイト場

LP2000

手札0

 

 ドン・サウザンドの行動の意図を理解したのだろう、ナッシュは手早くターンを進める。

 一瞬でも早く、裕の命が消える前にドン・サウザンドに勝たなければエクゾディアが揃えられてしまうからだ。

 

「俺のターン! 俺の場にモンスターが存在しないこの時、手札のライトハンド・シャークを特殊召喚、そして俺の場にライトハンド・シャークが存在するとき手札よりレフトハンド・シャークを特殊召喚」

 

 チェーンブロックを作らずに特殊召喚される2匹の鮫、そしてナッシュの背後に七つの赤星が光を灯す。

 

「俺はRUM-七皇の剣を発動、この効果でエクストラデッキよりNo.101 S・H・Ark Knightを特殊召喚する」

 

「我はその効果に増殖するGを発動、このカードを手札から墓地へ送って発動できる。このターン、我は相手がモンスターの特殊召喚に成功する度に、自分はデッキから1枚ドローしなければならない」

 

 態々、分かる様に時間を賭けてドン・サウザンドは自分が発動したカードテキストを読み上げる。

 ただ時間を稼ぐために行われる意味の無い行為、それを切り裂く様に、ナッシュは言葉を覆いかぶせる。

 

「っ、カオスエクシーズチェンジ! 現れろ、CNo.101! 満たされぬ魂の守護者よ、暗黒の騎士となって光を砕け、S・H・Dark Knight!」

 

 現れた暗黒騎士、その身に宿す強力な力を前にしてもドン・サウザンドは余裕を崩さない。

 自分を行動を縛るカードでなければどうでもいい、あとは自分がそれをどう利用するか、それのみを考えている。

 

「Darkknightの効果発動、カオスエンドルーラーをDarkknightのカオスオーバーレイユニットにする!」

 

「我はDarkknightを対象に手札よりエフェクト・ヴェーラーの効果発動、このカードを墓地に送り対象にしたモンスターの効果を無効にする」

 

「そして手札よりセイバー・シャークを通常召喚、俺はレベル4のライトハンド・シャークとセイバー・シャークでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、行くぞギラグ、この世の全てを握り潰せ! No.106巨岩掌ジャイアント・ハンド!」

 

 渦の底より現れた巨大な岩で構成されたオーバーハンドレットナンバーズを操るナッシュの背後に男の姿が重なる。そしてナッシュの背後に居るのは大男の姿だけでは無い。

七皇とナッシュの為に喜んで身を差し出したバリアン兵、全てを見守るバリアン世界に住むバリアン人達が居る。

 多くの人々に愛され、希望と願いを託された王が友と肩を並べ戦う意思を見せている。

 

「そして運命の宝札を発動、出目は4、よって4枚ドローし4枚を除外する。俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」       

 

ナッシュ場  CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU1)

LP4000   No.106巨岩掌ジャイアント・ハンド ATK2000 (ORU2)

手札3    レフトハンド・シャーク ATK1300

       伏せ2

 

遊馬場   

LP4000

手札4

 

カイト場

LP2000

手札0

 

ドン・サウザンド場  カオスエンド・ルーラー -開闢と終焉の支配者- ATK3500

LP11000   

手札7    

 

「俺のターン、ドロー」

 

「気を付けろ、遊馬。相手は今までで最強の敵、どんな事をしてくるか分からないぞ」

 

 バリアン世界の代表者の後に続くはアストラル世界の代表者、九十九遊馬と怨敵アストラルの二人組だ。

 

「おう! 俺はガガガマジシャンをコストにオノマト連携を発動、デッキよりガガガシスターとゴゴゴゴーレムを手札に加える、そしてゴゴゴゴーレムを召喚、そしてレベル4のモンスターが召喚された事で手札からカゲトカゲのモンスター効果を発動、このカードを特殊召喚できる」

 

 並ぶは遊馬の決闘を支え続けたモンスター達、そしていつもの様に発生した渦へとゴーレムと蜥蜴は飛び込んでいく。

 渦の中より現れるのは黄色と白で彩られた翼盾のようなモニュメントだ。

 手、足、顔、そして仲間を守る翼盾が背後へと展開しドン・サウザンドへと油断なく構える。

 

「俺はレベル4のカゲトカゲとゴゴゴゴーレムでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 現れろNo.39希望皇ホープ!」

 

 言葉を切り遊馬は手札を見る、そして一瞬だけ悲しげに目を伏せる。

 その原因に心当たりがあるのだろう、アストラルは遊馬へと優しげに言葉をかける。

 

「遊馬、今は彼の事を悲しんでいる暇はない」

 

「だけどよ、アストラル」

 

「私達は彼が居なければここに立ってはいなかったかもしれない、だからこそ彼が私達を助けた事を感謝するべきだ。彼だって遊馬のそんな顔を見たくはない筈だ」

 

 自分達が助かったのは、彼がドン・サウザンドにした事は彼なりの負けられない何かがあった結果なのだろう。

 そこに善意があったかは本人以外に誰も分からない事だが、彼が最後に見せた笑み、言葉を遊馬は忘れない。

 その二人の様子を見て、シャークはぎゅっと拳を握り自分のエクストラデッキを見た。

 

「アストラル、そうだな。俺はRUM-リミテッド・バリアンズ・フォースを発動、希望皇ホープをエクシーズ素材としてカオスエクシーズにランクアップさせる!」

 

 アストラルと遊馬の声に応じる様にホープは白と黄色のモニュメントへと回帰、天に出現した渦へと吸い込まれていく。

 限定されたカオスの渦、それより構築されていくのは剣は赤黒の大剣のモニュメントだ。 

 それより構築されていくのはホープをより強力に進化させた破壊の希望皇。

 

「「友より手渡された力で進化した力と姿を見せよ、希望皇ホープ! 混沌を統べる赤き覇王。悠久の戒め解き放ち、赫焉となりて絶望を打ち払え! 降臨せよ、CNo.39希望皇ホープレイV!」」

 

 ホープレイVは両手で腰に構築された2剣を抜き放つと柄の部分で接続する。

 そこに飛び込んでいくのはカオスオーバーレイユニットだ。

 

「ホープレイVの効果発動、カオスオーバーレイユニットを使い相手モンスターを破壊しその攻撃力分のダメージを相手に与える! ホープ剣・Vブレードシュート!」

 

 カオスオーバーレイユニットを取り込んだ巨大な剣を振りかぶるとホープレイVはカオスエンド・ルーラーへと投じる。

 カオスエンド・ルーラーが両の手に貯めたエネルギーを叩きつけ破壊に抗おうとするも刃はそれを切り裂き本体へと突き刺さり大爆発を起こした。

 爆発はドン・サウザンドへと襲い掛かった。だがドン・サウザンドの体を覆うカオスを破る事は出来ない。

 一応、ライフは減っているがまるで意にも留めないその行動に、こんなものかと言わんばかりにこちらを見下すドン・サウザンドの眼に宿る感情に遊馬は一歩だけ後退ってしまう。

 自分が一歩下がった事に気づいた遊馬は二歩前に歩き、

 

「俺はターンエンドだ!」

 

遊馬場   CNo.39希望皇ホープレイV ATK2600 (ORU2)

LP4000

手札2

 

カイト場

LP2000

手札0

 

ドン・サウザンド場    

LP7500   

手札7    

 

ナッシュ場  CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU1)

LP4000   No.106巨岩掌ジャイアント・ハンド ATK2000 (ORU2)

手札3    レフトハンド・シャーク ATK1300

       伏せ2

 

「俺のターン、ドロー」

 

 最後に来るのはただの人間だ。

 アストラル人とオーバーレイできるわけでも、実はバリアン人でしたなんていう過去も無い、たった一頭の竜に認められただけの普通の決闘者だ。

 それでも彼はここに立ち、ドン・サウザンドを倒すべくカードを引く。

 全てはドン・サウザンドの策略によって傷つけられた弟や家族、仲間達の無念を晴らすために。

 

「俺は」

 

「我はこのスタンバイフェイズ、我の場に何もカードが存在しない時、手札よりフィールド魔法、ヌメロン・ネットワークを発動する」

 

「何、相手のターンに手札から発動するフィールド魔法だと!?」

 

「さあどうしたカイト、貴様のターンだ」

 

 血管のように満遍なく敷き詰められた赤黒のラインが遊馬達の足元に伸びる。

 バリアン世界を示す赤黒の空間だけでも気が滅入りそうな光景が更に気味が悪い物へと変わる。

 カイトは決闘盤で発動したヌメロン・ネットワークの効果発動を確認するも、肝心のデッキから発動するカードが分からず危険なカードという事しか分からない。

 

「くっ、俺は魔法カードエクシーズ・トレジャーを発動、場には2体のモンスターエクシーズが存在するよってカードを2枚、何!?」

 

 カイトはドローしたカードを発動し、驚愕の声を挙げる

 

「エクシーズ・トレジャーが白紙のカードになるだと!?」

 

「我はヌメロン・ネットワークの効果を発動したのだ、このカード以外のカードが我の場に存在しないときデッキよりヌメロンと名の付くカード効果を得ることが出来る。我はヌメロン・リライティング・マジックの効果発動。相手が魔法カードを発動したときその発動を無効にし相手のデッキより発動条件を満たしている魔法カードを発動する。我が発動させるのは魔法カード、サイクロンだ。ナッシュの伏せカードを破壊しろ」

 

「なんだと!?」

 

 まさに書き換えるというべきカード、恐るべきはそのたった一枚に秘められたポテンシャルだ。

 他人のデッキを見てピーピング、デッキの中にあるカードと場、墓地、除外されているカードを見ればどのようなカードがあるか予測がしやすくなり、好きなカードを好きな相手目掛けて叩き込むことが出来るのだ。

 今回はカイトの大嵐やブラックホールと言った物が除外されていたから助かったが、そうでなければ今頃は大嵐やブラックホールが発動されていたであろう。

 だがここまで来た決闘者がそんな程度のことに反応出来ないわけが無い。

 

「だったらレフトハンド・シャークをリリースし俺は手札より水霊術―葵を発動、お前の手札を見せてもらう」

 

 鮫がドン・サウザンドの手札へと突撃し6枚の手札を主へと公開する。

 

「俺が捨てさせるのは封印されしエクゾディアだ」

 

 重要なエクゾディアパーツを落とさせることに成功したがエクシーズ・トレジャーを無効化されたカイトの手札は0、やれることなど1つしかない。

 

「ターンエンドだ……!」

 

カイト場

LP2000

手札0

 

ドン・サウザンド場    

LP7500   

手札5      ヌメロン・ネットワーク

 

ナッシュ場  CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU1)

LP4000   No.106巨岩掌ジャイアント・ハンド ATK2000 (ORU2)

手札3    伏せ1

 

遊馬場   CNo39希望皇ホープレイV ATK2600 (ORU2)

LP4000

手札2

 

「我のターン、ドロー」

 

 そしてドン・サウザンドのターンが回って来る。

 このターンからは攻撃が可能となる。どのような猛攻が来るのかは想像も出来ないが軽い物ではないのは確かだ。

 

「我はヌメロン・ネットワークの効果発動、このカード以外に我の場にカードが存在しないこのときデッキよりヌメロンカードの効果を得る。我が発動するのはヌメロン・ダイレクトだ」

 

 足元の赤黒が激しく移動し始める。

 まるで無数の蟲が蠢く様に移動するその光景は見る者に不吉な印象しか与えない。

 

「我のエクストラデッキから攻撃力1000以下のヌメロンモンスターエクシーズ4体を我のフィールド上に特殊召喚する。そしてこの効果で特殊召喚したモンスターは我のエンドフェイズ時にゲームから除外される」

 

 効果を見たナッシュは即座に動く。

 

「増殖するGを発動する!」

 

「まあいい、この4体は最初に地上へ降り立ったナンバーズ。この地上を監視し続けた地球の番人」

 

 遊馬達の足元、赤黒のラインより金色の光が浮かび上がる。それらは集まり巨大な渦が花開く。

 

「現れよ、No.4ゲート・オブ・ヌメロン―チャトゥヴァーリ」

 

 ドン・サウザンドと遊馬達の中間よりせり上がるは巨大な2又の槍型のモンスターだ。

 それに連なる様に、続々とヌメロンの名を持つナンバーズ達が地上に這い上がってくる。

 

「さらに現れよNo.3ゲート・オブ・ヌメロン―トゥリーニ、No.2ゲート・オブ・ヌメロン―ドゥヴェー」

 

 外見は鏡写しにしたようにほぼ同じ2体のナンバーズ、違うのはその身に刻まれた数字のみ。

 先に現れたNo.4と共に宙に浮かび、最後のナンバーズが姿を現す時を待つ。

 

「そしてこれがヌメロンの極致、No.1、天を摩する地獄の門、堅牢なる扉開きしとき、一抹の希望を捨てよ、No.1ゲート・オブ・ヌメロン-エーカム」

 

 最後に姿を見せるのは巨大なる門型モンスターだ。

 それは宙に浮かぶと次々に合体を始める。土台となる様にNo4は下に、No2と3は扉の装飾となる様に左右に合致し宙に浮かぶ地獄の入り口と呼ぶべき地獄門となる。

 

「我はエクシーズトレジャーを発動、場には6体のモンスターエクシーズ、よって6枚ドロー、バトルだ、No.1ゲート・オブ・ヌメロン-エーカムで天城カイトに直接攻撃!」

 

 ヌメロン・ダイレクトによって現れた4体のヌメロンナンバーズ、それらは個性と呼ぶべきものは無い。

 4体のナンバーズ全てが持つ効果はこのカードが戦闘を行った後にオーバーレイユニット1つを使い自分フィールド上に存在するヌメロンと名のつくモンスターの攻撃力は倍になる、という物だ。

 エクストラデッキより特殊召喚されたためオーバーレイユニットは持ち合わせていないが、ドン・サウザンドの場にあるヌメロン・ネットワークが存在する限りヌメロンと名の付くモンスターはオーバーレイユニットを使わずに効果を使えるため効果が使えないと言う心配もない。

 それらを瞬時に読み、動くのはナッシュだ。

 

「俺は罠カード、ラスト・エントラントを発動!」

 

「そのカードは、シャーク、お前!」

 

 その発動されたカードを見て遊馬は驚愕と歓喜の入り混じった声を挙げる。

 それは遊馬と神代凌牙が初めてタッグ決闘を行い勝利に繋げたカードだからだ。

 嬉しがる遊馬を横目でちらりと見、ナッシュは照れ隠しをするように鼻を鳴らし、顔を微妙に背けながら手札を一枚手に取った。

 

「相手に手札1枚を渡しバトルフェイズを終了させる! 俺はカイトにこのカードを渡す」

 

 ドン・サウザンドにはナッシュがカイトへと投げ渡したカードがどの様な物かは分からない、だが恐らくは手札補充のカードであるだろうと予測を付ける。

 そして時折、決闘のディスプレイにノイズが走り始める決闘盤のを見て、長考する。

 

―――このノイズはアストラル世界とバリアン世界の力が衝突し起こる物、つまり異能力が許され始めている。恐らくは水田裕が意識を失いかけているのだろう。この様子だと次の我のターンぐらいには虫の息と言う所か。

 

 この場所にたどり着く事が、この場所で意識を保っている事自体が異常と呼べる大怪我と失血をしている水田裕の意識があとどれくらい持つか。それを頭の中で計算しつつ、ドン・サウザンドはゆっくりと手を動かす。

 遅延行為をするのはラスボスがする事じゃねえ、と言えることであるかもしれないし、水田裕が話せるだけの余裕があればそう言うだろう。他人からも批判されるだろう行為だがドン・サウザンドは気にも留めない。

 全ては自分が他人に勝つためにやっている。

 己が持つ能力と出来る事、そして勝つために何をすべきか、それだけを考慮し他人など見ず、聞かず、気にも留めずにただひたすらに自分が勝つための最大限の手を打っているだけであり、何ら恥じる事ではない。

 

―――水田裕の意識が途切れるか、死ぬかすればドローは全て思い通りになる。そうすればエクゾディアを揃える(他人に勝利する)事など容易い事だ。誰が何を言おうとも、何をしようとも最終的に我が勝てばよいだけの事だ。 

 

「ならばメイン2、我はランク1のNo.4ゲート・オブ・ヌメロン―チャトゥヴァーリをエクシーズ素材としてエクシーズチェンジ。ランク4、ダウナード・マジシャン」

 

 勝つために時間稼ぎと布石をドン・サウザンドはばら撒く。

 

「更にヌメロン・ネットワークが発動している時、我はヌメロン―エーカムをカオス化させることができる」

 

 門となっているNo1がヌメロン・ネットワークに沈んでいく。

 無数の書き換える力が蠢くその渦の底でエーカムは分解され新たな姿へと書き換えられていく。

 

「我はヌメロン―エーカムでオーバーレイネットワークを再構築。カオスエクシーズチェンジ! 現れよ、CNo.1! 全ての秩序を破壊し、混沌なる闇へ。世界を真なる姿へ導け。ゲート・オブ・カオス・ヌメロン-シニューニャ!」

 

 ドン・サウザンドの背後より天高く聳え立つ異形の門がのし上がる、武骨な分厚い門はその存在を大きく塗り替えられており、所々赤黒のラインが蠢き、まるで地獄の底で罪人を焼く業火のような装飾へと変わってる。

 そしてCNo.の放つ存在感は凄まじく、そしてその効果もそれに見合う強烈な物だ。

 

「我はゲート・オブ・カオス・ヌメロン-シニューニャの効果発動、我のモンスターをすべて除外する」

 

 そこだけを聞けばただのデメリットでしかない効果である、だが問題はその後に続く効果だ。それを見たナッシュはそれを阻止すべく動く。

 

「させるか、俺はジャイアント・ハンドの効果発動、オーバーレイユニットを2つ使いシニューニャの効果を無効にする、秘孔死爆無惚(ひこうしばくむほう)!」

 

 オーバーレイユニットを吸収した巨岩掌はその指先にドリルを構築、今この瞬間より場より姿を消そうとするシニューニャを肉薄する。

 

「我がその様な事を許すとでも思ったか、手札より速攻魔法。エフェクト・シャットを発動、発動したモンスター効果を無効にし、破壊する」

 

 だがその行動すらも読み来ているドン・サウザンドは巨岩掌の前に躍り出るとドリルを受け止める。

 膨大な質量のそれを軽々と受け止め握りつぶした。

 ドリルの破砕は巨岩掌の全身へと広がりボロボロと破片が零れ落ちていく。

 

「ジャイアント・ハンド!」

 

 ナッシュは声を挙げ、ギラグを助けようとでもするように手を伸ばすも、それよりも早く巨岩粧は砕け散った。

 そして動きを封じられていないシニューニャは異次元へと逃れてしまう。

 これによって遊馬達はヌメロンネットワークを破壊するか次のドン・サウザンドのスタンバイフェイズに特殊召喚されるシニューニャを召喚を無効、または破壊しなければ先ほど除外したモンスターエクシーズ4体の攻撃力の合計8100ポイント分のダメージを誰かが受ける事になる。

 

「更にドン・サウザンドの場にはカードが無い。これで遊馬達のターンにまたヌメロン・ネットワークの効果が使えるようになった…………!」

 

 アストラルは表情を歪め、呻くように言う。

 その焦りと恐怖の入り混じったあアストラルの顔を見、ドン・サウザンドは更に時間をかけ考えるフリを見せる。

 焦る遊馬達とは裏腹にドン・サウザンドはゆっくりと余裕を持ち、動く

 

「そして異次元からの埋葬を発動、除外されているモンスター3体を墓地へと戻す。我が墓地に戻すのはゴーストリック・デュラハン、ビッグ・ワン・ウォリアー、No.3ゲート・オブ・ヌメロン―トゥリーニだ」

 

 墓地に揃うのは光属性戦士族と闇属性悪魔族、これらの組み合わせかから想像できるのは先ほどカイトの場を壊滅させた最強の混沌を統べる者を呼び出す糧だ。

 遊馬はそれを見て焦りを強く深くさせる。

 

「これでまたカオスエンド・ルーラーが特殊召喚されちまう!」

 

 焦りを強く焦る遊馬達と対照的にドン・サウザンドは余裕を持ち、ゆっくりと考えながら時間を、そして希望と可能性を潰していく。

 そして出来る事と残り3ターンで起こるかもしれない最良と最悪のケースを想像し終え息を吐き、

 

「我はこれでターンエンドだ、エンドフェイズに我の手札は9枚、よって手札制限により手札を3枚墓地へと捨てる」

 

ドン・サウザンド場    

LP7500    

手札6      ヌメロン・ネットワーク

 

ナッシュ場  CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU1)

LP4000   

手札5    

 

遊馬場   CNo.39希望皇ホープレイV ATK2600 (ORU2)

LP4000

手札2

 

カイト場

LP2000

手札1

 

 危機的状況をいくら切り抜けようとも地獄の門が口を開け待っている、それを理解し遊馬達は立ち向かう。

 どれだけ不安があろうとも膝を折る事などできる訳が無い。希望を信じてドローするしかないのだ。

 凌牙のデッキトップに伸ばされる手は僅かに強張り震えが見える。

 それはしょうがないだろう、このドローで上手く行くかもしれないし上手く行かないかもしれないのだから、仲間を信じているができれば自分のターンで何とかしたいと思う気持ちは凌牙の感情を急かしていく。

 不安を見ない様に目を瞑りそして、

 

「俺のターン、ドローっ!」

 

 その瞬間を見たのはドン・サウザンドだけだった。

 凌牙の手がデッキトップへと置かれた瞬間、凌牙の手に淡くではあるが赤紫の光が宿ったのは。それがどういう事を意味するのかを理解したのはドン・サウザンドだけだった。


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