クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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願いと力が集う時

 水田裕は見た。

 流星龍がその翼を広げ力を蓄える背後、自分が使ってきて置いてきたカード達がこちらを見ているのを。

 こちらを見るだけで何もしない彼らを見てしまい水田裕の胸に沸き上がるのは後悔と言い訳だ。

 

―――っ、仕方ないじゃないか、思い出も何もかもを捨てて過去を変えるんだ、お前らを俺が持っている資格なんてないんだ!

 

 胸の内の自己弁論がわき上がる中、流星龍の1打目が叩き込まれる。

 

「シューティング・スターでライブラリアンを攻撃!」

 

 3つの分身のうち、1つがライブラリアンへと突っ込み砕く。

 その上でこちらへと突っ込んでくる。

 

シューティング・スター・ドラゴン ATK3300 VS TGハイパーライブラリアン ATK2400

破壊→TGハイパーライブラリアン

水田裕LP2200→1300

 

「うぉおおおおおおおっ!」

 

 本当に流星龍の一撃に願いと思いが込められているのだろうか、水田裕が何故か思い出すのはあのデッキ達と戦っていた日々、勝とうと努力していた日々だ。

 街をクタクタになっても足が棒になっても、靴底が無くなろうとも走り回りトレジャーシリーズを探し続け、自分の戦歴とにらめっこした日々が。そして負け続けた日々が蘇る。

 努力は実らず、ただ自分は出来るとごまかし続け挑戦し続け負けて奪われる日々、何もかもイヤになっても諦めきれない目標のために立ち上がった自分が居て、そしてバリアン世界に落とされた日を思い出した。

 

―――ああ、あの日も負けたあとだったっけ。

 

 負けて新しいカードを探しに来て見つからず少しだけ休むために横になっていた。そして突然の衝撃があり気がついたら水田裕はバリアン世界にいた。

 生き残るために必死でカード探し生きて地上に戻るために自らが最も嫌うアンティ決闘にまで手を出した。

 全ては今、目の前の男のせいだ。

 水田裕が目を閉じれば自分と同じ顔をした人間がクェーサーを使い楽しそうに笑いながら決闘をしているのだ。

 そのときの抱いた感情を水田裕は決して忘れない。口に出したところで理解されないで謝られるだけだろう。だからこの男には己の過去を詳しく語らない。

 だがなんとしても地上に帰りたいと戦い続けても負けるときは負ける。そしてまたカードを奪われる。それの繰り返しだった。

 そしてそんな時に水田裕のまえに突然、ベクターが現れる手を組もうと言ってきた。

今思えばベクターにも何かしらの策があったのだろうが人間世界に戻れ、そして自分と同じ顔をした人間に復讐できると水田裕は即座にベクターと手を組んだ。

 そして人間世界で無差別にアンティ決闘を申し込みカードを奪いクェーサーを探していると今度はドン・サウザンドに目を付けられた。

 そこでヌメロン・コードの話を聞きそれを手に入れる為に行動してきた。その課程でデッキを家に取りに戻る事も出来た、だが水田裕はそれをしなかった。

 自分達が戦ってきた物を無かったことにするのだから自分は元のデッキを持つ資格など無いと思ったがために。

 そして今、そのデッキは元の持ち主の行動を止めようと分かれる現況をつくった敵に力を貸している。

 

―――お前達が俺の敵になるってか…………。

 

「お前が、お前達が俺を止めるだと、俺を止めようとする奴は全員叩きのめすって言ったはずだっ!」

 

「バトル、2撃目をトリシューラに叩き込め!!」

 

 裕の言葉に迷いはない。

 その自信は水田裕が伏せてあるカードがなんなのか予想しているからだろう。

 水田裕のデッキに妨害カードは虚無空間と神の宣告のみだ。手札誘発カードなど入っているわけもなく展開しモンスター効果で相手を妨害しリベリオンで簒奪しとどめを刺すデッキだ。

 足りないのはクェーサーのみだ。そして防御カードを積んでいないが故にこの攻撃を防ぐことは出来ない。だがそれでも。

 

「積み上げてきた過去が俺を止めようとするのなら全て砕いてやる、どうせなかった事にするんだから! 永続罠、リビングデットの呼び声! 墓地よりフォーミュラ・シンクロンを特殊召喚する」

 

「だけどメインフェイズは終了している、シンクロ召喚を行うことは出来」

 

「あるさ、それを可能にするカードが。言ったはずだ、限界なんて超えてやるって! 速攻魔法、リミットオーバー・ドライブ!」

 

 吠える。

 そして流星龍の分身体が突撃しようとするトリシューラの横に金の風が吹く。

 

「っ!?」

 

「俺は俺のフィールドのレベル8となっているシンクロモンスター、氷結界の龍トリシューラに、レベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをデッキへと戻し俺のデッキからそのモンスターの合計レベルと同じレベルのシンクロモンスターを特殊召喚する!」

 

 金の輪に包まれトリシューラが闇に沈む。

 闇の中より腹を空かせたそれは黒く禍々しい衣装を身にまとう女性の口を借り獲物を食み自分の欲求を満たせることに歓喜の歌声を響かせていく。

 浮かぶは黒、甲虫のように艶光りする龍の外殻、2つの龍首と中央の巨大な龍の顔、その上にあるのは船首像のように妖艶な女性の上半身、それより響く唸り声は裕の背筋に冷たい物を落としていく。

 

「未来も可能性も全て食いつぶして終わりを齎せ、暴食の蠅龍王よ! 魔王超龍ベエルゼウス!」

 

 裕は反射的にカードテキストを見たて驚きの声を挙げる。

 

「攻撃力4000に効果と戦闘破壊耐性、それにこの効果強っ!?」

 

 驚き、そして裕の表情に浮かぶのは決めきれない事に対する悔しさだ。それでも厄介なモンスターを残しておけないのだろう、攻撃を宣言する

 

「くっ、レベル・スティーラー、月華竜ブラックローズを攻撃!」

 

 月華竜も、天道虫も流星龍の突撃によって砕かれる。

 そのダメージが水田裕を襲うもそれだけだ。ライフを削り取ることが出来ない。

 

「そして、俺はカードを4枚伏せて、ガードナーのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚しターンエンドだ」

 

裕場     シューティング・スター・ドラゴン ATK3300

手札0    ジャンク・ガードナー ATK1600 (レベル5)

LP100    レベル・スティーラー DEF0

       伏せ5

 

水田裕場   魔王超龍ベエルゼウス ATK4000

手札6    シューティング・スター・ドラゴン ATK3300

LP400    天輪楼閣

       リビングデットの呼び声

       リビングデットの呼び声

 

 水田裕はこのターンで終わらせる、そう決意しドロー、そして伏せ4枚を除去にかかる。

 

「ライトロード・アサシン・ライデンを召喚、そして墓地の輝白竜を除外し闇黒竜を特殊召喚、更にベエルゼウスのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚」

 

 宙を踊るは暗黒竜、天道虫、アサシン。解け空へと上る星と輪の数は9。

 来るのは氷山に封じ込められた龍だ。

 

「シンクロ召喚、氷結界の龍トリシューラ!」

 

「させるか、ライフを半分支払ってカウンター罠、神の宣告! その特殊召喚を無効にする!」

 

 氷山に封じられた龍は裕の背後より手を伸ばした神によって握りつぶされる。

 だが水田裕の表情は変わらない。防がれるだろうと予測しているが故に次のカードへと手を伸ばす。

 

「墓地に送られた暗黒竜の効果でデッキより輝白竜を手札に、墓地よりジェット・シンクロンの効果発動、手札を捨ててこのカードを特殊召喚する、そしてベエルゼウスのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚、レベル1のスティーラーとジェット・シンクロンをチューニング、レベル2、フォーミュラ・シンクロン! デッキより2枚ドロー!」

 

 鐘とF1カーより響く風と音色が周囲へと浸透しその音色に音が消えていく。

 静寂の中、水田裕は2打目を叩き込んだ。

 

「ジャンク・シンクロンをコストにクイック・シンクロンを特殊召喚、クイック・シンクロンのレベルを下げてステイ―ラーを特殊召喚、そしてレベル1のスティーラーにレベル4となったクイック・シンクロンをチューニング、レベル5、ジェット・ウォリアー! ジェットの効果発動、ジャンク・ガードナーを手札へと戻せ!」

 

「させない。罠カード、スキル・プリズナーを発動、その効果を無効にする!」

 

 盾持ちを浮かび上がらせようと下より叩き込む跳ね上げる蹴りは膜によって阻まれた。

 邪魔な効果を持っていて残り2枚の伏せの内、1枚は多分あれだろうと予測が出来る状況でこの限られた手札でガードナーの効果を無効にするのはこのカードしかない。

 

「だったらレベル5のジェット・シンクロンにレベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング、レベル7!」

 

 輪の中で構築されるは純白の体。そこに星と輪が粒子に分解、再収束し明るい蒼色の外装が新たに構築されていく。

 蛇のように長い躰をくねらせ、半透明な碧に輝く翼を赤い空へとその龍は輝かせ、場へと降り立った。

 

「その輝かしき翼を広げ、眼前の敵を打ち払え! シンクロ召喚、レベル7、クリアウィング・シンクロ・ドラゴン!」

 

 効果を見たのだろう、裕の表情には非常にまずいと書いてあるように分かりやすく歪む。

 そして水田裕は相棒を呼び出しにかかる。

 

「墓地の輝白竜を除外し闇黒竜を特殊召喚、更に死者蘇生を発動、墓地より再び現れろ、ライトロードアサシン・ライデン」

 

「来るかリベリオン!」

 

 バリアンエネルギーが周囲より集まり銀河を構築されていく。

 その渦に飲み込まれ2つのモンスターは黄色いエネルギー体へと再構築される。

 

「レベル4のライトロードアサシン・ライデンと暗黒竜コラプサーペントでオーバーレイネットワークを構築」

 

 黒、黒、黒、ひたすらに闇が放出されその暗く地獄の様な世界へ反逆しようとする龍の咆哮が轟いていく。

 絶対に諦めない鋼の決意。己から奪う者へと反逆し簒奪し返し殲滅する力の担い手がその闇の中で瞳を開く。

 水田裕の願いの具現たる龍が一歩、主が願う過去の新しい未来のために動き始める。

 

「全てを砕け黒の覇道、奪われた全てを取り戻すために、俺から奪い喪わされる運命に反逆しろ! 餓え乾き喰らいつくせ!  黒星に輝く龍よ、来やがれ! ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン!」

 

 2つのエネルギーを翼へと収束、流星龍へと反逆龍は跳ねる。

 両手を広げ決して逃がさないと、その上で咢を開き、食らいついた。

 

「ダーク・リベリオンの効果発動、オーバーレイユニットを2つ使い相手の場のモンスターの攻撃力の半分をこのカードに加える!」

 

 流星龍の体より輝きが失われていく、それに反比例し反逆龍の体は輝きを取り戻し美しい翼が開く。

 それだけで流星龍への攻撃は止まらない。

 次に咢を開くのは蠅龍王だ。

 

「更にベエルゼウスの効果発動、相手のモンスターの攻撃力を0にし元々の攻撃力分ライフを回復する!」

 

水田裕LP400→3700

 

 力の全てを食らいつくされ流星龍は地に倒れ込んだ。

 これによって攻撃力は0、だがこのままではベエルゼウスの効果でベエルゼウスしか攻撃が出来ない。

 そして流星龍に攻撃を仕掛けても流星龍の効果で攻撃を無効にした上で自身を除外してしまえば止めをさせ無くなる。

 一応クリアウィングの効果に場で発動した効果を無効にし破壊できるがそれをしたところで残る2体は守備表示、ダメージなどない。次のターンにはドリル・ウォリアーが帰還しこの状況すらも覆る可能性はある。それ故に最後の一撃を裕は打つ。

 

「更にミラクルシンクロフュージョンを発動、墓地のシンクロモンスター、ライブラリアンと場のシンクロモンスター、ベエルゼウスを除外し旧神ノーデンを融合召喚、更にノーデンの特殊召喚成功時の効果で墓地よりライトロード・アサシン・ライデンを特殊召喚する。レベル4の旧神ノーデンにレベル4のライデンをチューニング、現れろ閃光竜スターダスト」

 

 ベエルゼウスが場を離れたことにより全てのモンスターが攻撃可能になった。 そしてクリアウィング・シンクロ・ドラゴンはレベル5以上のモンスターを対象にするモンスター効果が発動したときそれを無効にし破壊する効果も持っている。そして自身の効果で破壊したモンスターの攻撃力分攻撃力をアップできる、これによって相手のターンだろうともクリアウィングは攻撃力5000になる事ができる。

 この場に納得したように頷き、鐘の音に導かれる様にドローし水田裕は顔をしかめる。

 

――――今引くか…………!

 

 ドローしたのは大嵐、まさしくこの状況になる前にドローしたかったカードだ。だが悔やんでいる時間は無い。

 裕の場に伏せられているのはいまだ開かれない2枚のカード、そしてミラーフォース。この状況で効果を無効にされるようなカード、もしくはカウンター罠でも伏せられてよう物ならば裕も押し切れない。

 

―――おそらく1枚はリビングデットか強化蘇生だ、だがあと一枚はなんだ?

 

 もしもフォーミュラ・シンクロンが特殊召喚し、ジャンクガードナーと共にシンクロ召喚され墓地でジャンク・ガードナーが墓地より効果を発動しようともクリアウィングが全てを塗り潰す。

 そしてもう用済みになった天輪鐘楼を破壊しとけばもしも和睦の使者を使われて攻撃を防がれたとしてもドローされることは無い。

 デメリットよりもメリットの方が勝り水田裕は最後の決断を見せる。

 

「大嵐を発動」

 

 発動し水田裕は見た。裕が肩の力を抜くのを。

 諦めとも取れる様な笑みを浮かべ、こう呟くのを。それはまるで水田裕が見たあの勝負を思い出させる。

 

「全く、ここまで来て運任せってか。ああ、もう、これが俺の宿命って奴か、頼むぜ、俺のデッキ……永続罠、強化蘇生を発動、墓地のフォーミュラ・シンクロンを特殊召喚する」

 

 此処までは予測通りだ、だがその裕の言葉には続きがあった。

 

「更にリビングデットの呼び声を発動、墓地よりカード・ガンナーを特殊召喚する。そして大嵐によってリビングデットの呼び声が破壊されカードガンナーも破壊される、破壊されたカードガンナーの効果発動、デッキから1枚ドローする」

 

 全ての音が止まる。

 ここが全ての分岐点だとこれを見る者達も、この場に立つ2人も理解しその時を待っていた。

 ドローする裕の手は僅かに震え、そして恐れの感情を振り切る様に行った。

 

「…………ありがとう、俺達のデッキ…………クリアウィング・シンクロ・ドラゴンにエフェクト・ヴェーラーを発動する!」

 

―――引き当てたかっ!?

 

「クリアウィングのモンスター効果を発動、レベル5以上のモンスターを対象とするモンスター効果を無効にし破壊する!」

 

「だけどこれで道が繋がった! フォーミュラ・シンクロンの効果発動、このカードは相手のターンにシンクロ召喚が行うことが出来る、俺はレベル5となっているジャンク・ガードナーにそしてレベル1レベル・スティーラー、そしてレベル2のフォーミュラ・シンクロンをチューニング!」

 

 場にはクリアウィング・シンクロ・ドラゴン、シューティング・スター・ドラゴン、ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン、閃光竜スターダストという効果破壊にも対応できる竜が並んでいる。この状況でギガンティック・ファイターでも出さなければ裕の敗北は確定している。

 そして裕はそのカードを持っておらず、戦闘破壊耐性を持っているレベル8のシンクロモンスター等持っていない。

 

「レベル8、シンクロ召喚」

 

 だが裕には今の今まで使わなかったモンスターがいる。それはそれはこちらではなく、あちらの世界で親友から貰ったカードがある。

 本来こういう使い方ではないのだろうが、そのカードが裕の絶体絶命のピンチを救った。

 

「スクラップ・ドラゴン!」

 

「? ちっ、墓地にスクラップ・ゴブリンがあるのか!」

 

―――なんで終わらないんだよ。

 

 終わらない事を理解し苛立ちが生まれる。

 何度打ち倒そうとも立ち上がるその姿に水田裕は叫ぶ。

 

「終われよ、頼むから終わってくれよ。お前なんてこの世界に来てんじゃねえよ。お前なんかが来たから俺は、俺はっ!」

 

 水田裕は心の奥底いあった感情をぶつける。

 それが届くかは分からない、だが叫ばずにはいられない。

 例えそれが八つ当たりであろうとも、裕には悪意などなく巻き込まれた方だとしてもぶつけずには居られない。

 

「墓地に送られたジャンク・ガードナーの効果発動、シューティング・スターを守備表示に変更する!」

 

「シューティング・スターでシューティング・スターを、クリアウィングでスクラップ・ドラゴンを攻撃!」

 

 流星龍と流星竜は激突する。その翼に叫ぶ主の願いを乗せ、拳には願いとそれを可能にしようと力を乗せ叩き込み、砕く。

 加速し天へと駆け上がったクリアウィングは加速を止め、自重と重力の赴くままに落下を始める。その下に居るのはガラクタで構築された機械竜だ。前面にエネルギー結晶角を構築し貫いた。

 

「相手によって破壊されたスクラップ・ドラゴンの効果だ、墓地よりスクラップと名の付いたモンスターを特殊召喚する、俺が特殊召喚するのはスクラップ・ゴブリンだ!」

 

「終われよ、頼むから終われよ!」

 

 スクラップ・ゴブリンは戦闘では破壊されない、故に攻撃を仕掛けた所で意味などない。だが水田裕はその荒れ狂う感情がままに閃光竜に攻撃を行わせる。

 口より叩き込まれる閃光はゴブリンの周囲を砕き、裕へと打撃を与えていく。

 傷を負い、元よりある腕の傷を抑え倒れ込む裕、それへ最後の出せる一撃を叩き込む。

 

「お前がいるだけで俺は勝てばよかったなんて後悔しちまうんだろうが! 終われよ、いい加減終わっちまえ!」

 

 最上による脅迫、奪われたあの場所で心が折れてれば、最上との決闘で負けていれば、水田裕がここまで怒りに狂う事は無かった。

 負けて自分と同じ境遇に堕ちてしまえばそれである程度許そうとも思った、だが目の前の敵はクェーサーと共に立ち上がり笑顔で決闘を続けていた。

 本当は自分があの場所に居る筈なのだ。いつか取り戻して笑うんだ。そう願っていた理想が同じ顔をした別人によって展開される、それゆえに彼を許せる訳が無い。

 ぼろ雑巾のように転がった裕、だが拳を握り怒りの感情を孕んだ強い声が裕の心を打つ。

 

「っ、諦めろってか、そんなくだらねえ事、何回も言われたよ。最上には才能が無いだのそのコンボ重視デッキ思考止めろとか伏せぐらい警戒しろよとか、周囲からはお前なんかがって身に覚えはないけど意味の分からん言葉を言われて色々されたぜ。苦しいし意味が分からん、理不尽だ」

 

 その体に力など残っていないはずだ。

 それでも裕は立ち上がろうとする。

 力の入らない足を曲げ、ボロボロの腕に力を込め、土を引っ掻き立ち上がろうとする。

 

「だからどうした、俺がそんなもんで諦める訳が無いって、お前が一番よく分かってんだろうが! 折れかけたって立ち上がればいい、折れたらもう一度生やせばいいだけじゃねえか! 負けるもんか、俺は絶対、俺の願いを諦めたりするもんか!」

 

 立ち上がろうとしているのだろう、脚や手に力がこもり上がるも力尽きて地面に落ちる。

 もはや瀕死とも言っていい様な状況、だが水田裕は裕の瞳を見た。

 その眼には折れない意思が宿っている、体にはそれを叶えるべく力と願いがあり、彼へと力を貸すカード達がある。

 物理的、精神的、運等様々な物が折れろと言おうとも彼は理想を諦めない。

 ならばと、それを物理的にへし折るべく水田裕は宣言する。

 

「終われ!」

 

 反逆龍よりぶち込まれたエネルギー砲撃が地面を真っ二つに割砕、ゴブリンとその背後にいる裕を打撃し山も、今まさに山の頂点よりこちらへと落ちてこようとしていたカオスまみれの大水を払いのける。

 その中で水田裕は見る。

 巨大な白く輝く龍の腕が水田裕を致命傷より守るのを。

 あ、と息が漏れる。

 

「くッ…………!」

 

 そしてそれを眼にし自分の中に沸いたそのどうしようもない思いを口に出そうとし、だが声にならない。

 涙で視界がぼやけそれを裕に見せない様に拭い、

 

「バトルフェイズを終了する」

 

「表側表示で攻撃対象になったスクラップ・ゴブリンの効果発動、自壊する。そして墓地のスクラップ・ドラゴンをエクストラデッキへ、戻す……」

 

 手札を見れば意味の無い魔法カード、そしてモンスターカードが並んでる。無駄かもしれない、だが裕に圧力をかけるべくカードを伏せる。

 

「メイン2、俺はカードを3枚伏せてターンエンドだ」

 

水田裕場   ダーク・リベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK4150

手札3    シューティング・スター・ドラゴン ATK3300

LP3700   クリアウィング・シンクロ・ドラゴン ATK2500

       閃光竜スターダスト ATK2500

       伏せ3

 

裕場     

手札0    

LP50    

 

―――なんとか凌ぎ切った!

 

 裕は安堵の笑みを浮かべていた。

 軽く2,3回は殺されかけたがクェーサーのおかげでなんとか死にはしなかったが、それでも体は重症だ。

 腕に力など入らず足で踏ん張る事も出来ない。そもそも立つことが出来ない。

 それでも立とうと力を入れる。

 腕やら体の痛みに気を失いかけたり、血が足りなくてなんかふわふわしてきた。

 それがどうした。

 止めたいと俺が願っている。

 

「くうっ」

 

 1人じゃない。カードが俺に力を貸してくれている。

 彼を止めろとあいつのデッキが叫んでいる。

 なら折れるわけがない、ここで終わる訳が無い。

 

「おぉおおおらぁあああああああああッ!!」

 

 立ち上がるような力は残っていない。それでも気力と根性、願いだけで裕は立ち、

 

「俺のターンドロー! スタンバイフェイズ、ドリル・ウォリアーを特殊召喚!」

 

 全力で叫ぶ。

 出来る事をする。

 どれだけ伏せがあろうとも動くしかないのだから。

 

「効果で墓地よりジャンク・シンクロンを回収、そして召喚! 効果で墓地よりチューニング・サポーターを特殊召喚! そして機械複製術を発動、デッキよりもう2体のチューニング・サポーターを特殊召喚!」

 

「くっ、ここでそれが出るか!」

 

「レベル1のチューニング・サポーターとレベル2として扱うことが出来るチューニングサポーター2体、レベル3のジャンク・シンクロンをチューニング!」

 

 3つの機械は星となり空へと昇ってく。

 この状況で出来る事等限られている。ジャンク・デストロイアーの効果を使おうともクリアウィングかシューティング・スターによって阻まれる。それならばと裕が取り出すのは、

 

「スクラップ・ドラゴン! そしてシンクロ素材となったチューニング・サポーター3体の効果で3枚ドロー!」

 

 ドローしたカードを目にし、裕は一瞬だけ考える。

 上手く行かない可能性もある。だがそんな事を考える暇などない。故に踏む。

 

「スクラップ・ドラゴンのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚、スクラップ・ドラゴンの効果発動、スクラップ・ドラゴンとお前の場のシューティング・スターを破壊する!」

 

「俺は……クリアウィングの効果発動、レベル5以上のモンスター効果が発動したときその発動を無効にしそのモンスターの攻撃力分、このカードの攻撃力を上げる!」

 

 スクラップ・ドラゴンの放った破壊の一撃はクリアウィングによって吸収、反射される。そしてその破壊した龍の体より漏れ出したエネルギーをクリアウィングが食らう。

 

「でも相手によって破壊されたスクラップ・ドラゴンの効果発動、墓地よりスクラップ・ゴブリンを特殊召喚、そしてレベル1のレベル・スティーラーにレベル3のスクラップ・ゴブリンをチューニング、レベル4、アームズ・エイド! そして死者蘇生を発動、墓地より甦れフォーミュラ・シンクロン!」

 

 水田裕は表情を歪めた。

 これより現れるその姿に笑いかける様に、やっと出会えたと愛しい者を見る様に泣く様に笑いかける。

 

「レベル4のシンクロモンスター、アームズエイドにレベル6のシンクロモンスター、ドリル・ウォリアー、レベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング、レベルマックスッ!!」

 

 仲間達をサポートするドリルが鈍く輝く戦士が、仲間へと力を与える手甲が、希望の象徴たる力の結晶が解れ輪と星となる。

 飛翔するは金の輪、黄金の星達。それは天より列を成し光を放ち赤い空を染め上げていく。

 黄金の輝きは全てを平等に照らしその姿を全ての者の魂へと焼き付けていく。

 

「この願いを、この思いを乗せて一際輝け俺の至高の星! その光であのバカを目覚めさせろ! 最も輝く龍の星、来やがれ俺の相棒! シューティング・クェーサー・ドラゴン!」

 

 白く輝くその巨体、天を支配するように飛翔する切り札、最強とも呼べる性能たるその龍が腕を広げ裕へと負担を賭けない様に優しい風を起こしながら舞い降りる。

 それは2人の男が渇望した龍だ。

 1人の男はその龍に全てを乗せ、1人の男はどうして俺の場にこの龍は居ないんだと嘆く。

 その上で力が足りないと、自分がこのままでは止まらないと叫ぶ。

 

「だけど、だけどまだ!」

 

「それはどうかな!」

 

 言葉の後、裕は最後のドローカードを空へと翳す。

 そのカードより放たれた光は場の2体へと降り注ぎ、恒星龍へと収束していく。

 終わりを願われ、それでも戦い続け裕を支えたカード達の力がその龍に収束していく。

 手にするはボロボロのカード、水田裕のデッキにおいて唯一のレアカード。

 

「団結の力をクェーサーに装備させる!」

 

「たかが4800の攻撃力で俺のライフを削り切れるもんか!」

 

「そうだな、なら集わせればいい、俺はクェーサーのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚」

 

 これでクェーサーの攻撃力は5600、だがそれでは水田の布陣を砕き、ライフを削り切ることは出来ない。

 

「そしてミラクルシンクロフュージョンを発動、墓地のドラゴン族シンクロモンスター、スターダスト・ドラゴンと戦士族のジャンク・シンクロンを除外しエクストラデッキより波動竜騎士ドラゴエクィテスを融合召喚する!」

 

 墓地より巻き上がる風、その中より星屑龍とオレンジ色の戦士が融合する。

 戦士の魂は蒼き鎧、敵を打ち払うジャベリンへ、星屑龍の力は鎧に宿る龍の装飾と翼へと継承されていく。

 散っていった龍の力と共に歩む竜騎士が恒星龍の横に並んだ。

 

「そしてエクィテスの効果発動、墓地のドラゴン族シンクロモンスターを除外する事でそのモンスターの効果を得る、俺が除外するのは俺の墓地のシューティング・スター・ドラゴンだ!」

 

 墓地より星屑を纏い半透明の流星龍が飛び上がりエキティスへと重なる。鎧の外装は竜星のように輝きを増し、ジャベリンには流星龍の頭部型にエネルギーが収束し形作られる。

 その布陣を目にし水田裕は己の敗北を悟る。

 

「そうか、俺の負けか……」

 

 クェーサーの攻撃力は6400、シューティング・スターが一度目の攻撃を無効にしようとも2度目の攻撃は止められない。

 そしてもう一つの方法があるがそれを行うと場が壊滅し敗北する、どちらにせよ敗北が確定する。

 

「っ」

 

 だがこの状況になり裕は迷う。

 このまま行けば水田裕を殺す事になる。そんな事がしたくなかったのに。

 ただ止めたかっただけなのに、そう願っていただけなのに。

 今、裕は選ばないといけない。

 ここで水田裕の場を壊滅させるだけでターンを終了し水田裕がこちらを殺しに来てそれを止め続けるような都合のよい妄想か、この場で水田裕にとどめを刺す事を。

 水田裕がもしかしたら自分の言葉で説得してくれるんじゃないか、そう子供じみて自分に都合のよい事だけを想像しようともそんな事は起こらない。起こる訳が無い。

 そう理解しているのは水田裕が自分と同じだからだ、それでも都合のよい何かが助けてくれるんじゃないかと神ではない他の何かに願う。

 

「くっ………………」

 

「どうした、攻撃しないのか?」

 

 ここで攻撃せず心変わりするまで決闘を続けてやるなんて言葉を吐くわけにはいかない。

 この戦いにおいてそんな決着がある訳が無い。

 故に裕は選ばないといけない。自分か相手が終わる事を。

 

「俺は、俺は……」

 

 裕は涙を流しながら相手を見るも相手の眼はクェーサーへと向けられている。

 手を伸ばし欲している。

 だが届かない、悔しそうに、届かない夢を思い続け、水田裕は泣くように笑っている。

 

「バトルフェイズっ、エクィテスで閃光竜スターダストを攻撃!」

 

 ジャベリンを携え波動竜騎士は流星の星屑で構築された翼をはためかせ加速を付け閃光竜へと飛翔する。

 

「…………はっ、クリアウィングを対象に閃光竜スターダストの効果発動、そしてそれにチェーンしクリアウィングの効果発動、その効果を無効にし破壊する!」

 

 閃光竜の放った守りの光、それをクリアウィングが打ち払おうと碧色の翼に光を貯めていく。

 これを通してしまうと閃光竜は破壊されクリアウィングの攻撃力は7800になってしまう。そうしてしまうとどうする事も出来なくなる。それを防ぐために取れる手段は1つ。

 

「っ、シューティング・スターの効果を得ているエクィテスの効果を発動する、フィールドのカードを破壊する効果を無効にして破壊する!」

 

 翼を1回大きく広げ、大気を打ち付け風を巻き起こしていく。

 その風には星屑が散りばめられておりクリアウィングを飲み込まんとする。

 

「その効果をシューティング・スターの効果で無効にする!」

 

 風に対抗するように流星龍も風を煽る。

 砂煙を伴った星屑風が中央で衝突し互いを食みながら凛と澄んだ音を響かせていく。

 そして最後に来るのは恒星龍の至高の光だ。

 

「その効果をクェーサーで無効にする!」

 

 全てを制圧する爆光、それが剣の様に天を貫き一筋の光となって流星龍の星屑風を叩き割った。

 留められようとしていた波動竜騎士の放った風は膨れ上がりクリアウィングを包み込み光をかき消していく。

 まるで眠る様に体から力が喪われ光が抜け、クリアウィングは破壊された。

 

「再び、エクィテスで閃光竜スターダストを攻撃!」

 

波動竜騎士ドラゴエクィテス ATK3200 VS 閃光竜スターダスト ATK2500

破壊→閃光竜スターダスト

水田裕LP3700→3000

 

「そしてクェーサーでダーク・リベリオンを攻撃!」

 

 波動竜騎士が閃光竜を打ち倒し爆風が巻き起こる。

 それを切り裂き2頭の龍が激突していく。

 

シューティング・クェーサー・ドラゴン ATK6400 VS ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴン ATK4150

 

 1頭は反逆を誓う簒奪の担い手、もう1頭は願いの繋がった先より出でる全てを制する恒星龍。

 共に拳を交え2頭の龍は絡み合い空を飛ぶ。余波で地上が暴風に見舞われ空に漂う分厚い雲は払われ、大気は震えあがる。

 山の中腹で発生した5枚のカードより発せられる最強の光が叩き出す破壊の余波と負けないぐらいにその龍達の争いは周囲を揺らしていく。

 そして最後の時がきた。

 恒星龍の叩き込んだ爆光、それを正面から打破しようと反逆龍は顎の先端に全力を集め一直線に飛ぶ。

 恒星龍の放った真っ白な光は反逆龍の一撃を止めることは出来ない。

 光を突き抜け恒星龍の喉元へと食らいついた反逆龍、そのまま首を捻じり引きちぎろうとした矢先、恒星龍の巨大な手で腹を殴られ地上へと叩き落とされる。

 身を起こした反逆龍の目に映るのは白に交じる虹色の光、デッキに宿る願いと叫び、そして裕の願いの籠った一撃が反逆龍へと叩き込まれた。

 

破壊→ダークリベリオン・エクシーズ・ドラゴン

水田裕LP3000→750

 

 裕は最後の説得を試みる。

 自分は決闘で人なんて殺したくない。そう願うがために。

 

「約束する。全部終わったらお前のクェーサーを何がなんでも探し出すから、だから」

 

「だからなんだ! ここで戦いを止めるなんて言わないよなぁ? 勝ちそうになってから僕は本当は殺したくないんですぅ、このままいけば僕が勝っちゃうから、だからここでやめましょー? なんてくだらない言葉を言わないよなァッ!」

 

 先に言われるは裕が本当に言いたい言葉だ。

 だがそんなものが役に立つ訳が無い。

 思い願い叫んだ所で他人から何を言われようとも考えを変えない人間には届くわけが無い。

 

「ここでターンエンドしたら俺がこの場をひっくり返してやる、そうして俺はお前を殺す、そうしないとこの胸の苛立ちは止まんねえんだよ」

 

 胸を掌で掴み水田裕は叫ぶ。

 この胸の痛みよ無くなれと、この辛く苦しい気持ちにさせるお前なんて消えろと。

 

「俺と同じように奪われて、勝って奪い返した人間がいるなんて、俺が自分が許せなくなるだけじゃねえか! 俺はどうしてあの時、負けたんだよぉ! お前みたいにデッキを信じて、願っても叶えられなかった事がどうしてお前が出来るんだよ! 終われよ、終わっちまえよ。過去を変えなくっちゃ俺は変わらねえ、勝った人間が何を言おうとも俺の考えを変えることなんてできるもんか!」

 

 最後の説得を打ち消し叫び声が風に消える。

 裕は拳を握り、涙を流し自分がどうしようもない事を痛感する。

 そして水田裕は両手を広げる。

 まるで愛しい者を抱きしめる様に、許しを請う罪人のように。

 

「クェーサー、お前は俺の至高の星じゃねえ、だけどお前にとどめをさされるなら俺は本望だ」

 

 自分がどれだけ愚かな事をしているか、彼は理解していて、それでも止まらなかった。

 そして今、冀った夢は砕かれようとしている。最後の最後まで自分の願いを叶えれなかった彼は唯一、手に入れることが出来るのは自分の終わり方だけだ。

 その願いを汚す事を裕は出来なかった。

 

「大馬鹿野郎…………ッ、大馬鹿野郎、大馬鹿野郎っ、大馬鹿野郎ッ!、クェーサー厨の大馬鹿野郎!!」

 

「は、知ってるよ」

 

 シューティング・クェーサー・ドラゴンの拳に溜まった光、それは全てを打ち払い消し飛ばす至高の光だ。

 それが手を広げ目を閉じる水田裕へと叩き込まれた。

 

                       ●

 

 崩れ落ちた裕、そして笑っている水田裕、戦場には2人しかいなかった。

 1人は徐々に消滅が始まりバリアン世界のルールに従い勝者の糧となる。

 それを止めるような能力など持っておらず奇跡は起こらない。

 裕はそれを見て泣くだけだ。

 

「なあ」

 

 重い罪悪感から解放されたからだろうか、水田裕の顔は明るい。

 手が伸ばされデッキを外し裕へと差し出してくる。

 

「約束、考えておく」

 

「っ」

 

 言葉をかけるべきなのだろう、だがこの状況で何を言うか迷った裕は言葉を選べなかった。

 そしてその表情を見た水田裕は笑みを浮かべため息を吐き、裕へと吸収された。

 しばらく泣いていた裕は今も闘っているであろう皆の所へと戻ろうと力を込め、ぶっ倒れた。

 

「あ、れ?」

 

 完全に血が足りない。そして体は全身打撲や切り傷でボロボロで無事な部分を見つける方が難しい状況だ。

 動くだけで筋肉は悲鳴を上げるような状況になり裕はようやく自分が超重症だという事に気づく。

 なんとか立ち上がろうとする裕の耳に足音が聞こえた。

 それも大人数だ。

 

―――やべえ、バリアン兵か!?

 

 痛む首を全力で動かし背後を見ればそこにいるのは少女がいた。

 背が高く、抜き立ちの刃物のように鋭い雰囲気を纏い黒髪を真っ直ぐに伸ばした少女、その眼には野望の炎が。赤黒の光が宿っている。

 

「も、がみ?」

 

「ああ、そうだよ」

 

「なん、で……?」

 

 何故ここにいるのかという考えが浮かぶ。

 最上が自分を心配してきてくれたなんて事あり得る訳が無く、何か別の目的があるとしか思えない。

 不安を超越し、不気味なんていうレベルを遥かに過ぎ、ありえないけどそういう事なのかもしれないという予測が裕の胸に浮かび上がる。

 だが裕はそれを否定する。

 最上が負けて敵に洗脳されたなんて事がある訳が無いと。

 性格が最悪の自分大好き女、それが裕の持つ最上の印象だ。だがそれでも彼女は強いという事も知っている。

 何があろうとも自分を優先し、負けてはいけない所で望んだカードをドローできる運命力を持って居る彼女が敵に負けて操られるなんて想像できなかった。

 彼女ならば操られてもそれから自力で脱出できるんじゃないかと思うぐらいに彼女は自分を愛している事を知っているが故に。

 だがその予想は最悪の形で適中する。

 

「簡単に言うとドン・サウザンドの為にこの決闘の勝者を消しに来た」

 

 裕を取り囲むように足音が連続する。

 首を動かし見ると裕が知っている人間や知らない人間、どれもこれも様子がおかしいような様子は見えない。

 その中で一人が最上の横に立つ。

 それはある意味、裕が出会った相手の中で最強の敵と言っても過言じゃないような決闘者にあるまじき能力持ちの少年。

 

「僕と最上が君を倒す」

 

 黒原遊利が最上愛と共に裕へと決闘盤を向けてきた。

 


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