クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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愚か者対愚か者 下

水田裕場  ロード・ウォリアー ATK3000 (レベル6)

手札4   フォーミュラ・シンクロン DEF1500

LP4000  レベル・スティーラー DEF0

      天輪鐘楼

      伏せ2

裕場

手札5

LP4000

 

 裕へと吹き付ける風には冷たさが入り交じっている。

 それはこれから現れるであろう龍の前触れなのだろう。

 

―――ううむ、後一歩なんだがなぁ…………

 

 手札を見て裕は心の中で唸る。

 現状ではアクセルトリシューラを防ぐ方法は無くこのままではぶち込まれる。

 伏せずにそのままターンエンドをするというのも有りなのだがそうしてしまうと次のターンには確実に敗北してしまうだろう。

 つまりはドローしたガードで現状を打破するトップ解決を狙うしかないのだ。

 裕は眼を閉じ祈りながらカードへと手を置き、

 

「むむ、来い! 俺のターン、ドロー!」

 

 見、裕は笑みを浮かべた。

 

「よし! ナイスだ! 俺は禁じられた聖杯をフォーミュラ・シンクロンに使うぜ!」

 

 硬化を無効にするこの一打によりこのターンにトリシューラの降臨は阻止できる。そして、相手の動きは無い。

 

―――となると聖槍じゃないな、何が来るんだろう? 白黒ジャンドだろ、ブレスル? まさか激流? あーでも…………悩んだって分かんないし止まったら負けるんだ。全部踏み抜く!

 

「メインフェイズ、調律を発動、デッキよりクイック・シンクロンを加え、デッキトップより1枚墓地に」

 

 墓地に送られたカードを見、裕はガッツポーズを見せる。

 送られたのはブレイクスルー・スキル。今は使えないが次のターンに厄介なモンスターを出されようとも展開できるためだ。

 

「まじでナイスだ! ガスタ・グリフをコストにクイック・シンクロンを特殊召喚する、そして手札から墓地の送られたグリフの効果でデッキよりガスタと名の付くモンスター、ガスタ・コドルを特殊」

 

 緑色の鳥獣が墓地より仲間を呼ぶ声を上げる。それに答えるように鷹の鋭い鳴き声が響く。だがそれを封じる様に魔人の放つ波動が周囲を包み始めた。

 

「させない、永続罠、虚無空間を発動」

 

「げっ!? サイクロンを発動」

 

 裕の放った竜巻を最後に相手の動きは止まる。

 それを見た裕は胸をなで下ろし、とある事実に気づく。

 

―――つまりあれが後2枚あるって事じゃ……! ドローさせない様にしないとまずいな。

 

 気付いたまでは良い、だがミラーフォースかフォーミュラを絡めた相手のターン、ブラックローズでぶっぱするしか妨害方法は無いこのデッキで相手のシンクロ召喚を妨害するなど酷という物だ。

 そしてサイクロンは3枚積んではいるが。それでも他のカードを除去したいがために天輪鐘楼を破壊することが出来ないというのが現状だ。

 裕は気づいてしまった事実に眉を寄せるも気を取り直す。

 

「俺はジャンク・シンクロンを召喚! 召喚成功時の効果発動、俺は墓地からガスタ・グリフを特殊召喚、そしてレベル2のガスタ・グリフにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング! TGハイパー・ライブラリアン!」

 

 呼び出すは裕のデッキのドローソース、そして天輪鐘楼がある限りシンクロ召喚に成功するだけで2枚ドローという凄まじい効果に変貌する。

 

「レベル3のガスタ・コドルにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング、シンクロ召喚! レベル8、砕け、ジャンク・デストロイアー!」

 

 天輪鐘楼もライブラリアンの効果も共に強制効果、チェーンが一番最初に組まれるためスターライトロード等の効果に引っかかる危険性はある。

 だがそれを気にも留めず、手札とドローしてくるカードが生み出す加速のままに突き進んでいく。

 破壊の力を得た機械戦士の拳に溜まっていく力、そしてその標的をどれにするか裕は迷う。

 

「ジャンク・デストロイアーの効果でお前の…………あー、伏せカードを破壊する!」

 

 一瞬ロード自身か天輪鐘楼を破壊するか悩むも手札には禁じられた聖槍がありロード・ウォリアーの攻撃力を下げてしまえば戦闘破壊できる。そのため伏せカードを破壊しようとするが、

 

「俺はデストロイアーの効果にチェーンしてスキル・プリズナーを発動、これでロードはモンスター効果の対象になってもそのカード効果を受け付けない」

 

―――まあ関係ないかな?

 

 そう思いつつ2枚のカードをドローした裕は、一瞬だけ固まる。

 

「くっ、今来たか、レベル・スティーラーをコストにクイック・シンクロンを特殊召喚、そしてジャンク・デストロイアーのレベルを下げてレベル・スティラーを特殊召喚する! レベル1のレベル・スティーラーにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング! レベル6、ジャンク・ガードナー!」

 

 緑色の大きな盾を持った機械戦士が星と輪の中より現れ地響きを立てながら着地した。そしてその距腿からは想像できないほどの機敏な動きで走り出し、相手のフォーミュラ・シンクロンへと盾を前に掲げチャージをかける。

 盾によって打撃された天道虫は仰向けにひっくり返り短い足をじたばたと動かしている。

 

「シンクロ召喚に成功したので2枚ドロー、そしてガードナーの効果発動、フォーミュラ・シンクロンを攻撃表示に変更! そしてガードナーのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚」

 

 2度目の天道虫の登場、その姿はいつもの体を丸めるような防御姿勢ではなく攻撃的だ。

 小さな節足を興奮したように動かす虫を見て裕は少しだけ口元に笑みを浮かべる。

 

―――さて、オネストとか入ってないよなぁ?

 

 そんなありえないであろう考えをし、悩む。

 相手の思考を読みにかかる。

 

―――相手は少し違うけど俺なんだ、だったら俺がまず考えるのはなんだ? ライブラリアンの除去、だよな。

 

 こちらとしてはフォーミュラを残すよりもロードが残られる方がまずい。そしてガードナーは守備表示で出したため攻撃は出来ない。かといってこの大ダメージを与えられるのチャンスを逃したくはない。

 なやみ、結局入れてないだろうと言う安易な考えに逃げ、裕は突撃をかける。

 

「バトル! レベル・スティーラーでレベル・スティーラーを攻撃! 更にライブラリアンでフォーミュラ・シンクロンを攻撃!」

 

 天道虫は天道虫と、攻撃表示になっていたフォーミュラはライブラリアンの放ったレーザーに焼かれ爆散しその爆風が水田裕を襲う。

 

TGハイパーライブラリアン ATK2400 VS フォーミュラ・シンクロン ATK600  

破壊→フォーミュラ・シンクロン

水田裕LP4000→2200

 

 強烈な爆風は水田裕を襲い掛かるも彼はそれを受け止め涼しい顔で立っている。

 巻き上げた衝撃波によって周囲に砂煙が漂う中、それら全てを切り裂き破壊の力を宿した拳が黄金の戦士へと叩き込まれようとしていた。

 

「よし、やっぱり無いよな! ジャンク・デストロイアーでロード・ウォリアーを攻撃、そしてこの攻撃宣言時、手札より速攻魔法、禁じられた聖槍を発動!」

 

ジャンク・デストロイアー ATK2600 VS ロード・ウォリアー ATK3000→2200

 

 黄金の戦士はその拳を軽々と受け止め、自分へと引き寄せる。

 体勢を崩し前へと上半身を乗り出してしまうデストロイアーへとロードが自由な片手を掲げる。

 爪と腕に光が宿りその一撃で切り捨てようとしたその時、裕が投じた聖なる槍が黄金の戦士へと突き刺さる。

 これで、という表情を見せる裕、だが相手はバカにするような笑みを見せる。

 

「運が良い奴め」

 

「えっ?」

 

 その言葉に疑問を見せる裕、そしてその言葉の意味はすぐに理解させられる。

 槍に貫かれた黄金の戦士、その後ろより金色の細身の戦士が駆け抜けたからだ。

 

「俺はダメージステップ、手札よりラッシュ・ウォリアーの効果発動、この戦闘中のみウォリアーと名の付くシンクロモンスターの攻撃力は2倍となる」

 

 決闘盤に表示されるカードテキストに目を通し裕は目を白黒させる。

 

「ええっ!?」

 

 細身の戦士はデストロイアーに蹴りを叩き込む。

 それを対処しようとするデストロイアーへと黄金の戦士の爪が一閃、それでも倒れないデストロイアーへと細身の戦士が強烈な蹴りを叩き込む。

 よろめいたその巨体、黄金の戦士の一撃で装甲が破損した個所へと黄金の戦士がもう一撃をとどめとばかりに叩き込んだ。

 

ジャンク・デストロイアー ATK2600 VS ロード・ウォリアー ATK2200→4400

破壊→ジャンク・デストロイアー

裕LP4000→2200

 

 確かに裕の取った行動は運が良い。

 ダメージステップに聖槍を発動させようものなら3400もの大ダメージを受ける事になっていた。

 1番の幸いは破壊されなければいいのだがそれでも大ダメージを受けずに済んだことを喜ぶべきだと気を取り直し、

 

「くっ、メイン2、俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

裕場     TGハイパー・ライブラリアン ATK2400

手札2    ジャンク・ガードナー DEF2600

LP2200   レベル・スティーラー ATK600

       伏せ1

 

水田裕場   ロード・ウォリアー ATK3000 (レベル6)

手札3    永続魔法 天輪楼閣

LP2200   

 

「俺のターンドロー、俺は墓地のラッシュ・ウォリアーのもう一つの効果発動、このカードを除外して墓地よりシンクロンモンスターを回収する、俺が回収するのはクイック・シンクロンだ」

 

 細身の戦士が水田裕へとクイック・シンクロンを抱きかかえ墓地より現れ手渡ししてきた。

 それを受けとり彼は即座に特殊召喚する。

 

「そしてマスマティシャンをコストにクイック・シンクロンを特殊召喚、クイックのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚、レベル1のレベル・スティーラーにレベル4となったクイック・シンクロンをチューニング」

 

 空へと上った星と輪の中より背中のブースターより赤い炎を吐き出し続ける黒い戦士が出現、風を吹き上げフィールドを飛び回る。

 

「シンクロ召喚、駆けろ、ジェット・ウォリアー!」

 

「ライブラリアンの効果発動!」

 

「天輪鐘楼の効果発動、そしてそのライブラリアンを対象にジェット・ウォリアーの効果発動、そのモンスターを手札へとバウンスする!」

 

 ライブラリアンの効果はライブラリアンが存在しなければドローできない、よって水田裕の身がドローする。

 ここまでの動きで裕の手札にヴェーラーも増殖するGもない事が分かったのだろう、彼は更に動く。

 

「俺は手札を一枚捨てる事で墓地のジェット・シンクロンの効果発動、このカードを特殊召喚、そして墓地の闇属性、ドッペル・ウォリアーを除外し輝白竜ワイバースターを特殊召喚、レベル4の輝白竜にレベル1のジェット・シンクロンをチューニング、レベル5、TGハイパー・ライブラリアン」

 

 1ドロー、1サーチ、それでこの動きは終わらない。まだ彼はロード・ウォリアーの効果も召喚権すら使っていないのだから。

 動き出したら最後、妨害カードや手札誘発カードが無ければシンクロモンスターの連打が繰り広げられ場は壊滅、運が悪ければゲームエンドに叩き込まれる爆発力、それこそがシンクロンデッキの特徴である。

 それを裕は痛いほど理解していて、運が良く自分が死なないよう祈るしかない。

 

「そしてジャンク・シンクロンを召喚、墓地よりレベル・スティーラーを特殊召喚、レベル1のレベル・スティーラー、レベル5のジェット・ウォリアーにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング」

 

 場を埋め尽くすモンスターの群れ、そして来るのは圧倒的な冷気、降ってくるは氷山、冷気を纏うそれは地表へと落下する。

 その衝撃が巻き起こす風は触れるだけで全身の冷や汗が凍り付くほどの異常な冷気を孕んでいて、龍の咆哮と共に氷山は砕けていく。

 中より現れるは3界全てに冬を齎す封じられし龍、蒼の体色に氷の鎧を身にまとう3首龍が咆哮する。

 

「シンクロ召喚、氷結界の龍トリシューラ! 天輪鐘楼、ライブラリアン、そしてトリシューラの効果を発動!」

 

「っ、俺はジャンク・ガードナーの効果発動、トリシューラを守備表示にする!」

 

 裕は抵抗の動きを見せるもそのような事でこの動きが止まる訳が無い。

 

「場のレベル・スティーラー、墓地のブレイクスルー・スキル、手札のカードを除外しろ!」

 

 選ばれた手札のカードが氷に閉ざされ地に落ちる。

 除外されたのは速攻のかかし、まだ使いたくはないがために残っていて欲しかったカードだ。

 

「更に俺はロード・ウォリアーの効果発動、デッキよりジェット・シンクロンを特殊召喚、レベル6となったのロード・ウォリアーにレベル1のジェット・シンクロンをチューニング」

 

 2撃目に叩き込まれるは赤い薔薇の花弁を含む風、その中より現れるのは赤い薔薇の蕾だ。

 綻び、その中より竜が咲き誇る。

 

「シンクロ召喚、月華竜ブラックローズ! ブラックローズの効果発動、ジャンク・ガードナーを手札へとバウンスする、そして2枚ドロー」

 

 更にとどめと言わんばかりにぶち込まれるは薔薇の嵐、トリシューラが撒き散らした微細の氷と月華竜の巻き起こす紅い薔薇が竜巻を赤く輝かせていく。

 それはこの状況でなければ心躍るような美しい光景だ。

 だがそれを楽しむ余裕は裕にはない。

 その裕の余裕のない表情を見、ドローしたカードへと視線を移し、水田裕は軽く舌打ちを見せる。

 そして遅い、と呟きドローしたカードを発動させる。

 

「サイクロンを発動、お前の最後の伏せカードを破壊する」

 

「速攻魔法、スケープ・ゴートを発動。羊トークンを4体、特殊召喚する!」

 

 場に現れた4色の羊、苛立ったように舌打ちをし裕は差し出された生贄の羊を砕きにかかる。

 

「ちっ……墓地より輝白竜を除外し闇黒竜コラプサーペントを特殊召喚、そしてバトルだ

コラプサーペント、TGハイパーライブラリアン、ブラックローズで羊トークンを攻撃」

 

 場は羊が1匹、手札も1枚という先程のターンがまるで嘘の様な状況、だがそれで水田裕は満足しない。

 決めきれなった事に苛立ちを見せ、頭を掻き、

 

「俺はカードを2枚伏せてターンエンド」

 

水田裕場   TGハイパー・ライブラリアン ATK2400

手札5    氷結界の龍トリシューラ DEF2000  

LP2200   月華竜ブラックローズ ATK2400

       闇黒竜コラプサーペント ATK1800

       天輪楼閣

       伏せ2

 

裕場     羊トークン DEF0

手札1

LP2200

 

 負けなかったことに安堵の息を吐き、裕は場を改めて見直す。

 

―――前のターンにぶん回した俺が言うのも何だが酷い状況だなぁ。

 

 最上の時は相手を妨害するのがモンスターのみでありなんとか対処も出来た。ある意味では今の状況の方が厳しいともいえる。

 だけど裕はへこたれたりビビったりはしない。

 No.や禁止か制限にされそうなパワーカード、甲虫装機をぶん回す性格最低の最上。

 テキストを読めないカードを使いカッコいい龍でクェーサーを破壊しやがったミザエル。

 相手に1ターンも与えずにずっと俺のターンを繰り広げようとしたギラグ。

 先攻当たり前、相手のドローするカードは自分の行動を阻害しないカードしか引けず自分のドローカードは自分の思うが儘、使うカードはアニメオリカで殺意全力、先攻バーンワンショットキルを使ってくる最強と呼んでもおかしくない黒原。

 思い出すだけでもそれだけの頭のおかしいと思えるような状況を裕は勝ち抜いてきた。

 だからこそまだ手札もライフもデッキも、そしてクェーサーが居ないわけでもいないこの状況で足踏みするわけにはいかないのだ。

 

「俺のターン、ドロー!」

 

 決意を持ちドローする、だがその意思ではまだ足りない。

 

「よし! 俺は貪欲な壺を発動。墓地に存在するガスタ・コドル、ガスタ・グリフ、クイック・シンクロン2枚、ジャンク・デストロイアーをデッキへと戻して2枚ドロー! 光の援軍を発動、デッキトップから3枚を墓地に送る」

 

 目をつぶりデッキトップより3枚抜き出し裕は墓地を手探りで探し挿入する。

 そして目を開き恐る恐る見る。

 墓地に送られたのはダンディライオン、チューニング・サポーター、スクラップ・ゴブリンだ。

 かなり良い落ち方に裕は感謝し、テンションが上がってくる。

 

「よし! ライトロードハンター・ライコウをサーチ、そして墓地に送られたダンディライオンの効果」

 

「そこだ。永続罠、虚無空間を発動。このカードが表側表示で存在する限りお前は特殊召喚できない」

 

 対処できるカードは無く、裕の上がっていたテンションはへし折られる。

 それでもなんとか気を取り直し、

 

「っ! まだだ、まだ俺は諦めねえ! モンスターをセット、カードを2枚伏せてターンエンド」

 

「エンドフェイズ、サイクロンお前の伏せカードを破壊する」

 

「破壊されたミラクル・シンクロ・フュージョンの効果発動、1枚ドロー!」

 

 サイクロンが墓地に送られた事で場を支配していた虚無の空間は自壊する。

 だがそれでは何も好転しない。

 唯一の救いと言えば元より少ないお小遣いをやりくりしパックを買い始めて手にしたホログラフィックレアのドラゴエクイティスを出すためだけにデッキへと入れていたミラクルシンクロフュージョンの副次的な効果でドローできた事だけだ。

 そしてそのドローしたカードを見て裕は思わず安堵の息を吐く。

 

裕場     セットモンスター

手札1    羊トークン DEF0

LP2200   伏せ1

 

水田裕場   TGハイパー・ライブラリアン ATK2400  

手札5    氷結界の龍トリシューラ DEF2000  

LP2200   月華竜ブラックローズ ATK2400

       闇黒竜コラプサーペント ATK1800

       天輪鐘楼

 

「俺のターン、ドロー。トリシューラを攻撃表示に変更、そしてライトロードアサシン・ライデンを召喚」

 

 激流葬をふんでもいいと言うように軽い態度で相手は展開してくる、それともライコウへ攻撃からの和睦の使者というある意味最悪な状況に対処しようとしているのか、シンクロ召喚を行い禁じられた聖杯辺りを引くつもりなのか、それとも、

 

―――まさか、ばれてないよな?

 

 この場で打てる手はすべて打ってある、その上でそこまで読み切られていたらどうしようと、裕は不安に思い、それが表情に出る。

 裕の表情から何かを察したように水田裕は決めたように頷きを見せ、動く。

 

「そしてライデンの効果発動、デッキトップより2枚を墓地に」

 

 墓地→神の宣告、貪欲な壺

 

「それに対して増殖するGを発動!」

 

 元よりポーカーフェイスだの顔芸だのそういうのに疎い裕の表所は非常に読みやすい。

 何かを企んでいるのがばれてしまったのか、そう不安に思いながらも、上手くいけと裕は祈るいかできない。

 

「ちっ、だがレベル4の暗黒竜コラプサーペントにレベル4のライトロードアサシン・ライデンをチューニング、レベル8」

 

 吹き上がるは光り輝く粒子を含んだ風、それが鐘を鳴らしていく。

 その粒子は1つに集まり龍の形をとる。

 

「シンクロ召喚、スターダスト・ドラゴン。そして天輪鐘楼、ライブラリアン、墓地に送られた暗黒竜の効果、デッキより輝白竜を手札へ加え2枚ドロー。そしてバトルだ、スターダストでセットモンスターを攻撃」

 

「むっ、ライコウのリバース効果を発動、スターダスト・ドラゴンを破壊する!」

 

「スターダストをリリースしその破壊効果を無効にする、そして」

 

 そしての後、裕は身構えた。

 身構えてしまった。

 その動きは目に見えるほどあからさまで、水田裕は少し迷い、

 

「そして……メイン2、俺はカードを2枚伏せターンエンド、エンドフェイズ、スターダスト・ドラゴンを俺の場に特殊召喚する」

 

水田裕場   TGハイパー・ライブラリアン ATK2400  

手札6    氷結界の龍トリシューラ ATK2700

LP2200   月華竜ブラックローズ ATK2400

       スターダスト・ドラゴン ATK2500

       天輪楼閣

       伏せ2

 

裕場     羊トークン DEF0

手札2    

LP2200    伏せ1

 

―――流石に露骨すぎたかぁ……。

 

 裕は自分がしてしまった動きを思いだし恥じる。

 その上で出来る事をする。

 

「カード・ガンナーを召喚、そしてカードガンナーを対象に機械複製術を発動、デッキよりもう一体のカード・ガンナーを守備表示で特殊召喚する」

 

 虚無空間が発動しない事に安堵の息を吐き、裕はデッキトップからカードを3枚抜く。

 

「そしてカードガンナーの効果発動、デッキから3枚を墓地に送って攻撃力を1500ポイントアップさせる!」

 

 大嵐、サイクロン、二重召喚。

 思わず吐血しそうな落ち方に肩を落とすもなんとか立ち上がり、

 

「も、もう一体のカードガンナーの効果発動」

 

 ブレイクスルー・スキル、スポーア、ブレイクスルースキルという次のターンがあれば希望が見えてきそうなこの墓地肥しに考え込む

 

―――レベル7ってブラックローズとバーサーカーしかないんだよな、8もあるけどスターダストやスクドラを状況は好転しないんだよなぁ…………。 

 

 レベル10や11のモンスターは持っておらず厄介な相手の場のモンスター達、それを見て裕は苦悩し、

 

「カードを伏せてターンエンドだ」

 

「エンドフェイズ、永続罠、リビングデットの呼び声を発動、フォーミュラ・シンクロンを特殊召喚する」

 

「えっ!?」

 

水田裕場   TGハイパー・ライブラリアン ATK2400

手札6    スターダスト・ドラゴン ATK2500

       氷結界の龍トリシューラ ATK2700

LP2200   月華竜ブラックローズ ATK2400

       フォーミュラ・シンクロン ATK200

       天輪楼閣

       リビングデットの呼び声

       伏せ1

 

裕場     カード・ガンナー ATK400

手札0    カード・ガンナー DEF400

LP2200    綿毛トークン DEF0

       伏せ2

 

「俺のターンドロー、レベル8、シンクロモンスター、スターダスト・ドラゴンに、レベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング!」

 

―――これは確実に俺が伏せてるカードを読まれてるなぁ。しまったなぁ……。

 

 裕が伏せていたのは聖なるバリア―ミラーフォースである。

 前のターンに他のモンスターで追撃を仕掛けてこよう物ならばもしかしたら状況を一変できたのかもしれない。

 この状況でスターダスト・ドラゴンだったならばミラーフォースを討てばリリースされ次のターンまで生き延びることが出来るのだが、これより現れるモンスターにはその策は通じない。

 光り輝く粒子を煌めかせながら飛翔する星屑龍、そして希望を担うF1カーが普通のシンクロ召喚に使用される輪よりずっと強い光を抱く2つの輪へと変貌を遂げる。

 何者をも置き去りにする速さ、仲間を守る守護の力、多くの困難を打ち払う力、全てが強化され星屑龍は輪の内部を突き進み、新しき姿へと至った。

 

「現れろ、恒星より生まれし光り輝く彗星龍。シンクロ召喚、シューティング・スター・ドラゴン!!」

 

 現れてしまったその龍に裕は口を開けるしかない。

 クェーサーには劣るけどカッコいい、光り輝く龍の姿に見とれる裕、そして流星龍は腕を折りたたみ大空へと身を躍らした。

 

「バトルだ。シューティング・スターでカードガンナーを攻撃!」

 

 終われ、そう呟く水田裕の瞳に見えるのは複数の感情だ。

 そしてそれら全てを裕が読み解く前に流星龍の一撃が叩き込まれようとしていた。

 

 シューティング・スター・ドラゴン ATK3300 VS カード・ガンナー ATK400

 

 差は2900、ぶち込まれた瞬間に裕の敗北が決まってしまう。

 

「速攻魔法、禁じられた聖槍を発動! シューティング・スターの攻撃力を800ポイントダウンさせる!」

 

 この一撃を止められた時点で敗北が確定する、だからこそ裕は見る。

 相手が動いたら敗北が確定するからだ。

 そして、

 

「ぐっ、うおおおおお!」

 

シューティング・スター・ドラゴン ATK3300→2500 VS カード・ガンナー ATK400

破壊→カード・ガンナー

裕LP2200→100

 

 流星龍の突撃、地表に居たカードガンナーを打撃し砕き、そのまま裕へと迫るその一撃へ裕は槍を投げる。

 人の膂力で投げられたその一撃では流星龍の表皮を破る事は出来ないだろう、だが投じられた槍は違う。

 流星龍の翼の付け根に吸い込まれる様に突き刺さり、バランスを僅かに崩した流星龍は裕を轢き損ねた。

 当然、轢き損ねただけであり身に纏う烈風が裕の全身を万遍なく強打、更に地面に転がして擦り傷塗れにしていき、転がるどこかで傷つけたのだろう、右手の完治していなかった傷は開き包帯を真っ赤に染めていく。

 

「ぐぅっ、だがカード・ガンナーの効果でデッキから1枚ドロー!」

 

―――このカードじゃない!

 

 裕は右手の痛みで朦朧とする意志をなんとか保ち立ち上がる。

 その諦めない意思を潰すためにさらなる打撃が叩き込まれていく。

 

「ブラックローズで綿毛トークンを、ライブラリアンでカード・ガンナーを攻撃」

 

 薔薇の竜巻が、レーザーがモンスターごと裕を攻撃していく。

 その中でも裕は踏ん張り、歯を食いしばり前を向く。

 

―――まだだよな、まだこんな場所で終わらないよな! あいつの眼を覚まさせるまで、終われないんだっ⋯⋯!

 

「カードガンナーの効果でドロー!」

 

「潰せ、トリシューラ!」

 

「潰れされるかよ! 俺は速攻のかかしの効果発動、バトルフェイズを終了させる!!」

 

 裕を押しつぶそうとする氷山、その攻撃を飛んできたかかしが受け止め別の場所へと落としていく。

 

「ちっ、カードを2枚伏せて、トリシューラのレベルを下げてレベル・スティーラーを特殊召喚しターンエンド、エンドフェイズ、手札が7枚のため1枚、竜の霊廟を墓地へ捨てる」

 

水田裕場   TGハイパー・ライブラリアン ATK2400

手札6    シューティング・スター・ドラゴン ATK3300

       氷結界の龍トリシューラ ATK2700 (レベル8)

LP2200   月華竜ブラックローズ ATK2400

       レベル・スティーラー DEF0

       天輪楼閣

       リビングデットの呼び声

       伏せ3

 

裕場     

手札1    

LP100    伏せ1

 

 このターンで何とかするしかない、あの伏せが何であろうともやるしかない。裕がそう考えるのは必然だろう。

 もはや状況は見るまでもなく裕の不利。まだ予想もつかない3枚の伏せもある。

 そして手札は何とかなるかもしれないカードが2枚。

 そしてその状況、裕は全力の笑みを見せれない。

 本当は楽しみたい。

 普通ならば絶対にワクワクするような決闘だ。

 互いの全力と全力を叩き込み合い回避し必殺の一撃を入れるために動く。それに意味不明なオカルト能力など介在する余地はない。

 それを素晴らしいというべきなのだ。

 この状況を逆転しようと願いワクワクしてデッキからドローしたいのだ。だがその気持ちも湧き上がっては来るが……弱い。

 

「俺のターン…………ドロー!」

 

 楽しい筈なのに心の底から楽しむ事の出来ないこの状況に裕は怒りを覚え拳を握る。右手の傷は動かすだけで痛みを与えてくる。

 言外に終われと言われているようなこの状況、全身傷だらけで立っているのがやっとな状況だ。

 裕はその状況を客観的に見、だからなんだと笑い飛ばす。

 目の前の相手を見据える。

 相手は自分よりも遥かに前を行く決闘者だ。だからこそ追い付き、追い越すために手札を見てどこまでできるかを考える。

 どれだけ傷を負おうとも、どれだけ頭のおかしい綱渡りをしようとも自分の限界を突破し、裕は最後までデッキとクェーサーと共に勝つと誓っている。それが揺らぐことなどありはしない。

 

「墓地のブレイクスルー・スキル2枚の効果発動、このカードを除外してシューティング・スター・ドラゴン、TGハイパー・ライブラリアンの効果を無効にする!」

 

―――これで場のカードを破壊から守ることは出来なくなった。あとは最後の最後まで諦めない! あいつの努力の結晶のデッキと元の世界から持ってきた俺のデッキ、両方を組み合わせたこのデッキで回せるだけぶん回してこの状況を打破するんだ!

 

「墓地よりダンディライオンを除外しスポーアの効果発動、このカードを」

 

「永続罠、虚無空間を発動、特殊召喚なんてさせるか!」

 

「潰されっかよ! 俺はサイクロンを虚無空間へと発動する!」

 

「ちぃっ!」

 

 水田裕の動きは無い。

 カウンター罠を発動しない所から何もないのかもしれないという一筋の希望が生まれてきた。

 行くよ、と一言デッキへと呟き、裕は動く。

 

「スポーアはレベルを4となり特殊召喚される! そして調律を発動、デッキよりジャンク・シンクロンを手札に加えデッキトップを墓地へ」

 

 落ちるのはボルト・ヘッジホッグ、これによって裕のシンクロ召喚はまだ終わらなくなった。

 デッキのカード達が力を貸してくれているような落ち方に裕は感謝し、

 

「俺はジャンク・シンクロンを召喚、そして召喚時効果でチューニング・サポーターを特殊召喚する、そしてレベル1のチューニング・サポーターにレベル4となっているスポーアをチューニング、シンクロ召喚! レベル5、TGハイパーライブラリアン!」

 

「月華竜ブラックローズの効果発動、レベル5以上のモンスターが特殊召喚されたとき相手の場の特殊召喚されたモンスター、ライブラリアンをバウンスする!」

 

 月華竜より放たれるバラの渦に飲み込まれライブラリアンがエクストラデッキへと戻される。

 だがこれによってこれより行おうとする特殊召喚に対する制限は失われた。

 鐘の音が裕へと恩恵を与え裕はデッキよりドロー。

 

「俺の場にチューナーモンスターが居る時、墓地からボルト・ヘッジホッグを特殊召喚、そしてレベル2のボルト・ヘッジホッグにレベル3のジャンク・シンクロンをチューニング! もう一回、TGハイパー・ライブラリアン!」

 

 シンクロモンスターの登場を祝福する鐘が鳴る。

 連打されていく風が徐々に段階を踏み強く髪を揺らすほどになっていく。

 

「レベル・スティーラーをコストにクイック・シンクロンを特殊召喚! そしてライブラリアンのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚し、レベル1のレベル・スティーラーにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング! レベル6、ドリル・ウォリアー!」

 

 飛び出るのは手足にドリルを装備した茶色の戦士だ。

 そのモンスターは現れると同時に地面に自分のドリルを突き立て穴を掘り始める。

 

「ライブラリアン、天輪鐘楼の効果で2枚ドロー、そしてドリルのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚し、ドリル・ウォリアーの効果発動、手札のガスタ・グリフをを捨ててこのカードを除外する! 更に墓地の送られたガスタ・グリフの効果発動、デッキよりガスタ・イグルを特殊召喚!」

 

 入れ替わる様に現れるは天道虫と小さな緑色の体色の鷲、どちらもレベルは1、それを見た水田裕も身構える。

 

「来るか!」

 

「ああ、レベル1のレベル・スティーラーにレベル1のガスタ・イグルをチューニング! 現れろ、フォーミュラ・シンクロン!」

 

 天輪鐘楼、ライブラリアン、フォーミュラ・シンクロンによる脅威の合計3ドロー、その手札を見、裕は更に笑みを強くする。

 

―――まだ行ける。もっと行ける!

 

「そして手札の増殖するGをコストにワン・フォー・ワンを発動、デッキから音楽戦士ベーシスを特殊召喚する、そしてベーシスの効果発動、手札の枚数分レベルを上昇させることが出来る、俺の手札は3枚、よってレベルは4となる! 俺はレベル4のTGハイパーライブラリアンにレベル4となったベーシスをチューニング! シンクロ召喚! レベル8、スターダスト・ドラゴン!」

 

 負ければ水田裕を止められない。

 負けたらクェーサーと別れる事になる。

 それだけは嫌だと裕は覚悟を決め、心の中で暴れ安全策を取れと囁く不安を踏み潰し、デッキ達に身を任せた展開していく。

 ドローしたカードを見て裕はまだ行けるかもしれないと笑みを浮かべる。

 裕の付近は風が轟々と唸りをあげ更に速度を高めていく。そして加速する全ての者を平等に祝福する鐘の音がその龍の出陣を祝福する。

 

「俺はレベル8のシンクロモンスター、スターダスト・ドラゴンにレベル2のシンクロチューナー、フォーミュラ・シンクロンをチューニング!!」

 

 星屑龍は2つの可能性を内包した輪より与えられた力によって更に強く、疾く、飛翔する。

 どこまでも何もかも全てを置き去りにし星屑龍は姿を消し、音すらも越え新しい姿となり主の元へと現れた。

 

「シンクロ召喚。穿て、シューティング・スタードラゴン!」

 

 並び立つ2体の流星龍、互いに威嚇する様に咆哮を響かせる中、更に裕は動く。

 

「更に冥府の使者ゴーズをコストにクイック・シンクロンを特殊召喚する。そしてシューティング・スター・ドラゴンのレベルを下げてスティーラーを特殊召喚し、レベル1のスティーラーにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング、レベル6、ジャンク・ガードナー!」

 

 本日2度目となる盾持ちが空より音を立てて空より着地、裕は天輪鐘楼によりドロー、そしてガードナーへと指令を出す。

 ガードナーはその指令を承諾したように頷き、場に居る天道虫へとチャージをかける。

 

「ジャンク・ガードナーの効果発動、相手の場のモンスター、レベル・スティーラーを攻撃表示に変更する!」

 

「俺は墓地よりスキル・プリズナーの効果発動、このカードを除外する事で対象を取るモンスター効果を無効にする!」

 

 ガードナーの突進は墓地より浮かびがった膜に防がれた。

 だがそれは裕も想定した事だ。防がれて当然だし防がれなかった方が勘ぐってしまう行動である。

 そして裕は伏せられたカードを見る。

 残る伏せカードは2枚、神の警告という件は無い。というよりは妨害カードは伏せられていないのだろうとは今までの展開を妨害しない事より予測できる。

 おそらくはリビングデットの呼び声系かブラフのどちらかだろう。そう決めつけ裕は息を吸う。

 これから自分がしようとするのはでっかい博打だ。外れれば敗北必須の一打だ。

 裕の胸の内には無理じゃないか、このまま安全策を取るべきじゃないか等と言う声がある。

 この状況を打開するには3回以上の攻撃を叩き込まねばならない。つまりは5枚のうちに3枚のチューナーが必要となる。

 シンクロンデッキの特性上、チューナーが多いのも事実ではあるがそれでもこの効果を使い運がかなり良くて2回、ほとんどの状況で0回攻撃となる事の方が多い。

 だがこの状況を打破する方法が無いのだ。そう自分に言い聞かせ、その手に願いと祈りを乗せ全力で踏み込んだ。

 

「シューティング・スターの効果発動、デッキより5枚のカードをめくりその中に存在するチューナーの数だけ攻撃が出来る!」

 

 その行動を予想していたのだろう、水田裕は嘲笑いの表情を浮かべる。

 

「そのデッキにチューナーが何枚残っていると言うんだ。0枚で攻撃出来ないかもしれないんだぞ?」

 

「そうかもな。だけどな。クェーサーが出せなくても、相手がどれだけカードを伏せてようが、相手がどんだけ強力なモンスターを出してようと全て踏み抜く! 全部踏み抜いて俺はお前の目を覚まさせるんだよ! このデッキ達と共にな! 1枚目っ!」

 

 デッキトップを握った裕の手に力がこもる。

 いくつもの力が集まってくるような気がし、カードを勢いよく引き抜き、引き抜かれた腕より発せられた風は強く力に満ちている。

 吹き荒れた風に思わず両手で顔を隠してしまった水田裕も、この戦いを見据える者達にも、本当に引くのではないかとさえ思わせるような風が吹く。

 そして、

 

「魔法カード、調律!」

 

 外した。

 それともなくかっこ悪的な雰囲気が流れる中、裕は首を振ってアジャスト、気を取り直し、デッキトップへと手をかざす。

 そしてドローした。

 

「に、2枚目! ……機械複製術」

 

 裕の額に焦りから汗が浮かび始め、水田裕の表情は警戒と緊迫した物からバカにしたものへ変わっていく。

 それはそうだろう、裕のデッキにあるチューナーモンスターはほとんど出尽くしていると言ってもいい。

 周囲の空気が呆れ始める中、裕は下空元気とも呼べる根性でカードを引く。

 

「こい、こい、頼むからマジで来てください………………3枚目っ、いよぉしっ! エフェクト・ヴェーラーだ!」

 

 まだ1回しか攻撃はできない。そう安心する水田裕の耳に飛び込んでくるのは、

 

「4枚目! クイック・シンクロンっ!」

 

「ッ!?」

 

 水田裕が目を見開く。

 それに対し裕は徐々に顔を明るくしデッキへと感謝し次も頼むぞと願う。

 不可思議な力を持たない裕はただ、デッキへと祈り、そしてデッキに集った願いと感情がそれを後押ししていく。

 風が、光が舞い散る中、裕はデッキトップへと手をかざす。

 先程まで心を縛っていた不安などない、あるのは感謝と期待、それだけだ。

 デッキトップへと手を置いた裕は何故だかは分からないが確固たる確信を得た。

 

「ありがとう。5枚目、ジャンク・シンクロン!」

 

 引き抜かれるは水田裕のデッキより引っ張って来たカード、それを見せつける様に水田裕へと翳した。

 

「馬鹿な、この土壇場で3回攻撃だと、お前が、お前なんかがどうしてッ!?」

 

 裕の絶叫と言える叫びに裕はデッキへと目を落とし撫でる。

 そしてこちらを睨み付ける相手の眼を見て、まっすぐに自分の意思を伝える。

 

「こいつは俺のデッキだけじゃない、お前のデッキも混ぜてんだ」

 

「それがどうした!?」

 

「分かんねえのかよ、お前は本当に分かんねえのかよ?」

 

 裕の言葉に分かっているけど認めたくないと言うように首を振る水田裕。

 その態度を見て、裕は説得を試みる。

 

「分かってんだろ! お前のデッキ俺達をも置いていくなって、一緒に闘ってきた日々を無かった事にすんなって言ってんだよッ! 目を覚ませよ、こんな事したって誰も幸せになんかなれねえじゃねえか、お前だって苦しいんじゃねえのかっ!?」

 

「ッ、だからって、それでも、それでもっ、俺は、俺はぁああああああっ!」

 

 水田裕は諦めない。

 どれだけ言葉を紡ごうとも最後の最後には自分の執着する物を手に入れるために動く。それゆえに止まらない。

 そしてそれを止めようとする裕の意思、そしてデッキ達の願いは裕の手に握られる3枚のカードより光と風が流星龍へと流れ込んでいく。

 それはまるで憤りを叫ぶように、糾弾する様に暴風となり周囲へと吹きわたっていく。

 

「行け! シューティング・スター・ドラゴン! 全て無かった事にして過去に戻ろうとする大馬鹿野郎の眼を、覚まさせろ! 俺とこのデッキの思い全てを乗せて、届けッ! バトルフェイズ!」

 

 裕の叫びに頷き流星龍は3つに分裂、それぞれに思いと願いを込め突撃した。

 目指すは3体の攻撃表示のモンスター、そして驚愕、後悔、苦悩、そして泣きそうな表情を見せる全てを捨てきれず選んだ選択を後悔する愚か者の眼を覚めさせるために流星龍が全力で空を駆け3体のモンスターへと突進した。


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