クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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因縁 中

「裕、裕を助けに」

 

 狼狽する遊馬、周囲を全く見れていない様子に最上はため息を吐き、気だるげに決闘盤を展開する。

 

「行かなくていいだろ、今の状況を見ろよ」

 

 実体化したモンスターによる攻撃により傾いだ飛行船、動きを止めたそれに遠距離より実体化したモンスターの攻撃が降り注ぐ。

 それは物理的な打撃であったり光線系の物まで千差万別だ。その多くは飛行船に当たらない物だが、中には直撃し飛行船を更に揺らいていく。

 そしてその砲撃に紛れバリアン兵が次々に乗り込もうと空を飛び群がってくる。

 この場所に留まれば確実に物量に圧殺されてしまうだろう。

 

「最上、お前は裕が心配じゃないのか!?」

 

「心配なんてしない、どうでもいい」

 

「どうしてそう言い切れるんだよ、お前は!」

 

「心配なんてする必要はない、だってアレの中身が一緒なら高い所から突き落として、殺して、ああ満足した、これで恨みも許してやるよ。なんて思うような小物だったら、そんなちっぽけな執着心すらも持てないなら私があの場所で負ける訳が無い」

 

――――あの敗北は裕の絶対に諦めないという心と私をぶっ倒してクェーサーを取り戻すと言う願い、そしてデッキとの絆が生んだ勝利だ。こっちの世界の水田裕がアレとほぼ一緒の中身をしているならば、

 

「自分の手でぶっ倒したいって思う筈だ、鉄よりも硬い執着心であいつは何がなんでもやり遂げようとする、だから落ちようが死にかけようが心配なんてするもんか、あいつをどこかに連れていくためだけにこんな事をしたんだろうし心配する時間の無駄だ」

 

 はっきりと言い放った最上を睨み付ける遊馬、だが最上はそれを全く無視し麗利へと声をかける。

 

「出発しろ、このままここにいるより城に突っ込んだ方がまだましだ」

 

「いいの?」

 

「お前まで何を言う、いいから早く行かないと妹も危険な目にあうぞ」

 

「……分かった」

 

 麗利が走っていきしばらくして、徐々に傾いていた飛行船が元の姿勢を取り戻し動き始める。

 飛行船は動き始め本当にバリアン城に突っ込もうとしている。だが背後よりバリアン兵が窓ガラスに群がる羽虫の様に飛行船の甲板に張り付くのを見た。

 

―――あ、ダメだこれ、乗り込まれるな。

 

 ちらりとさらに奥の空を見れば無数に蠢くバリアン兵が居て、敵の持つ圧倒的な物量が見て取れてしまう。

 それでも遊馬達も決闘盤を構え諦めず決闘をし、バリアン兵を消滅させていく。

 だが勝利しようとも勝利しようとも無限に湧き出る敵を前に遊馬や最上達はここまでの激戦の中ですでに疲労が蓄積し息も荒くなってくる。

 

「もう少しだってのに!」

 

 遊馬はホープやホープの進化系を使い偽物のナンバーズを切り捨てれば、その倒した数の倍のバリアン兵が船に張り付いてくる。

 

「なんとか、遊馬だけでも、あの場所に!」

 

 小鳥がサターンワンキルやクリスティアによる制圧を行おうとも敵はそれを軽々と乗り越えて来る。

 

「お姉ちゃん、もうちょっと早く!」

 

 響子が超融合でノーデンを繰り出し、エルシャドールが黒紫色の糸で敵を倒そうとも、

 

「良いぞ、良い、蹂躙ゲー最高! 私は今、最高に楽しい!」

 

 最上が額に汗を浮かべ、疲労を見せながらも最高の笑顔を浮かべ、ガトリングオーガ、クリフォートを使用し敵を薙ぎ払おうとも、敵が途絶えることは無い。

 皆が飛行船後方を見ないようにしている、それは見てしまえば諦めそうになってしまうと本能的に理解しているからだ。

 巨大な龍のように身をくねらせ、バリアン兵が船にへばり付こうとしている姿を見てしまえばいくら倒してもキリがないと理解しているから、未来を信じ、希望だけを信じ皆は前しか見ない。

 

「もうちょっとで…………ッ!?」

 

 バリアン城に突っ込む、そう小鳥は言いかけ、止まる。

 バリアン城から大量のバリアン兵がこちらへと向かってきたのを見てしまったからだ。先ほどより皆で倒してきたよりも遥かに数が多く、真っ黒な絨毯の様に正面に広がったそれを見てしまい、小鳥は膝を折った。

 

「こんなの、勝てるわけ、無い」

 

 誰もが心の中で思っている不安を口に出してしまう。

 それは光よりも早く皆へと伝播していく。

 遊馬達の心に暗い感情が増殖する。最上以外の皆が手を止めてしまう。だが、

 

「それでも、どんな状況でも俺は、誓ったんだ。未来を、希望を諦めるもんかぁ!」

 

 遊馬の意思と希望がナンバーズの力により後押しされ、胸元にかけられた皇の鍵より黄金の輝きが空を照らし、世界に蔓延していたバリアンの力を僅かに弱めていく。

 その輝きを突っ切り、正面にいたバリアン兵達が飛行船へと飛び掛かり、天より落とされた光の柱によってまとめて叩き落とされた。

 その光にアストラルは見覚えがあるのだろう、笑みを深くし、

 

「この光はエーテリック・アメン! 来てくれたのか、エリファス!」

 

 天より光を纏い来るはアストラル世界のトップ、エリファスとエーテリック・アメンだ。

 その後ろからはアストラル人達が並んでいる。手には決闘盤が握られ皆が戦う意思を持っている。

 一瞬だけアストラル世界の介入により戦場が硬直し、すぐさま両軍の兵士たちによる戦いが始まっていく。

 赤黒、青白の光が連続し星の様に輝く洗浄、その中でエリファスは甲板に降り立ち、遊馬達を見る。

 

「遅くなってすまない、九十九遊馬、アストラル」

 

「エリファス、それにみんなも!」

 

 限界を突破しようとするアストラル世界の象徴、ランク13のモンスターエクシーズ、エーテリック・アメンが放つ砲撃が迫りくるバリアン兵を根こそぎ叩き落としバリアン城に巨大な穴を穿つ。

 飛行船が入れそうな巨大な穴、そこに飛行船は入り込み着陸した。

 

「私達はここでバリアン兵を足止めする、君達はドン・サウザンドたちの元へ!」

 

「エリファス、気をつけろよ」

 

 遊馬が礼を言いバリアン城へと足を踏み入れる。それに習う様に麗利、響子、小鳥が続く。

だが最上はその場から動かない。

 

「最上?」

 

「先に行け」

 

 その言葉はまるで自分を置いて先に行けと言うようである。

 最上という人物像から自己犠牲という言葉とは対極にあるはずだ。むしろ人を盾にして自分が助かりたいとさえ思うような少女だ。

 だからこそ遊馬達は揃って鳩が豆鉄砲にでも撃たれたような表情を浮かべる。

 

「先に行け、時間が無いんだろ」

 

「でも、気をつけろよ!」

 

 遊馬は説得しようか迷うも最上の表情を見た遊馬は即座に走り出した。

 それを見届け、エリファスが飛び上がった空に視線を写し、この線上にいる皆に聞こえるような大きな声で自分の内側を明かす。

 

「私は、勝つのが大好きだ。敵を蹂躙し踏み潰したい、そう、私は私が勝てる勝負がしたいんだ」

 

 足元に落ちていたペットボトルに口をつけ一気に飲み干し捨てる。

 望んだカードがドローでき、ぶっ壊れカードを全力で使ってきて、ここぞという所で運が良い相手に勝てるかと言われれば勝てないと答えるしかない。

 神に貰った力は失われ、デッキも失った。何もかも失った彼女に残るのは人の身に過ぎた自己愛の感情だけだ。

 それでも持前の運と自己愛だけでバリアン兵に勝っては来れた。だがベクター達に勝てるかと言われれば無理じゃないかと思う。

 

「勝てない奴でも策があるのなら試してもいい、だけど策も無しに勝てない相手と戦うのは嫌いなんだ、めんどくさいし私が負けるかもしてないじゃないか」

 

 決闘盤を展開、デッキを再装填し身だしなみを整える。

 

―――黒原と対峙して分かったことがある。あれぐらいの連中に勝つには私程度の力じゃどうにもならない。

 

 あのバリアン世界に堕とされなければ認める事の出来なかった、自分の敗北と力不足を分かることが出来たからこそ、最上はベクター達を倒しにいかない。

 行って負ける戦いに最上は参加したくはない。だがこの胸に宿る苛立ちを誰かにぶつけなければやってられないのだ。

 この状況は自分と同類の黒原とドン・サウザンドが引き起こした出来事である事を気にも留めず、ただ自分が困ったり苦しんだ状況に追い込まれる事を最上は怒り疎んでいる。

 

「だからさ、しょうがないから私はこいつらで我慢してやる、だから鬱憤を晴らさせろよぉ!」

 

 最上はアストラル人達やエリファスを避け、遊馬達を追おうと群がってくるバリアン兵を見下す。

 他人の命令を受け、ただ操られるだけの意思も決意も自己愛も持たない人形を見下し大きく腕を振るい立ちはだかり、

 

「さあ、お前ら全員更地にしてやる! 私を楽しませろよ人形風情!」

 

                   ●

 

 ナッシュは現れた百目龍を見上げる。

 普通のシンクロ召喚とは違うチューニングを態々用いて行われたこの龍は普通とは違う強力な力を秘めているに違いない。

 

「和睦の使者が発動されちまったらどうしようもないな、ワンハンドレッド・ドラゴンでショック・ルーラーを攻撃、そして俺はこれでターンエンド」

 

ベクター場  ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン ATK3500

LP4000   

手札0    属性重力-アトリビュート・グラビティ

 

ナッシュ場  iNo.16 色の支配者ショック・ルーラー ATK2300 (ORU2)

LP4000   CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU2)

手札1   

 

 百の眼がこちらをこちらを観察し、見惚れ、羨み、様々な感情を込めプレッシャーが放たれる。

 肌を焼かれる様にじりじりと動くそれを見、ナッシュは奮い立たせるように大きな声をあげる。

 

「俺のターンドロー! Darkknightの効果発動、お前のモンスターをDarkknightのカオスオーバーレイユニットに……なんだと!?」

 

 槍より放たれた光は相手を吸収する、筈だった。

 だが百目龍の体にある瞳の一つが輝くと光は無かったかのように消滅した。

 

「何も知らねえお前に教えてやるよ、こいつの効果は俺様の手札が0枚の時、墓地にある闇属性モンスター全ての効果を得る、だ!」

 

「なっ!?」

 

「よって今、こいつは俺の墓地にある毒蛇神ヴェノミナーガの効果を得ており、墓地にいる爬虫類族モンスターの数×500ポイント攻撃力がアップし、このカード以外の効果を受けない。つまりお前がどんなすげえ効果を持ったカードを使おうともこいつには指一本触れられないって事だ!」

 

 ナッシュはベクターの墓地を確認しようとするが砂嵐が邪魔をし見ることが出来ない。

 だがカード効果の対象にならず効果を受けないだけならばいくらでも対処する方法はある。

 

「くっ、だったら圧倒的な攻撃力で破壊する! 俺はセイバー・シャークを召喚、そして俺の場に水属性モンスターが存在するときサイレント・アングラーを手札から特殊召喚!」

 

 並ぶは2体の鮫、そして次に現れるであろう神の力がカオスで汚染された空間を浄化していく。

 

「そしてセイバー・シャークの効果発動、1ターンに2回まで場の魚族モンスター1体のレベルを1つ、上げるまたは下げることが出来る。俺はレベル4のセイバー・シャークとサイレント・アングラーのレベルを1つずつ上げ、レベル5となった水属性モンスター2体でオーバーレイネットワークを構築!」

 

 鮫が吸い込まれた渦、その中より全てを洗い流す大水が回転しながら浮上する。

 その内部より巨大な大男が姿を現し海の様に澄んだ青色の鎧が肩や胸に装備される。

 

「現れろ、No.73! カオスに落ちたる聖なる滴。その力を示し混沌を浄化せよ! 激瀧神アビス・スプラッシュ」

 

 轟々と渦を巻く激流を突き破り錫杖を手に海神が降臨した。

 

「俺はショック・ルーラーを守備表示に変更、そしてショック・ルーラーの効果で魔法カードを発動できなくさせる!」

 

 属性重力は攻撃表示のモンスターに攻撃を強制させるカード、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンが何らかの理由で破壊されなかったときのために守備表示に変更し、ナッシュは攻撃を仕掛ける。

 

「バトルだ、アビス・スプラッシュでワンハンドレッド・アイ・ドラゴンを攻撃! この瞬間、アビス・スプラッシュの効果発動、オーバーレイユニットを使いアビス・スプラッシュの攻撃力を相手のエンドフェイズまで倍にする! ファイナル・フォール!」

 

 アビス・スプラッシュの掲げた錫杖にオーバーレイユニットが分解され光に包まれ水を引き寄せていく。

 全てを圧殺できる破壊力を秘めた水のメイスが振り上げられ百目龍へと振り下ろされた。

 

No.73激瀧神アビス・スプラッシュ ATK4800 VS ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン ATK3500

ベクターLP4000→3350

 

 三幻神ですら倒せる攻撃力の一撃が百目龍を直撃、その余波はベクターの背後、玉座を砕き城の外壁を破壊する。

 そしてナッシュは見た。

 砂煙の中、百目龍がその巨体を揺らすのを、

 

「なんだと!?」

 

「残念だったなぁ、ナッシュ。墓地のインフェルニティ・ガーディアンの効果を得たこいつは俺の手札が0の時、戦闘またはカード効果で破壊されない! さあDarkknightで攻撃を仕掛けてもらおうか!」

 

「くっ、Darkknightでワンハンドレッド・アイ・ドラゴンを攻撃!」

 

CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 VS ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン ATK3500

ナッシュLP4000→3300

 

 暗黒騎士の槍より繰り出された光線は百目龍の長い腕によって打ち払われる。

 そのまま暗黒騎士の胴体を握り百目龍は人形でも扱うように軽々とナッシュへと投げつけて来る。

 暗黒騎士はナッシュのすぐそばに叩きつけられる、ナンバーズの名を持たない百目龍は暗黒騎士を破壊することは出来ない。

 だがそのダメージはナッシュの体に傷を刻み込む事は出来る。

 そして砂煙の中、百目龍の体より抜け出た黒い蛇が絡みつきナッシュの首筋に牙を立てる。

 

「うっ……なんだ、これは!?」

 

「ヴェノミナーガの効果だ、相手にダメージを与えたとき、このカードにハイパーヴェノムカウンターを乗せる、それが3つ溜まった瞬間、俺はこの決闘に勝利しナッシュ、お前は死ぬ!」

 

 ベクターの墓地を見ればインフェルニティ・ガーディアンとヴェノミナーガの効果テキストのみが見れるようになっている。

 つまりはこのままだとナッシュはあと2ターンで注入された猛毒により死ぬと言う事だ。

 

「俺は、これでターンエンド」

 

ナッシュ場  No.73激瀧神アビス・スプラッシュ ATK4800 (ORU1)

LP3300   CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU2)

手札1    iNo.16 色の支配者ショックルーラーDEF1600 (ORU1)

 

ベクター場  ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン ATK3500 (カウンター1)

LP3350   

手札0    属性重力-アトリビュート・グラビティ

 

「俺のターン、ドロー! 俺がドローしたのはトリック・デーモン、命削りの宝札のデメリットでスタンバイフェイズにこのカードを捨てる、そしてカード効果で墓地に送られたのでデーモンと名の付くカード、インフェルニティ・デーモンを手札に加え、そしてヘルウェイ・パトロールの効果発動、このカードを除外し」

 

「俺は手札より増殖するGを発動!」

 

「つまり、これで増殖するGは無くなった訳だ。次のターンから俺の大量展開が出来る訳だなぁ」

 

「ちっ」

 

「デーモンを特殊召喚、そしてインフェルニティカード、インフェルニティ・バリアをサーチ、そしてセット! バトルだ、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンでDarkknightを攻撃! インフィニティ・サイト・ストリーム!」

 

 百目龍は口腔に紫色の光を集束、放射する。

 それは自分の中にある数万人分の負の感情を乗せた竜の息吹だ。暗黒騎士がその一撃を受け止められる訳もなく、守るべき主へ傷を更に与える結果になる。

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン ATK3500  VS CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 

ナッシュLP3300→2600

 

「くっ」

 

「更にハイパーヴェノムカウンターが1つ乗るわけだ、そしてインフェルニティ・デーモンでショック・ルーラーを攻撃」

 

 デーモンの手を掲げた上空、魔方陣が生まれそこより暗い紫いろに燃える焔が落下してくる。

 偽物のナンバーズでありナンバーズの持つ戦闘破壊耐性を持たないショック・ルーラーはその一撃を受け、破壊されてしまう。

 

インフェルニティ・デーモン ATK1800 VS  iNo.16 色の支配者ショックルーラーDEF1600 

破壊→iNo16 色の支配者ショックルーラー

 

「俺様はこれでターンエンド」

 

ベクター場  ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン ATK3500 (カウンター2)

LP3350   インフェルニティ・デーモン ATK1800

手札0    属性重力-アトリビュート・グラビティ

       伏せ1

 

ナッシュ場  No.73激瀧神アビス・スプラッシュ ATK2400 (ORU1)

LP3300   CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU2)

手札1

 

「俺のターン、ドロー! そしてドローフェイズにサイクロンを発動、きさまの伏せカードを破壊する」

 

 破壊されるのは当然、ベクターが前のターンにサーチしたインフェルニティ・バリア。

 強力なカウンター罠だが今は発動しても意味がないためベクターは発動せずそのまま墓地に送る。

 

「そしてスタンバイフェイズ、手札のカードは命削りの宝札の効果により墓地に送られる、だが墓地に送られたカウンター罠、超高速(ハイパー・クイック)の効果だ、このカードが手札または場から墓地に送られた時、デッキから1枚ドローしそのカードが魔法カードならば速攻魔法扱いで発動する」

 

 毒が全身に巡りはじめ、ただでさえドン・サウザンドの侵食に苦しめるナッシュの体を追い詰めていく。

 だがそんな事ではナッシュは諦める訳が無い。この胸に宿る憎しみと殺意の炎が消えるまでは止まることは出来ないのだ。

 

「俺がドローしたのは貪欲な壺だ、墓地の増殖するG3枚とドロール&ロックバード、そしてエフェクト・ヴェーラーをデッキに戻し2枚ドロー!」

 

―――一撃必殺居合ドローを引くべきか? いや、奴の事だ。バーン対策もされているはず。あのモンスターが居る限りベクターに指一本触れることは出来ないと思ったほうが良い。だったら、

 

「運命の宝札を発動! サイコロの出目は6、よって6枚ドローし6枚を除外する」

 

 またしてもドン・サウザンドが作り出したカードを使用しナッシュに侵食が強くなっていく。

 ナッシュに不利になるような動きを使用とする手を膂力で抑え、ナッシュはデッキを見る。

 運命の宝札は運任せだが大量ドローできる可能性を秘めている、だがそれと同時にベクター対メラグ達との決闘の様にデッキ切れと言う可能性ももたらしてしまう。

 だが今回の決闘の為にデッキはかなり多めにし、メタカードを多く詰むことでデッキ切れを回避した。これによってベクターがデッキ切れを狙ったとしても敗北を避けるようにした。

 

――――だがベクターもそこまでは分かって居るはずだ。だからこそこのワンハンドレッド・アイ・ドラゴンのような強固な壁を手に入れたのだろう。だがこのまま守備表示にすれば次のターン、確実に墓地に居るダーク・グレファーの効果を使い貫通能力を与えて来るだろう。だからこそ、

 

「バトルだ、Darkknightでインフェルニティ・デーモンを攻撃!」

 

CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 VS インフェルニティ・デーモン ATK1800

破壊→インフェルニティ・デーモン

ベクターLP3350→2350

 

「そしてアビス・スプラッシュでワンハンドレッド・アイ・ドラゴンを攻撃! この瞬間オーバーレイユニットを使い相手のエンドフェイズまで攻撃力を2倍にする! ファイナル・フォール!」

 

No.73激瀧神アビス・スプラッシュ ATK4800 VS ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン ATK3500

ベクターLP2350→1700

 

「俺はカードを5枚伏せてターンエンド」

 

ナッシュ場  No.73激瀧神アビス・スプラッシュ ATK4800 (ORU0)

LP3300   CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU2)

手札1    伏せ5

 

ベクター場  ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン ATK3500 (カウンター2)

LP1700   

手札0    属性重力-アトリビュート・グラビティ

 

「俺のターンドロー! 俺は魔法カード、一撃必殺居合ドローを発動、場には合計9枚のカード、よって俺はデッキの上より9枚のカードを墓地に送りデッキから1枚ドローする」

 

「お前の思い通りになんてさせる物か! 俺はカウンター罠、神の宣告を発動!」

 

ナッシュLP3300→1650

 

「ちぃ! ワンハンドレッド・アイ・ドラゴンでDarkknightを攻撃!」

 

 焦ったのか、それとも手札より放たれる増殖するGを恐れてか、ベクターは墓地に居るインフェルニティ・ネクロマンサーの効果を使わずに攻撃を仕掛けて来る。

 

「攻撃宣言時、罠カード、転生の予言を発動!」

 

 ナッシュはベクターの墓地を確認する。

 ルールには逆らえないのか墓地に落ちたカードのテキスト前はっきりと確認できるようになり、ナッシュはそのカード達を見、眼を見開く。

 

―――貫通、ハンデス、複数攻撃、デッキ破壊、バーンダメージを受けない、更にスキル・プリズナーが3枚だと⋯⋯!

 

「お前の墓地のインフェルニティ・ガーディアンとダーク・グレファーをデッキに戻す、これによってワンハンドレット・アイ・ドラゴンの鉄壁の守りは失われた! 迎撃しろ、Darkknight!」

 

 暗黒騎士の振るう槍を百目龍は硬い外皮で受け流し胴体を使う、そしてもう片方の腕で槍を握る腕ごと握り潰し、直接口腔より放出される息吹をぶち込もうと試みる。

 

「まだだ、こいつの攻撃力は3500ある、攻撃力2800のDarkknightなんかに負けるもんか!」

 

「それはどうかな、墓地よりスキル・サクセサーの効果発動、このカードを除外しDarkknightの攻撃力を800ポイントアップさせる!」

 

「いつそんなカードを……そうか、あのとき、1枚だけ落したカードか!」

 

 ベクターがワンハンドレッド・アイ・ドラゴンを出す前のターン、インフィニティ・トゥースによって落とされたカードがようやく発動の時を迎える。

 

「これでこちらの攻撃力の方が上、迎撃しろDarkknight!」

 

 口腔より放射される寸前、槍を握りしめていた手を強引に振りほどき槍を百目龍の口腔に叩き込んだ。

 そのまま槍の穂先よりエネルギーを貯め百目龍の内部へと送り込む。

 今にも放出されようとしていた百目龍のエネルギーと暗黒騎士の送り込んだエネルギーが混じり合い百目龍は内部を荒れ狂うエネルギーに耐え切れずその百の眼より光が漏れ出し爆散した。

 

ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン ATK3500 VS CNo.101 S・H・Dark Knight ATK3600

ベクターLP1700→1600

 

「ちっ、だが俺は破壊されたワンハンドレッド・アイ・ドラゴンもう1つの効果発動、俺のデッキより好きなカードを選び手札に加える、俺が加えるのは当然、運命の宝札だぁ!」

 

 爆発の後、百目龍の眼の一つがベクターにカードを授けて消滅した。

 それを受け取ったベクターは笑みを浮かべ、

 

「メイン2、俺は運命の宝札を発動、出目は当然6、デッキより6枚ドロー! 俺はフィールド魔法、魂魄の格闘場を発動、カードを2枚伏せる」

 

 ただでさえ先ほどよりベクターとナッシュの激戦が繰り広げられ崩壊しそうな広間の府に気が暗くなっていく。

 周囲に人はいないはずなのに気配を感じ、視線を感じさせるようになり、ナッシュは周囲を警戒せずにはいられない。

 

「そしてRUM―七皇の剣を発動、そしてそれに速攻魔法。時の跳躍を発動!」

 

「そのカードは、ギラグが使っていたあのカードか」

 

「そうだ、そして特殊召喚するカードはこいつだ!」

 

 ベクターが上空へと手を伸ばす、そしてそれに吸い寄せられるように一枚のカードが天より落下する。

 一瞬だけ、もがき苦しむ黄金の三頭龍の姿が見えたナッシュは驚愕を隠せない。

 7つ星より現れるは黒き鋼の竜、金属のパーツが合致し、紫電を纏いその竜は苦しげな咆哮を響かす。

 

「現れろ、No.107銀河眼の時空竜!」

 

「これは、ミザエルのカード!」

 

 ナッシュは竜の放たれる圧から偽物ではなく、ミザエルの魂のカードだと直感、空を見上げるもそこには月しかない。 流石のナッシュも月でミザエルがドン・サウザンドに敗北したことを予測することは出来ない。

 

「いいや、違う。今は俺様のカードだ! そしてカオス化する! 現れろ、CNo.107超銀河眼の時空龍!」

 

 カオスに飲まれた竜は金色の装甲を身に纏っていく。それと同時にその三頭龍を戒める様にドン・サウザンドが作り出した重厚な鎖が時空龍の身に巻き付いていく。

 鎖の先を持っているのはベクターだ。まるで犬を扱う様に鎖を引き時空龍に無理矢理に従わせている。

 

「バトル、時空龍でアビス・スプラッシュを攻撃! えっと、確か…………アルティメット・タキオン・スパイラル!」

 

「罠カード、和睦の使者だ!」

 

 無理矢理に従わされながらもその砲撃の威力は弱まらない。

 ベクターのエンドフェイズを挟んでいるためアビス・スプラッシュの攻撃力は元に戻っており直撃すれば大ダメージである。

 だからこそナッシュはなんとかしてその砲撃を免れようとする。

 

「だったらもう一撃、俺は更にセットしていた時の跳躍を発動。再び俺様のバトルフェイズだ、時空龍でアビス・スプラッシュを攻撃!」

 

「まだだ、罠カード、潮の利を発動、このカードは水属性モンスターと戦闘を行うモンスターの攻撃力を半分にし、このターン、俺の場の水属性モンスターは戦闘で破壊されない!」

 

 三頭龍の放つ砲撃はナッシュの展開した罠カードによって威力が半減する、そのか細い砲撃を錫杖で叩き落としアビスは地響きを立てながら走り寄っていく。

 そのまま跳躍し錫杖で金色の装甲を叩き砕く。

 三頭龍の感謝するような嬉しげな咆哮と、金属の外装が砕け剥離する音が玉座の間を埋め尽くし爆散する。

 

CNo.107超銀河眼の時空龍ATK2250 VS  No.73激瀧神アビス・スプラッシュ ATK2400

破壊→CNo.107超銀河眼の時空龍

ベクターLP1600→1450

 

「ちっ、だがNoが破壊された時、俺様の手札を全て捨てる事で魂魄の挌闘場の効果が発動する!」

 

 ナンバーズが破壊された事により何かの気配が強くなっていく。

 責める様な叫びが響き渡り、ベクターのエクストラデッキより5本の光が立ち上る。

 

「俺のエクストラデッキよりNo.と名の付いたカードを可能な限り特殊召喚する、現れろ!七皇の、いや俺様のオーバーハンドレッド・カオスナンバーズ!」

 

 場を支配する何かの存在感は強くなり、その何かが放出した力により2人の天井が消滅、上空に1つ光を失ったかけた北斗七星が展開し、その中より5つの星が降りて来る。

 バリアン世界に満ちるエネルギーの全てを吸収し核を構築、その中よりまず先陣を切ったのは紅蓮の王、今は亡き主人と同じように闘志を滾らせ拳を打ち鳴らす。

 

「唸る拳が神をも砕く、CNo.106彗星のカエストス!」

 

 溶岩とカオスがバリアン城の外壁を砕き、燃やしながら巨大な掌がのそりと身を起こし、

 

「全てのものは我が手の中、CNo.105溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド!」

 

 その燃え盛る炎も外壁を溶かす溶岩も全てを凍てつかせる冷気を放ちながら令嬢が現れる。

 

「灼熱の太陽すら瞬間凍結、氷の剣、CNo.103神葬令嬢ラグナ・インフィニティ!」

 

 黒に染まった堕天使と魔の道化師が手に持つ獲物を打ち鳴らし相対者を嘲笑う。

 

「バリアンの白き盾、CNo.102光堕天使ノーブル・デーモン、そしてジャーンジャジャン! そして俺様、バリアン七皇のニューリーダー! お・れ・さ・まッ、ベクター様が操りしCNo.104仮面魔踏士アンブラル!」

 

 まるで人形ごっこのように七皇のオーバーハンドレッド・カオスナンバーズを見せびらかすベクターの非道な行為にナッシュは怒りを隠せない。

 だが冷静になるべきだと思い直す。

 

―――今は冷静になれ、そうしなければベクターは倒せない。だから今だけは…………!

 

 深呼吸の後、ナッシュは表面上は冷静になり、

 

「だが、このモンスター達もアビスたちに戦闘を仕掛ければ攻撃力は半分になる、俺のモンスターを破壊することは出来ない」

 

「いや、俺様も墓地に送られたカウンター罠、超高速の効果で1枚ドロー、そして伏せてあった最後の速攻魔法、時の跳躍、さあナッシュ! これが最後のバトルフェイズだ、お仲間の攻撃で砕け散れ! バトル、ノーブル・デーモンでDarkknightを攻撃!」

 

CNo.102光堕天使ノーブル・デーモン ATK2900 VS  CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800

破壊→CNo.101 S・H・Dark Knight

ナッシュLP1650→1550

 

「くっ、だがカオス・オーバーレイユニットがある状況で破壊されたDarkknightの効果でこのモンスターを特殊召喚し俺のライフを2800ポイント回復する」

 

「それがどうした! アンブラルでDarkknightを攻撃!」

 

 最後にナッシュのオーバーハンドレッド・カオス・ナンバーズをあいつ配らせるのは自分だと言わんばかりに魔踏士の放った光線が暗黒騎士を貫き破壊する。

 

「ぐぅああ」

 

CNo.104仮面魔踏士アンブラル ATK3000 VS  CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800

破壊→CNo.101 S・H・Dark Knight

ナッシュLP4350→4150

 

「そしてジャイアント・ハンド・レッドでアビス・スプラッシュを攻撃、万死紅掌!」

 

 溶岩掌とアビスが振るう錫杖は激突しその余波で更に部屋の壁の崩壊が進んでいく。

 水が音を立てながら蒸発していき、アビスの力がどんどん減衰していく。

 そのまま回転し溶岩を巻き上げながら突進してきた溶岩掌の一撃がアビスの腹をぶち破った。

 

CNo.105溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド ATK2600 VS No.73激瀧神アビス・スプラッシュ ATK2400

破壊→  No.73激瀧神アビス・スプラッシュ

ナッシュLP4150→3950

 

「カエストスで直接攻撃、コメット・エクスプロージョン!」

 

 カエストスが叩き込んだ拳はナッシュの腹を強く打撃しナッシュはボールの様に飛ばされる。

 そして僅かに残ったバリアン城の外壁へと叩きつけられる。

 

ナッシュLP3950→1150

 

「ラグナ・インフィニティで直接攻撃!」

 

「ま、まだだ。俺は罠カード、エクシーズ・リボーンを発動、墓地のDarkknightを特殊召喚する、そしてお前のラグナ・インフィニティはお前が発動した属性重力の効果で必ず攻撃をしなければいけない!」

 

「ちっ、ラグナ・インフィニティでDarkknightを攻撃!」

 

CNo.103神葬令嬢ラグナ・インフィニティ ATK2800 VS CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800

破壊→CNo.101 S・H・Dark Knight

   CNo.103神葬令嬢ラグナ・インフィニティ

 

「Darkknightの効果だ、Darkknightは何度でも復活する!」

 

「はっ、仲間を守るためにってか? もうそんな守るべきお仲間なんていないのになぁ、カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

ベクター場  CNo.106彗星のカエストス ATK2800 (ORU0)

LP1450   CNo.105溶岩掌ジャイアント・ハンド・レッド ATK2600(ORU0)

       CNo.104仮面魔踏士アンブラル ATK3000 (ORU0)

       CNo.102堕光天使ノーブル・デーモン ATK2900 (ORU0)

手札0    属性重力-アトリビュート・グラビティ

       魂魄の挌闘場 

       伏せ1

 

ナッシュ場  CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU0)

LP3950   

手札2   

 

「俺のターンドロー、俺はDarkknightの効果でアンブラルをカオスオーバーレイユニットに」

 

「させねえよ、墓地からスキル・プリズナーの効果だ、このカードを除外しそのカード効果を効果を無効にする!」

 

 その効果を使うだろうと言う事はナッシュが転生の予言で墓地を確認したときから分かっていた。

 

「俺は運命の宝札を発動、出目は……5、よって5枚ドローし5枚を除外する」

 

 何も邪魔が入らない所を見るとインフェルニティ・ブレイクなどのカードではないらしい、とすればなんなのかそれはナッシュには予測がつかない。

 だがそのような事で足を止めることは出来ない。

 

―――ベクターは七皇の絆をバカにし良い様に利用している。そんな事を許せるわけが無い

 

 そう強く思ったときだ。

 ナッシュの胸に熱い力が流れ込んだのは。

 それはオーバーハンドレッドとの接触によりナッシュへと与えられた七皇の最後の力と、長い間を賭けて積み上げた絆だ。

 ナッシュはそれをすぐさま使おうとするが何故か使うことが出来ない。

 まるで何かがそれを邪魔しているように、

 

―――まさか、ドン・サウザンドの呪縛が何らかの影響を及ぼしているのか…………だが俺がベクターをドン・サウザンドの呪縛から解放しなければいけない理由なんてない。

 

 そうナッシュは思う。

 だからこそドローした手札を見、何をすればベクターを倒せるかを考える。

 冷静に、冷酷にナッシュはベクターを倒そう(殺そう)と思案し、

 

「シャーク、大丈夫か!」

 

 遊馬の姿が目に映った。そして後ろからは小鳥が入ってくる。

 よく耳を澄ましてみれば氷村姉妹の決闘している声が聞こえてきた。

 

「遊馬、何故ここに?」

 

「妹シャやドルベがベクターに飲み込まれてからお前の様子が変わっちまったから心配だったんだ」

 

「俺の事を……?」

 

 そうだ、と遊馬は呟き、ナッシュをしっかりと見つめる。

 

「今のお前はカオスに踊らされ敵を倒す事だけを考えてるようじゃねえか、そんなのお前じゃねえ、何がなんでもどんな残酷な事をしてでも敵を排除しようとしている、それじゃまるでベクターと一緒じゃねえか!」

 

「っ、だったらどうしろというんだ! この恨みを忘れろとでもいうのかっ!」

 

「違う! だけど、このまま話し合わずベクターを倒したらベクターもお前も救われねえ!」

 

「救われねえだと!?」

 

「そうだ、ベクターを倒しちまったらお前は今度こそ、本当に人としての暖かな感情を喪っちまう、だからそれだけは絶対にさせねえ!」

 

 ナッシュはその言葉に落雷を受けたような衝撃を受ける。

 だがどうあってもベクターを許さないと言う感情が、どうしても七皇の敵討ちを慕い感情が押しつぶそうとする。

 

「だからこいつに手を伸ばし、話し合うってのか!? こいつに人の心なんてある訳無いっ!」

 

「そうかもしれねえ、だったら人の心が出来るまで何度でもぶつかっていけばいい! 不可能だって何度でも挑戦し続ければいつかきっと乗り越えられる、それが俺のかっとビング魂だ!」

 

 敵でさえも見捨てない、遊馬はそう言い切った。

 それはナッシュが神代凌牙としてずっと隣に居た九十九遊馬という決闘者であり不可能に挑戦し可能にしようとする意志が成す眩しすぎる輝きだ。

 それは深い絶望と憎しみの渦巻く深海の底へと消え去ったはずの神代凌牙という人格へと優しく降り注いでいく。

 

「はっ、今こいつと決闘してない奴がそんな事を言うのか⋯⋯⋯⋯」

 

「シャーク…………」

 

「だが、お前にはドルベを開放するときに作った借りがある。だから今回だけは、お前の言うとおりにしてやる! 俺は魔法カード、死者蘇生を発動。ベクターの墓地のインフェルニティ・ドワーフを特殊召喚する、そして装備魔法オーバーレイ・サテライトを装備させる」

 

 ナッシュが呼び出すのは闇属性のレベル2のモンスター、そしてその周りを衛星のような機械が飛行し始める。

 

「このカードは装備モンスターと同じモンスターとして扱う。俺は闇属性、レベル2のインフェルニティ・ドワーフとオーバーレイ・サテライトでオーバーレイネットワークを構築!」

 

 輝く光を切り裂き黒と紫の剣型モニュメントがナッシュの場に突き刺さる。

 それより人型の体が構築され両手が鋭い刃物をつけた魔人が現れる。

 

「エクシーズ召喚、現れろ、No.65裁断魔人ジャッジ・バスター!」

 

「だが、そんな攻撃力もランクも低いカードなんかで俺のアンブラルが倒せるものか!」

 

「俺は更にRUM-バリアンズ・フォースをジャッジ・バスターに発動、一体のモンスターでオーバーレイネットワークを再構築、カオス・エクシーズチェンジ!」

 

 扉を突き破り湧き上がるカオスに飲み込まれた剣は極太の刃が着いた大剣のモニュメントへと進化する。

 そこより刃物で構成された翼を輝かせ、首狩りの処刑具を片手に偽りの記憶を裁くために魔王が降り立つ。

 

「現れろ、CNo.65! 今こそ偽りの記憶を暴き真実をもたらせ! 裁断魔王ジャッジ・デビル! ジャッジ・デビルの効果発動、カオス・オーバーレイユニットを使い相手モンスターの攻撃力を1000ポイント下げる、俺はジャイアント・ハンド・レッドの攻撃力を下げる!」

 

「そうはいかねえ、俺は更に墓地からスキル・プリズナーの効果発動、このカードを除外しその効果を無効にする!」

 

 裁断魔王が溶岩掌の指を切り落としにかかるも墓地から発生した膜がそれを防ぎ切る。

 ランクアップしたとはいえ裁断魔王のステータスは1600と低く、このままではアンブラルを倒すことは出来ない。

 

「それでそんなちっぽけなナンバーズで俺様のアンブラルを倒すだって?」

 

「ああ、そうだ。メラグ、いや璃緒のカードがお前のオーバーハンドレッド・カオスナンバーズを処刑する。俺は速攻魔法、絶対零度を発動、このカードは相手の場のオーバーレイユニットの無いモンスターの攻撃力を0にする!」

 

 魔踏士の足元より冷気が発生し、足先より氷に閉ざしていく。徐々に体へと迫る氷、なんとか抗おうと身じろぎする魔踏士の手足を氷に閉ざし、首だけを残し全身を固めた。

 それはまるで処刑を待つだけの死刑囚のような姿である。

 

「なっ!?」

 

「バトルだ! ジャッジ・デビルでアンブラルを攻撃!」

 

「ちっ、罠発動、ガードロー、アンブラルを守備表示に変更しデッキから1枚ドローする!」

 

「だが攻撃力はジャッジ・デビルの方が上、砕けろ、アンブラル!」

 

CNo.65裁断魔王ジャッジ・デビル ATK1600 CNo.104仮面魔踏士アンブラル DEF1500 

破壊→CNo.104仮面魔踏士アンブラル

 

 首を切断された魔踏士の体が消滅し、裁断魔王の体より光が放たれた。

 この場に居る皆がその光に飲まれる中、ナッシュは自分の内側で目覚めた力を戒める封印が解ける音を聞いた。


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