クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード 作:TFRS
超新星を思わせる輝きがか細くなっていく。それは銀河をも砕くほどの規模で行われた2人の銀河眼使いの決闘の終結を告げる物だ。
そして同時に敗者であるミザエルの消滅も意味していた。
月に居ようとも敗者必滅の理からは逃れることが出来ず、ミザエルが悔しげな、そして満足そうな矛盾した表情でハルトと共に歩くカイトを見ている。
下半身の消滅が始まったミザエルへとカイトが何か言葉をかけようと口を開いたときだ、月の形が変わってしまうほどの大激戦の中でも傷一つつかなかった石柱が光を放ち始める。
光は蒼と赤、白と黒、龍達が放った光と同じ色だ、様々な色が混じり合いそこに独りでに浮き上がった時空龍と光子竜皇、神影龍のカードが吸い寄せられていく。
そして鼓動のように何度も何度も光が波打ち、光の奥の奥、厳重に封じられた最後のナンバーズが浮かび上がってきた。
「これがヌメロン・コードの最後の鍵、ヌメロン・ドラゴン……」
名前のみが記されイラストもカードテキストも無い黒枠のカードがカイトの手に降りて来る。
そして3枚のナンバーズは力を失ったように光を失い持ち主の手に戻った。
「ミザエル、これが最後のナンバーズ、俺とお前が生み出したドラゴンだ」
「…………そうか、私は最強のドラゴン使いに成れなかったのか」
カイトが見せたドラゴンの姿にため息をつきながらミザエルは銀河を見上げる。
光り輝く銀河の下、カイトはミザエルへとずっと思っていた本心を告げる。
「いやミザエル、最強のドラゴン使いはお前だ」
「何を言っているカイト、時空龍は立派に働いてくれた、だが私は貴様に負けた。私がもっと強ければこのような事にはならなかった……!」
「いいや、最強のドラゴン使いはお前だ。俺は弟とオヤジを救いたいその一心で光子竜を利用しただけだ。だがそのたった一枚のカードとの出逢いが俺を導き、俺をここまで強くした。俺は銀河眼に導かれ、遊馬、アストラルに出逢い、凌牙や沢山の仲間にも出逢い、そしてお前に出逢う事が出来た」
カイトも地球にいるであろう仲間を思い浮かべているのだろう、赤黒に染まった地球を見乍ら、ハルトの手を取り話を続ける。
「そいつらは孤独で誰も信じる事が出来なかった俺に人を信じる力を教えてくれた。なぁ、ミザエル、もし次に出逢える事があったならお前に何があったのか聞かせてくれないか?」
「ああ、カイト。約束だ」
決闘が終わったためスフィア・フィールドの壁は崩壊を始めている。
そしてミザエルが約束通りカイト達を人間世界に送り届けるゲートを作り出そうとしたとき、時空龍が浮かびあがり声を響かせる。
「ヌメロン・ドラゴンは手に入らなかったか、まあいい、その魂と力だけは貰おう」
無情にも声が響く。
時空龍より溢れ出した闇がミザエルを飲み込み始めた。
「ミザエル!」
カイトがミザエルを助けようと近づこうとする。
「来るなカイト、お前が行くべき場所は他にある」
ミザエルは闇に飲まれつつも最後の力を振り絞り地球へ戻る事の出来る扉を開いた。
場所を決めずにただ適当に扉を開いただけではあるがそれでもこの場所に居ない方がいい事だけは確かだ。
「貴様には未来を信じる仲間が居る筈だ、こいつは私がここで足止めする、だから」
「ミザエル!」
「いいから、さっさといけぇ!」
「くっ、すまない。行くぞハルト、オービタル」
2人とオービタルがゲートをくぐったのを確認しミザエルは自らを飲み込もうとしている闇を見る。
黒く深い闇の底、人のような形をしたものが蠢いている。
それは光の届かない底より徐々に上って来る。
大男だ。
その身より溢れ出すは勝利への渇望と己の野望を成就させることのみを考える意思、近くにいるだけで動悸が早くなり冷や汗が止まらなくなるほどの圧迫感、ベクターと比べ物にならないその身に宿るカオス、それははまさに最強と言っても過言ではないだろう。
ドン・サウザンドはミザエルを飲み込まんとする闇より上半身を出しミザエルを見下している。
「貴様がドン・サウザンドか!」
「ああ、我が貴様らの神だ。そして敗者ミザエル、貴様の魂を貰い受けに来た」
「そう簡単に渡せるものか!」
ミザエルは決闘盤を構える。
時空竜は神影龍との衝突で対消滅を起こしているがまだ自分のデッキにも闘える手段は残っている。
そして体の消滅は遅く2ターン程度ならば決闘できるだろう。そう考えていた。
「そうか、ならばちょうどいい、ヌメロン・コードがもたらす最強の力を貴様で試してやろう」
ドン・サウザンドも決闘盤を構築し構える。
そして共に叫ぶ。
「「決闘!」」
今、月で最後の決闘が始まった。
●
「ベクターッ!!」
ナッシュの叫びがバリアン世界に響いていく。
立ちふさがるバリアン兵を消し飛ばし、ただひたすらにベクターの待つバリアン城へと飛翔する。
バリアン七皇の拠点だったバリアン城へと突入してもその速度は変わらない。
ナッシュは自分の体がどうなろうともそれを捨て、部屋や大広間の壁をぶち破り玉座のある部屋へとたどり着いた。
玉座にはベクターが真月の姿でふんぞり返って座っている。
その身に宿した4人分の高密度のカオスに酔いしれ、眼は何も守れなかったナッシュを嘲笑っている。
「会いたかったぜぇ、ナッシュ!」
「貴様、よくもドルベとメラグを!」
「ああ、ギラグもアリトも、そしてもうじきミザエルも全て俺様の腹の中さ、そうすればあとはお前だけだ!」
見せびらかす様にベクターの手の中に4枚のオーバーハンドレッド・カオス・ナンバーズが生まれる。
それを使っていた主はすでに食われ今ではベクターの力を鼓舞する道具でしかない。
ナッシュは拳を握り殺意を込めカオスでベクターのいる空間を打撃する。
だがベクターは笑い声を反響させバカにしながら宙を飛び、華麗にそれを避けて見せる。
その得意げな表情がナッシュのカオスを更に高めていく。
「ベクター、貴様だけは、俺はこれほど誰かを憎いと思った事はねえ!」
「グチグチ話していてもしょうがねえ! 俺達の勝負に決着をつけるのは決闘だけだ、そうだろう?」
ベクターの姿は人間からバリアン人へと変貌を遂げていく。
灰色の肌、堕天使のような翼がぞぶりと薄気味の悪い音を立てながら広がり、蛾の翅の様な決闘盤が構築される。
もはや語る言葉など無い。
互いに相手を殺そうとするカオスが相克を成し玉座の間を浮かび上がらせていく。
翼の無い物が立ち入れない空中の牢獄で、生前にナッシュがベクターを討ったコロッセオに似た場所で因縁に決着をつけるべく始まりが叫ばれる。
「「決闘!!」」
●
「先攻は俺様だ、ドロー!」
ベクターは勢いよくカードをドローする。
そして思考を巡らせる。
彼が考えるのはメラグとドルベの戦いで彼が使ったカードだ。
―――増殖するG、ドロール&ロックバード、スカル・マイスター等の手札誘発カード、どれも俺様の行動を封じさせようとするものばかりだ、確実にそれらを奴は持っているはずだ。だとしたら。
「まーず、仕込みを始めるぜ! 運命の宝札を発動、出目は当然6、よって俺はデッキから6枚ドローし6枚を除外する」
「くっ……!」
ドン・サウザンドが何処かに行ってしまっているがベクターもヌメロン・コードの力を使う事で出目の操作ぐらいは出来るのだ。
それに対しナッシュは悔しげに眉を中央に寄せ考え込む様子を見せる。
「おんやぁ? ナッシュゥ、ドロール&ロックバードを使わないのかぁ?」
「ちっ!」
「あっ、そっかぁ、手札に増殖するGがあるから使わない気かぁ、だったら俺はまず毒蛇神ヴェノミナーガを墓地に送りダーク・グレファーを特殊召喚、そしてインフェルニティ・デーモンを墓地に送りダーク・グレファーの効果発動!」
「俺は手札からエフェクト・ヴェーラーのモンスター効果を使う、効果を無効にする!」
「だったら終末の騎士を召喚。終末の騎士の効果でデッキよりヘルウェイ・パトロールを墓地に送るぜ」
レベル4のモンスターが2体揃う状況、もしかしたらエクシーズ召喚を行なわないかもしれないという希望を託し手札からカードを引き抜く。
「くっ、俺は手札から増殖するGを使う、相手が特殊召喚するたびにデッキから一枚ドローする」
「はん、ここで使ったか、だったら俺様はレベル4、闇属性モンスターのダーク・グレファーと終末の騎士でオーバーレイネットワークを構築!」
赤と黒の渦の底より放電が周囲の大気を焼きながら?型の鍵が浮上する。それは周囲のカオスにより受肉し金の躰に赤黒のラインの入った甲虫が姿を見せる。
それはベクターの九十九遊馬を罠に嵌める為に使ったナンバーズの偽物だ。
「エクシーズ召喚、現れろ! iNo.66覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル! そしてテイクオーバー5を発動、デッキより5枚を墓地に送る」
ベクターは墓地に送るカードを見る。
インフェルニティ・ネクロマンサー、インフェルニティ・リベンジャー、インフェルニティ・ガーディアン、DDD反骨王レオニダス、絶対王バック・ジャックの5枚が墓地に送られる。
「そしてカードを5枚伏せてっと、俺が伏せた一番右端のカードを指定しマスター・キー・ビートルの効果発動、オーバーレイユニットを使い対象としたカードをあらゆる破壊から守る!」
オーバーレイユニットを取り込んだ覇鍵甲虫の角より溢れた光がベクターの場に伏せられたカードへと降り注ぐ。
そしてその動きに対してナッシュは動きを見せない。
「ほう、何も発動しないか、俺様はこれでターンエンド」
ベクター場 iNo.66 覇鍵甲虫マスター・キー・ビートル ATK2500 (ORU1)
LP4000
手札1 伏せ5
ナッシュ場
手札4
LP4000
「俺のターン、ドロー! 俺はサイクロンを発動、お前の左端のカードを破壊する!」
「ちっ」
ナッシュの引いたカードは即座に発動され竜巻はベクターの伏せたカードを撃ち抜いた。
破壊されようとしているのは神の宣告、ベクターの場を守る重要なカードであるが今、このカードを発動させる意味などない。
―――さてどうするか。
ベクターは考える。
このサイクロンから神の宣告を守るカードはあるのだ。だがこの先の事を考える。
勝つために何をすればいいのか、この場でこのカードを止めるメリットがあるのかを考え、そして結論を出した。
「チェーン、無しだ」
「そして俺はRUM―七皇の剣を発動!」
ベクターも見慣れた七つ星の輝き、その中より白く輝く箱舟が搭乗しようとしている、だがそれを通すわけにいかないベクターは覇鍵甲虫の篭によって守られたカードを開く。
「馬鹿が! 俺は永続罠、虚無空間を発動! これでお前はカオス・オーバーハンドレッドナンバーズを特殊召喚できない!」
今の状況で他のカードが破壊されようともチェーンサイクロンされようとも虚無空間は破壊されない。
つまりはこれでナッシュは特殊召喚できず、ナッシュのデッキにあるのはただの展開力だけが優れただけのまさしく雑魚の群れとなる。
そうすればあとは攻撃し続ければ自分の勝ちは確定したも同然だ。と笑みを浮かべるベクターだったが、
「それはどうかな、俺は手札より速攻魔法、シャーク・スパークを発動!」
発動されたカードによってその笑みは崩れ去る。
「このカードは相手が罠カードが発動した時、このカードを手札から墓地へ送って発動する。その罠カードの発動と効果を無効にし破壊する! マスター・キー・ビートルの効果はカード効果で破壊できないだけだ、カードの発動と効果を無効にさせてもらう!」
「な、なんだと、罠カードの発動と効果を無効にする速攻魔法だと、インチキ効果もいい加減にしろ!?」
ナッシュの場にカウンター罠が存在していない状況、発動と効果を無効にされることは無いと踏んでいたベクターは驚愕する。
そして虚無空間は発動と効果と無効にされ墓地に送られてしまう。
「これで特殊召喚が可能だ。現れろ、CNo.101! 満たされぬ魂の守護者よ、暗黒の騎士となって光を砕け! S・H・Dark Knight!」
箱舟より射出された暗黒騎士、その姿にナッシュは威圧されるも、弱みを見せたくないがゆえに余裕のある姿を見せる。
「更に俺は手札よりエクシーズ・トレジャーを発動!」
「だがそれを待ってたんだ! 俺は手札より魔法カード、デュアル・ゲートを捨てカウンター罠、封魔の呪印を発動、ナッシュ、お前はこれでエクシーズ・トレジャーを使えない!」
「なんだと、サイクロンかシャーク・スパークに使わずにこのカードに発動させるだと!?」
「俺様だってなぁ、見るだけで吐き気がして、声を聴くだけで虫唾が走るような生理的に大っ嫌いなお前でも決闘の実力だけは買ってんだぜ。お前は何らかの方法か、次のターン辺りで虚無空間を無効にして大量展開してくるに決まってる、だったら手札補充させるカードを潰してしまう方がずっと楽に勝てるもんなぁ!」
ナッシュが今までの決闘で使った手札補充のカードは貪欲な壺とエクシーズ・トレジャー、そして増殖するG、そしてサルベージぐらいだ。
つまりエクシーズ・トレジャーを止めてさえすればデッキからの大量ドローできなくなる、そうすればあとはなぶり殺しにするだけだ。
そう考えていたのだが、ナッシュの殺意はその予測を大きく上回る。
「俺は魔法カード、命削りの宝札を発動!」
「なんだと!? まさかテメエも!?」
「そう、俺はお前を殺すと誓った、そのためならば敵の力だって取り込んで見せる、俺の最高の仲間、ドルベのように!」
「馬鹿め、ドルベと同じようにお前もドン・サウザンドの力で魂までも汚されるぜ!」
「構わない! バリアン七皇が崩壊したのも、璃緒が死んでしまったのも全ては俺に力が無かったせいだ、だからこそ、だからこそどんなに汚され様ともベクター、そしてドン・サウザンド、お前らは俺と共に地獄に落ちてもらう! 俺はデッキから5枚ドローする!」
命削りの宝札からは黒紫の呪詛が溢れ出す。
それはナッシュの手を通じて魂を凌辱していく。それは強烈に不快で肌を掻き毟りたくなるほどの物だろう。
ましてや敵が創造し使ってきたカードなんて普通の人間は使わないだろう、だがナッシュはこの決闘に勝つために使う。
命などどうでもいい、誇りも何も捨て、ただひたすらに仲間の敵を討つためだけになりふり構わずベクターを殺しにかかる。
「俺は大嵐を発動、お前の場のカード全てを破壊する!」
「最後の詰めが甘めぇぞナッシュ、俺はスターライト・ロードを発動、大嵐を無効にしエクストラデッキよりスターダスト・ドラゴンを特殊召喚するぜ!」
「ならば! 俺は魔法カード、インフィニティ・トゥースを発動、このカードは相手の場のオーバーレイユニットの数だけデッキより墓地に送りデッキから1枚ドローできる」
今、ベクターの場にあるオーバーレイユニットは1つ、よって一枚を墓地に送りデッキより一枚ドローする。
―――仕込みは終わった、あとは、
「更に運命の宝札を発動!」
サイコロの出目は5、よって5枚ドローし5枚を除外する。
すでに右手と決闘盤をつけている腕からは浸食が始まっている。だがナッシュの覚悟は揺らがない。
「魔法カード、モディファイ・ディープブルーを発動。場のモンスターエクシーズを除外しデッキからそのランクと同じレベルのモンスターでエクシーズ召喚を行う、俺が除外するのはお前の場のマスター・キー・ビートルだ!」
ナッシュが発動した魔法カードより泡が溢れ出す。
その泡は覇鍵甲虫を包み隠しナッシュのデッキより魚達を呼び出した。
「そして俺のデッキよりライトハンド・シャーク、サイレント・アングラー、スピア・シャークでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」
エクストラデッキより抜かれる手の赤黒の侵食の速度はさらに早まる。それは当然だろう。
ナッシュが手にしたカードより更なる力が流れ込んだからだ。
魚達が飛び込んだ渦の底、四方体が数枚浮かび上がり不気味な天使の姿を構築する。
「うぉおおおお! 現れろ、iNo.16色の支配者ショック・ルーラーッ!」
「ここでショックルーラー、だと……!」
「そしてショックルーラーの効果発動、オーバーレイユニットを使い魔法カードをお前のターンのエンドフェイズまで発動できなくさせる!」
―――次のターンの為に魔法を封じてきやがった!
ベクターはその行動の真意を読む。
今の行動はベクターが先ほどのテイクオーバー5で送ったカードやバック・ジャックで操作したデッキトップにこの攻撃オーバーレイ防ぐ手立てがあるとでも考えたのだろう。
だからこそ魔法カードを封じて手札補充をさせず、あの手札にある水霊術―葵で最初のドローカードを潰し、スカルマイスターでテイクオーバー5を封じるという所だろう。
残る懸念は2枚のカードだが和睦のような身を守るカードか増殖するG、神の宣告のようなカードだろうと予測はする。
いつもこちらが立てた計画の上を行くナッシュを憎たらしげに思いながらも次に相手が行いそうな行動を予測しつつベクターは虎視眈々とチャンスを窺う。
「そしてDarkknightの効果発動、お前のスターダスト・ドラゴンをこのカードのカオス・オーバーレイユニットにする! ダーク・ソウル・ローバー!、そしてバトルフェイズ!」
「この瞬間を待ってたぜ、俺様は墓地にあるバック・ジャックのもう一つの効果発動、子のカードを除外しデッキから1枚をドロー、そしてそれが罠カードならば手札より発動できる、俺は永続罠、属性重力-アトリビュート・グラビティをセット、そして発動できる」
場に折角出したスターダスト・ドラゴンを吸収されようともベクターの余裕は崩れない。
そして得意げに即座に発動した永続罠の効果を説明し始める。
「このカードは攻撃表示モンスターは必ず攻撃しなければならない。相手フィールド上に攻撃モンスターと同じ属性のモンスターがいる場合、そのモンスターを攻撃しなければならないってだけのカードさ、さあナッシュ、来いよ」
「何を考えているかは知らないがこれで壁は居なくなった、バトルだ! ショックルーラーで直接攻撃!」
異形の天使より放たれた電撃がベクターへと襲い掛かる。
「攻撃宣言時、永続罠、デステニー・ブレイクを発動!」
「そのカードはカイトの!」
その電撃はベクターの前で一度せき止められる。
立ちふさがるはナッシュが切り捨てた友のカードだ。
「そう、このカードはお前の仲間の、いや違ったか、お前が絆を断ち切った元、お仲間のカードだ、効果は分かるよなぁ、デッキから1枚ドローしモンスターカードならば攻撃を無効にし、そして、バトルフェイズ終了時にこのカードを破壊しドローしたモンスターカードを特殊召喚する、この決闘においてこれが何を意味するか分かるよなぁ」
ドローカードを自由に選べるこの決闘に置いてこの効果は攻撃の無効という結果しかもたらさない。
そしてベクターが発動した永続罠が攻撃を強要する。それによって確定される結末はただ一つ。
「ドロー、当然モンスターカード、インフェルニティ・ドワーフだ」
「ちっ、俺は更にDarkknightで攻撃だ……」
「当然、デステニーブレイクの効果だ、ドローしたカードはモンスターカード、
「俺はバトルフェイズを終了させる……」
「この瞬間、俺様の場に新たなモンスターが2体、特殊召喚される!」
2体のモンスターがベクターの場に現れる。
そしてDarkknightの効果はすでに使用されており使うことは出来ない。
ナッシュは不気味な笑い声を吐き出す赤紫のモンスターを睨み付け、
「ちっ、俺はレフトハンド・シャークを召喚、そしてカードを2枚伏せてターン、エンドだ」
ナッシュ場 iNo.16 色の支配者ショックルーラー ATK2300 (ORU2)
LP4000 CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU2)
手札2 レフトハンド・シャーク ATK1300
伏せ2
ベクター場 DT―ナイトメア・ハンド DEF0
LP4000 インフェルニティ・ドワーフ DEF500
手札0 属性重力-アトリビュート・グラビティ
「俺のターン、ドロー! ……何もないか?」
レフトハンド・シャークを召喚してきたと言う事はナッシュの伏せの1枚はは水霊術―葵で間違いない。
ベクターがそれを聞くも、
「メインフェイズまで何もない」
「おんやぁ、どーしよっかなぁ? まあいいや、俺は墓地からテイクオーバー5のもう一つの効果発動、同名カードをデッキ、手札、墓地より除外しデッキから1枚ドロー」
「させるか、俺は手札よりスカル・マイスターの効果発動、墓地で発動するカード効果を無効にする!」
ナッシュはベクターにドローされるのを嫌い当然潰しにかかる。そして、
「ちっ、まあいいや。俺もそのままメインフェイズに入るぜ」
「この瞬間、レフト・ハンドシャークをリリースし水霊術―葵を発動! ベクター、お前の手札を捨ててもらう!」
「捨ててもらぅ? ああ捨ててやるよ、お前の伏せカードを割ってからなぁ! 手札のサイクロンを発動、残った伏せカードを破壊する!」
「ちっ、俺は和睦の使者を発動、このターン、お前は俺にダメージを与えられない!」
これで伏せは無くなった。ここまではベクターの予想通りだ。
全てがベクターの筋書通りであり、ここから起こる事の全てがベクターの掌の上でしかない。
「レベル10のチューナーモンスターとレベル2のモンスター……レベル12で素材指定されたモンスターなんかいたか? いや、だが、俺は手札から増殖するGの効果発動!」
「いくら小細工をしようがもう無駄なんだよ、ナッシュ! 亡者の声を聴きな!」
ナイトメア・ハンドの赤紫色の体がぼこりぼこりと嫌な音を立てながら膨張していく。
内部に貯えられるのは今、バリアン兵となっている人間達のこの惨状に対する恨みや理不尽に対する怒りの感情満ち満ちている。
同時に今を生きている者に対する、お前もこちら側に堕ちろという妬みの感情が溶け合い熟成され黒い闇を作り上げていく。
「俺はレベル10のDT-ナイトメア・ハンドにレベル2のインフェルニティ・ドワーフをダークチューニング!」
落下していくナイトメア・ハンドの体が破裂し10の星が空へ駆け上がり噴出した闇と共に生贄となったドワーフへと襲い掛かる。
蹂躙する様に内部へと侵入した星はドワーフの持つ2つの星と対消滅を引き起こしながら膨れ上がりマイナスの星が闇の中を踊る。
互いに力を増幅し合いながら負の感情をかき集めマイナスの星が輝きを増し、
「漆黒の帳下りし時、冥府の瞳は開かれる。舞い降りろ闇よ、ダークシンクロ!」
闇の様に深い黒の体、紫色に蠢く100の瞳、人間のように長い手足をゆっくりと動かしながらその龍が咆哮する。
「出でよ! レベルマイナス8、ワンハンドレッド・アイ・ドラゴン!」
●
―――毎回思ってるけど、これは俺が好きな決闘とは違うよなぁ。
裕は飛行船に飛び乗って来たバリアン兵との決闘に勝利して休憩を取っていた。
裕が立っているのは飛行船の甲板だ。足元には敗北し消滅したバリアン兵のデッキが散らばり足の踏み場もない。
周りを見れば遊馬達が戦っているのが見える。その中で異色を放つのは最上だ。
満面の笑みで禁止令からのガトリングオーガの効果を連射し5人のバリアン兵を同時に葬っている。
穴だらけになり消滅していくバリアン兵に凄く満足げで楽しそうに笑い声をあげる最上、そこから目を逸らし床に散らばったカードを拾い集める響子を見る。
散らばったカードは響子の手が触れる度に吸い込まれるように響子の体に吸収されていく、リペントに聞くとカオスに分解し食しているという事らしいのだがカードを吸収するだのと裕は話についていけない。
今現在、遊馬達はバリアン城のすぐ傍まで来ている。
だが肝心の凌牙を裕達は見失っていた。
凌牙とメラグとドルベが決闘をした後、凌牙が即座に移動を始め、それを飛行船で追うもバリアン兵がビルの屋上から飛び降り飛行船に乗り移ってくるという荒業を見せ時間を取られ凌牙の姿を見失ってしまったからだ。
「ここがバリアン城か、どっかにあいつが居るのかな」
デッキの最終調整をしつつ裕がもう一人の自分へと思いを馳せていると小鳥が最後のバリアン兵を倒した。
甲板にはバリアン兵の姿は無く、遊馬達はようやく安堵の笑みを見せる。
最上でさえも一息ついて水を飲もうとしていた。
そんな誰もが気を抜いた時だ。
1つの叫びがバリアン城より響いたのは、それは獄の底、亡者の叫びを伴った低い龍の咆哮だ。
―――あの声は、もしかしてダーク・リベリオン!?
裕が真っ先に甲板へと走り危険だと分かっていつつも縁をしっかりと掴んだ上で大きく身を乗り出し下をのぞき込む。
それにつられる様に皆が甲板の縁より下をのぞき込んだ瞬間、もう一つの龍の咆哮が響いた。
その咆哮と共に叩き込まれたのは黒いエネルギー砲だ。それは飛行船に直撃し船を傾けた。
「うわっ!?」
縁をしっかりと掴み踏ん張る者、黒紫の糸で捕まる者が居る中、咄嗟の出来事で気が動転した裕はバランスを崩しはるか下の地面へと落ちかけていた。
響子が糸を寄越してくれるも龍の咆哮と共にもう一撃が叩き込まれ、飛行船を大きく打撃し、今度こそ裕の体は完全に飛行船の外へ投げ出されていた。