クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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再演 下

ドルベ・メラグ場  iCNo.104仮面魔踏士アンブラル ATK3000 (ORU1)

          神樹の守護獣―牙王 ATK3300

          CNo.103神葬零嬢ラグナ・インフィニティ ATK2800 (ORU2)

          No.23冥界の霊騎士ランスロット ATK2000 (ORU1)

          スチーム・トークン DEF100

LP3600       シュトロームベルクの金の城

手札1・0   

 

ナッシュ場  

LP900   

手札1   

 

「俺のターン、ドロー! 俺は墓地のブレイクスルー・スキルの効果発動!」

 

「ランスロットの効果発動、オーバーレイユニットを使い効果を無効にする!」

 

「だがお前達が墓地を増やしてくれたおかげで俺の墓地は肥えている、俺はもう2枚のブレイクスルースキルを発動、アンブラル、ラグナ・インフィニティの効果を無効にする!」

 

 霊騎士に両断されたのと同じ白い腕が再び伸ばされる。

 その腕は真っ直ぐに魔踏士の、令嬢の頭を押さえ、地面へと叩きつけた。アンブラルは必死に身悶えし錫杖よりエネルギー波を叩きつけるも、令嬢の大鎌で白い腕を切断しようとするが固い鱗に弾かれ、その拘束は解けることは無い。

 

「これで俺の行動を封じるカードは無くなった! 俺はダブルフィン・シャークを召喚、召喚時効果で墓地からサイレント・アングラーを特殊召喚する。そして俺は水属性、レベル4のサイレント・アングラーとダブルフィン・シャークの2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろ! ランク4、バハムート・シャーク!」

 

「私はこの瞬間、墓地から罠を発動」

 

「なんだと、この瞬間に罠カードだと!?」

 

 メラグの墓地より2枚のカードが浮かび上がった。

 それらは先ほどの巡死神リーパーの効果で墓地に送られたカード達だ。

 

「私の墓地に罠カード、ブラック・ウィングが2枚以上存在するとき、この2枚のカードを除外し私の場のシンクロモンスターと相手の場のモンスターを破壊し、破壊した相手モンスターの攻撃力分のダメージを相手に与える! これで終わりよ、ナッシュ!!」

 

 牙王とバハムート・シャークへと墓地より吹き上がる鋭い切れ味の黒羽の渦が接近していく。

 バハムート・シャークは必至で回避しようとするが逃げきれず回り込まれ、羽の群れに飲まれた。

 そのまま2体の姿は黒羽の渦に消え、ナッシュへと渦が襲い掛かる。

 それの中へとナッシュの姿は消える。それを見、メラグは確かに勝利を確信していた。だが、

 

「な、なぜ」

 

 黒く全てを切り刻む羽の渦が徐々に何かによって吸い込まれていくのだ。

 それはナッシュを守る様に宙に身を躍らせる紫色の鮫が渦を全てのみ込んでいた。

 

「俺は墓地からドリーム・シャークの効果を発動したのさ、効果ダメージが発生したとき、このカードを特殊召喚し効果ダメージを無効にする!」

 

 ナッシュは予想外の一撃に冷や汗を拭いながらドローしたカードを見、

 

「俺は墓地からゲイザー・シャークの効果発動、このカードを除外しレベル5の水属性モンスターを2体特殊召喚し水属性のモンスターエクシーズをエクシーズ召喚する、俺はイーグル・シャークとパンサー・シャークでオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 2体の鮫が墓地より天に渦巻く銀河へと昇っていく。

 その中より吹き上がるのは清らかに浄化された水の奔流だ。

 その中でひときわ輝く蒼色のモニュメントは変形を始める。

 

「現れろ、No.73! カオスに落ちたる聖なる滴。その力を示し、混沌を浄化せよ! 激瀧神アビス・スプラッシュ! 更にエクシーズ・トレジャーを発動、場には4体のモンスターエクシーズ、よって4枚ドローする!」

 

 デッキは残り2枚となるのを気にも止めずナッシュは勝つためにカードを引く。

 

「バトルだ、アビス・スプラッシュでアンブラルを砕け!」

 

「馬鹿か! シュトロームベルクの金の城の効果で破壊されるんだぜ!」

 

「馬鹿はお前だ、ベクター! 俺は速攻魔法、禁じられた聖槍をアビスに使う、これで攻撃は続行される!」

 

No.73アビススプラシュ ATK2400→1600 VS  iCNo.104仮面魔踏士アンブラル ATK3000 

 

「ダメージステップ、アビス・スプラッシュの効果発動、オーバーレイユニットを使い攻撃力を倍にする! ベクターを砕け、タイダル・フォール!」

 

 光を吸収したアビスの持つ錫杖へと轟々と音を立てながら水が収束していく。水は巨大な青いメイスへと姿を変えた。

 それだけの大質量を魔踏士が受け止められる筈が無く、叩き込まれた水のメイスの一撃を受け爆散した。

 

No.73アビススプラシュ ATK1600→3200 VS iCNo.104仮面魔踏士アンブラル ATK3000

破壊→iCNo104仮面魔踏士アンブラル

メラグ&ドルベLP3600→3400

 

「メイン2、俺はカードを3枚伏せる、そしてターンエンドだ」

 

ナッシュ場  No73アビススプラシュ ATK2400 (ORU1)

LP900    ドリーム・シャーク DEF2800

手札0     伏せ3

 

ドルベ・メラグ場  CNo103神葬零嬢ラグナ・インフィニティ ATK2800 (ORU2)

          No23霊騎士ランスロット ATK2000 (ORU1)

          スチーム・トークン DEF100

LP3400       シュトロームベルクの金の城

手札1・0   

 

                     ●

 

 ベクターは三人の最後の決闘を見届けていた。

 ナッシュが妹と親友をどうするのか、殺すのか、それとも殺されるのか。

どちらにしてもナッシュは苦しむだろう、それを思い浮かべるだけで笑いが止まらなかった。

 

「私のターン、ドロー!」

 

「この瞬間、俺はドリーム・シャークをリリースし水霊術―葵を発動、ドルベ、お前の手札を見せてもらう」

 

「くっ」

 

ドルベ手札→命削りの宝札

      RUM―七皇の剣

 

 ドルベの最後の残った手札を見、ナッシュは目を閉じる。

 

「ドルベ、俺は命削りの宝札を墓地に捨てさせる!」

 

「スタンバ」

 

「スタンバイフェイズに入る前に俺は罠カード、無謀な欲張りを発動、デッキから2枚ドローしドローフェイズをスキップする。これによって俺のデッキは0、よってシュトロームベルクの金の城の維持コストを払えなくなった!」

 

 音を立て崩壊していく黄金の城、それは王と騎士と巫女の決闘の最後を象徴するように薄気味悪い物だ。

 祝福か、呪いか、金の城の頂上に設置された鐘の音が場に、飛行船に居る皆の心へと届く中、ドルベはまだ諦め居ないと動く。

 

「ならば私は墓地のテイク・オーバー5の効果を発動させる、私の墓地とデッキのテイクオーバー5を除外し」

 

「手札からスカル・マイスターのモンスター効果発動、このカードをぼ墓地に送ることで墓地で発動したカード効果を無効にする!」

 

 ナッシュが放ったもう一枚のメタカードの一撃により最後のドロー手段を失い、ドルベは許しを請う様にベクターを見た。

 

「いいぜ、ドルベ。その方が面白そうだ」

 

 ドン・サウザンドがいるならば止めるように指示を送る。

 今、ベクターの体にドン・サウザンドは居ない。

 またしても何処かへと行ったのだろう。

 

―――ここらが潮時だな、向こうも俺様を切り捨てにかかるだろう、だが最後に笑うのは俺様だ

 

「私はRUM―七皇の剣を発動、私はNo.103光天使グローリアス・ヘイローを特殊召喚し、カオス・エクシーズチェンジ、来るがいいCNo.103光堕天使ノーブル・デーモン!」

 

 七つ星より現れた光天使はその体色を黒青に染め、悪霊を纏いながら敵を滅する存在へと堕ちていった。

 敵を無力化し、抗いを許さない滅撃の槍へとカオス・オーバーレイユニットを吸収、強化し、アビスへと投じた。

 

「ノーブル・デーモンの効果発動、カオス・オーバーレイユニットを使い相手モンスター、アビス・スプラッシュの効果を無効にし攻撃力を0にする!」

 

「俺は墓地からスキル・プリズナーの効果発動、その効果を無効にする!」

 

「だったらその上から墓地のブレイクスルー・スキルの効果を発動、アビス・スプラッシュの効果を無効にする!」

 

 悪霊を纏う巨大な光の槍は光の膜によって弾かれ明後日の方角にある建物へと突き刺さりその建物周辺を消滅させる。

 一息つくアビスの背後より魔踏士と令嬢を押さえつけた白い竜の腕が伸びアビスを押さえつけた。

 これによってダメージステップに入りラグナ・インフィニティの効果範囲から逃れることは出来なくなった。

 

「くっ」

 

「更にノーブル・デーモンの効果発動、このカードのカオス・オーバーレイユニットが無くなった時、相手に1500のダメージを与える!」

 

「俺は永続罠、エクシーズ・チャージアップを発動、このカードは効果ダメージが発生した時に発動でき、その効果ダメージを0にする!」

 

 このカードを墓地へ送る事で自分フィールド上のモンスターエクシーズ1体の攻撃力はこのカードの発動時に発生した効果ダメージの数値分アップするという追加効果があるのだが、その効果を使った瞬間にラグナ・インフィニティの効果が発動しナッシュは敗北が決まる。

 

「だったらバトルだ、ノーブル・デーモンでアビス・スプラッシュを攻撃!」

 

 光堕天使は悪霊を嗾ける。

 アビスは聖なる津波でそれを浄化させるが数が多い。四方八方より無限に生み出され続ける悪霊の浄化に手間取り光堕天使の姿を見失ってしまう。

 周囲を警戒し首を何度も往復されるアビスの脳天、上空より飛来した堕天使の槍が叩き込まれた。

 

CNo.102光堕天使ノーブル・デーモン ATK2900 VS No.73アビス・スプラッシュATK2400

破壊→No.73アビススプラッシュ

ナッシュLP900→400

 

「ぐぅっあああああ!」

 

 爆風に吹き飛ばされるナッシュ、それを霊騎士が追撃する。

 

「ランスロットで直接攻撃!」

 

「俺は罠カード、デプス・ガードナーの効果発動! 俺が直接攻撃で受けるダメージを無効にしこのカードをモンスター扱いで特殊召喚する!」

 

「ならばラグナ・インフィニティでデプス・ガードナーを攻撃!」

 

 霊騎士の神速に達する剣を受け止めたアンモナイトに似たモンスターだったが令嬢の踊る様に振るわれる大鎌の連撃に耐え切れず切り捨てられた。

 

CNo.103神葬零嬢ラグナ・インフィニティ ATK2800 VS デプス・ガードナー DEF2000

破壊→デプス・ガードナー

 

「私はこれでターンエンド」

 

ドルベ・メラグ場  CNo.103神葬零嬢ラグナ・インフィニティ ATK2800 (ORU2)

LP3400      No.23霊騎士ランスロット ATK2000 (ORU0)

手札0・0      CNo.102光堕天使ノーブル・デーモン ATK2900 (ORU0)

          スチーム・トークン DEF100

   

ナッシュ場  

LP400    

手札1   

       

                      ●

 

 爆風でぼボロボロになりながらもナッシュは最後まで希望を捨てない。

 

「俺のターン、ドローフェイズはスキップされる」

 

「だがお前の手札は1枚、それで何が出来るっていうんだ!?」

 

 ベクターはこちらを煽る。

 だがナッシュはベクターの煽りを受け流し、

 

「俺は墓地のライトハンド・シャークの効果発動、俺の場にモンスターが存在しないとき、このカードを墓地から特殊召喚できる! 更に俺の場にライトハンド・シャークが存在するときレフトハンド・シャークを墓地、または手札から特殊召喚できる」

 

 墓地より跳ね上がる左右対称の鮫が場を泳ぎ回る。

 その2体の姿にベクターは度肝を抜かれるが、すぐさま表情は一点、安堵へと変わった。

 それはライトハンド・シャークはレベル4、レフトハンド・シャークはレベル3でありこのままではエクシーズ召喚できないからだ。

 

「脅かしやがって、そのカードのレベルじゃ、エクシーズ召喚は」

 

「それはどうかな、ライトハンド・シャークが自身の効果で墓地から特殊召喚されたときこのカードのレベルは4となる。俺はレベル4のモンスター2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 渦の中より現れるのはペガサスだ。

 白く純白に輝く翼、天と地を気高く主と共に戦場を駆けるであろう太い四肢、それらが勢いよく踏み鳴らされ、悲劇の舞台の幕を下ろすために現れた。

 

「現れろ、No.44! 悠久の大義よ、今こそ古の眠りから目覚め、天空を駆ける翼となれ、白天馬スカイ・ペガサス! そして墓地のゲイザー・シャークの効果発動、再びイーグル・シャークとパンサー・シャークを特殊召喚しオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

 渦を凍らせ、場に吹雪を巻き起こしながら巫女が降り立つ。

 氷の彫像のように美しい瞳は主を救う悲願に燃え、冷たい美貌とは裏腹に熱い情熱がある。

 

「現れろ、No.94! 氷の心をまといし霊界の巫女、澄明なる魂を現せ! 極氷姫クリスタル・ゼロ! クリスタル・ゼロの効果発動、オーバーレイユニットを使い相手モンスターの攻撃力を半分にする! 俺はラグナ・インフィニティとノーブル・デーモンの攻撃力を半分にする、ダブル・クリスタル・イレイザー!!」

 

 巫女はオーバーレイユニットを自分の体に取り込むと両手を高く天へと伸ばす。

 演奏が始まる前の指揮者の様に伸ばされた細い腕が勢いよく振り下ろされ、光堕天使と令嬢の足元が氷によって閉ざされた。

 

「バトルだ、スカイ・ペガサスでノーブル・デーモンを、クリスタル・ゼロでラグナ・インフィニティを攻撃!」

 

 2体のナンバーズはそれぞれの主を縛り付ける象徴へと飛ぶ。

 天馬は空を縦横無尽に駆け氷により半身が動かせない堕天使へと接近していく。

 巫女は令嬢へと氷の上を滑るように加速し続け接近する。

 

「取り戻せ、お前達の本当の心を!」

 

 本来ならば倍の量が放たれるであろう悪霊だが左半身が凍り付いているおかげか数は少ない、左半身に重点を置き何度も移動を繰り返しレーザーを浴びせかけ堕天使の傷を増やしていく。

 幾撃か堕天使の槍より放たれる悪霊が体を削り、槍の光がその見事な翼の羽を散らそうとも天馬の動きは止まらない。

 何度も何度でもチャンスを求め本来ならば勝てない敵に向かっていく。

 仲間がくれたチャンスをつかみ取る為に天馬は決定的なチャンスを求め、そしてその瞬間を見つけた。

 その隙を天馬は逃さない。

 天へと上り黄色の一筋の矢となり堕天使を貫いた。

 

No.44白天馬スカイ・ペガサス ATK1800 VS CNo.102光堕天使ノーブル・デーモン ATK1450

破壊→CNo.102光堕天使ノーブル・デーモン

ドルベ&メラグ LP3400→3050

 

 氷上を踊る巫女は月のように鋭い鎌を振るう令嬢と氷で作り上げた剣を打ち合わせる。

 踊る様に氷と鎌は撃ち合い澄んだ音を響かせ続けていく。

 巫女の両の手より振るわれる剣が振るわれるたびに氷の花が散っていき。令嬢の放つ斬撃は鋭い風切り音を響かせ二人の踊りを彩っていく。

 それは見ている者の目を奪い去り魅了してやまない素晴らしい物だ。

 だが踊りには終わりが来る。

 令嬢の握っていた筈の鎌が空に浮かぶ月に重なった。

 巫女の放った一撃が鎌を打ち上げたのだ。

 そのまま振り上げられる氷剣、それを見、令嬢は手を広げ、終わりを受け入れた。

 

No.94極氷姫クリスタル・ゼロ ATK2200 VS CNo.103神葬零嬢ラグナ・インフィニティ ATK1400

破壊→CNo.103神葬零嬢ラグナ・インフィニティ

ドルベ&メラグ LP3050→2250

 

 遺跡のナンバーズでカオス・オーバーハンドレットナンバーズを戦闘破壊したとき、ドン・サウザンドの呪縛から解放され本来の記憶を取り戻すことが出来る。

 その効果は即座に発動した。

 メラグとドルベはカオス・オーバーハンドレッドナンバーズの爆発に吹き飛ばされたすぐ後、正気を取り戻した。

 

「ナッシュ、私は」

 

 ドルベは起き上がり顔をくしゃくしゃに歪め後悔の表情を出す。

 

「いいんだ、ドルベ、メラグ。おまえ達が正気に戻れたのならばそれでいい、あとはこの決闘を終わらせるだけだ」

 

 バリアン七皇が敗者必滅の理から逃れ闘う力をつけるために編み出した両者が同時に中断を行う事により敗者を出さずに決闘を終わらせようとするのだが、それをベクターは許さない。

 

「おんやー言ってなかったっけぇ? この決闘はどちらかが負けるまで終われないんだぜ、さあナッシュ、次はどうするんだ、手札は0、墓地で発動できるカードは無し、あとはすることは1つしかないだろう?」

 

「くっ」

 

 メラグの手が勝手に動き始める。

 デッキトップを引こうとしているのだ。

 メラグ達の体はベクターとドン・サウザンドが再構築した肉体だ。それゆえにベクターが操る事も出来てしまう。

 

「止めろベクター!」

 

「さあメラグ、ドローしろ。そして愛しい愛しいお兄様にとどめをさせ」

 

 メラグの徐々に手は近づいていく。

 このままでは彼女はドローしたカードを発動させナッシュを殺してしまうだろう。

 そうしないためにはどうすればいいのか、それをメラグは思いついた。

 

「ナッシュ、ごめんなさい」

 

 メラグは兄の名を呼ぶ。

 自らが兄を縛る足かせでしかないと理解しドルベへと視線を向ける。

 必死でメラグの手を止めようとしているドルベは向けられた視線の意味を理解した。

 そしてゆっくりと首を縦に振り肯定を示す。

 それらの動きを見てナッシュは彼らが今何を想いなにをしようとしているかわかってしま

った。

 思いとどまれ、止めろという意味の言葉が次々にナッシュの口より漏れ出すも、

 

「ナッシュ、すまない。君がこうして私達を救ってくれたと言うのに私達にできる事はこれしかない」

 

 ドルベとメラグは共に手を取り、デッキトップへと手を伸ばす。

 ナッシュは親友と妹の元へと駆けだした。

 だがそれは遅すぎた。

 そして過去が再演する。

 

「「私はサレンダーする」」

 

 ナッシュの視界に赤黒の炎が噴出した。

 2人の体は赤黒の炎に舐めるように包み込まれている。その中で2人は微笑んでいた。

 殺さず、殺されずにすんでよかったとそう微笑みは語る。

 そして残されたナッシュはその場で座り込んでいた。

 自らの判断で大切な人を守れず、死に追いやり、兄を助けるために妹は自らの命を差し出し、親友に死ぬ原因を作ってしまった。

 全ては過去にナッシュが体験した出来事の再演で、全ての元凶はそれを仕組み上手く行ったと笑い転げているベクターだ。

 

「殺されるでもなく、殺すでもなく自殺しやがった。あいつら、本当に馬鹿だなぁあははははははっ!!」

 

「ベクター」

 

 宿敵の名を呼ぶナッシュの声はいつもの激情に満ちていない、平坦で無限に広がり続ける海の様に穏やかで澄んでいる。

 ただ静かに、殺したい相手の事だけを考え続け、自然と足は動いていく。

 妹と親友の魂が二人の後ろで発生た渦に取り込まれる光景を見てもナッシュの脚はベクターがいるバリアン城へと向かう。

 彼の中にあった最後の人間らしい記憶や感情は妹達の死によって深い深海の底へと姿を消し、たった一つの感情だけが彼に残った。

 

「絶対に、絶対にお前を殺してやる」

 

                       ●

 

「もう少しで月に到着するでアリマス!」

 

 月へ到着したカイトとオービタルはミザエルの到着を待っていた。

 来るべき戦いに備えカイトは父がロケットの内部に新しくカイト専用に開発したカードをデッキに入れ、デッキ調整を行っていた。

 

「そうか、あとはミザエルがいつ放送に気づくかだな」

 

 カイトが何気なしに呟いた言葉にオービタルが返答をしようとしたその時だ、この場にいないはずの声が聞こえたのは。

 

「大丈夫だ」

 

 オービタルとカイトはどうじに背後へと振り向く。

 そこにたっているのはいつもの暖かな笑みを浮かべたハルトの姿がある。

 どうしてここに、という考えをめぐらすよりも先、まず疑うべきは本物かという事だ。

 偽物という可能性は排除できず、オービタルは主に命じられるよりも先にハルトの体をスキャンする。

 

「身体的特徴、一致。バリアン反応、有り、カイト様、これはハルト様の偽物です! 体内より強力なバリアン反応がアリマス!」

 

「黙ってろ」

 

 ハルトより発せられた衝撃波がカイトを除くオービタルや周りの椅子を根こそぎなぎ倒していく。

 

「お前はいったいなんだ?」

 

 カイトは冷静に問う。

 それに対して帰ってきたのは微笑みだ。

 

「我が名はドン・サウザンド、この体を少しだけ操らせてもらっている」

 

「なんだと!?」

 

「まあ信じきれないだろう、今、この体を自由にしてやろう」

 

 ハルトの体より発せられる黒紫のオーラは消えハルトが弾かれるようにカイトへと飛び込んだ。

 

「兄さん!」

 

 カイトはいつもの条件反射で受け止め頭をなでる。

 体は恐怖からか、それとも別の感情からか、細かく震え続けてる。

 カイトはハルトを落ち着けるべく頭を撫で続ける。

 手触りも雰囲気もハルトである。だがそこまで精巧に模した偽物と言う可能性も捨てきれない。

 と、デッキより2枚のカードが呼応する様に光り始める。

 それらはハルトとのかかわり合いの深いカード、超銀河眼の光子龍と未来への思いだ。

 それらはハルトが本物だと言っているようにカイトは感じた。

 

「兄さん、僕」

 

「いいんだハルト、お前は何も悪くない」

 

 安心させるために微笑みかける。

 だが微笑みを向けたときにはハルトの表情に怯えは無く、無表情へと戻っていた。

 

「そういう訳だ、お前の立場を分かっただろう」

 

「このタイミングでハルトを人質にとったという事は」

 

「そう、お前がミザエルとの決闘に勝ちヌメロン・ドラゴンを手に入れたとき我にそれを渡せ」

 

―――ヌメロン・ドラゴン、それがヌメロン・コードを起動させる最後の鍵か。

 

 ドン・サウザンドより情報を必死で引き出しながらカイトは時間を稼ぎ何か手は無いかと考える。

 だがハルトをドン・サウザンドから救う手段は見つけられない。

 他人を犠牲にしてでも助けたかったハルトが再び命の危機に瀕しているというのにどうする事も出来ない。

 その苦悩の感情はカイトを嬲り尽くす炎となる。

 

「だが」

 

 時間を稼ぐべく、会話を長引かせようとするカイト、その言葉を遮りドン・サウザンドは先手を打つ。

 

「勿論、貴様が負けると言う可能性もある、貴様が負けた場合は可哀想な弟はこの船で1人孤独に震えながら、自分を呪いながら死ぬだろう、兄の足を引っ張った愚か者の自分をな」

 

 ハルトの性格を考えればそうなる事が軽く予想できる。

 カイトは黙り、無駄だと分かりつつ確認する。

 

「俺が勝ち貴様にヌメロン・ドラゴンを渡せばハルトの体から出て行くのか?」

 

「ああ、出て行くかもしれないな」

 

 かも、と言った。

 出ていくかもしれないし出ていかないかもしれないという事を匂わす台詞だ。

 最悪の場合、ヌメロン・ドラゴンを渡した次に遊馬達を襲えと言うだろう。

 すぐさまその提案を飲むことは出来ない。故にカイトは時間を稼ぐしかない。

 何かないかと思案し、口を開く。

 

「お前は何がしたいんだ?」

 

                    ●

 

 カイトの言葉にドン・サウザンドは懐かしさを得ていた。

 アストラル世界で戦い、勝ち続ける日々の中で敗者より恐怖と僅かなあこがれの感情を向けられながらその言葉をよく聞いたからだ。

 そしてその言葉を無視する事も出来る、カイトが時間稼ぎを行い、来る可能性は0ではないがほぼ0に等しい救援を求めているのも理解できる。

 だがドン・サウザンドはその先にある物を得るためにカイトの時間稼ぎに付き合う事にした。

 

「我はただ勝利が得たいだけなのだ、どのようにしてアストラル世界に上る事が出来たのかは覚えておらん、ただこの体と精神は勝利のみを渇望していた。何よりも勝利が欲しい。食事よりも睡眠よりもただ勝利を欲していた」

 

 ポツリ、ポツリとドン・サウザンドは過去の記憶を思い出す。

 

「他人よりも強く、誰よりも、何よりも強くなりたい、それだけが我の望みだった」

 

 自分と言う者が作り上げられたとき、周りには何もなかった。ただひたすらに渇望のみがあり、そこより自我が生まれたのだ。

 

「あの男の記憶を見なければ我はこの世界だけで満足していただろう、だが我はまだ世界がある事を知った、別の神が存在し決闘とは違う永久不変の理の世界がある事を知ったのだ」

 

 あの記憶は素晴らしい、とドン・サウザンドは賞賛した。

 まだ見ぬ世界、まだ見ぬ世界の理が広がっている事を喜んだ。

 

「我はあの世界、いやすでに存在している12次元やあの男どもが来たであろう別の世界へと行きたいのだ。そして全てに勝利する。勝つ、ただそれだけが我の望みだ、それ以外に何もない。その為ならば我が負ける要因は全て排除させてもらう。自分が勝つために全力をつくし妨害を施し、相手も自分が勝つために相手の勝利する望みを砕き、全力を尽くし、勝利を掴むために行動する。それが本当の勝負と言うものであろう。それなのにあの場所にいる奴等がやっているのはなんだ? たかが命を懸けただけの遊戯でしかない」

 

 命を懸けて戦っている仲間を侮辱された事に怒りを感じたのだろう、カイトはこちらへとつかみかかる、

 だがこの体のことを考え手が止まる。

 

「遊戯だと!」

 

「そう遊戯だ、言い換えるならばただの遊び、児戯でしかない、あの場所にいる者の中で一番、戦っているといえるのはあのイレギュラーだろう」

 

「イレギュラーだと?」

 

「そう、自分の思想を他人に押し付ける事しかできず、決闘者として一番必要な能力を持たず、あの場にいる資格すら持たないあの男だ。あれが一番まともに戦っているといえるだろう」

 

―――力を望み、手に入れるまで努力をし続ける事をしない時点でカスではあるがな。

 

 ドン・サウザンドはそう水田裕を評価する。

 

「どう言うことだ?」

 

 カイトの問いにドン・サウザンドは答えず、時間稼ぎに付き合う事を止めた。

 

「絆が力になる、それはそうだな。それは認めよう」

 

 感情のままに力を振るうバリアン世界の神は感情が力になることを認めた。

 自分自身も勝ちたいという感情が根幹にある以上それを否定はしない。

 

「この圧倒的に追い詰められた状況で我にヌメロン・ドラゴンを渡せばどうなるかよく分かっている、そして仲間を思い必死で策を見出そうとしている、素晴らしい」

 

 ドン・サウザンドは床に転がる機械を、バリアンの力で動いているそれを指差し、

 

「そこのそれ」

 

「お、オイラでありますか!?」

 

「そう、お前だ」

 

 見、力を送り込む。

 膨大で制御できない程度のエネルギーを送り込み機械の四肢と言える部分を、首、体よりスパークさせた。

 オービタルの体の中で暴れ狂うエネルギーはオービタルの体を破壊していく。

 

「オービタル!?」

 

「そして破壊を無かった事にする」

 

 オービタル7という機械が暴走するエネルギーを抑えぎ切れずバラバラになったと言う結果をヌメロン・コードより無理矢理に引き出した力を持ちい、百万分の位置よりも低い確率で発生した暴走しそうなエネルギーを制御できたという結果へと塗り変えた。

 オービタル7が崩壊した記憶だけはワザとカイトに与え、指を一本伸ばし更に言葉を続ける。

 

「所詮は命の宿らぬ道具、直すのにさほど力はいらぬ、さて次だが無駄な力は使わずにすまそう、分かりやすく指の一本程度でよいか」

 

「きさ」

 

 伸ばした指をまるで小枝の様に軽く折った。

 ハルトの苦悶の声は出させない。

 自分が発する言葉を阻害するからだ。だが痛みだけはハルトの体へと与え表情だけは自由にする。

 痛みを自覚し痛みに耐えきれなくなったのだろうハルトの視界はぼやけ始める。普段ならば邪魔になると消し去る涙だが、今回ばかりは放置しておく。

 

「人の負傷を無かった事にする、事はヌメロン・コードの力を使ってもまだ出来ぬゆえ、我の力で直接治そう」

 

 ドン・サウザンドはハルトの折れた指の骨を、筋肉を、神経を繋ぎ、皮膚を元に戻した。

 無事を示すために折った指を動かしながら、ドン・サウザンドはカイトを見る。

 カイトの顔面には怒りすら浮かんでいない。蒼白だ。

 何も言葉が浮かんでいないのだろう。

 

「ここまで追いつめてもまだ折れぬ心、まさしくアストラル世界に至るにふさわしい魂だ、我も衝撃を受けたぞ。ならばよし、選ばせてやろう」

 

 足元にある機械を指差し、この体を指差す。

 

「それがバラバラに砕け続けるのと、これの全身の骨を砕かれ直され続けるの、お前はどちらを選ぶ?」

 

「そんな事」

 

 その続きは容易く予想できる、故に言葉を続ける。

 

「選べないか、まあそうだな、そうか、ならはばよし、他の道を作ろうではないか、それとこれが壊れ続けるという道だがなぁ」

 

 壊れても直せばいい、所詮は自分が勝つために使い潰すだけの道具だ。

故にいくら壊し続けても心が痛むことも無い。少しばかり治すのに手間がかかるだけだ。

 

「我の提案を受け入れずどれか、もしくは全部が苦痛と絶望にのた打ち罵詈雑言を貴様に吐きかけながら死んでいくのを見るのか、仲間達の思いを踏みにじりミザエルに勝利し我にヌメロン・ドラゴンを渡すのとどちらを選ぶ? どちらでも良いぞ、しかしお前が時間稼ぎってしまったせいで時間があまり無い。だからまずは十回、休みなく両方とも砕け続けてからお前の気持ちが変わらないか聞いてみよう」

 

 絶句するカイトの前、彼の心を折り砕く行為が始まった。


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