クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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再演 中

「遊馬、まずいぞ、あの放送は世界中に発信されている、という事はカイトがヌメロンコードの最後の鍵を手に入れようとしている事がドン・サウザンド・サウザンドにも知られてしまっている」

 

「あっ、や、やばいぞ!」

 

 アストラルの言葉に焦り始めた遊馬と、それを裕が宥め、

 

「落ち着け、とりあえずカイトに連絡した方がいいんじゃね?」

 

「そ、そうだな」

 

 遊馬はカイトへと連絡を試みる、ロケットには通信機器が設置されており異世界にでもいなければ通話出来る筈だった。

 だけど聞こえてくるのは砂嵐だ。

 電波が届かないというメッセージではなく砂嵐が聞こえる事、それは遊馬の顔色を変えるには十分すぎる物だった。

 遊馬はそれでも希望を捨てず、距離が遠すぎるから通信が届かないだけだろうと自分に言い聞かせ今度はフェイカーへと連絡を取ろうとする。

 Dパッドを震える手で操作しフェイカーへと連絡を取る、だが

 

「出ない……!」

 

 帰るのはいつまでも続く呼び出し音だけだ。

 何かが起こっている事は明白であり、遊馬は膝から崩れ落ち賭け、なんとか力を入れて踏ん張る。

 歯を食いしばり、折れそうになる心を必死で抑え込み、遊馬はどうするべきか自分へと問う。

 

―――カイトはきっと、きっと大丈夫だから、だから、俺は!

 

 自分ができる事を成す、今目の前にある仲間の危機を救う、そう誓う。

 前を向いた遊馬を腹に響く強烈な打突音、そして立っていられない衝撃が襲いかかる。全く心構えしていなかった遊馬達は部屋の壁に叩きつけられた。

 その衝撃の中で一人だけ無事だった者がいる、最上だ。

 プロ決闘者として強烈な衝撃に受け慣れているのだろう、皆が壁に叩きつけられる中で壁を蹴り前に移動した最上は真っ先に窓へと駆け寄る。

 

「壁?」

 

 敵がいる事を予測していたのだろう、最上の意外な物を見たと言う呟きが遊馬達の耳に届く。

 

「あー、テステス、響子ちゃん無事かな、あとついでに皆も?」

 

 飛行船内に響くのは操舵していた麗利の声だ。

 苦笑しているような声で彼女は一方的にまくしたてる。

 

「私のミスとかじゃなくて目の前にいきなり壁が作られてね、ブレーキしようとしたらついアクセルにしちゃったらしくて、ごめんね!」

 

 軽く自分は悪くないと主張しながらも麗利の声は続く。

 

「九十九君、目の前にお友達がいるよ、結構苦戦してるんじゃないかな。助けに行くんでしょ」

 

 その声を聴き遊馬は飛び起き駆けだす。

 甲板まで一気に走り外を見れば、黒紫の壁が何重にも重なる奥、シャークとメラグ、ドルベの姿がある。

 こちらをぽかんとした表情で見るシャークの顔を見た遊馬は間に合ったか、と安堵する。

 その時だ、Dパッドに通信が入ったのは、 

 表示されるのは真月の名、それを見た遊馬は即座に応じる。

 

「ベクター!」

 

「おう、俺様だ。しかしお前らも馬鹿だなぁ、態々バリアン世界のトップを助けにくるなんて、あっ、それともぉー、バリアン七皇同士の決闘で弱った勝者を倒しに来たとかぁ、ゲスいなぁ!」

 

「そんな事しねえよ! 俺はシャークを助けに来たんだ!」

 

「はぁ? お前、頭おかしんじゃねえの? ナッシュの方から俺はもう仲間じゃないんだって言われたのに、殺されかけたのに、仲間を倒されたのに、助けに来るってか? 救いがたいバカだよなぁ、敵を助けに来るだなんて。消えてった仲間がそんなことして喜ぶと思ってんのか?」

 

「っ」

 

 ベクターの言葉に遊馬は言葉を詰まる。

 消えてった仲間が自分が今とっている行動を見てなんというかは想像するしかない。

 恨み事や罵詈雑言を言われるかもしれないし遊馬らしい行動だと呆れられるかもしれない、それでも遊馬は目の前の仲間を助けたいと願う。

 アストラル世界で誰も見捨てないと誓ったから、目の前で倒されそうになっている仲間を見捨てる事が出来なかった。

 

「共に行くぞ、遊馬!」

 

「アストラル……おう」

 

 遊馬とアストラルが甲板より飛び出す、目指すは悲劇の決闘が繰り広げられる最奥だ。

2人は互いに手をかざし、心を一つにし叫ぶ。

 

「「エクシーズチェンジ!ZEXAL!」」

 

 ZEXALとなった遊馬は拳を握り黒紫の壁を殴りつける。 

 バリアンとアストラルの反発するエネルギーが音を響かせ、強烈な発光を生む。それでも壁は揺らぐこともない。

 圧倒的な質量の前にZEXAL のエネルギーでは足りないのだ。

 

「だったら! 真の絆で結ばれし二人の心が重なったとき、語り継ぐべき奇跡が現れる!! エクシーズ・チェンジ!」

 

 遊馬とアストラルの力は更なるランクアップを遂げる。追加される装甲、溢れんばかりのアストラルエネルギーを込め遊馬は決闘盤にZW風神竜巻剣と雷神猛虎剣を叩きつける。

 二振りの剣が構築され遊馬はそれを握り打ち付ける。

 強烈な連撃、だが壁に僅かな揺らぎが生まれるだけだ。

 それでも遊馬はあきらめず剣を振るう。 

 何度も何度も、壁を砕き仲間を助けるために

 

                    ●

 

 諦めないと吠え叫ぶ遊馬を見、ベクターは不快そうに鼻を鳴らし、

 

「やれやれ、つまらない邪魔者が紛れ込んだようだがナッシュぅ、そろそろ捨てるカードを選べよぉ」

 

「俺は水霊術―葵の効果で手札抹殺を、マインドクラッシュ2枚の効果で、壺の中の魔導書、一撃必殺居合ドローを捨てろ!」

 

 これでメラグの手札は3枚に減らされた。

 だが3枚も手札があるのだ、そして伏せられたモンスターはなんなのかナッシュは2つのどちらかだろうと予測を立てていた。

 

「私はドルベがセットしていたモンスター、メタモルポッドを反転召喚!」

 

「させるか、俺は罠カード、ブレイクスルー・スキルを発動、モンスター効果を無効にする!」

 

 壺より伸ばされる舌が打ち払われた事にメラグは落胆した様子を見せず更に動く。

 

「私はバレット&カートリッジを発動、デッキから4枚を墓地に送りデッキから1枚ドロー、そしてこのカードをデッキトップへ置きます」

 

「この瞬間、俺はドロール&ロックバードのモンスター効果発動、お互いにこのターン、ドローとサーチが出来ない!」

 

 これでお互いにドローできない、メラグに手札にあるのは2枚のRUMと正体不明のカードのみだ。

 だが問題なのはメラグの墓地だ。

 墓地BFというデッキタイプを使うメラグのデッキは墓地にモンスターが送られるほどに強くなる、そしてナッシュは今、メラグの墓地を確認できずにいる。それによりどのようなカードが飛び出してくるか分からないのだ

 

―――せめてあのカードが来ればまだマシになるだが。

 

 ナッシュは対ベクターの為に入れておいたもう一枚のカードに思いを馳せるもメラグは苛烈に動き始める

 メラグの墓地より2つの赤い紋章が空へと浮かび上がる。

 

「ならばデッキを削り落とす、私は墓地のBF―大旗のヴァーユの効果発動、このカードと墓地のレベル5、暁のシロッコを除外しレベル6のシンクロモンスター、BF―アームズ・ウィングをエクストラデッキより特殊召喚します、更にもう一体の大旗のヴァーユの効果発動、もう一枚の暁のシロッコを除外しBF-アームズ・ウィングを特殊召喚」

 

 紋章が輝き、2つの黒き翼が空へと舞い上がる。そして時を同じくする様に渦が発生していく。

 

「レベル6のモンスター2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れなさい巡死神リーパー」

 

 渦の中より現れるのは二つの球を従えた老婆だ。

 骨の細腕には巨大な黒刃の鎌が握られそこに球の一つが吸い込まれる。

 力を蓄えた鎌より放たれる斬撃はナッシュとメラグのデッキを直撃する。

 

「リーパーの効果発動、オーバーレイユニットを使いお互いのデッキから5枚を墓地に送る」

 

「くっ」

 

 ナッシュの残り12枚のデッキが7枚へなった。だが重大な問題はそこではない。

 デッキ破壊を食らっているという事実よりもメラグのデッキが墓地に送られたと言う事実の方が重要だ。

 

「更に私は大旗のヴァーユの効果発動、このヴァーユとアームズ・ウィングを除外しエクストラデッキからBF-アーマード・ウィングを特殊召喚する!」

 

 三度、空へと延びる紋章より黒き翼をはためかせ鎧を纏う翼人が飛翔する。

 

「私はRUM-七皇の剣を発動」

 

 メラグの背後、七つの赤黒の星が瞬き線を結んでいく。 

 それを見たナッシュは警戒するように構え、

 

「来るか、ラグナ・インフィニティ!」

 

「いいえ、今呼ぶのは違うカードよ、ベクター、力を貸しなさい。七皇の力でこの男を叩きつぶす! エクストラデッキよりiNo.104仮面魔踏士シャイニングを特殊召喚しカオス・エクシーズチェンジ、現れなさいiCNo.104仮面魔踏士アンブラル!」

 

 呼ばれるは光の魔法使いだ。それはカオスの渦へと飲まれ全てのモンスターを縛り付ける恐怖の魔術師となった。

 錫杖を打ち鳴らし、闇の魔術師はナッシュの伏せカードへと紫色の光線を放つ。

 

「アンブラルの効果、貴方の右の伏せカードを破壊する、デス・ステップ!」

 

「くっ、俺は墓地のスキル・プリズナーの効果発動、このカードを除外し俺の伏せカードの破壊を免れる!」

 

 カオスで構成された光線はバラバラに砕ける。

 散った破片がナッシュの腕を傷つけるが、それを厭わずナッシュは諸悪の根源であるベクターへと歯を見せ、怒鳴る。

 

「ベクター!! 貴様という男はどこまで腐りきっているんだ!」

 

「ひゃははは、何のことを言っているのか分からないなぁ! メラグが、自分で、俺様の力を使ってるんだぜ、何も問題は無いだろ? さあやっちまいなメラグ!」

 

 強風がメラグの場に吹き荒れていく、それは強くなっていき竜巻となり青い鳥人を手札へと戻した。

 

「墓地のゼピュロスの効果発動、私は400ポイントのダメージを受け、BF―蒼炎のシュラを手札に戻しこのカードを墓地から特殊召喚する、そして蒼炎のシュラを召喚、シュラとゼピュロスのレベル4、モンスター2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れなさい、No.103神葬零嬢ラグナ・ゼロ!」

 

 現れたばかりの令嬢は地獄の底の様に現れたカオスの門の中へと身を投げる。

 門の内より生贄を求めるように鎖が伸ばされカオスの渦へと沈めていく。

 それはナッシュも見慣れたバリアン世界のランクアップだ。

 

「私はRUMバリアンズ・フォースを発動、私の場のラグナ・ゼロでオーバーレイネットワークを構築、カオス・エクシーズチェンジ、CNo.103神葬零嬢ラグナ・インフィニティ!」

 

 そして静寂を切り裂き門を砕き三日月のような鎌が噴出する。

 冷気とカオスをばら撒きながらブーメランのように弧を描き空を飛び、門の内側より伸ばされた細腕の元へと戻る。

 全てを凍らせ葬る巫女が門の中より姿を現した。

 本来ならば王の外敵へと向けられるべき力は、呪縛により守るべき主へと鎌を向けている。

 

「更に私は墓地からBF―隠れ蓑のスチームの効果発動、場のモンスターを1体リリースしこのカードを特殊召喚する、私はメタモルポットをリリースしスチームを特殊召喚。そして私はRUM―アストラル・フォースを発動」

 

 メラグの掌より噴出するはカオスとアストラル世界の力が入り混じった濁った光だ。

 赤と青の光は相克するように螺旋を描きながらドームを揺らし巡死神リーパーを直撃、分解、再構成を行っていく。

 その光景を信じられないおいう気持ちで見ていたナッシュは疑問と共学に満ちた声を上げる。

 

「なんだと、なぜメラグがアストラル・フォースを使う!?」

 

 その疑問に答えるのはベクターだ。

 興味深そうに顎を撫で、メラグの手を見ながらベクターは愉悦に満ちた笑みを浮かべ、

 

「俺様達が作り上げたからだ。劣化コピーしかできなかったが、今の状況ならば十分だ、が偽物がこれでは本物レベルまで再現したら手が焼失しちまう、使えねーようだなぁ」

 

 ベクターの視線の先、メラグの掌が青い光によって焼かれている。

 メラグの体にあるバリアンの力が偽物とはいえアストラル世界のエネルギーと反発しているのだろう、メラグの白く美しい細腕は光によってボロボロにひび割れていく。

 

「メラグ、やはりその力を使うべきでは!」

 

「いいえ、ドルベ、こいつを倒すためならばこの腕の1本や2本惜しくないわ」

 

 ドルベもその様子に心配になったのかメラグへと声をかける、だがメラグの意思は固い。

 例え偽りだとしても絶対に倒さないといけないという鉄の意思が彼女にはあるのだ

 吹き上がっていく赤と青の光、それに歴戦の決闘者としての勘が告げる。

 ここで発動しておかないと負けると、

 

「……ここか、罠発動、エクシーズ・リボーン、俺は墓地のDark Knightを対象にエクシーズ・リボーンを発動する、墓地より甦れDark knight!」

 

「私の場のランク6、アンデット族の巡死神リーパーでオーバーレイネットワークを再構築、ランクアップ・エクシーズチェンジ! 現れなさい、No.23冥界の霊騎士ランスロット!」

 

 老婆の体を切り裂き中より飛び出したるは本物のナンバーズだ。

 細身の剣を輝かせ紫色のマフラーを風に揺らしながら細く引き締まった騎士が降り立った。

 

「本物のナンバーズだと!?」

 

「そう、俺様が集めたナンバーズだ、こいつの効果は強力だぜ、行け!」

 

「バトルよ、アンブラルでDarkknightを攻撃!」

 

「俺は墓地からキラーラブカのモンスター効果を使う、この」

 

「甘いわ、ランスロットの効果発動、このオーバーレイユニットを使い、相手が発動した魔法、罠、モンスター効果を無効にする」

 

 アンブラルの錫杖が暗黒騎士を砕こうと振り上げられる。

 金の錫杖は見るからに重量があり頭を殴られればそれだけで昇天するようなものだ。

その一撃は重く、暗黒騎士が頭へと掲げた槍では防ぎきれない物であり徐々に押し込まれていく。

 魚が助太刀しようと墓地から飛び上がるが霊騎士の剣が輝いたかと思えば魚は綺麗にスライスされ更に並べられてしまう。

 助太刀が入らなかった事により暗黒騎士はアンブラルの一撃から逃れることは出来ず最後は魔力ブーストによって強化された膂力により強引に押し切られ頭を砕かれた。

 

iCNo.104仮面魔踏士アンブラル ATK3000 VS CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800

破壊→CNo.101 S・H・Dark Knight 

ナッシュLP5400→5200

 

「だがDarkknightの効果発動、このカードを墓地から特殊召喚する、リターン・フロム・リンボ!」

 

 蘇った暗黒騎士はナッシュへと力を与えナッシュのLPは5200から8000に回復する。

 息を整える間もなく、次の敵がナッシュへと襲い掛かる。

 細身の騎士がナッシュへとむけ突進する。

 それを迎え撃つ暗黒騎士、突き出される剣にぶつけるように槍が振るわれる。だがその槍に触れる物は無い。

 騎士が実体化を解いたのだ。

 無数の冥界の騎士が集合した冥界騎士はナッシュの目の前に立つ。

 

「オーバーレイユニットを持つランスロットは相手に直接攻撃が行える、ランスロットで直接攻撃!」

 

「なんだと!?」

 

ナッシュLP8000→6000

 

 逃げる間もなく、ナッシュへと神速の斬撃が放たれる。

 それはナッシュの体を傷つけ、容赦なく肉をそぎ落としていく。ある程度傷つけて満足したのか冥界騎士は姿を消す。

 敵が居なくなったのを確認し急いで主へと駆け寄ろうとする暗黒騎士だったが、

 

「更にランスロットの第三の効果発動、オーバーレイユニットを持つこのカードが相手にダメージを与えたとき相手の場のモンスターを破壊する」

 

 背中より細身の剣で中枢を穿たれ爆散した。

 その爆炎を切り裂き、苦無と武装した拳がナッシュへと飛ぶ。

 

「隠れ蓑のスチーム、アーマード・ウィングで直接攻撃!」

 

ナッシュLP6000→4500→3700

 

                    ●

 

 苦無が突き刺さり、武装した拳による一撃がナッシュの体を軽々と飛ばす。

 それは幾重にも重なった黒紫の壁を突き破り遊馬が苦戦している巨大な壁に叩きつけられた。

 

「シャーク、おい、シャーク!」

 

 外より遊馬が呼びかけるも空中に浮かぶシャークの体に力は入らない。

 それを見、更に連撃を入れるが壁は打ち破れない。

 ヌメロンの力を少しずつ得ているドン・サウザンドの作り出した壁は厚く砕けても、次の瞬間には砕けなかったという事象に塗り潰されてしまうからだ。

 

「シャーク、シャーク!」

 

 動きは無い、そもそも声が届いているかさえ不明だ。

 仲間の遊馬は拳を握り力の限り壁を叩くが弾かれるだけだ。

 拳を何度も何度も撃ち、手が打撲で真っ青になろうとも打撃を続ける、やがては皮膚が裂け血が溢れ出す、それでも遊馬は打撃を止めない。

 洗脳され操られる肉親と戦わされる、その苦しみを抱え、傷つけっられる仲間の姿を助けたいと願い、壁よ砕けろと感情をこめ叩きつける。

 それでも壁はくだけず聳え立つだけだ。

 遊馬は自分の不甲斐なさを恥じ声を上げる。

 

「馬鹿野郎、うるせえんだよ……」

 

 小さくとも強く通る声がある。

 それは目の前の壁に漂う男の声だ。

 

「シャーク」

 

「俺はお前らの絆を断ち切った、それなのに、お前は俺を助けようとするのか?」

 

 ナッシュは遊馬を見る。

 疑惑と信じていいのかという猜疑心がナッシュの瞳には煌めいている。

 それを見、それを見なくても遊馬はこう言っただろう。

 当たり前だ、と。

 

「ああ、俺はみんなで未来に行くんだ、だから俺は目の前で傷ついているやつを見捨てられねえ、俺と一緒にかっとビングしようぜ!」

 

「はっ、相変わらずお前は押し付けがましくて甘い奴だ!」

 

 だが、シャークは起き上がり、頭から又までを切り捨てる大鎌の一撃が叩き込まれた。

 

「ラグナ・インフィニティで直接攻撃」

 

ナッシュLP3700→900

 

 苦しげに息を吐いたまま、宙に浮かぶシャーク、それをメラグは冷徹な目で見降ろし、

 

「死にぞこない鮫の癖にしぶとい、メイン2、私はレベル3の隠れ蓑のスチームにレベル7のアーマード・ウィングをチューニング、シンクロ召喚、レベル10、神樹の守護獣―牙王、更にスチームの効果でスチーム・トークンを守備表示で特殊召喚、ターンエンド」

 

「シャーク!!」

 

 遊馬は更に声をかけるが動きは無い。

 それは無理もない話だ、気力だけで体を動かし立ち直った瞬間に大ダメージをぶち込まれたのだ、もう一度体を動かすには気力を集めるしかない。

 

「シャーク!」

 

 遊馬はありったけの、持てる力の全てを注ぎ込みZWを召喚する。

 闇の中より鵺が斬撃を、炎を纏う不死鳥が突撃し、玄武が回転し丸鋸のように表面を削り、阿修羅が尽きる事の無い連撃を放つ。

 それでも壁は何もなかった状態に塗り潰される。

 聖なる神馬と一角獣が空を駆け突撃し、荒鷲が両腕を広げ打撃、竜と虎が竜巻と雷と風を巻き上げ突撃する。

 砕けない。

 竜と虎は空へと上り巨大な獅子となり空を走る。 

 巨体が進むだけで空は揺れ、吹き上がるアストラルエネルギーが大地を砕いていく。

 獅子の雄々しき咆哮が壁を揺らし、僅かに罅を入れ、その罅へと獅子が突撃する。

 主の崇高なる信念と願いを叶える為、獅子は爆轟する。

 壁に四肢を叩きつけ、罅を大きくしようとし、壁が砕ける際に生まれた黒紫のカードによって首を落とされた。

 

「獣王獅子武装が……!」

 

 砕けるZW達を見、遊馬はその場に崩れ落ちる。

 持てる全てを出しきった、だがどうする事も出来ず仲間が傷ついていくのを見ている事しかできない。その辛すぎる事実の前に遊馬の心が折れそうになったのだ。

 

                    ●

「あのバカやばいんじゃ、俺が」

 

 壁に叩きつけられ体の負傷とダメージから気絶していた裕が甲板に上がって見たのは、砕けたZW達が宙を浮かび、遊馬がオレンジ色の髪になってプロテクターをつけた姿になっている光景だ。

 一瞬だけ言葉を失うも遊馬の尋常ではない様子を見、励ましの言葉をかけるべきだろうと決意し、甲板から身を乗り出す。

 当然、裕は普通の決闘者であり、宙を飛ぶことは出来ない。よって重力に従い落ちる。

 突然の無重力に叫び声を上げようとするが、それを一番近くに居た最上が服の襟を持つ事によって阻止された。

 

「寝ぼけてんのか、というか腕が疲れるから投げ出していいか?」

 

「いや、引き上げてもらえると嬉しいな」

 

 引き上げられた裕を見、最上は堂々とした様子で息を吐く。

 それはまるで何も不安が無いと言う表情だ。

 

「黙って見とけ、あいつ等でどうにかするだろ」

 

                    ●

 

 結果が全く好転しない状況、不安要素ばかりが積もっていくその状況に心が折られかけた中で遊馬の前に現れたのはアストラルだ。

 

「まだだ、遊馬」

 

「アストラル……?」

 

 昔のアストラルならば全力を出しきり、どうしようもない状況で即座に見切りをつけていただろう。

 だが遊馬に出会ってアストラルは変わったのだ。

 

「君が目指す未来とはこのような事で諦めるものなのか」

 

「違う」

 

 彼なりの言葉で諭し、励ましていく。

 

「君が夢見た理想を捨てていいのか?」

 

「違うっ!」

 

「だったらまだここで立ち止まってはいけないはずだ、限界を超えるぞ、遊馬」

 

 その光景はいつもとは逆だ。

 いつもは遊馬に引っ張られるアストラルが遊馬を引っ張り立ち上がらせていく。

 

「おう! かっとビングだ、俺ぇ!」

 

 2人は別れを経て更に強く信頼関係で結ばれたのだ。その絆は他人へと伝播し未来へと繋がっていくだろう。

 2人の力は更に強く、高みへと上り究極へと昇華した。

 金の輝きが周囲へと放出される。

 それはまるで太陽のように暖かく浴びた者を未来へ歩き出させる活力を与える力を与えて言う。

 

「絆は進化する! より強く、より固く! 絆結ばれし時、力と心が1つとなり、光の奇跡と伝説が生まれる! アルティメット・エクシーズ・チェンジ!」

 

 ホープに似た金の翼、絆と絆を掛け合わせ更に力を強くするという象徴のXの字を描く決闘盤が構築されていく。

 その身からあふれ出る二つの完璧な融合を果たした力は黄金の輝きを放ち、

 

「ゼアル・フィールド!!」

 

 黒紫の事象を塗り替え続ける壁を、ナッシュを閉じ込めている黒紫のドームを、分解し光へと変えた。

 宙を浮かぶシャークへと駆け寄り脚と背中に手を通しシャークへと遊馬は呼びかける。

 

「シャーク! おい、シャーク!」

 

 遊馬の放つ暖かな光、そして遊馬のエクストラデッキより飛び出した一枚のナンバーズがナッシュへともう一度立ち上がらせる力を与える。

ナッシュの力なく閉じていた瞼が動き、弱々しく開かれる。

 

「遊、馬」

 

「ああ、大丈夫か」

 

「全く、お前って奴は」

 

 心底、呆れ果てたように、観念したようにシャークは目を閉じ、遊馬の手から浮かび上がった。

 決闘する気だという事は問わなくても分かる。止める事は出来ないだろうと言う事も予測が月、遊馬はデッキを構え、

 

「俺も一緒に」

 

「いや、これは俺の決闘だ、俺にやらせてくれ」

 

 やんわりと断られた。

 遊馬はせめてと、周囲を漂っていたカードをシャークへと手渡しする。

 

「だったら、このカードを使え」

 

「これは」

 

「ドルベの遺跡のナンバーズだ」

 

「そうか」

 

 1人で戦いたいと言う気持ちを察し遊馬は飛行船へと戻っていく。

 だがボロボロのナッシュの様子に時折を不安になり振り返る遊馬の耳に小さく声が届く。

 

「ありがとよ」


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