クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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再演 上

 ミザエルはハートランドシティから遥かに離れたとある町に居た。

 ベクターによって強制的に移動された北極から銀河眼の反応を追い彼はノンストップで移動し続けこの町で休息をとっていた。

 人間世界だったはずの町がいきなりバリアン世界と融合したのを見てミザエルはナッシュやドルベが何かをした結果なのだろうと無邪気に喜んでいた。

 

「この世界に満ちる力、これさえあればアストラル世界を砕くことだってできるかもしれない。やったな皆」

 

 ミザエルはバリアン七皇で切磋琢磨した日々を思いだし僅かに感涙しかける。思い出すだけで長く険しい日々だった。

 仲間同士で切り札自慢大会になったりしぶつかり合った事もあった。人柄が気に食わないと喧嘩になったりベクターの悪戯に激怒し無言の手刀を叩き込んだことだって何度もあった。

 それらの努力がようやく報われたのだ、銀河眼一筋の彼でも嬉しい者は嬉しいのだ。

 人間世界とバリアン世界を一つにしたのは誰なのかは分からないがアストラル世界を砕くエネルギーが放出されていないところから察するにヌメロン・コードはまだ入手していないのだろ。つまり九十九遊馬達との最終決戦がようやく始まるのだと彼は気合を入れ直す。

 

―――待っていろカイト、私はお前に勝ち最強の銀河眼使いとなる!

 

 どこかにいるであろう宿敵へと思いを馳せていると人間世界のテレビやラジオ、放送機器が一斉に音を発し始める。

 警戒するミザエルの耳に宿敵の声が聞こえてくる。

 それは宿命に終止符を打つに最後の決闘にふさわしい場所への招待状だ。

 ミザエルはそれが罠という事はみじんも考えない。一方的に決めつけているようなものだが好敵手が決闘を挑んできたのだ、ならばそれを受けない決闘者がこの世にいない。

 口元に笑みを浮かべハートランドシティを見れば空へと昇っていく線が見える。

 

「あれか」

 

 口元に笑みを浮かべ、ミザエルも月を目指し飛び立つ。

 ハートランドシティよりばら撒かれるカオスを気にもせず、この状況が誰によって仕組まれているかを考えずただ好敵手との決闘を楽しみに、月を目指す。

 

                   ●

 

 ナッシュは決闘の始まる瞬間、一秒、刹那の間までなんとかして決闘をせずにこの場を切り抜ける瞬間を考えていた。

 だが無常にも決闘盤は決闘の承諾を行い、ナッシュが勝とうが負けようが苦悩しか生まない決闘の幕が上がる。

 ナッシュは歯を砕けるほど噛み締め初手をデッキより引き抜く。ちらりと決闘盤を見れば先攻はドルベだ。

 

「私のターン、ドロー! 私は壺の中の魔導書を発動、互いに3枚ドローする」

 

 何故相手にドローさせるカードを使うのか、それをナッシュは考えを巡らせるが答えに到達などできる訳がない。

 だが手札をお互いに増やしたこの瞬間こそがチャンスだ、そう考えナッシュはベクター戦を想定したメタカードを発動させる。

 

「この瞬間、俺はドロール&ロックバードのモンスター効果発動、このカードを墓地に送り、このターン互いにデッキからドロー、またはサーチを行うことは出来ない!」

 

「ちっ、なんだと!?」

 

 ベクターより舌打ちが漏れる。

 

―――このカードは想定してなかったか、ベクター!

 

 ナッシュは人間世界に送り込まれまず向かったのはカードショップだ。

 なぜか何者かの手によって店は荒らされていたがノーマルカードは無事でありこのカードや封魔の呪印を手に入れることが出来たのだ。

 このカードを入れた理由は一つ、ベクターとの決闘を見据えてだ。

 メラグとドルベとベクターの決闘をメラグの渡してくれた決闘盤の録画機能より見直し問題点を洗い出した。

 注目するは運命の宝札と命削りの宝札だ。先攻を取られあれを連射されると下手をすれば5伏せ全てがカウンター罠と罠カードのみ、手札は手札誘発、場は強力なモンスターという状況に陥ってしまう。

 一回目のドローは止めようが無いにしても2回目のドローを防ぐためにナッシュはこのカードを入れたのだ。

 そしてこのカードの発動と共にドルベは動きが止まる。

 

「私はフィールド魔法、シュトロームベルクの金の城を発動」

 

 黄金に輝く城がメラグとドルベを守るように出現する。

 それは相対するだけで威圧される凄まじい物だ。

 

「なんだ、このフィールド魔法?」

 

 効果テキストを確認しようとする、だが決闘盤にはこの砂嵐が走りカード効果を見ることが出来ない。

 ドン・サウザンドの影響か、とナッシュは怒りを強くするとドルベは無表情で淡々とカードをセットする。

 

「私はモンスターをセット、カードを5枚を伏せてターンエンド」

 

ドルベ・メラグ場  セットモンスター

LP4000       シュトロームベルクの金の城

手札1・5      伏せ5

 

ナッシュ場  

LP4000   

手札7   

 

「俺のターンドロー!」

 

「この瞬間、私は罠カード、和睦の使者を発動、更に速攻魔法、上級魔導師の呪文詠唱を発動、自分フィールド上または手札の魔法カード1枚を速攻魔法扱いとして発動する。私はさっき伏せたカード、手札抹殺を発動、お互いに手札をすべて捨てデッキから同じ枚数だけドローする!」

 

 ナッシュの手札、8枚にあったメラグのターンを凌ぎ切る為の封魔の呪印等が一気に墓地に送られてしまう事にナッシュは焦りを隠せない

 それは当然だ。デッキバランスを崩さないために1枚しか入れていないカードもありナッシュの戦略は建て直しを図るしかないのだ。

 

「くっ、だが俺は大嵐を発動、伏せ、及びフィールド魔法を破壊する」

 

 ナッシュの背後で発生した大嵐は金の城へと迫る。

 

―――さあどうくる?

 

 ナッシュはドルベがどう動くのかをじっと待つ。バリアン七皇の決闘ならばカウンター罠やスターライト・ロードが飛んでくる。

 だが先手でドローされることを妨害されるなんて想像しておらず、ドローソースばかり引き当てた場合も考えられるのだ。

 そしてドルベは何もカードを発動させる様子はない。

 

「よし!」

 

 ナッシュは大きくガッツポーズを取る。

 残った伏せ3枚は破壊され金の城へと近づき、直撃する。だがソリットビジョンは崩壊する様子を見せず怪訝に思っていると、

 

「甘いぜ、金の城は他のカード効果を受け付けない。遊馬のヌメロン・フォースも大嵐もトリシューラでさえもこのカードに触れることは出来ねえ!」

 

「なんだと!?」

 

 そのすさまじいまでの耐久性能を持つフィールド魔法の効果テキストへとナッシュは再び確認する。そうすると今まで読めなかったカードテキストの一部がようやく読めるようになった。

 それはたった一文、このカードはこのカード以外のカードの効果を受けない。という条文だ。

 

破壊→壺の中の魔導書

   大嵐

   復活の祭壇   

 

 テキストが読めない以上はしょうがないとナッシュは破壊したカードを確認する。 

 だがまたしても見た事も聞いたことも無いカードがあり、テキスト確認が出来ない。

 墓地で発動できるカードの可能性も捨てきれないが今気にするべきはこのまま一気に決闘を終えることは出来ないと言う事だ。

 次のターンに来るであろうメラグの事を考えるとメラグのターンを何とかしのぎその次のターンで倒すしかない。

 だからこそナッシュはまず切り札を呼ぶ。

 

「俺はRUM―七皇の剣を発動、エクストラデッキよりNo.101 S・H・Ark Knightを特殊召喚しカオス化させる! カオス・エクシーズチェンジ!」

 

 ナッシュの背後、七つ星が点灯する。それはすでに二人しか残っていないバリアン七皇の絆の証だ。

 細々と、だが最後の冀望を捨てないためにナッシュはカオスを滾らせ手を上げる。

 星より箱舟が構築、その中に収められた暗黒騎士が眠りより目覚める。

 力を示す様に大槍を振り回し、だがその槍を二人へと向けず天に向け暗黒騎士は主の盾であり矛となる為に立つ。

 

「現れろ! CNo.101 S・H・Dark Knight!」

 

 ナッシュは手札を見、少し考える。

 

―――また手札抹殺を食らったらまずいな、なるべく手札を残さないようにしなければいけない。

 

 今までのカード、そして破壊したカードよりドルベがしてくる戦略は2つに絞り込むことが出来る。

 その中でお互いにドローしている状況から考えられるのはデッキ破壊だ。

 そう思考をまとめ、ナッシュはデッキ枚数の確認に決闘盤へと目を移せば24枚残っている。

 

―――これだけあればあと1ターン凌げるはずだ。あとはこのカード達で凌ぎ切る。そして、時間を凌いでどうする?

 

 ナッシュは苦悩する。ただ悪戯にターンを重ねれば敗北するのはナッシュだ。だがこのまま戦い続けた所でナッシュが損をするだけだ。

 遊馬達の決闘を遠くから観察しドン・サウザンドの呪縛から解放する術は理解しているが妹の呪縛を開放しても親友の呪縛を解除するカードをナッシュは持っていないのだ。

 ナッシュは苦悩し、苦悩した果てに問題を先送りにする。

 今できる事をすると自分に言い聞かせ、やがてくるであろう問題より目を逸らし、

 

「俺はカードを5枚伏せてターン」

 

「まだだ」

 

 エンド、と口を動かそうとするナッシュ、それに割り込むようにベクターが声を上げる。

 至高の喜劇を見るように目を細め、表情全体が悦楽で緩んでおり声からもそれが満ち溢れている。

 その聞くだけで堪忍袋の緒が切れそうになる声でベクターは指摘する。

 

「ナッシュぅ、金の城が存在するときモンスターは必ず攻撃を行わないといけないといけないんだぜ」

 

「何?」

 

 決闘盤に目を落とせば今迄読めなかったはずのテキストの一部が解放され確かにそれが書いてある。

 それが元から書いてあったものなのか、それともあとから付け足されたのか、そもそもそのような事が書いてあったのかすらも判断がつかず、だが効果に書かれ、決闘盤によって正しく処理されている以上、プレイするしかない。

 

「くっ、バトルだ、セットモンスターを攻撃!」

 

「この瞬間、シュトロームベルクの金の城の効果発動、攻撃宣言したモンスターを破壊しそのモンスターのコントローラーはそのモンスターの攻撃力の半分のダメージを受ける」

 

「何!? うぐぁああああ!」

 

 セットモンスターを砕くため槍の穂先から光線を放った暗黒騎士だったがセットモンスターの前、荘厳な金の城により作り上げられた虹色の壁にその光線を跳ね返された。

 そのまま跳ね返された光線は暗黒騎士を直芸、爆散した。

 

 ナッシュLP4000→2600

 

「だがカオス・オーバーレイユニットを持つDark knightの効果発動、このカードを墓地から特殊召喚する、リターン・フロム・リンボ!」

 

 墓地に沈んだ箱舟に暗黒騎士は戻り体を再構築し再び地獄より這い上がってくる。

 そして槍の穂先より主へと自分の力を分け与える。

 

「そして攻撃力分ライフを回復する、このカード効果で特殊召喚したDark knightは攻撃できない、俺はこれでターンエンドだ」

 

ナッシュ場  CNo.101 S・H・Dark Knight ATK2800 (ORU0)

LP5400   

手札2    伏せ5

 

ドルベ・メラグ場  セットモンスター

LP4000       シュトロームベルクの金の城

手札1・5      

 

「私のターンドロー、スタンバイ、金の城の維持コストを払う」

 

 そこまではナッシュにも理解できる。

 攻撃を強制し攻撃したモンスターを破壊しダメージを与える凄まじい性能のフィールド魔法、それに維持コストやデメリットが無ければおかしいのだ。

 そして、

 

「維持コストとしてナッシュのデッキの半分を墓地に送る」

 

「なっ!?」

 

 ナッシュは妹の口から言われた言葉の意味がよく理解できなかった。

 相手のカードの維持コストを相手が払うのが当然の筈だ。

 それなのに相手が、しかもデッキの半分をコストで墓地に送るという意味が分からない状況にナッシュの頭は理解できず、だが決闘盤だけは墓地へと送れという指示が表示されている。

 

「メラグ、もう1回言っていくれないか?」

 

「相手のデッキの半分を金の城の維持コストとして墓地に送る。さあ維持コストを払いなさいナッシュ!」

 

 明らかな敵意を見せメラグは叫ぶ。

 愛すべき妹の敵意しかない視線を向けて来るのを見て、ナッシュは心が張り裂けそうに痛む、いっそのことこの痛む心も捨ててしまおうかとさえ思うほどの逃げ出したくなる痛みがナッシュを苛む。

 だがそれをナッシュは手放すことは出来ない。大切な親友たちを裏切り敵の王となり、Ⅳ、トーマスを決闘で倒したとき神代凌牙としての人の心のほとんどを捨てナッシュとなったのだ。

 だが人間世界で過ごした穏やかでかけがえのない日々の記憶は今も心の底に眠っている。

 愛する者を信じ、仲間を信じる。それがナッシュの行動の指針となっているからだ。

 だからこそ、痛みに苛まれながらもそれだけは手放したくないと心が吠え叫ぶ。

 

「……分かった」

 

 デッキの半分を手に取り墓地に送る。スタンバイフェイズだけであっという間にデッキが24枚の半分、12枚へと減ってしまう。

 

「更にシュトロームベルクの金の城の効果発動、スタンバイフェイズにデッキからモンスターを1体特殊召喚する、私はBF―蒼炎のシュラを特殊召喚する」

 

 このまま長引けば敗北は確実だろう、故にナッシュはこのターンを確実にしのぎ切る為に伏せカードのほとんどを開く。

 

「この瞬間、俺は伏せていたマインドクラッシュを発動、更にもう1枚のマインドクラッシュ、Dark knightをコストにリリースし水霊術―葵を発動する! さあ、メラグ、お前の手札を見せてもらう!」

 

「くっ、ナッシュっ!」

 

 絶対にこちらに向けないであろう壮絶な表情を浮かべながらもメラグはナッシュへと手札を見せる。

 ナッシュはメラグの手札を見、眉を顰めるしかない。

 

メラグ手札→RUMバリアンズ・フォース

      RUM―七皇の剣

      壺の中の魔導書

      手札抹殺

      一撃必殺居合ドロー

      バレット&カートリッジ

 

 明らかに後半の2枚のカードはテキストが読めないが名前だけで危険だと分かってしまう。

 だが壺の中の魔導書と手札抹殺を放置するとデッキはあっと言う間に削られるだろう。

 ナッシュは悩む。テキストが読めない時点で明らかにドンサウザンド製なのは明白だ、手札に残しておくだけで危険な状況に追い込まれることは目に見えている。

 そしてふと、墓地に送られたカードを確認してみる。

 

―――中々に良いカードが落ちた。城のデメリットらしいものは無いと思ったが相手の墓地が肥えるというのがデメリットか、これならば次のターンに大量展開が出来る。

 

「まーだかよう、ナッシュぅ」

 

 外野ではベクターがこちらを煽る声が聞こえリアルファイトに持ち込もうかとも考えたが息を大きく吸い冷静になる事でそれを回避、そして2枚を決まる。

 最後の一枚を決めようとしていると視界の端に動く物がある。

 飛行船だ。

 こちら側へと徐々に近づいてくるその物体を見て、ナッシュは呆然となる。

 敵になると明確に決別したはずだった、アストラル世界でナッシュは本気で遊馬を倒しそうとした、

 それなのに遊馬達はこちらへと向かってくる、恐らくは遊馬がこの状況を知り助けようとでも言いだしたのだろう、それはナッシュはその場に居なくても容易に想像がついてしまう。

 

「遊馬、お前ってやつはどこまで……!」

 

                     ●

 

 カイトが無事に月へ向かうのを見届け裕達は飛行船に乗り込んだ。そのまま飛行船を動かし黒紫のドームへと向かっていた。

 決戦に向かうために緊張し皆の表情は硬い、訳では無く、違う理由で皆の心に暗雲を齎していた。

 それは響子の内にいるリペントへと何気なく裕が訪ねた一言が原因である。

 塔の中でハルトの映像を見たときリペントの表情が崩れたのを裕が思いだし問い、それに対してリペントが、

 

「あれは普通の人間ではないよ」

 

 気持ち悪い物を見たように顔を歪め吐き捨てたのだ。

 皆が固まる中、更にリペントは言葉を続ける。

 

「彼からはアポクリファの力を感じる。あれは多分、敵だよ」

 

 アポクリファの事をあまり分からない遊馬達はそろって首を傾げ、裕達が説明をする。それが終わり遊馬は怒気を込めリペントへと声を上げる。

 

「そんなはずねえ、確かにハルトはアストラル世界を攻撃する能力を持っていた、だけどあいつは今、普通に暮らしてんだぞ」

 

 遊馬は畳みかけるようにハルトが敵である筈が無い理由を述べる。

 体が弱かった事、バリアンの力でアストラル世界を攻撃する力を得た事、フェイカーを倒した際にバリアンとから解放され今では普通の少年となった事を叫ぶ。

 遊馬はカイト達の家族旅行で見た物や楽しかった事などをカイトから聞いていて写真を見せてもらったこともある、その写真の中では確かに皆が笑っていて、それらにベクターの策略が残っていたなんて信じたくなかった。

 全てを聞き終え、リペントは静かに問う。

 

「解放された、か。だったら何故、彼は普通に生きているんだ?」

 

「なんだって!?」

 

「九十九遊馬、君は人の裏側を見るべきだ、ベクターの性格からして道具は使い捨てるだろう、彼の体が弱いのは無理矢理バリアンの力で塗り潰していただけで治療なんてするわけが無い。とすればバリアンの力から解放されれば彼の体は病弱な者に戻るだろう、それが起こらないと言うことはバリアンの力はまだ彼の体に残っているんじゃないのか?」


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