クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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重なり合う世界 下

 裕達の目の前に立つカイトの服装はいつもと違う物だ。

 まるで宇宙服のような白くモコモコした中に角張った機材が収納されている。

 

「カイト、本当に行くのか?」

 

 初老の男がカイトへと話しかける。

 カイトの父親であるフェイカーの顔を裕は直接見たことはない。

 だが初老の男性がカイトへかける言葉は彼のみを案じる感情で溢れている事から彼がフェイカーなのだろうと裕は思った。

 心配の様子を見せるフェイカーをカイトは優しく微笑みかけ諭す様に言う。

 

「父さん、俺は月に行かなければいけない。月でミザエルと決闘しこのナンバーズを目覚めさせなければいけないんだ」

 

 真面目な場面なのは裕も理解している。だが、

 

―――どうして月で決闘しなければいけないんだ!

 

 裕は疑問に思いながらも口には出さず事の顛末を見届ける。

 裕達の背後、壁の外より打撃音が大きく響くも、それと同じくらい2人が大きな声を上げ始めたとき巨大なコンソールにコードを接続していたオービタルが振り返り声を上げる。

 

「カイト様、これをご覧ください!」

 

 モニターに映し出されたのは赤黒の空を裂く水色と黄色の流星だ。

 徐々に拡大されようやく表情が見れるまでに拡大される。

 激怒のような表情を浮かべ、体に黒紫のオーラを纏う二人、遊馬達はその姿に見覚えがあり、名を呟く。

 

「ドルベ!」

 

「リオさん!」

 

 皆は画面を食い入るように見る、そして等しく疑問を持つ。

 かなりの速度で飛んでいる、だが向かう先はハートランドシティの別の中心部、遊馬達のいる塔から徐々に離れていくのだ。

 

「シャークは、シャークは居ないのか!?」

 

「落ち着け遊馬、どうなんだオービタル?」

 

「いえ、探知できる範囲にはバリアン兵だけでアリマス」

 

「そうか、いや、待て、彼らが行く先にバリアンらしき反応はあるか?」

 

「ええっと少々お待ちを……カイト様! ハートランドシティの市外、かなり高密度のバリアン反応がアリマス。恐らくはバリアン七皇の誰かではないかと思われるでアリマス!」

 

 今、残っているバリアン七皇はナッシュ、ドルベ、メラグ、ベクター、そしてミザエルだ。

 その中であの二人が激怒している様子から合流し遊馬達を倒そうと言う動きというよりは仲たがいを起こしているように取れる。

 そして今、バリアン七皇の中でぶつかり合う理由があるのはたった一つだけだ。

 そこにベクターが居るのか、そう遊馬が呟き飛行船へと戻ろうとする、だが響子の腕遊馬の前に突き出される。

 

「待て、彼らはドン・サウザンドに操られている、恐らくはあの先にいるのはナッシュだろう」

 

「もしもその言葉が本当ならばチャンスだよね」

 

 最上は笑いながら遊馬が激怒しそうな言葉を平気で言ってのける。

 

「なっ!?」

 

 部屋の中の目が最上へと向けられる。

 最上は浴びせられる視線や敵意に満ちた視線に嬉しそうな笑みを返し、

 

「そうだとしたら城の中に居るのはベクターとドン・サウザンドとバリアン兵だけ、あいつに気を取られている間に城に乗り込んで諸悪の根源をぶっ倒した方が早いよ、あえ、私なんか間違ったこと言ったっけ?」

 

 最上の言葉は暗にこう言っている。

 ナッシュを囮に防御の手薄なベクターの所に乗り込もうぜ、と。

 確かに状況は切迫し、すぐさま行動しなければいけない状況だ。

 

「ナッシュがもし倒されたとしても大本をぶっ倒せば万事解決じゃないか、どうだい?」

 

 最上は笑いながら言う。

 遊馬は眉を寄せ考え込み、アストラルを見る。そしてカイトを見、皆を見る。

 そして、

 

「ごめん、だけど俺はシャークを助けに行きたいんだ」

 

「裏切って殺されかけて助けに行く、か」

 

 遊馬の言葉を予想していたのだろう、あまり落胆した様子を最上は見せず、だが理解できないという表情を浮かべ首を横に振り、自分の持っていたデッキを弄り始める。

 

「まあいいや、好きにしろよ、私は行った先で叩き潰すだけだ」

 

 カイトはそれを見、体の力を抜き、

 

「父さん、心配してくれる事は嬉しい、だが俺は行かなければいけないんだ、分かってくれ」

 

 父の肩に手を置き真っ直ぐに目を見て言う。

 息子の決意が固い事にフェイカーは説得できない事を悟ったように目を伏せ、

 

「元はと言えば儂がバリアンと手を組んだばっかりにこのような事態が起きてしまった、これは儂の罪だ、カイト、お前を行かせるわけには行かない!」

 

「父さん、それは俺の罪でもある、俺もバリアンの力を使ってハルトを救う為に沢山の人を不幸にしてきた」

 

 カイトは以前、ナンバーズハンターの異名を持ち、ナンバーズによって暴走した人々の魂ごと刈り取るためにバリアンの力を使っていた。

 それらは全てカイトの弟、ハルトの為だった。

 ハルトはもともと幼いころから体が弱く、フェイカーの前に現れたベクターによって延命する術を与えられアストラル世界に大量のゴミを送り込むと言う攻撃を行っていた。

 遊馬達によってベクターの計画は阻止され現在、ハルトは健康で普通の少年として暮らしている。

 だがフェイカーとカイトがハルトの為にしたことは多くの人を傷つけてきた、それは変えようのない事実だ。

 息子へ自分の罪を背負わせたくないと叫ぶフェイカーをカイトは優しく抱き締め、

 

「大丈夫だ、父さん。俺は今年で18だ、親父の罪ぐらい俺が背負ってやる生きて戻ってくる、だから信じてくれ」

 

「カイトぉ……」

 

 息子の硬い意思にフェイカーの方が折れ、目を閉じカイトとしっかりと抱く。

 しばらく誰も話さない時間が流れ、カイトは手を離す。

 

「父さん、ハルトと一緒に安全なところに逃げろ」

 

「安心しろ、すでにハルトはシェルターに避難させておる」

 

 カイトの最後の心残りとなるかもしれない弟、その安全を示すためにフェイカーは手元のコンソールを操作、シェルターの中に居るハルトの様子を映す。

 ハルトはベッドに寝ておりその寝顔はとても安らかだ。

 ハルトを知る遊馬や小鳥は安堵の笑みを浮かべる中、響子の表情の半分だけ奇妙な物を見たような表情を一瞬だけ浮かべるのを裕は見逃さなかった。

 その真意を確かめるよりも早く、カイトは遊馬達を見、

 

「行ってくる」

 

 そういい残しヘルメットを持ちカイトは走って行ってしまった。

 

                   ●

 

 ピーっという耳障りな音が街に響く、それは街に設置された非常用警報を町に響かすスピーカーだ。

 そこより聞こえるのはナッシュとなった自分にとって懐かしいと感じられる声だ。

 この放送は世界中へと発信されている、と前置きし、

 

「ミザエル聞こえているか、俺はこれから月に行く。そして月で最後のナンバーズ、銀河眼の名を持つナンバーズを覚醒させる、そのためにミザエル、俺と月で決闘しろ!」

 

 響く声は強く一片の恐れも抱いていない事が感じられる。何回もそれが繰り返され、突然、放送にノイズが入る、そしてどたばたと騒がしい物音が聞こえ始める。

 あーマイクテスト、マイクテスト、と気の抜ける明るい声が、そして遠くより男の困惑した声、とそれを複数の人物が宥める声もある。

 

「ごめん、フェイカーさん、でもメアドとか知らねえし今回言わないとどこで会えるか分からないしちょっと借りるよ。……水田、俺はお前を止めようと思う」

 

 それはカイトがミザエルに宣戦布告するのとは違う静かな声だ。

 

「お前だって俺に言いたいことがたくさんあるだろ、俺を一回ぶっ倒したぐらいじゃお前の中の不満は解消しないはずだ、お前が俺の立場だったら何回でもぶっ倒してえって思う。だからさ、もう一度決闘しようぜ、俺とクェーサーがお前を止める」

 

 その言葉の本当の意味を分かった人間はこの世界で一人しかいない。

 そしてそれを正しく理解してしまった少年は拳が砕けるほど力を入れ激情を覚えるだろう。

 それはその少年に言ってはいけない言葉だ。触れてほしくない逆鱗であり、今度こそ本気で殺そうとするだろう。

 それらの意味を理解しないナッシュはどんな状況に置かれても変わらない少年を懐かしく思いながらも歩を進める。

 目指すはベクターの居るであろうバリアン城だ。

 バリアン人としての力を取り戻し人間の時よりも身体能力が向上したナッシュにとって目の前にある街を飛び越える事は簡単である。

 だがむやみに力を放出すれば敵に居場所を知られ大量のバリアン兵による人海戦術を取られ疲弊させられてしまうだろう。

 ナッシュは今なおハートランドシティの塔に群がり続けるバリアン兵を見、バリアン城へと走り出す。

 だが走り出した彼の脚を止めざるをえない事が起きる。

 足元に氷の氷柱が叩き込まれたのだ。

 空を見ればメラグの姿をした人影が浮かんでいる。

 

―――ベクターの差し金かっ!

 

 ナッシュはこの状況を作り出した者の作意を見抜く。

 絆をバカにし家族の情を愚かだと嘲笑うベクターがメラグとナッシュの生前からバリアン七皇、そして神代凌牙と神代莉緒として生きて来て築き上げた物をぶち壊そうとしている事を理解し、ナッシュはまず走り出す。

 右、左とジグザグに向きを変えるナッシュの背を氷柱が正確に叩き込まれ道路は砕けていく。

 誘い込まれるように大きな道路へと飛び出したナッシュを待っていたのは黄色の光盾だ。

 脇道から飛び出してきたナッシュを誘導するように斜めに展開された光盾にナッシュは一瞬だけ迷うも背中より叩き込まれる氷柱に判断を急かされる。

 斜め前を見ればドルベの様な人型が居る。

 

「くっ!」

 

 迷うもナッシュは背後に迫る氷柱を身を半身にする事で回避しもと来た道を駆け戻る。

 その動きを予想していなかったのか僅かに慌てた様子を見せる偽メラグ。

 ナッシュの近づく事を拒むように氷柱が辺りへと無差別に連射されるがそれを突き破り、壁を蹴り飛ばし宙に浮くメラグを肉薄する。

 ナッシュへと伸ばされた偽メラグの細い腕、服ごとナッシュは掴み引き寄せる。

 偽メラグの顔はすぐ傍にある。

 氷のように済んだ瞳は憎しみの炎に燃え上がりもう片方の腕は適格にナッシュの目を貫こうとする。

 その一撃を首を横に倒す事で避けナッシュは手を伸ばす。

 偽物と分かっているとはいえども妹の姿をしており痛みを与えたくないと言うのがナッシュの僅かに残る甘さだ。

 一番痛みを感じないであろうメラグの頭へと掌を押し当てエネルギーを流し込み四肢を麻痺させる方法を取る、それは並のバリアン兵ならば一瞬で動きが取れなくなるであろう一撃だ。

 だが、

 

「なにっ!?」

 

 エネルギーを流し込み終わり動きを止めた偽メラグ。

 それを見て、安堵したナッシュだったが偽メラグを掴んだ手をメラグの細い両腕が蛇の様に絡められた事で表情を一変させた。

 一撃で行動不能に追い込めなかった事に驚愕を持ち、メラグの体から漏れるカオスの奔流を見てナッシュはようやく真実を悟る。

 ナッシュが偽物だと思ったメラグは本物のメラグの魂を持っていて、ドルベも同じように本物の魂を使われている事を。

 

―――おのれ、ベクター、どこまで俺達の絆を弄べば気が済むんだ!!

 

 怒りに燃えるナッシュと動きを封じているメラグごと黒紫のカード達が取り囲んでいく。それはドン・サウザンドが作り出した逃亡を防ぐ檻だ。

 そこに囚われた以上、発生させた人物を決闘で倒さなければナッシュはこの場を立ち去ることは出来ない。

 すでにナッシュをこの場にくぎ付けにする役割を終えたメラグの手は離れている、そして黒紫のカードの外よりドルベが侵入してくる、これで2対1となる。

 

「……どこかで俺達をみてるんだろう、ベクター」

 

 ナッシュの憎しみに満ちた声、それに答えるようにけたたましい笑い声が街のあちこちより聞こえてくる。

 反響し拡散しどこにいるかもつかめない様な高くなったり低くなったりするそれはひたすらに笑っている。

 可笑しくて可笑しくて仕方ないと笑い続けるベクター、そしてメラグとドルベが持つカードよりカオスが溢れベクターの形を作り上げる。

 

「ああ、見てるぜ、この特等席でなぁ」

 

 フェイカーに憑りついていたように靄のような姿である。

 本当の体ではないにせよ溢れ出すカオスは本物だ。

 

「メラグとドルベを正気に戻せ!」

 

「それは出来ない相談だ、本来ならすっげぇ長い時間かからないと構成できない肉体をドン・サウザンドの力で作ってやったんだぜ、作ったからには俺様のもんだろ、お人形で何して遊ぼうが構わねえだろうがよう!」

 

 ナッシュの怒りと憎しみ、ベクターの楽しいという喜の感情は互いに絡み合いながら黒紫の領域を揺らしていく。

 放出される力は黒紫の領域を打ち振るわし、周囲のビルの窓を一つ残らず砕いていく。

 

「ベクター、貴様、どこまで卑劣なやつなんだ! 決闘者だったら決闘者らしく自分のデッキで決闘しねえか!!」

 

「ざぁんねぇん、俺はリアリストだ。人海戦術、だまし討ち、服毒に人質、使える手段は全て使う、というより使わねえ方がどうかしている、これだから温いんだよ、バリアン七皇はよっ!!」

 

「なんだと!」

 

 ベクターの言葉をナッシュは見過ごすことは出来ない。

 ナッシュとしての記憶を取り戻した彼は分かる。バリアン七皇がどれだけ滅びを回避しようと戦ってきたかを、それら過去の積み上げを「温い」で両断し塵屑と評価するベクターへと怒鳴る。

 それを意にもせずベクターは両手を広げ叫ぶ。

 

「世界の危機だぜ、世界の! アストラルの使命を邪魔しなけりゃ俺達の世界が滅びて、みんな仲良くお手々繋いで地獄行きなのに、雑魚共洗脳して遊馬達にけしかけて自分は人間世界のアイドルに嵌るギラグ、敵と仲良くなってくだらねえ心情抱いて挙句の果てに負けてヘラヘラ笑うアリト、特定の個人ばっかり執着する頭ン中ドラゴン一色の脳筋ミザエル、偉そうな事言って居なくなった奴のケツばっかり追いかけるふ・くリーダーのドルベ!」

 

 バリアン七皇をどう評価していたか、ベクターは胸の内に溜まりに溜まっていた不平不満をぶちまけていく。

 

「どいつもこいつもふざけてやがる! 俺達に後がねえって理解してねえんじゃねえのか!!」

 

 目を限界まで開き、唾を散らし、歯を剥き出しにし、感情のままにベクターは叫ぶ。

叫び散らす。

 

「命がけの戦いで負けてへらへら笑うなよ! 偉そうな事ばっかり言って肝心な所で動かないで、本気でやばい所でようやく本気出して勝つ俺達カッコイーってか? なんだそれは、なんなんだ!? お前ら本当に必死で生きてんのかっ、お前ら全員負ける事を考えてないのか!? 俺達は死なないでも思っているのか、バカだろ、お前ら全員!!」

 

 感情を吐き出す先、ベクターの顔は笑みが強くなっていく。

 正しい事を言っている自分に酔う様に、間違っていない事を言っているんだからそれは否定できないだろうと。

 他者を嘲笑い、下に見てベクターは声高らかに他者を貶す。

 

「どいつもこいつも本気で相手を殺そうって気が無いんなら俺様に全ての力を渡しときゃよかったんだよぉおお! そうすりゃ俺様がバリアン世界を救ってやるって言うのによ!」

 

 ベクターより発せられるカオスは強大で大きなものへと変わっていく、裕や遊馬の決闘を遥か遠くより観察していたナッシュにはアリトとギラグの魂を吸収したがゆえにベクターが強化されたのだろうと分かる。

 それは濃密な紫、そして情熱的な赤、計算高い緑の光を交えて光り輝く。

 

「見ろよナッシュ、この今のバリアン世界を! アストラル世界に攻め込んで半壊に追い込んだのは? ナンバーズを手に入れ九十九遊馬達を追い詰めたのは? ちっぽけなバリアン世界をここまで大きくしたのは誰のおかげだ?」

 

 手を広げ、自らの起こした行動を誇る。

 

「そう、全部俺様だろ! お前の功績なんて見てくれだけの七皇の絆とやらが形になったランクアップマジックを1枚作り上げただけじゃねえか! 俺様が居なきゃここまでの事は出来なかった、それは俺が王になったからだ! 神の力を手に入れバリアン世界を総べる王になったお・れ・さ・まのおかげだぁっ!」

 

 両拳の親指を立て自分へと向け、ベクターは勝ち誇る。

 ここまで来れたのはすべて自分のおかげだと、ナッシュが居なくても自分が王となり全てを率いればこの戦争は勝てる、だからお前の力を寄越せと、ベクターは言う。 

 

「戦術と戦略を織り込み、盤外戦術だろう使える手を全て使い敵を倒す。命を賭けた戦いでそれをしてそれのどこに非難される謂れがあるんだ? 俺様が正しくないってか、えぇ? ナッシュよぅ?」

 

 そちらの言葉を待ってやる、と言いたいのだろうベクターはこちらの言葉を待つ。

 ナッシュはベクターの言葉を聞き、思った事を率直に述べる。

 

「…………確かにお前の生き残りたいという執念は本物だ、お前の野心からの行動が結果的にお前がバリアン世界を救うかもしれない」

 

「そうだろう、そうだろう。後残るはあいつ等だけだ、だから手を貸してくれよ」

 

 手を伸ばされる、この手を取ればメラグ達は正気に戻してくれるだろうか、否。それをする男ではない事をナッシュは知っている。

 

―――遊馬辺りならば信じるべきか悩むだろうな、それがあいつの良い所で悪い所だ。だが俺は、

 

「だがお前のやり方ではお前以外誰も幸せになれない! 民も国も、全てを玩具にするお前の汚らわしく腐りきったその魂を、用意周到に練られた戦術と戦略、番外戦術を全て俺が食い千切らせてもらう!」

 

 伸ばされる手を払いのけた。

 その上でベクターを睨み付け敵対する意思を示す。

 

「そう、そうだよなぁ、そういう民を思うくだらねえ気持ちが、態度が、政策がなぜだか知らねえが昔から無性に気に食わなかったんだよ、見ててイライラするんだよぅ、なんでだ、なんで俺様がこんなくだらねえ事でイライラさせられなきゃいけねえんだ!」

 

 ベクターは発狂したように髪を掻き毟り叫ぶ。

 それに応じる様にナッシュのエクストラデッキより光が漏れる。それはアビス・スプラッシュより渡された遺跡のナンバーズだ。

 

「…………まさかな」

 

 その事実が示すのはたった1つだ。

 だがナッシュはそれを信じられず、ポツリと本音が漏れる。

 

「さあ決闘だ、お前のその力、ナンバーズを全て渡してもらう!」

 

 交渉にも似た互いの意見のぶつかり合いはこうして幕を下ろす。そして始まるのは決闘の時間だ。

メラグとドルベは互いに決闘盤を構築、デッキを装填しいつでも戦える準備を整える。

 

「ルールはタッグ決闘、墓地、場を共有する、良いな?」

 

「ああ」

 

「じゃあもう1つ、お前のハンデは一切なし。お前はライフ4000、手札が5枚からスタートだ」

 

「なっ!?」

 

「良いか?」

 

 断ればメラグの首を跳ねるとでも言いたげにベクターはメラグの首に手を当てる。それは無言の脅しであり、ベクターが本気ではないという証明でもある。

 本気で殺しに来るならば決闘が始まった瞬間、何もせず直接攻撃を受け続けろと言えば済むだけの話でありハンデ無しだけで済むわけが無い。

 そして大切な妹と親友の命をまたも喪いたくないナッシュはその条件を呑むしかない。

 

「くっ……分かった」

 

「さあ。楽しい楽しい親友と兄妹の殺し合いの始まりだぁ!!」

 

ベクターの最高に楽しいという感情に塗れた声を開戦の合図に三人は同時に叫びをあげる、

 

「「「決闘!!」」」


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