クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード   作:TFRS

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ナンバーズの力 上

 黒原の目の前に立つのはエヴァを倒したというシンクロン使いの水田だ。

 

―――態々あの最上が代役を任せるような決闘者なんだからなんか凄い能力をもっているんだろう。

 

 そう黒原は決闘が始まる前まで考えていた。

 だが同時にこうも思っていた。

 

―――誰がどんな能力を持っていようが偽物ごときが僕の勝利を邪魔できるもんか。

 

 黒原の最強とも呼べるような能力に裏付けられた自信は揺らがない、筈だった。

 自分の能力とチェーンバーンデッキに負けは無い、そう思い5枚をドローし、先攻後攻を決めた際、そして手札を見て、黒原は息を呑んだ。

 

―――なんで!?

 

 驚愕の表情を見せない様に押し殺しながらも、体背に空いての裕を見れば表情は無く、ただ立って決闘するだけの人形のようだ。

 黒原の驚愕で埋め尽くされまともな思考が出来ない状況、裕の声が響く。

 

「俺のターン、ドロー。調律を発動、クイック・シンクロンを手札に」

 

 静かに、滑らかに動く。

 そこまで見過ごし、ようやく驚愕から立ち直った黒原は、裕がデッキトップから墓地に置いたカードを確認する。

 ギアギアングラーだ。

 それを見て、黒原は眉を顰める。

 

―――何のデッキだ、ギアギア型か?

 

 普通のシンクロン型にギアギアングラーを投入するメリットは少ない、というか無い。

 黒原の知っているシンクロン型は墓地が溜まるまで耐えてからのジャンクドッペルなどによる大量展開かクイック型の手札6枚から動くデッキしか知らない。

 

「ダークシー・レスキューを召喚、クイック・シンクロンをコストにクイック・シンクロンを特殊召喚、レベル1のダークシー・レスキューにレベル5のクイック・シンクロンをチューニング、シンクロ召喚、レベル6、ドリルウォリアー!」

 

 光の中、ドリルのモーター音を轟かせながら茶色の戦士が姿を現す。

 

「シンクロ素材となったダークシー・レスキューの効果でデッキから1枚ドロー、そして永続魔法、炎舞―天キを発動、レベル4以下の獣戦士族、TGワーウルフを加える」

 

 無表情のまま、裕は決闘を続けていく。

 何も考えず、ただ目の前の敵を倒すために手を動かしていく。

 

「ドリル・ウォリアーの効果、自身を除外し手札を1枚捨てる」

 

 ドリル・ウォリアーは足先についているドリルを使い地面に潜っていく。そして裕は手札を1枚墓地に送った。

 それは先ほどサーチしたワーウルフだ。

 

「そして墓地の風属性のクイック・シンクロン、闇属性のダークシー・レスキューを除外」

 

―――その召喚方法は!?

 

 ますます裕のデッキ内容が分からなくなるも、現れるであろうカードに黒原は舌打ちをする。

 裕の前、墓地が展開し緑色と黒の球が浮かび上がり黒色の竜巻と成り部屋へと封殺の風をぶちまけていく。

 

「手札よりダーク・シムルグを特殊召喚する」

 

 竜巻の内側より姿を現した黒い怪鳥、それは今の黒原の現状では最悪に近いモンスターだ。

 怪鳥はその巨大な翼を広げ、羽ばたきを始め、その羽ばたきより発生した黒い澱みが黒原の魔法罠ゾーンを埋め尽くしていく。

 その怪鳥、ダーク・シムルグの効果は2つ、手札にある時は墓地の風闇を、墓地にある場合は手札の風闇をそれぞれ1体ずつ除外する事で特殊召喚する、そしてこのカードが場に存在する限り相手はセットする行為を行えない。

 

「厄介なカードを!」

 

「俺はこのままターンエンド」

 

裕場     ダーク・シムルグ ATK2700

LP4000

手札2    炎舞ー天キ

 

黒原場

LP4000

手札5

 

「ドロー、なんでだ⋯⋯?」

 

 そしてドローしたカードを見て黒原は困惑を強める。

 

―――おかしい、先攻も取れず、初手が悪い。それにドローも微妙だ。どういうことだ? コイツはいったい何者だ?

 

 黒原はいつもとは違う異常事態に困惑しながらも戦略を練る。

 裕がエヴァを倒したのは運が良かったからかもしれないし、デッキをうまく組んでいた可能性もあった。

 だが何かしらのものを持っているかもしれないと黒原は考え、いつかは会って話してみようかと画策していたが、このような形で出会うとは思ってもいなかった。

 

「強欲で謙虚な壺を発動」

 

 黒原はデッキを3枚めくりディスプレイに押し付ける、

 そうすると裕と黒原の中心、3枚のカード、カード・カーD、溶岩魔人ラヴァ・ゴーレム、無謀な欲張りが浮かびあがった。

 

―――めくられたカードも悪くはない、だけどこの状況をひっくり返すようなものでもなく。

 

 この状況でラヴァ・ゴーレムを選択しても裕はモンスターをセットせずにダーク・シムルグとドリル・ウォリアーのビートによってダメージを与え続けるだけあろう。

 そうなれば手札補充の2枚しか選ぶ候補はない。

 そしてセットが出来ず、今の現状で選ぶのは、

 

「カード・カーDを加える。そして僕は一時休戦を発動。お互いにドローしお前のターンが終わるまで僕はダメージを受けない。そして手札からマシュマロンを攻撃表示で召喚、ターンエンド」

 

 ダーク・シムルグの効果で黒原はカードを伏せることが出来ない。故にチェーンバーンの火力は封じ込まれたも同然だ。

 今、黒原に出来るのは機会を待つ事のみである。その事を屈辱に思いながらも黒原はターンを終えることしかできない。

 

黒原場     マシュマロンATK300

LP4000

手札5

 

裕場     ダーク・シムルグ ATK2700

LP4000

手札2    炎舞―天キ

 

「ドロー、スタンバイ、ドリル・ウォリアーの効果発動、このカードをフィールドに特殊召喚し墓地よりモンスターを1枚手札に加える、僕は墓地よりワーウルフを手札に加え、そしてドリルの効果で自身を除外、ワーウルフを捨ててターンエンド」

 

 裕は動かない。

 手札を1枚増やしただけだ。

 

「僕のターン、ドロー、ちっ、強欲で謙虚な壺を発動」

 

 再び展開されるカード達、それらを見て黒原は舌打ちをする。

 おジャマトリオ、仕込みマシンガン、カード・カーD。それらのカードを見て、自分の思い通りにならないサーチに不快感を露わにしつつ。選ぶ。

 

「ッッ!? おジャマトリオを加える、マシュマロンを守備表示にし、そしてカード・カーDを召喚、カーDをリリース2枚ドロー……くっそ、なんなんだよ。僕はこれでエンド、手札が7枚あるので手札制限で1枚捨てる」

 

 コンボパーツは揃いかけている、あとはあの怪鳥を仕留めるだけ、そう思い手札で腐っていた魔法の筒を墓地に送る。

 

黒原場     マシュマロンDEF1000

LP4000

手札6

 

裕場     ダーク・シムルグ ATK2700

LP4000

手札3    炎舞ー天キ

 

「ドロー、スタンバイ、ドリル・ウォリアーがフィールドに特殊召喚、効果でワーウルフを手札に、メイン、ドリル・ウォリアーのもう1つの効果で攻撃力を半分にし直接攻撃が出来るようにする。そしてバトル、ドリルで直接攻撃だ」

 

 黒原へと発射されたドリルを受け止め、そしてふと、この決闘を見ている最上は今、どの表情を浮かべているのだろうかと思い、見れば最上も自分と同じようにいぶかしげに眉を顰め、口元に手を当てている。

 

―――どういう事だ、この展開は最上が作った筋書じゃないのか?

 

「メイン2、ドリルの効果で自身を除外しワーウルフを捨てる、カードを1枚伏せてターンエンド」

 

裕場    ダーク・シムルグ ATK2700

LP4000  伏せ1

手札3   炎舞ー天キ

 

黒原場     マシュマロンDEF1000

LP2800

手札6

 

「ドローっ」

 

 ドローしたカードはまたしても黒原が思い描いた物ではない。それでもこの状況を打破できるかもしれないカードだ。

 だが黒原の表情は硬い。

 思い通りにカードをドローが出来ない口惜しさと、どのような状況に追い込まれても好きなカードをドローできる能力に頼り、ピンポイントメタなカードを入れた60枚デッキにした事を後悔していた。

 

「く、ターンエンド」

 

 手札より和睦の使者を捨てながら黒原は焦り始める。

 戦闘破壊されない効果を無効にされるか、カード効果で除去されてしまえばすぐに突破されてしまう頼りない壁では一向に安心できないのだ。

 

―――どうして最強の力を持ってアニメの世界に入ったのに、こんな地味な運ゲーなんてしてるんだ、僕は……!

 

黒原場     マシュマロンDEF1000

LP2800

手札6

 

裕場     ダーク・シムルグ ATK2700

LP4000   伏せ1

手札3    炎舞ー天キ

 

「ドロー、スタンバイ、ドリルがフィールドに特殊召喚、効果でワーウルフを手札に、メイン、ドリルの効果で攻撃力を半分にし直接攻撃が出来るようにする。そしてバトル、ドリルで直接攻撃」

 

黒原LP2800→1600

 

 ドリル・ウォリアーの攻撃は黒原を届く。だがそれを黒原は待っていた。

 

―――ようやく、ようやく今までのお返しができる!

 

「ひっかかったな、ダメージ計算後、トラゴエディアで特殊召喚する!」

 

 黒原の背後、後方へと延びる影より蟹の様な鋏を持つ黒く巨大なモンスターが現れる。

 黒原の手札は5枚、よってトラゴエディアの攻撃力はダーク・シムルグを超える3000となっている。

 最上はそのモンスターの登場に顔を曇らせ、焦りを表情に見せる。

 

「まずいな、ダーク・シムルグが倒されると」

 

「そう、溜まりに溜まった僕のチェーンバーンの本領発揮だ」

 

 絶体絶命の危機であるにも関わらず裕は変わらず無表情で、

 

「メイン2、再びドリルの効果で自身を除外しワーウルフを墓地に、カードを1枚伏せてターンエンド」

 

裕場    ダーク・シムルグ ATK2700

LP4000  伏せ2 

手札3   炎舞-天キ   

 

黒原場   マシュマロンDEF1000

LP1600  トラゴエディア ATK3000

手札5

 

「今までやって来たこと全部、お前に返してやる! ドロー、よしよし、やっとまともなカードが引けたぞ」

 

 ようやく思い通りのカードをドローした黒原はボロボロにしてやると鼻息を荒くし、手札に溜まっていたカードを爆発させる。

 

「まずはその厄介な鳥からだ! 手札のレベル7、冥府の使者ゴーズを墓地に送りトラゴエディアの効果発動、ダーク・シムルグのコントロールを得る!」

 

 怪鳥はトラゴエディアの邪眼より放たれた光を見てしまい、ふらふらとした動きで黒原の場に飛んで移動する。

 それと同時に黒原の魔法罠ゾーンに満ちていた澱みが消滅し黒原はカードをセットすることが出来るようになった。

 

「バトルだ、トラゴエディアで直接攻撃!」

 

「罠カード、和睦の使者を発動、俺への戦闘ダメージは発生しない」

 

 トラゴエディアの振り下ろした前足は裕を守る様に発生した壁によって弾かれる。

 それを見、黒原は舌打ちをするも、

 

「ちっ、メイン2、トラゴエディアをリリースしアドバンス・ドローを発動、デッキより2枚ドロー、サイクロン、お前の伏せカードを破壊する」

 

 手札で腐っていたアドバンス・ドローを用いて、黒原は足りないコンボパーツとサイクロンをドロー、発動し 裕の伏せカードを剥がしにかかる。

 破壊した伏せカードは魔宮の賄賂、ダーク・シムルグを守るために伏せていたのだろう。

 

―――ブラックホールをドローしなくてよかった。

 

 黒原は心の底で安堵しつつ、

 

「カードを5枚伏せてターンエンド。これで終わりだ!」

 

 必殺とも呼べるカードを5枚伏せ裕へとターンを回した。

 

黒原場   マシュマロンDEF1000

LP1600  ダーク・シムルグ ATK2700

手札0   伏せ5

 

裕場    

LP4000  炎舞-天キ

手札3   

 

「ドロー、スタンバイ」

 

 裕の宣言時に黒荒は動かない。

 まだそれを放つタイミングでは無いからだ。

 

「ドリル・ウォリアーを特殊召喚、効果でギアギアングラーを墓地から回収する」

 

―――ここだ!

 

「回収した後、罠カード、自業自得を発動、仕込みマシンガン、おジャマトリオを発動!」

 

                   ●

 

 最上はその瞬間、これは負けたかな。そう諦めかけていた。

 だが、次々に開いていくカード達、それらを無感情の声音で流していく裕を見て、何かがおかしいと気付いた。

 それがなんなのか、しばらく考え込むも思い出せない。

 興味が無い為に記憶の片隅にも置いていなかったのである。

 それでも必死で考え、最上は菅原と裕の決闘を思い出した。

 裕は考えている事が顔に出るタイプだ、それなのに今の絶体絶命の状況で怯えるような表情を見せない裕、それがおかしいのだ。

 

「まだだ、ドリル・ウォリアーをコストにリリースし俺は速攻魔法、神秘の中華なべを発動、ドリル・ウォリアーの攻撃力分ライフを回復する」 

 

 裕のその行動によって、おジャマトークンが3体特殊召喚され、仕込みマシンガンと自業自得の効果で1600と1500のダメージを受けようとも裕は敗北は無くなったかに思えた。だが、

 

「いいや、逃がさない、速攻魔法、連鎖爆撃!」

 

 積み上げられたチェーンの数は5つ、これによって発生する効果ダメージは2000だ。

 まだ裕のライフを焼き切れない。

 だから黒原は最後に、更に爆撃をぶち込みにかかる。

 

「これで終わりだ、もう1枚、連鎖爆撃!」 

 

 連続する爆撃の嵐、それらは部屋の中で大量の爆竹と花火をぶちまけたかのように連瞬き、連なって裕へと襲い掛かる。

 2枚の連鎖爆撃によって発生する効果ダメージは4400ポイント、裕のライフが6400になろうとも7500ポイントものダメージを受けて敗北してしまう。

 

「これで終わりだ!」

 

「まだだ、神秘の中華なべ、そして炎舞ー天キを墓地に送り速攻魔法、非常食を発動。墓地に送った魔法罠カードの枚数×1000ポイントライフを回復する」

 

「っなんだと!?」

 

 積み重なった光の乱打により裕のライフは増減し最後に1100ポイントを示し、止まった。

 仕留めきれなかった悔しさが黒原の顔に浮かんでいて、最上はざまあみろと、心の中でほくそ笑み、そして鼻を押さえ、周りを見る。

 

―――なんだ、何が起こっている!?

 

 最上が感じた物、それは臭いと妙な音だ。

 何かが焼けるような臭いとバチバチという火花のような音、それらから連想させるのは何か電子機器がショートをお越し火事になりかけている状況だ。

 周りを見ると、部屋で身を乗り出してみていた男達がパソコンや冷蔵庫といったコンセント部を見て回ったりしている。

 騒がしくなってきた部屋の中、裕はそれらを無視し手札を掲げる。

 

「ギアギアングラーを召喚、そして攻撃力500のギアギアングラーを対象に機械複製術を発動、デッキよりギアギアングラーを2体、特殊召喚する。そしてレベル4のギアギアングラー、3体でオーバーレイ!」

 

 発生する渦、それが出現した瞬間、部屋の電子機器が火花を散らし始める。

 立体映像の演出かとも思いDゲイザーを外し見れば実際に火花が始めている。

 

「これは、どういう事だ!?」

 

 最上は裕の場に発生した渦を見て疑問を叫ぶ。

 最上は裕が今、使っている対チェーンバーンデッキのエクストラデッキを全て知っている。

 そしてレベル4が3体のエクシーズを入れていないはずだということを断言できる。

 なのに今、ギアギアングラーは球となり渦の中に吸い込まれていく。

 

「もしかして、この現象って!?」

 

「俺から奪おうとするものを全て壊せ、雷光の化身よ。壊し砕き、安らぎと平穏をもたらせ!」

 

 裕の声は徐々に感情を込められ、そして強くなっていく。

 全てを呪い、理不尽に自分を攻撃する運命や他人を憎み全てを破壊しようと強く願い、裕の体にナンバーズの刻印が浮かび上がる。

 そして青い甲殻で覆われた球体が光の渦の中から現れ稲妻を放ちながら変形を始める。

 口が大きく裂け、長い鰭、鞭のようにしなる体が雷鳴と共に出現し魚竜の姿をとる。最後に自身を示す番号が左頬に示され、竜は咆哮をあげた。

 

「来い、No.91サンダー・スパーク・ドラゴン」

 

「やっぱり、ナンバーズ!」

 

「効果はOCGなのに戦闘耐性だけはあるのか、めんどいな」

 

 最上は驚きながらも決闘盤でナンバーズの能力を見てため息を吐く。

 サンダー・スパーク・ドラゴンとは漫画版で登場したナンバーズでありOCG化にあたって微妙に召喚条件が書き換えられたのだが、最上の言葉からはこのカードはOCGの効果とアニメ、漫画版を通じてナンバーズにあったナンバーズと名の付いたモンスターとの戦闘でしか破壊されないという効果だけは残っているようだ。

 

「サンダー・スパークの効果発動、オーバーレイユニットを3つ取り除きこのモンスター以外のモンスターを全て破壊する」

 

 魚竜は口を開く、3つの周囲を飛び回っていたオーバーレイユニットを口の前へと集結、激しい雷を放った。

 光が収まると焦げたような匂いと熱気が辺り一面に広がり白いマシュマロ、黒い怪鳥の姿はない。

 

「そしてサンダー・スパーク・ドラゴンで直接攻撃!」

 

 再び雷電竜はバチバチと大きな音を立て雷光を溜める。

 その光が強くなるにつれ周囲にあったテレビや冷蔵庫が異臭を放ちながら火花を散らし、黒原はようやく異変に気付く。

 

LP1600→0

勝者 水田裕

 

                      ●

 

「まずいっ!」

 

 その場から黒原が大きくジャンプしたのと、黒原が先程まで立っていた場所に攻撃が放たれたのはギリギリのタイミングだった。

 衝撃波と轟音が周りの家具と最上達を吹き飛ばし、雷は床を突きぬけ遙か下に埋まる水道管に叩き込まれた。

 水道管は破裂し、部屋を中心とした半径1キロ以内の電子機器は残らず壊れ、小さくではあるが火事にまで発展していた。

 

「危ねぇ、今マジで死ぬかと思った」

 

「お前がどうなろうとどうでもいい。コイツをこのままにしておいたらまずいんだよ、黒原、お前がどうにかしろ!」

 

「お前が連れてきたんだろうが、お前がどうにかしろ!」

 

 水が吹き上がり、電子機器は残らず煙を掃き出し異臭が立ち込める室内、最上は裕を見れば、周囲の現状をものともせずこちらをじっと眺め決闘盤を構えている。

 その眼は2人を真っ直ぐに捉え、明らかにまずいと判断できる。

 

「逃げる!」

 

「待てよ」

 

 最上は即座に走り出し、それを黒原が追いかける。

 倉庫を飛び出し、2人が後ろを見ると裕が滑るように宙を浮きながら決闘盤を構え二人を追って来るのが見える。

 

「決闘だ」

 

「遊戯王世界に染まってなかった水田が訳分からないことを言い出したぞ、おい黒原、お前のチートっぽいの能力でなんとかしろ!」

 

「その事なんだが!」

 

 最上が黒原を生贄にしようと服の袖を引っ張れば、バランスを崩した黒原が最上のスカートを掴み体勢を立て直す、それを何度か繰り返す2人は何度も何度も互いの脚を引っ張りながら走るも裕を引きはがせない。

 

「さっきの決闘で僕は思う様にデッキからカードをドローできなかったんだけど、どうしてだ!?」

 

「それならコイツの力だよ、スキドレみたいなやつだ」

 

 そう言われ黒原は即座に納得したように首を縦に振り、

 

「必ず先攻を取れて、相手は僕の行動を妨害するカードをドローできず、ドロー全てが思い通りになる力、それを無効にするなんて、まるで意味が分からんぞ!」

 

「お前の理不尽チートの方がまるで意味が分からんぞって言いたくなるレベルなんだけど、インチキ能力もいいかげんにしろ!」

 

 ネタに走る辺りまだ2人には余力がある。

 後ろから雷撃をぶち込まれながらも、それを躱し2人は作戦会議を始める。

 

「征竜魔導に甲虫装機の全盛期なんてぶっ壊れシリーズを使うお前も対外だよ、って危ねえっ!」

 

 足元に叩き込まれる雷撃をジャンプで避け、横薙ぎに放たれる雷撃をスライディングで交わした2人は走り続ける。

 走り続ける中、最上が思いつくのはアニメであった3つのサイコロを同時に振って全て7を出す男の話だ。

 漫画やアニメの設定ではナンバーズを所有する事で運が良くなったり、料理が上手くなったり、欲望などが強くなったりしたという話もあった、

 裕の能力はスキドレと言ってもそこまで凄まじい性能は無かったはずだ、それなのに神から貰った最強レベルの能力を封殺する性能を発揮するとすれば、

 

「⋯⋯多分だけど、今のあいつはナンバーズの力で増幅されて相手の持つ摩訶不思議な物やオカルトじみた物、全部を無効にするってことじゃないのかな?」

 

 黒原は少し考え、飛んできた稲妻をしゃがみ、前に体重を乗せ、走り出しながら叫ぶ。

 

「それだけないでしょ、自分は運が良くなるつきじゃないかな、あんなデッキで僕のチェーンバーンに勝てるものか!」

 

「私もデッキ自体を変えろって言ったんだけどシンクロンが良いって聞かなくってっ、よくあれで勝てたもんだよなぁ!」

 

 背後から打ち込まれる雷を必死で避けつつ2人は、

 

「取り合えず水田を気絶させて、隣町に引っ張って行ってアストラルに引っこ抜いてもらうべきだ」

 

「移動手段は?」

 

「こっちで用意する!」

 

 黒原と最上は後ろより叩き込まれた雷を何とか避けきり、学校のグラウンドへと飛び出した。

 ここまでに来る道、家々が黒い煙を発していたり、信号が止まっていたりする大参事を無視し、最上は征竜を決闘盤へとセットする。

 

「車の手配は?」

 

 Dパッドを操作し部下と連絡を取った黒原は決闘盤を展開する。

 

「出来てる、そういえばいい事を思い出した。ダメージが大きいほど気絶する時間が長くなるよ」

 

 ナンバーズによってどれほど裕の肉体が強化されているかは分からない、だが意識を喪わせておけば運びやすくなる。

 最上はその言葉に目を輝かせ、

 

「具体的な数字は?」

 

「10万ちょっとのオーバーダメージで3時間は気絶してた」

 

「そう、か……10万か」

 

 それほどの馬鹿みたいなオーバーキルをするためのデッキ、それは最上が知る限り1つしか知らない。

 

「それほどダメージとなるとアレか、ナンバーズはサンドバックになるからオーバーだして殴れば楽勝かな?」

 

「下準備さえできればこちらで決める。だからそれまでの妨害を頼むよ」

 

 決闘盤を構え、最上は一歩裕へと踏み出す。

 そしてタッグ決闘の申請を送る。

 ルールは簡単、お互いに最初のターンは攻撃は出来ず黒原、水田、最上、水田の順番を繰り返す、手札は5枚だけ、ライフは8000対4000、4000だ。 

 普通の裕ならば確実に断るであろう内容だが、裕はそれに即座に了承し、構えた。

 

「一般人がナンバーズを倒したらナンバーズが手に入るのか確認させてもらうか!」

 

「さて、更地にしてやろう」

 

「「「決闘」」」


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