クェーサー厨が行かされる難易度ちょっとハードモード 作:TFRS
裕達の周囲をクェーサーによって砕かれ散った黒紫のカードが光となって空に昇っていく。
今なおハートランドシティの上空には世界中からエネルギーが集まっており、それらに交じって見えなくなった。
ギラグは裕との決闘に敗北しバリアン世界の理に従い消滅が始まっていた。
その横にアリトは人間形態のまま、倒れたギラグに走り寄るとギラグを優しく抱き起す。
「アリト、か」
「ギラグ、安心しろ、すぐにベクター様がお前を再構築してくれる、そしたらまた俺達一緒に戦おうぜ」
ギラグは大きく目を見開く。
ドン・サウザンドの洗脳が解けた彼は今、アリトの身に何が起きていてどういう考えを持ちそんな異常な発言をしたのかが手に取る様に分かる、分かってしまった。
アリトは本気でそう思って口に出しているのだ。
自分達の前世を捏造し魂を負の感情で汚し尽しバリアン世界に堕とす原因を作り、九十九遊馬に敗北した妬みや怒りを膨張させ手ごまとして使うベクターをトップに認め、全ての元凶である敵を神として崇めている。
「アリト、正気に戻れ! ベクター達は俺達、バリアン七皇の敵だっ!」
言葉は届くわけが無い、そう理解しながらもギラグは叫ばずにはいられない。
恨み、憎しみの偽物の記憶を与えられバリアン世界に堕ちた事を良い事とは言えない、だがそこで出来た親友は変わりなどいない素晴らしいものだ、なんとか説得できないかとギラグは考え説得にかかる。
「何を言ってるんだ、ベクター様はバリアン世界を統べるに相応しい男じゃないか」
「アリト、お前はドンサウザンドに操られてるんだ! 目を覚ましてくれ!」
ギラグはアリトの手を掴み、眼を見て必死で声を張り上げる。それに呼応するように遊馬も声を上げる。
裕が喋れる余裕があれば声を上げるだろう、それはアリトの持つ明るい人格がもたらす一つの人望だ。だがそれらの言葉を聞き、理解せずアリトは遊馬へと顔を向ける。
「はあ? 何言ってんだ遊馬、俺はお前達のおかげで本当の俺を取り戻せたんだぜ」
「えっ?」
「俺はお前に負けた時、ようやく気づいたんだ。負ければ命を失う命がけの戦い、それが俺が求めていた熱い決闘だってな!」
命懸けの戦い、一瞬のミスが自分の生死を分ける事をアリトは楽しんでいる。それは彼の魂の奥底、オーバーハンドレッドナンバーズによって封じられた彼の生前、拳闘士としての記憶を改竄して作り上げた偽りの愉悦だ。
相手と全力で殴り合い、殺し合い、打ち勝つことを喜びとするようにアリトは塗り潰されてしまった。
そして今、彼は昂ぶっている。
九十九遊馬を倒してナンバーズを回収しバリアン世界を救う使命も、親友を目の前で倒された恨みよりも、燃え盛る感情が彼を動かしている。
「遊馬! 俺はお前に決闘を挑む! 今度こそ俺はお前に勝つ、そのためにここまで這い上がって来たんだ」
ギラグの体は徐々に分解されアリトの体へと吸い込まれていく。その中でギラグはドン・サウザンドへの憎しみと洗脳された親友に何もできない悲しみ、言葉にならない声を上げる。
強く、深く響く慟哭、それは聞く者の胸を打ち何か出来ることは無いかと考えさせられるような声だ。
それをアリトは遊馬に負けた悔しみの声だと受け取り、ギラグのデッキよりカードを抜く。
「これは預かるぜ、こいつがあれば今度こそ遊馬を倒せるってもんだ、そしたら次はお前を倒した裕に決闘を挑むんだ、安心しろ、お前の敵も俺がとってやる」
「止めろ、止めてくれ、アリト!!」
ギラグの、親友の声は届かない。
アリトは何も聞こえなかったように立ち上がると肩をいたわる様に優しく叩き遊馬へと歩き出す。
ギラグは言葉では何も届かない事を本当に、理解させられ敵であるはずの遊馬に頭を下げる。
両手を地面につけ頭を地面と水平にし声を張り上げる。
「九十九遊馬、どうか、どうかアリトを元に戻してやってくれ! あんなに決闘を楽しんでいたアリトがこんな事を言うなんてあんまりだっ!」
遊馬もアリトへと歩き出す。
アリトの顔には笑みが浮かび、決闘が始まるのを今か今かと待ちわびる子供のようだ。
二人は徐々に近づき、すれ違う。
「バカだけど、気持ちのいいぐらいに決闘バカで、時々任務をほっぽり出すような奴だけど友達想いのすっげえ良い奴なんだ、こんな事言うなんて俺、俺、見てられねえ!」
ギラグは決闘者にとって命よりも大切なデッキを遊馬に向けて献上する様に上げる。
「頼む、俺のナンバーズだろうがカードだろうが命だってくれてやっても良い、だからどうかっ!」
「ああ、お前の思い確かに受け取った」
遊馬はデッキを彼のポケットに戻し、ギラグの手を握る。
ギラグはその言葉を聞き、救われたような表情をし、眼尻に涙を浮かべ、
「……遊馬、ありがとよ」
ギラグの体は完全に分解されアリトの体へと流れ込んだ。それでも彼は最後まで遊馬を見、そして彼に希望を見出していた。
完全にギラグを吸収したアリトは遊馬へ決闘盤を向ける。
「さあ。決闘しようぜアリト、あの時みたいなすっげえ熱い決闘を」
「ああ、遊馬、アストラル! 決闘だ!!」
遊馬は決闘盤を構える。そして視界の端の動きを見、少しばかり黙り込む。
そのすぐ傍でギラグとの決闘で体力全てを使い果たした裕は最上によって運ばれていたアリトがモンスターを実体化させ遊馬とフルパワーで激突すればその余波で裕は大嵐に蹴散らされる木の葉の様にその命を終えてしまう可能性があるからだ。
「遊馬、今のうちにこのカードを入れろ」
「これは?」
「ライオンハートを出しやすくするカード達だ」
いくらガガガマジシャン達がいる遊馬のデッキでもレベル1のモンスターを3体並べるのは難しい。
そこでアストラルは遊馬の持っていたカードから数枚のカードを抜き出し遊馬へと手渡す。
遊馬が抜くべきカードを悩み決めている頃には小鳥達のすぐ傍に裕は運ばれていた、それを確認し、遊馬は相棒と顔を合わせ、
「行くぜアストラル!!」
「ああ、なんとしても彼をドン・サウザンドの呪縛より解き放つ!」
アリトを救うという決意を滾らせ遊馬は声を張り上げ、
「今度こそ俺が勝つ!」
遊馬に勝つと感情を高ぶらせアリトは叫ぶ。
「「決闘!!」」
●
「俺の先攻、ドロー! 俺はゴゴゴゴーレムをコストにオノマト連携を発動、デッキからゴゴゴジャイアントとガガガシスターを加える! そしてゴゴゴジャイアントを召喚、そしてゴゴゴジャイアントの効果で墓地からゴゴゴゴーレムを特殊召喚する」
並び立つ岩石モンスター、その前に銀河の様に輝く渦が出現する。
「来るか、ホープ!」
「いくぜ、アリト! 俺はレベル4のモンスター2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚、現れろ、No.39希望皇ホープ!」
遊馬のエースカードが黄色に輝く鎧を光らせ渦の中より飛翔する。
それをアリトは拳を握り楽しいという笑みを見せる。
これだけを見ればただ決闘を楽しんでいるだけの様にも見えるのだが、この決闘は普通の決闘ではないのだ。
「俺はカードを1枚伏せてターンエンドだ」
遊馬場 No.39希望皇ホープ ATK2500 (ORU2)
LP4000
手札4 伏せ1
アリト場
LP4000
手札5
「俺のターンドロー! 俺はBKグラスジョーをコストに昇格の天地降札を発動、デッキよりRUMを手札に加える、俺が加えるのはRUM-七皇の剣だ!」
「それはシャークが使ってきたカード!」
「遊馬、来るぞ」
アリトは先ほど加えたばかりのカードを頭の上に掲げる。
上空のエネルギーはアリトの背後に現れた七星へと吸い込まれモンスターに実体を与える。
「俺は手札に加えたばかりのRUM―七皇の剣を発動! このカードは墓地、エクストラデッキからオーバーハンドレッドナンバーズを特殊召喚しカオス化させる! 俺はNo.105流星のセスタスでオーバーレイネットワークを再構築、カオス・エクシーズチェンジ!」
青黄色の装甲を纏った王者が七星の中より現れ、カオスへと堕ちる。
仲間を守り戦う拳は相手を殺すことを考え殺傷能力をあげたナックルガードが、背にはブースターと砲撃のできるように巨大な追加装備が再構築、装甲はより厚く強固な物へと塗り潰されより長い間戦い抜けるようになる。
それらへと赤黒のエネルギーラインが走り混沌に堕ちた王者が勝利への渇望を胸に抱き動き出す。
「その姿、まさしくBKの絶対王者! CNo.105BK彗星のカエストス! カエストスの効果発動、カオス・オーバーレイユニットを1つ使い相手モンスターを一体破壊しその攻撃力分のダメージを相手に与える!」
背に着けられし4つの砲塔より高密度のカオスが噴出、カエストスの全面で巨大なエネルギー球となりホープへと放たれる。
「遊馬!」
「おう、罠発動、スキル・プリズナー! ホープを対象とするモンスター効果を無効にする!」
ホープの前に膜が作り上げられエネルギー球を弾く。
「へっ、当然防ぐよな、そうでなくっちゃ面白くない! まずは体を温めるためのジャブだ、カエストスでホープを攻撃! コメット・エクスプロージョン!!」
「ホープの効果発動、オーバーレイユニットを使い攻撃を無効にする! ムーンバリア!」
ナックルガードを打ち鳴らしカエストスはホープへと軽い動きで接近、殴りかかる。
オーバーレイユニットを胸に取り込んだホープは白い翼を前面に展開する。
拳と翼盾は固い音を響かせ、2体の最初の激突は辺りにカオスとアストラルエネルギーをまき散らし、立っている小鳥達の髪を揺らす大風となった。
「へっ、当然だよな、メイン2、俺はBKスイッチ・ヒッターを召喚、そして効果で墓地からBKグラスジョーを特殊召喚する。そして俺はレベル4、BKモンスター2体でオーバーレイネットワークを構築、エクシーズ召喚! 魂に秘めた炎を拳に宿せ! BK拘束蛮兵リードブロー!!」
強大な力を仲間を守るために使い力を開放していく拘束された番兵がアリトの場に現れる、それはアリトを知る人間ならば見慣れた強力なモンスターエクシーズだ。
「俺はカードを2枚伏せて、魔法カードエクシーズトレジャーを発動するぜ、場には3体のモンスターエクシーズがいるから3枚ドローする、そしてターンエンドだ」
アリト場 CNo.105彗星のカエストス ATK2800 (ORU0)
LP4000 BK拘束番兵リードブロー ATK2200 (ORU2)
手札3 伏せ2
遊馬場 No.39希望皇ホープ ATK2500 (ORU1)
LP4000
手札4
「俺のターンドロー!」
遊馬はドローしたカードを確認、そしてアストラルへと視線を移す。
アストラルは遊馬の視線に行けと言わんばかりに頷く。
「俺はRUM―リミテッド・バリアンズ・フォースをホープへ発動!」
「何!? お前がバリアンの力を使うだと!?」
「ああ、そうだ! 過去にどんな過ちを犯したからって敵だった奴らも誰も置いていかない、これが俺の決意だ!」
遊馬は今、どこかに居るであろう袂を別った仲間へと自分の思いを届けと叫ぶ。
上空のエネルギーがカオスに反応し遊馬の手にあるカードへと収束していく。
空へと門が構築、内側より溢れ出した弱い塗りつぶしの力をアストラルはアストラルエネルギーで力を制御しホープを進化させていく。
「混沌の力まといて勝利を目指せ! 進化した勇姿が今ここに現れる!現れろCNo.39 希望皇ホープレイV!」
バリアン世界の力で再構築された赤黒の鎧に身を包んだ戦士、その腰につけられた巨大な2刀を両手で抜き拘束番兵へと切りかかる。
「バトルだ、希望皇ホープレイVでリードブローを攻撃、ホープ剣・Vの字斬り!」
両手を拘束した男は上より叩き込まれる一刀を下半身の動きだけで避けるも、横薙ぎに叩き込まれる2刀目を避けることは出来ない。
ホープレイVの剣は高速番兵へと叩き込まれる。
CNo.39希望皇ホープレイV ATK2600 VS BK高速番兵リードブロー ATK2200
アリトLP4000→3600
「だがリードブローは破壊されるときオーバーレイユニットを一つ使い破壊を免れる、そして更に攻撃力がアップする!」
剣が叩き込まれ金属音が響く。
それは肉を切り裂く斬撃音ではない。
Vの放った斬撃は高速番兵の肉体を浅く傷つけ、拘束器具に巨大な亀裂を作り出したのだ。
その亀裂は徐々に大きくなり拘束番兵の片腕が自由になる。
「遊馬、行くぞ!」
「おう、メイン2、俺はホープレイVの効果発動、カオス・オーバーレイユニットを一つ使いリードブローを破壊する! Vブレードシュート!」
そこまでは予測済みのアストラルの声に遊馬は答え、ホープレイVは巨大な剣の尻を結合させ巨大な投擲武装を作り上げる。
触れる物全てを切り裂き、傷つけるであろうそれを拘束番兵へと投げつけた。
だがそれが触れるか、触れまいかの瞬間、それらの間を一枚のカードが壁となる。
投擲武装を吸い込んだカードからは黒い瘴気が吹き上がる。
「何を狙ってるのか知らねえが甘いぜ遊馬! 俺はカウンター罠、バイ=マーセの癇癪を発動! 相手モンスターが効果を発動したときその効果を無効にし破壊する!」
手札コストの要らないカウンター罠、そのカードより吹き上がる瘴気がVの体をボロボロの土くれへと変える。
それらを見、僅かに表情を暗くするもアストラルは後半用に取っておきたかったカードに目をやり、
「モンスター効果を無効にする罠を伏せていたか、ならば遊馬、もう一つの策で行くぞ」
「おう! 俺はエクシーズ・リベンジを発動するぜ! アリトのリードブローのオーバーレイユニットを1つ奪い墓地のホープレイVを特殊召喚する!」
拘束器具の中に収められていたオーバーレイユニットが遊馬の場へと飛んでいく。
それを握り潰し、墓地より黒赤の鎧がボロボロになったホープレイVがのそりとした緩慢な動きで這い上がってくる。
「ホープを素材にしてないホープレイVは効果を発動できない、普通なら壁にでもするかな、って思うだろう。だがお前らがそんな詰まらねえ手を使うとは思えねえ、この状況を突破できうる策があるんだろ、俺にお前の全力を楽しませてくれ!」
カオス・オーバーレイユニットはあるが効果を使えず攻撃も終わっている状況、そして完全に拘束から開放された番兵、リードブローの攻撃力は3800もある。
態々オーバーレイユニットを取り除かせたからには何かしらの破壊手段があるのだろう、アリトはそれを楽しみにしている。
相手の全力の拳を体に受け、逃げられない距離でこちらの拳を叩き込む。それがアリトが新しく編み出したカウンター戦法だ。
「いくぜ、アリト、これがこのターンの俺の全力だ、俺はVサラマンダーを召喚!」
遊馬が召喚したモンスター、それはベクターが作り出し与えたカードだ。効果は強力であり真月から渡された時はどんな強敵が来ても絶対負けない自信があった。
だがそれらの日々も陰謀と嘘で塗れていた。
思い出すだけでも胸に痛みが湧き上がるがそれ等の日々だってアストラルと本当の意味で分かり合うための切っ掛けとなった大切な思い出だ。それらを忘れる事なんてできる訳がない。
ベクターと分かり合える事は難しいかもしれない、だけどベクターだってバリアン七皇、ドン・サウザンドによって操られているだけかもしれない。
だったら決闘して、何度でも分かり合えるまでぶつかるだけだ。と遊馬は決意し、
「Vサラマンダーの効果で墓地の希望皇ホープを特殊召喚する、そしてホープレイVにVサラマンダーを装備する! サラマンダー・クロス!」
Vサラマンダーの四つ首より吐き出された炎の繭、その中にホープレイVは取り込まれていく。
全ての困難を打破すると心に決める遊馬の感情は4連砲塔へ、熱く滾る希望はホープレイの腐食した鎧を焼き払い新しい真紅の鎧を構築する。
炎の眉を切り裂き現れたVはカオス・オーバーレイユニットを握り潰しそのエネルギーを体に取り込んだ。
「エクシーズ・トレジャーを発動、場には4体のモンスターエクシーズがいる、よって4枚ドローする! そしてVサラマンダーの効果発動! ホープレイVの効果を無効にしカオス・オーバーレイユニットを1つ使う事で相手モンスター全てを破壊し破壊した数×1000ポイントのダメージを与える、アリト、俺の思いを受け取れ! サラマンダー・インフェルノ!!」
蜥蜴の口の様な砲塔より膨れ上がる紅蓮、それは赤黒に染まる世界を一本の線で線引きした。
真っ直ぐに伸びた2つの砲撃は番兵と王者を貫き、膨れ上がった2体の体に秘められたエネルギーが大爆発を引き起こした。